特許第6770814号(P6770814)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 吉佳エンジニアリング株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000002
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000003
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000004
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000005
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000006
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000007
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000008
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000009
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000010
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000011
  • 特許6770814-管路補修構造及び管路補修方法 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770814
(24)【登録日】2020年9月30日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】管路補修構造及び管路補修方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 63/34 20060101AFI20201012BHJP
   F16L 1/00 20060101ALI20201012BHJP
   F16L 55/163 20060101ALI20201012BHJP
   F16L 55/18 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B29C63/34
   F16L1/00 J
   F16L55/163
   F16L55/18 Z
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-59795(P2016-59795)
(22)【出願日】2016年3月24日
(65)【公開番号】特開2017-170770(P2017-170770A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年2月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】595053777
【氏名又は名称】吉佳エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】大岡 伸吉
(72)【発明者】
【氏名】喜多島 恒
(72)【発明者】
【氏名】張 満良
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−076592(JP,A)
【文献】 特開2015−175449(JP,A)
【文献】 特開平09−123277(JP,A)
【文献】 特開2014−161978(JP,A)
【文献】 特開平03−265798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 63/00−63/48
F16L 1/00
F16L 55/16−55/165
F16L 55/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設管の内面が更生管で被覆された管路補修構造であって、
前記既設管の内面のうち該既設管の端部に、所定幅で全周に亘り前記更生管による被覆がなされていない非被覆領域が設けられ、
前記非被覆領域と前記更生管との境界をそれら双方にまたがって内側から覆う筒状弾性部材と、該筒状弾性部材を内側から押圧して前記既設管の内面側に圧接状態で維持する筒状剛性部材とを有し、
前記筒状弾性部材の外周面上には、幅方向に間隔を空けて少なくとも2箇所に径方向外方に突出し且つ全周に亘って延在する突条部がそれぞれ形成され、該突条部のうち1つが前記既設管の非被覆領域に全周で密着し、前記突条部のうち別の1つが前記更生管の内面に全周で密着していることを特徴とする管路補修構造。
【請求項2】
前記非被覆領域であって、幅方向に間隔を開けて形成された2つの前記突条部に挟まれた領域に、前記内面の全周に亘って形成された溝状の誘導メジを有する、請求項1に記載の管路補修構造。
【請求項3】
