【課題を解決するための手段】
【0007】
〔構成1〕
上記目的を達成するための本発明の水熱ガス化反応器の特徴構成は、金属を活性成分とする粒状触媒を充填してなり、金属塩溶解有機廃水に含まれる有機成分を分解する触媒充填塔を備えた水熱ガス化反応器であって、
金属塩溶解有機廃水をpH5以上9未満に調整し、生成する固形成分を除去する第一pH調整部及び/または、金属塩溶解有機廃水をpH9以上13.5未満に調整し、生成する固形成分を除去する第二pH調整部を備え、
前記第一pH調整部及び/または前記第二pH調整部を経由した金属塩溶解有機廃水を前記触媒充填塔に供給する、廃水供給部を備え
、
前記第二pH調整部が、金属塩溶解有機廃水に炭酸塩を添加する炭酸塩添加部または重炭酸塩を添加する炭酸水素塩添加部を備えた点にある。
【0008】
〔作用効果1〕
本発明者らは鋭意研究の結果、廃水管等に堆積する固形成分が、炭酸カルシウムやアルミナのような金属塩由来成分であることを明らかにし、また、触媒充填塔の入口側で堆積する成分には炭酸カルシウムが多く含まれ、触媒充填塔の出口側で堆積する成分には、アルミナが多く含まれていることを明らかにした。
【0009】
これらの堆積物は、廃水が触媒充填塔に供給される段階でpHが高くなった際に加熱されることで析出しやすくなったカルシウムや、水熱ガス化反応により発生する炭酸ガスでpHが低下した際に析出しやすくなったアルミニウムが、廃水管等の流速の低下する部分に沈殿付着することにより生じたものと考えられ、次第に堆積し流路を閉塞するものであると考えられる。
【0010】
そこで、第一pH調整部を設けることにより、廃水を中性側のpH5以上9未満に保持して固形成分を生成することができ、この固形成分は主にアルミニウム等の廃水中に含まれる金属成分となっているため、この固形成分を除去すると、主にアルミニウムを効率よく除去することができる。すなわち、アルミニウムはpH5以上9未満程度で水酸化アルミニウムとして沈殿するから、固形成分の除去により廃水中からアルミニウム成分を除去することができる。
ここで、アルミニウム成分は触媒充填塔入口側ではpHが高くアルミン酸塩等として十分溶解しているために析出しにくいが、水熱ガス化反応により発生する炭酸ガスでpHが低下し中性付近になることにより、触媒充填塔の出口側では、アルミニウム成分が堆積するものと推定できる。
これにより、生成した固形成分(特にアルミニウム成分)が流路を閉塞したり粒状触媒を充填した触媒充填塔を閉塞したりする問題を抑制して、配管や触媒充填塔の内圧が高くなるような問題を抑制することができる。
なお、他の金属成分で同様の挙動を示すものについても除去できるものと推定できる。
【0011】
また、第二pH調整部を設けることにより、廃水をpH9以上13.5未満に保持して固形成分を生成することができ、この固形成分は主に鉄やカルシウム等の廃水中に含まれる金属成分となっているため、この固形成分を除去すると、主に鉄やカルシウム等を効率よく除去することができる。すなわち、カルシウムはpH9以上13.5未満において、溶存の炭酸ガス等と相まって炭酸カルシウムとして沈殿するから、廃水中からカルシウム成分を除去することができる。
ここで、従来カルシウム成分が触媒充填塔の入口側で堆積するのは、強アルカリ条件となった触媒充填塔入口側で徐々に炭酸塩化し、加熱されることでさらに炭酸塩化が進行することによると推定される。
つまり、第二pH調整部では、積極的にカルシウム成分を析出させて除去することができる。これにより、生成した固形成分(特にカルシウム成分)が流路を閉塞したり粒状触媒を充填した触媒充填塔を閉塞したりする問題を抑制して、廃水の供給圧が高くなるような問題を抑制することができる。
なお、他の金属成分で同様の挙動を示すものについても除去できるものと推定できる。
また、pHを調整する場合に、pHを低下させる必要があることも想定されるが、このような場合、酸を添加して調整すればよい。このような場合に用いられる酸としては、強酸が好ましく、たとえば、硫酸が用いられる。
更に、pH9においては、カルシウム成分を炭酸カルシウムとして析出させられる。そのため、廃水に炭酸ナトリウムを添加する炭酸塩添加部を有すると、廃水中に炭酸塩が十分に存在する状況下で、カルシウム成分を析出させることができ、例えば水酸化物として析出させる場合(pH13.5以上)に比べて、低いpH(9以上13.5未満)でカルシウム成分を析出させられるようになる。したがって、安価で取り扱い容易な炭酸ナトリウムにより、温和な条件で種々の金属成分(特にカルシウム)を析出させられるようになる。また、pH13.5以上になると、炭酸カルシウムが再溶解するおそれがあるため、pH9以上13.5未満とする。
