特許第6770823号(P6770823)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6770823-薬液の脱気方法及び装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6770823
(24)【登録日】2020年9月30日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】薬液の脱気方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 19/00 20060101AFI20201012BHJP
   B01D 61/00 20060101ALI20201012BHJP
   C02F 1/20 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B01D19/00 H
   B01D19/00 101
   B01D61/00
   C02F1/20 B
   C02F1/20 A
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-80107(P2016-80107)
(22)【出願日】2016年4月13日
(65)【公開番号】特開2017-189739(P2017-189739A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2019年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000134903
【氏名又は名称】株式会社ニシヤマ
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】二ツ木 高志
(72)【発明者】
【氏名】笹山 久保幸
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−010604(JP,A)
【文献】 特開平11−176794(JP,A)
【文献】 特開平07−303802(JP,A)
【文献】 特開平09−094447(JP,A)
【文献】 特開平05−220480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 19/00
B01D 61/00
C02F 1/20
B08B 3/14
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する脱気方法であって、
脱気膜の液体側に前記薬液を通液しつつ前記脱気膜の気体側を減圧し、
前記気体側の減圧に、水を作動流体とする真空エジェクタによって発生する減圧状態を使用し、
前記作動流体として使用される水は、前記薬液よりも低濃度で前記薬剤を含有する、脱気方法。
【請求項2】
前記薬液はワークを処理する第1の工程で使用されるものであり、
前記作動流体として使用される水は、前記第1の工程の後工程である第2の工程において前記ワークに対して処理を行った際に排出される排水を含む、請求項に記載の脱気方法。
【請求項3】
前記薬剤は、フッ化水素、塩化水素及びアンモニアからなる群から選ばれた1種以上の化合物を含む、請求項1または2に記載の脱気方法。
【請求項4】
水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する脱気装置であって、
脱気膜を有して前記脱気膜の液体側に前記薬液が通液する脱気モジュールと、
前記脱気モジュールに接続され水を作動流体とする真空エジェクタと、
を有し、
前記真空エジェクタによって発生する減圧状態によって前記脱気膜の気体側を減圧し、
前記作動流体として使用される水は、前記薬液よりも低濃度で前記薬剤を含有する脱気装置。
【請求項5】
前記薬液は、ワークを処理する第1の処理装置で使用されるものであり、
前記作動流体として使用される水は、前記第1の処理装置の後段に配置されて前記ワークに対して処理を行う第2の処理装置から排出される排水を含む、請求項に記載の脱気装置。
【請求項6】
前記薬剤は、フッ化水素、塩化水素及びアンモニアからなる群から選ばれた1種以上の化合物を含む、請求項4または5に記載の脱気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水に薬剤を溶解して得られる薬液は各種の分野において使用されているが、これらの薬液に含まれる薬剤には腐食性と揮発性とを有するものも少なくない。例えば半導体装置の製造プロセスにおいては、フッ化水素を水に溶解させたフッ化水素酸がウエハの洗浄などに用いられるが、フッ化水素は強い腐食性を有するとともに沸点が20℃前後であり、強い揮発性を有する。また水溶性有機物質を水に溶かした薬液が用いられることもあるが、薬液に含まれる水溶性有機物質は、一般に揮発性を有するとともに、例えばゴムやプラスチックなどを侵す性質を有することがある。
【0003】
半導体装置製造プロセスなどで上記のような薬液を使用する場合、薬液中に気泡等が含まれると良好な処理を行うことができなくなるから、予め薬液に脱気処理を行うことが必要となる。特許文献1には、中空糸膜を脱気膜として有する脱気モジュールを用いて薬液の脱気を行うことが開示されている。特許文献2は、薬液の脱気を行う際に脱気膜を使用し、脱気膜の気体側を減圧するための真空ポンプに関し、ピストン式真空ポンプ、ダイアフラム式真空ポンプ、スクロール式真空ポンプ、スクリュー式真空ポンプなどのポンプを流体で駆動することを開示している。脱気膜を用いることにより、微粒子等の発生を防ぎながら、清浄な脱気薬液を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−94447号公報
【特許文献2】特開2003−10604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
