(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770691
(24)【登録日】2020年9月30日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/30 20060101AFI20201012BHJP
G01B 11/24 20060101ALI20201012BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
G01B11/30 102Z
G01B11/24 K
G01N21/88 J
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-232638(P2017-232638)
(22)【出願日】2017年12月4日
(65)【公開番号】特開2019-100879(P2019-100879A)
(43)【公開日】2019年6月24日
【審査請求日】2019年4月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松永 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】草野 巧巳
【審査官】
川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−323886(JP,A)
【文献】
特開平04−214789(JP,A)
【文献】
特開平05−256771(JP,A)
【文献】
特開2016−194707(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0055597(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された該長手方向に略平行の塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性との両面において評価する塗膜端部の精度の定量化方法であって、
基材上に形成された塗膜の電子画像を得るステップと、
得られた電子画像から評価される塗膜端部を含む評価領域の画像を抽出し、該評価領域における前記塗膜の光学的プロファイルと前記基材の露出面の光学的プロファイルとを得るステップと、
前記評価領域において、前記塗膜端に対して略平行な基準直線を該評価領域内に設定し、前記光学的プロファイルに基づいて該基準直線と該塗膜端との間の前記幅方向の距離を求め、得られた前記距離に基づいて前記評価領域における前記凹凸の大きさの指標として、前記評価領域における前記基準直線と前記塗膜端との間の前記幅方向の距離に基づいて求められた、前記凹凸の最大深さ、及び/又は、前記距離の分布における標準偏差を求めるステップと、
前記光学的プロファイルに基づいて前記評価領域における前記塗膜端の総延長を求め、得られた前記総延長に基づいて前記評価領域における前記微細凹凸の平滑性の指標として、前記評価領域における前記基準直線の長さに対する前記塗膜端の総延長の比を求めるステップと、
を含むことを特徴とする塗膜端部の精度の定量化方法。
【請求項2】
前記基準直線が、前記基材の露出面の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記基材の前記幅方向の端に相当する基材端輪郭線であることを特徴とする請求項1に記載の塗膜端部の精度の定量化方法。
【請求項3】
前記塗膜端が、前記塗膜の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記塗膜の前記幅方向の端に相当する塗膜端輪郭線であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗膜端部の精度の定量化方法。
【請求項4】
基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された該長手方向に略平行の塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性との両面において評価する塗膜端部の精度の定量化装置であって、
基材上に形成された塗膜の電子画像を得る撮像手段と、前記電子画像に基づいて画像解析する解析手段とを備えており、
前記解析手段は、
得られた電子画像から評価される塗膜端部を含む評価領域の画像を抽出し、該評価領域における前記塗膜の光学的プロファイルと前記基材の露出面の光学的プロファイルとを得るステップと、
前記評価領域において、前記塗膜端に対して略平行な基準直線を該評価領域内に設定し、前記光学的プロファイルに基づいて該基準直線と該塗膜端との間の前記幅方向の距離を求め、得られた前記距離に基づいて前記評価領域における前記凹凸の大きさの指標として、前記評価領域における前記基準直線と前記塗膜端との間の前記幅方向の距離に基づいて求められた、前記凹凸の最大深さ、及び/又は、前記距離の分布における標準偏差を求めるステップと、
前記光学的プロファイルに基づいて前記評価領域における前記塗膜端の総延長を求め、得られた前記総延長に基づいて前記評価領域における前記微細凹凸の平滑性の指標として、前記評価領域における前記基準直線の長さに対する前記塗膜端の総延長の比を求めるステップと、
を実行するように構成されていることを特徴とする塗膜端部の精度の定量化装置。
【請求項5】
