特許第6770654号(P6770654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6770654イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770654
(24)【登録日】2020年9月29日
(45)【発行日】2020年10月14日
(54)【発明の名称】イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/00 20060101AFI20201005BHJP
   A01H 6/46 20180101ALI20201005BHJP
   C12N 15/29 20060101ALI20201005BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20201005BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20201005BHJP
【FI】
   A01H1/00 AZNA
   A01H1/00 Z
   A01H6/46
   C12N15/29
   C07K14/415
   C12N15/09 110
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-559086(P2019-559086)
(86)(22)【出願日】2018年3月9日
(65)【公表番号】特表2020-517297(P2020-517297A)
(43)【公表日】2020年6月18日
(86)【国際出願番号】CN2018078591
(87)【国際公開番号】WO2018205732
(87)【国際公開日】20181115
【審査請求日】2019年10月24日
(31)【優先権主張番号】201710317773.6
(32)【優先日】2017年5月8日
(33)【優先権主張国】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519380727
【氏名又は名称】広東省農業科学院植物保護研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】李 怡峰
(72)【発明者】
【氏名】張 振飛
(72)【発明者】
【氏名】肖 漢祥
(72)【発明者】
【氏名】李 燕芳
(72)【発明者】
【氏名】張 揚
【審査官】 小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−128461(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101967486(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第105820222(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第106282225(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第104099342(CN,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0289619(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
A01H 1/00−17/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/WPIDS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減することにより、イネのウンカ抵抗性能を向上させ、遺伝子BGIOSGA015651のヌクレオチド配列が配列番号1または配列番号2に示すとおりであることを特徴とするイネのウンカ抵抗性能を向上させる方法。
【請求項2】
分子育種法または遺伝子工学の方法により、BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
遺伝子工学の方法はRNA干渉と遺伝子編集とを含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ウンカは、トビイロウンカとセジロウンカを含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
