(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被塗物上に、水性プライマー塗料組成物を塗装する工程、ウエットオンウエットで水性第1着色塗料組成物を塗装する工程、ウエットオンウエットで水性第2着色塗料組成物を塗装する工程、クリヤー塗料組成物を塗装する工程、及び、形成された複層塗膜を同時に硬化させる工程からなる複層塗膜形成方法であって、
(1)該水性プライマー塗料組成物は融点が60℃〜100℃、かつ、重量平均分子量が50,000〜250,000の範囲内にある水性ポリオレフィン系樹脂(A)、ガラス転移温度(Tg)が−100〜−70℃、かつ、−20℃における伸び率が500%以上の水性ポリウレタン樹脂(B)、硬化剤(C)および導電性カーボン(D)を含有するものであり、
(2)該水性第1着色塗料組成物及び水性第2着色塗料組成物は、各々、基体樹脂として、コア部がアクリル樹脂、シェル部がポリウレタン樹脂からなるコア/シェル型エマルションを含むものであり、
(3)該クリヤー塗料組成物は水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する、ことを特徴とする複層塗膜形成方法。
水性プライマー塗料組成物の成分(A)と成分(B)との質量部比率が樹脂固形分で、20/80〜80/20であり、かつ、成分(C)と{成分(A)+成分(B)}との質量部比率が、固形分で1/100〜30/100であり、更に成分(D)と{成分(A)+成分(B)+成分(C)}との質量部比率が、固形分で2/98〜20/80であることを特徴とする請求項1記載の複層塗膜形成方法。
水性プライマー塗料組成物の成分(B)がコロイダルディスパーションタイプまたはエマルションタイプの水性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載の複層塗膜形成方法。
水性プライマー塗料組成物の成分(B)がポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール又はポリエーテルポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られるポリウレタンを、さらに必要に応じて、1分子中に少なくとも2個の活性水素をもつ低分子量化合物を用いて鎖伸長することにより得られる水性ポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項1乃至3記載の複層塗膜形成方法。
水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物の基体樹脂において、前記コア/シェル型エマルションにおけるコア部とシェル部の質量部比率が20/80〜80/20であり、前記コア部のアクリル樹脂の水酸基価が10〜85mgKOH/g、酸価が0〜30mgKOH/gであり、前記シェル部のポリウレタン樹脂の水酸基価が20〜80mgKOH/g、酸価が10〜60mgKOH/gであり、かつ前記シェル部のポリウレタン樹脂において、炭素数10〜60の二塩基酸及び/または二価アルコールに基づく構成単位の質量部比率が、前記シェル部のポリウレタン樹脂の樹脂固形分100質量部に対して10〜50質量部であることを特徴とする請求項1乃至4記載の複層塗膜形成方法。
水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物は、各々、基体樹脂の樹脂固形分100質量部に対して、前記コア/シェル型エマルションの質量部比率が、5〜80質量部であることを特徴とする請求項1乃至5記載の複層塗膜形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
水性プライマー塗料組成物
本発明の水性プライマー塗料組成物は、水性ポリオレフィン系樹脂(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、硬化剤(C)および導電性カーボン(D)を主成分として構成される。
【0018】
水性ポリオレフィン系樹脂(A)
本発明の成分(A)は、塩素を含有しないポリオレフィン樹脂であるが、塩素を含有しないポリオレフィン樹脂は、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性されたものである。
塩素を含有しないポリオレフィン樹脂は、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブテン樹脂などが挙げられるが、ポリプロピレン樹脂が好ましい。ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体樹脂、プロピレンと他のαオレフィンとの共重合体樹脂などが挙げられる。プロピレンと他のαオレフィンとの共重合体樹脂としては、エチレン−プロピレン共重合体樹脂、プロピレン−ブテン共重合体樹脂、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体樹脂、プロピレン−ヘキセン共重合体樹脂などが好ましく挙げられる。これらのうち、プロピレンの含有量が50mol%以上のプロピレン系重合体樹脂がより好ましく、プロピレンの含有量が60mol%以上のプロピレン系重合体樹脂が特に好ましい。
【0019】
変性に用いられる不飽和カルボン酸又は酸無水物は、α,β−不飽和カルボン酸及び/又はその酸無水物が好ましく、具体的な例としては、マレイン酸及びその酸無水物、イタコン酸及びその酸無水物、シトラコン酸及びその酸無水物などが挙げられ、これらから選ばれた1種以上を好適に使用することができる。不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物による変性量は、塩素を含有しないポリオレフィン樹脂1g当たりに対して、0.05〜0.8mmolが好ましく、より好ましくは、0.07〜0.5mmolであり、特に好ましくは、0.1〜0.35mmolである。この変性量(付加率)は、赤外分光スペクトル分析法により、カルボニル基の吸収強度を、この変性量(付加率)既知のサンプルに基づいて作成した検量線と対比することにより測定できる。この変性量が、0.05mmol未満では、乳化が困難であり、0.8mmolを超えると耐湿性が低下する。
【0020】
本発明に用いる不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂の融点は60℃〜100℃であり、好ましくは70℃〜95℃である。融点が60℃未満の場合、耐湿性が低下し、また、100℃を超えると付着性、低温衝撃性、低温屈曲性が低下する。なお、非塩素化ポリオレフィン樹脂の融点は、示差走査熱量測定器「DSC−50」(島津製作所社製)を使用し、−80℃から120℃まで昇温速度5℃/分にて熱量を測定して得ることができる。
【0021】
また、本発明に用いる不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量は、50,000〜250,000であり、好ましくは70,000〜210,000である。重量平均分子量が50,000未満であると、塗膜の凝集力低下により付着性が低下し、耐ガソホール性、耐湿性、高圧洗車性が低下するおそれがある。重量平均分子量が250,000を超えると、水性樹脂製造に支障をきたすこととなる。なお、本発明において、重量平均分子量とは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した重量平均分子量を、ポリスチレンの重量平均分子量を基準にして換算したときの値である。
【0022】
また、本発明に用いる不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂は、水性媒体に分散させるに当たって、水性化されていることが好ましい。
不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂を水性化するには、アンモニアまたは1級〜3級の有機アミン類等のアミン系化合物を反応させて塩を形成することにより行うことができる。アミン系化合物としてはトリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン等の3級アミン類;ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジエタノールアミン、ピペリジン等の2級アミン類;プロピルアミン、ブチルアミン、エタノールアミン、アニリン等の1級アミン類などが使用できるが、特に3級アミンが好適である。
【0023】
アンモニアまたはアミン系化合物の使用量は、水性化する非塩素化ポリオレフィン系樹脂のカルボキシル基1モルに対して0.5〜3.0モル、好ましくは0.8〜2.5モルの範囲内とするのが望ましい。
また、該非塩素化ポリオレフィン系樹脂の水性化には、必要に応じて界面活性剤を使用しても良い。界面活性剤としてはポリオキシエチレンモノアルキルエーテル、ポリオキシエチレンモノアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンモノアルキルエステル等のノニオン系界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールサルフェート塩、アルキルアリールサルフェート塩、アルキルサルフェート塩等のアニオン系界面活性剤などが使用できる。界面活性剤の使用量は該非塩素化ポリオレフィン樹脂樹固形分に対して通常10質量%以下が好ましい。