前記基準直線が、前記基材の露出面の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記基材の前記幅方向の端に相当する基材端輪郭線であることを特徴とする請求項4に記載の塗膜端部の精度の定量化装置。
【請求項6】
前記塗膜端が、前記塗膜の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記塗膜の前記幅方向の端に相当する塗膜端輪郭線であることを特徴とする請求項4又は5に記載の塗膜端部の精度の定量化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置に関し、より詳しくは、基材上に長手方向に亘って形成された塗膜の幅方向の端部の精度の定量化方法及び定量化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、様々な分野においてシート状の基材の表面の一部に塗膜を形成した部材が用いられており、例えば、各種の電池の電極やコンデンサの電極等を製造する過程で、シート状の基材の表面の一部にダイコーター、ロールコーター等を用いて電極活物質等を塗工して塗膜を形成する方法が採用されている。その際、実際に形成されている塗膜の厚さや幅等の寸法を検査することは、製品の均一性の管理や不良品を検出するうえで重要なことである。
【0003】
このような塗膜の寸法を検査する方法として、例えば、特開2013−160581号公報(特許文献1)においては、塗工装置でシートに塗工した塗り幅やシート端をシートから所定の位置離れて配置したカメラを用いて撮影し、撮影画像を処理して塗工した塗り幅やシート端からの寸法を測定する塗工寸法装置において、前記シートが搬送されるローラ上にスケールを保持して出し入れ自在に配置するスケール保持ユニットを備えたことを特徴とする塗工寸法測定装置が開示されている。
【0004】
また、特許5316904号公報(特許文献2)においては、長尺なシート状基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗工膜の該長手方向と交差する横方向の幅を検出する方法であって、以下の工程:a).前記長手方向における所定の計測点において、前記塗工膜の前記横方向への厚みプロファイルを計測する工程、ここで前記厚みプロファイルは、前記幅に関する基準点X
0からの前記横方向の距離Xに対する前記厚みに関する基準点Y
0からの塗工膜の厚さYとして規定される;b).前記計測した厚みプロファイルに基づき、前記塗工膜の前記横方向の両方の端部それぞれの端部近傍領域において前記距離Xと前記厚さYとの関数の近似曲線を作成する工程;及びc).前記横方向の両方の端部それぞれの端部近傍領域について得られた近似曲線と、予め設定しておいた前記基準点Y
0からの厚み閾値Y
tとに基づいて、一方の端部近傍領域の近似曲線から求められた厚み閾値Y
tに対応する距離X
e1と、他方の端部近傍領域の近似曲線から求められた厚み閾値Y
tに対応する距離X
e2とを前記横方向の両方の端部とみなし、該X
e1とX
e2との差:X
e1−X
e2の絶対値を、前記所定の計測点における前記塗工膜の横方向の幅として算出する工程;を包含する塗工膜の幅の検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−160581号公報
【特許文献2】特許5316904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記のような従来の塗膜の検査方法はいずれも基本的に寸法公差に対する異常を検出することを主眼とするものであり、本発明者らは、このような塗膜を用いた電池等に対する要求性能が急速に高まっていく近年においては、より多面的にかつ客観的に塗膜を評価する必要性を認識するに至った。
【0007】
一方、塗膜の寸法精度を比較的向上させ易い塗膜成分の分散液を用いた塗工方法以外に、近年は、塗膜成分の乾燥粉体や湿潤粉体を用いた塗工方法を採用する必要性も高まってきており、本発明者らは、塗膜の寸法精度、特に塗膜の端部の精度を客観的に評価する必要性を強く認識するに至った。
【0008】
本発明は、このような本発明者らが見出した認識に基づいてなされたものであり、基材上に長手方向に亘って形成された塗膜の幅方向の端部の精度を多面的にかつ客観的に評価することが可能な塗膜端部の精度の定量化方法、並びに、そのような方法を実行することが可能な塗膜端部の精度の定量化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、基材上に長手方向に亘って形成された塗膜の幅方向の端部の精度として、塗膜端部の荒れ、すなわち塗膜端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさと、かかる塗膜端を構成する塗膜端面の粗さ、すなわち塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性とに着目し、それらを定量化(数値化)した指標として得ることができれば塗膜端部の精度を多面的にかつ客観的に評価することが可能となり、塗膜の材料や塗工条件等を変更した際の最適化等を検討するうえで非常に有用な指標となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の塗膜端部の精度の定量化方法は、基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された
