【文献】
Journal of the Science of Food and Agriculture,1999年,Vol.79, p.1557-1564
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸またはエタノールを遊離させる微生物を含む発酵スターターカルチャーを好適な培養培地に提供する段階、該培養培地にジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を加える段階、該微生物を培養する段階、および標的物質を得る段階を含む、標的物質を調製するための培養培地の発酵におけるラグタイム(lag time)を短縮するための方法であって、該標的物質がヨーグルトではなく、該発酵により酸またはエタノールの生成が生じ、該ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質がジャガイモ由来の5〜25 kDaの塩基性プロテアーゼ阻害物質である、前記方法。
前記発酵スターターカルチャーが、サッカロミセス(Saccharomyces)属、カンジダ(Candida)属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、デッケラ(Dekkera)属、またはブレタノマイセス(Brettanomyces)属からの微生物を含む、請求項2記載の方法。
前記標的物質が、ビール、ワイン、シャンパン、スパークリングワイン、シードル、ハチミツ酒、ウイスキー、酒、またはバイオエタノールからなる群より選択される、請求項2〜4のいずれか一項記載の方法。
前記発酵スターターカルチャーが、アセトバクター(Acetobacter)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、コクリア(Kocuria)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ペディオコッカス(Pediococcus)属、デバリオミセス(Debaryomyces)属、ペニシリウム(Penicillium)属、またはロイコノストック(Leuconostoc)属からの微生物を含む、請求項6記載の方法。
前記標的物質が、チーズ、クレームフレーシュ、サワークリーム、ソーセージ、ザウアークラウト、ピクルス、またはビネガーからなる群より選択される食品である、請求項7記載の方法。
【背景技術】
【0002】
アルコールを放出する微生物は他の微生物を忌避し、食品品質を保持するため、および/またはアルコール飲料を作るために使用されてきた。従って穀物、米、または液果類(うち特に重要なものはブドウ)のような植物の材料が、発酵工程によって例えばビール、ウイスキー、酒またはワインに転換されてきた。この目的のためには、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属またはカンジダ(Candida)属の酵母のような様々なタイプの酵母がよく知られている。
【0003】
また発酵工程は、食品自体を得るためではなく、微生物によって産生された化合物を単離する目的でも用いられてきた。そのような場合の標的産物は、例えばビール、チーズまたはソーセージのような形態の完全に変換された発酵フィードではなく、微生物によって放出された化合物である。この目的のためには、発酵後に炭素-窒素化合物、微生物、および多くの他の成分をさらに含む混合物から該化合物を単離しなければならない。本工程は例えば、エタノール産生微生物をフィードするために植物材料が使用され、産生されたエタノールがフィードから単離されるバイオエタノールの生産において効率的に適用されてきた。本工程において使用される典型的な微生物はサッカロミセス(Saccharomyces)属のような酵母であるが、本目的のためにはザイモモナス(Zymomonas)種およびシゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)種もよく知られている。
【0004】
また、乳を含むフィードカルチャーにおいて酸を放出する微生物を使用し、結果的に乳よりも貯蔵寿命が長い、例えばチーズを得られることも周知されている。同様に、酸放出微生物は、例えばソーセージ、ザウアークラウトまたはピクルスの形成によって、肉または野菜の貯蔵寿命を延ばすことを可能にする。食品生産において使用される酸放出微生物の周知の例は、以下の属の微生物である:アスペルギルス(Aspergillus)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、ストレプトコッカス(Streptococcus)およびアセトバクター(Acetobacter)。
【0005】
典型的な発酵工程は3つの期に区別できる。第1期は微生物が発酵フィードと組み合わされた際に始まる。微生物はその新しい環境に適応し、ペプチド、アミノ酸、ビタミンおよびミネラルのような栄養を吸収し始める。本期において微生物は細胞分裂および増殖のために、エネルギー消費のために、ならびに貯蔵物質、構成要素または栄養素を作るために必要な酵素を産生し、その新しい環境に適応する。しかし本期においては増殖、または発酵において何かが起こっているという目に見える他の指標がほとんど認められない。このため本期は誘導期と呼ばれる。
【0006】
何も起こっていないように見えるにしても、微生物がその環境に適応するのは誘導期においてであり、それは微生物の健康のために重要であるため、発酵工程にとって誘導期は非常に大切である。結果として生じる産物の品質は、微生物集団の健康によって決まる。
【0007】
微生物がその環境に適応した際に第2期が始まる。本期は、非基質制限性の増殖によって特徴付けられ、対数期と呼ばれる。対数期の間、微生物は細胞分裂によって増殖し始め、従って対数関数的に増加する。本期において微生物はその代謝特性の結果として典型的に、例えば酸および/またはアルコールのようなオーバーフロー産物を産生する。
【0008】
対数期末期には、好適な栄養の量がしばしば減少し、発酵混合物では対数増殖がもはや維持できなくなる。従って、増殖速度が低下し、発酵は静止期に入る。本期においては、細胞分裂はなおも起こるが、増殖はもはや対数関数的ではなく、発酵混合物は存在する全ての化合物の間でゆっくりと平衡に達する。全ての状況が適切であれば、これによってバランスの良い風味および匂いを有する高品質の食品、または関心対象の化合物に非常に富んだ混合物が得られる。
【0009】
これらの段階に必要とされる時間は非常に可変的であり、使用される微生物のタイプ、発酵フィードのタイプ、温度、および多くの他のパラメーターに依存する。これら別個の期を前提として、標的物質、例えば食品(ヨーグルトを除く)、およびエタノールのような化学物質の生産は一般的にバッチ式工程となる。バッチ式工程について共通であるように、コストにおいて重要となる要素は産物ができるまでに必要とされる時間である。
【0010】
生産時間において重要な要素は誘導期である。本期においては、実際の発酵工程の準備が行われる。微生物の増殖にとって適切な培地条件を作ることを除けば、関心対象の産物の産生には全く寄与しないため、ラグタイム(lag time)をより短くすることが発酵工程の経済性に大きな影響を与えることとなる。しかし誘導期は、微生物集団の健康を決定するために非常に重要であり、ひいては想定される産物の品質のために重要である。経るべき誘導期、および対数期に到達するまでの発酵工程に必要とされる時間はラグタイムと呼ばれる。
【0011】
ラグタイムを短縮する試みは以前にもなされている。ある選択肢では、微生物が生産段階に適応しており、より長い時間対数期であり続ける半連続式発酵工程を使用する。しかし、産物の最終的な味および/または品質を決めるには静止期が重要であり、このような半連続式工程においては静止期が省かれてしまうため、本方法は多くの工程にとって好適ではない。
【0012】
また、発酵の培地条件に既に適応しているスターターカルチャーと呼ばれる微生物の混合物を加えることも可能である。しかし、小規模プレミックス微生物フィードにおいては大規模発酵槽の環境を模することが難しいため、この方法では別の問題が生じる。より大量のプリカルチャー(接種菌液)を使用することは可能ではあるが、生産工程やプリカルチャー段階のコストに大きな影響を与えてしまう。従って、限られた量のスターターカルチャーを用いて、信頼できる方法でできる限り、本技術で可能とされているものよりもさらにラグタイムを短縮することが好ましい。
【0013】
