(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771254
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】流量計測装置及び流量計測方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/34 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
G01F1/34 Z
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-510314(P2020-510314)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2018012821
(87)【国際公開番号】WO2019186783
(87)【国際公開日】20191003
【審査請求日】2020年6月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】512239206
【氏名又は名称】株式会社木幡計器製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博
(72)【発明者】
【氏名】木幡 巌
(72)【発明者】
【氏名】中家 崇厳
【審査官】
岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−134180(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0191481(US,A1)
【文献】
特開2010−101738(JP,A)
【文献】
特開2005−147682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/34− 1/50
G01F15/02−15/04
G01P 5/14− 5/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体が流れる管体の第一受圧部における第一圧力と前記管体の第二受圧部における第二圧力との差圧を計測する計測器と、計測された差圧から前記流体の流量を算出する処理機とを備える流量計測装置であって、
前記処理機は、複数の既知の流量と前記複数の既知の流量に対する計測された差圧から下記式1の流量計算式における基準差圧を求めると共に、前記基準差圧を境に前記流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成するパラメータ生成部と、
計測対象の流体の計測された差圧と前記基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択する差圧判定部と、
選択されたパラメータセット及び前記計測された差圧を前記流量計算式に代入して前記流体の流量を算出する流量算出部とを有する流量計測装置。
(式1)ΔP=c1×η×Q+c2×ρ×Q2+c3
(Q:流量、ΔP:差圧、η:動粘度係数、ρ:密度、c1〜c3:係数)
【請求項2】
前記管体は、その内部に前記流体の流れ方向に直交する方向に延在する柱状部材を備え、前記第一受圧部は、前記柱状部材の前記流れ方向の上流側に設けた第一測定孔であり、前記第二受圧部は、前記柱状部材の前記流れ方向の下流側に設けた第二測定孔であり、前記柱状部材は、前記管体の中心軸に直交し且つ前記柱状部材の前記流れ方向に沿う長さの中心を通る第一平面に対し線対称となる流線形状を呈し、前記第一測定孔と前記第二測定孔とは、前記第一平面に対し線対称に配置されている請求項1記載の流量計測装置。
【請求項3】
前記柱状部材は、前記管体の中心軸を含み且つ前記柱状部材の延在方向に平行な第二平面に対し線対称である請求項1又は2記載の流量計測装置。
【請求項4】
前記柱状部材は、前記第一平面及び前記第二平面に直交する第三平面上に投影される形状が下記式2及び式3で定義される外周面を有する請求項3記載の流量計測装置。
(式2)L=2(K+r)
(式3)d=2(K(1/cosθ−tanθ)+r)
(O:原点、d:柱状部材の幅、L:柱状部材の流れ方向の長さ、r:原点Oから流れ方向に±K離れた点aを中心した円弧の半径、θ:円弧の中心角/2)
【請求項5】
