特許第6771119号(P6771119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771119
(24)【登録日】2020年9月30日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/10 20060101AFI20201012BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20201012BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20201012BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20201012BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20201012BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B01J35/10 301F
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   B01J23/63 AZAB
   B01J35/04 301E
   B01J35/04 301L
   F01N3/035 A
   F01N3/28 301Q
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-510757(P2020-510757)
(86)(22)【出願日】2019年3月19日
(86)【国際出願番号】JP2019011581
(87)【国際公開番号】WO2019188618
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年7月1日
(31)【優先権主張番号】特願2018-69908(P2018-69908)
(32)【優先日】2018年3月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 広樹
(72)【発明者】
【氏名】桜田 雄
(72)【発明者】
【氏名】永井 祐喬
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 慶徳
(72)【発明者】
【氏名】鍋本 岳史
(72)【発明者】
【氏名】秋田 真吾
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−78016(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/109514(WO,A1)
【文献】 特開2008−151100(JP,A)
【文献】 特開2016−185516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86;53/94
F01N 3/035;3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と該基材に設けられた触媒部とを備え、
前記基材が、排ガス流通方向の流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セルと、排ガス流通方向の流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セルと、該流入側セルと該流出側セルとを隔てる多孔質の隔壁とを有し、
前記触媒部は、前記隔壁における前記流入側セルに臨む面のうち、前記流通方向の上流側の少なくとも一部に設けられた第一触媒部と、前記隔壁における前記流出側セルに臨む面のうち、前記流通方向の下流側の少なくとも一部に設けられた第二触媒部とを有し、
細孔径が10μm以上18μm以下である細孔容積に関し、第一触媒部が設けられている部位において第一触媒部及び前記隔壁を対象として測定した値を第一細孔容積とし、第二触媒部が設けられている部位において第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した値を第二細孔容積としたとき、第二細孔容積よりも第一細孔容積の方が大きく、
前記第一触媒部を対象とした細孔径のピークトップが20nm以上500nm以下にあり、
第一触媒部は、前記隔壁の表面に主として存在しており、
排ガス流通方向の下流側端部から上流側に向かって前記基材の長さの1/10の長さの範囲において、前記隔壁の内部に存在する第二触媒部の質量が、前記隔壁表面に存在する第二触媒部の質量に比して多い、排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記第一細孔容積に対する前記第二細孔容積の比が0.95以下である、請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記第一触媒部を構成する金属酸化物粒子のD90が3μm以上である、請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガソリンエンジンからなる内燃機関において、特にガソリンエンジンに関しては年々厳しくなる燃費基準に対応するために、直噴エンジン(Gasoline Direct injection engine、以下GDIともいう)の採用が広がっている。GDIは低燃費及び高出力である一方で、従来のポート噴射式エンジンに比べて排気ガス中の粒子状物質(Particulate matter、以下PMともいう。ススを含む)の排出量が5〜10倍以上であることが知られている。このPM排出に関する環境規制に対応するため、GDI等のガソリンエンジン搭載車両においてもディーゼルエンジンのようにPM捕集機能を有するフィルタ(Gasoline particulate filter、以下GPFともいう)の設置が求められている。
