特許第6771072号(P6771072)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771072
(24)【登録日】2020年9月30日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】電気化学セル用電解質及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0289 20160101AFI20201012BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20201012BHJP
   C25B 13/02 20060101ALI20201012BHJP
   H01M 10/30 20060101ALN20201012BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20201012BHJP
   C25B 13/04 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   H01M8/0289
   H01M8/10
   C25B13/02 301
   !H01M10/30 Z
   !H01M12/08 K
   !C25B13/04 301
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-111271(P2019-111271)
(22)【出願日】2019年6月14日
(65)【公開番号】特開2019-220464(P2019-220464A)
(43)【公開日】2019年12月26日
【審査請求日】2019年6月24日
(31)【優先権主張番号】特願2018-114290(P2018-114290)
(32)【優先日】2018年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 俊之
(72)【発明者】
【氏名】菅 博史
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
【審査官】 高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/221498(WO,A1)
【文献】 特開2004−063249(JP,A)
【文献】 特開2007−250468(JP,A)
【文献】 特開2004−185882(JP,A)
【文献】 特開2010−007016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/10
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目構造を有し、連続孔を形成する多孔質基材と、
イオン伝導性を有し、前記連続孔内に配置されるイオン伝導体と、
前記イオン伝導体内に形成される閉気孔と、
を備え、
前記多孔質基材は、金属材料によって構成され、
前記閉気孔は、前記多孔質基材から離れている、
電気化学セル用電解質。
【請求項2】
前記イオン伝導体内に形成され、前記閉気孔を含む複数の閉気孔を備える、
請求項に記載の電気化学セル用電解質。
【請求項3】
前記多孔質基材は、内部に細孔を有し、
前記細孔には、前記イオン伝導体が含浸されている、
請求項1又は2に記載の電気化学セル用電解質。
【請求項4】
前記多孔質基材の少なくとも一方の主面、又は、前記連続孔の内表面を含む前記多孔質基材の表面には、絶縁膜が形成されている、
請求項1乃至のいずれかに記載の電気化学セル用電解質。
【請求項5】
連続孔を形成する多孔質基材と、
イオン伝導性を有し、前記連続孔内に配置されるイオン伝導体と、
前記イオン伝導体内に形成される閉気孔と、
を備え、
前記多孔質基材は、金属材料によって構成され
前記閉気孔は、前記多孔質基材から離れている、
電気化学セル用電解質。
【請求項6】
酸化剤が供給されるカソードと、
燃料が供給されるアノードと、
前記カソードと前記アノードとの間に配置される請求項1乃至のいずれかに記載の電気化学セル用電解質と、
を備える電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セル用電解質及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ形燃料電池、アルカリ形二次電池及び電解セルなどの電気化学セルでは、イオン伝導性を有するイオン伝導体が電解質として用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−071948号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した電気化学セルでは、水(又は、水蒸気)存在下で電解質が用いられるため、電解質内の含水状況によって電解質に体積変化が生じる。そのため、カソード又は/及びアノードから電解質が剥離したり、或いは、電解質自体が変形したりするおそれがある。