該長手方向に略平行の塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性と
の両面において評価する塗膜端部の精度の定量化方法であって、
基材上に形成された塗膜の電子画像を得るステップと、
得られた電子画像から評価される塗膜端部を含む評価領域の画像を抽出し、該評価領域における前記塗膜の光学的プロファイルと前記基材の露出面の光学的プロファイルとを得るステップと、
前記評価領域において、前記塗膜端に対して略平行な基準直線を該評価領域内に設定し、前記光学的プロファイルに基づいて該基準直線と該塗膜端との間の前記幅方向の距離を求め、得られた前記距離に基づいて前記評価領域における前記凹凸の大きさの指標
として、前記評価領域における前記基準直線と前記塗膜端との間の前記幅方向の距離に基づいて求められた、前記凹凸の最大深さ、及び/又は、前記距離の分布における標準偏差を求めるステップと、
前記光学的プロファイルに基づいて前記評価領域における前記塗膜端の総延長を求め、得られた前記総延長に基づいて前記評価領域における前記微細凹凸の平滑性の指標
として、前記評価領域における前記基準直線の長さに対する前記塗膜端の総延長の比を求めるステップと、
を含むことを特徴とする方法である。
【0011】
また、本発明の塗膜端部の精度の定量化装置は、基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された
該長手方向に略平行の塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性と
の両面において評価する塗膜端部の精度の定量化装置であって、
基材上に形成された塗膜の電子画像を得る撮像手段と、前記電子画像に基づいて画像解析する解析手段とを備えており、
前記解析手段は、
得られた電子画像から評価される塗膜端部を含む評価領域の画像を抽出し、該評価領域における前記塗膜の光学的プロファイルと前記基材の露出面の光学的プロファイルとを得るステップと、
前記評価領域において、前記塗膜端に対して略平行な基準直線を該評価領域内に設定し、前記光学的プロファイルに基づいて該基準直線と該塗膜端との間の前記幅方向の距離を求め、得られた前記距離に基づいて前記評価領域における前記凹凸の大きさの指標
として、前記評価領域における前記基準直線と前記塗膜端との間の前記幅方向の距離に基づいて求められた、前記凹凸の最大深さ、及び/又は、前記距離の分布における標準偏差を求めるステップと、
前記光学的プロファイルに基づいて前記評価領域における前記塗膜端の総延長を求め、得られた前記総延長に基づいて前記評価領域における前記微細凹凸の平滑性の指標
として、前記評価領域における前記基準直線の長さに対する前記塗膜端の総延長の比を求めるステップと、
を実行するように構成されていることを特徴とする装置である。
【0013】
また、前記本発明の塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置においては、前記基準直線が、前記基材の露出面の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記基材の前記幅方向の端に相当する基材端輪郭線であることが好ましい。
【0014】
さらに、前記本発明の塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置においては、前記塗膜端が、前記塗膜の光学的プロファイルに基づいて求められた、前記評価領域における前記塗膜の前記幅方向の端に相当する塗膜端輪郭線であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基材上に長手方向に亘って形成された塗膜の幅方向の端部の精度として、塗膜端部の荒れ、すなわち塗膜端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさと、かかる塗膜端を構成する塗膜端面の粗さ、すなわち塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性とをそれぞれ定量化(数値化)した指標として得ることができるようになり、それらの指標により塗膜端部の精度を多面的にかつ客観的に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の塗膜端部の精度の定量化装置の好適な一実施形態の模式図である。
【
図2】本発明の塗膜端部の精度の定量化方法の好適な一実施形態のフローチャートである。
【
図3】塗膜の電子画像の一例を示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図4】評価領域の電子画像の一例を示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図5】評価領域の電子画像から求めた輝度値ヒストグラムの一例を示すグラフである。
【
図6】端部凹凸評価ステップにおいて用いる二値化した評価領域の電子画像の一例を示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図7】基準直線(基材端輪郭線)と塗膜端との間の距離のばらつきのデータの一例を示すグラフである。
【