揮発性の薬剤を含む薬液を膜脱気により脱気する場合、脱気膜の気体側からは、脱気された気体のほかに、薬液に含まれる薬剤も漏出する。この漏出した薬剤が腐食性を有する場合には、脱気膜の気体側を減圧するために用いられる真空ポンプに悪影響を及ぼす。
【0006】
本発明の目的は、例えば腐食性を有する薬剤を含む薬液を膜脱気する方法及び装置であって、脱気膜の気体側に漏出する薬剤による腐食などの発生を抑制できる脱気方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の脱気方法は、水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する脱気方法であって、脱気膜の液体側に薬液を通液しつつ脱気膜の気体側を減圧し、気体側の減圧に、水を作動流体とする真空エジェクタによって発生する減圧状態を使用する。
【0008】
本発明の脱気装置は、水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する脱気装置であって、脱気膜を有して脱気膜の液体側に薬液が通液する脱気モジュールと、脱気モジュールに接続され水を作動流体とする真空エジェクタと、を有し、真空エジェクタによって発生する減圧状態によって脱気膜の気体側を減圧する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、水を作動流体とする真空エジェクタを用いて、薬液を膜脱気する際に脱気膜の気体側を減圧する。腐食性及び揮発性を有する薬剤を含む薬液を脱気したとしても、脱気膜の気体側に漏出した薬剤は直ちに作動流体である水に溶解することとなるので、脱気装置における腐食の発生などを抑制することができる。しかも真空エジェクタは可動部分を有しないので、真空エジェクタでは表面に耐食性の被覆を設けることが可動部を有する真空ポンプに比べて容易であり、また、仮に腐食等が発生したとしても装置の動作に与える影響は少ない。したがって本発明によれば、脱気膜の気体側に漏出する薬剤による腐食などの発生を簡易な手段で抑制できるとともに、安価なメンテナンスコストで安定して動作する脱気装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の一形態の脱気装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は本発明の実施の一形態の脱気装置を示している。
【0012】
図1に示す脱気装置10は、水に薬剤を溶解させた薬液を脱気する脱気装置であり、大別すると、薬液の膜脱気を行う脱気モジュール11と、脱気モジュール11において必要となる減圧を発生する真空エジェクタ12とを備えている。脱気モジュール11には脱気膜20が設けられており、脱気膜20の液体側には、出口弁15と入口弁16とが接続している。脱気モジュール11としては、例えば中空糸膜を用いたものを好ましく用いることができる。脱気対象の薬液は、外部から供給されて入口弁16を介して脱気モジュール11に流入し、脱気膜20の液体側を通液して脱気モジュール11から流出し、出口弁15を介して薬液の供給先に送られる。脱気モジュール11には、脱気膜20の気体側に連通する弁17と圧力計14とが接続している。弁17の他端は、真空エジェクタ12の減圧ポートに接続している。真空エジェクタ12は、水を作動流体とするものであって、減圧を発生する。作動流体である水は、入口弁18を介して供給され、ポンプ13により真空エジェクタ12に圧送される。真空エジェクタ12を通過した水は、排出弁19を介して排水として外部に排出される。なお、真空エジェクタ12を作動させるために十分な圧力を有する水が得られる場合には、必ずしもポンプ13を設ける必要はない。
【0013】
本発明に基づく脱気装置10では、入口弁18及び排出弁19を開け、ポンプ13を作動させて作動流体である水を真空エジェクタ12に通水する。その結果、真空エジェクタ12の減圧ポートは減圧状態となり、弁17を開けることで、脱気モジュール11において脱気膜20の気体側も減圧状態となる。入口弁16及び出口弁15を開けて薬液を脱気モジュール11に導入し、脱気膜20の液体側を通液させれば、薬液の膜脱気が行われることになる。このとき、圧力計14の指示値に基づいて弁17を操作し、薬液の種類などに応じて脱気膜20の気体側の圧力を調節する。薬剤が揮発性を有するとき、薬液の膜脱気によって脱気された気体(例えば水蒸気や溶存窒素、溶存酸素など)には薬剤が気相状態で含まれることになるが、脱気された気体に含まれる薬剤は真空エジェクタ12において直ちに作動流体である水に溶解することとなり、排水として脱気装置10から排出されることになる。脱気装置10から排出されたこの薬剤を含む排水に対し、必要に応じて排水処理を行う。
【0014】
本実施形態の脱気装置10では、真空ポンプの代わりに真空エジェクタ12を用いて減圧状態を発生し、脱気モジュール11を動作させる。腐食性を有する薬剤を含む薬液を脱気する場合であっても、可動部を有する真空ポンプを用いないので、腐食に対する対策を軽減することができる。また、脱気膜20の気体側に漏出した薬剤は直ちに作動流体である水に溶解するので、その点でも腐食に対する対策を軽減できる。したがって、本実施形態の脱気装置は、腐食性及び揮発性を有する薬剤を水に溶解させた薬液の脱気に特に有効である。
【0015】
本実施形態の脱気装置において脱気することが有効な薬液は、薬剤として、例えば、フッ化水素、塩化水素、硝酸、アンモニア、フッ化アンモニウムなどの腐食性及び揮発性を有する無機物質を含むものである。また、ジメチルスルホオキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、アセトン、メチルエチルケトン、各種のアルコール類、フェノール、アミン類、シンナー類などの水溶性有機物質を薬剤として含有する薬液の脱気にも、本実施形態の脱気装置を有効に使用することができる。