既設管の内面が更生管で被覆された管路補修方法であって、
前記既設管の内面のうち該既設管の端部に、所定幅で全周に亘り前記更生管による被覆がなされていない非被覆領域を設けるための非被覆面形成工程と、
前記非被覆領域と前記更生管との境界をそれら双方にまたがって内側から覆う筒状弾性部材と、該筒状弾性部材を内側から押圧して前記既設管の内面側に圧接状態で維持する筒状剛性部材を設置するための筒状部材設置工程と、
を含み、
前記筒状弾性部材の外周面上には、幅方向に間隔を空けて少なくとも2箇所に径方向外方に突出し且つ全周に亘って延在する突条部がそれぞれ形成され、該突条部のうち1つが前記既設管の非被覆領域に全周で密着し、前記突条部のうち別の1つが前記更生管の内面に全周で密着していることを特徴とする管路補修方法。
【請求項4】
前記突条部は複数層とすることで厚さ調節可能であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非被覆面形成工程の後、且つ前記筒状部材設置工程の前に、
前記非被覆領域であって、幅方向に間隔を開けて形成される2つの前記突条部に挟まれる領域に、前記内面の全周に亘って溝状の誘導メジを形成する工程を含むことを特徴とする請求項3又は4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は下水道管路などの管路の補修構造及び管路補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水管等の既設管の補修のため、従来から既設管の内側に更生管を設置する補修方法が行われている。更生管を形成する方法としては、筒状の硬化性ライニング材を折り畳まれた状態で既設管内に導入した後、既設管内面に硬化性ライニング材を密着させた状態として硬化させるライニング工法(特許文献1)や、既製の複数の筒状ピースを1つずつ連続して既設管内に導入していく鞘管工法(特許文献2)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−028172号公報
【特許文献2】特開2011−110856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の方法では、更生管設置後に、既設管の亀裂等の破損・亀裂箇所から流入した地下水やこれに付随する土砂が、既設管と更生管との間の僅かな隙間を通って流れる場合があった。地下水や土砂が管路内に流入すると、地中に空洞が形成される恐れがあり、地面陥没等の被害が発生する場合がある。
【0005】
したがって、本発明の目的は、既設管の内側に更生管が設置された管路補修構造において、既設管と更生管との間において地下水や土砂が流れることを防止することができる管路補修構造及びこれを形成するための管路補修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の管路補修構造は、
既設管の内面が更生管で被覆された管路補修構造であって、
前記既設管の内面のうち該既設管の端部に、所定幅で全周に亘り前記更生管による被覆がなされていない非被覆領域が設けられ、
前記非被覆領域と前記更生管との境界をそれら双方にまたがって内側から覆う筒状弾性部材と、該筒状弾性部材を内側から押圧して前記既設管の内面側に圧接状態で維持する筒状剛性部材とを有し、
前記筒状弾性部材の外周面上には、幅方向に間隔を空けて少なくとも2箇所に径方向外方に突出し且つ全周に亘って延在する突条部がそれぞれ形成され、該突条部のうち1つが前記既設管の非被覆領域に全周で密着し、前記突条部のうち別の1つが前記更生管の内面に全周で密着していることを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、既設管の破損箇所などを介して地中から管路内に刺入した地下水が、既設管と更生管との間の微小な隙間を流れたとしても、管路内には、筒状剛性部材により固定された筒状弾性部材が設置され、筒状弾性部材に設けられた2つの突条部が、既設管と更生管との境界部を両側から塞ぐ形で設置されていることにより止水効果が発揮されるので、管路内にそれ以上の地下水及びこれに付随する土砂が流入することを防止することができる。
【0008】
請求項2に記載の管路補修構造は、前記非被覆領域であって、幅方向に間隔を開けて形成された2つの前記突条部に挟まれた領域に、前記内面の全周に亘って形成された溝状の誘導メジを有することを特徴とする。
【0009】
誘導メジは、例えば、地震などの地盤変動により、既設管に応力がかかった場合において、誘導メジが形成された箇所における既設管の破壊を誘導するものである。これにより、既設管の誘導メジ以外の他の部分が破壊することに起因して、既設管の外側から地下水や土砂が既設管内に流入することを防止することができる。したがって、地震などの地盤変動があった場合であっても、本発明の既設管補修構造による止水機能を十分に維持することが可能となる。
【0010】
また、請求項3に記載の管路補修方法は、既設管の内面が更生管で被覆された管路補修方法であって、