ラグタイムを短縮するために、例えば追加のペプチドのような、容易に輸送できる、およびエネルギー効率の高い追加の栄養をプレミックスに加えることも可能である。しかしこれによって、例えば異味や着色に関わる付加的なコストや問題が生じる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
詳細な説明
本発明は、該標的物質がヨーグルトではなく、該発酵により酸またはエタノールの生成が生じる方法であり、該方法が、酸またはエタノールを遊離させる微生物を含む発酵スターターカルチャーを好適な培養培地に提供する段階、該培養培地にジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を加える段階、該微生物を培養する段階、および該標的物質を得る段階を含む、標的物質を調製するための培養培地の発酵におけるラグタイムを短縮する方法に関する。ジャガイモプロテアーゼ阻害物質アイソレート(「PPII」)のような少量のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の発酵フィードへの添加によって発酵のラグタイムが有意に短縮されることが見出され、発酵産物の生産における経済的利益がある。必要とされるジャガイモタンパク質の量は標的物質の味に影響しない程度に十分少なく、ラグタイムの短縮はバッチ式工程および半連続式工程のいずれにおいても起こる。本発明の文脈におけるラグタイムの短縮は、「刺激活性」(SA)と呼ぶこともできる。本発明は広範なpH域および温度域において適用することができる。
【0017】
本方法は、ヨーグルトではない標的物質を調製するための培養培地の発酵におけるラグタイムを短縮する方法に関する。以下においては、明確に言及されてもされなくても、「食品」または「標的物質」という語は常にヨーグルトを除外するものと理解される。
【0018】
本文脈においてヨーグルトは、乳酸菌および酵母のようなケフィアにおいて存在する生物、ならびにラクトバチルス、ラクトコッカス、ビフィドバクテリウム・ブレベ(Bifidobacterium breve)、ストレプトコッカス・サーモフィリス(Streptococcus thermophilus)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトコッカス・クレモリス(Lactococcus cremoris)、例えばラクトコッカス・ジアセチラクティス(Lactococcus diacetylactis)とロイコノストック・クレモリス(Leuconostoc cremoris)の混合物を含む開始カルチャーを用いた発酵を経た、例えば牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、ヤク乳、ウマ乳、トナカイ乳、ヘラジカ乳、水牛乳、ロバ乳および/またはラクダ乳のような乳、好ましくは牛乳の発酵によって得られる酸性、白色、粘性であるが流動性を有する乳製品と定義付けられる。ヨーグルトにおいては、粘性は一般的に菌体外多糖の存在によって生じ、他の発酵乳製品のように沈殿タンパク質によるものではない。乳からヨーグルトを得るための培養の時間や条件は周知されており、とりわけ使用される微生物のタイプおよびヨーグルトのタイプに依存する。例えばチーズ、サワークリーム、クレームフレーシュ、クワルクおよび発酵乳清のような、ヨーグルトではない他のタイプの発酵乳製品が存在する。
【0019】
微生物がフィードする培養培地中の成分が発酵のための基質である。これは発酵フィード、発酵ブロスまたは総じて培養培地と呼ばれる。培養培地は一般的に、例えば塩類のように発酵または処理工程において補助し得る他の化合物をさらに含む。培養培地は一般的に水性である。培養培地は、培養培地中に該基質が含まれる、食品物質であることが可能である。これは例えば培養培地がクリームまたは凝乳などであり得るような、食品の発酵の場合である。または、培養培地は様々な成分が基質として加えられた水性培地であってもよい。そのような成分は、窒素源、リン源および炭素源を基質として含み得る。窒素源は好ましくはアンモニア、硝酸塩、アミノ酸、ペプチドおよび/またはタンパク質を含み得る。炭素源は好ましくはトリグリセリドまたは炭水化物、例えば糖、糖アルコール、デンプンおよび/またはセルロースである。リン源は好ましくは無機モノ-、ピロ-、もしくはポリリン酸塩、リン酸化糖、リン脂質またはヌクレオチドである。
【0020】
本発明においては、標的物質は培養培地の発酵後に生じた培地全体であってよい。これはしばしば標的物質が食品である場合に当てはまる。または、標的物質は、培養培地の発酵後に生じた全培地中に含まれる成分であってよい。後者の場合、標的物質がその後、結果的に生じた培地から単離されることが好ましい。これはしばしば標的物質がエタノールまたは酸のような化学物質である場合に当てはまる。
【0021】
即ち、本発明は、該標的物質がヨーグルトではなく、発酵により酸またはエタノールの生成が生じる、標的物質を調製するための培養培地の発酵におけるラグタイムを短縮する方法に関する。微生物による酸またはエタノールの生成は当技術分野においては公知であり、発酵によって標的物質を得るためにそのような生成をどう適用するかは周知されている。
【0022】
好ましくは、標的物質は食品であり、より好ましくは、エタノールの生成を生じる発酵を用いて産生される食品である。または、本発明は結果的に酸、好ましくは乳酸および/もしくは酢酸を生成する発酵に関する。好ましい態様においては、そのような発酵によって該酸を含む食品が得られる。別の態様においては、標的物質は、標的物質として、酸、好ましくは乳酸または酢酸である。
【0023】
好ましくは、本発明は微生物の増殖がペプチド制限性であるような発酵工程に適用される。本発明の範囲について、ペプチドはタンパク質の小断片であり、5〜30個のアミノ酸からなる;そのような断片は「栄養ペプチド」とも呼ばれる。そのようなペプチドは溶液中において遊離して生じるため「遊離栄養ペプチド」とも呼ばれ得る。
【0024】
ペプチド制限性の発酵とは、遊離栄養ペプチドの濃度は制限されているが、(微量元素)ミネラル、炭水化物およびタンパク質のような他の必須の栄養は制限なく利用できるような発酵である。従って、ペプチド制限性の発酵は発酵ブロス中に存在する遊離栄養ペプチドの量が微生物の増殖を制限するような発酵である。このペプチドの制限はプロテアーゼ/ペプチダーゼによる栄養ペプチドのアミノ酸への分解速度がタンパク質からの栄養ペプチドの形成速度より速い場合に生じる。少量のペプチドの添加による増殖およびラグタイムへの効果を観測することによって、発酵がペプチド制限性かどうかを試験することができる。栄養ペプチドの添加によって実質的に発酵速度が上がらない場合、該発酵はペプチド制限性ではない。栄養ペプチドの添加によって発酵速度がより上がる場合は、該発酵はペプチド制限性と呼ぶことができる。
【0025】
これは、利用可能な栄養ペプチドの濃度に発酵速度が依存することを意味する。ペプチド制限性の発酵の場合、微生物の対数増殖の維持または適応のための栄養ペプチドが不十分となる。これによってラグタイムが長くなる。
【0026】
本発明の方法においては、特にペプチド制限性の発酵について、そして特に十分なタンパク質が利用可能である場合に、比較的少ない量のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の添加によってラグタイムが短縮されることが認められる。
【0027】
特にペプチド制限性の発酵に関する方法においてラグタイムが短縮されることは予想外である。発酵のラグタイムを決定する重要な要因は培地中のタンパク質の5〜30アミノ酸の栄養小ペプチドへの分解であることは周知のことである。この転換は広範な種類のプロテアーゼによってもたらされる。周知のプロテアーゼ阻害物質の機能は、タンパク質の栄養ペプチドへの分解を担うプロテアーゼを効果的に阻害することである。そのため、いかなる供給源のものであれ、プロテアーゼ阻害物質を添加することによって、タンパク質の酵素分解および関連する栄養ペプチドの形成が遅くなることにより、ラグタイムが延長することが予測される。しかし、実際にはその逆のことが起こり、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の添加によってラグタイムが延長ではなく短縮することがここで見出される。
【0028】
本文脈におけるラグタイムとは、微生物が新しい環境、即ち培養培地に適応するために必要とされる時間の継続と定義付けられる。それは、誘導期に必要とされる継続時間である。