一般に排ガス浄化触媒の搭載スペースは限られていることから、上述のフィルタにPd、Pt、Rh等の貴金属三元触媒を担持させて、PMの捕集とともに窒素酸化物(NO)、一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)等の浄化を行うものが近年用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、ディーゼルエンジン用のPM捕集機能を有するフィルタとして、開口部の両端が交互に目封じされた複数のセルがセル壁に区画され、該セル壁が多数の連続した細孔をもつ触媒担体基材を有し、セルの上流側においてセル壁の表面に形成された第一の触媒部を設け、該セルの下流側においてセル壁の内部の表面に形成された第二の触媒部を設けたフィルタ触媒が記載されている。同文献では、基材の上流側と下流側とにそれぞれ触媒担持層を設けた後、触媒活性成分を含む液体に当該基材を浸漬、乾燥、焼成することで、2つの触媒担持層に同じ触媒活性成分を担持させてフィルタ触媒を製造している。
【0004】
特許文献2においてもディーゼルエンジン用として、排ガス中のパティキュレートを触媒により燃焼し浄化する触媒装置として、流入セルと流出セルとセル隔壁とを備えた多孔質フィルタ基材と、該基材に担持された触媒とを備え、該触媒は、セル隔壁の流入セル側の表面に担持された第1の触媒層と、セル隔壁の気孔の壁面表面に担持された第2の触媒層とからなる、排ガス浄化用酸化触媒装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2006/100101
【特許文献2】特開2010−42396号公報
【発明の概要】
【0006】
上述した特許文献はいずれもディーゼルエンジンに関するフィルタ設計である。ディーゼルエンジンはせいぜい800℃程度での温度環境下の使用を想定しており、燃焼温度が1000℃を超えるガソリンエンジンに適した設計内容とはなっていない。また、これらの文献はPMの除去や排ガス浄化性能を課題としたものではあるが、高速運転時においても十分な排ガス浄化性能を発揮する設計とはなっていない。
【0007】
本発明は、耐熱性が高く、高速運転時での排ガス浄化性能の高い排ガス浄化触媒を提供することを課題としたものである。
【0008】
本発明者は、ウォールフロー構造を有するフィルタ触媒において、耐熱性が高く、高速運転時での排ガス浄化性能の高い構成について鋭意検討した。その結果、排ガス流通方向の上流側に配される触媒層の細孔径のメインピークが特定の範囲にあるとともに、セル隔壁の2つの触媒層形成部位における細孔容積が特定の関係となっていることで、耐熱性に優れるとともに、高速運転時等の空間速度が高い条件でも排ガス浄化性能が高いPM捕集用フィルタ触媒が得られた。
【0009】
したがって、本発明は、基材と該基材に設けられた触媒部とを備え、
前記基材が、排ガス流通方向の流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セルと、排ガス流通方向の流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セルと、該流入側セルと該流出側セルとを隔てる多孔質の隔壁とを有し、
前記触媒部は、前記隔壁における前記流入側セルに臨む面のうち、前記流通方向の上流側の少なくとも一部に設けられた第一触媒部と、前記隔壁における前記流出側セルに臨む面のうち、前記流通方向の下流側の少なくとも一部に設けられた第二触媒部とを有し、
細孔径が10μm以上18μm以下である細孔容積に関し、第一触媒部が設けられている部位において第一触媒部及び前記隔壁を対象として測定した値を第一細孔容積とし、第二触媒部が設けられている部位において第二触媒部及び前記隔壁を対象として測定した値を第二細孔容積としたとき、第二細孔容積よりも第一細孔容積の方が大きく、
前記第一触媒部を対象とした細孔径のピークトップが20nm以上500nm以下にある、排ガス浄化触媒を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態である排ガス浄化触媒の模式図を示す。
図2図2は、図1において四角で囲まれた部分について基材の軸方向に沿う断面を示した図である。
図3図3は、図2において四角で囲まれた部分を拡大して示した図である。
図4図4は、実施例2及び比較例1の排ガス浄化触媒における第一触媒部の細孔容積を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明するが、本発明は下記実施形態に限定されない。
本実施形態の排ガス浄化触媒10の例を図1ないし図3に示す。これら図面は単に、排ガス浄化触媒の模式的な例の一つを示すものであり、何ら本発明を限定するものではない。
【0012】
排ガス浄化触媒10は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン、特に車両のGDIエンジンなどの内燃機関の排気経路に設けられている。排ガス浄化触媒10は、例えばGPFとして用いられる。
【0013】
図1に示すように、排ガス浄化触媒10は、いわゆるウォールフロー構造を有する基材11を有する。基材11は、種々の材料のものを用いることができ、例えば、コージェライト、炭化ケイ素(SiC)等のセラミックスまたはステンレス等の合金から形成された基材を好適に採用することができる。基材は、通常、図1に示すように筒状の外形を有しており、筒状外形の軸方向が排ガス流通方向Xと略一致するように、排ガス流通経路に配置されている。図1には、外形が円筒形状である基材が例示される。ただし、基材全体の外形については、円筒形に代えて、楕円筒形、多角筒形を採用してもよい。
【0014】