【0005】
本発明は、剥離や変形を抑制可能な電気化学セル用電解質、及び電解質の剥離や変形を抑制可能な電気化学セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る電気化学セル用電解質は、多孔質基材と、イオン伝導体と、閉気孔とを備える。多孔質基材は、三次元網目構造を有し、連続孔を形成する。イオン伝導体は、イオン伝導性を有し、連続孔内に配置される。閉気孔は、イオン伝導体内に形成される。多孔質基材は、金属材料によって構成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、剥離や変形を抑制可能な電気化学セル用電解質、及び電解質の剥離や変形を抑制可能な電気化学セルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池の構成を模式的に示す断面図
図2】第1実施形態に係る電解質の断面を拡大して示す模式図
図3】第2実施形態に係る電解質の断面を拡大して示す模式図
図4】第3実施形態に係る電解質の断面を拡大して示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.第1実施形態
(固体アルカリ形燃料電池10)
以下、本発明に係る電気化学セル用電解質を適用した電気化学セルの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池(AFC)の一種である固体アルカリ形燃料電池10の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
図1は、実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10の構成を示す断面図である。固体アルカリ形燃料電池10は、カソード12、アノード14、及び電解質16(「電気化学セル用電解質」の一例)を備える。固体アルカリ形燃料電池10は、下記の電気化学反応式に基づいて、比較的低温(例えば、50℃〜250℃)で発電する。ただし、下記の電気化学反応式では、燃料の一例としてメタノールを用いた場合が例示されている。
【0011】
・カソード12: 3/2O+3HO+6e→6OH
・アノード14: CHOH+6OH→6e+CO+5H
・全体 : CHOH+3/2O→CO+2H
【0012】
カソード12は、一般的に空気極と呼ばれる陽極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、カソード12には、酸化剤供給手段13を介して、酸素(O)を含む酸化剤が供給される。酸化剤としては、空気を用いるのが好ましく、空気は加湿されていることがより好ましい。カソード12は、内部に酸化剤を拡散可能な多孔質体である。カソード12の気孔率は特に制限されない。カソード12の厚みは特に制限されないが、例えば10〜200μmとすることができる。
【0013】
カソード12は、AFCに使用される公知の空気極触媒を含むものであればよく、特に限定されない。カソード触媒の例としては、白金族元素(Ru、Rh、Pd、Ir、Pt)、鉄族元素(Fe、Co、Ni)等の第8〜10族元素(IUPAC形式での周期表において第8〜10族に属する元素)、Cu、Ag、Au等の第11族元素(IUPAC形式での周期表において第11族に属する元素)、ロジウムフタロシアニン、テトラフェニルポルフィリン、Coサレン、Niサレン(サレン=N,N’−ビス(サリチリデン)エチレンジアミン)、銀硝酸塩、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。カソード触媒はカーボンに担持させるのが好ましい。カソード12ないしそれを構成する触媒の好ましい例としては、白金担持カーボン(Pt/C)、白金コバルト担持カーボン(PtCo/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。カソード12における触媒の担持量は特に限定されないが、好ましくは0.05〜10mg/cm、より好ましくは、0.05〜5mg/cmである。
【0014】
カソード12の作製方法は特に限定されないが、例えば、カソード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のカソード側表面16Sに塗布することにより形成することができる。
【0015】
アノード14は、一般的に燃料極と呼ばれる陰極である。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、アノード14には、燃料供給手段15を介して、水素原子(H)を含む燃料が供給される。アノード14は、内部に燃料を拡散可能な多孔質体である。アノード14の気孔率は特に制限されない。アノード14の厚みは特に制限されないが、例えば10〜500μmとすることができる。