前記既設管の内面のうち該既設管の端部に、所定幅で全周に亘り前記更生管による被覆がなされていない非被覆領域を設けるための非被覆面形成工程と、
前記非被覆領域と前記更生管との境界をそれら双方にまたがって内側から覆う筒状弾性部材と、該筒状弾性部材を内側から押圧して前記既設管の内面側に圧接状態で維持する筒状剛性部材を設置するための筒状部材設置工程と、
を含み、
前記筒状弾性部材の外周面上には、幅方向に間隔を空けて少なくとも2箇所に径方向外方に突出し且つ全周に亘って延在する突条部がそれぞれ形成され、該突条部のうち1つが前記既設管の非被覆領域に全周で密着し、前記突条部のうち別の1つが前記更生管の内面に全周で密着していることを特徴とする。
【0011】
本発明の既設管補修方法によれば、上記で説明した本発明の既設管補修構造を効率的な作業で行うことができる。すなわち、筒状弾性部材をその内側から筒状剛性部材で既設管内面側に押圧し、その状態を維持するだけで、本発明の既設管補修構造を形成することができる。
【0012】
請求項4の既設管補修方法は、前記突条部は複数層とすることで厚さ調節可能であることを特徴とする。
【0013】
施工現場によって既設管の劣化具合などの条件や環境が異なるが、上記構成によれば、現場において突条部の高さを調整可能な構成とすることにより、事前の準備作業を減らすことができるので、全体の作業の容易化が図られる。
【0014】
請求項5に記載の既設管補修方法は、前記非被覆面形成工程の後、且つ前記筒状部材設置工程の前に、前記非被覆領域であって、幅方向に間隔を開けて形成される2つの前記突条部に挟まれる領域に、前記内面の全周に亘って溝状の誘導メジを形成する工程を含むことを特徴とする。
【0015】
請求項2で説明したように、誘導メジを形成することにより、地震などの地盤変動があった場合であっても、本発明の既設管補修構造による止水機能を十分に維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、老朽化した既設管が補修されるとともに、既設管と更生管との間において地下水や土砂が流れることを防止することができる。したがって、地下水や土砂が管路内に流入することに起因する地面陥没を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】更生管の設置状態を示す概略断面図である。
図2】既設管とマンホールの接続部を示す断面図である。
図3】筒状弾性部材と筒状剛性部材の例を示す斜視図である。
図4】筒状弾性部材の断面図である。
図5】筒状剛性部材の展開図である。
図6】挿入部材及びその挿入動作を示す斜視図である。
図7】本発明の既設管補修構造を示す概略断面図である。
図8図7の要部拡大図である。
図9】筒状剛性部材の他の例を示す展開図である。
図10】筒状剛性部材の他の例を示す斜視図である。
図11】拡径作業を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の管路補修構造及び管路補修方法を詳細に説明する。まず、本発明の既設管補修方法について各工程をそれぞれ説明する。
【0019】
図1は、既設管の内側に更生管が設置された状態を示す概略図である。図示されているように、下水管である既設管100が2つのマンホール(中継構造体)104−1、104−2の間に配置され、それぞれ連通接続されている。そして、既設管100の内側には更生管102が設置されて、更生管102により既設管100の内面が被覆されている。既設管100と更生管102との間には微小な隙間が存在し、既設管100の亀裂など(図示せず)を介して既設管100と更生管102との間に流入した地下水や土砂はマンホール104−1又は104−2方向へ流れ、管路内に流入することとなる。本発明はこの地下水や土砂の流入を防止するためのものである。
【0020】
本発明において、更生管の設置は従来から用いられている方法で行えばよい。例えば、光や熱で硬化する筒状のライニング材を未硬化状態で既設管内に導入した後、ライニング材の両端を密閉することにより形成された密閉空間に圧縮空気を供給することによりライニング材を既設管内面に押圧した状態で硬化させるライニング工法や、熱可塑性樹脂で構成された筒状のライニング材で既設管内面を被覆するライニング工法が挙げられる。
【0021】
[非被覆面形成工程]
次に、非被覆面形成工程について説明する。既設管100の内側に形成された更生管102のうち、既設管100の端部の所定幅を全周に亘り除去する。これにより、図2の拡大図に示しているように、既設管100の内面のうち既設管100の端部に、所定幅で全周に亘り更生管102による被覆がなされていない非被覆領域100aが形成される。除去方法はどのような手段もよく、切削機などにより行うことができる。非被覆領域100aの管軸方向の幅は特に限定されないが、例えば、100〜300mmである。
【0022】
[筒状部材設置工程]
次に、筒状剛性部材及び筒状弾性部材(まとめて「筒状部材」とも称する。)を設置する工程について説明する。図3は、筒状弾性部材と筒状剛性部材の一例を示す斜視図である。筒状弾性部材10は、図2で示した非被覆領域100aと更生管102との境界部101を覆うように設置されるものであり、その設置は筒状剛性部材20により内側から固定されることにより行われる。
