(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
β−ナフトールの溶液中で溶媒に溶解したβ−ナフトール同士の反応により1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を得る工程を含む1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法であって、
前記溶媒に溶解しきれないβ−ナフトールが存在する系で前記反応を行うこと、及び、前記反応により生成する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が前記溶液から析出する条件で前記反応を行うことを含む、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法。
溶媒100質量部に対して5〜50質量部のβ−ナフトールを溶解することができ、かつ、溶媒100質量部に対して5質量部以上の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解することができない温度で、前記反応を行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施形態に係る1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法は、β−ナフトールの溶液中で溶媒に溶解したβ−ナフトール同士の反応により1,1’−ビ−2−ナフトール化合物(BINOLとも称される)を得る工程を含むものである。
【0009】
溶媒としては、例えば、芳香族化合物、脂環族化合物、脂肪族化合物などの各種有機溶媒を挙げることができ、これらはいずれか1種用いても、2種類以上を併用しても良い。
【0010】
芳香族化合物としては、芳香族炭化水素が挙げられ、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、メチルナフタレンを挙げることができる。
【0011】
脂環族化合物としては、例えば、シクロヘキサン、シクロヘキサノール、及びメチルシクロヘキサンを挙げることができる。
【0012】
脂肪族化合物としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブチルアルコールなどの脂肪族一価アルコール、エチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどの脂肪族エーテル、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素、ヘキサン、ヘプタンなどのアルカンを挙げることができる。
【0013】
これらの溶媒のうち、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の色相をより向上させる観点から、芳香族化合物及び脂肪族化合物からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、より好ましくは芳香族炭化水素及び脂肪族一価アルコールからなる群から選択される少なくとも一種であり、更に好ましくはトルエン、キシレン及びイソブチルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0014】
β−ナフトール同士の反応により1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を合成する方法としては、例えば、β−ナフトールの酸化カップリング反応などが挙げられる。β−ナフトール同士を酸化カップリングする方法としては、例えば、β−ナフトールを有機溶媒に溶解し、反応触媒の存在下、反応温度0〜100℃で、反応溶液を攪拌する方法が挙げられる。なお、β−ナフトールは、一度に全量を有機溶媒に投入してもよく、酸化カップリング反応を行いながら追加投入してもよい。
【0015】
酸化カップリング反応において、反応触媒としては、遷移金属触媒が好ましく、例えば、硝酸銅、塩化銅、臭化銅、二酸化マンガン、塩化鉄、塩化コバルトなどをいずれか1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。また、錯体触媒として使用する方法としてアンミン錯体、シアノ錯体、ハロゲノ錯体、ヒドロキシ錯体などを用いることができる。
【0016】
酸化カップリング反応においては、β−ナフトールを溶解した溶液に対して、空気などの酸素含有気体を接触させることが好ましい。より詳細には、反応容器にβ−ナフトールと溶媒と反応触媒とを仕込んで溶解させた後、系内に酸素含有気体を導入して反応を行うことが好ましい。
【0017】
本実施形態においては、β−ナフトールの溶液中でβ−ナフトール同士の反応により1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を得る際に、反応により生成する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が溶液から析出する条件で当該反応を行うことを特徴とする。従来、β−ナフトール溶液中で酸化カップリング反応を行う場合、原料であるβ−ナフトールはもちろん、生成物である1,1’−ビ−2−ナフトールも溶媒に溶解させる均一系で反応が行われている。これに対し、本実施形態では、生成した1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を反応溶液から析出させつつ反応を行う。これにより、着色が少なく色相が良好な1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を簡便に得ることができる。