イネのウンカ抵抗性タンパク質の発現量を抑制または低減することにより、イネのウンカ抵抗性能を向上させ、前記イネのウンカ抵抗性タンパク質のアミノ酸配列が配列番号5または配列番号6に示すとおりであることを特徴とするイネのウンカ抵抗性能を向上させる方法。
【請求項6】
前記ウンカは、トビイロウンカとセジロウンカを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分子生物学及び農業の分野に属し、具体的には、イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
人類がポストゲノム時代に入るに伴い、機能ゲノミクスへの研究を全面的に展開することは、生命科学研究の最前線の分野となっている。イネの遺伝子組換え技術は比較的容易であり、他のイネ科作物ゲノムと共線性を有することから、モード植物とみなされている。現在、イネゲノムの微細構造遺伝子地図及び物理的地図は完成したが、イネの機能遺伝子についてさらに研究することは、社会及び経済の発展、生物学的研究にとって大きな意味がある。
【0003】
現在、全世界で半分以上の人はイネを主食としている。食糧安全問題は、全世界の人々が迎えている課題である。20世紀50、60年代の矮化育種及び70年代のハイブリッド育成の二回の科学技術革命により、イネの生産量を大幅に向上させた。しかし、過去数十年以来、大面積のイネは病虫害を被られ、イネ生産が脅かされている。トビイロウンカ(Nilaparvata lugens)は、中国のイネ生産における主な害虫であり、成虫と幼虫は、口針でイネの汁液を吸い上げ、黄葉や枯死を起こし、減産や無収穫をもたらす。中国農業年刊によると、トビイロウンカ虫害は1966、1969、1973、1977、1983、及び2003年に全国的に大規模発生し、1987、1991、2005、2006及び2007年に全国的に特大規模発生したことがあり、危害された面積は総じたイネ面積の50%以上となり、中国のイネ生産に重大な損失を及ぼした。
【0004】
現在、トビイロウンカは中国のイネ生産における第一の虫害となっており、中国の食糧安全を大きく脅かしている。長い間、トビイロウンカの防除は主に化学殺虫剤の投与に依存している。トビイロウンカの爆発はほとんど、イネの登熟期であり、この時期のイネが勢いよく成長しているため、殺虫剤をイネの根元に施用するのは非常に操作しにくい。また、数年間にわたって大量の化学殺虫剤を投与してきたため、トビイロウンカの薬剤耐性が倍と向上し、薬剤による防除効果は望ましくない。同時に、化学殺虫剤を用いてトビイロウンカを防除すると、農民の生産コストを増加させるだけでなく、対象としていない生物の毒殺、環境や食糧への汚染などの環境や生態的問題をもたらす。
【0005】
トビイロウンカ抵抗性遺伝子を利用して虫害抵抗性イネ品種を育成することが、トビイロウンカの総合的防除における最も経済的かつ効果的な方法である。国際稲研究所(IRRI)の研究結果と東南アジアのイネ生産実践により、中等抵抗性レベルのみのイネ品種でも、トビイロウンカ群体を災害をもたらすほどではないように調整することに十分であり、イネの実質的な危害や産量の損失に至らないように済ませることが証明された。したがって、イネのトビイロウンカ抵抗性遺伝子について掘り起こしてイネ育種プロジェクトに適用することは、イネのトビイロウンカを防除する根本的な措置である。
【0006】
20世紀60年代から、トビイロウンカ抵抗性遺伝と育種研究は開始されたが、新規なバイオタイプ(または新規な加害型)の出現に伴い、虫害抵抗性品種は寿命の短縮、抵抗性の無効化というリスクに直面している。例えば、国際稲研究所は1973年にBph1遺伝子を持つ品種IR26を作り出したが、二、三年たった後、加害できるバイオタイプ2が現れ、1977〜1978年にBph2抵抗性遺伝子を持つ品種IR36及びIR42を作り出したが、1982年にトビイロウンカの新規な生物型が次々と現れ、やむを得ず1983年に新たな抵抗性品種IR56及びIR64を育成した。また、以前では一般に高抵抗性イネ品種の多くは、抵抗性レベルが、既に中抵抗性のレベル、ないし虫害感受性レベルに低下した。
【0007】