【0029】
代謝の指標またはバイオマスの形成がモニタリングされるような指標を用いた様々な方法によって発酵工程をモニタリングすることができる。例えば、ガスの生成と関連する発酵の場合においては(CO
2またはメタンのような)ガスの産生が好適な代謝アウトプットパラメーターとなり得る。または、光学密度(600 nmにおけるOD、OD600)によって、存在する微生物の量の定量化が与えられ、好適なアウトプットパラメーターが提供され得る。また、例えば標的物質のような発酵の主要な産物が培養培地とは異なる密度を有する場合は、培養培地の密度も好適となり得る。これは、例えば結果的にアルコールの生成が起こるような発酵に当てはまる。酸の生成が起こる発酵の場合、pHが好適なアウトプットパラメーターを与え得る。当業者は、発酵の進行を測定し、誘導期に必要な時間を決定する数多の方法を見出すことができる。
【0030】
発酵は一般に、当技術分野においては周知であるように、光学密度、ガス生成、培養培地の密度またはpHのようなアウトプットパラメーターのS字型曲線を通して進行する。本発明においては、対数増殖期における中間点に達するまでの時間はその二次導関数から平滑化S字型曲線における変曲点を計算することによって見出される。または、代謝進行の指標としてpHを用いた場合、指数曲線の中間のpH値を取り、該pHに達するまでの時間を記録する。ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を加えない発酵のラグタイムを、適切な量のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を加えた同じ発酵と比較することによってラグタイムの短縮を決定できる。絶対的なラグタイム短縮は一般に、短縮された時間として定量化される一方、相対的なラグタイム短縮は「%」として定量化される。
【0031】
天然のジャガイモタンパク質は暫定的に3つのクラス、即ち(i)高度に相同な43 kDaの酸性糖タンパク質であるパタチンファミリー(ジャガイモタンパク質の40〜50重量%)、(ii)単離された場合にジャガイモプロテアーゼ阻害物質アイソレートまたは「PPII」と呼ばれる5〜25 kDaの塩基性プロテアーゼ阻害物質(ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質;ジャガイモタンパク質の30〜40重量%)、および(iii)ほとんどが高分子量タンパク質である他のタンパク質(ジャガイモタンパク質の10〜20重量%)に分けることができる(Pots et al., J. Sci. Food. Agric. 1999,79,1557-1564)。
【0032】
PPIIはその分子量に基づいた異なる群に分けることができる。プロテアーゼ阻害物質の異なる群はプロテアーゼ阻害物質I(分子量約39 kDa)、カルボキシペプチダーゼ阻害物質(分子量約4100 Da)、プロテアーゼ阻害物質IIaおよびIIb(分子量約20.7 kDa)、ならびにプロテアーゼ阻害物質A5(分子量約26 kDa)として同定される。総ジャガイモタンパク質におけるこれらの異なるプロテアーゼ阻害物質群の比率はジャガイモの品種に依存する。
【0033】
本発明の範囲についてジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は、任意のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質、または、上記に定義付けられるような1つもしくは複数のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質もしくは阻害物質群を包含する、異なるジャガイモタンパク質の任意の混合物を含む。ジャガイモプロテアーゼ阻害物質アイソレート(PPII)はジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を含むアイソレートである。好ましくは、本発明に従うジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は本質的に未変性である。
【0034】
PPIIは、例えば沈降法、吸着法、60〜80℃における長くても30分間の熱分画、膜分離、硫酸アンモニウムまたは飽和脂肪酸または他の成分を用いた沈降法、限外濾過またはゲル濾過などの濾過技術のような任意の公知の方法において得ることができる。ジャガイモ液汁中の他のタンパク質のほとんどは熱によって変性するが、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は比較的熱安定性であるので熱処理後も残存し単離できるため、熱分画では結果的に未変性のジャガイモプロテアーゼ阻害物質アイソレートが生じる。
【0035】
本発明においては好ましくはPPIIが使用される。これは好ましくは、ジャガイモ液汁(PFJ)またはジャガイモ水(PFW)からのプロテアーゼ阻害物質の単離についての詳細な説明が述べられる、その内容が参照により本明細書に組み入れられるWO2008/069650において説明されるように得られる。
【0036】
該工程は、ジャガイモ液汁をpH7〜9における二価金属カチオンによる凝集に供する段階、および凝集させたジャガイモ液汁を遠心分離し、それにより上清を形成させる段階を伴う。その後、ジャガイモタンパク質に結合できる吸着剤を用いたpH11未満、温度5〜35℃で操作される拡張床吸着クロマトグラフィーに該上清を供し、それにより未変性のジャガイモタンパク質を吸着材に吸着させる。ある量の未変性ジャガイモタンパク質に結合するカラム材料は例えばAmersham Streamline(商標)Direct CST I(GE Healthcare)、Fastline吸着剤(Upfront Chromatography A/S)、マクロ多孔性吸着剤およびイオン交換吸着剤のような混合モードの吸着剤を含む。または、本発明における使用に好適なPPIIの単離には、欧州特許出願第12175944.3号において開示されるもののようなリガンドを含む吸着剤が非常に好ましい。
【0037】
最終的に、溶出剤を用いて少なくとも1つの未変性のジャガイモタンパク質アイソレートが吸着剤から溶出される。本方法では何よりも、最小限の変性タンパク質を有し、安定した可溶性を特徴とする、単離された高純度の未変性のPPIIが生じる。
【0038】
ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の量は、Spelbrink et al., The Open Food Science Journal 2011(5)p42-46 “Quantitative Determination Trypsin Inhibitory Activity in Complex Matrices”またはISO 14902:2001E“Animal Feed Stuffs-Determination of soya products”において説明される方法に従って、トリプシンに対する阻害効果を測定することにより決定できる。
【0039】
PPIIのようなジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を用いる代わりに、PPIIから単離され、さらに精製されたタンパク質画分を使用することが可能である。好ましいタンパク質画分は
・pH8において可溶性である
・pKa<8を有する
・TIA活性およびCTIA活性の双方を有するが、いずれの活性も80℃で30分間の熱処理後には残存しない。それにも関わらず、少なくとも90℃まではラグタイムの短縮能が失われていないままであり、そして分子量は17.5〜18.2kDaである。
【0040】
Spelbrink et al, The Open Food Science Journal 2011(5)p42-46“Quantitative Determination Trypsin Inhibitory Activity in Complex Matrices” またはISO 14902:2001E“Animal Feed Stuffs-Determination of soya products”において説明される方法に従って、該タンパク質のトリプシンに対する阻害効果を測定することによってTIA活性を決定する。
【0041】
該タンパク質のキモトリプシンに対する阻害効果を測定することによってCTIA活性を決定する。使用される方法は本質的に、TIAについて説明される方法と同じであるが、キモトリプシンのより低い特異活性を補うためにはより高い酵素用量が必要となる。