【0018】
1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を析出させる条件は、溶媒と温度と系中濃度とにより調整可能である。例えば、溶媒に溶解したβ−ナフトール同士を温度Tで反応させる方法において、該温度Tを、反応により生成される1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が反応溶液から析出する温度に設定して、当該反応を行えばよい。生成される1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の系中の濃度が、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度よりも高くなれば、反応中に1,1’−ビ−2−ナフトール化合物は飽和状態となって溶液から析出される。そのため、溶媒に応じて、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度が、生成される1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の系中の濃度よりも低くなるように、温度Tを設定すればよい。
【0019】
本実施形態においては、上記溶媒に溶解しきれないβ−ナフトールが存在する系で上記反応を行うことが好ましい。すなわち、β−ナフトールが飽和状態にあり、溶解しきれず溶液から遊離したβ−ナフトールが溶液とともに存在する不均一系で、β−ナフトール同士の反応を行ってもよい。例えば、溶媒に溶解したβ−ナフトール同士を温度Tで反応させる方法において、β−ナフトールの溶解度が、β−ナフトールの系中の濃度よりも低くなるように、温度Tを設定する。
【0020】
溶液から遊離したβ−ナフトールは上記反応を継続させることにより消費することができる。すなわち、上記反応を継続させることにより、溶媒に溶解しきれずに存在するβ−ナフトールが溶媒に逐次溶解して上記反応に用いられる。
【0021】
このように、溶媒に溶解しきれずに存在するβ−ナフトールも反応に用いることにより、溶媒に一度に溶解することができるβ−ナフトールよりも多くの1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を得ることができる。すなわち、上記反応は、溶媒に溶解することができるβ−ナフトールの質量よりも多い質量の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を得るまで継続されることが好ましい。
【0022】
一実施形態において、溶媒に溶解したβ−ナフトール同士を反応させる際には、当該溶媒100質量部に対して1質量部以上の溶解していないβ−ナフトールが系に存在する工程を含むことが好ましい。例えば、溶媒に反応触媒とともにβ−ナフトールを仕込んでβ−ナフトールを溶媒に溶解させた反応初期段階で、溶媒100質量部に対して1質量部以上の溶解していないβ−ナフトールが系に存在してもよい。系に存在する溶解していないβ−ナフトールの量は、溶媒100質量部に対して、より好ましくは5質量部以上であり、更に好ましくは10質量部以上である。この量の上限は特に限定されず、例えば、溶媒100質量部に対して、50質量部以下でもよく、40質量部以下でもよい。
【0023】
一実施形態において、溶媒は、β−ナフトール同士を反応させる温度Tにおいて、溶媒100質量部に対して5〜50質量部のβ−ナフトールを溶解することができること、すなわち、溶媒100質量部に対するβ−ナフトールの溶解度が5〜50質量部であることが好ましい。そのためには、溶媒100質量部に対して5〜50質量部のβ−ナフトールを溶解することができる温度で、上記反応を行えばよい。温度Tにおいて5質量部以上のβ−ナフトールが溶解可能であることにより、生産効率を高めることができる。より好ましくは、溶媒100質量部に対して8質量部以上のβ−ナフトールを溶解できる温度で上記反応を行うことである。また、溶媒100質量部に対して40質量部以下、更には30質量部以下のβ−ナフトールが溶解できる温度で上記反応を行うことが好ましい。
【0024】
一実施形態において、溶媒は、β−ナフトール同士を反応させる温度Tにおいて、溶媒100質量部に対して5質量部以上の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解することができないこと、すなわち、溶媒100質量部に対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度が5質量部未満であることが好ましい。そのためには、溶媒100質量部に対して5質量部以上の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解することができない温度で、上記反応を行えばよい。これにより、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の色相をより良好にすることができる。より好ましくは、溶媒100質量部に対して3質量部以上の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解することができない温度で上記反応を行うことである。
【0025】
一実施形態において、溶媒100質量部に対して5〜50質量部のβ−ナフトールを溶解することができ、かつ、溶媒100質量部に対して5質量部以上の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解することができない温度で、上記反応を行うことが好ましい。
【0026】