【0024】
また、該非塩素化ポリオレフィン系樹脂の水性化は、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂をポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ブロック共重合体などの親水性高分子と結合させる方法により行ってもよい。親水性高分子は、重量平均分子量が200〜100,000であることが好ましく、300〜50,000がより好ましく、500〜10,000が更に好ましい。また、不飽和カルボン酸及び/又は酸無水物によって変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂への親水性高分子の結合量は、該変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂1g当たり0.05〜1.0mmolが好ましく、0.1〜0.6mmolが特に好ましい。この方法としては、特開2008−031360号公報などの公知の方法が挙げられる。
【0025】
成分(A)の水性ポリオレフィン樹脂は、非塩素化ポリオレフィン樹脂、好ましくは水性化された非塩素化ポリオレフィン樹脂が水性媒体中に分散されたものである。非塩素化ポリオレフィン樹脂の水分散体における、分散された非塩素化ポリオレフィン樹脂の濃度は、通常5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
【0026】
なお、水性媒体には、水以外の他の溶媒を配合してもよい。他の溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式脂肪族系炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等のハロゲン化炭化水素、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール等のアルコール類、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコール等の2以上の官能基を持つ有機溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒などが挙げられる。
【0027】
中でも、水に1質量%以上溶解する溶媒が好ましく、更に好ましくは5質量%以上溶解するものであり、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、シクロヘキサノン、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、テトラヒドロフラン、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、2−メトキシプロパノール、2−エトキシプロパノール、ジアセトンアルコールが好ましい。
【0028】
水性ポリウレタン樹脂(B)
本発明の成分(B)である水性ポリウレタン樹脂としては、多官能イソシアネート化合物、一分子中に2個以上の水酸基を有するポリオール及び、アニオン性基を有する水酸基含有化合物を反応させて得られたウレタンプレポリマーをアンモニア、又は有機アミン類、又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基類により中和し親水化したものを挙げることができる。さらに、同水分散体を、水、水溶性ポリアミン、グリコール類などの鎖伸長剤により高分子量化したものを用いても良い。また、必要に応じてアクリル等の変性をしても良い。
このポリウレタン樹脂に用いられるポリオールの種類としては特に限定されるものではなく、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を用いることができ、これらポリオールを用いて得られたウレタンプレポリマーはアクリル樹脂で一部変性されていても良い。また、ウレタンプレポリマーの親水化には、上述の水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基類を用いても良いが、耐湿性の観点から、沸点が低く蒸発しやすいアンモニア、又は有機アミン類が好ましい。
【0029】
ポリウレタン樹脂が水酸基を含有する場合、未反応のまま塗膜中に残存し、耐湿性が低下するので好ましくない。
ポリウレタン樹脂の水分散体は、測定可能な粒径を有し、かつ、平均粒径が130nm以下であることが好ましい。水に溶解してしまい、粒径が測定できない水溶性ポリウレタン樹脂の場合、塗装時にタレを生じやすく、塗膜外観が低下するため好ましくない。
ポリウレタン樹脂の水分散体の平均粒径が130nmを超える場合は、粒子が大きいため沈降し、ブツや増粘を生じやすいので好ましくない。ポリウレタン樹脂の水分散体の平均粒径の上限値は、120nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。ポリウレタン樹脂の水分散体の平均粒径の下限値は、特に制限ないが、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。
【0030】
ポリウレタン樹脂の水分散体の粒径は、Nicomp社のNicomp380ZLS粒度分布・ゼータ電位測定器で測定し、Gaussian分布/Volume Weightingの値を用いた。
ポリウレタン樹脂の水分散体における、分散されたポリウレタン樹脂の濃度は、通常5〜50質量%が好ましく、10〜40質量%がより好ましい。
また、ポリウレタン樹脂の水分散体の水性媒体には、必要に応じて、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、2−ブトキシエタノールを含有させてもよい。
本発明の成分(B)であるポリウレタン樹脂の水分散体の製造方法の具体例としては、特開2008−056914号公報などが公知の方法として知られている。市販されているポリウレタン樹脂の水分散体としては、例えば、バイヒドロールVP LS2952/1、バイヒドロール2342(住化バイエルウレタン社製)等を挙げることができる。
【0031】
本発明の成分(B)である水性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、−100〜−70℃が好ましく、−100〜−90℃がより好ましい。ガラス転移温度が−100℃より低い場合、塗膜の凝集力低下による密着性、耐湿性の低下の可能性があり、−70℃より高い場合、塗膜の柔軟性不足による耐チッピング性の低下の可能性がある。
なお、水性ポリウレタン樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量測定器「DSC−60」(島津製作所社製)を用いて測定した。
【0032】
また、本発明の成分(B)である水性ポリウレタン樹脂は、−20℃において、その塗膜の伸び率が500%以上であることが好ましい。塗膜の伸び率が500%未満では、塗膜の柔軟性が低下し、耐チッピング性が低下する可能性がある。
なお、水性ポリウレタン樹脂の塗膜の伸び率は、水性ポリウレタン樹脂をポリプロピレン製トレーに入れ、室温乾燥にて水性ポリウレタン樹脂のシートを作成し、110℃で完全に水分を除去後、シートを短冊状の測定用のサンプルを作成し、引っ張り試験機を用いて測定した。
【0033】
硬化剤(C)
本発明の成分(C)である硬化剤は、例えば、アミノ樹脂、ブロックポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これらの硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0034】
アミノ樹脂は、アミノ基を含有する化合物にホルムアルデヒドを付加し縮合させた樹脂の総称であり、具体的には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂又はグアナミン樹脂などが挙げられる。この中でも、メラミン樹脂が好ましい。さらに、該アミノ樹脂のメチロール基の一部もしくは全部を、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの1価アルコールから選ばれた、1種又は2種以上のアルコールによりエーテル化してなる、アルキルエーテル化アミノ樹脂なども挙げられる。
アミノ樹脂を硬化剤とする場合において、(基体樹脂/アミノ樹脂)で表される固形分質量比は、被塗物との密着性、耐水性、耐チッピング性の点から、好ましくは0.65〜4.0であり、より好ましくは1.8〜3.0である。
【0035】
ブロックポリイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジエステル類、イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又はm−クレゾールなどのフェノール類などによりブロックしたものを挙げることができる。
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、そして、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、水素化XDIなどの環状脂肪族ジイソシアネート、さらに、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素化TDI、水素化MDIなどの芳香族ジイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などを挙げることができる。