図1に示すように、基材11は、排ガス流通方向Xに沿って延びるとともに、該流通方向Xの流入側が開口し且つ流出側が閉塞されている空間からなる流入側セル21と、該流通方向Xに沿って延びるとともに、該流通方向Xの流入側が閉塞されており且つ流出側が開口している空間からなる流出側セル22とを有している。
【0015】
流入側セル21は、排ガス流通方向Xの下流側端部R2に位置する排ガス流出側端部が封止部24で閉塞されており、上流側端部R1に位置する排ガス流入側端部が開口している。流出側セル22は、上流側端部R1に位置する排ガス流入側端部が封止部25で閉塞されており、下流側端部R2に位置する排ガス流出側端部が開口している。流入側セル21及び流出側セル22は、開口端部から気体や液体等の流通が可能であり、閉塞した封止部24及び封止部25では排ガスの流通が遮断されている。流入側セル21及び流出側セル22は基材11の軸方向に沿って延びる有底孔状の空間である。基材11の軸方向と直交する断面における形状は、正方形、平行四辺形、長方形、台形などの矩形、三角形、六角形、八角形などの多角形、円形、楕円形など種々の幾何学形状であってよい。
【0016】
流入側セル21と、隣接する該流出側セル22との間には、これらを区画する多孔質の隔壁23が形成されている。この隔壁23によって、流入側セル21と流出側セル22とが仕切られている。隔壁23は、有底孔状の流入側セル21と流出側セル22の内側壁を構成している。隔壁23は、排ガス等の気体が通過可能な多孔質構造である。隔壁23の厚みとしては例えば150μm〜400μmが好ましい。
【0017】
基材11には、触媒活性成分を有する触媒部が担持されている。図2に示すように、触媒部は、隔壁23の流入側セル21に臨む面のうち、排ガス流通方向X(以下、X方向ともいう)上流側に少なくとも設けられた層状の第一触媒部14(以下、第一触媒層14ともいう)と、隔壁23の流出側セル22に臨む面のうち、少なくとも排ガス流通方向Xの下流側に設けられた層状の第二触媒部15(以下、第二触媒層15ともいう)を有している。
【0018】
第一触媒層14のX方向の長さL1(図2参照)は、基材11のX方向の長さL(図2参照)の20%〜60%であることが、圧力損失を低減しつつ排ガス浄化性能を高める点やPMの好適な捕集性能の点で好ましく、30%〜50%であることがさらに好ましい。また、第二触媒層15のX方向の長さL2(図2参照)は、基材11のX方向の長さLの50%〜90%であることが、圧力損失を低減しつつ排ガス浄化性能を高める点やPMの好適な捕集性能の点で好ましく、60%〜80%であることがさらに好ましい。なお、第一触媒層14は排ガス流通方向の上流側端部から形成されることが好ましく、第二触媒層15は下流側端部から形成されることが好ましい。
第一触媒層14のX方向の長さL1と、第二触媒層15のX方向の長さL2との合計長さL1+L2は、基材11のX方向の長さLを超えることが、排ガス浄化性能を高める点で好ましく、(L1+L2)/L=1.05以上であることが好ましい。(L1+L2)/Lの上限としては、1.40以下であることが圧力損失の低減の観点から好ましく、1.35以下であることがより好ましく、1.30以下であることが更に好ましい。
【0019】
なお、第一触媒層14及び第二触媒層15の長さは以下の方法にて測定することができる。すなわち、排ガス浄化触媒10を基材11の軸方向に沿って切断した断面における任意の10ヶ所について目視で測長し、その平均をとり求めることが好ましい。目視で第一触媒層14と第二触媒層15との排ガス流通方向における境界が判断できない場合には、排ガス浄化触媒における排ガス流通方向に沿う多数(例えば8〜16か所)の位置における組成を分析し、各箇所における触媒活性成分の濃度に基づき特定することができる。各箇所における触媒活性成分の濃度は、例えば、蛍光X線分析(XRF)やICP発光分光分析(ICP−AES)により求めることができる。
【0020】
第一触媒層14は、基材11のX方向の上流側端部R1から下流側に延びて形成されていることが、製造容易性と排ガス浄化性能との両立の点で好ましく、同様に、第二触媒層15は、基材11のX方向の下流側端部R2から上流側に延びて形成されていることが好ましい。
【0021】
第一触媒層14及び第二触媒層15に含有する触媒活性成分は、同一であってもよく、それぞれ異なっていてもよい。このような触媒活性成分としては白金族金属が挙げられ、具体的には、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)及びオスミウム(Os)のうちのいずれか1種または2種以上が挙げられる。排ガス浄化性能の観点から、第一触媒層14及び第二触媒層15に含まれる触媒活性成分は、それぞれ独立して、当該触媒層に含まれる全成分量の中で0.001質量%以上を占めることが好ましく、0.01質量%以上を占めることがより好ましく、0.05質量%以上を占めることが最も好ましい。一方、上限としてはそれぞれ独立して、25質量%以下であることが排ガス浄化性能及びコストとのバランスの観点から好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0022】
これらの中でも、第一触媒層14及び第二触媒層15に含有する触媒活性成分はそれぞれ異なることがより好ましい。特に、第一触媒層14が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)及びロジウム(Rh)から選ばれる貴金属を含有し、第二触媒層15が、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)から選ばれ、第一触媒層14の含有する貴金属以外の貴金属を含有していることが、NO、CO、HCといった排ガス有害成分を効率的に浄化できる点で特に好ましい。
【0023】