前記柱状部材の前記管体内部における延在方向の長さは、前記管体の直径よりも小である請求項2〜4のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項6】
前記第一測定孔及び前記第二測定孔は、前記管体の中心軸上に位置する請求項2〜5のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項7】
前記柱状部材は中実であり、前記第一測定孔及び前記第二測定孔のそれぞれに連通する管状の連通路が形成されている請求項2〜6のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項8】
前記流体は、呼吸である請求項1〜7のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項9】
前記流体は、医療用ガスである請求項1〜7のいずれかに記載の流量計測装置。
【請求項10】
前記流体の流れ方向に直交する方向に延在する柱状部材をさらに備え、前記第一受圧部は、前記管体の管壁に設けた第一開口であり、前記柱状部材は、前記第一開口よりも前記流れ方向の下流側に位置し、前記第二受圧部は、前記柱状部材の前記下流側に設けた第二開口である請求項1記載の流量計測装置。
【請求項11】
前記管体は、管壁に管路を縮小させるオリフィスを備え、前記第一受圧部は、前記オリフィスよりも前記流体の流れ方向の上流側の前記管壁に設けた第一開口であり、前記第二受圧部は、前記オリフィスよりも前記流体の流れ方向の下流側の前記管壁に設けた第二開口である請求項1記載の流量計測装置。
【請求項12】
流体が流れる管体の第一受圧部における第一圧力と前記管体の第二受圧部における第二圧力との差圧を計測し、計測した差圧から前記流体の流量を算出する流量計測方法であって、
既知の流量の流体を前記管体に流し、
複数の既知の流量と前記複数の既知の流量に対する計測された差圧から下記式4の流量計算式における基準差圧を求めると共に、前記基準差圧を境に前記流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成し、
計測対象の流体を前記管体に流し、
前記測定対象の流体の計測された差圧と前記基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択し、
選択されたパラメータセット及び前記計測された差圧を前記流量計算式に代入して前記流体の流量を算出する流量計測方法。
(式4)ΔP=c1×η×Q+c2×ρ×Q2+c3
(Q:流量、ΔP:差圧、η:動粘度係数、ρ:密度、c1〜c3:係数)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流量計測装置及び流量計測方法に関する。さらに詳しくは、流体が流れる管体の第一受圧部における第一圧力と前記管体の第二受圧部における第二圧力との差圧を計測する計測器と、計測された差圧から前記流体の流量を算出する処理機とを備える流量計測装置及び流量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述の如き流量計測装置として、例えば、特許文献1に記載の如きものが知られている。この装置は、導通路に設けた静圧測定孔で測定された静圧と後流圧検出管で測定された後流圧の差圧を用いて流体の流量を計測する。流体の流れには、層流領域と乱流領域とその間に層流領域から乱流領域へ変化する遷移領域とが存在する。しかし、この差圧式流量計では、そのような流体の状況を考慮して流量を算出しておらず、更なる計測精度の向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3200638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる従来の実情に鑑みて、本発明は、乱流領域のみならず層流領域から遷移領域においても精度良く流量を計測することが可能な流量計測装置及び流量計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る流量計測装置の特徴は、流体が流れる管体の第一受圧部における第一圧力と前記管体の第二受圧部における第二圧力との差圧を計測する計測器と、計測された差圧から前記流体の流量を算出する処理機とを備える構成において、前記処理機は、複数の既知の流量と前記複数の既知の流量に対する計測された差圧から下記式1の流量計算式における基準差圧を求めると共に、前記基準差圧を境に前記流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成するパラメータ生成部と、計測対象の流体の計測された差圧と前記基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択する差圧判定部と、選択されたパラメータセット及び前記計測された差圧を前記流量計算式に代入して前記流体の流量を算出する流量算出部とを有することにある。