ブロックポリイソシアネート化合物を硬化剤とする場合において、水性プライマー塗料組成物におけるNCO/OHのモル比は、被塗物との密着性及び塗膜外観性の点から、好ましくは0.5〜1.5であり、より好ましくは0.8〜1.2である。
【0036】
導電性カーボン(D)
本発明の成分(D)である導電性カーボンとしては、カーボンブラックなどが挙げられる。導電性カーボンは、例えば、200m
2/g以上、好ましくは800m
2/g以上の比表面積を有することが好ましい。比表面積が200m
2/g未満の場合、カーボンブラックの単位重量あたりの粒子個数が少なくなり、導電性が低下するため好ましくない。導電性カーボンの平均粒径は、10〜50nmが好ましい。
【0037】
本発明の水性プライマー塗料組成物において、成分(A)であるポリオレフィン樹脂の成分(B)のポリウレタン樹脂に対する含有質量比率、すなわち(A)/(B)で表される含有質量比率は、固形分換算で、20/80〜80/20の範囲内であり、好ましくは、20/80〜60/40の範囲内であり、特に好ましくは、20/80〜40/60の範囲内である。
成分(A)の成分(B)に対する含有質量比率が20/80よりも少ない場合には、ポリプロピレン素材への付着性が低下する。また、成分(A)の成分(B)に対する含有質量比率が80/20よりも多い場合には、極性差による水性第1着色塗膜との付着不良が生じる。
【0038】
また、成分(C)の成分(A)と成分(B)とを合計した量に対する含有質量比率、すなわち(C))/{(A)+(B)}で表される含有質量比率は、固形分換算で1/100〜30/100の範囲内であり、好ましくは5/100〜25/100の範囲内である。成分(C)の成分(A)と成分(B)との合計量に対する含有質量比率が1/100よりも少ない場合には、硬化不足による密着性、耐湿性の低下の可能性がある。また、成分(C)の成分(A)と成分(B)との合計量に対する含有質量比率が30/100よりも多い場合には、硬化剤過剰による耐湿性の低下の可能性がある。
【0039】
また、成分(D)の導電性カーボンの成分(A)と成分(B)と成分(C)とを合計した量に対する含有質量比率、すなわち(D)/{(A)+(B)+(C)}で表される含有質量比率は、固形分換算で2/98〜20/80の範囲内であり、好ましくは4/96〜17/83の範囲内であり、特に好ましくは6/94〜15/85の範囲内である。
成分(D)の成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量に対する含有質量比率が2/98よりも少ない場合には、導電性が低下し、成分(D)の成分(A)と成分(B)と成分(C)との合計量に対する含有質量比率が20/80よりも多い場合には、分散不良となり、ブツや沈降を生ずる可能性がある。
【0040】
本発明の水性プライマー塗料組成物には、必要に応じて塗料分野で通常使用される着色顔料、体質顔料、消泡剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、硬化触媒、有機溶剤などを適宜使用することができる。着色顔料としては、例えば、二酸化チタン、ベンガラ、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料などが挙げられ、体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、亜鉛華(酸化亜鉛)などが挙げられる。
本発明の水性プライマー塗料組成物は、上記各成分と水性媒体とを含有するが、上記各成分の合計含有量は、固形分換算で15〜45質量%が好ましく、25〜40質量%がより好ましい。
【0041】
水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物
本発明の水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物は、基体樹脂として、コア部がアクリル樹脂、シェル部がポリウレタン樹脂からなるコア/シェル型エマルションを含んでいる。該コア/シェル型エマルションは、シェル部となるポリウレタン樹脂の樹脂水溶液又は水分散液中で、コア部となるアクリル樹脂を合成することにより得られる。ここで、ポリウレタン樹脂は親水性基を有し、アクリル樹脂は親水性基を有さないため、これらの樹脂が水中でミセルを形成する際には、ポリウレタン樹脂が乳化剤として作用してミセルの外側に位置し、アクリル樹脂がミセルの内側に位置し、これらの樹脂がコア/シェル構造を形成する。なお、コア/シェル構造とは、同一のミセル内に樹脂組成が異なる2種類の樹脂成分が存在し、一方の樹脂成分が中心部分(コア部)を形成し、他方の成分が外殻部分(シェル部)を形成した構造をいう。
【0042】
ポリウレタン樹脂(シェル部)
本発明のコア/シェル型エマルション樹脂のシェル部となるポリウレタン樹脂は、ポリオール、ポリイソシアネート化合物、ジメチロールアルカン酸、多価アルコールなどを原料成分とする公知の方法により得ることができるが、例えば、次のような方法が挙げられる。まず、ポリオール樹脂を合成し、このポリオール樹脂と、カルボキシル基含有ジオール及びポリイソシアネート化合物とを反応させて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得る。そして、このウレタンプレポリマーと多価アルコールとを反応させることにより、末端に水酸基を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。
上記のポリオール樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネートポリオール樹脂などが挙げられるが、耐チッピング性の点から、ポリエステル樹脂が好ましい。
【0043】
ポリエステル樹脂は、多塩基酸と多価アルコールを原料成分とするエステル化反応を利用した、公知の方法により得ることができる。
この多塩基酸として、通常は多価カルボン酸が使用されるが、必要に応じて1価の脂肪酸などを併用することができる。多価カルボン酸として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、トリメリット酸、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、アゼライン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ピロメリット酸など、及びこれらの酸無水物が挙げられる。これらの多塩基酸は、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
この多価アルコールとして、グリコール及び3価以上の多価アルコールが挙げられる。グリコールとして、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、メチルプロパンジオール、シクロヘキサンジメタノール、3,3−ジエチル−1 , 5−ペンタンジオールなどが挙げられる。また、3価以上の多価アルコールとして、例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0044】
セグメント樹脂の数平均分子量としては、1,000〜5,000が好ましく、好適な具体例としては、1,000、1,500、2,000、2,500、3,000、3,500、4,000、4,500、5,000などが挙げられ、ここに例示したいずれか2つの数値の範囲内であってもよい。
【0045】
次に、こうして得られたセグメント樹脂と、カルボキシル基含有ジオール及びポリイソシアネート化合物とを反応させて、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを得る。セグメント樹脂と反応させるカルボキシル基含有ジオールとして、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールペンタン酸、ジメチロールヘプタン酸、ジメチロールオクタン酸、ジメチロールノナン酸などが挙げられる。この中でも、優れた塗膜が得られることや、工業的コストなどの点から、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸が好ましい。これらのカルボキシル基含有ジオールは、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0046】
また、セグメント樹脂と反応させるポリイソシアネート化合物として、例えば4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−又はm−フェニレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートの水素添加物などの脂環式ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどが挙げられる。この中でも、耐黄変性などの点から、脂環式ジイソシアネートが好ましい。これらのポリイソシアネート化合物は、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0047】
最後に、こうして得られたウレタンプレポリマーを多価アルコールと反応させることにより、末端に水酸基を有するポリウレタン樹脂を得ることができる。