排ガス浄化触媒10の耐熱性をより一層高める点から、第一触媒層14に含まれる触媒活性成分の含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.1g以上15g以下が好ましく、1g以上8g以下がより好ましい。また第二触媒層15に含まれる触媒活性成分の含有量は、基材の体積1L当たり、概ね0.01g以上5g以下が好ましく、0.1g以上1g以下がより好ましい。
また第一触媒層14に含まれる触媒活性成分の基材の体積1L当たりの質量は、始動時の排ガス浄化性能向上の観点から第二触媒層15に含まれる触媒活性成分の質量よりも多いことが好ましく、第二触媒層15に含まれる触媒活性成分の質量に比して1.1倍以上であることが更に好ましく、1.3倍以上20倍以下であることが特に好ましく、1.5倍以上15倍以下であることが更に一層好ましい。
ここでいう基材の体積は、基材部分だけでなく第一触媒層14及び第二触媒層15、隔壁23中の空孔、セル21及び22内の空間を含めた体積である。
【0024】
排ガス浄化触媒10は、細孔径が10μm以上18μm以下である細孔容積に関し、第一触媒部14が設けられている部位において第一触媒部14及び隔壁23を対象として測定した値を第一細孔容積とし、第二触媒部15が設けられている部位において第二触媒部15及び隔壁23を対象として測定した値を第二細孔容積としたとき、第二細孔容積よりも第一細孔容積の方が大きい。
【0025】
通常、GPFに用いられるウォールフロー型基材の基材由来の細孔径ピークは10〜18μmの範囲又はその近傍にある。従って、第一細孔容積が第二細孔容積よりも大きいことは、隔壁部位において、第二触媒層15が隔壁内部に侵入している度合いが、第一触媒層14よりも大きいことを示す。本発明者は、触媒がこのような構成を有することによって、高速運転時の排ガス浄化性能が高くなることを見出した。その理由の一つとして、排ガスの流れを阻害することなく第一触媒層14及び第二触媒層15の両方に接触しやすい構成となり、触媒活性成分との接触性が好適となるからである。
【0026】
第一細孔容積は、隔壁23における、第一触媒層14が形成され、且つ第二触媒層15が形成されていない部分を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定すればよい。また、第二細孔容積は、隔壁23において第二触媒層15が形成され第一触媒層14が形成されていない部分を切り出してサンプルとし、以下の方法で測定すればよい。
【0027】
サンプルの具体的な調製方法は、例えば以下の通りである。なお、切断の際には、基材11の軸方向と直交する断面で隔壁を切断することが好ましい。
第一細孔容積測定用サンプルの調製:基材の上流側端部R1から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm(1辺が1cmの立方体形状)を取り出す。
第二細孔容積測定用サンプルの調製:基材の下流側端部R2から全長Lに対して10%離間した箇所にて1cm(1辺が1cmの立方体形状)を取り出す。
サンプルの数:第一細孔容積及び第二細孔容積のそれぞれに対して5つ。
【0028】
細孔容積は、JIS R 1655:2003の水銀圧入法によって測定される。詳細には、取り出したサンプルを150℃、1時間乾燥させた後、そのサンプルを室温(20℃)にて細孔分布測定用水銀圧入ポロシメーター(マイクロメリティックス社製、AutoPore IV9520)を用いて細孔容積を測定する。水銀の圧入の圧力は、開始時を0.0048MPaとし、最高圧力を255.1060MPaとする。これらの値を含む合計131点の圧力において細孔容積を測定する。各圧力は10秒間保持する。
【0029】
高速運転時での排ガス浄化性能を高める点から、排ガス浄化触媒10における第一細孔容積V1に対する第二細孔容積V2(V2/V1)の比が、0.95以下であることが好ましく、0.8以下であることがより好ましく、0.7以下であることが特に好ましい。一方、圧力損失の低減の観点から、第一細孔容積V1に対する第二細孔容積V2(V2/V1)の比が、0.4以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、0.6以上であることが特に好ましい。
【0030】
第一細孔容積を第二細孔容積よりも大きくするためには、第一触媒層14及び第二触媒層15を構成する金属酸化物粒子の粒径、第一触媒層14及び第二触媒層15のコート量、第一触媒層14及び第二触媒層15を製造するための焼成温度、スラリー粘度、及び/又は造孔材の有無等を調整すればよい。なお、第一触媒層14を構成する金属酸化物の粒径を隔壁23の細孔に侵入し難い粒径とし、第二触媒層15を構成する金属酸化物の粒径を隔壁23の細孔に侵入しやすい粒径とすることで、第一細孔容積を第二細孔容積よりも容易に大きくすることができ、上述したV2/V1の値を上述の範囲とすることができる。また、第一触媒層14及び第二触媒層を構成する金属酸化物粒子の粒径や、第一触媒層14及び第二触媒層15のコート量を調整することによっても、上述したV2/V1の値の範囲とすることができる。しかし、本発明は、この構成に限定されない。
【0031】
耐熱性の観点から、第一触媒層14が設けられている部位において前記第一触媒層14を対象として測定した細孔径のピークトップが20nm以上500nm以下にあることが好ましく、20nm以上100nm以下にあることが更に好ましい。
【0032】
「第一触媒層14を対象とした細孔径のピークトップが20nm以上500nm以下である」とは、第一触媒層14が設けられている部位における第一触媒層14及び隔壁を測定対象として、縦軸を細孔容積とし、横軸を細孔径としたグラフを描いたときに、細孔径が500nm以下の範囲において、最もピーク高さの高いピークが細孔径20nm以上500nm以下の範囲に観察されることをいう。なお、基材の隔壁由来の細孔径のピークは500nm超であるので、この上限以下であれば、第一触媒層14を対象としたものであると理解できる。