トビイロウンカの他に、イネに危害を加えるウンカのよく見られる種類として、セジロウンカ(Sogatella furcifera)と、ヒメトビウンカ(Laodelphax striatellus)があり、トビイロウンカは長距離を移動する習性を持ち、現在、中国や数多くのアジア国ではイネにとって最も主要な害虫である。セジロウンカは全国の全ての稲作地帯においていずれも発生している。セジロウンカは直接刺して吸汁する以外、イネウイルス病の主な伝播媒体となっている。従来技術で開発されたいくつかの抵抗性イネ品種は、主にトビイロウンカに対して抵抗性を持っているが、セジロウンカに対する抵抗性が不明であるかまたは抵抗性がなく、これらの抵抗性イネ品種の適用範囲に影響している。
そのため、抗原材料を続いて深く選抜し研究し、新たな抵抗性遺伝子の探し、その関連する遺伝子マッピングとクローニングを行い、広範な地域で適用可能な、高抵抗性遺伝子材料を持つ新たなイネ品種を開発することは、非常に大きな意味がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651及びその使用を提供することを目的とする。
【0009】
本発明に用いられる技術的解決手段は以下のとおりである。
【0010】
イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651であって、そのヌクレオチド配列はSEQ ID NO:1若しくはSEQ ID NO:2に示すとおりであり、または、SEQ ID NO:1若しくはSEQ ID NO:2とは少なくとも90%以上同じである相同配列である。
【0011】
イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651のcDNAであって、配列はSEQ ID NO:3若しくはSEQ ID NO:4に示すとおりであり、または、SEQ ID NO:3若しくはSEQ ID NO:4とは少なくとも90%以上同じである相同配列である。
【0012】
イネのウンカ抵抗性調整タンパク質であって、そのアミノ酸配列はSEQ ID NO:5またはSEQ ID NO:6に示すとおりである。
【0013】
上記イネのウンカ抵抗性調整タンパク質をコードするヌクレオチド配列である。
【0014】
好ましくは,該ヌクレオチド配列は、SEQ ID NO1〜4、または配列SEQ ID NO:1〜4が1つまたは複数のヌクレオチドを置換、欠失または追加されて、同一のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列から選択される。
【0015】
イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651の、ウンカ抵抗性イネの育成における使用であって、前記遺伝子BGIOSGA015651のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1、SEQ ID NO:2、SEQ ID NO:1または/およびSEQ ID NO:2とは少なくとも90%以上同じである相同配列、SEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4、SEQ ID NO:3または/およびSEQ ID NO:4とは少なくとも90%以上同じである相同配列から選択される。
【0016】
前記イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651は、インディカイネ(Oryza sativa Indica)ゲノムの第4染色体2,507,775〜2,510,316という位置にマッピングされ、全長は2542bpである。
【0017】
好ましくは、前記ウンカは、トビイロウンカとセジロウンカを含む。
【0018】
イネのウンカ抵抗性能を向上させる方法であって、上記BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減することにより、イネのウンカ抵抗性能を向上させる。
【0019】
前記BGIOSGA015651遺伝子は、イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子であり、そのヌクレオチド配列がSEQ ID NO:1、またはSEQ ID NO:2に示すとおりであり、インディカイネ(Oryza sativa Indica)ゲノムの第4染色体2,507,775〜2,510,316という位置にマッピングされ、全長は2542bpである。
【0020】