ウレタンプレポリマーと反応させる多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、水素化ビスフェノールA 、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリット、ジペンタエリトリットなどが挙げられる。これらの多価アルコールは、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0048】
本発明では、ポリウレタン樹脂において、炭素数10〜60の二塩基酸及び/又は二価アルコールを特定割合で導入することにより、優れた塗膜外観性を有する塗膜を得ることができる。炭素数10〜60の二塩基酸及び/又は二価アルコールの導入は上記のセグメント樹脂であってもよいし、それ以外の部分であってもよいが、上記のセグメント樹脂を合成する原料として、炭素数10〜60の二塩基酸及び/又は二価アルコールを使用することにより、より一層優れた塗膜外観性を有する塗膜を得ることができる。
二塩基酸及び/又は二価アルコールの炭素数は、塗膜外観性の点から、好ましくは30〜40であり、より好ましくは34〜38である。二塩基酸及び/又は二価アルコールの炭素数が10未満になると、シェル部のポリウレタン樹脂の極性が高くなることにより水性第1着色塗料組成物と水性第2着色塗料組成物が混層し、塗膜の外観性が低下する場合があり、60を超えるとシェル部のポリウレタン樹脂の水溶性が低下するため、コア部を形成するべきアクリル樹脂と、シェル部を形成するべきポリウレタン樹脂が、コア/シェル構造を形成しなくなる場合がある。
【0049】
上記の炭素数10〜60の二塩基酸として、例えば、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−デカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,15−ペンタデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、2−ヘキサデシルマロン酸、1,18 オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸などが挙げられる。この中でも、より良好な塗膜外観性が得られる点において、ダイマー酸が好ましい。これらの炭素数10〜60の二塩基酸は、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
上記の炭素数10〜60の二価アルコールとして、例えば、1,10−デカンジオール、1,2−デカンジオール、3,6−ジメチル−3,6−オクタンジオール、2,2−ジブチルプロパン−1,3−ジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、2,2−ジイソアミル−1,3−プロパンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,15-ペンタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,2−ヘプタデカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、2,2−ジ−n−オクチル−1,3−プロパンジオール、1,20−エイコサンジオール、ダイマージオールなどが挙げられる。この中でも、より良好な塗膜外観性が得られる点において、ダイマージオールが好ましい。これらの炭素数10〜60の二価アルコールは、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0050】
炭素数10〜60の二塩基酸及び/又は二価アルコールに基づく構成単位の総質量含有比率は、シェル部となるポリウレタン樹脂の樹脂固形分に対して10〜50質量%であり、塗膜外観性の点から、好ましく20〜40質量%であり、より好ましくは30〜35質量%である。二塩基酸及び/又は二価アルコールの総質量含有比率が10質量%未満になると、ポリウレタン樹脂の極性が高くなることにより水性第1着色塗料組成物と水性第2着色塗料組成物が混層し、塗膜外観性が低下する場合があり、50質量%を超えると、乾燥性が高すぎるために十分なフロー性が得られず、塗膜外観性が低下する場合がある。
シェル部となるポリウレタン樹脂は、水溶化もしくは水分散化するために十分な量の親水性基と、硬化剤と反応するための官能基を有している。この親水性基として、具体的には、カルボキシル基、アミノ基、メチロール基などが挙げられる。
シェル部となるポリウレタン樹脂の水酸基価は20〜80mgKOH/gであり、被塗物との密着性の点で、好ましくは30〜70mgKOH/gであり、より好ましくは35〜45mgKOH/gである。水酸基価が20mgKOH/g未満になると、被塗物との密着性が低下する場合があり、80mgKOH/gを超えると、ポリウレタン樹脂の極性が上がり、水性第1着色塗料組成物と水性第2着色塗料組成物とが混層し、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0051】
また、シェル部となるポリウレタン樹脂の酸価は10〜60mgKOH/gであり、塗膜外観性の点で、30〜40mgKOH/gが好ましい。酸価が10mgKOH/g未満になると、水性媒体中でのポリウレタン樹脂の乳化安定性が低下することにより、塗膜外観性が低下する場合があり、60mgKOH/gを超えると、ポリウレタン樹脂の水溶性が高くなり過ぎることで、水性第1着色塗料組成物と水性第2着色塗料組成物が混層し、塗膜外観性が低下する場合がある。
シェル部となるポリウレタン樹脂の数平均分子量は特に限定されないが、例えば、500〜50,000であり、具体的には、例えば、500、1,500、2,500、3,500、4,500、5,500、6,500、7,500、10,000、15,000、20,000、30,000、40,000、50,000であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。なお、本明細書における数平均分子量は、ポリスチレンを標準物質としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により得られる値である。
【0052】
アクリル樹脂(コア部)
コア部となるアクリル樹脂は、ラジカル重合性単量体を原料成分とするラジカル重合反応を利用した、公知の方法により得ることができ、シェル部となるポリウレタン樹脂の樹脂水溶液又は水分散液中において合成される。
【0053】
ラジカル重合性単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、アリルアルコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。これらのラジカル重合性単量体は、1種単独で使用することもでき、2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0054】
アクリル樹脂の合成の際には、ラジカル重合開始剤を配合してもよい。ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4'−アソビス−4−シアノ吉草酸、1−アゾビス−1−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、3,5,5−トリメチルヘキサノンパーオキシド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン、2,2−ビス(t−ブチルバーオキシ)オクタン、t−ブチルヒドロパーオキンド、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、イソブチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート、t−ブチルバーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシベンソエート、t−ブチルバーオキシソプロピルカーボネート等の有機過酸化物が挙げられる。これらのラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
コア部となるアクリル樹脂の水酸基価は40〜140mgKOH/gであり、塗膜外観性と被塗物との密着性の点で、好ましくは60〜120mgKOH/gであり、より好ましくは75〜85mgKOH/gである。水酸基価が40mgKOH/g未満になると、被塗物との密着性が悪くなる場合があり、140mgKOH/gを超えると、コア部の極性が高くなり過ぎるため、コア部を形成するべきアクリル樹脂とシェル部を形成するべきポリウレタン樹脂がコア/シェル構造を形成せず、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0056】
コア部となるアクリル樹脂の酸価は0〜10mgKOH/gであり、塗膜外観性の点で、好ましくは0〜5mgKOH/gであり、より好ましくは0〜3mgKOH/gである。酸価が10mgKOH/gを超えると、コア部を形成するべきアクリル樹脂とシェル部を形成するべきポリウレタン樹脂が、コア/シェル構造を形成しない場合がある。
【0057】
