(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の複合材の少なくとも一部と、前記第2の複合材の少なくとも一部を、共通の繊維強化層を積層して成る導電性複合材で構成した請求項7又は8記載の複合材構造体。
航空機の中央翼外板の少なくとも一部を前記第1の複合材で構成する一方、前記航空機の左右の主翼外板の少なくとも一部をそれぞれ前記第2の複合材で構成し、前記左右の主翼外板を構成する前記導電性複合材の間を、前記中央翼外板の少なくとも一部を構成する前記導電性複合材を含む導体で連結した請求項7乃至9のいずれか1項に記載の複合材構造体。
航空機の中央翼外板の少なくとも一部を前記第1の複合材で構成する一方、前記航空機の主翼外板の少なくとも一部を前記第2の複合材で構成し、前記中央翼外板の少なくとも一部を構成する前記導電性複合材を、端部が前記航空機の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に配置された導体と連結した請求項7乃至10のいずれか1項に記載の複合材構造体。
複合材の貫通孔に挿入されるファスナで前記複合材を他の部品と連結した複合材構造体において、前記複合材の少なくとも一部を導電性複合材で構成し、前記貫通孔が形成される前記導電性複合材の部分の厚さを、前記導電性複合材の他の部分における厚さよりも厚くし、かつ前記導電性複合材の厚さを、前記貫通孔から離れた側から前記貫通孔に向かって徐々に厚くすることによって、雷電流を前記導電性複合材に誘導する雷電流の誘導方法。
複合材の貫通孔に挿入されるファスナで前記複合材を他の部品と連結した複合材構造体において、前記複合材の少なくとも一部を導電性複合材で構成する一方、前記複合材の別の一部を非導電性複合材で構成し、厚さが一定である板状の前記非導電性複合材に厚さが一定でない板状の前記導電性複合材を重ね合せ、前記貫通孔が形成される前記導電性複合材の部分の厚さを、前記導電性複合材の他の部分における厚さよりも厚くすることによって、雷電流を前記導電性複合材に誘導する雷電流の誘導方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る複合材構造体、航空機及び雷電流の誘導方法について添付図面を参照して説明する。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る複合材構造体を有する航空機の上面図、
図2は
図1に示す航空機の中央翼の斜視図である。
【0013】
航空機1は、胴体2に左右の主翼3L、3R、左右の水平尾翼4L、4R及び垂直尾翼5等を設けた構造を有する。左右の主翼3L、3Rを繋ぐ胴体2の部分は中央翼6と呼ばれる。胴体2、主翼3L、3R、水平尾翼4L、4R及び垂直尾翼5等の航空機構造体は、外板(パネル)に桁(スパー)、小骨(リブ)及び縦通材(ストリンガ)等の補強部材を取付けた構造を有する。
【0014】
例えば、左右の主翼3L、3Rは、上面パネル7Uと下面パネル7Lをフロントスパー(前桁)、リアスパー(後桁)、複数のリブ及び複数のストリンガで補強したボックス構造を有している。そして、左右の主翼3L、3Rの内部又は左右の主翼3L、3Rの内部に収納された燃料タンクに燃料が搭載される。同様に中央翼6の構造も
図2に例示されるように上面パネル8Uと下面パネル8Lを補強部材で補強したボックス構造となっている。
【0015】
胴体2、主翼3L、3R、水平尾翼4L、4R及び垂直尾翼5等の航空機構造体は、複合材構造体9で構成することができる。複合材構造体9は、少なくとも一部に繊維で樹脂を強化した繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)を材料として用いた構造体である。FRPは複合材とも呼ばれ、繊維強化樹脂層を積層した構造を有する。複合材としては炭素繊維で樹脂を強化したCFRPやガラス繊維で樹脂を強化したGFRPが代表的である。
【0016】
図3は
図2に示す中央翼6の下面パネル8Lと主翼3Lの下面パネル7Lの連結部分における断面図である。
【0017】
図3に例示されるように中央翼6の下面パネル8Lと左側の主翼3Lの下面パネル7Lはブラケット11で連結することができる。尚、中央翼6の下面パネル8Lと主翼3Lの下面パネル7Lとの間には必要な部品が組付けられるが、細かい部品の図示は省略されている。
【0018】