【0042】
ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を用いる利点は、その大多数が非常に熱安定性であることである。ラグタイムの短縮の原因を担うジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質アイソレートにおける活性画分は温度60℃まで、好ましくは70℃まで、より好ましくは80℃まで、そして最も好ましくは90℃まで、少なくとも15分間、好ましくは少なくとも90分間その未変性の状態を保持する。これにより、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を発酵工程の異なる時点で添加することが可能になる。
【0043】
ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は、スターターカルチャーの添加の前、後、もしくは最中に培養培地に加えることができる、または、例えばスターターカルチャーもしくは培養培地に加えられる別の成分への添加により、間接的に培養培地に加えることができる。または、発酵前に発酵フィードが過熱される工程において、後に培養培地になる、もしくはその一部になる発酵フィードに加えることができる。これは例えば、上記に定義付けられる多くの食品の発酵工程において一般的な、発酵以前に低温殺菌または滅菌を必要とする工程の場合である。
【0044】
説明されるように、発酵工程でジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質が非常に低い濃度において機能性であることは本発明のさらなる利点である。特に、1 g/l未満、好ましくは0.5 g/l未満、より好ましくは0.1 g/l未満、なおもより好ましくは0.05 g/l未満のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の添加は、本発明に従って発酵工程におけるラグタイムを短縮するのに十分である。本発明に従って発酵のラグタイムを短縮するためには、最低量で少なくとも0.01 g/l、好ましくは0.005 g/l、より好ましくは0.001 g/lのジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質が必要とされる。
【0045】
ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の好ましい濃度は、例えば5 g/l〜0.001 g/l、好ましくは5 g/l〜0.05 g/l、より好ましくは5 g/l〜0.01 g/l、例えば1 g/l〜0.01 g/lである。本文脈におけるジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の濃度は、培養培地1リットル当たりのジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質のg数として表される。
【0046】
これらの濃度において、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は標的物質に味を全く与えず、それは特に標的物質が食品である場合に付加的な利点である。さらに加えて、このように低い濃度のジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は標的物質の官能特性に検出可能な影響を与えない。
【0047】
広範なpH域における発酵工程でジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質が機能性であることも本発明の利点である。特に、培養培地におけるpHは6.7まで、好ましくは8.0まで、より好ましくは10.0までになることが可能である。同様に、pHは4、好ましくは3、より好ましくは2程度まで低いことも可能である。様々なpHの培養培地の発酵による加工が可能になるため、広範なpH域におけるジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の安定性は有利である。さらにそれにより、酸が遊離される発酵について、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を発酵を通して添加することによって恩恵を得ることが可能になる。
【0048】
さらに、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質が非アレルギー性であることが本発明の明らかな利点である。これは、他のタンパク質に対してアレルギーの人が操作する発酵工程においても使用できるということを意味する。またこれは、標的物質が食品であり、該食品がアレルギーを持つ人にもアレルギーショックのリスクなしに消費され得るような発酵工程においても使用できるということを意味する。
【0049】
さらに、少なくとも10 g/L、好ましくは50 g/L、より好ましくは250 g/Lまでの濃度では、該タンパク質の溶液、好ましくは水性溶液が透明である、または、少なくとも実質的に濁りのないことがジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の利点である。これらの濃度は好ましくは溶液pH2〜5、好ましくは2〜4、より好ましくは2.5〜3.5において得られる。透明または実質的に濁りのないジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質溶液は、特に標的物質が食品である場合に、標的物質の簡便な濾過滅菌および魅力的な外見を可能にする。
【0050】
本発明の文脈における発酵スターターカルチャーは、上記に定義付けられるような1つまたは複数の微生物を含む、ある種の発酵を得るために適切な組成物からなるカルチャーである。スターターカルチャーは単一の微生物タイプを含み得る、または2つもしくはそれ以上の微生物を含み得る。
【0051】
発酵によって標的物質を調製するための発酵スターターカルチャー中に存在する微生物は、酸またはエタノールを遊離させるものである。そのような微生物は周知のものである。一般に、微生物は細菌、酵母、菌類および藻類からなる群より、好ましくは細菌、酵母または菌類より選択される。
【0052】
例えば、好適な細菌は、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、カルノバクテリウム(Carnobacterium)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属およびペディオコッカス(Pediococcus)属などの乳酸菌を含む、グラム陽性菌であるラクトバチルス(Lactobacillales)目からのもの、または、ビフィドバクテリウム(Bifidobacteriales)目からのものであり得る。しかし、本発明の細菌はこれらの例には限定されない。
【0053】
好適な菌類、例えば酵母と分類されるものは、例えばサッカロミセス(Saccharomycetales)目からのものであり、サッカロミセス属、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属、クロエケラ(Kloeckera)属およびカンジダ属からの種を含む。しかし、本発明の酵母はこれらの例には限定されない。
【0054】
好ましい酵母は、サッカロミセス・セレビシエのようなサッカロミセス属からの酵母を含む。
【0055】
他の菌類は例えばペニシリウム(Penicillium)属、モルチエレラ(Mortierella)属、アスペルギルス属、フザリウム(Fusarium)属(例えばフザリウム・ベネナタム(Fusarium venenatum))、リゾプス(Rhizopus)属およびアガリクス(Agaricus)属からのような種を含む。しかし、本発明の菌類はこれらの例には限定されない。
【0056】
一般に、本発明の方法において使用するのに好適な微生物は、バチルス(Bacilli)綱、アクチノバクテリア(Actinobacteria)綱またはサッカロミセス(Saccharomycetes)綱から選択される。好ましくは、好適な微生物はラクトバチルス目、ビフィドバクテリウム目およびサッカロミセス目から、より好ましくはストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属およびサッカロミセス属から選択される。