【0033】
第一触媒層14を対象とした細孔径のピークトップを20nm以上500nm以下とするためには、例えば後述する好適な排ガス浄化触媒10の製造方法において、用いる金属酸化物粒子の粒径を後述の好ましい範囲としたり、第一触媒層14及び第二触媒層15のコート量、第一触媒層14及び第二触媒層15を製造するための焼成温度、スラリー粘度、造孔材の有無又はその量等を適宜調整すればよい。
【0034】
第一触媒層14の好ましい組成について、更に説明する。第一触媒層14には、触媒活性成分を担持する担体成分や或いは助触媒となる成分を更に含有することが、触媒活性成分による排ガス浄化性能を効率よく発揮する点で好ましい。ここでいう担体成分や助触媒となる成分としては、金属酸化物が挙げられ、具体的には、酸素貯蔵成分(OSC材料ともいう、OSCはoxygen storage capacityの略)である無機酸化物や、酸素貯蔵成分以外の無機酸化物が挙げられる。第一触媒層14において、酸素貯蔵成分である無機酸化物と酸素貯蔵成分以外の無機酸化物との両方が触媒活性成分を担持していることが好ましい。
【0035】
本明細書中、「担持されている」とは、外表面又は細孔内表面に物理的又は化学的に吸着又は保持されている状態をいう。具体的には、一の粒子が他の粒子を担持していることは、例えば排ガス浄化触媒10の断面をエネルギー分散型X線分析(EDS)で分析して元素マッピング像から、一の粒子を構成する元素と他の粒子を構成する元素とが互いに同じ領域に存在することを確認することで、「担持されている」と判断できる。
【0036】
酸素貯蔵成分である無機酸化物としては、多価状態を有する金属酸化物であって酸素を貯蔵する能力を有するものであればよく、例えば、CeOやセリア−ジルコニア複合酸化物(以下、CeO−ZrOとも記載する)、酸化鉄、酸化銅が挙げられる。これらに加えて、Ce以外の希土類元素の酸化物が熱的安定性の観点等から好ましく用いられる。Ce以外の希土類元素の酸化物としては、Sc23、Y23、La23、Pr611、Nd23、Sm23、Eu23、Gd23、Tb47、Dy23、Ho23、Er23、Tm23、Yb23及びLu23が挙げられる。なお、CeO−ZrOはCeOとZrOとの固溶体である。CeO及びZrOが固溶体となっていることは、X線回折装置(XRD)を用い、CeO−ZrOに由来する単相が形成されているか否かにより確認することができる。
特に、耐熱性とOSCとのバランスの観点から、第一触媒層14中の好ましいCeOの量は10〜45質量%であり、更に好ましくは15〜35質量%である。第一触媒層14中の好ましいZrOの量は20〜55質量%であり、更に好ましくは25〜45質量%である。ここでいう好ましいCeO及びZrOの量は固溶体となっているCeOやZrOの量を含む。
【0037】
第一触媒層14に含まれうる酸素貯蔵成分以外の無機酸化物としては、酸素貯蔵成分以外の金属酸化物が挙げられ、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、チタニア、アルミノシリケート類が挙げられる。特にアルミナが耐熱性の観点で好ましく用いられる。第一触媒層14中の好ましいアルミナの含有量は8〜30質量%であり、更に好ましくは10〜25質量%である。
【0038】
第二触媒層15の好ましい組成について、更に説明する。第二触媒層15には、触媒活性成分を担持する担体成分を更に含有することが、触媒活性成分による排ガス浄化性能を効率よく発揮する点で好ましい。ここでいう担体成分としては、第一触媒層14で列挙した金属酸化物と同様のものが挙げられる。
【0039】
酸素貯蔵成分である無機酸化物としては、第一触媒層14で列挙した酸素貯蔵成分である無機酸化物と同様のものが挙げられる。中でも特に、セリア、あるいはセリア−ジルコニア複合酸化物を有することが、排ガス浄化触媒のOSCが高いために好ましい。特に、耐熱性及びOSCのバランスの観点から、第二触媒層15中の好ましいCeOの量は3〜30質量%であり、更に好ましくは5〜20質量%である。第二触媒層15中の好ましいZrOの量は35〜75質量%であり、更に好ましくは40〜70質量%である。ここでいう好ましいCeO及びZrOの量は固溶体となっているCeOやZrOの量を含む。
【0040】
第二触媒層15に含まれうる酸素貯蔵成分以外の無機酸化物としては、第一触媒層14で列挙した無機酸化物と同様のものが挙げられる。特にアルミナが耐熱性が高い点から好ましい。第二触媒層15中の好ましいアルミナの量は5〜40質量%であり、更に好ましくは5〜25質量%である。
【0041】
第一触媒層14は、隔壁23の内部及び表面のいずれに形成されていてもよいが、隔壁23の表面に形成されていることが、高速運転時の排ガス浄化性能を一層高めることができるために好ましい。第一触媒層14が隔壁23の表面に形成されているとは、隔壁23の内部ではなく、表面に主として存在することをいう。より具体的には、例えば第一触媒層14が設けられた隔壁の断面を、走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JEM−ARM200F」)で観察すると共に、エネルギー分散型X線分析(EDS:Energy dispersive X−ray spectrometry)で分析し、基材にのみ存在する元素(例えばSi、Mg等)と触媒層にのみ存在する元素(例えばCe、Zr等)との境界をライン分析することや、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により分析する方法等によって、表面に主に存在していることを確認できる。