また、右側の主翼3Rの下面パネル7L並びに左右の主翼3L、3Rの上面パネル7Uについても、同様に中央翼6の下面パネル8L並びに上面パネル8Uとブラケット11で連結することができる。以下、主に
図3を参照して中央翼6の下面パネル8Lと左側の主翼3Lの下面パネル7Lとの間における連結構造を例に説明する場合があるが、右側の主翼3Rの下面パネル7L並びに左右の主翼3L、3Rの上面パネル7Uと、中央翼6の下面パネル8L並びに上面パネル8Uとの間における各連結構造についても同様である。
【0019】
中央翼6及び主翼3Lを複合材構造体9で構成する場合、中央翼6の下面パネル8L及び主翼3Lの下面パネル7Lは、CFRP等の繊維で樹脂が強化された複合材12で構成される。このため、中央翼6の下面パネル8Lも、主翼3Lの下面パネル7Lも繊維強化樹脂層を積層した構造を有する。
【0020】
中央翼6の下面パネル8Lを構成する第1の複合材12Aには、第1のファスナ13Aを挿入するための第1の貫通孔14Aが設けられる。同様に、主翼3Lの下面パネル7Lを構成する第2の複合材12Bにも、第2のファスナ13Bを挿入するための第2の貫通孔14Bが設けられる。
【0021】
そして、第1の複合材12Aの第1の貫通孔14Aに挿入される第1のファスナ13A及び第2の複合材12Bの第2の貫通孔14Bに挿入される第2のファスナ13Bで、第1の複合材12A及び第2の複合材12Bの両面側で一対のブラケット11が第1の複合材12A及び第2の複合材12Bと連結される。すなわち、第1の複合材12Aの第1の貫通孔14Aに挿入される第1のファスナ13Aで第1の複合材12Aが一対のブラケット11と連結される。他方、第2の複合材12Bの第2の貫通孔14Bに挿入される第2のファスナ13Bで第2の複合材12Bが一対のブラケット11と連結される。
【0022】
その結果、中央翼6の下面パネル8Lを構成する第1の複合材12Aと、主翼3Lの下面パネル7Lを構成する第2の複合材12Bとを一対のブラケット11で連結することができる。
【0023】
ブラケット11で連結される中央翼6の下面パネル8Lの端部及び主翼3Lの下面パネル7Lの端部には、他の部分よりも大きな荷重が局所的に負荷されることになる。このため、ブラケット11で連結される第1の複合材12A及び第2の複合材12Bの各端部には、荷重に耐えるための強度を付与することが必要となる。
【0024】
そこで、板状の第1の複合材12Aの端部における厚さ及び板状の第2の複合材12Bの端部における厚さが、それぞれ他の部分における厚さよりも厚くなるように設計される。具体的には他の部分よりも多くの数の繊維強化樹脂層が積層される。尚、このように追加的な繊維強化樹脂層を当てがうことによって部分的に厚みを増加させた部分はPadUp部とも呼ばれる。
【0025】
一方、航空機1に雷が落ちる場合、雷は左右の主翼3L、3Rの翼端や胴体2の先端又は後端のように鋭利な部分に着雷する確率が高いことが知られている。雷には正イオンのプラズマからなる正極性の雷と、電子又は負イオンのプラズマからなる負極性の雷がある。
【0026】
正極性の雷が航空機1に着雷すると、着雷点が雷電流の入口となる。そして、着雷点から雷電流が航空機1を流れ、着雷点とは別の位置に形成される雷電流の出口から正極性の放電が生じる。逆に負極性の雷が航空機1に着雷すると、着雷点が雷電流の出口となる。そして、着雷点から電子が航空機1を流れ、着雷点とは別の位置に形成される雷電流の入口から負極性の放電が生じる。つまり、航空機1が被雷すると着雷点を入口又は出口とする雷電流が流れ、着雷点と異なる位置から放電が起こる。尚、航空機1を流れる雷電流が分岐し、複数の位置から放電が起こる場合もある。
【0027】
また、雷電流は直進性を有する。このため、
図1に示すように左右の主翼3L、3Rの翼端に正極性の雷が着雷した場合、雷電流は主翼3L、3Rの翼端から胴体2に向かって流れる場合が多い。雷電流が流れると、部品間の隙間においてスパークが生じるリスクが発生する。スパークが主翼3L、3R内の燃料タンクに充填されている燃料に引火すると大事故に繋がる。このため、燃料タンクは十分に絶縁される。
【0028】
その結果、雷電流が主翼3L、3Rの翼端から胴体2に向かって流れた場合、雷電流は主翼3L、3Rの下面パネル7Lを構成する第2の複合材12B又は主翼3L、3Rの上面パネル7Uを構成する複合材12を流れることになる。同様に、負極性の雷が主翼3L、3Rの翼端に着雷した場合においても、電子が主翼3L、3Rの翼端から胴体2に向かって主翼3L、3Rの下面パネル7Lを構成する第2の複合材12B又は主翼3L、3Rの上面パネル7Uを構成する複合材12を流れることになる。