【0016】
燃料は、アノード14において水酸化物イオン(OH)と反応可能な燃料化合物を含んでいればよく、液体燃料及び気体燃料のいずれの形態であってもよい。
【0017】
燃料化合物としては、例えば、(i)ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、炭酸ヒドラジン((NHNHCO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、モノメチルヒドラジン(CHNHNH)、ジメチルヒドラジン((CHNNH、CHNHNHCH)、及びカルボンヒドラジド((NHNHCO)等のヒドラジン類、(ii)尿素(NHCONH)、(iii)アンモニア(NH)、(iv)イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール等の複素環類化合物、(v)ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)等のヒドロキシルアミン類、及びこれらの組合せが挙げられる。これらの燃料化合物のうち炭素を含まない化合物(すなわち、ヒドラジン、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、アンモニア、ヒドロキシルアミン、硫酸ヒドロキシルアミン等)は、一酸化炭素による触媒被毒の問題が無いため特に好適である。
【0018】
燃料化合物は、そのまま燃料として用いてもよいが、水及び/又はアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール等)に溶解させた溶液として用いてもよい。例えば、上記燃料化合物のうち、ヒドラジン、水化ヒドラジン、モノメチルヒドラジン及びジメチルヒドラジンは液体であるので、そのまま液体燃料として使用可能である。また、炭酸ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、カルボンヒドラジド、尿素、イミダゾール、及び3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、及び硫酸ヒドロキシルアミンは固体であるが水に可溶である。1,3,5−トリアジン及びヒドロキシルアミンは固体であるがアルコールに可溶である。アンモニアは気体であるが水に可溶である。このように、固体の燃料化合物は、水又はアルコールに溶解させて液体燃料として使用可能である。燃料化合物を水及び/又はアルコールに溶解させて用いる場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、例えば30〜99.9重量%であり、好ましくは66〜99.9重量%である。
【0019】
また、メタノール、エタノール等のアルコール類やエーテル類を含む炭化水素系液体燃料、メタン等の炭化水素系ガス、或いは純水素などは、そのまま燃料として用いることができる。特に、本実施形態に係る固体アルカリ形燃料電池10に用いられる燃料としては、メタノールが好適である。メタノールは、気体状態、液体状態、及び、気液混合状態のいずれであってもよい。
【0020】
アノード14は、AFCに使用される公知のアノード触媒を含むものであればよく、特に限定されない。アノード触媒の例としては、Pt、Ni、Co、Fe、Ru、Sn、及びPd等の金属触媒が挙げられる。金属触媒は、カーボン等の担体に担持されるのが好ましいが、金属触媒の金属原子を中心金属とする有機金属錯体の形態としてもよく、この有機金属錯体を担体として担持されていてもよい。また、アノード触媒の表面には多孔質材料等で構成された拡散層を配置してもよい。アノード14及びそれを構成する触媒の好ましい例としては、ニッケル、コバルト、銀、白金担持カーボン(Pt/C)、白金ルテニウム担持カーボン(PtRu/C)、パラジウム担持カーボン(Pd/C)、ロジウム担持カーボン(Rh/C)、ニッケル担持カーボン(Ni/C)、銅担持カーボン(Cu/C)、及び銀担持カーボン(Ag/C)が挙げられる。
【0021】
アノード14の作製方法は特に限定されないが、例えば、アノード触媒及び所望により担体をバインダーと混合してペースト状にし、このペースト状混合物を電解質16のアノード側表面16Tに塗布することにより形成することができる。
【0022】
電解質16は、カソード12とアノード14との間に配置される。電解質16は、カソード12及びアノード14のそれぞれに接続される。電解質16は、膜状、層状、或いは、シート状に形成される。
【0023】
図2は、第1実施形態に係る電解質16の断面を拡大して示す模式図である。電解質16は、多孔質基材20と、無機固体電解質体22とを有する。
【0024】
多孔質基材20は、連続孔20aを形成する。連続孔20aは、多孔質基材20の外表裏面に連なるように形成される。連続孔20aには、後述する無機固体電解質体22が含浸されている。