【0057】
リゾプス、アスペルギルス、ケカビ(Mucor)、アミロミセス(Amylomyces)、エンドマイコプシス(Endomycopsis)、サッカロミセス、ハンセヌラ・アノマーラ(Hansenula anomala)、ラクトバチルス、およびアセトバクターが好ましい。
【0058】
培養培地は発酵、標的物質のタイプおよび関係する微生物のタイプに適したものでなくてはならない。従って、培養培地は液体または固体、半固体、微粒子状または粘性であってよく、基質として例えばタンパク質および/または炭水化物のような好適な栄養を含まなくてはならない。当技術分野においては好適な栄養は周知されており、タンパク質、ペプチド、脂質、微量化合物、微量元素、ミネラル、ならびにデンプン、多糖類および糖類などの炭水化物のような、微生物が増殖するために必要な任意の成分であり得る。
【0059】
微生物の培養は好適な培養条件下にて実施される。発酵中の培養の条件は関心対象の標的物質について好適な発酵培養として公知のものでよい。培養条件は好気的または嫌気的であることが可能であり、好気的の場合、低い、通常の、または高いエアレーションで行うことが可能である。培養は固体状態または液体状態の培養であってよく、どんな規模でも、バッチ法または半連続式法工程のいずれでも行うことができる。
【0060】
発酵中の温度は-10℃〜+60℃に、好ましくは13〜45℃に変化し得る。好ましくは、温度は一定に保たれる。pHはpH2〜10に、好ましくは4〜6.7に変化し得る。培養時間には大きなばらつきがあり、培養のタイプ、特に標的物質に依存する。当業者は特定の標的物質についての好適な培養時間を十分認識している。従って、培養時間は0.5時間〜10年間またはそれ以上に変化し得る。
【0061】
酸素レベルは、存在しない場合(嫌気的発酵)から存在する場合(好気的発酵)まで変化し得る。発酵工程は撹拌および静置のどちらもあり得る。
【0062】
ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は発酵前の任意の時点で添加することができる。そのような添加は、濾過または低温殺菌されたタンパク質濃縮溶液としてジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を培養培地と組み合わせ、その後スターターカルチャーを加えることによって、またはスターターカルチャーを未変性のジャガイモタンパク質と組み合わせ、該混合物を培養培地と組み合わせることによって行うことができる。または場合によっては、全ての成分を別々に、もしくは培養培地のさらなる構成要素と組み合わせて加えることができる。そのような、培養培地のさらなる構成要素は、例えば炭水化物、微量元素、ミネラル、タンパク質またはペプチドを含み得る。
【0063】
もっと好ましい態様においては、加熱段階前にジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を培養培地に加えることができる。これは、スターターカルチャーを添加する以前に低温殺菌または滅菌のために培養培地が加熱される場合に有利である。ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の有利な熱安定性によって、そのような加熱の後でさえもジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質はその未変性の状態が保持される。それによってその天然の生化学的機能が保持され、発酵のラグタイムは加熱後でさえも短縮される。
【0064】
好ましくは未変性の状態における、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質の添加は、発酵のラグタイムを短縮する効果がある。ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を添加しない同じ発酵法と比較して少なくとも10%、好ましくは少なくとも25%、より好ましくは少なくとも50%、もっと好ましくは少なくとも60%、および最も好ましくは少なくとも90%のように、培養および培地に依存して、ラグタイムは有意に短縮される。
【0065】
標的物質を得る(または「採取する」)段階は、発酵後の標的物質の単離について当技術分野において公知の任意の形態であってよい。特に、培養培地を採取することによって食品全体を得られる。該食品全体は1つまたは複数の後処理を適切に経ることができる。または、例えば蒸留、濾過、抽出もしくは当技術分野において公知の他の方法によって発酵カルチャーから標的物質を単離することができ、任意でさらに、任意の公知の方法によって精製することができる。このようにして、十分な純度の標的物質を得ることができる。
【0066】
エタノールの生成を生じる発酵
本発明のある態様においては、発酵によって結果的にエタノール(アルコール)が生成される。好ましくは、発酵法によってエタノールが生成される場合、標的物質はワインまたはスパークリングワイン、ビール、ウイスキー、シードル、ハチミツ酒、酒またはバイオエタノールである。好ましい標的物質はワイン、ビールおよびバイオエタノールであり、最も好ましくはビールである。別の好ましい態様においては、好ましい標的物質は食品である。
【0067】
本態様における好ましい微生物はサッカロミセス属、カンジダ属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属、デッケラ(Dekkera)属またはブレタノマイセス属からのもの、好ましくはサッカロミセスである。どの微生物を使用したどのタイプの発酵がエタノールの生成を生じるかということは一般的な知見である。
【0068】
本態様における好ましい培養培地は、エタノールベースの食品を生じる発酵における基質として食品グレードの穀物、米、マメ、ハチミツ、または果実(好ましくは液果、より好ましくはブドウ)、好ましくは穀物または液果のような植物材料を含む。もっと好ましい態様においては、植物材料を含む培養培地は液体の培地である。
【0069】
エタノールを生成する発酵は一般的に以下のように達成できる。発酵は、炭水化物を含む好ましくは食品グレードの穀物、米、マメ、ハチミツ、または果実のような植物材料を含む培養培地中にサッカロミセス属、カンジダ属、ザイゴサッカロミセス属、デッケラ属またはブレタノマイセス属からの1つまたは複数の微生物を含む発酵スターターカルチャーを提供する段階を含む。ラグタイムを短縮するために該培養培地をジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質と組み合わせ、該培養培地において該微生物を培養し、該食品産物を得る。
【0070】
好ましくは発酵が主にエタノールを産生することに関するある態様において、発酵は嫌気的である。これは、例えばビール、ウイスキー、酒、ハチミツ酒、ワインまたはバイオエタノールを生じる穀物、米、マメ、ハチミツまたは果実の発酵の場合である。
【0071】
標的物質がワインまたはスパークリングワイン(シャンパンを含む)の場合、好適なスターターカルチャーはサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地は液果または液果の液汁、好ましくはブドウの液汁または他の果実の液汁を基質として含む。培養培地として役立てる液汁を得るために果実を破砕、圧搾または漬け込むことができる。任意で、液汁を酵素的に処理し、遊離糖含量を増加させること、または望ましくない物質を取り除くことができる。
【0072】
標的物質がビールの場合、好適なスターターカルチャーはサッカロミセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)またはビール酵母(Saccharomyces pastorianus)のようなサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地は麦汁または他の炭水化物に富んだ穀物エキスを基質として含む。麦汁は、炭水化物複合体を糖に転換する糖化を経て穀物から調製される。好ましくは、穀物はオオムギを酵素源として含む。任意で、炭水化物転換酵素を外因的に加えることができる。ホップおよび/または他のハーブおよびスパイスを麦汁に加えることができる。
【0073】
標的物質がウイスキーの場合、好適なスターターカルチャーはサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地は麦汁または他の炭水化物に富んだ穀物エキスを基質として含む。好適な発酵後処理は例えば蒸留を含む。