一実施形態において、β−ナフトール同士の反応を行う温度は30〜70℃であることが好ましい。反応温度が30℃以上であることにより反応速度を高めることができる。また、反応温度が70℃以下であることにより、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度を低くして、色相をより良好にすることができる。反応温度は、40℃以上であることがより好ましく、更に好ましくは50℃以上であり、また、60℃以下であることがより好ましい。
【0027】
反応温度は、上記のとおり、溶媒および系中濃度に応じて設定してもよい。下記表1に、トルエン、キシレン、イソブチルアルコール(IBA)およびメチルエチルケトン(MEK)について、β−ナフトールおよび1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の温度30℃、50℃および70℃での溶解度を示す。
【0029】
表1に示すように、トルエン、キシレンおよびイソブチルアルコールであると、30〜70℃における1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度が低い。例えば、これら溶媒の50℃での1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1質量%であるため、1質量%超の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が生成されるようにβ−ナフトールを仕込めば(即ち、β−ナフトールの系中濃度を設定すれば)、反応を行いつつ1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が飽和状態となって析出する。トルエンおよびキシレンであると、イソブチルアルコールよりも70℃での1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度が低いため、反応温度を70℃にして反応速度を大きくしながら、より早期に1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を析出させることができる。
【0030】
このように溶媒に応じて、系中濃度とともに反応温度を設定することができる。例えば、トルエン及び/又はキシレンを溶媒として用いる場合、反応温度は、30〜70℃でもよく、40〜70℃でもよく、50〜70℃でもよく、40〜60℃でもよく、50〜60℃でもよい。また、例えば、イソブチルアルコールを溶媒として用いる場合、反応温度は、30〜70℃でもよく、30〜60℃でもよく、40〜60℃でもよい。
【0031】
一実施形態において、β−ナフトール同士を反応させる際の系の固形分濃度は15質量%以上であることが好ましい。固形分濃度は、より好ましくは20質量%以上である。固形分濃度の上限は特に限定されないが、例えば50質量%以下でもよく、40質量%以下でもよく、35質量%以下でもよい。ここで、系の固形分濃度とは、溶媒に溶解している成分と溶解していない成分とを合わせた固形分の濃度であり、系全体の質量に対する溶媒を除いた固形分の質量%である。
【0032】
系へのβ−ナフトールの投入量、すなわちβ−ナフトールの使用量は、特に限定しないが、溶媒100質量部に対して、10〜80質量部であることが好ましい。β−ナフトールの使用量は、より好ましくは、溶媒100質量部に対して15質量部以上であり、更に好ましくは20質量部以上である。また、β−ナフトールの使用量は、溶媒100質量部に対して、60質量部以下であることが好ましく、より好ましくは50質量部以下である。
【0033】
本実施形態では、β−ナフトール同士を反応させながら生成物である1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を反応溶液から析出させるため、反応終了後の析出工程は必須ではないが、反応溶液中に溶解している1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を更に析出させてもよい。そのための析出方法としては、特に限定されず、反応溶液を冷却したり、溶解度のより低い溶媒を添加したりして、溶解度を低下させることで析出させてもよい。
【0034】
析出した1,1’−ビ−2−ナフトール化合物は、濾過などにより反応溶液から分離した後、反応触媒などの残存する不純物を除去するための精製工程を行ってもよい。詳細には、例えば、酢酸エチルなどの1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を溶解可能な溶媒に、上記の反応溶液から分離した反応析出物を加えて溶解させ、キレート剤を含む水溶液や酸を含む水溶液などを用いて洗浄することにより、反応触媒などの不純物を除去することができる。その後、例えばエバポレータなどを用いて溶媒を除去し、更に乾燥することで1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の結晶を得ることができる。
【0035】
なお、本実施形態における1,1’−ビ−2−ナフトール化合物は、ラセミ体(即ち、(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール)でもよく、いずれかの光学異性体が多く含まれてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例および比較例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。なお、実施例および比較例における「部」、「%」は、特に明示した場合を除き、「質量部」、「質量%」をそれぞれ表している。
【0037】