【0025】
多孔質基材20は、金属材料によって構成される。多孔質基材20を構成する金属材料としては、ステンレス(Fe−Cr系合金、Fe−Ni−Cr系合金など)、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、又は、チタンなどを用いることができる。このような金属材料は、セラミックス材料や高分子材料に比べて熱伝導性が高いため、多孔質基材20の放熱効率を向上させることができるとともに、多孔質基材20内の温度分布を低減させることができる。
【0026】
多孔質基材20は、三次元網目構造を有していてもよい。「三次元網目構造」とは、基材の構成物質が立体的かつ網目状に繋がった構造である。三次元網目構造を有する多孔質基材20としては、例えば、多孔質金属材料(例えば、発泡金属材料)によって構成されるセル状又はモノリス状の構造物や、細線金属材料によって構成されるメッシュ状の塊や金属不織布などが挙げられる。
【0027】
多孔質基材20は、三次元網目構造を有していなくてもよい。三次元網目構造を有さない多孔質基材20としては、金属材料によって構成される複数の線材を織り込むことによって形成されたメッシュ部材のほか、微細な複数のストレート孔が形成された金属薄板などが挙げられる。メッシュ部材は、全体としてシート状に形成されていてもよい。線材の織り方は、平織り、綾織り、平畳織り、綾畳織り、或いは他の織り方であってもよい。多孔質基材20としてメッシュ部材を用いる場合、各線材の隙間(すなわち、目開き)が連続孔20aとなる。金属薄板のストレート孔は、例えばレーザー加工によって形成することができる。多孔質基材20として金属薄板を用いる場合、ストレート孔が連続孔20aとなる。
【0028】
多孔質基材20の表面(連続孔20aの内表面を含む)には、絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、基材金属の不動態化処理によって形成される不動態膜であってもよいし、Cr、Al、ZrO、MgO、MgAlなどの酸化物によって構成される酸化物膜であってもよい。多孔質基材20をステンレスによって構成する場合、ステンレスを酸化処理することにより、絶縁膜としてのCr膜を簡便に形成することができる。ただし、本実施形態では、後述する第1及び第2膜状部22b,22cが、カソード12及びアノード14それぞれの間における絶縁膜として機能するため、多孔質基材20の表面には、絶縁膜が形成されていなくてもよい。
【0029】
多孔質基材20の厚さは特に制限されないが、例えば、200μm以下とすることができ、好ましくは100μm以下、より好ましくは75μm以下であり、50μm以下が最も好ましい。多孔質基材20の厚さの下限値は、用途に応じて適宜設定すればよいが、ある程度の堅さを確保するには10μm以上が好ましく、15μm以上がより好ましい。
【0030】
多孔質基材20の断面における連続孔20aの平均内径は特に制限されないが、例えば、1〜1000μmとすることができ、好ましくは2〜500μm、より好ましくは5〜400μm、さらに好ましくは7〜300μm、特に好ましくは10〜200μmである。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を付与しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの平均内径は、多孔質基材20の断面を電子顕微鏡で観察した場合に、観察画像上で無作為に選出した20箇所における連続孔20aの円相当径を算術平均することによって得られる。連続孔20aの円相当径とは、観察画像において、連続孔20aの断面積と同じ面積を有する円の直径である。なお、電子顕微鏡の倍率は、連続孔20aの断面サイズに応じて適宜設定すればよい。
【0031】
連続孔20aの体積率は特に制限されないが、例えば、10〜60%とすることができ、好ましくは15〜55%、より好ましくは20〜50%である。これらの範囲内とすることによって、多孔質基材20に支持体としての強度を確保しつつ、無機固体電解質体22の緻密度を向上させることができる。連続孔20aの体積率は、アルキメデス法により測定することができる。
【0032】
また、図2では図示されていないが、多孔質基材20は、それ自体の内部に複数の細孔を有することが好ましい。複数の細孔は、多孔質基材20の内部において、互いに繋がっていてもよい。そして、各細孔は多孔質基材20の表面に開口する開気孔であって、各細孔には無機固体電解質体22が含浸していることがより好ましい。これによって、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→連続孔20aという短距離イオン伝導パスや、連続孔20a→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22c、或いは、第1膜状部22b→多孔質基材20内の細孔→第2膜状部22cという長距離イオン伝導パスを形成することができる。その結果、複合部22a内のイオン伝導可能領域が広がるため、電解質16全体としてのイオン伝導性を向上させることができる。なお、多孔質金属材料によって多孔質基材20を構成する場合、多孔質基材20の内部に複数の細孔を簡便に設けることができる。