表面に主として存在しているとは、排ガス浄化触媒10を軸方向に対して垂直な面に沿って切断して観察した場合に、隔壁23の単位断面の表面に存在する第一触媒層14の質量が隔壁23の同じ単位断面の内部に存在する第一触媒層14の質量よりも多いことをいう。単位断面とは、例えば5mm×5mmの面積を指す。
【0042】
第二触媒層15は、隔壁23の表面及び内部のいずれに形成されていてもよいが、隔壁23の内部に少なくとも第二触媒層15の一部が存在することが好ましい。第二触媒層15は、排ガス流通方向Xの下流側端部R2から上流側に向かって基材の長さLの1/10の長さ(0.1L)の範囲において、コート量全体を100質量%としたときに、当該コート量100質量%中、隔壁23の内部に存在する第二触媒層15の質量が、隔壁表面に存在する第二触媒層15の質量に比して多いことが圧力損失の低減や高速運転時の排ガス浄化性能などの点で好ましい。
【0043】
図3では、第一触媒層14が隔壁23の表面に形成され、第二触媒層15が隔壁23の内部に形成された状態を模式的に示している。図3のように、触媒層は仮に、隔壁23内部に存在したとしても、隔壁23の厚み方向において、塗布されたセル側に偏在していることが好ましい。なお、本発明の実施形態は、図3に示すように、第一触媒層14が隔壁23の表面に形成され、第二触媒層15が隔壁23の内部に形成された形態であってもよく、第一触媒層14及び第二触媒層15がともに隔壁23の表面に形成されてもよく、第一触媒層14及び第二触媒層15がともに隔壁23の内部に形成されてもよい。これらの中でも、高速運転時の排ガス浄化性能を高める点から、第一触媒層14が隔壁23の表面に形成され、第二触媒層15が隔壁23の内部に形成された形態を採用することが好ましい。
【0044】
次いで、以下本発明の排ガス浄化触媒の好ましい製造方法について説明する。
本製造方法は、以下の(1)〜(3)の工程を有する。(1)及び(2)の工程はいずれを先に行ってもよい。
(1)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有し、金属酸化物のD90が3μm以上である第一触媒層14用スラリーを、流入側セル21側の隔壁23に塗布した後、乾燥する工程。
(2)触媒活性成分と、金属酸化物粒子とを含有し、金属酸化物粒子のD90が5μm以下である第二触媒層15用スラリーを、流出側セル22側の隔壁23に塗布した後、乾燥する工程。
(3)(1)及び(2)の工程後の基材11を焼成する工程。
【0045】
金属酸化物粒子としては、第一触媒層14及び第二触媒層15の構成成分として上述した酸素貯蔵成分である無機酸化物及び酸素貯蔵成分以外の無機酸化物が挙げられる。(1)及び(2)の触媒活性成分は、硝酸塩などの水溶性塩の状態で金属酸化物粒子と混合してそれぞれ第一触媒層14用スラリー及び第二触媒層15用スラリーを得、これらを基材11に塗布した後、(3)の焼成を行ってもよい。あるいは、触媒活性成分は、予め金属酸化物粒子に担持させ、担持後の金属酸化物粒子をスラリーとしてもよい。触媒活性成分を予め担持する場合は金属酸化物粒子を触媒活性成分の水溶性塩の水溶液に含浸させたのち、350〜550℃で焼成する方法が挙げられる。
【0046】
(1)の第一触媒層14用スラリー及び(2)の第二触媒層15用スラリーには、基材に触媒活性成分を担持した金属酸化物粒子を密着させる目的で、バインダーを含有させてもよい。バインダーとしては、例えばアルミナゾルやジルコニアゾルが挙げられる。
【0047】
(1)の第一触媒層14用スラリーと(2)の第二触媒層15用スラリーとは構成する金属酸化物粒子の粒径D90が異なることが好ましい。なお、D90は、体積基準の90%積算粒径である。
第一触媒層14用スラリーの金属酸化物粒子のD90は、細孔容積が上流側において下流側よりも高くした排ガス浄化触媒を首尾よく得る観点及び耐熱性の観点から、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることが更に好ましく、15μm以上であることが特に好ましい。第一触媒層14用スラリーの金属酸化物粒子のD90は80μm以下であることが触媒活性成分の分散性を高める点で好ましく、50μm以下であることがより好ましい。
【0048】
一方、第二触媒層15用スラリーの金属酸化物粒子のD90は、第一細孔容積を第二細孔容積よりも大きくした排ガス浄化触媒を首尾よく得る観点から、5μm未満であることが好ましく、3μm未満であることがより好ましく、1μm以下であることが特に好ましい。第二触媒層15用スラリーの金属酸化物粒子のD90は0.1μm以上であることが耐熱性の点で好ましい。
【0049】
ここでいう金属酸化物粒子のD90は、触媒活性成分を担持した状態の粒径であっても、触媒活性成分担持前の状態の粒径であってもよく、触媒活性成分を担持後及び担持前の何れかの状態において、上記の好ましい下限以上或いは上限以下であればよい。
また、金属酸化物粒子のD90は、例えば以下のように測定することができる。すなわち、レーザー回折粒子径分布測定装置用自動試料供給機(マイクロトラック・ベル社製「MicrotoracSDC」)を用い、金属酸化物粒子を水性溶媒に投入し、40%の流速中、40Wの超音波を360秒間照射した後、レーザー回折散乱式粒度分布計(マイクロトラック・ベル社製「マイクロトラックMT3300EXII」)を用いて測定する。測定条件は、粒子屈折率1.5、粒子形状真球形、溶媒屈折率1.3、セットゼロ30秒、測定時間30秒、2回測定の平均値として求める。水性溶媒としては純水を用いる。
【0050】