(式1):ΔP=c1×η×Q+c2×ρ×Q
2+c3
(Q:流量、ΔP:差圧、η:動粘度係数、ρ:密度、c1〜c3:係数)
【0006】
ところで、管体の内部を流れる流体には、滑らかで渦の無い安定した流れとなる粘性力が支配的な層流領域と、様々な渦が発生する慣性力が支配的な乱流領域と、層流領域と乱流領域との間において粘性力と慣性力とが共存する遷移領域とが存在する。この流体の差圧ΔPは、上記式1の流量Qの二次関数で表される流量計算式で求まる。ここで、c1×η×Qを粘性項、c2×ρ×Q
2を慣性項と称する。層流領域と乱流領域とは流体の流れの状況が異なり、流量計算式における粘性項及び慣性項への依存は異なる。
【0007】
上記構成によれば、複数の既知の流量と複数の既知の流量に対する計測された差圧から上記式1の流量計算式における基準差圧を求めると共に、基準差圧を境に上記流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成する。これにより、基準圧力を境に流量計算式を層流剥離がほとんど発生していない範囲(流量が小さい場合)と、層流剥離が発生している範囲(流量が大きい場合)とに相当する範囲に分け、各範囲において流量計算式の係数を生成するので、柱状部材の外周面近傍の流体の流れの状況に応じた係数であるパラメータセットを生成できる。そして、計測対象の流体の計測された差圧と基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択し、選択されたパラメータセット及び計測された差圧を流量計算式に代入して流体の流量を算出するので、測定対象の流体の状況に応じたパラメータに基づいて流量を算出でき、計算精度が向上する。しかも、基準差圧を境に異なるパラメータを生成するので、上述の遷移領域や層流領域が含まれる程度に流量が小さい領域での計算精度も向上する。よって、乱流領域のみならず層流領域から遷移領域においても精度良く流量を計測することが可能となる。
【0008】
上記構成において、前記管体は、その内部に前記流体の流れ方向に直交する方向に延在する柱状部材を備え、前記第一受圧部は、前記柱状部材の前記流れ方向の上流側に設けた第一測定孔であり、前記第二受圧部は、前記柱状部材の前記流れ方向の下流側に設けた第二測定孔であり、前記柱状部材は、前記管体の中心軸に直交し且つ前記柱状部材の前記流れ方向に沿う長さの中心を通る第一平面に対し線対称となる流線形状を呈し、前記第一測定孔と前記第二測定孔とは前記第一平面に対し対称に配置されているとよい。管体の内部に流体の流れ方向に直交する方向に延在する柱状部材が、流れ方向に沿う長さの中心を通る第一平面に対し線対称となる流線形状を呈するので、この流線形状に沿って流れる流体によって層流や乱流が生じる。そして、柱状部材には、流れ方向の上流側に第一受圧部として第一測定孔と下流側に第二受圧部として第二測定孔とが第一平面に対し線対称に配置されている。これにより、柱状部材は、流体の流れ方向に対して双方向性を有するので、流れ方向に対応してパラメータを設定しなおす必要がない。よって、流体の流れ方向が逆になった場合でも、柱状部材による流体の変化(速度や圧力変化等)の分布も同様に、第一平面に対して対称となるので、流体の流れ方向を問わず、同じパラメータセットを用いて流量を計測することができる。
【0009】
前記柱状部材は、前記管体の中心軸を含み且つ前記柱状部材の延在方向に平行な第二平面に対し線対称であるとよい。これにより、柱状部材の流体から受ける圧力が第二平面に対し左右で略均一となるので、計測精度が向上すると共に柱状部材の耐久性も向上する。
【0010】
前記柱状部材は、前記第一平面及び前記第二平面に直交する第三平面上に投影される形状が下記式2及び式3で定義される外周面を有するとよい。
(式2)L=2(K+r)
(式3)d=2(K(1/cosθ−tanθ)+r)
(O:原点、d:柱状部材の幅、L:柱状部材の流れ方向の長さ、r:原点Oから流れ方向に±K離れた点aを中心とした円弧の半径、θ:円弧の中心角/2)