【0033】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性を有する。固体アルカリ形燃料電池10の発電中、無機固体電解質体22は、カソード12側からアノード14側に水酸化物イオン(OH)を伝導させる。無機固体電解質体22の水酸化物イオン伝導率は特に制限されないが、0.1mS/cm以上が好ましく、より好ましくは0.5mS/cm以上、さらに好ましくは1.0mS/cm以上である。無機固体電解質体22の水酸化物イオン伝導率は、高いほど好ましく、その上限値は特に制限されないが、例えば10mS/cmである。
【0034】
無機固体電解質体22は、水酸化物イオン伝導性を有するセラミックス材料によって構成することができる。このようなセラミックス材料としては、水酸化物イオン伝導性を有する周知のセラミックスを用いることができるが、以下に説明する層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)が特に好適である。
【0035】
LDHは、M2+1−x3+(OH)n−x/n・mHO(式中、M2+は2価の陽イオン、M3+は3価の陽イオンであり、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4、mは水のモル数を意味する任意の整数である)の一般式で示される基本組成を有する。M2+の例としてはMg2+、Ca2+、Sr2+、Ni2+、Co2+、Fe2+、Mn2+、及びZn2+が挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Ti3+、Y3+、Ce3+、Mo3+、及びCr3+が挙げられ、Anの例としてはCO2−及びOHが挙げられる。M2+及びM3+としては、それぞれ1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0036】
LDHは、複数の水酸化物基本層と、これら複数の水酸化物基本層間に介在する中間層とから構成される。中間層は、陰イオン及びHOで構成される。水酸化物基本層は、例えば金属MがNi、Al、Tiの場合には、Ni、Al、Ti及びOH基を含む。以下、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含む場合について説明する。
【0037】
LDH中のNiはニッケルイオンの形態を採りうる。LDH中のニッケルイオンは典型的にはNi2+であると考えられるが、Ni3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のAlはアルミニウムイオンの形態を採りうる。LDH中のアルミニウムイオンは典型的にはAl3+であると考えられるが、他の価数もありうるため、特に限定されない。LDH中のTiはチタンイオンの形態を採りうる。LDH中のチタンイオンは典型的にはTi4+であると考えられるが、Ti3+等の他の価数もありうるため、特に限定されない。水酸化物基本層は、Ni、Al、Ti及びOH基を主要構成要素として含むのが好ましいが、他の元素ないしイオンを含んでいてもよいし、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物は、製法上不可避的に混入されうる任意元素であり、例えば原料や基材に由来してLDH中に混入しうる。
【0038】
LDHの中間層は、陰イオン及びHOで構成される。陰イオンは1価以上の陰イオン、好ましくは1価又は2価のイオンである。好ましくは、LDH中の陰イオンはOH及び/又はCO2−を含む。
【0039】
上記のとおり、Ni、Al及びTiの価数は必ずしも定かではないため、LDHを一般式で厳密に特定することは非実際的又は不可能である。仮に水酸化物基本層が主としてNi2+、Al3+、Ti4+及びOH基で構成されるものと想定した場合、LDHは、一般式:Ni2+1−x−yAl3+Ti4+(OH)n−(x+2y)/n・mHO(式中、An−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、好ましくは1又は2であり、0<x<1、好ましくは0.01≦x≦0.5、0<y<1、好ましくは0.01≦y≦0.5、0<x+y<1、mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数である)なる基本組成で表すことができる。もっとも、上記一般式はあくまで「基本組成」と解されるべきであり、Ni2+、Al3+、Ti4+等の元素がLDHの基本的特性を損なわない程度に他の元素又はイオン(同じ元素の他の価数の元素又はイオンや製法上不可避的に混入されうる元素又はイオンを含む)で置き換え可能なものとして解されるべきである。