【0023】
筒状剛性部材20はその径を拡大させることが可能な拡径部材であり、筒状弾性部材10は、筒状剛性部材20の拡径作業によって既設管100の内面側に押圧される。具体的には、図4にその断面形状を示すように、筒状剛性部材20の外周面20a(図3参照)上を被装する筒状のベース部12と、ベース部12の幅方向両端部の外周面上に全周に亘って延在する突条部14−1、14−2とを有している。突条部14−1、14−2は筒状弾性部材10の径方向外方に突出している。
【0024】
本実施の形態では、2つの突条部14−1、14−2はそれぞれ、4つの小突条部14−1a、14−2aが隣り合う形で形成されている。設置状態では、一方の突条部14−1は既設管100の非被覆領域100a(図2参照)と密着し、他方の突条部14−2は更生管102の内面102a(図2参照)と密着することとなる。したがって、突条部14−1と突条部14−2は、その高さが互いに異なり、既設管非被覆面用の突条部14−1の方が、更生管内面用の突条部14−2よりも、高さが高くなっている(即ち、径方向の長さが長い)。ベース部12の厚さは、例えば2〜3mmであり、突条部14−2の厚さは、例えば2〜10mmであり、突条部14−1の厚さは、例えば、突条部14−2の厚さと更生管102の厚さを合計したものである。突条部14−1、14−2の幅方向の長さは、例えば、50〜100mmである。
【0025】
突条部14−1、14−2は、施工現場において適宜厚さを変更できるように複数層とすることができる構造としてもよい。すなわち、図示しているように、突状部14−1の表面形状にフィットする底面を有する高さ調節用層15を突状部14−1に被せるように設置することにより、高さ調節可能な構造としてもよい。なお、本実施の形態では、突状部14−1、14−2は、筒状弾性部材10の外周面上の幅方向両端部に一箇所ずつの合計2箇所に設けているが、本発明では、筒状弾性部材の幅方向に間隔を空けて少なくとも2箇所に設けて有ればよく、更に別の箇所に突条部を設けてもよい。
【0026】
突条部14−1、14−2は弾性部材から形成されている。弾性部材としては例えばゴムや独立気泡発泡体が挙げられる。ゴムは通常のゴムでも、水で膨潤する水膨潤ゴムでもよい。ゴムの材質として、特にSBRやEPDMが挙げられる(JIS K 6353)。水膨潤ゴムを使用した場合には、筒状剛性部材20と既設管100内面又は更生管102内面との間で膨潤し、より密着度が高まり止水効果を向上させることができる。突条部14−1、14−2はこのような構成に限られず、止水効果を発揮できればどのような形状でもよい。
【0027】
図3に示しているように、筒状剛性部材20は、その外周に筒状弾性部材10を外嵌させて用いられるものである。筒状剛性部材20は筒状弾性部材10の径を拡大させることが可能な拡径部材であり、既設管内において筒状剛性部材20を適切な径になるまで拡径、すなわち筒状弾性部材10が適切な押圧力で既設管の内面側に押圧された状態が得られるまで筒状剛性部材20の内径を広げるものである。
【0028】
筒状剛性部材20は、一枚の板部材22を湾曲させて形成され、両端部が互いに所定間隔で対向し、この部位に隙間部24を形成するサイズを有している。筒状剛性部材20の最終的な拡径作業は、この隙間部24に後述する挿入部材30を筒状剛性部材20の幅方向端部側から中心方向に挿入し、これにより隙間部24の間隔を広げることによって行われる。
【0029】
そして、筒状剛性部材20の拡径状態の維持は、筒状剛性部材20の隙間部24に挿入された挿入部材30をそのままの位置で固定させることによって行われる。筒状剛性部材20はステンレス(SUS316やSUS314)
【0030】
図5に、筒状剛性部材20の展開図、すなわち、板部材22の構成を示す。図示のように、板部材22は略長方形の例えば鋼材や合成樹脂材等の所定の可撓性を有する部材で構成されている。
【0031】
板部材22の幅方向両端部には、折曲部24−1、24−2が形成されており、筒状剛性部材20を形成するときは折曲部24−1、24−2が径方向外方に向けて折曲された状態になっている。折曲部24−1、24−2は既設管100内を流れる流水等によって筒状弾性部材10(図3参照)が位置ずれするのを防止し、かつ筒状剛性部材20を補強するものである。本実施の形態では、一方の折曲部24−1の方が他方の折曲部24−2のよりも幅が広く形成されている。
【0032】
板部材22の長さ方向両端部にはそれぞれ後述する所定の輪郭形状を有する基端部26と終端部28とが形成されている。また、折曲部24−1、24−2は、基端部26と終端部28付近では存在せず、折曲部24−1、24−2に該当する部位が除かれた状態になっており、それぞれ平端部31、32を形成している。
【0033】