【0074】
標的物質がシードルの場合、好適なスターターカルチャーはサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地はリンゴまたはリンゴ果汁を基質として含む。
【0075】
標的物質がハチミツ酒の場合、好適なスターターカルチャーはサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地はハチミツを基質として含む。
【0076】
標的物質が酒の場合、好適なスターターカルチャーはアスペルギルス、好ましくはコウジカビ(Aspergillus oryzae)およびサッカロミセスを含む。この場合、好適な培養培地は米を基質として含む。
【0077】
標的物質がバイオエタノールの場合、培養培地は好ましくは窒素源、リン源および炭素源を基質として含む。窒素源は好ましくはアンモニア、硝酸塩、アミノ酸、ペプチド、および/またはタンパク質を含み得る。炭素源は好ましくはトリグリセリドまたは炭水化物、例えば糖、糖アルコール、デンプンおよび/またはセルロースである。リン源は好ましくは無機モノ-、ピロ-もしくはポリリン酸塩、リン酸化糖、リン脂質またはヌクレオチドである。
【0078】
例えばバイオ燃料(バイオエタノール)として使用できるエタノールの場合、好適な微生物はサッカロミセス、ザイモモナスおよびシゾサッカロミセスを含む。この場合の培養培地は好ましくは、例えばトウモロコシの茎、麦わら、サトウキビ、ジャガイモ、キャッサバおよびトウモロコシのような、任意のタイプであり得る植物材料を基質として含む。
【0079】
エタノールは、培養培地の発酵後、結果的に生じる全培地から蒸留または逆浸透法、膜濾過または凍結濃縮、好ましくは蒸留によって単離することができる。できる限り純粋なエタノールを得るために、エタノールを公知の方法によってさらに好ましく精製する。
【0080】
酸の生成を生じる発酵
本発明の別の態様においては、発酵によって結果的に酸が生成される。好ましい酸は乳酸および酢酸を含む。好ましくは、発酵の方法が酸の生成を生じるものである場合、標的物質はチーズ、クレームフレーシュ、サワークリーム、ソーセージ、ザウアークラウト、ピクルスまたはビネガーである。好ましい態様においては、酸を生成する発酵の標的物質は食品である。代替の非食品の態様においては、標的物質は化学物質としての酸、好ましくは乳酸または酢酸である。本態様においては、該酸は好ましくは発酵後に単離される。
【0081】
標的物質がチーズの場合、好適なスターターカルチャーは商品として利用可能な様々な乳酸菌混合物を含む。一例はラクトコッカス・ラクティスとラクトコッカス・クレモリスの混合物である。他の例は、ラクトバチルス属、ストレプトコッカス属またはプロピオニバクテリア(Propionibacter)属の細菌である。
【0082】
この場合、好適な培養培地は、例えば牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、ヤク乳、ウマ乳、トナカイ乳、ヘラジカ乳、水牛乳、ロバ乳および/もしくはラクダ乳、好ましくは牛乳、または豆乳および/もしくはアーモンドミルクおよび/または他のタンパク質に富んだ植物エキスに由来する乳製品などのクリーム、凝乳または乳清のような様々なタイプの乳製品を基質として含む。
【0083】
標的物質がクレームフレーシュである場合、培養は好ましくはラクトコッカスおよび/またはラクトバチルス、好ましくはラクトコッカス・ラクティス亜種ラクティス(Lactococcus lactis subsp.lactis)、ラクトコッカス・ラクティス亜種クレモリス(Lactococcus lactis subsp. Cremoris)、および/またはラクトコッカス・ラクティス次亜種ジアセチラクティス(Lactococcus lactis biovar.Diacetylactis)を含む。または、クリーム内在酵素を使用することができる。好適な培養培地はクリームを含み、好ましくは、培養培地がクリームからなる。この場合のクリームは上記に定義付けられる、好ましくは牛乳に由来する乳製品である。
【0084】
標的物質がサワークリームである場合、培養はラクトコッカスまたはラクトバチルス種を含む一方、培養培地はクリームを基質として含み、好ましくはクリームからなる。この場合のクリームは上記に定義付けられる、好ましくは牛乳に由来する乳製品である。
【0085】
標的物質がソーセージである場合、好適なスターターカルチャーはラクトバチルス(例えばLbプランタルム(Lb plantarum)、Lbサケイ(Lb sakei)、Lbファミシス(Lb farmicis)、Lbクルバトゥス(Lb curvatus))、ミクロコッカス(Micrococcus)、ラクトコッカス、ストレプトコッカス、スタフィロコッカス(Staphylococcus)(S.キシローサス(S.xylosus)およびS.カルノーサス(S.carnosus))、コクリア(Kocuria)、ロイコノストックおよびペディオコッカス(例えばP.アシディラクティ(P.acidilacti)およびP.ペントサス(P.pentosaceus))または例えばデバリオミセス(Debaryomyces)種のような酵母を含む。熟成に関わり、接種に使用されるカビ種はペニシリウム・カマンベルティ(Penicillium camembertii)、P.ロクエフォーティ(P.rocquefortii)およびP.ナルジオベンス(P.nalgiovense)を含み、例えばChr.Hansen(Bactoferm(商標))から得られる。この場合、好適な培養培地は基質として(ミンチにした)肉、好ましくは(ミンチにした)牛肉、鹿肉、馬肉、水牛、豚肉、鶏肉または魚、塩および任意で糖、GDL(グルコノデルタラクトン)、クエン酸、ニンニクおよびハーブおよびスパイスを含む。
【0086】
標的物質がザウアークラウトの場合、好適なスターターカルチャーはロイコノストック、ラクトバチルス、およびペディオコッカスを含む。この場合、好適な培養培地は細断されたキャベツ、塩および任意でキャラウェー、セロリおよびディルシードまたは他のハーブおよびスパイスを含む。
【0087】
標的物質がピクルスの場合、好適なスターターカルチャーはラクトバチルスおよび/またはラクトコッカスを含む。この場合、好適な培養培地は野菜の塊および薄片、またはそのままの野菜を含む。好適なタイプの野菜はキャベツ、ビート、キュウリ、オリーブおよびマメを含む。
【0088】
標的物質がビネガーの場合、好適なスターターカルチャーはアセトバクター種を含む。この場合、好適な培養培地はワイン、シードルまたはハチミツ酒を含む。
【0089】
標的物質としての食品
本発明に従った発酵法においては、発酵により酸またはエタノールの生成が生じる。標的物質が食品の場合、培養培地は好ましくは食品グレードの成分のみを含む。さらに好ましくは、標的物質が食品である場合、培養培地は好ましくは食品グレードの乳製品、肉、野菜および/またはアルコール性の液体によって提供される窒素源、リン源および炭素源を基質として含む。
【0090】
標的物質が食品である場合、食品は通常発酵後の全混合物として得られる。しかし、例えばザウアークラウト、ピクルス、ビネガー、ウイスキー、ブランデー、コニャックおよび他の蒸留アルコール飲料のように、発酵混合物から単離される食品も除外されない。
【0091】
標的物質が食品である場合、スターターカルチャーは、特定の食品について公知であるように、単一の微生物を含み得る、または、2つ以上の異なる微生物を含み得る。当業者は、適切な組成の培養培地に加えれば結果的に所定の食品を得られる、様々な微生物を含むスターターカルチャーについて十分認識している。
【0092】
任意で、食品は発酵後に、添加物、着色剤、味感増強剤もしくはさらなる材料の添加のような、または、ベーキング、蒸留、滅菌もしくは低温殺菌などの付加的な熱処理、または適切なサイズ処理、例えば切断および/もしくは成形、ならびに適切な粘性の調整のような後処理を経ることができる。
【0093】
本発明は、該食品がヨーグルトではなく、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を含む、上記にて定義付けられるような発酵食品に等しく関連する。本態様におけるジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は未変性のものまたは変性したものであってよい。特に好ましい食品はワイン、ビール、パン生地、パン、シードル、ハチミツ酒、チーズ、サワークリーム、クレームフレーシュ、ソーセージ、ザウアークラウトまたはピクルス、好ましくはワイン、ビール、パン生地、シードル、ハチミツ酒、チーズ、サワークリーム、クレームフレーシュ、ソーセージ、ザウアークラウトまたはピクルス、より好ましくはチーズ、パン生地、サワークリーム、クレームフレーシュ、ソーセージまたはザウアークラウトである。