【0040】
本実施形態において、無機固体電解質体22は、複合部22a(「イオン伝導体」の一例)、第1膜状部22b、及び第2膜状部22cを有する。
【0041】
複合部22aは、第1膜状部22bと第2膜状部22cとの間に配置される。複合部22aは、多孔質基材20の連続孔20a内に配置される。複合部22aは、連続孔20a内に含浸されており、多孔質基材20と一体化している。このように、無機固体電解質体22を多孔質基材20で支持することによって、無機固体電解質体22の強度を向上できるため、無機固体電解質体22を薄くすることができる。その結果、電解質16の低抵抗化を図ることができる。
【0042】
ここで、複合部22aは、その内部に形成された複数の閉気孔24を有する。このような閉気孔24が複合部22aの内部に形成されているため、固体アルカリ形燃料電池10の作動中に複合部22aの含水状況の変動に起因する電解質16の体積変化を緩和させることができる。これにより、カソード12と電解質16との界面、又は/及び、アノード14と電解質16との界面に応力が発生することを抑制できるため、カソード12又は/及びアノード14から電解質16が剥離したり、或いは、電解質16自体が変形したりすることを抑制できる。
【0043】
さらに、閉気孔24が複合部22aの内部に形成されることで、複合部22aに柔軟性を付与することができるため、固体アルカリ形燃料電池10内の温度分布に起因して、カソード12と電解質16との界面、又は/及び、アノード14と電解質16との界面に熱応力が発生することを抑制できる。そのため、カソード12又は/及びアノード14から電解質16が剥離したり、或いは、電解質16自体が変形したりすることを抑制できる。
【0044】
図2に示すように、閉気孔24は、多孔質基材20から離れていることが好ましい。すなわち、閉気孔24は、複合部22aの内部に閉じこめられており、連続孔20aの内表面と直接的に接触しないことが好ましい。これによって、閉気孔24が多孔質基材20に直接接触する場合に比べて、電解質16に体積変化や変形が生じた場合に、多孔質基材20、複合部22a及び閉気孔24の三者で作られる角部を起点として、複合部22aが多孔質基材20から剥離することを抑制できる。
【0045】
各閉気孔24の平均円相当径は特に制限されないが、例えば、0.001〜1.0μmとすることができる。各閉気孔24の平均円相当径は、0.001μm以上が好ましく、0.002μm以上がより好ましい。これによって、複合部22aの柔軟性をより向上させることができる。また、各閉気孔24の平均円相当径は、1.0μm以下が好ましく、0.8μm以下がより好ましい。これによって、カソード12に供給される酸化剤がアノード14側に透過したり、或いは、アノード14に供給される燃料がカソード12側に透過したりすることを抑制できる。
【0046】
各閉気孔24の平均円相当径は、電解質16の断面を20,000〜1,500,000倍の電子顕微鏡で観察し、無作為に選出した20個の閉気孔24の円相当径を算術平均することによって得られる。閉気孔24の円相当径とは、電解質16の断面において、閉気孔24と同じ面積を有する円の直径である。ただし、0.001μm以下の円相当径を有する閉気孔24は、複合部22aの体積変化の緩和及び柔軟性向上への寄与が極めて小さいため、各閉気孔24の平均円相当径を求める際には除外するものとする。
【0047】
第1膜状部22bは、複合部22aのカソード12側に連なる。第1膜状部22bは、膜状に形成される。第1膜状部22bは、複合部22aと一体的に形成される。第1膜状部22bは、一様な平面状に形成されていてもよいし、縞状など所望の平面形状にパターン化されていてもよい。第1膜状部22bの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm以下とすることができ、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。このような第1膜状部22bが設けられることにより、カソード12と多孔質基材20とが直接接触する場合に比べて、カソード12と電解質16との間の接触抵抗を低減させることができる。
【0048】
第2膜状部22cは、複合部22aのアノード14側に連なる。第2膜状部22cは、膜状に形成される。第2膜状部22cは、複合部22aと一体的に形成される。第2膜状部22cは、一様な平面状に形成されていてもよいし、縞状など所望の平面形状にパターン化されていてもよい。第2膜状部22cの厚さは特に制限されないが、例えば、10μm以下とすることができ、好ましくは7μm以下、より好ましくは5μm以下である。このような第2膜状部22cが設けられることにより、アノード14と多孔質基材20とが直接接触する場合に比べて、アノード14と電解質16との間の接触抵抗を低減させることができる。