【0011】
上記式2,3によれば、柱状部材の管径方向の幅dは、円弧の中心角に依存することとなる。柱状部材の流れ方向の長さと円弧の中心角とを調整することで、乱流の発生及び圧力損失を制御でき、測定精度が向上する形状とすることができる。
【0012】
前記柱状部材の前記管体内部における延在方向の長さは、前記管体の直径よりも小であるとよい。これにより、柱状部材の延在方向の端部と管壁との間に流体が流下可能な隙間が形成され、流体の流れ方向に対する管断面の柱状部材の占める割合が低下する。従って、柱状部材による流体の圧力損失を抑制することができ且つ測定精度も確保できる。
【0013】
前記第一測定孔及び前記第二測定孔は、前記管体の中心軸上に位置するとよい。これにより、管体を流れる流体による圧力が最も高い中心での差圧を計測するので、流量の計測精度が向上する。
【0014】
前記柱状部材は中実であり、前記第一測定孔及び前記第二測定孔のそれぞれに計測器へと連通する管状の連通路が形成されていてもよい。中実とすることで、流体に対する強度(抵抗)を確保しつつ、測定精度も確保できる。
【0015】
上記いずれかに記載の構成において、前記流体は、呼吸であるとよい。上述した如く、柱状部材が双方向性を有するので、本発明に係る流量測定装置は、例えば、呼吸測定装置として実施することができる。また、前記流体は、医療用ガスであってもよい。
【0016】
前記流体の流れ方向に直交する方向に延在する柱状部材をさらに備え、前記第一受圧部は、前記管体の管壁に設けた第一開口であり、前記柱状部材は、前記第一開口よりも前記流れ方向の下流側に位置し、前記第二受圧部は、前記柱状部材の前記下流側に設けた第二開口であってもよい。
【0017】
また、前記管体は、管壁に管路を縮小させるオリフィスを備え、前記第一受圧部は、前記オリフィスよりも前記流体の流れ方向の上流側の前記管壁に設けた第一開口であり、前記第二受圧部は、前記オリフィスよりも前記流体の流れ方向の下流側の前記管壁に設けた第二開口であってもよい。
【0018】
また、上記目的を達成するため、本発明に係る流量計測方法の特徴は、流体が流れる管体の第一受圧部における第一圧力と前記管体の第二受圧部における第二圧力との差圧を計測し、計測した差圧から前記流体の流量を算出する方法において、既知の流量の流体を前記管体に流し、複数の既知の流量と前記複数の既知の流量に対する計測された差圧から下記式4の流量計算式における基準差圧を求めると共に、前記基準差圧を境に前記流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成し、計測対象の流体を前記管体に流し、前記測定対象の流体の計測された差圧と前記基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択し、選択されたパラメータセット及び前記計測された差圧を前記流量計算式に代入して前記流体の流量を算出することにある。
(式4)ΔP=c1×η×Q+c2×ρ×Q
2+c3
(Q:流量、ΔP:差圧、η:動粘度係数、ρ:密度、c1〜c3:係数)
【発明の効果】
【0019】
上記本発明に係る流量計測装置及び流量計測方法の特徴によれば、乱流領域のみならず層流領域から遷移領域においても精度良く流量を計測することが可能となった。
【0020】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明に係る流量計測装置を示す斜視図である。
【
図2】流量計測装置における管路を模式的に示す図であり、(a)は正面図、(b)は縦断面図、(c)は横断面図である。
【
図3】柱状部材と第一〜第三平面との対応関係を示す模式図である。
【
図4】柱状部材と式2及び式3との対応関係を示す模式図である。
【
図6】基準差圧ΔP、データ群A1〜A2、バラメータセットB1〜B2の関係を模式的に示すグラフである。
【
図7】2組のパラメータセット及び1組のパラメータセットでの計算値と実測値との一致率を比較する図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係る
図2相当図である。
【
図9】本発明のさらに他の実施形態に係る
図2(b)相当図である。
【
図10】本発明のさらに他の実施形態に係る
図2(b)相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、