【0094】
明確性および簡潔な説明のために、本明細書においては同じまたは別個の態様の一部として特徴が説明されるが、本発明の範囲は説明される全てまたは幾つかの特徴の組み合わせを有する態様を含み得ることが理解される。
【0095】
本発明はここで以下の非限定的な実施例によって例証される。
【実施例】
【0096】
実施例1:一般的な発酵モデルにおけるラグタイムの短縮
PPIIの添加によるラグタイムの短縮について異なる微生物を試験する、一般的な発酵モデルを作製した。本モデルは2つの異なる培地、即ちMRS-Bouillon(MRSB、商品として利用可能な標準培地)および、実質的にMRSBと同じ成分を有するが、カゼインペプチドの代わりにカゼイナート(C)が添加されている培地である、いわゆるMRSCを含む。MRSB中のペプチドは一般的に5〜30個のアミノ酸からなる。微生物の要求に依存して、MRSB培地はペプチド制限系または非ペプチド制限系のいずれかであり得る。試験される開始カルチャーは、単一株微生物カルチャー(ATCCカルチャー)または複数のタイプの微生物を含有するカルチャーのいずれかを含んだ。
【0097】
850 mLの脱塩水に以下の成分を溶解し、pHを6.5に調整することによってMRSB培地を調製した。10 gのカゼインペプトン(「CP」)、トリプシン消化物(Fluka 70172)、10 gの肉エキス(Fluka 70164)、5 gの酵母エキス(「YE」、Fluka 92144)、20 gのグルコース(Merck 1.08342)、1 gのTween-80(Merck 822187)、2 gのK2HPO4(Merck 1.05104)、5 gの酢酸ナトリウム(Merck 1.06267)、2 gの(NH4)2クエン酸(SigmaAldrich 09833)、0.2 gのMgSO4-7H2O(SigmaAldrich M5921)、0.05 gのMnSO4-H2O(SigmaAldrich M7634)。
【0098】
MRSC培地においては、カゼインペプトンを10 gのカゼイナート(Fonterra 385)と置き換えた。成分を溶解した際に全容量を1000 mLとし、pHを調整し、結果的に生じた液体をオートクレーブによって滅菌した。
【0099】
MRSC培地においては、(栄養)ペプチドの一部がカゼイナートの形態における全タンパク質と置き換えられる。これはPPIIのプロテアーゼ阻害活性が、微生物がカゼイナートを栄養ペプチドに分解し得るために必要とされるプロテアーゼを阻害しないことを示すために行われる。PPIIが微生物のプロテアーゼを阻害する場合は、ラグタイムが延長されることが予測される。微生物のプロテアーゼはほとんどが膜結合されており、該段階において生成されるペプチドは微生物細胞に直接輸送される。従って、培地に含まれるペプチダーゼはMRSB培地におけるものと同じ程度に影響を与えないことが予測される。MRSC培地はMRSB培地よりもペプチド制限性ではないことが予測される。
【0100】
幾つかの培養については、MRSBの代わりにYPD培地が使用された。20 gのカゼインペプトン(「CP」)、トリプシン消化物(Fluka 70172)、10 gの酵母エキス(「YE」、Fluka 92144)、20 gのグルコース(Merck 1.08342)を溶解して総容量1 Lとし、結果的に生じる液体をオートクレーブによって滅菌することによってYPDを調製した。
【0101】
MRSB培地およびMRSC培地またはYPD培地において単一株カルチャー(ATCCカルチャー)を試験した。試験された全てのATCCカルチャーの概要については表1を参照のこと。表2はMRSB培地、MRSC培地およびYPD培地において試験されたカルチャー、ならびに認められた時間短縮についての概要である。
【0102】
ThermoScientific MultiSkan Goプレートリーダー内に置いたフィルム密封したマイクロタイタープレートにおいて総容量100μL のカルチャーを、30℃にて、毎分10秒間周期的に振盪しながら、希釈オーバーナイト静置培養から増殖させた。600 nmにおける吸光度を記録することによって増殖をモニタリングし、ジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を添加した培養培地と添加しない培養培地における増殖を比較することによってラグタイム短縮を確認した。
【0103】
(表1)様々な発酵スターターカルチャー
【0104】
MRSB培地またはYPD培地においては、PPIIを添加すると試験した全てのカルチャーでラグタイムの短縮が示された。ほとんどの場合において最適な用量はPPIIタンパク質の最終濃度0.50重量%であったが、最終組成物におけるPPIIタンパク質の非常に低い用量、即ち0.05%または0.01%においてでさえも、明らかな効果が既に示される。これらの実験においてMRSC培地では発酵時間の延長が認められなかった。このことはPPIIが微生物のプロテアーゼを阻害しないという仮説を確証するものである。しかし、非ペプチド制限系においてもラグタイムの短縮が起こり得ることが予測される。MRSB培地においては、PPIIを添加すると全てのカルチャーでラグタイムの短縮が示された。
【0105】
また、表2は得られた時間短縮を時間(時間)およびパーセンテージ(
*%)で示す。
【0106】
(表2)異なる発酵スターターカルチャーにジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質を添加した際のラグタイムの短縮
NA=沈殿により分析不可能。
【0107】
本データによって、PPIIが微生物のペプチダーゼ活性を阻害し、ラグタイムを短縮することによる、微生物の増殖に対する刺激活性を有するという考えが支持される。全てのペプチド制限系(MRSBおよびYPD培地)は相当な時間短縮を示す。より濃いMRSC培地ではより低い刺激効果が示された。説明された全てのMRSBおよびMRSCでの実験は多数において行われた(n≧4)。
【0108】
実施例2:発酵系がペプチド制限性であるかどうかの決定
2つの異なるペプチド濃度を有する培地(YPD100(1リットル当たり10 gの酵母エキス(YE)、20 gのカゼインペプトン(CP)および20 gのグルコースを含有する))ならびにYPD20(1リットル当たり2 gのYE、4 gのCPおよび20 gのグルコースを含有する)における、サッカロミセス・セレビシエ(ATCC 9763)の増殖を解析し、含まれるペプチドがより少ない場合にLMWの刺激活性はより強いのかどうかを確かめた。これは、増殖がペプチド制限性であることを示す。ThermoScientific MultiSkan Goプレートリーダー内に置いたフィルム密封したマイクロタイタープレートにおいて総容量100μLのカルチャーを、30℃にて毎分10秒間周期的に振盪しながら、希釈オーバーナイト静置培養から増殖させた。OD600を測定することによって増殖を解析した。0D0.4に達するまでの時間の短縮がLMWの刺激活性の尺度である。実際に、S.セレビシエの増殖について0.1%のLMWの培地への添加の刺激効果が認められ、この効果はペプチドが少ない培地においてより大きい。
【0109】
図1においては、LMWを含まないカルチャーと比べた、0D0.4に達するまでの時間の短縮がプロットされる。低ペプチド培地に0.1%LMWを加えた場合、約2時間の時間の短縮(約9時間から7時間)が認められる一方、より多くのペプチドが含まれる場合(YPD100)においては、該効果はより弱い(約1時間、5時間から4時間)。スチューデントのt検定(p<0.05)によって決定されるように、測定された時間の短縮は有意である。添付において、各条件についての増殖曲線の例が示される。このように、LMWはYPDにおけるS.セレビシエの増殖に対する刺激効果を有し、該効果はペプチド制限条件において最も強い。
【0110】
実施例3:刺激物質の精製および特徴付け