好ましくは、分子育種法または遺伝子工学の方法により、BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減する。
【0021】
好ましくは、遺伝子工学の方法はRNA干渉と遺伝子編集とを含む。
【0022】
好ましくは、前記ウンカは、トビイロウンカとセジロウンカを含む。
【0023】
本発明の有益な効果は以下のとおりである。
【0024】
本発明の出願人は、トビイロウンカに対して安定した抵抗性を持つイネ品種BG1222と、虫害感受性イネ品種TN1とを研究することにより、イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子を見つけ、かつシークエンシングを行い、BGIOSGA015651と命名した。虫害抵抗性品種は虫害感受性品種とを比較すると、BGIOSGA015651の遺伝子発現量に有意な差が存在する。虫害抵抗性品種BG1222において、BGIOSGA015651の発現量が、虫害感受性イネ品種TN1での発現量よりも数百倍以上低い。トビイロウンカの吸食の有無にかかわらず、BG1222におけるBGIOSGA015651の発現量は、いずれもTN1での発現量よりも大幅に低い。以前発見したウンカ抵抗性遺伝子は、発現または高い発現があれば虫害抵抗性を持つようになるが、本発明におけるイネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651は、BG1222において極低発現でありまたは発現しない(遺伝子ノックアウト)場合に優れた虫害抵抗性を持つ。
【0025】
交雑F後代の検証により、BGIOSGA015651の発現量がイネの虫害抵抗性とは負の相関(発現量が低いほど虫害抵抗性が高い)関係であることが示されている。後代における虫害抵抗性が高いほど、その抵抗性スコア値(Grade)が小さく、対応するBGIOSGA015651の発現量が低い。
【0026】
遺伝子編集技術によりBGIOSGA015651遺伝子をノックアウト(knockout)して、TN1においてBGIOSGA015651遺伝子が全然発現しないようにすることにより、虫害感受性イネ品種TN1にはイネ品種BG1222と同様の虫害抵抗性が得られる。トビイロウンカとセジロウンカに対して、高い抵抗性レベルを示す。なお、BGIOSGA015651遺伝子がノックアウトされる前に、虫害感受性イネ品種TN1の虫害抵抗性レベルが9であるが、BGIOSGA015651遺伝子がノックアウトされた後、その抵抗性レベルが0〜1(高抵抗性レベル)まで顕著に向上した。出願人は、従来の抵抗性品種について検定を行ったところ、それらの虫害抵抗性が深刻に喪失したことを発見した。現在、Mudgo(Bph1を持つ)の平均抵抗性レベルは5.4であり、ASD7(Bph2を持つ)の平均抵抗性レベルは8.89であり、Rathu
Heenati(Bph3を持つ)の平均抵抗性レベルは4.61であり、Babawee(Bph4を持つ)の平均抵抗性レベルは8.14であり、虫害抵抗性品種BG1222の平均抵抗性レベルは1.07である。比較から分かるように、本発明に開示するイネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651は、イネの育種及びイネのウンカ抵抗性を向上させる使用において大きな意味がある。
【0027】
本発明のイネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651はイネの育種に使用することができる。分子育種法または遺伝子工学の方法で、このタンパク質コード遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減することにより、虫害感受性株に高い虫害抵抗性能を備えさせ、高いウンカ抵抗性(トビイロウンカ及びセジロウンカ抵抗性)植物を育成することができる。したがって、本発明に係る遺伝子及びそのコードしたタンパク質は、植物の遺伝的改良に使用することができる。
【0028】