コア部となるアクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、例えば、20〜60℃、具体的には、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60℃であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。
コア部となるアクリル樹脂は、シェル部となるポリウレタン樹脂の樹脂水溶液又は水分散液中において合成されるため、その数平均分子量を正確に測定するのは困難である。アクリル樹脂の数平均分子量は、主に、合成の際の反応温度と、合成に使用されるラジカル重合開始剤の量により変化する。合成の際の反応温度は、例えば、60〜110℃であり、具体的には、例えば、60、70、80、90、100、110℃であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。また、合成に使用されるラジカル重合開始剤の量は、例えば、ラジカル重合性単量体100質量部に対して、0.1〜3.0質量部であり、具体的には、例えば、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0質量部であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。
【0058】
本発明の水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物に含まれるコア/シェル型エマルション樹脂において、コア部とシェル部との質量含有比率は20/80〜80/20であり、塗膜外観性の点から、好ましくは35/65〜65/35であり、より好ましくは45/55〜55/45である。コア部の質量含有比率が20未満になると、コア/シェル型エマルション樹脂の水溶性が高くなり、水性第1着色塗料組成物と水性第2着色塗料組成物が混層し、塗膜外観性が低下する場合がある。一方、コア部の質量含有比率が80を超えると、コア部のアクリル樹脂の粒子性が強くなり、塗膜外観性が低下する場合がある。
【0059】
本発明の水性第1着色塗料組成物および水性第2着色塗料組成物中にコア/シェル型エマルション樹脂を安定に存在させるためには、前記コア/シェル型エマルション樹脂のカルボキシル基の一部あるいは全部を、塩基性物質で中和し、自己乳化性を付与するのが好ましい。中和に使用する塩基性物質としては、例えば、アンモニア、モルホリン、N−アルキルモルホリン、モノイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミンおよびトリブチルアミン等を挙げることができる。これらの塩基性物質は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の水性着色塗料組成物において、基体樹脂の樹脂固形分の総量に対する上記のコア/シェル型エマルション樹脂の質量含有比率は、塗膜外観性の点から、好ましくは5〜80質量%であり、より好ましくは10〜40質量%である。
【0060】
本発明の水性着色塗料組成物は、基体樹脂として、上記コア/シェル型エマルション樹脂以外に公知の水性樹脂を含有することが好ましい。公知の水性樹脂としては、ポリウレタン樹脂又はアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種類が好ましい。
水性ポリウレタン樹脂の水酸基価は、例えば10〜140mgKOH/gが好ましく、酸価は、例えば3〜80mgKOH/gが好ましい。
水性ポリウレタン樹脂の数平均分子量は、例えば1,000〜100,000が好ましい。この数平均分子量は、具体的には、例えば1,000、5,000、10,000、20,000、40,000、60,000、80,000、100,000であり、ここに例示した数値の何れか2つの範囲内であってもよい。
水性アクリル樹脂の水酸基価は、例えば10〜200mgKOH/gが好ましく、酸価は、例えば0〜20mgKOH/gが好ましく、ガラス転移温度は、例えば−40〜80℃が好ましい。なお、本明細書に記載されたガラス転移温度の値は、DSC(示差走査型熱量測定)における転移開始温度の値である。
水性アクリル樹脂の数平均分子量は、例えば1,000〜1,000,000が好ましい。この数平均分子量は、具体的には、例えば、1,000、5,000、10,000、50,000、100,000、200,000、400,000、600,000、800,000、1,000,000であり、ここに例示した数値の何れか2つの範囲内であってもよい。
【0061】
本発明の水性着色塗料組成物には、着色顔料、光輝顔料、体質顔料などの各種顔料を含有させることができる。着色顔料として、例えば、黄鉛、黄色酸化鉄、酸化鉄、カーボンブラック、二酸化チタンなどの無機系顔料、アゾキレート系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インディゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料などの有機系顔料が挙げられる。また、光輝顔料として、例えば、アルミニウムフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、マイカ顔料、シリカフレーク顔料、ガラスフレーク顔料などが挙げられる。そして、体質顔料として、例えば、炭酸カルシウム、バライト、沈降性硫酸バリウム、クレー、タルクなどが挙げられる。これらの顔料は、1種単独で用いてもよいし、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
本発明の水性着色塗料組成物に顔料を加える場合の質量含有比率は、例えば、基体樹脂の樹脂固形分の総量に対して3〜200質量%であり、具体的には、例えば、3、5、15、30、50、70、90、110、130、150、175、200質量%であり、ここに例示した何れか2つの数値の範囲内であってもよい。
【0063】
本発明の水性着色塗料組成物には、表面調整剤、消泡剤、界面活性剤、造膜助剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの各種添加剤、各種レオロジーコントロール剤、各種有機溶剤などの1種以上を含有させることができる。
本発明の水性着色塗料組成物は、媒体として水を含有するが、必要に応じて、水、場合によっては少量の有機溶剤やアミンを使用し、適当な粘度に希釈してから塗装に供される。
本発明の複層塗膜形成方法において、本発明の水性着色塗料組成物を水性第1着色塗料組成物及び水性第2着色塗料組成物として使用する場合には、水性第2着色塗料組成物に硬化剤を含まなくても、被塗物との密着性を確保できる。
【0064】
本発明の水性着色塗料組成物の硬化剤としては、例えば、アミノ樹脂、ポリイソシアネート化合物、ブロックポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物などが挙げられる。この中でも、塗膜外観性の点で、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物が好ましい。また、これらの硬化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上併用して用いてもよい。
【0065】
アミノ樹脂は、アミノ基を含有する化合物にホルムアルデヒドを付加し縮合させた樹脂の総称であり、具体的には、例えば、メラミン樹脂、尿素樹脂又はグアナミン樹脂などが挙げられる。この中でも、メラミン樹脂が好ましい。さらに、該アミノ樹脂のメチロール基の一部もしくは全部を、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの1価アルコールから選ばれた、1種又は2種以上のアルコールによりエーテル化してなる、アルキルエーテル化アミノ樹脂なども挙げられる。
アミノ樹脂を硬化剤とする場合において、(基体樹脂/アミノ樹脂)で表される固形分質量比は、被塗物との密着性、耐水性、耐チッピング性の点から、好ましくは0.65〜4.0であり、より好ましくは1.8〜3.0である。
【0066】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、そして、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、メタキシリレンジイソシアネート、水素化XDIなどの環状脂肪族ジイソシアネート、さらに、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素化TDI、水素化MDIなどの芳香族ジイソシアネート、及びこれらのアダクト体、ビウレット体、イソシアヌレート体などを挙げることができる。
【0067】
ブロックポリイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基を、例えば、ブタノールなどのアルコール類、メチルエチルケトオキシムなどのオキシム類、ε−カプロラクタム類などのラクタム類、アセト酢酸ジエステルなどのジケトン類、イミダゾール、2−エチルイミダゾールなどのイミダゾール類、又はm−クレゾールなどのフェノール類などによりブロックしたものを挙げることができる。
【0068】
ポリイソシアネート化合物及びブロックポリイソシアネート化合物を硬化剤とする場合において、水性着色塗料組成物におけるNCO/OHのモル比は、被塗物との密着性及び塗膜外観性の点から、好ましくは0.5〜1.5であり、より好ましくは0.8〜1.2である。
【0069】