LMWジャガイモタンパク質のどのサブ画分がラグタイムの短縮を担うのかを見出すために、ジャガイモタンパク質濃縮物を本質的にPouvreauの方法(L.Pouvreau, H.Gruppen, SR Piersma, LAM van den Broek, GA van Koningsveld, AGJ Voragen J. Agric. Food Chem 2001, 49, p.2864-2874“Relative Abundance and Inhibitory Distribution of Protease Inhibitors in Potato Juice from cv. Elkana”)に従って分画した。
【0111】
PPII濃縮物(AVEBE)を脱塩水で希釈し、1%のタンパク質溶液とし、pHを8.0に調整した。室温での5000gにおける10分間の遠心分離によって不溶物を取り除いた。上清をSource 30Qレジン(GE Healthcare)を含む15×2.6 cmのカラムに充填し、0〜0.6 M NaCl線形グラジエントを用いて溶出した。この結果8個の個別のタンパク質画分が生じ、F1〜F8と表された。
【0112】
実施例1における方法に従って、刺激活性について全ての画分を試験した。これにより、画分F1およびF6は強いラグタイム短縮を示すことが明らかにされ、それらの画分に活性成分があることが示された。これらの実験に従って、画分F2、F3、F4、F7およびF8では、より少ないラグタイム短縮が示され、F5ではラグタイムの短縮が全く示されない。従って、活性成分はF5には存在しない。該実験条件下において刺激物質がカラムに結合するという事実は、それがpH 8.0において水溶性であり、8.0以下の等電点を有することを明らかにしている。
【0113】
製造業者の指示書に従って、変性、還元条件下にて、Experion自動電気泳動システム(BioRad)において画分の分子量を測定した。強い刺激活性を有する画分F1およびF6は幾つかのMWバンドを共有しているが、少しも刺激活性がない画分F5においてはこれらのうち1つのみが欠けている:17.5 kDaと18.2 kDaの間に生じるバンドである(表4)。ゆえに、このバンドの存在が強い刺激活性を示すということである。
【0114】
(表3)8つの画分F1〜F8に分画されたジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質、および各画分のラグタイム短縮効果
【0115】
実施例4において説明される方法によってプロテアーゼ阻害活性の決定を行った。これにより、タンパク質画分F1およびF6はトリプシン阻害活性およびキモトリプシン阻害活性の双方(TIAおよびCTIAの両方)を有するが、いずれの活性も80℃で30分間の熱処理後は残存しなかったことが明らかとなった。
【0116】
実施例4:本発明において使用するジャガイモタンパク質プロテアーゼ阻害物質は未変性であり得る
50℃において5 mMのCaCl
2(SigmaAldrich、C3881)を含有する100 mM pH 5.0のクエン酸緩衝液に該タンパク質を溶解し、37℃まで冷却するすることにより、30 g/Lのアゾカゼイン(SigmaAldrich、A2765)ストック溶液を調製した。プロテアーゼ活性を有する凍結乾燥溶菌液を1 mM HCl溶液に溶解した。pH 3.0の酢酸溶液にPPIIを溶解した。
【0117】
PPII溶液から、最高濃度のサンプルについてインキュベートした際に約50%のシグナルの減少が生じるように一連の希釈液を調製した。各希釈液からの125μLをエッペンドルフカップにおいて25μLの菌プロテアーゼ溶液と、または対照として25μLの脱塩水と混合した。タンパク質分解反応についての正または負の対照には、サンプル材料ではなく125μLの脱塩水を使用した。これらの混合物に225μLの温かいアゾカゼインを加え、引き続き37.0℃において30分間のインキュベーションを行った。その後150μLの15%w:vトリクロロ酢酸(「TCA」)溶液の添加によって反応を止めた。全てのサンプルについてインキュベーション時間を確実に等しくするため、アゾカゼインの添加の順序はTCAの添加の順序と同じにした。
【0118】
Thermo Scientificローターを用いたHeraeus Multifuge 1S-Rにおいて、40C、15,000 gにおける10分間の遠心分離によって非加水分解アゾカゼインおよび他の不溶物を除去した。慎重なピペット操作によって上清100μLをマイクロタイタープレートに移し、100μLの1.5 M NaOH溶液を添加した。プレートをその後、BioRadモデル680マイクロプレートリーダーにおいて450 nmでの吸光度について解析した。
【0119】
プレート中のサンプル材料の量に対する吸光度をプロットした。最小二乗法を用いた線形回帰法によって、結果として生じる直線の傾きが得られ、それはサンプル材料の量当たりに減少した吸光度の量を示している。サンプルを含まない正の対照は、既知の量のプロテアーゼ溶液によって生じる最大の吸光度を示す。よって、正の対照の吸光度によって傾きをわることにより、サンプル材料の量当たりの阻害されたプロテアーゼの量として表されるトリプシン阻害活性が得られた(
図2を参照のこと)。
【0120】
従って本実験において使用されたPPIIは未変性であり得るということである。
【0121】
実施例5:ジャガイモプロテアーゼ阻害物質存在下におけるサッカロミセス・セレビシエによる麦芽の発酵
麦芽エキスおよびパン酵母から2バッチのビールを調製した。分光分析を容易にするため、追加の淡色の麦芽エキスを選択した。150 g/LのArsegan特選麦芽エキス(5010012、Munton(UK))を水道水に加え、溶解して麦汁が形成されるまでかき混ぜた。
【0122】
10 mLのサッカロミセス・セレビシエ(ATCC 9763)のオーバーナイトカルチャーを予め30℃に加熱した4 Lの麦汁に加えた。麦汁を2リットルの2つの画分に分けた。一方は対照として維持し、他方には0.1重量%のジャガイモプロテアーゼ阻害物質(Solanic 306P、Avebe)を添加した。細胞密度について(620 nmにおける光学密度として表される)、比重計によって測定される液体の密度について、および分ごとに発生する気泡として表される二酸化炭素の産生について発酵をモニタリングした。アルコールの密度は水の密度よりも小さいため、溶液の密度は発酵反応の進行の尺度となる。発生したCO
2の容量はアルコール産生速度に直接関係し、従って反応速度の指標を提供する。細胞密度がOD620で2を超える場合は、アリコートを脱塩水で希釈し、適切な測定を可能にした。本希釈については記録された値を補正した。
【0123】
(表4)0.1重量%のジャガイモプロテアーゼ阻害物質の非存在下および存在下における、S.セレビシエによる麦汁の発酵についての細胞密度、溶液密度およびCO
2の産生速度
【0124】
ジャガイモプロテアーゼ阻害物質が存在することによって、より高い細胞密度、溶液密度のより速い減少、およびCO
2産生速度の増大が得られた。ジャガイモプロテアーゼ阻害物質を用いて調製されたビールの香りははっきりとしたフルーティな特質によって特徴付けられたが、それに対して対照ビールにはこの特性はなかった。
【0125】
これらの結果から、発酵の全工程がより速くなり、それはラグタイムの短縮によって起こることが認められる。これらの条件下におけるラグタイムの短縮はおよそ2時間である。
【0126】
実施例6:ジャガイモタンパク質阻害物質を用いたザウアークラウトの発酵
おろし金を備えた料理用フードプロセッサーを用いて白キャベツ(地域で購入)を細薄片におろした。そのように得られたキャベツの薄片をキャベツ1 kg当たり15グラムの食卓塩で処理した。本処理により浸透圧の上昇によって葉から液体が浸出し、発酵培地が形成された。該液体に等量の水を添加しpH測定を可能にした。なおもキャベツ薄片を含有する発酵培地を2つの等しい部分に分け、一方をそのままに維持し、もう一方には1 g/Lのジャガイモプロテアーゼ阻害物質(Solanic 206P、Avebe)を添加した。2つのバッチを並べて、較正したpHロガーによって15分ごとにpHを測定しながらインキュベートした。表5においては、開始pH 6.0からpHが4.0に達するまでに必要とされた時間が示される。
【0127】
(表5)ジャガイモプロテアーゼ阻害物質を用いて内在微生物によってpHを6.0から4.0に下げるために必要とされる時間
【0128】
ザウアークラウト発酵は一連の微生物がつぎつぎに増殖し、それによって各々が次の種のために培地を調製する複雑な連続の反応である。多数の種が異なる時点で関与するため、本連続ではラグタイムに関して説明することが難しい。それにも関わらず、ジャガイモプロテアーゼ阻害物質が存在するとpH4.0まで達するのに必要とされる時間が7時間、または全体の20%短縮される。