本発明のイネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651は、トビイロウンカとセジロウンカに対して同様に効果的であるが、ヒメトビウンカに対する虫害抵抗性については研究している。トビイロウンカが長距離を移動する習性を持つため、現在、中国や数多くのアジア国ではイネにとって最も主要な害虫であるが、北緯25度より北の稲作地帯で越冬できない。セジロウンカは全国の全ての稲作地帯に出現している(中国の南の海南島から、北の黒竜江省までの各稲作地帯、東南アジア各国にいずれも分布している)。したがって、本技術を用いて育種したイネはイネ栽培地域の各地に広範に普及させることができ、非常に高い経済的価値と優れた生態的効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1はトビイロウンカに吸汁された後のイネ品種BG1222及びTN1におけるBGIOSGA015651の発現量の時間にそった変化である。
図2図2は交雑F後代におけるBGIOSGA015651の発現量とイネの虫害抵抗性スコア値との関係である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
トビイロウンカはイネ生産を害する主な害虫であり、近年、トビイロウンカのバイオタイプの変異、薬剤耐性の発生等の原因により、トビイロウンカ災害が日増しに深刻になっている。生産実践により、抵抗性品種を利用することが最も経済的、安全的かつ有効な施策と証明された。「標準セルトレイによる検定法」に準拠して、BG1222に対して、数年間にわたって幼苗期虫害抵抗性レベル検出を行ったところ、トビイロウンカに対して安定した高抵抗性を持つことから、育種において高い利用価値を有することを見出した。しかしながら、BG1222はトビイロウンカに対してどのような重要な遺伝子が虫害抵抗性表現に関連するかについて、全世界では今まで関連する文献がまだない。TN1は、虫害抵抗性遺伝子をいずれ含まない虫害感受性イネ品種と国際的に認められている。
【0031】
トビイロウンカの他に、イネに危害を加えるウンカのよく見られる種類として、セジロウンカと、ヒメトビウンカがあり、中国の南方は主にトビイロウンカ及びセジロウンカによる危害である。セジロウンカは直接刺して吸汁する以外、イネウイルス病の主な伝播媒体となっている。BG1222はセジロウンカに対しても一定の抵抗性を持ち、BG1222のセジロウンカに対する抵抗性についても、発明者が幼苗期抵抗性レベル検出により確認したが、文献には報告していない。
【0032】
本発明の出願人は、トビイロウンカ及びセジロウンカに対して安定した抵抗性を持つイネ品種BG1222と、虫害感受性イネ品種TN1とを研究すること、イネのウンカに対する虫害感受性遺伝子を見つけ、BGIOSGA015651と命名した。虫害抵抗性品種は虫害感受性品種とを比較すると、BGIOSGA015651の遺伝子発現量に有意な差が存在する。虫害抵抗性品種BG1222において、BGIOSGA015651の発現量が、虫害感受性イネ品種TN1での発現量よりも数百倍以上低い。トビイロウンカの吸汁の有無にかかわらず、BG1222におけるBGIOSGA015651の発現量は、いずれもTN1での発現量よりも大幅に低い。交雑F後代の検証により、BGIOSGA015651の発現量がイネの虫害抵抗性とは負の相関(発現量が低いほど虫害抵抗性が高い)関係であることが示されている。後代における虫害抵抗性が高いほど、その抵抗性スコア値(Grade)が小さく、対応するBGIOSGA015651の発現量が低い。遺伝子編集技術によりBGIOSGA015651遺伝子をノックアウトすることにより、虫害感受性イネ品種TN1にはイネ品種BG1222と同様の虫害抵抗性が得られる。
【0033】
以下、具体的な実施例を参照しながら本発明をさらに説明するが、これに限定されるものではない。
【0034】
実施例1 虫害抵抗性品種と虫害感受性品種とを比較すると、BGIOSGA015651の遺伝子発現量に有意な差が存在する
【0035】
一、イネのTotal RNAの抽出
1)イネ試料の粉砕:極低温で凍結したイネサンプルを秤量した後、液体窒素で予備冷却した乳鉢に速やかに移し、乳棒で組織を粉砕し、その間に液体窒素を添加し続けて、粉末状に粉砕したら停止する。乳鉢に試料ホモジネート量に合わせた適量のRNAiso Plusを添加することができる。新鮮な組織試料の場合、直ちにRNAiso Plusを添加し、十分にホモジネートする。液体ホモジネートを遠心管に移し、室温(15〜30℃)で5分間静置する。12000g 4℃で5分間遠心する。上澄液を注意深く吸い取って、新しい遠心管に移す。
【0036】