【0029】
従って、左右の主翼3L、3Rの上面パネル7U及び下面パネル7Lと、中央翼6の上面パネル8U及び下面パネル8Lをそれぞれ連結するためのファスナ13の周辺においてスパークが発生するリスクが高くなる。
【0030】
そこで、左右の主翼3L、3Rの上面パネル7U及び下面パネル7L並びに中央翼6の上面パネル8U及び下面パネル8Lを構成する各複合材12の少なくとも一部を導電性複合材20で構成することができる。そして、第1のファスナ13Aや第2のファスナ13B等のファスナ13を挿入するための第1の貫通孔14Aや第2の貫通孔14B等の貫通孔14が形成される導電性複合材20の部分の厚さを、導電性複合材20の他の部分における厚さよりも厚くすることができる。
【0031】
具体例として、
図3に例示されるように第1の複合材12A及び第2の複合材12Bの少なくとも一部をそれぞれ導電性複合材20で構成し、第1の貫通孔14A及び第2の貫通孔14Bが形成される導電性複合材20の部分の厚さを、導電性複合材20の他の部分における厚さよりも厚くすることができる。すなわち、第1の複合材12Aと第2の複合材12Bとを連結するための一対のブラケット11間における導電性複合材20の厚さを、他の部分における厚さよりも厚くすることができる。
図3に示す例では、導電性複合材20の厚さが、第1の貫通孔14Aや第2の貫通孔14B等の貫通孔14から離れた側から貫通孔14に向かって徐々に厚くなっている。
【0032】
そうすると、主翼3L、3Rの上面パネル7U又は下面パネル7Lを雷電流が流れた場合において、雷電流を導電性複合材20に誘導し、かつ第1のファスナ13Aや第2のファスナ13B等のファスナ13が挿入される第1の貫通孔14Aや第2の貫通孔14B等の貫通孔14周辺において雷電流の電流密度を小さくすることができる。より具体的には、雷電流をパネルの板厚方向に流すことができるため、パネルの表層及びファスナ13の周辺部分への雷電流の集中を回避することができる。
【0033】
その結果、第1のファスナ13Aや第2のファスナ13B等のファスナ13と、第1の複合材12A及び第2の複合材12Bとの間におけるスパークの発生リスクを低減することができる。具体的には、ファスナ13と複合材12との間における隙間やファスナ13の頭と複合材12との間においてスパークの発生を防止することができる。
【0034】
このように、ファスナ13周辺において導電性複合材20の板厚を厚くすればファスナ13周辺におけるスパークの発生リスクを低減することができる。しかも、導電性複合材20の板厚を厚くすれば第1の複合材12A及び第2の複合材12B自体の厚さも厚くすることができる。このため、上述したように第1の複合材12A及び第2の複合材12Bの端部に、局所的に大きな荷重に耐えるための強度を付与することができる。
【0035】
導電性複合材20は、導電性樹脂を炭素繊維で強化したCFRPである。このため、導電性複合材20を構成する樹脂と炭素の双方が雷電流の導体となる。導電性樹脂は、カーボンナノチューブ等の炭素を混合した樹脂、金属粉を混合した樹脂或いは導電性高分子を混合した樹脂等で構成することができる。
【0036】
但し、導電性複合材20は高価である。このため、第1の複合材12A及び第2の複合材12Bの一部をCFRPやGFRP等の非導電性複合材21で構成することが材料コストの低減に繋がる。実用的な例として、
図3に例示されるように厚さが一定である板状の非導電性複合材21に厚さが一定でない板状の導電性複合材20を重ね合せて第1の複合材12A及び第2の複合材12Bを構成することができる。これは、主翼3L、3Rの上面パネル7Uを構成する複合材12と、中央翼6の上面パネル8Uを構成する複合材12との連結部分についても同様である。
【0037】
より具体的な例として、パネルのPadUp部分を構成するプライのみに導電性複合材20を使用する一方、PadUp部分以外の部分を構成するプライについては非導電性複合材21を使用した繊維強化樹脂層のハイブリッド積層体で各パネルを構成することができる。
図3に示す例では、パネルの表層を形成するプライと、パネルの中心を形成するプライが非導電性複合材21で構成されており、パネルの表層を形成するプライと、パネルの中心を形成するプライとの間に導電性複合材20で構成されるプライを追加することによってPadUP部が形成されている。このため、高価な導電性複合材20の使用量を低減できる。