(1)の第一触媒層14用スラリーには、造孔材を含有させることが、第一細孔容積を第二細孔容積よりも大きくした排ガス浄化触媒を首尾よく得る観点から好ましい。造孔材は、例えば架橋ポリ(メタ)アクリル酸メチル粒子、架橋ポリ(メタ)アクリル酸ブチル粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋ポリアクリル酸エステル粒子などを用いることができる。造孔材の平均粒径D50としては、0.1μm〜100μmであることが好ましい。D50は、体積基準の50%積算粒径である、上記のD90と同様の方法で求めることができる。
【0051】
(1)の第一触媒層14用スラリーを基材11に塗布するためには、当該スラリーに基材11の排ガス流通方向上流側を浸漬させる方法が挙げられる。当該浸漬と同時にスラリーを下流側に吸引してもよい。このような方法により、第一触媒層14用スラリーが基材11のX方向上流側の流入側セル開口部を通じて、当該上流側における、隔壁23の流入側セルに臨む面に塗工される。上述した金属酸化物粒子の粒径により、第一触媒層14を構成する金属酸化物はその大部分が隔壁23表面に位置することとなる。
【0052】
(2)第二触媒層15用スラリーを基材11に塗工するためには、当該スラリーに基材11の排ガス流通方向下流側を浸漬させる方法が挙げられる。当該浸漬と同時にスラリーを上流側に吸引してもよい。このような方法により、第二触媒層15用スラリーが基材11のX方向下流側の流出側セル開口部を通じて、当該下流側における、隔壁23の流出側セルに臨む面に塗工される。上述した通り、第二触媒層15は隔壁23の内部及び表面のいずれに存在してもよいが、少なくとも一部が隔壁23内部に存在することが好ましく、内部に存在する部分が表面に存在する部分よりも多いことが好ましい。
【0053】
耐熱性及び作業性の観点から、(1)及び(2)のスラリーの乾燥温度は、いずれも40〜120℃が好ましい。(3)の焼成温度は、350〜550℃が好ましい。
【0054】
得られた第一触媒層14の量は、第二触媒層15の量よりも少ないことが、圧力損失の低減の点や高速運転時の排ガス浄化性能の点で好ましい。第一触媒層14のコート量は、基材の体積1Lあたり50g以下であることが圧力損失の低減の観点、及び、高速運転時の排ガス浄化性能などの点で好ましく、5g以上であることが排ガス浄化性能の向上や好適なPM捕集の点で好ましい。特には8g以上または40g以下であることがより好ましい。
第二触媒層15のコート量は、基材の体積1Lあたり80g以下であることが圧力損失の低減などの点で好ましく、20g以上であることが排ガス浄化性能の向上の観点で好ましい。特には30g以上または70g以下であることがより好ましい。
【0055】
上記の製法にて得られた排ガス浄化触媒は、パティキュレートフィルタとして用いた場合、図2に示すように、基材11の流入側セル21から排ガスが流入する。流入側セル21から流入した排ガスは、多孔質の隔壁23を通過して流出側セル22に到達する。図2においては、流入側セル21から流入した排ガスが隔壁23を通過して流出側セル22に到達するルートを矢印で示している。このとき、隔壁23は多孔質構造を有しているので、排ガスがこの隔壁23を通過する間に、PMが隔壁23の表面や隔壁23の内部の細孔内に捕集される。また、隔壁23には、第一触媒層14および第二触媒層15が設けられているので、排ガスが隔壁23の内部および表面を通過する間に、排ガス中の有害成分が浄化される。隔壁23を通過して流出側セル22に到達した排ガスは、排ガス流出側の開口から排ガス浄化触媒10の外部へと排出される。
【0056】
このように製造された排ガス浄化触媒10によれば、第一細孔容積が第二細孔容積よりも大きい構成とし、且つ第1触媒部における細孔径のメインピークが特定の範囲となっていることで、耐熱性だけでなく高速運転時の排ガス浄化性能に優れたものとなる。
【0057】
なお、本発明において、上述した各種成分のセリア及びジルコニア、酸素貯蔵成分以外の無機酸化物の含有量の測定方法としては、各触媒層を全溶解して得られる溶液中のセリウム、ジルコニウム、アルミニウム等各種金属の量をICP−AESで測定することにより求めることができる。また多孔質基材11あたりの触媒活性成分の量は、例えば、触媒層を全溶解して得られる溶液中の貴金属の量をICP−AESで測定することにより測定できる。
なお、基材の隔壁内に触媒層が含まれる場合には、各触媒層及び基材を全溶解して得られる溶液中の各種金属の量から、基材のみを全溶解して得られる溶液中の各種金属の量を差し引くことにより測定できる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。なお、乾燥及び焼成はすべて大気中で行った。
【0059】
<実施例1>
〔1.スラリーの調製〕
D90=20μmのCeO−ZrO固溶体粉末(CeO−ZrO固溶体中において、CeO40質量%、ZrO50質量%含有)及びD90=20μmのアルミナ粉末を用意し、CeO−ZrO固溶体粉末とアルミナ粉末とを質量比3:1で混合し、硝酸パラジウム水溶液中に含浸させた。
次いで、この混合溶液、造孔材(架橋ポリ(メタ)アクリル酸メチル粒子)、アルミナゾル、ジルコニアゾル及び液媒として水を混合して、第一触媒層14用スラリーを調製した。
【0060】
一方、D90=0.5μmのCeO−ZrO固溶体粉末(CeO−ZrO固溶体中にCeO15質量%、ZrO70質量%含有)、D90=0.5μmのアルミナ粉末を混合し、硝酸ロジウム水溶液中に含浸させた。
次いで、この混合溶液、アルミナゾル、ジルコニアゾル及び液媒として水を混合して、第二触媒層15用スラリーを調製した。
【0061】
〔2.触媒層の形成〕
基材11として、図1に示す構造を有し、厚さが215μmのセル隔壁で区画された軸方向に延びるセルを、軸方向と直交する面において、300セル/inch有し、外径118.4mm、軸方向長さ91mmの基材11を用いた。基材11は、第一細孔容積及び第二細孔容積と同様の方法で測定した細孔径分布(測定範囲:1〜1000000nm)において、10〜25μmの範囲にピークを有していた。
【0062】