2)Total RNAの抽出:上記ホモジネート溶解液にクロロホルム(RNAiso Plusの1/5体積量)を添加し、遠心管の蓋を密に閉め、溶液が乳化して乳白色になるまで混合する。室温で5分間静置する。12,000g 4℃で15分間遠心する。遠心機から遠心管を慎重に取り出し、この時、ホモジネートが3層に分けられている。すなわち、無色の上澄液(RNAを含む)、中間の白色タンパク質層(大部分はDNA)及び色付きの下層有機相である。上澄液を吸い取って別の遠心管に移す(白色の中間層を吸い出してはいけない)。上澄液にRNAiso Plus体積の0.5〜1倍のイソプロパノールを添加し、遠心管を上下反転させて十分に均一に混合させた後、室温で10分間静置する。12000g 4℃で10分間遠心する。一般に、遠心した後、試験管の底部にRNA沈殿が生じる。
【0037】
3)RNA沈殿の洗浄:少量のイソプロピルアルコールを残してもよいが、沈殿に触れないように、注意深く上澄液を取り捨てる。RNAiso Plusと同量の75 %エタノールを添加し、軽く上下反転させ遠沈管の管壁を洗浄し、7,500g 4℃で5分間遠心した後、沈殿に触れないように、注意深く上澄液を取り捨てる。
【0038】
4)RNAの溶解:遠心管蓋を開け、沈殿を室温で数分間乾燥させる。沈殿乾燥後、適量のRNase−free水を添加して沈殿を溶解させる。
【0039】
二、ゲノム除去
RNase−freeのDNase Iを用いて、以下のように反応液を調製する。
【表1】
37℃で30min消化し、65℃で10 min不活化する。
次に以下のステップにしたがって操作する。
1)等体積のフェノールを添加し、上下反転させ均一に混合させた後、10,000rpmで5min遠心し、上澄液を取り捨て、
2)等体積のクロロホルムを添加し、上下反転させ均一に混合させた後、10,000rpmで10min遠心し、上澄液を取り捨て、
3)等体積のイソプロパノールを添加し、緩和に十分に均一に混合させ、−20℃で15 min静置し、
4)4℃で10,000g 10min遠心し、RNA沈殿を採取し、上澄液を取り捨て、
5)75%のエタノールで2回洗浄し、クリーンベンチで風乾し、
6)10μlのDEPC処理水を添加して沈殿を溶解させる。
【0040】
三、純度検出及び電気泳動測定
純度測定:2μlのRNA試料を60倍希釈し、微量分光光度計でOD値を測定し、OD260/OD280の比が1.8を超えていれば、調製したRNAが純粋であり、タンパク質汚染がないことを示す。
【0041】
四、逆転写
以下の成分に応じてRT反応液を調製する(反応液の調製は氷上で行ってください)。
【表2】
は反応系が需要に応じて対応的に増幅できることを示し、10μlの反応系は最大500ngのTotal RNAを使用することができる。
上記10μlの反応溶液をTaKaRa−TP600 PCR機器において、37℃で15min、85℃で5sec反応させ、4℃で保温した後、−20℃で保存して使用に備える。
【0042】
五、定量
以下のプライマーを用いて、BGIOSGA015651の遺伝子発現量について分析を行い、その塩基配列は以下の通りである。
RE−f:TCCAGAGCAGGAAACAAGGAC(SEQ ID NO:7)、
RE−r:GCCTACGCCAGCACATGAAA(SEQ ID NO:8)。
1)反応系:
【表3】
2)Real Time反応を行う:
CFX96Real−Time(Bio−Rad)PCR機器で、95℃で30sec、95℃で5sec、60℃で30sec反応させ、40サイクル繰り返す。融解曲線解析:温度は60℃〜95℃である。
【0043】
結果は図1に示す。
図1は、トビイロウンカに吸汁された後のイネ品種BG1222及びTN1におけるBGIOSGA015651の発現量の時間にそった変化である。
【0044】
図1に示す結果のように、虫害抵抗性品種と虫害感受性品種とを比較すると、BGIOSGA015651の遺伝子発現量に有意な差が存在する。虫害抵抗性品種BG1222において、BGIOSGA015651の発現量が、虫害感受性イネ品種TN1での発現量よりも数百倍、ないし数千倍以上低い。トビイロウンカの吸汁の有無(異なる時間吸汁された)にかかわらず、BG1222におけるBGIOSGA015651の発現量は、いずれもTN1での発現量よりも大幅に低い。
【0045】
実施例2 BGIOSGA015651の遺伝子のクローニング及びポリペプチドの解析
虫害抵抗性品種BG1222と虫害感受性品種TN1のBGIOSGA015651遺伝子に対して、それぞれクローニング、シークエンシング及び解析を行った。