【0038】
逆に、第1の複合材12Aや第2の複合材12B等の複合材12の全てを導電性複合材20で構成しても良い。その場合には、雷電流を導電性複合材20に誘導することが容易となり、ファスナ13の周辺においてスパークの発生リスクを一層低減することができる。
【0039】
複合材12に形成される貫通孔14へのファスナ13の挿入方法は、クリアランスフィット方式としても良いし、インターフェアレンスフィット方式としても良い。インターフェアレンスフィット方式はトランジションフィット方式とも呼ばれる。
【0040】
図4は
図3等に示す複合材12の貫通孔14にファスナ13をクリアランスフィット方式で挿入した例を示す縦断面図である。
【0041】
図4に例示されるようにクリアランスフィット方式は、ファスナ13を複合材12と接触させずに貫通孔14に挿入する方式である。このため、貫通孔14の内部においてファスナ13と複合材12との間に円筒状の隙間が形成される。
【0042】
通常は、ファスナ13と複合材12との間に絶縁体30が配置され、ファスナ13が絶縁される。具体的には、ファスナ13に絶縁性シーラントを塗布した状態でファスナ13が貫通孔14に挿入される。或いは、円筒状の絶縁スリーブに挿入した状態で絶縁スリーブとともにファスナ13が貫通孔14に挿入される。また、複合材12の貫通孔14から突出するファスナ13の頭31とファスナ13の先端32に締付けられるドームナット33等も必要に応じて絶縁キャップや絶縁塗料等の絶縁体30で絶縁される。
【0043】
このため、ファスナ13が導電性を有する場合であっても、ファスナ13に雷電流が流れる可能性を低くすることができる。すなわち、ファスナ13を介さない雷電流の経路が形成される確率を上げることができる。
【0044】
図4に例示されるようにクリアランスフィット方式でファスナ13を締付ける場合には、ファスナ13と複合材12との間に隙間が生じるため、ファスナ13と複合材12との間における製造誤差の許容範囲を広げることができる。また、ファスナ13を着脱した場合に複合材12の損傷を回避することができる。
【0045】
尚、導電性複合材20の電気抵抗を、ファスナ13の電気抵抗よりも十分小さくすれば、雷電流はファスナ13よりも導電性複合材20を流れ易くなる。このため、ファスナ13を絶縁するための絶縁体30全体を省略するか或いは絶縁体30を部分的に省略することもできる。その場合、ファスナ13周辺におけるスパークの発生リスクを低減しつつ、複合材構造体9の製造コストを低減することができる。
【0046】
図5は
図3等に示す複合材12の貫通孔14にファスナ13をインターフェアレンスフィット方式で挿入した例を示す縦断面図である。
【0047】
図5に例示されるようにインターフェアレンスフィット方式は、ファスナ13を複合材12と接触させて貫通孔14に挿入する方式である。このため、ファスナ13が導電性を有する場合、ファスナ13が導電性複合材20と電気的に接続される。その結果、ファスナ13は雷電流を通すための導体として使用される。
【0048】
尚、インターフェアレンスフィット方式でファスナ13を締付ける場合においてもクリアランスフィット方式でファスナ13を締付ける場合と同様に、複合材12の貫通孔14から突出するファスナ13の頭31とファスナ13の先端32に締付けられるドームナット33等からスパークが生じないように必要に応じて絶縁キャップや絶縁塗料等の絶縁体30で絶縁しても良い。
【0049】
インターフェアレンスフィット方式でファスナ13を締付ける場合にはファスナ13と複合材12との間に隙間が生じないため、
図4に例示されるようにクリアランスフィット方式でファスナ13を締付ける場合に比べてスパークの発生リスクを一層低減することができる。このため、ファスナ13の着脱が頻繁に行われない場合には、インターフェアレンスフィット方式のメリットを活かすことができる。
【0050】
図4に例示されるようなクリアランスフィット方式で
図3に示す第2のファスナ13Bを第2の複合材12Bに締付ける場合には、主翼3Lの翼端から胴体2に向かって下面パネル7Lの表層から導電性複合材20に流れ込む雷電流が、第2のファスナ13Bを経由せずに導電性複合材20の端部に到達することになる。
【0051】
一方、
図5に例示されるようなインターフェアレンスフィット方式で