【0016】
本実施形態の脱気装置において、真空エジェクタ12の作動流体である水は、純水であっても水道水であってもよい。さらには、脱気対象の薬液と同じ薬剤を、脱気対象の薬液よりも低濃度に含有する水を利用することもできる。脱気により脱気膜の気体側に漏出した薬剤に対して排水処理を行う必要がある場合には、低濃度に薬剤を含有して排水処理を行わなければならない排水を別途入手できるのであれば、その排水を真空エジェクタ12の作動流体として使用することにより、全体として排水処理コストを低減することができる。このような場合の一例は、脱気された薬液を使用してワークの処理を行う第1の工程があって、第1の工程の後処理として当該ワークに対して第2の工程が実施される場合に、第2の工程からの排水にその薬剤が低濃度含まれる場合である。第1の工程で使用される薬液は、例えば循環処理によって脱気処理が行われる。
【0017】
図1には、このような第1の工程と第2の工程とを有する場合における本実施形態の脱気装置10の適用形態も示している。ここでは、例えば半導体ウエアであるワーク70に対して例えばフッ化水素酸である薬液による洗浄を行い、その後工程として、ワーク70に対して純水によるリンスを行う場合を考える。
【0018】
ワーク70に対してフッ化水素酸による洗浄を行う洗浄装置30が設けられている。洗浄装置30には、薬液を貯えて浸漬洗浄を行う洗浄槽31と、薬液中の微粒子等を除去するフィルター33と、洗浄槽31とフィルター33との間で薬液を循環させる循環ポンプ32とが設けられ、薬液の循環系が構成されている。循環ポンプ31は、フィルター33の入口側に設けられている。この循環系において、フィルター33の出口と洗浄槽31との間には循環弁34が設けられている。循環弁34の入口には、薬液を脱気装置10に送るための出口弁36が分岐して設けられ、循環弁34の出口には、脱気された薬液を脱気装置10から受け入れる入口弁35が合流するように設けられている。
【0019】
ワーク70に対して純水によるリンスを行うリンス装置50は、給水弁52を介して純水が供給されるリンス槽51を有している。リンス槽51のオーバーフローはリンス工程での排水となるが、この排水は、排出弁53を介して外部に排出されるようになっている。そして、排出弁53の入口側には、リンス槽51からの排水を脱気装置10に送るための出口弁54が分岐している。リンス装置50は、洗浄装置30においてフッ化水素酸による洗浄が行われたワーク70に対して純水によるリンス処理を行うために設けられており、洗浄装置30から移送されてきたワーク70はリンス槽51内の純水に浸漬される。その結果、リンス槽51からオーバーフローする排水には、フッ化水素酸が低濃度で含まれることとなり、この排水を外部に放出する際にはフッ化物を除去するための排水処理が必要となる。
【0020】
そこで本実施形態では、洗浄装置30内の薬液の脱気処理を行う際に、洗浄装置30の入口弁35及び出口弁36をそれぞれ脱気装置10の出口弁15及び入口弁16に接続し、リンス装置50の出口弁54を脱気装置10の入口弁18に接続する。そして、洗浄装置30において循環弁34を閉じ、入口弁35及び出口弁36を開け、脱気装置10において出口弁15、入口弁16,18及び排出弁19を開ける。リンス装置50では排出弁53を閉じ、出口弁18を開け、さらに給水弁52を開けてリンス槽51に純水を供給する。この状態で洗浄装置30の循環ポンプ32を動作させれば、洗浄装置30内の薬液が脱気装置10の脱気モジュール11に循環し、脱気モジュール11の脱気膜20の液体側を通液する。そして脱気装置10のポンプ13を動作させれば、リンス装置50からの排水によって真空エジェクタ12が動作することとなり、脱気モジュール11において脱気膜20の気体側が減圧状態となる。このとき、弁17を操作して、脱気膜20の気体側の真空度を調節する。これにより、脱気装置10において洗浄装置30の薬液の脱気処理が行われることになる。
【0021】
真空エジェクタ12からの排水には薬剤成分であるフッ化水素が含まれることとなり、外部に排出するためにはフッ化物を除去する排水処理が必要となるが、真空エジェクタ12から排出される排水はリンス装置50から排出された排水であってそもそも排水処理が必要なものであったので、システム全体としての排水処理コストが上昇することはなく、むしろ、脱気処理によって気体側に漏出したフッ化水素とリンス装置50からの排水に含まれるフッ化水素を別々に処理する場合に比べ、コストは低減する。また、脱気装置10内のポンプ13は、液体であるリンス装置50からの排水を給送するので、リンス装置50からの排水にフッ化水素が含まれていたとしても、脱気モジュール11の減圧に真空ポンプを用いた場合の真空ポンプに比べ、フッ化水素による腐食等の影響を受けにくい。
【0022】
以上の説明から明らかなように図1に示した構成では、洗浄装置30及びリンス装置50として既設のものを使用することができ、洗浄装置30に対して入口弁35及び出口弁36を増設し、リンス装置50に対して出口弁54を増設するだけで、本実施形態の脱気装置10を使用して、排水処理コストを低減しつつ薬液の脱気処理を行うことができるようになる。一例として、脱気装置10の脱気モジュール11に通液される薬液の循環流量及び循環圧をそれぞれ25L/分及び0.3MPaとし、真空エゼクター12への作動流体である水の流量及び圧力をそれぞれ50L/分及び0.3〜0.5MPaとしたとき、脱気モジュール11における脱気膜20の気体側での50L/分の排気量及び5〜10kPaの排気圧を達成することができる。
【符号の説明】
【0023】
10 脱気装置
11 脱気モジュール
12 真空エジェクタ
13 ポンプ
20 脱気膜
30 洗浄装置
31 洗浄槽
50 リンス装置
51 リンス槽
70 ワーク
図1