下記実施例および比較例の1,1’−ビ−2−ナフトール化合物についての色相の測定方法は以下の通りである。
[色相]
1,1’−ビ−2−ナフトールの酢酸エチル5%溶液を作製し、得られた溶液のハーゼン色数(APHA)を測定し、その測定値を色相として下記表2に示した。
【0038】
[実施例1]
攪拌器、冷却器、空気導入管および温度計を備えたガラス製反応器に、β−ナフトール50g、塩化銅(II)0.4g、TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)0.6gおよびトルエン150gを仕込み、50℃で攪拌してβ−ナフトールを溶解させた。50℃のトルエンに対するβ−ナフトールの溶解度は9%であるため、約70%のβ−ナフトールは溶解していない。そのため、得られた系は、β−ナフトールの飽和溶液とともに、トルエン100部に対して約23部の溶解していないβ−ナフトールが存在する不均一系であった。その後、50℃に維持して攪拌しながら、空気を300ml/分の速度で12時間吹き込み、酸化カップリング反応を行った。
【0039】
得られた反応溶液から反応析出物をろ過して採取し、酢酸エチル150gに溶解させた。この溶液に10%EDTA−4ナトリウム水溶液150gを加えて有機溶媒層を洗浄した。さらにこの溶液に1規定塩酸150gを用いて同様に有機溶媒層を洗浄した。つづいて、水150gを用いて水洗を繰り返した。水洗後、エバポレータを用いて有機溶媒層から溶媒を留去して得られた結晶を乾燥させることにより、40gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。50℃のトルエンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われており、すなわち、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を反応溶液から析出させつつ酸化カップリング反応が行われた。
【0040】
[実施例2]
反応溶媒にキシレン150gを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、39gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、50℃のキシレンに対するβ−ナフトールの溶解度は6%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したとき、約80%のβ−ナフトールは溶解していない。そのため、β−ナフトールを仕込んで攪拌した段階での系は、β−ナフトールの飽和溶液とともに、キシレン100部に対して約27部の溶解していないβ−ナフトールが存在する不均一系であった。また、50℃のキシレンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0041】
[実施例3]
反応溶媒にイソブチルアルコール(IBA)150gを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、38gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、50℃のIBAに対するβ−ナフトールの溶解度は40%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したとき、β−ナフトールは全て溶解する。そのため、β−ナフトールを仕込んで攪拌した段階での系は、β−ナフトールの25%溶液であった。また、50℃のIBAに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0042】
[実施例4]
反応仕込み時β−ナフトールを40g、トルエンを160g仕込んだ以外は実施例1と同様の操作を行い、32gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、50℃のトルエンに対するβ−ナフトールの溶解度は9%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したとき、約60%のβ−ナフトールは溶解していない。そのため、β−ナフトールを仕込んで攪拌した段階での系は、β−ナフトールの飽和溶液とともに、トルエン100部に対して約15部の溶解していないβ−ナフトールが存在する不均一系であった。また、50℃のトルエンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0043】
[実施例5]
反応仕込み時β−ナフトールを60g、トルエンを140g仕込んだ以外は実施例1と同様の操作を行い、46gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、50℃のトルエンに対するβ−ナフトールの溶解度は9%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したとき、77%のβ−ナフトールは溶解していない。そのため、β−ナフトールを仕込んで攪拌した段階での系は、β−ナフトールの飽和溶液とともに、トルエン100部に対して約33部の溶解していないβ−ナフトールが存在する不均一系であった。また、50℃のトルエンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0044】
[実施例6]