図3に示す第2のファスナ13Bを第2の複合材12Bに締付ける場合には、主翼3Lの翼端から胴体2に向かって下面パネル7Lの表層から導電性複合材20に流れ込む雷電流が、第2のファスナ13Bを経由して導電性複合材20の端部に到達することになる。
【0052】
このため、主翼3Lの下面パネル7Lを中央翼6の下面パネル8Lと連結するためのブラケット11が金属等の導体であれば、雷電流はブラケット11を経由して主翼3Lの下面パネル7Lを構成する導電性複合材20から中央翼6の下面パネル8Lを構成する導電性複合材20に流入することになる。すなわち、主翼3Lの翼端から流れてきた雷電流は、ブラケット11を経由して中央翼6に流れ込む。
【0053】
これは、右側の主翼3Rの下面パネル7L又は左右の主翼3L、3Rの上面パネル7Uの翼端を入口として雷電流が流れ込む場合や、負極性の雷の着雷によってパネルの翼端から電子が流れ込む場合においても同様である。つまり、主翼3L、3Rの翼端に雷が着雷した場合、主翼3L、3Rを構成するパネルの表層から導電性複合材20及びブラケット11を経由して中央翼6の導電性複合材20に流れ込む雷電流の経路が形成される。
【0054】
そこで、
図1に例示されるように中央翼6の下面パネル8L及び上面パネル8Uをそれぞれ構成する導電性複合材20を、胴体2を構成するパネルに沿って中央翼6から胴体2の先端及び後端の少なくとも一方まで敷設される導体40と接続することができる。つまり、航空機1の中央翼6を構成する上面パネル8Uや下面パネル8L等のパネルの少なくとも一部を導電性複合材20を含む第1の複合材12Aで構成する一方、航空機1の主翼3L、3Rを構成する上面パネル7Uや下面パネル7L等のパネルの少なくとも一部を導電性複合材20を含む第2の複合材12Bで構成し、中央翼6を構成するパネルの少なくとも一部を構成する導電性複合材20を、端部が航空機1の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に配置された導体40と連結することができる。導体40は雷電流を導く経路となれば金属に限らず、導電性複合材等の所望の材料で構成することができる。
【0055】
そうすると、
図1に示すように主翼3L、3Rから中央翼6に流れ込んだ雷電流又は電子の流れを、航空機1の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に導くことができる。そして、航空機1の機体先端及び機体後端となる胴体2の先端及び後端の少なくとも一方を雷電流又は電子の流れの出口として放電を発生させることができる。その結果、雷電流の流入を回避すべき客室や電子部品等への雷電流の流入を防止することができる。特に、雷電流又は電子の流れが胴体2の先端側及び後端側に向かって分岐すれば、電流密度を低減し、安全性を向上することができる。
【0056】
尚、
図3に例示されるように中央翼6を構成する第1の複合材12Aと、主翼3L、3Rを構成する第2の複合材12Bとの間に形成される空隙に導電性を有する接着剤41を充填したり、或いは第1の複合材12Aと第2の複合材12Bとを導体で連結するようにしても良い。導電性を有する接着剤41は、金属、炭素又は導電性高分子を混合することによって製作することができる。
【0057】
そうすると、ブラケット11以外の部分にも雷電流の経路を形成し、主翼3L、3Rの端部から流れ込む雷電流又は電子の流れを、より適切に中央翼6を構成する導電性複合材20に導くことができる。
【0058】
尚、上述した例では、導電性複合材20を中央翼6と主翼3L、3Rとの間における連結部分に用いる場合について説明したが、複合材12の貫通孔14に、当該複合材12を他の部品と連結するためのファスナ13を挿入する場合においても同様に導電性複合材20を用いることができる。すなわち、複合材12の貫通孔14に挿入されるファスナ13で複合材12を他の部品と連結した複合材構造体9において、複合材12の少なくとも一部を導電性複合材20で構成し、貫通孔14が形成される導電性複合材20の部分の厚さを、導電性複合材20の他の部分における厚さよりも厚くすることによって、雷電流を導電性複合材20に誘導することができる。
【0059】
(効果)
以上の航空機1、複合材構造体9及び雷電流の誘導方法によれば、ファスナ13周辺において雷電流を導電性複合材20に誘導できるため、ファスナ13周辺におけるスパークの発生リスクを低減できる。その結果、スパークが燃料に引火することも防止できる。
【0060】