【0049】
無機固体電解質体22の作製方法は特に限定されないが、無機固体電解質体22をLDHで構成する場合であって、LDHの水酸化物基本層がNi、Al、Ti及びOH基を含むとき、以下の工程(1)〜(4)で作製することができる。
【0050】
(1)多孔質基材20を用意する。
【0051】
(2)多孔質基材20の全体にアルミナ及びチタニアの混合ゾルを含浸させて熱処理することでアルミナ・チタニア層を形成させる。後述するように、多孔質基材20の表面全体からLDHを成長させるには、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成させることが重要となるため、アルミナ及びチタニアの混合ゾルを含浸させて熱処理することを複数回実施する。これにより、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成することができる。
【0052】
(3)ニッケルイオン(Ni2+)及び尿素を含む原料水溶液に多孔質基材20を浸漬させる。
【0053】
(4)原料水溶液中で多孔質基材20を水熱処理(100〜150度、10〜100時間)して、LDHを多孔質基材20上及び多孔質基材20中に形成させることによって、複合部22a、第1膜状部22b、及び第2膜状部22cを有する無機固体電解質体22を形成する。この際、水熱処理時間および溶液濃度を適宜調整することによって、気孔が閉塞する前に反応を停止することで複合部22a内に閉気孔24を形成させることができる。LDHは多孔質基材20の表面に形成されたアルミナ・チタニア層を核として成長するため、多孔質基材20の表面全体にアルミナ・チタニア層を形成させた場合においては、多孔質基材20の表面全体からLDHが成長することになる。その結果として、閉気孔24を多孔質基材20から離すことができる。
【0054】
2.第2実施形態
以下、固体アルカリ形燃料電池10の第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。上記第1実施形態との相違点は、無機固体電解質体26が第1及び第2膜状部22b,22c(図2参照)を備えていない点にある。従って、以下においては、当該相違点について主に説明する。
【0055】
図3は、第2実施形態に係る電解質17の断面を拡大して示す模式図である。電解質17は、多孔質基材20と、無機固体電解質体26とを有する。
【0056】
多孔質基材20の構成は上記第1実施形態にて説明したとおりであるが、多孔質基材20がカソード12及びアノード14のそれぞれと接触しているので、多孔質基材20の表面には、絶縁膜を形成する必要がある。絶縁膜は、Cr、Al、ZrO、MgO、MgAlなどによって構成することができる。
【0057】
無機固体電解質体26は、第1及び第2膜状部22b,22cを備えておらず、実質的に複合部22a(「イオン伝導体」の一例)のみによって構成される。このように、無機固体電解質体26が第1及び第2膜状部22b,22cを備えないことによって、カソード12と電解質17との界面、及び、アノード14と電解質17との界面におけるオーム損失を低減させることができるため、固体アルカリ形燃料電池10の発電効率を高めることができる。
【0058】
複合部22aの構成は上記第1実施形態にて説明したとおりであり、多孔質基材20から離れた閉気孔24が内部に形成されている。そのため、電解質17が剥離したり、或いは、変形したりすることを抑制できるとともに、複合部22aが多孔質基材20から剥離することを抑制できる。
【0059】
複合部22aのみによって構成される無機固体電解質体26は、原料水溶液中で多孔質基材20を水熱処理する際、第1及び第2膜状部22b,22cが形成される前に処理を終了させればよい。
【0060】
3.第3実施形態
以下、固体アルカリ形燃料電池10の第3実施形態について図面を参照しつつ説明する。上記第1実施形態との相違点は、無機固体電解質体28が第1及び第2膜状部22b,22c(図2参照)を備えず、かつ、無機固体電解質体28が多孔質基材20の一部にのみ配置されている点にある。従って、以下においては、当該相違点について主に説明する。
【0061】
図4は、第3実施形態に係る電解質18の断面を拡大して示す模式図である。電解質18は、多孔質基材20と、無機固体電解質体28とを有する。
【0062】
多孔質基材20の構成は上記第1実施形態にて説明したとおりであるが、多孔質基材20がカソード12及びアノード14のそれぞれと接触しているので、多孔質基材20の表面には、絶縁膜を形成する必要がある。絶縁膜は、Cr、Al、ZrO、MgO、MgAlなどによって構成することができる。
【0063】