ポリカルボジイミド化合物としては、親水性カルボジイミド化合物が好ましい。親水性カルボジイミド化合物として、例えば、1分子中にイソシアネート基を少なくとも2個含有するポリカルボジイミド化合物と、分子末端に水酸基を有するポリオールとを、NCO/OHのモル比が1を超えるような比率で反応させ、得られた反応生成物に、活性水素および親水性部分を有する親水化剤を反応させたものが挙げられる。
本発明においてポリカルボジイミド化合物を硬化剤とする場合において、水性ベース塗料組成物におけるNCN/COOHのモル比は、被塗物との密着性及び塗膜外観性の点から、好ましくは0.5〜2.0であり、より好ましくは0.8〜1.5である。
本発明の水性着色塗料組成物の形態は、水性であれば特に限定されず、例えば、水溶性、水分散性、水性エマルションなどの形態が挙げられる。
【0070】
クリヤー塗料組成物
本発明の複層塗膜形成方法において使用するクリヤー塗料組成物としては、有機溶剤塗料、水性塗料、粉体塗料のいずれも使用することができる。クリヤー塗料組成物の基体樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂などが挙げられ、硬化系としては、メラミン硬化、酸/エポキシ硬化、イソシアネート硬化などが挙げられるが、塗膜外観性の点から、アクリル樹脂/イソシアネート硬化型のクリヤー塗料組成物が好ましい。
【0071】
水酸基含有アクリル樹脂は、特に限定されないが、アクリル系モノマー等のエチレン性不飽和モノマーのラジカル共重合等公知の方法によって得ることができる。このようなエチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、アクリル酸又はメタクリル酸の2−ヒドロキシエチル、3−ヒドロキシプロピル又は4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有アルキル基によるエステル化物、或いはアクリル酸又はメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトン開環付加物、アクリル酸又はメタクリル酸4−ヒドロキシブチルのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物等の水酸基含有モノマーの1種以上を、必須構成成分として含む。
【0072】
また、水酸基含有アクリル樹脂において、上記水酸基含有モノマーと共重合可能な他のアクリル系モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t− ブチル、ヘキシル、シクロヘキシル、2− チルヘキシル、ラウリル、ステアリル等の炭化水素基のエステル化物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリロアミド等が挙げられる。その他に共重合可能なエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。これらの共重合可能なモノマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
イソシアネート硬化のためのポリイソシアネート化合物としては、脂肪族ポリイソシアネート化合物であることが、良好な耐チッピング性を発揮する上で好ましい。水酸基含有アクリル樹脂と硬化剤の配合割合は、通常の2液ウレタン型塗料の配合割合と同様なものであればよい。
本発明のクリヤー塗料組成物は、その硬化塗膜のガラス転移温度が70℃以上であることが好ましい。70℃より低いと、塗膜硬度が不十分である。また、クリヤー塗料組成物の硬化塗膜は、23℃において、伸び率は7%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。硬化塗膜の伸び率が7%より大きいと、塗膜硬度が不十分で、ガソリン等の有機溶剤により塗膜が軟化、膨潤の異常を生じやすい等の問題がある。
【0074】
クリヤー塗料組成物をPP板上で硬化塗膜の膜厚が30μmになるように塗装し、120℃で30分間加熱硬化し、クリヤー塗料組成物の硬化塗膜を作成し、PP板から塗膜を剥離して短冊状に切って試験用サンプルを作成した。ガラス転移温度の測定は、動的粘断性測定装置を用いて測定した。伸び率は、引っ張り試験機を用いて測定した。
本発明に用いられるクリヤー塗料組成物は、上記の樹脂成分の他に、ベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系等の光安定剤、有機錫化合物等の硬化触媒、ワックス等の流動調整剤、消泡剤、レベリング剤等の添加剤を含有することができる。
本発明に用いられるクリヤー塗料組成物の形態は、特に制限されるものではないが、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、及びメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を単独または2種以上混合して用いた有機溶剤に溶解もしくは分散した有機溶剤系塗料が好ましい。
【0075】
本発明の複層塗膜形成方法における各塗料の塗装方法としては、自動車産業において通常用いられている方法、例えばエアースプレー塗装、エアー霧化式静電塗装、ベル回転霧化式静電塗装等が適用できる。
本発明の複層塗膜形成方法において、水性ベース塗料組成物の塗装条件は、温度が10〜40℃であり、相対湿度は65〜85%であることが好ましい。
本発明の複層塗膜形勢方法において、水性プライマー塗料組成物の塗装後や、水性第1着色塗料組成物の塗装後や、水性第2着色塗料組成物の塗装後には、予備加熱を行ってもよいが、本発明の水性着色塗料組成物を使用する場合は、水性第1着色塗料組成物の塗装後には予備加熱を行わなくとも、優れた塗膜外観性を得ることができる。
【0076】
本発明の複層塗膜形成方法において、水性第1着色塗料組成物及び水性第2着色塗料組成物の硬化剤がポリイソシアネート化合物及び/又はカルボジイミド化合物である場合、又は、水性第1着色塗料組成物の硬化剤がポリイソシアネート化合物及び/又はカルボジイミド化合物であって、水性第2着色塗料組成物が硬化剤としてポリイソシアネート化合物及び/又はカルボジイミド化合物を含まない場合においては、イソシアネート硬化型のクリヤー塗料組成物 を使用することにより、複層塗膜の加熱硬化温度を90℃〜120℃とすることができる。加熱硬化時間は20〜40分が好ましい。
【0077】
本発明に用いられる各種塗料組成物は、自動車用の予備被覆した鋼板および前処理したプラスチック素材の両被塗物上に塗装することができる。
本発明の形成方法で得られる複層塗膜は、初期の外観が優れることは勿諭のこと、寒冷地で車が高速走行するなど、低温において小石等が強く衝突する環境下においても塗膜の局部的剥離が発生し難く、塗装面の美観性を保持できる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を意味し、配合量、含有量に関する「%」は、「質量%」を意味する。
【0079】
<製造例1:非塩素化ポリオレフィン樹脂の水分散体P−1の製造>
本発明に用いる非塩素化ポリオレフィン樹脂の水分散体は、次の3段階のプロセスを経て製造される。
【0080】
(i)第1段階:非塩素化ポリオレフィン樹脂の製造
1,000ml丸底フラスコに、脱イオン水110ml、硫酸マグネシウム・7水和物22.2g及び硫酸18.2gを採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト16.7gを分散させ、100℃まで昇温し、2時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1,000ml丸底フラスコ内で脱塩水500mlにて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥し、化学処理モンモリロナイト13.3gを得た。得られた化学処理モンモリロナイト4.4gに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.4mmol/ml)20mlを加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン80mlを加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム0.2mmolを採取し、ここで得られた粘土スラリー19ml及びジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−5,6,7,8−テトラヒドロ−1−アズレニル)ハフニウム131mg(57μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で10分間撹拌し、触媒スラリーを得た。
次いで、内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン11L、トリイソブチルアルミニウム3.5mmol及び液体プロピレン2.64Lを導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、62℃まで昇温し重合時の全圧を0.65MPaで一定に保持しながら、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒ならびに粘土残渣を除去したところ、11.0%のプロピレン系重合体のトルエン溶液を11kg得た。得られたプロピレン系重合体の重量平均分子量Mwは210,000であった。