図8】端面平滑性評価ステップにおいて用いる二値化した評価領域の電子画像の一例を示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図9】評価領域における塗膜端を細線化処理した状態の電子画像の一例を示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図10】実施例における塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)について得られた評価領域の電子画像の一例をそれぞれ示すディスプレー上の中間調画像である。
【
図11】実施例における塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)について得られた基準直線(基材端輪郭線)と塗膜端との間の距離のばらつきのデータの一例をそれぞれ示すグラフである。
【
図12】実施例における塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)について得られた端面平滑性評価のために塗膜端を抽出した評価領域の電子画像の一例をそれぞれ示すディスプレー上の中間調画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明の塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
本発明の塗膜端部の精度の定量化方法は、基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性とを評価する塗膜端部の精度の定量化方法であって、
基材上に形成された塗膜の電子画像を得るステップ(撮像ステップ)と、
得られた電子画像から評価される塗膜端部を含む評価領域の画像を抽出し、該評価領域における前記塗膜の光学的プロファイルと前記基材の露出面の光学的プロファイルとを得るステップ(光学的プロファイル取得ステップ)と、
前記評価領域において、前記塗膜端に対して略平行な基準直線を該評価領域内に設定し、前記光学的プロファイルに基づいて該基準直線と該塗膜端との間の前記幅方向の距離を求め、得られた前記距離に基づいて前記評価領域における前記凹凸の大きさの指標を求めるステップ(端部凹凸評価ステップ)と、
前記光学的プロファイルに基づいて前記評価領域における前記塗膜端の総延長を求め、得られた前記総延長に基づいて前記評価領域における前記微細凹凸の平滑性の指標を求めるステップ(端面平滑性評価ステップ)と、
を含む方法である。
【0019】
また、本発明の塗膜端部の精度の定量化装置は、基材上に該基材の長手方向に亘って形成された塗膜の該長手方向に直交する幅方向の端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさと、該塗膜端を構成する塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性とを評価する塗膜端部の精度の定量化装置であって、基材上に形成された塗膜の電子画像を得る撮像手段と、前記電子画像に基づいて画像解析する解析手段とを備えており、前記解析手段は、前記光学的プロファイル取得ステップと、前記端部凹凸評価ステップと、前記端面平滑性評価ステップとを実行するように構成されている。
【0020】
図1に、本発明の塗膜端部の精度の定量化装置の好適な一実施形態の模式図を示す。
【0021】
図1に示す定量化装置1は、シート状の基材2の表面上にその長手方向(
図1においては紙面に対して垂直な方向)に亘って形成された塗膜3の前記長手方向に直交する幅方向(
図1においては左右の方向)の塗膜端部31に形成された塗膜端32の凹凸の大きさと、塗膜端32を構成する塗膜端面33に形成された微細凹凸の平滑性とを評価する塗膜端部31の精度の定量化装置である。そして、定量化装置1は、基材2上に形成された塗膜3の電子画像を得る撮像手段5と、前記電子画像に基づいて後述する画像解析をする解析手段6とを備えている。
【0022】
撮像手段5は、前記電子画像を得ることができるものであればよく、特に制限されず、例えば、デジタルカメラ、ビデオ、スキャナー、電子顕微鏡等を用いることができる。また、解析手段6も特に制限されず、後述する画像解析をするプログラムがインストールされたコンピュータ等を用いることができる。さらに、画像解析をするプログラムも特に制限されず、例えば、市販のグラフ処理ソフトウェアである「IGOR Pro」(WaveMetrics社製)、市販の数値解析ソフトウェアである「MATLAB」(MathWorks社製)、パブリックドメインの画像処理ソフトウェアである「Image J」、BSDライセンスに基づく画像認識に関連する機能のライブラリである「Open CV」等を用いて後述する画像解析を行うことができる。
【0023】
以下、
図2に示すフローチャートに基づいて、本発明の塗膜端部の精度の定量化方法の好適な一実施形態、及び、それを実行するための前記解析手段6における画像解析の好適な一実施形態について説明する。
【0024】
(撮像ステップ)
図2に示すフローチャートにおいては、先ず、撮像手段5により基材2上に形成された塗膜3の電子画像を得る(S101:塗膜の電子画像化処理)。次に、得られた電子画像をグレースケール化し(S102:グレースケール化処理)、さらに、電子画像を回転補正して画像中の基材2及び塗膜3が水平になるように修正する(S103:回転補正処理)。その際、塗膜3が基材2の長手方向に亘って形成されていることから、基材2の幅方向の端(基材2のエッジ)22が水平になるように回転補正することが好ましい。