また、クリアランスフィット方式でファスナ13を取付ける場合には、ファスナ13の絶縁処理を簡易にすることができる。例えば、ファスナ13をキャップシールやスリーブで覆う作業を省略し、航空機1及び複合材構造体9の製造コストを低減することができる。
【0061】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係る複合材構造体9Aを有する航空機1Aの上面図であり、
図7は
図6に示す中央翼6の下面パネル8Lと主翼3Lの下面パネル7Lの連結部分における断面図である。
【0062】
図6及び
図7に示された第2の実施形態における航空機1A及び複合材構造体9Aは、中央翼6を構成するパネルの一部と、主翼3L、3Rを構成するパネルの一部を共通の繊維強化層を積層して成る導電性複合材20で構成した点と、左右の主翼3L、3Rを構成する導電性複合材20同士を電気的に接続した点が第1の実施形態における航空機1及び複合材構造体9と相違する。第2の実施形態における航空機1A及び複合材構造体9Aの他の構成及び作用については第1の実施形態における航空機1及び複合材構造体9と実質的に異ならないため同一の構成又は対応する構成については同符号を付して説明を省略する。
【0063】
第2の実施形態における航空機1A及び複合材構造体9Aでは、第1の実施形態と同様に、航空機1の中央翼6を構成する上面パネル8Uや下面パネル8L等のパネルの少なくとも一部が導電性複合材20を含む第1の複合材12Aで構成される一方、航空機1の左右の主翼3L、3Rを構成する上面パネル7Uや下面パネル7L等のパネルの少なくとも一部がそれぞれ導電性複合材20を含む第2の複合材12Bで構成される。
【0064】
そして、
図7に例示されるように中央翼6の下面パネル8L等のパネルを構成する第1の複合材12Aの少なくとも一部と、主翼3L、3Rの下面パネル7L等のパネルを構成する第2の複合材12Bの少なくとも一部が、共通の繊維強化層を積層して成る導電性複合材20で構成される。このため、中央翼6のパネルと、主翼3L、3Rのパネルが、ブラケット11のみならず、導電性複合材20でも連結される。
図7に示す例では、PadUp部として非導電性複合材21に積層される導電性複合材20が中央翼6のパネルと、主翼3L、3Rのパネルとの間で共通となっている。
【0065】
そのため、主翼3L、3Rの翼端から中央翼6に向かう雷電流は、ブラケット11のみならず導電性複合材20を経由して中央翼6に流入する。また、第1の実施形態と同様に、中央翼6を構成する第1の複合材12Aと、主翼3L、3Rを構成する第2の複合材12Bとの間に形成される空隙に導電性を有する接着剤41を充填すれば、接着剤41も雷電流の経路とすることができる。
【0066】
更に、
図6に示すように、左右の主翼3L、3Rのパネルを構成する導電性複合材20の間を、中央翼6のパネルの少なくとも一部を構成する導電性複合材20を含む導体50で連結することができる。導体50は、導電性複合材20のみで構成しても良いし、金属線を用いて構成しても良い。
【0067】
そうすると、左右の主翼3L、3Rの一方の翼端から中央翼6に流入した雷電流又は電子の流れを他方の主翼3L、3Rの翼端に誘導することができる。すなわち、左右の主翼3L、3Rの一方の翼端が着雷点となった場合、左右の主翼3L、3Rの他方の翼端から放電を発生させることができる。
【0068】
もちろん、第1の実施形態と同様に、中央翼6を構成するパネルの少なくとも一部を構成する導電性複合材20を、端部が航空機1の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に配置された導体40と連結することによって、主翼3L、3Rから中央翼6に流れ込んだ雷電流又は電子の流れの一部を、航空機1の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に導くようにしても良い。特に中央翼6を構成する各導電性複合材20を、端部が航空機1の機体先端及び機体後端の少なくとも一方に配置された導体40及び中央翼6を構成する導電性複合材20間を接続する導体50の双方と連結すれば、雷電流が分散する確率を上げることができる。
【0069】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。
【0070】
例えば、上述した各実施形態では、複合材構造体9、9Aが航空機構造体である場合について説明したが、複合材構造体9、9Aを自動車用の構造体やその他の構造体としても良い。