【0081】
(ii)第2段階:非塩素化ポリオレフィン樹脂の無水マレイン酸変性品の製造
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、上記(i)で示した第1段階で得られたプロピレン系重合体200g、及びトルエン300gを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後、無水マレイン酸12gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日油(株)製、パーブチルI)6gを加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。さらにアセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリマーが得られた。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、1.3%(無水マレイン酸基として0.13mmol/プロピレン系重合体1g)、重量平均分子量は120,000であり、示差走査熱量測定器「DS−50」で測定した融点は80℃であった。
【0082】
(iii)第3段階:無水マレイン酸で変性された非塩素化ポリオレフィン樹脂の水分散体の製造
還流冷却管、温度計、攪拌機のついたガラスフラスコ中に、上記(ii)の第2段階で得られた無水マレイン酸変性プロピレン系重合体100g(無水マレイン酸基の含量13mmol)及びトルエン250gを加え、110℃に昇温し、完全に溶解した。次いで、ポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ブロック共重合体(分子量1000)30g(30.0mmol、プロピレン系重合体100質量部に対し30質量部に相当)をトルエン22.5gに溶解した溶液を加え、110℃で3時間反応させた。
冷却後トルエンを減圧留去し、黄色のポリマー115gを得た。得られた生成物の赤外吸収スペクトル分析を行った結果、1784cm
−1付近の無水マレイン酸に相当するピークは消滅し、無水マレイン酸変性プロピレン系重合体とポリエーテルが結合していることが確認された。無水マレイン酸変性プロピレン系重合体にポリエーテルがグラフト結合したグラフト共重合体を形成している。得られた変性ポリマー40gにテトラヒドロフラン(THF)160gを加え65℃で完全に溶解させた。純水200gを同温度で1時間かけて滴下し、半透明の淡黄色溶液を得た。これを50℃に冷却し、減圧度0.03MPaから0.0045MPaまで徐々に圧力を下げて樹脂固形分が30%になるまでTHF及び水を減圧留去し、半透明淡黄色の水性樹脂分散体P−1を得た。
なお、本実施例で用いたポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)ブロック共重合体は、25℃の水に10質量%の濃度で溶解させたときに不溶分が1質量%以下であり、親水性高分子であった。
【0083】
<製造例2:水性プライマー塗料組成物WP−1の製造>
ポリウレタン樹脂「Impranil DLU」(商品名、コベストロジャパン社製、樹脂固形分60%、Tg−83℃、伸び率800%)26.5部に、導電性カーボンブラック「プリンテックスXE2B」(商品名、デグサ社製)1.66部、二酸化チタン「JR600−E」(商品名、テイカ社製)12.55部、顔料分散剤「Disperbyk191」(商品名、BYK Chemie社製、固形分98%、酸価 31mgKOH/g、アミン価 20mgKOH/g)0.93部を加えて、分散機にて分散後、非塩素化ポリオレフィン樹脂の水分散体P−1 21.0部、硬化剤「DURANATE WM44−L70G」(商品名、水分散ブロックポリイソシアネート化合物、旭化成ケミカルズ社製、樹脂固形分70%)1.5部、脱イオン水 33.96部、レベリング剤「BYK−348」(商品名、BYK Chemie社製)0.8部、 増粘剤「Rheovis AS S130」(BASF社製、固形分30%)1.1部を加えてディゾルバーで混合した後、pHを7〜8になるように、ジメチルエタノールアミンにて調整し、水性プライマー塗料組成物WP−1を製造した。
【0084】
<製造例3:水性プライマー塗料組成物WP−2〜WP−21の製造>
表1に示した配合に基づき、製造例2と同様の方法で、水性プライマー塗料組成物WP−2〜WP−21を得た。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示される各種配合成分の詳細を以下に示す。
(※1)アクリットWBR−2181(大成ファインケミカル社製、樹脂固形分33%、Tg−89℃、伸び率700%)
(※2) パーマリンUA−150(三洋化成社製、樹脂固形分30%、Tg−87℃、伸び率600%)
(※3)ユーコートDA−100(三洋化成社製、樹脂固形分35%、Tg−80℃、伸び率500%)
(※4)タケラックW6061(三井化学社製、樹脂固形分30%、Tg−78℃、伸び率1000%)
(※5)バイヒドロールUH2952/1(コベストロジャパン社製、樹脂固形分40%、Tg−49℃、伸び率530%)
(※6)アクリットWBR−2018(大成ファインケミカル社製、樹脂固形分32.5%、Tg−86℃、伸び率660%)
(※7)タケラックWS6021(三井化学社製、樹脂固形分30%、Tg−86℃、伸び率750%)
(※8)ラックスター5215A(DIC社製、樹脂固形分47.3%、Tg−60℃、伸び率250%)
(※9)Mycoat775(メラミン樹脂、オルネクスジャパン社製、樹脂固形分70%)
【0087】
<製造例4:ポリエステル樹脂ワニスPA−1の製造>
反応水の分離管が付属した還流冷却管、窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、ダイマー酸(商品名「EMPOL1008」、コグニス社製、炭素数36)54.0部、ネオペンチルグリコール8.0部、イソフタル酸17.8部、1,6−ヘキサンジオール19.4部、トリメチロールプロパン0.8部を仕込み、120℃まで昇温させて原料を溶解した後、攪拌しながら160℃まで昇温させた。160℃のまま1時間保持した後、5時間かけて230℃まで徐々に昇温させた。230℃を保持して反応を続け、樹脂酸価が4mgKOH/gになったら、80℃以下まで冷却した後に、メチルエチルケトン31.6部を加え、樹脂固形分74.6%、水酸基価62mgKOH/g、酸価4mgKOH/g、数平均分子量1,800の特性値を有するポリエステル樹脂ワニスPA−1を得た。
【0088】
<製造例5:ポリウレタン樹脂WB−1の製造>
窒素ガス導入装置、温度計、攪拌装置を装備した反応容器に、ポリエステル樹脂溶液PA−1を78.3部、ジメチロールプロピオン酸7.8部、ネオペンチルグリコール1.4部、メチルエチルケトン40.0部を仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温させた後、イソホロンジイソシアネート27.6部を仕込み、80℃を保持したまま各成分を反応させた。イソシアネート価が0.43meq/gになったところでトリメチロールプロパン4.8部を加え、そのまま80℃で反応を継続させた。そして、イソシアネート価が0.01meq/gになったところでブチルセロソルブ33.3部を加えて反応を終了させた。その後、100℃まで昇温させ、減圧下でメチルエチルケトンを除去した。さらに、50℃まで降温させ、ジメチルエタノールアミンを4.4部加えて酸基を中和し、その後に脱イオン水147.9部を加えて、樹脂固形分35.0%、水酸基価40mgKOH/g、酸価35mgKOH/g、数平均分子量4,900の特性値を有するポリウレタン樹脂WB−1を得た。
【0089】
<製造例6:コア/シェル型エマルションWC−1の製造>
窒素ガス導入装置、温度計、滴下ロート、攪拌装置を装備した反応容器に、ポリウレタン樹脂WB−1を46.4部、脱イオン水33.1部を仕込み、攪拌しながら85℃まで昇温させた後、滴下成分として、スチレン4.9部、メチルメタクリレート4.5部、n−ブチルアクリレート3.9部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート3.0部、プロピレングリコールモノメチルエーテル3.8部、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.24部の均一混合液を、3.5時間かけて滴下ロートを用いて等速滴下した。滴下終了後、85℃で1時間保持した後、追加触媒として、重合開始剤であるt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.03部をプロピレングリコールモノメチルエーテル0.14部に溶解させた重合開始剤溶液を添加し、さらに85℃で1時間保持したところで反応を終了し、樹脂固形分32.5%のコア/シェル型エマルション樹脂WC−1を得た。コア部のアクリル樹脂の水酸基価は80mgKOH/gで、酸価は0mgKOH/gである。
【0090】
<製造例7:水性第1着色塗料組成物WD−1の製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂WB−1を使用し、二酸化チタン(商品名「タイピュアR706」、デュポン社製)33.8部及びカーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学(株)製)0.4部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。