無機固体電解質体28(「イオン伝導体」の一例)は、多孔質基材20の厚み方向において、多孔質基材20の一部にのみ配置されている。本実施形態では、図4に示すように、無機固体電解質体28は、多孔質基材20の連続孔20aのうちアノード14側の領域にのみ含浸されている。多孔質基材20の連続孔20aのうち無機固体電解質体28が含浸されていない領域には、カソード12が含浸されている。
【0064】
ただし、無機固体電解質体28は、多孔質基材20の連続孔20aのうちカソード12側の領域にのみ含浸されていてもよい。この場合、多孔質基材20の連続孔20aのうち無機固体電解質体28が含浸されていない領域には、アノード14を含浸させればよい。また、無機固体電解質体28は、多孔質基材20の連続孔20aのうち厚み方向中央の領域にのみ含浸されていてもよい。この場合、多孔質基材20の連続孔20aのうち無機固体電解質体28のカソード12側の領域にカソード12を含浸させ、無機固体電解質体28のアノード14側の領域にアノード14を含浸させればよい。
【0065】
無機固体電解質体28は、厚み方向に垂直な面方向において、多孔質基材20の全域にわたって配置されることが好ましい。
【0066】
無機固体電解質体28は、上記第1実施形態にて説明した複合部22aと実質的に同じ構成を有する。そのため、電解質18が剥離したり、或いは、変形したりすることを抑制できるとともに、複合部22aが多孔質基材20から剥離することを抑制できる。
【0067】
多孔質基材20の一部にのみ配置された無機固体電解質体22は、多孔質基材20を水熱処理する際、多孔質基材20の一部のみを原料水溶液に浸漬させればよい。
【0068】
(実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0069】
[変形例1]
上記実施形態では、本発明に係る電気化学セル用電解質を適用した電気化学セルの一例として、水酸化物イオンをキャリアとするアルカリ形燃料電池について説明したが、本発明に係る電気化学セル用電解質は、種々の電気化学セルに適用可能である。電気化学セルとしては、例えば、プロトンをキャリアとする燃料電池、二次電池(ニッケル亜鉛二次電池、亜鉛空気二次電池など)、水蒸気から水素と酸素を生成する電解セルなどに適用することができる。電気化学セルがプロトンをキャリアとする場合、複合部22a、第1膜状部22b、及び第2膜状部22cは、水酸化物イオン伝導性セラミックス成分に代えて、プロトン伝導性セラミックス成分を含有していればよい。なお、電気化学セルとは、化学エネルギーを電気エネルギーに変えるための装置と、電気エネルギーを化学エネルギーに変えるための装置であって、全体的な酸化還元反応から起電力が生じるように一対の電極が配置されたものの総称である。
【0070】
[変形例2]
上記第1乃至第3実施形態では、電解質16,17,18は、複数の閉気孔24を有することとしたが、閉気孔24を少なくとも1つ有していれば、閉気孔24を全く有していない場合に比べて、複合部22aに柔軟性を付与することができるため、電解質16,17,18の剥離を抑制できる。
【0071】
[変形例3]
上記第1実施形態において、無機固体電解質体22は、第1膜状部22b及び第2膜状部22cを有することとしたが、第1膜状部22b及び第2膜状部22cのうち少なくとも一方を有していなくてもよい。
【0072】
同様に、上記第2実施形態では、無機固体電解質体26が実質的に複合部22aのみによって構成されることとしたが、第1及び第2膜状部22b,22cの一方を備えていてもよい。
【0073】
また、上記第3実施形態では、無機固体電解質体28が多孔質基材20の一部にのみ配置されることとしたが、無機固体電解質体28がカソード12側に配置される場合には第1膜状部22bを備えていてもよいし、無機固体電解質体28がアノード14側に配置される場合には第2膜状部22cを備えていてもよい。
【0074】
[変形例4]
上記第3実施形態では、多孔質基材20の連続孔20aのうち無機固体電解質体28が含浸されていない領域にはカソード12が含浸されることとしたが、カソード12は、連続孔20aに充填されている必要はなく、連続孔20aの内表面を覆うように膜状に形成されていてもよい。同様に、多孔質基材20の連続孔20aの一部にアノード14が含浸される場合においても、アノード14は、連続孔20aに充填されている必要はなく、連続孔20aの内表面を覆うように膜状に形成されていてもよい。
【0075】
[変形例5]
上記実施形態では、複数の閉気孔のすべてが多孔質基材20から離れていることとしたが、複数の閉気孔の一部は多孔質基材20に接していてもよい。
【符号の説明】
【0076】
10 固体アルカリ形燃料電池
12 カソード
14 アノード
16,17,18 電解質
16S カソード側表面
16T アノード側表面
20 多孔質基材
20a 連続孔
22,26,28 無機固体電解質体
22a 複合部
22b 第1膜状部
22c 第2膜状部
24 閉気孔
図1
図2
図3
図4