基端部26と終端部28には板部材22の幅方向両側にそれぞれ傾斜端部26a、26b及び28a、28bが形成されている。傾斜部26a、26b、28a、28bは、基端部26と終端部28のそれぞれの板部材22幅方向端部から中央部に向かって、板部材22の長さ方向外方に傾斜するように形成されている。基端部26及び終端部28の、傾斜端部26a、26b、28a、28bを形成していない中央部付近は、板部材22の幅方向に略平行に延在する中央部26c、28cを形成している。基端部26及び終端部28のこれら諸形状により、基端部26と終端部28は互いに対称的な形状を有するようになっている。この構成により、この板部材22を、基端部26と終端部28とが互いに対向するように湾曲させ、基端部26と終端部28との間に隙間部24(図3参照)を有する筒状剛性部材20を形成するものである。
【0034】
符号25で示した部材は当板部材25であり、平板状の略長方形形状を有している。当板部材25は、筒状剛性部材20の隙間部24となる部分を補強し、かつ隙間部24から筒状弾性部材10が筒状剛性部材20の内周側に突出するのを防止するものであり、筒状剛性部材20と筒状弾性部材10との間に装着される。当板部材25は、筒状剛性部材20よりも厚さが薄いか或いは同等の厚さを有し、板部材22と同一の材質で形成することができる。
【0035】
図6は、本実施の形態で使用する挿入部材30の構成を示した斜視図であり、挿入部材30を隙間部24に挿入する状態を示している。挿入部材30の挿入を行うため、筒状剛性部材20において、上述した平端部31と平端部32とで挿入口を形成している。
【0036】
同図に示したように、挿入部材30には、くさび状部32を上下から挟むように略平板状の外側プレート部38と内側プレート部36とが設けられている。くさび状部32は、上記挿入方向200に長さ方向を有し、筒状剛性部材20の傾斜端部26a及び傾斜端部28aにそれぞれ対向して当接される当接面32aと32bとを両面に有している。この当接面32a、32bにより、挿入方向に狭くなる挟角αを形成しており、挟角αは傾斜端部26aと傾斜端部28aとが互いに対向した状態で形成する角度βとほぼ等しくなるように形成されている。更に、当接面32a、32bの挿入方向(矢印200方向)の長さは、傾斜端部26a、28aと略等しくなるように形成されている。
【0037】
挿入部材30を隙間部24に挿入する時は、外側プレート部38と内側プレート部36との間に筒状剛性部材20の傾斜端部26aと傾斜端部28aとが両側で挿入される。挿入部材30が隙間部24に挿入された状態で、外側プレート部38は筒状剛性部材20の外周側に位置し、内側プレート部36は筒状剛性部材20の内周側に位置する状態となっている。
【0038】
挿入部材30が、隙間部24を筒状剛性部材20の中央部方向に向かって移動するに従い、傾斜端部26a、28aは、当接面32a、32bに押され、隙間部24の幅が広くなる方向に移動する。これにより筒状剛性部材20の拡径が行われる。
【0039】
そして、筒状剛性部材20が最適の状態にまで拡径された時点で挿入部材30による拡径動作を停止させ、停止位置に挿入部材30をそのままの置で固定させることにより筒状剛性部材20の上記拡径状態が維持される。この状態ではくさび状部32のほぼ全体が隙間部24に挿入された状態になる。
【0040】
筒状弾性部材10と筒状剛性部材20を配置するには、既設管100内の所望とする位置に筒状弾性部材10及び筒状剛性部材20を配置し、筒状剛性部材20を上述したように拡径することにより行うことができる。これにより、筒状弾性部材10はその内側から筒状剛性部材20により既設管100内周面側に押圧され、圧接状態で維持される。
【0041】
図7は、本発明の既設管補修方法が完了した状態の図、即ち、本発明の既設管補修構造を示す断面図であり、図8はその部分詳細図である。図示のように、筒状弾性部材10は、既設管100の非被覆領域100aと更生管102との境界部101をそれら双方にまたがって内側から覆っており、一方の突条部14−1は、既設管100の非被覆領域100aに全周で密着している。また、他方の突条部14−2は、更生管102の内面102aに全周で密着している。突条部14−1、14−2は筒状剛性部材20の拡径動作により圧縮された状態となっている。
【0042】
これにより、既設管100の破損箇所などを介して地中から管路内に刺入した地下水が、既設管100と更生管102との間の微小な隙間を流れたとしても、管路内には、突条部14−1、14−2が、既設管100と更生管102との境界部101を両側から塞ぐ形で設置されていることにより止水効果が発揮されるので、管路内にそれ以上の地下水及びこれに付随する土砂が流入することを防止することができる。地下水及び土砂の流入を防止することにより、地中における空洞の発生を防止し、地面陥没などの被害を未然に防止することができる。
【0043】
上述したように、筒状剛性部材20の一方の折曲部24−1は他方の折曲部24−2よりも幅が長く形成されているので、一方の折曲部24−1は既設管100の非被覆領域100aに接し、他方の折曲部24−2は更生管102の内周面102aに接触している。これにより、管路内を流れる下水や異物により筒状弾性部材10が位置ずれするのを防止することができる。