次に、コア/シェル型エマルションWC−1を25.5部、水性ポリウレタン樹脂WB−1、水性アクリル樹脂(商品名「SETAQUA6511」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価8mgKOH/g、水酸基価138mgKOH/g、ガラス転移温度12℃、樹脂固形分47%)5.9部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。最後に、ポリイソシアネート(商品名「バイヒジュール3100」、住化バイエルウレタン社製、樹脂固形分100%)6.6部を加えて混合し、水性第1着色塗料組成物WD−1を得た。なお、水性第1着色塗料組成物WD−1中での水性ポリウレタン樹脂WB−1の含有量は47.4部となるようにした。
【0091】
<製造例8:水性第1着色塗料組成物WD−2の製造>
表2に示した配合に基づき、製造例7と同様の方法で、水性第1着色塗料組成物WD−2を得た。
【0092】
【表2】
【0093】
<製造例9:水性第2着色塗料組成物WE−1の製造>
分散樹脂として水性ポリウレタン樹脂WB−1を使用し、カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学(株)製)2.5部をモーターミルで分散し、顔料ペーストを作製した。
次に、コア/シェル型エマルションWC−1を25.5部、水性ポリウレタン樹脂WB−1、水性アクリル樹脂( 商品名「SETAQUA6511」、ヌプレクス・レジンズ社製、酸価8mgKOH/g、水酸基価138mgKOH/g、ガラス転移温度12℃、樹脂固形分47%)5.9部をディゾルバーで混合して樹脂ベースを作製した後、先に作製した顔料ペーストを加えて混合した。最後に、ポリイソシアネート(商品名「バイヒジュール3100」、住化バイエルウレタン社製、樹脂固形分100%)6.6部を加えて混合し、水性第2着色塗料組成物WE−1を得た。なお、水性第2着色塗料組成物WE−1中での水性ポリウレタン樹脂WB−1の含有量は47.4部となるようにした。
【0094】
<製造例10:水性第2着色塗料組成物WE−2とWE−3の製造>
表3に示した配合に基づき、製造例8と同様の方法で、水性第2着色塗料組成物WE−2及びWE−3を得た。
【0095】
【表3】
【0096】
表2〜3に示される各種配合成分の詳細を以下に示す。
(※10)ポリイソシアネート(商品名「バイヒジュール3100」、住化バイエルウレタン社製)
(※11)ポリカルボジイミド(商品名「カルボジライトV−02−L2」、日清紡ケミカル社製)
(※12)二酸化チタン(商品名「タイピュアR706」、デュポン社製)
(※13)カーボンブラック(商品名「MA−100」、三菱化学社製)
【0097】
<製造例11:クリヤー塗料組成物CC−1の製造例>
(i)クリヤーコート用アクリル樹脂溶液CA−1の製造
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル24部を仕込み、窒素気流下攪拌しながら加熱し120℃を保った。次に、120℃の温度で、スチレン9.7部、メタクリル酸エチルヘキシル26.6部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル27.3部、アクリル酸1.3部のラジカル重合性単量体を均一に混合してモノマー滴下成分とした。一方、プロピレングリコールモノメチルエーテル7部にa,a'−アゾビスイソブチロニトリル2.4部を攪拌しながら完全に溶解して開始剤滴下成分とした。モノマー滴下成分と開始剤滴下成分とを別々の滴下ロートに仕込み、同時に一定速度で3時間かけて滴下した。滴下終了後、1時間同温度を保ち、追加触媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル1.5部にa,a'−アゾビスイソブチロニトリル0.2部を攪拌して完全に溶解した溶液を30分間内に数回に分割して滴下した。その後、さらに120℃の温度で1時間保ったところで重合反応を終了し、アクリル樹脂溶液CA−1を得た。アクリル樹脂CA−1の樹脂固形分は67.5%、水酸基価は174mgKOH/g、酸価は10mgKOH/g、重量平均分子量は6,000であった。
【0098】
(ii)クリヤーコート塗料CC−1の製造
攪拌機を備えた容器に、アクリル樹脂溶液CA−1を80部仕込み、次いで、ソルベッソ#100(商品名、エクソンモービル社製、芳香族ナフサ)8部、キシレン3部、BYK−300(商品名、ビックケミー社製、表面調整剤、10質量%キシレン溶液)を0.1部、チヌビン292(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製、光安定剤、20質量%キシレン溶液)2.5部、及び、チヌビン900(商品名、チバスペシャリティケミカルズ社製、紫外線吸収剤、20質量%キシレン溶液)5部を攪拌しながら順に仕込み、均一に混合した。次いでフローノンSH−290(商品名、共栄社化学社製、粘性調整剤、10質量%キシレン溶液)1部、ネオスタンU−100(商品名、城北化学社製、イソシアネート硬化触媒、1質量%キシレン溶液)0.4部を攪拌しながら順次仕込み、十分に攪拌して均一な混合物とした。使用直前に、得られた混合物100部に対して、デュラネートTHA−100(商品名、旭化成社製、HMDI系ヌレート型ポリイソシアネート硬化剤、樹脂固形分75%、NCO23.1質量%)40部と、ソルベッソ#100/酢酸ブチル/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる混合溶剤(混合比:60/20/20)15部とを、攪拌しながら仕込み、十分に均一になるまで攪拌し、クリヤーコート塗料CC−1を得た。
【0099】
<実施例1>
リン酸亜鉛処理軟鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「カソガードNo.500」、BASFジャパン(株)製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装を行い、175℃で25分間焼き付けて、本評価に使用する電着塗膜板とした(以下、「電着板」とする)。
また、プラスチック素材としてはイソプロピルアルコールを用いて表面をワイプしたポリプロピレン素材「SP−853」を用いた。
電着板とポリプロピレン素材に、水性プライマー塗料WP−1を乾燥膜厚が6〜8μmとなるよう塗装した。その後、室温で5分間静置し、第1水性ベース塗料WD−1を乾燥膜厚が20μmとなるように塗装した。その後、室温で5分間静置し、第2水性ベース塗料WE−1を、乾燥膜厚が12μmとなるように塗装した。塗装後、5分間室温で静置し、80℃で5分間の予備加熱を行った。室温となるまで放冷した後、クリヤーコートCC−1塗料を乾燥膜厚が30μmとなるように塗装した。塗装後、室温で10分間静置し、80℃で30分間焼き付けて、評価板を得た。
【0100】
得られた評価板について、以下の塗膜性能評価を行った。
(塗膜外観)
得られた評価板の塗膜外観を目視にて、次の基準に従い評価した。
○ : 平滑性、ツヤ、鮮映性がともに良好
△ : 平滑性、ツヤ、鮮映性のいずれかがやや劣る
× : 平滑性、ツヤ、鮮映性のいずれかが顕著に劣る
【0101】
(密着性)
得られた評価板に、2mm間隔の100マスが得られるように、カッターナイフで縦横11本の切れ目を入れ、セロハンテープを密着させて一気にはがした時に塗膜が剥離せず残存したマス目数によって次の基準に従い評価した。
○ : 塗膜のハガレがない状態(碁盤目表記では、100/100) 。
△ : 塗膜の一部にハガレがある状態(碁盤目表記では、95〜99/100) 。
× : 塗膜の大部分にハガレがある状態(碁盤目表記では、0〜94/100 ) 。
【0102】
(耐湿性)
得られた評価板を、50℃、湿度95%の恒温恒湿槽内に入れ、240時間放置した。放置後、塗装板を取り出し、塗膜の外観異常や、ふくれの程度を調べた。また、取り出してから2時間後に上記密着性評価と同様の方法で、耐湿性試験後の密着性を評価した。耐湿性試験後の塗膜外観は次の基準に従い評価した。
○ : 塗膜に異常が無い状態。
△ : 塗膜に細かな突起や僅かに外観異常がある状態。
× : 塗膜にふくれや著しい外観異常がある状態。
また、耐湿試験後の密着性の評価は、上記密着性評価と同じである。
【0103】
(耐チッピング性)
試験板を用いた複層塗膜上に、スガ試験機社製、飛石試験機JA−400型(チッピング試験装置)の試片保持台を石の吹き出し口に対して直角に固定し、−20℃において、0.4MPaの圧縮空気により粒度7号の花崗岩砕石50gを塗面に吹き付け、これによる塗膜のキズの発生程度などを目視で観察し次の基準に従い評価した。
◎ : キズの大きさはかなり小さく、上塗り塗膜がキズつく程度
○ : キズの大きさは小さく、水性塗料(本発明品)が露出している程度
△ : キズの大きさは小さいが、素地の鋼板が露出している
× : キズの大きさはかなり大きく、素地の鋼板も大きく露出している
【0104】
<実施例2〜21、比較例1,2>
表4〜5に記載した組み合わせの水性プライマー塗料組成物、水性第1着色塗料組成物、水性第2着色塗料組成物、クリヤー塗料組成物を使用し、実施例1と同様の方法で、評価板を作成して塗膜性能評価を行った。塗膜性能評価の結果を表4〜5にまとめた。
【0105】
【表4】
【0106】
【表5】