反応温度を30℃に変更し、空気吹込み時間を24時間に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、40gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、30℃のトルエンに対するβ−ナフトールの溶解度は3%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したとき、約90%のβ−ナフトールは溶解していない。そのため、β−ナフトールを仕込んで攪拌した段階での系は、β−ナフトールの飽和溶液とともに、トルエン100部に対して約30部の溶解していないβ−ナフトールが存在する不均一系であった。また、30℃のトルエンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は1%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0045】
[実施例7]
反応温度を70℃に変更し、空気吹込み時間を6時間に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、39gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の白色結晶を得た。ここで、70℃のトルエンに対するβ−ナフトールの溶解度は25%であるため、β−ナフトールを仕込んで攪拌したときβ−ナフトールは全て溶解し、25%の飽和溶液であった。また、70℃のトルエンに対する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の溶解度は2%であるため、1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が析出する条件で酸化カップリング反応が行われた。
【0046】
[比較例1]
攪拌器、冷却器、空気導入管および温度計を備えたガラス製反応器に、β−ナフトール4g、塩化銅(II)0.04g、TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)0.06gおよびトルエン196gを仕込み、70℃で攪拌し、β−ナフトールが全て溶解していることを確認した。その後、空気を300ml/分の速度で24時間吹き込み、酸化カップリングを行った。酸化カップリング反応において生成物の析出は見られなかった。得られた反応溶液を80℃まで加熱した後、30℃まで冷却して得られた結晶をろ過して採取し、乾燥させることにより、乾燥結晶を得た。上記乾燥結晶をトルエン300gおよび3規定塩酸80gに分散し、100℃で1時間加熱攪拌した。分液後、有機相を15gの水で洗浄したのち、有機層を再び冷却して結晶を得た。これをろ過して採取し、乾燥させることにより、3.6gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の黄白色結晶を得た。
【0047】
[比較例2]
攪拌器、冷却器、空気導入管および温度計を備えたガラス製反応器に、β−ナフトール50g、塩化銅(II)0.4g、TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)0.6gおよびメチルエチルケトン150gを仕込み、50℃で攪拌し、β−ナフトールが全て溶解していることを確認した。その後、空気を300ml/分の速度で12時間吹き込み、酸化カップリングを行った。酸化カップリング反応において生成物の析出は見られなかった。得られた溶液に10質量%EDTA−4ナトリウム水溶液150gを加えて有機溶媒層を洗浄した。さらにこの溶液に1規定塩酸150gを用いて同様に有機溶媒層を洗浄した。つづいて、水150gを用いて水洗を繰り返した。水洗後、エバポレータを用いて有機溶媒層から溶媒を留去して得られた結晶を乾燥させることにより、26gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の黄色結晶を得た。
【0048】
[比較例3]
攪拌器、冷却器、空気導入管および温度計を備えたガラス製反応器に、β−ナフトール20g、塩化銅(II)0.4g、TMEDA(テトラメチルエチレンジアミン)0.6gおよびトルエン180gを仕込み、100℃で攪拌し、β−ナフトールが全て溶解していることを確認した。その後、空気を300ml/分の速度で6時間吹き込み、酸化カップリングを行った。酸化カップリング反応において生成物の析出は見られなかった。得られた溶液に10質量%EDTA−4ナトリウム水溶液150gを加えて有機溶媒層を洗浄した。さらにこの溶液に1規定塩酸150gを用いて同様に有機溶媒層を洗浄した。つづいて、水150gを用いて水洗を繰り返した。水洗後、エバポレータを用いて有機溶媒層から溶媒を留去して得られた結晶を乾燥させることにより、17gの(RS)−1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の黄色結晶を得た。
【0049】
【表2】
【0050】
色相の測定結果を表2に示す。表2に示すように、生成物である1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を反応溶液から析出させつつ酸化カップリング反応を行った実施例1〜7であると、着色が少なく色相が良好な1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が得られた。
【0051】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【解決手段】実施形態に係る1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法は、β−ナフトールの溶液中で溶媒に溶解したβ−ナフトール同士の反応により1,1’−ビ−2−ナフトール化合物を得る工程を含む1,1’−ビ−2−ナフトール化合物の製造方法であり、前記反応により生成する1,1’−ビ−2−ナフトール化合物が前記溶液から析出する条件で前記反応を行う。