図3に、このようにして得られた塗膜の電子画像の一例を示す。
【0025】
(光学的プロファイル取得ステップ)
次に、得られた電子画像から評価対象とする塗膜端部31を含む所定の長さと所定の幅を有する長方形の評価領域4の画像を切り出す(S104:評価領域の抽出処理)。その際、評価対象とする塗膜端部31と基材2の露出面21が評価領域4に含まれていることが必要であり、後述する二値化処理において基材2の幅方向の端22を認識するために基材2の外(基材外)の領域41が更に含まれていることが好ましい。
図4に、このようにして得られた評価領域4の電子画像の一例を示す。
【0026】
次いで、得られた評価領域4の電子画像において基材領域における撮影光による反射(白飛び)ノイズをメディアンフィルターにより除去した後(S105:ノイズ除去処理)、評価領域4の電子画像から輝度値ヒストグラムを求め、得られた輝度値ヒストグラムに基づいて評価領域4の電子画像を二値化する(S106:画像の二値化処理)。
図5に、このようにして得られた輝度値ヒストグラムの一例を示し、
図6に、二値化した評価領域4の電子画像の一例を示す。
【0027】
このようにして二値化した評価領域4の電子画像に基づいて、後述する端部凹凸評価ステップ及び端面平滑性評価ステップに用いる塗膜端部31の光学的プロファイル(
図6における上側の白い領域)と基材の露出面21の光学的プロファイル(
図6における黒い領域)が得られる。
【0028】
(端部凹凸評価ステップ)
先ず、二値化した評価領域4の電子画像において、塗膜端部31の端(塗膜3のエッジ)に対して略平行な基準直線を評価領域4内に設定するが、塗膜3が基材2の長手方向に亘って形成されていることから、基材の露出面21の光学的プロファイルに基づいて求められる基材2の幅方向の端(基材2のエッジ)に相当する基材端輪郭線22を基準直線として用いることが好ましい。
【0029】
次に、二値化した評価領域4の電子画像における塗膜端部31の光学的プロファイルと基材の露出面21の光学的プロファイルとに基づいて、評価領域の測定位置(N)が
図6における横軸方向の左端「N=0列目(評価領域の下限)」から右端「N=2000列目(評価領域の上限)」の間の全ての領域において、測定位置N列目のラインプロファイルから基準直線(基材端輪郭線)22と塗膜端32との間の距離を算出する(S201〜S203)。なお、このような距離の算出は、基準直線(基材端輪郭線)22と塗膜端32との間のラインプロファイルを構成する画素数(ピクセル)をカウントすることによって求めることができる。
【0030】
次いで、全ての評価領域において求められた前記距離の平均値を求め、各測定位置における前記距離から前記平均値を減算することにより、前記距離の平均値を基準とした各測定位置における前記距離のばらつきを求めることができる(S204:各距離から距離平均値を減算する処理)。
図7に、このようにして得られた前記距離のばらつきのデータの一例を示す。
【0031】
そして、得られた前記距離のばらつきのデータに基づいて、塗膜端部31に形成された凹凸の大きさの指標として、塗膜端部31に形成された凹凸の最大深さ(凹凸の最大位置と最少位置との差)を求める(S205:塗膜端凹凸の最大深さを算出する処理)と共に、前記距離の分布における標準偏差(分散であってもよい)を求める(S206:距離分布の標準偏差を算出する処理)。
【0032】
このようにして、基材2上に形成された塗膜3の端部31の荒れ、すなわち塗膜端部31に形成された塗膜端32の凹凸の大きさに関する指標として、凹凸の最大深さと塗膜端の幅方向の位置のばらつきに相当する標準偏差とをそれぞれ定量化(数値化)して得ることができる。
【0033】
(端面平滑性評価ステップ)
先ず、前述の二値化した評価領域4の電子画像における塗膜端部31の光学的プロファイルと基材の露出面21の光学的プロファイルとに基づいて、評価領域4における塗膜端部31の幅方向の端(塗膜端、塗膜のエッジ)32を抽出する(S301:塗膜端の抽出処理)。なお、端面平滑性評価ステップにおいて用いる二値化した評価領域4の電子画像においては、
図8に示すように、評価対象とする塗膜端部31と基材2の露出面21とが評価領域4に含まれていればよく、
図8において、塗膜端部31の光学的プロファイルは黒い領域、基材の露出面21の光学的プロファイルは白い領域として示されている。
【0034】
次に、評価領域4における塗膜端32を細線化処理し(S302:塗膜端の細線化処理)、
図9に示すような塗膜端の輪郭線34を求める。そして、得られた塗膜端の輪郭線34に基づいて、評価領域4における塗膜端の輪郭線34の総延長を求める(S303:塗膜端輪郭線の総延長算出処理)。なお、このような総延長の算出は、塗膜端の輪郭線34を構成する画素数(ピクセル)をカウントすることによって求めることができる。
【0035】
次いで、このようにして求められた評価領域4における塗膜端の輪郭線34の総延長に基づいて、塗膜端面33に形成された微細凹凸の平滑性の指標として、評価領域4における基準直線(基材端輪郭線)22の長さ(y)(
図9における評価領域4の横軸方向の直線長さに相当する)に対する塗膜端輪郭線34の総延長(x)の比(x/y)を求める(S304:基準直線(基材端輪郭線)の長さに対する塗膜端輪郭線の総延長の比を算出する処理)。