第一触媒層14用スラリーの触媒担体基材11へのコーティングは、スラリー中に触媒担体基材11の排ガス流通方向の上流側端部を浸漬し、下流側から吸引した後に70℃で10分乾燥させることで行われた。
【0063】
第二触媒層15用スラリーの触媒担体基材11へのコーティングは、スラリー中に触媒担体基材11の排ガス流通方向の下流側端部を浸漬し、上流側から吸引した後に70℃で10分乾燥させることで行われた。
【0064】
その後、450℃、1時間で焼成した。これにより、実施例1の排ガス浄化触媒10を得た。得られた第一触媒層14は、CeO27.4質量%、ZrO37.5質量%、アルミナ19.6質量%、Pd9.5質量%で構成されている。一方、第二触媒層15は、CeO12.3質量%、ZrO62.8質量%、アルミナ11.2質量%、Rh0.5質量%で構成されている。
【0065】
また、実施例1の排ガス浄化触媒において、排ガス浄化触媒10の第一触媒層14は、排ガス流通方向Xの上流側端部R1から下流側に全長Lの40%までの範囲にかけて、流入側セル21側の隔壁23の表面に形成されており、基材の体積1Lに対するコート量は10g/Lであった。第一触媒層14に含まれたPd量は、基材の体積1Lに対して0.95g/Lであった。
排ガス浄化触媒10の第二触媒層15は、排ガス流通方向Xの下流側端部R2から上流側に全長Lの70%までの範囲にかけて、流出側セル22側の隔壁23の内部に形成されており、基材の体積1Lに対するコート量は50g/Lであった。第二触媒層15に含まれたRh量は、基材の体積1Lに対して0.25g/Lであった。
【0066】
<実施例2〜13>
表1の条件に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜13の排ガス浄化触媒をそれぞれ得た。
【0067】
<比較例1>
第一触媒層14用スラリーの調製に用いるCeO−ZrO固溶体粉末のD90を0.5μmに変更した。また第一触媒層14用スラリーの調製に用いるアルミナ粉末のD90を0.5μmに変更した。また第一触媒層14用スラリーの調製に造孔材を用いなかった。その点以外は実施例1と同様にして、比較例1の排ガス浄化触媒を得た。基材の容積あたりのPd及びRhの量は、実施例1と同じであった。
【0068】
<比較例2>
表1の条件に変更した以外は比較例1と同様にして、比較例2の排ガス浄化触媒をそれぞれ得た。
【0069】
[細孔容積の測定]
実施例及び比較例の各触媒を、上記の方法にて、排ガス浄化触媒10における上流側端部R1から下流側に基材11の全長Lの10%離間した位置における隔壁23の一部を上流側サンプルとして1cm(1辺が1cmの立方体形状)を切り出した。同様に、下流側端部R2から上流側に全長Lの10%離間した位置における隔壁23の一部を下流側サンプルとして1cm(1辺が1cmの立方体形状)を切り出した。
測定して得られた実施例2及び比較例1の上流側サンプルについて、上述した方法で測定した細孔容積のグラフを図4にそれぞれ示す。また、各実施例及び比較例の上流側及び下流側における細孔径10〜18μmの細孔容積を表1に示す。
【0070】
[高速運転時のNO排出量の測定]
実施例及び比較例の排ガス浄化触媒について、エンジンの排気経路に配置し、10〜20万キロ走行を想定した劣化処理として、次のような耐久条件を課した。
(耐久条件)
・耐久用エンジン:乗用NA 2L ガソリンエンジン
・使用ガソリン:市販レギュラーガソリン
・耐久温度・時間:900℃、100hr
【0071】
上記条件にて耐久試験を行った後に、耐久後の排ガス浄化触媒を下記車両に設置した。車両試験として、国際調和排ガス試験モード(WLTC)の運転条件に従って運転した。運転開始から運転停止までの排ガス中のNOの総排出量(Totalのエミッション値)と、運転開始1478秒から1800秒までの高速運転時における排ガス中のNOの排出量(Ex Highのエミッション値)とをそれぞれ測定した。これらの値を表1に示す。
(浄化率測定条件)
・評価車両:1.5L直噴ターボエンジン
・使用ガソリン:認証試験用燃料
・排ガス測定装置:堀場製作所社製
【0072】
[熱耐久前後の触媒の比表面積の測定]
実施例及び比較例の排ガス浄化触媒を、大気中、950℃、10時間の耐久試験に付した。耐久試験前後の排ガス浄化触媒について、カンタクローム社製QUADRASORB SIを用いて、BET1点法にて測定した。なお、表1においては、耐久試験前のものをFreshとし、耐久試験後のものをAgedとして示している。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、実施例1ないし13の排ガス浄化触媒は、比較例1及び2の排ガス浄化触媒と比較して、NOの総排出量と、高速運転時におけるNO排出量との双方が低減できていることが判る。また、同表に示すように、実施例1ないし13の排ガス浄化触媒は、高熱負荷後においても比表面積は維持されており、耐熱性が高いことも判る。特に、同表に示すように、第一細孔容積に対する第二細孔容積の比が0.4以上である実施例2ないし7、及び、0.5以上である実施例8ないし13は、高速運転時におけるNO排出量が一層低減できていることも判る。したがって、本発明の排ガス浄化触媒は、耐熱性及び高速運転時の排ガス浄化性能が高いものである。
【0075】
また、図4に示すように、耐熱性が高く、NOx浄化性能が高い実施例2の第一触媒層由来の細孔径のピークトップは23.39nmであるのに対し、比較例1の第一触媒層由来の細孔径のピークトップは15.10nmであることも判る。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、耐熱性及び高速運転時の排ガス浄化性能を高めることができる、ウォールフロー構造を有するフィルタ触媒を提供することができる。
図1
図2
図3
図4