図1〜7を参照しながら、本発明をさらに詳しく説明する。
本発明に係る流量計測装置1は、
図1に示すように、大略、流体が流れる管体4における差圧ΔPを計測する計測器2と、計測された差圧ΔPから流体の流量Qを計算する処理機3とを備える。なお、本実施形態において、流体は人体の呼吸である。
【0023】
計測器2は、
図5に示すように、後述する第一受圧部51aにおける第一圧力と第二受圧部51bにおける第二圧力を計測する圧力センサ21と、圧力センサ21で計測された信号をデジタルデータに変換するA/D変換器22と、A/D変換器22で変換したデジタルデータを処理機3の第二通信部31に送信する第一通信部23とを備える。なお、同図の例では、処理機3との通信はBluetooth(登録商標)等の無線通信手段を用いているが、有線にてデータ通信を行っても構わない。
【0024】
処理機3は、
図5に示すように、第一通信部23からのデジタルデータを受信する第二通信部31と、受信したデジタルデータのデータ処理を行うデータ処理部32と、データ処理されたデータ等を表示する表示部33とを備える。なお、処理機3としては、タブレットやスマートフォン等の携帯端末やパーソナルコンピュータ(PC)を用いることができる。
【0025】
データ処理部32は、
図5に示すように、後述する基準差圧ΔP’を求めると共に基準差圧ΔP’を境に流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットBを2組設定するパラメータ設定部34と、計測対象の流体の計測された差圧ΔPと基準差圧ΔP’とを比較して2組のパラメータセットのいずれかを選択する差圧判定部35と、選択されたパラメータセット及び計測された差圧ΔPを流量計算式に代入して流体の流量Qを算出する流量算出部36とを有する。また、データ処理部32は、受信したデジタルデータ、設定したパラメータや算出した流量Q等を記憶する記憶部37を備える。
【0026】
管体4は、
図1,2に示すように、筐体20を貫通して取り付けられた円管である。この管体4は、その内部40に流体の流れ方向Xに直交する方向Zに延在する柱状部材5を備える。本実施形態において、柱状部材5は、管壁41を貫通すると共に先端53を管内面41aに当接させて管体4に固定される。
【0027】
本実施形態において、柱状部材5は、
図2に示すように、この柱状部材5における流れ方向Xの上流側USに第一受圧部としての第一測定孔51aと、流れ方向Xの下流側DSに第二受圧部としての第二測定孔51bとが設けられている。これら第一、第二測定孔51a,51bは、管体4の中心軸42上に位置させてある。円管内40を流れる流体の圧力は、柱状部材5の上流側USの管軸42付近が最も高くなる。また、下流側DSの管軸42付近では、乱流によって生じる微真空の影響を受けやすい。従って、第一測定孔51a及び第二測定孔51bを管体4の中心軸42上に位置させることで、計測される差圧ΔPが大きくなり、差圧ΔPを用いて算出される流量Qの精度が向上する。
【0028】
また、柱状部材5に差圧ΔPを計測する第一、第二受圧部51a,51bを設けたので、例えば絞り機構(オリフィス)を備えた従来のオリフィス流量計や上記特許文献1に記載の後背圧型差圧式流量計の如く、静圧を計測する静圧孔を管体4の管壁41に設ける必要がない。そのため、差圧ΔPを測定する受圧部51の前後に必要とされる直管領域を管体4の直径D程度とすることができる(オリフィス流量計では直径Dの15倍程度、後背圧型差圧式流量計では直径Dの4倍程度)。従って、これまでの流量計測装置に比べ非常に小型化・軽量化が可能となり、本実施形態の例では管体4の全長を短くでき、計測器2をコンパクトとすることができる。
【0029】
さらに、柱状部材5は、
図2に示すように、本体部50は中実であり、その内部に第一測定孔51a及び第二測定孔51bのそれぞれに連通する管状の第一、第二連通路52a,52bが形成されている。本体部50を中実とすることで、測定精度を低下されることなく、流体の流れに対する強度を確保できる。また、細い管を製作する場合と比較し、製作も容易であり連通路52自体の強度も確保できる。この第一、第二連通路52a,52bの他端には、圧力センサ21が接続され、差圧ΔPが計測される。
【0030】
柱状部材5は、