【0036】
このようにして、基材2上に形成された塗膜3の塗膜端32を構成する塗膜端面33の粗さ、すなわち塗膜端面33に形成された微細凹凸の平滑性を定量化(数値化)して得ることができる。
【0037】
以上、
図1〜9等に基づいて本発明の塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置の好適な実施形態について説明したが、本発明の定量化方法及び定量化装置は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例)
基材としてロール状に巻回された長尺のアルミニウム箔(幅:150mm、厚み:15μm)、塗膜材料としてリチウムイオン二次電池用正極合材、コーターとしてロールコーターを用い、常法にしたがって基材の長手方向に亘って塗膜幅が50mm、塗膜厚みが50μm、基材端部の露出面の幅が20mmとなるように塗膜を形成した。
【0040】
その際、本試験のために意図的に塗膜端部の精度が良品のもの(塗膜(A))と、中間品のもの(塗膜(B))と、不良品のもの(塗膜(C))を作製した。前述の方法にしたがって塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)についてそれぞれ得られた評価領域の電子画像の一例を
図10に示す。なお、撮像手段としてはスキャナー(EPSON社製、商品名:GT−X970)を用い、読み取りの解像度は600dpi(42.335μm/pixel)とした。
【0041】
次いで、塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)についてそれぞれ得られた評価領域の電子画像に基づいて、前述の方法にしたがって全ての評価領域において基材端と塗膜端との間の距離を求め、各測定位置における前記距離のばらつきを求めて、塗膜端部に形成された凹凸の最大深さ(凹凸の最大位置と最少位置との差)と、前記距離の分布における標準偏差を求めた。得られた結果を、
図11及び表1に示す。
【0042】
さらに、塗膜(A)、塗膜(B)及び塗膜(C)についてそれぞれ得られた評価領域の電子画像に基づいて、前述の方法にしたがって評価領域における塗膜端の輪郭線の総延長を求め、評価領域における基材端の長さ(y)(評価領域4の横軸方向の直線長さ)に対する塗膜端輪郭線の総延長(x)の比(x/y)を求めた。得られた結果を、
図12及び表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
表1、
図11及び
図12に示した結果から明らかな通り、塗膜端部の精度が悪い塗膜(C)においては、塗膜端部に形成された凹凸の大きさも、凹凸による塗膜端の幅方向の位置のばらつきに相当する標準偏差も、塗膜端輪郭線の総延長の長さ比もすべてにおいて数値が大きく、明らかに不良品であることが定量的に確認された。
【0045】
それに対して、塗膜端部の精度が良品の塗膜(A)と中間品の塗膜(B)とを比較すると、塗膜端部に形成された凹凸の大きさはやや塗膜(B)の方が大きいものの、凹凸による塗膜端の幅方向の位置のばらつきに相当する標準偏差はほぼ同等となっていたが、塗膜端輪郭線の総延長の長さ比においては大きな違いが確認された。したがって、塗膜端部の荒れ、すなわち塗膜端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさに関する指標では良品と中間品の差を必ずしも明確に区別することは困難であったが、併せて塗膜端を構成する塗膜端面の粗さ、すなわち塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性に関する指標を評価することにより、良品と中間品の差を明確に定量化(数値化)して区別できることが確認された。
【0046】
このように、塗膜端部の精度という観点において、塗膜端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさに関する指標と塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性に関する指標との両面において比較することが重要であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上説明したように、本発明によれば、基材上に長手方向に亘って形成された塗膜の幅方向の端部の精度として、塗膜端部の荒れ、すなわち塗膜端部に形成された塗膜端の凹凸の大きさと、かかる塗膜端を構成する塗膜端面の粗さ、すなわち塗膜端面に形成された微細凹凸の平滑性とをそれぞれ定量化(数値化)した指標として得ることができるようになり、それらの指標により塗膜端部の精度を多面的にかつ客観的に評価することが可能となる。
【0048】
したがって、本発明の塗膜端部の精度の定量化方法及び定量化装置は、各種の電池の電極やコンデンサの電極等を製造する方法等において、得られた塗膜の精度を多面的にかつ客観的に評価する技術として、そして塗膜の材料や塗工条件等を変更した際の最適化等を検討するうえで非常に有用な技術である。
【符号の説明】
【0049】
1:塗膜端部の精度の定量化装置、2:基材、21:基材端部の露出面、22:基材端(基準直線)、3:塗膜、31:塗膜端部、32:塗膜端、33:塗膜端面、34:塗膜端輪郭線、4:評価領域、41:基材外の領域、5:撮像手段、6:画像解析手段。