【0046】
そのうち、虫害抵抗性品種BG1222におけるBGIOSGA015651遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1に示すとおりであり(エクソン及びイントロンを含む)、虫害感受性品種TN1におけるBGIOSGA015651遺伝子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2に示すとおりであり(エクソンとイントロンを含む)、両者は、数箇所でヌクレオチドの区別がある。
【0047】
そのうち、虫害抵抗性品種BG1222におけるBGIOSGA015651遺伝子のcDNA配列は、SEQ ID NO:3に示すとおりであり、虫害感受性品種TN1におけるBGIOSGA015651遺伝子のcDNA配列は、SEQ ID NO:4に示すとおりである。
【0048】
そのうち、虫害抵抗性品種BG1222におけるBGIOSGA015651遺伝子のコードタンパク質は、SEQ ID NO:5に示すとおりであり、虫害感受性品種TN1におけるBGIOSGA015651遺伝子のコードタンパク質は、SEQ ID NO:6に示すとおりであり、両者は、合計16箇所でアミノ酸の区別がある。
【0049】
実施例3 虫害抵抗性品種と虫害感受性品種との交雑F世代
BG1222とTN1との交雑によりF後代集団を作製し、ここで、F後代集団のサンプルn=512とした。その中から抵抗性スコア値が異なる60個の個体を選択して測定し、異なる抵抗性レベル及び表現型のF後代個体に対して、それぞれそのBGIOSGA015651の発現量を測定し、BGIOSGA015651の発現量とイネの虫害抵抗性表現型との相関性を決定した。
【0050】
結果は図2に示す。
図2は、交雑F後代におけるBGIOSGA015651の発現量とイネの虫害抵抗性スコア値との関係である。
【0051】
図2に示す結果のように、交雑F後代におけるBGIOSGA015651の発現量は、イネの虫害抵抗性とは負の相関(発現量が低いほど虫害抵抗性が高い)関係である。後代における虫害抵抗性が高いほど、その抵抗性スコア値(Grade)が小さく、対応するBGIOSGA015651の発現量が低い。
【0052】
実施例4 遺伝子ノックアウト試験
遺伝子編集技術を利用して、遺伝子ノックアウト試験(knockout)でBGIOSGA015651遺伝子をノックアウトすることにより、虫害感受性イネ品種TN1にはイネ品種BG1222と同様の虫害抵抗性が得られる。
【0053】
一、イネ遺伝子ノックアウトのベクターの構築
BGIOSGA015651遺伝子cDNA配列から、その先端の配列を標的配列として選択し、gRNA(guide RNA)配列を設計し合成する(配列は以下のとおりであるが、標的配列と対応するgRNA配列はこの配列に限定されない)。gRNA配列断片を、ハイグロマイシン抵抗性マーカーを含むpBWA(V)Hベクター(武漢伯遠公司)に組み込む。このCRISPR/Cas9ゲノムでベクターシステムを編集し、標的配列のうちの1つの塩基を変異させる(1つの塩基を、標的配列から削除するかまたは標的配列に添加する)。BGIOSGA015651遺伝子cDNA配列にフレームシフト変異を発生させて、その発現する産物が元のアミノ酸産物ではなくなるようにし、BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトするという目的を達成する。
【0054】
gRNA配列:5′−CATCTCTCAGTGCACGGCT−3′(SEQ ID NO:9)、
標的配列:5′−ACATCTCTCAGTGCACGGCTGGG−3′(SEQ ID NO:10)。
【0055】
二、遺伝形質転換によりイネの遺伝子ノックアウト株を取得する。
1)虫害感受性イネTN1の成熟胚を材料としてカルスを誘導する:培養したアグロバクテリウム(EHA105)菌液を遠心管に入れ、遠心して上澄液を取り捨て、アグロバクテリウム懸濁液に調製し、一定の大きさに成長したカルスを選出し、アグロバクテリウム懸濁液に入れて感染させ、カルスを共存培地に置く。
【0056】
2)選抜:カルスを取り出し、乾燥したカルスを選抜培地に移して一回目の選抜を行い、抵抗性カルスが成長している初期カルスを新たな培地に移し、2回目の選抜を行う。
【0057】