図2に示すように、管体4の中心軸42に直交し且つ柱状部材5の流れ方向Xに沿う長さLの中心Oを通る第一平面S1に対し線対称となる流線形状を呈する。また、第一測定孔51a及び第二測定孔51bは第一平面S1に対し線対称に配置されている。これにより、柱状部材5は、流体の流れ方向Xに対し双方向性を有することとなる。従って、本実施形態における流体としての呼吸は、呼気と吸気とで流れ方向Xが反対となるが、装置自体や後述するパラメータセットBを変える必要はない。このように、流体の流れ方向Xを問わず差圧ΔPを計測して流量Qを測定することができる。また、柱状部材5は、管体4の中心軸42を含み柱状部材5の延在方向Zに平行な第二平面S2に対し線対称である。第二平面S2に対して線対称であるので、
図3に示すように、柱状部材5及び柱状部材5と管壁41との隙間G1が、流れ方向X視で左右対称となる。よって、柱状部材5にかかる流体による圧力は第二平面S2の両側で略均一となり、柱状部材5の耐久性が向上する。
【0031】
また、本実施形態に係る流線形状を呈する柱状部材5は、第一平面S1及び第二平面S2に直交する第三平面S3上に投影される形状が上述の式2及び式3にて定義される外周面50aを有する。なお、原点Oは柱状部材5の中心とする。ここで、流線形状とは、第三平面S3上に投影される形状が、流れ方向Xに沿ってなだらかに連続する曲線であることを指す。本実施形態では、
図4に示すように、柱状部材5の外周面50aの形状は、上流側USの端部と下流側DSの端部が中心角θ及び半径aで定義される円弧であり、この両端部(円弧部)が流れ方向Xに沿うようになめらかな曲線で接続されている形状である。なお、両端部を接続する曲線は、同図に示す如く、第一平面S1に向かうに従い外方へ膨出し、その第一平面S1との交点が最も膨出している。
【0032】
ここで、上記式1の流量計算式において、c1×η×Qの項を粘性項、c2×ρ×Q
2の項を慣性項と称する。流体の温度及び圧力がほぼ一定の場合、動粘度係数η及び密度ρは流体において一定の値であるので、粘性力と慣性力の大きさは、c1とc2の大きさの関係であるといえる。パラメータ生成部34で生成されるパラメータセットBは、この流量計算式の各項における係数c1,c2,c3の組合せである。
【0033】
流体は、差圧ΔPの計測時に柱状部材5に衝突して流れを変更される。この時の柱状部材5の形状によって、粘性項及び慣性項のパラメータが変化する。具体的には、円形のように柱状部材5の幅dが大きくなると慣性力が大きくなる。一方、楕円形のように流下方向の柱状部材5の長さLを長くするほど粘性力が大きくなるが、長さLが長すぎると、乱流境界層へと遷移し、渦の過渡特性の影響を受ける。
【0034】
式1に示す流量計算式の流量Qを変数とする一次の項である粘性項は、柱状部材5の流れ方向Xの長さLに比例するので、流量計算式の傾きNは、N=2×c2×ρ×Q+c1’×η×Lとなる。従って、特に、流量Qが小さい(差圧ΔPが小さい)場合は、N=c1’×η×Lと近似できるので、長さLが流量計算式の傾きNにおいて支配的となる。そのため、長さLを増加させると傾きNが大きくなり、差圧ΔPが小さい場合の流量Qの計算精度が向上する。
【0035】
また、流量計算式の二次の項である慣性項は、柱状部材5の流れ方向Xの断面積に比例するので、柱状部材5の幅dが減少すると、流量計算式の傾きNにおいて、長さLがより支配的となる。また、柱状部材の幅dを減少させると、流れ方向Xに直交する断面において、柱状部材5が占める面積が小さいため、圧力損失を軽減することができる。
【0036】
ところで、柱状部材5の外周面50a近傍には、流れ方向Xに沿って流体による境界層が形成される。この境界層は、流体の流量Qが小さい場合は、層流よりなる層流境界層となり、流量Qが大きい場合は、乱流よりなる乱流境界層となる。さらに、層流境界層では、
図4に示すように、流量Qが小さい時は外周面50aに沿う流れRとなるが、流量Qが大きくなると外周面50aから剥離する流れR’となる。すなわち、流量Qが大きくなるにつれて、剥離しない層流境界層(流れR)から、剥離する層流境界層(流れR’)、さらに遷移領域を経て、乱流境界層となる。ただし、境界層の状態が変化する流量Qは、柱状部材5の形状によっても異なり、幅dが大きいと層流境界層の流れRが剥離した流れR’と変化しやすく、長さLが長いと流れRから剥離した流れR’に変化しにくい。また、層流境界層で剥離した流れR’が生じた場合、その地点から下流DSの柱状部材5では圧力が低下する(負圧となる)。
【0037】
次に、本実施形態の流量計測装置1を用いて流体の流量Qを計測する手順を説明する。