【0044】
図9は他の実施の形態を示す概略断面図である。図示されているように、既設管100の非被覆領域100aに溝状の誘導メジ50が形成されている。誘導メジ50は既設管100の非被覆領域100aの内面の全周に亘って形成されている。
【0045】
誘導メジ50は、例えば、地震などの地盤変動により、既設管100に応力がかかった場合において、誘導メジ50が形成された箇所における既設管100の破壊を誘導するものである。これにより、既設管100の誘導メジ50以外の他の部分が破壊することにより、既設管100の外側から地下水や土砂が既設管100内に流入することを防止することができる。したがって、地震などの地盤変動があった場合であっても、本発明の既設管補修構造による止水機能を十分に維持することが可能となる。なお、誘導メジ50には、ウレタンなどの密閉部材を詰めてもよい。
【0046】
(筒状剛性部材の例2)
次に、本発明において使用することができる筒状剛性部材の他の例について説明する。図10は、筒状剛性部材60の展開図である。図示のように、筒状剛性部材60は、1枚の矩形状の板部材62からなり、板部材62は鋼材や合成樹脂材等の所定の可撓性を有する部材で形成されている。
【0047】
板部材62の一方の端部62a近傍には、板部材62の長手方向に間隔をおいて形成された複数組の係止孔64a〜cが設けられ、板部材62の他方の端部62b近傍には、切り起こし加工によって係止片66が形成されており、係止片66は筒状剛性部材60の内方側へ突出形成されている。
【0048】
板部材62を筒状の形状となるように湾曲させることにより筒状剛性部材60が形成される。そして、後述する拡開機により筒状剛性部材60を拡径させ、次いで若干縮径させたときに、係止片66がいずれか一組の係止孔64a〜64cに選択的に係合することで、筒状剛性部材60の拡径状態を維持することができる。
【0049】
また、板部材62の幅方向両端部には、折曲部68−1、68−2が形成されており、筒状剛性部材60を形成するときは、折曲部68が径方向外方に向けて折曲された状態になっている。折曲部68は、既設管路内を流れる流水等によって筒状弾性部材10(図4参照)が位置ずれするのを防止し、かつ筒状剛性部材60を補強するものである。また、水や水中に混入した固形物を流れやすくする機能も有する。
【0050】
以下、上述の筒状剛性部材60及び筒状弾性部材10を既設管100に設置するための作業について説明する。図11は、既設管内に筒状剛性部材60及び筒状弾性部材10を設置するときの様子を示す概略図である。筒状剛性部材60及び筒状弾性部材10を設置するためには、まず、筒状剛性部材60と筒状弾性部材10(図3で示したものを同様)を拡開機50に装着する。
【0051】
拡開機50は、例えば図9に示すように軸部51と、この軸部51に固定され、かつ圧力流体、例えば圧縮空気等の供給により風船状に膨張する膨張部52とを有し、この膨張部52を収縮させた状態で、筒状剛性部材60及び筒状弾性部材10をこの順で拡開機50に装着する。
【0052】
次いで地上に配置された流体源からホースを介してニップル53へ供給される圧縮空気により膨張部52が膨張して筒状弾性部材10及び筒状剛性部材60が拡開機50に対して変位しない程度に筒状剛性部材60に圧接して筒状弾性部材10及び筒状剛性部材60を拡開機50に固定し、その状態に維持させる。
【0053】
続いて筒状弾性部材10及び筒状剛性部材60が装着された拡開機50を、既設管100の端部位置に配置し、ニップル53を介して再び供給される圧縮空気により膨張部52を更に膨張させる。膨張部52の膨張により筒状剛性部材60が拡開され、いずれか1組の係止孔62a〜62cに係止片66が係合可能になる程度に拡開される(図10参照)。
【0054】
その結果筒状剛性部材60によって筒状弾性部材10は既設管100の内周面側に押圧され、突条部14−1、14−2が弾性変形する。以上のようにして、筒状剛性部材60と筒状弾性部材10が既設管100内に設置される。このように設置された既設管の補修構造は、図7で示したものと同様の効果を得ることができる。
【0055】
本発明は、上記実施の形態の構成に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。なお、本発明はどのような大きさの既設管に対しても適用することができる。例えば、呼び径が200〜800mmの既設管、例えば、埋設管、特に下水管に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0056】
10 筒状弾性部材
12 ベース部
14 突条部
14−1a、14−2a 小突条部
20 筒状剛性部材
22 板部材
24 隙間部
24−1、24−2 折曲部
30 挿入部材
60 筒状剛性部材
62a、62b、62c 係止孔
64 係止片
100 既設管
100a 非被覆領域
101 境界部
102 更生管
104−1、104−2 マンホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11