3)耐性カルスの誘導分化及び発根:抵抗性カルスを選抜し、分化培地を入れたシャーレに移し、開口をフィルムで封じて、恒温培養室に入れて苗の分化して苗になるのを待つ。株が1cm程度に成長した時に、発根培地に移して健苗に育成する。
【0058】
4)ハイグロマイシン(Hyg)抵抗性遺伝子のPCR検出:ハイグロマイシン抵抗性遺伝子特異的プライマーを用いて、従来のPCR法により、イネの株に当該遺伝子を含有するか否かを増幅して検出する。含有すれば、形質転換陽性株である。
【0059】
耐性遺伝子特異的プライマー:
Hyg−f:5′−ACGGTGTCGTCCATCACAGTTTGCC−3′(SEQ ID NO:11)、
Hyg−r:5′−TTCCGGAAGTGCTTGACATTGGGA−3′(SEQ ID NO:12)。
【0060】
5)陽性株の遺伝子ノックアウトの測定:標的の近傍に検出プライマーを設計してPCRを行い、その後にシークエンシングし、遺伝子ノックアウト状況(成功裏にノックアウトしたホモ接合苗が得られたか否か)を測定する。虫害感受性イネTN1のBGIOSGA015651遺伝子を成功裏にノックアウトしたホモ接合苗を取得する。
【0061】
三、イネ遺伝子ノックアウト苗の虫害抵抗性検定
虫害感受性イネTN1のBGIOSGA015651遺伝子をノックアウトしたホモ接合苗に対して、幼苗期虫害抵抗性を検定する。
【0062】
検定した結果、虫害感受性品種TN1の苗死亡率は100%であり、BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトしたホモ接合苗の死亡率は0%であり、そしてその抵抗性レベルは0〜1(高抵抗性レベル)となった。
【0063】
遺伝子BGIOSGA015651の発現量がイネの虫害抵抗性とは負の相関(発現量が低いほど抗虫性が高い)関係であり、遺伝子BGIOSGA015651がイネのウンカ抵抗性に関連する重要な遺伝子であることが検証された。
【0064】
実施例5 BGIOSGA015651と従来のトビイロウンカ抵抗性遺伝子との効果の比較
本発明は、虫害感受性イネ品種TN1(抵抗性レベル9)のBGIOSGA015651遺伝子をノックアウトした後、その抵抗性レベルが0〜1(高抵抗性レベル)まで顕著に向上し、虫害抵抗性品種BG1222の抵抗性(抵抗性レバルが1.07)と相当するか、またはそれよりもましになった。
【0065】
出願人は、従来の抵抗性品種について検定を行ったところ、それらの虫害抵抗性が深刻に喪失したことを発見した。現在、Mudgo(Bph1を持つ)の平均抵抗性レベルは5.4であり、ASD7(Bph2を持つ)の平均抵抗性レベルは8.89であり、Rathu Heenati(Bph3を持つ)の平均抵抗性レベルは4.61であり、Babawee(Bph4を持つ)の平均抵抗性レベルは8.14であり、虫害抵抗性品種BG1222の平均抵抗性レベルは1.07である。
【0066】
比較して分かるように、本発明のイネのウンカ抵抗性遺伝子BGIOSGA015651は、イネの育種に使用する将来性がある。分子育種法または遺伝子工学の方法で、このタンパク質コード遺伝子をノックアウトするかまたはその発現量を低減することにより、虫害感受性株に高い虫害抵抗性能を備えさせ、高いウンカ抵抗性(トビイロウンカ及びセジロウンカ抵抗性)イネを育成することができる。
【0067】
実施例6 BGIOSGA015651のセジロウンカ抵抗性の効果
本発明は、虫害感受性イネ品種TN1(抵抗性レベル9)のBGIOSGA015651遺伝子をノックアウトした後、幼苗期検定の方法により、そのセジロウンカに対する抵抗性レベルを検定する。
【0068】
その結果、虫害感受性品種TN1の苗死亡率は100%であり、BGIOSGA015651遺伝子をノックアウトしたホモ接合苗の死亡率は0%であり、そしてその抵抗性レベルは0〜1(高抵抗性レベル)となった。
【0069】
したがって、本発明のイネのウンカに対する虫害感受性遺伝子BGIOSGA015651をセジロウンカ抵抗性品種の育種に使用すれば、優れた効果を有する。
【0070】
上記した実施例は本発明の好ましい実施形態であるが、本発明の実施形態は上記した実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内でなされた変更、修飾、置換、組み合わせ、簡略化は、いずれも等価物であり、本発明の保護される範囲に含まれる。
図1
図2
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]