まず、既知の異なる流量Qを管体4に流し、流量Qに対応する差圧ΔPを計測器3にて複数回計測し、流量Qに対する差圧ΔPの全データ群Aを取得する。
【0038】
次に、例えば、仮基準流量Q’’及びそれに対する仮基準差圧ΔP’’を決定し、全データ群Aの内、基準流量Q’及び基準差圧ΔP’より小さい範囲に位置するデータを小データ群A1とし、これ以外のデータを大データ群A2とする。そして、
図6に示すように、小データ群A1を用いてパラメータセットB1=(c11,c12,c13)を生成し、大データ群A2を用いてパラメータセットB2=(c21,c22,c23)を生成する。さらに、各パラメータセットB1,B2により各データの流量を算出し、実際の流量と比較する。この仮基準流量Q’’及び仮基準差圧ΔP’’を変化させて、実際の流量とパラメータセットB1,B2を用いて算出した流量との一致率が最も高くなる仮基準差圧ΔP’’を基準差圧ΔP’とする。
【0039】
パラメータセットB1,B2を生成した後、実際の呼吸の測定に際して、被験者は、管体4の第一端部4aから管体4の第二端部4bへ呼気を送り込む。その際、第一,二測定孔51a,51bで呼気の差圧ΔPを圧力センサ21が計測する。計測された差圧ΔPは、第一通信部23及び第二通信部31で送受信され、データ処理部32に入力される。そして、差圧判定部35が、パラメータ生成部34で生成された基準差圧ΔP’と計測された差圧ΔPとの大小関係を比較する。差圧判定部35は、差圧ΔPが基準差圧ΔP’よりも小さい場合はパラメータセットB1を選択し、差圧ΔPが基準差圧ΔP’よりも大きい場合はパラメータセットB2を選択する。
【0040】
そして、流量算出部35が、選択されたパラメータセットB及び計測された差圧ΔPを流量計算式に代入して流量Qを算出する。算出された流量Qは記憶部37に記憶されると共に、表示部33にて表示される。ここで、流量計測装置1の柱状部材5は双方向性を有するので、呼気のみならず吸気も同様に測定できる。すなわち、1つの流量計測装置1で設定等を変更することなく、呼気及び吸気の双方を計測することができる。なお、表示部33に表示される流量Qは、どのような形態で表示されてもよく、例えば、横軸を時間とし縦軸を流量Qとした時間遷移グラフや、測定開始時からの積算流量として表示されてもよい。
【0041】
ここで、発明者らは、本願発明の有効性を確かめるべく、全データ群Aを用いて1組のパラメータセットBのみで差圧ΔPを計算した場合と、二つのパラメータセットB1,B2を用いて差圧ΔPを計算した場合を比較した。その結果を
図7に示す。
【0042】
図7に示すように、パラメータセットB(図中の記号×)では、特に、流量Qが小さい領域において、計測された差圧ΔPと計算された差圧ΔPとの一致率が非常に低いことがわかる。これは、流体が、管体4を流れる慣性力が支配的なポテンシャル流れとは異なり、柱状部材5の第一,二測定孔部51a,51b近傍では、慣性力よりも粘性力が支配的な境界層であるためと考えられる。ここで、流量Qが小さい場合、流れRはほぼ剥離しておらず、流量Qが大きくなるにつれて、剥離した流れR’が発生する。この剥離の有無によって、流量計算式において粘性力と慣性力との支配度が大きく変化すると考えられるので、1組のパラメータセットBのみで流体の流れの各状況に応じて精度よく流量を算出するのは限界がある。
【0043】
一方で、基準差圧ΔP’を境界として、流量計算式に適用するパラメータセットB1,B2を選択可能とした場合は、
図7に示すように流量Qが小さい(パラメータB1を用いた結果を図中の記号△で示す)領域においても、計測された差圧ΔPと計算された差圧ΔPとの一致率が高いことがわかる。また、それよりも流量Qが大きい領域(パラメータB2を用いた結果を図中の記号□で示す)においても、計算された差圧ΔPと計算された差圧ΔPとの一致率が高いことがわかる。このように、基準差圧ΔP’により流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットBを2組生成し、計測された差圧に応じてパラメータセットを選択可能にしたことで、乱流のみならず、流量Qが小さい層流領域や遷移領域においても精度良く差圧ΔPから流量Qを算出することが可能である。
【0044】
最後に、本発明の他の実施形態の可能性について言及する。なお、上述の実施形態と同様の部材には同一の符号を附してある。
上記実施形態において、柱状部材5の先端53が管内面41aに当接(管内面41aに接触または管内面41aに固着)するようにした。しかし、柱状部材5はこれに限られるものではなく、先端53を管内面41aに当接させる必要はない。柱状部材5の管内部40における延在方向Yの長さL2は、管体4の直径Dよりも小であってもよい。例えば、
図8に示すように、管体4の直径Dの半分(半径)より若干長い程度の長さでもよい。先端53’と管内面41aとの間に隙間G2を形成することで、柱状部材5’の流体から受ける圧力が減少するので、圧力損失を減少させることができ、耐久性も向上する。但し、係る場合、第一、二測定孔51a,51bの位置を管体4の軸中心近辺とすることが望ましい。これにより、計測精度の低下も回避できる
【0045】
上記実施形態において、柱状部材5の上流側USに第一受圧部としての第一測定孔51’aを設けると共に下流側DSに第二受圧部としての第二測定孔51’bを設け、第一、第二測定孔51’a,51’bの差圧ΔPを測定した。しかし、
図9,10に示す如き流量計においても、基準差圧を求めると共に基準差圧を境に上記式1の流量計算式の係数c1〜c3を含むパラメータセットを2組生成し、計測対象の流体の計測された差圧と基準差圧とを比較して生成された2組のパラメータセットのいずれかを選択し、流量を算出することも可能である。
【0046】
図9に示す流量計の場合、流体の流れ方向Xに直交する方向Zに延在し、流路40を塞がない柱状部材としてのピトー管60を備える。第一受圧部としては、管体4の管壁41に設けた第一開口61aである。ピトー管60は、第一開口61aよりも流れ方向Xの下流側DSに位置する。第二受圧部としては、ピトー管60の下流側DSに設けた第二開口61bである。
【0047】
また、
図10に示す流量計の場合、管体4は、管壁41に管路を縮小させ、小開口70aを有するオリフィス70を備える。第一受圧部としては、オリフィス70よりも流体の流れ方向Xの上流側USの管壁41に設けた第一開口71aである。第二受圧部としては、オリフィス70よりも流体の流れ方向Xの下流側DSの管壁41に設けた第二開口71bである。ただし、
図9,10の例では、ピトー管60及びオリフィス70の流れ方向Xの前後に必要となる直管部が長くなり、柱状部材5の前後の直管部を短くできる上記実施形態は計測装置の適用可能箇所(範囲)が広くなる点で優れている。
【0048】
また、上記実施形態において、計測器2及び処理機3に通信部を設けて別体で構成したが、一体にしても構わない。例えば、計測器2自体にデータ処理部32や表示部33等を設けることも可能である。
【0049】
上記実施形態において、流体として呼吸を例に説明した。しかし、流体は呼吸に限られるものではなく、例えば、病室の壁に備え付けの入院患者への酸素等の医療用ガスであってもよい。もちろん、医療用ガスに限らず、他の気体や液体にも適用可能である。さらに、既設の管に流れる流量を計測する場合、管に穴を開けて測定器に備わる柱状部材を挿入してもよく、既設の管を切断して柱状部材を備える管を接続してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、呼吸に伴う流量(肺活量)のみならず、種々のガスや、液体の流量を計測する流量計測装置及び流量計測方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0051】
1:流量測定装置、2:計測器、3:処理機、4:管体(円管)、4a:第一端部(導入部)、4b:第二端部(開放部)、5:柱状部材、20:筐体、21:圧力センサ、22:A/D変換器、23:第一通信部(送信部)、31:第二通信部(受信部)、32:データ処理部、33:表示部、34:パラメータ生成部、35:差圧判定部、36:流量算出部、37:記憶部、40:管内部(流路)、41:管壁、41a:管内面、42:中心軸(管軸)、50:本体部、50a:外周面、51:受圧部(測定孔)、51a:第一受圧部(第一測定孔)、51b:第二受圧部(第二測定孔)、52:連通路、52a:第一連通路、52b:第二連通路、60:ピトー管、61a:第一開口、61b:第二開口、70:オリフィス、71a:第一開口、71b:第二開口、A:全データ群、A1:小データ群、A2:大データ群、B:パラメータセット、ΔP:差圧、ΔP’:基準差圧、R:剥離しない流れ、R’:剥離した流れ、X:流れ方向(管軸方向)、Y:直交方向(管径方向)、Z:延在方向、US:上流側、DS:下流側、S1〜S3:第一〜第三平面