【0012】
これらの第一pH調整部及び第二pH調整部を経由した廃水を触媒充填塔に供給する廃水供給部を備えることにより、供給される廃水中においては、特にアルミニウムやカルシウムといった、析出堆積して配管等を閉塞するおそれを生じる成分が、ともに減少したものとなっている。そのため、廃水の流路が閉塞して廃水が流れなかったり、配管や触媒充填等の内圧が上昇するため、それらの耐圧以上の内圧がかかる恐れがあり運転を止める必要が生じたりする等の問題を解消することができる。また、廃水中の成分が予め判明している場合は、第一pH調整部または第二pH調整部のいずれか一方を用いることでも対応する金属成分の除去を行うことができる。
【0013】
〔構成2〕
また、前記第一pH調整部が、金属塩溶解有機廃水にアルカリ金属の水酸化物を添加する塩基添加部または強酸を添加する酸添加部と、生成した固形成分を除去する固液分離部とを備えてもよい。
【0014】
〔作用効果2〕
廃水として、酸性のものを用いる場合には、第一pH調整部としては、アルカリを添加することにより、pHを5以上9未満に調整することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示でき、これらは反応性が十分に高く、取り扱いにも熟練を要しない点から好適である。
【0015】
塩基の添加により生成した固形成分は、固液分離部において分離することができ、これにより廃水中のアルミニウムを除去することができ、水熱ガス化反応時に流路が閉塞するなどの問題が生じる虞を大きく低減することができる。
【0016】
〔構成3〕
また、前記第二pH調整部が、金属塩溶解有機廃水にアルカリ金属の水酸化物を添加する塩基添加部と
、生成した固形成分を除去する固液分離部とを備えてもよい。
【0017】
〔作用効果3〕
廃水として、中性〜酸性のものを用いる場合には、第二pH調整部としては、塩基を添加することによりpH9以上13.5未満に調整することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが例示でき、汎用的かつ安価であり、反応性が十分に高く、取り扱いにも熟練を要しない点から好適である。
【0018】
また、
本発明に係る水熱ガス化反応器は、上記のように、廃水に炭酸ナトリウムを添加する炭酸塩添加部を有
しており、廃水中に炭酸塩が十分に存在する状況下で、カルシウム成分を析出させることができ、水酸化物として析出させる場合(pH13.5以上)に比べて、低いpH(9以上13.5未満)でカルシウム成分を析出させられるようになって、塩基添加部からの水酸化ナトリウム添加量を低減することができる。したがって、水酸化ナトリウムよりも安価で取り扱い容易な炭酸ナトリウムによりより温和な条件で種々の金属成分(特にカルシウム)を析出させられるようになる
。また、アルカリを添加した後に炭酸塩を添加することにより炭酸塩の不必要な分解(たとえば廃水中に残留する酸との反応による分解)を抑制できる利点もある。
【0019】
アルカリ及び炭酸塩の添加により生成した固形成分は、固液分離部において分離することができ、これにより廃水中の種々の金属(特にカルシウム)を除去することができ、水熱ガス化反応時に流路が閉塞するなどの問題が生じる虞を大きく低減することができる。
【0020】
〔構成4〕
また、前記第一pH調整部及び前記第二pH調整部が、金属塩溶解有機廃水を前記第一pH調整部、前記第二pH調整部の順に流通させるように配置されていることが望ましい。
【0021】
〔作用効果4〕
廃水として、酸性のものを用いる場合には、pHの調整により中性領域のpH5以上9未満を経てpHが9以上13未満の強アルカリ領域に達するため、第一pH調整部、第二pH調整部の順に流通され、それぞれのpH調整部にて析出した固形成分が除去されることが望ましい。
【0022】
ただし、廃水は種々の処理段階における各工程に起因して液性がアルカリ性に偏っている場合も考えられ、このような場合には、廃水を第二pH調整部、第一pH調整部の順に流通させるように配置されていても構わない場合もあることも付記しておく。なお、触媒反応塔の入口を高pHにする必要がある場合は、廃水が第一pH調整部、第二pH調整部の順に流通され、それぞれのpH調整部にて析出した固形成分が除去されることで、さらに追加のアルカリを添加することなく、触媒塔入口pHの条件を満たすことが多く、やはり、廃水が第一pH調整部、第二pH調整部の順に流通されることが効率よく処理を行う上で好ましい。
さらに、廃水の性状によっては、第一pH調整部または第二pH調整部で,固形物が発生しない場合があるが、このような場合には、固形物が発生するpH調整槽のみを配置すればよい。
【0023】
〔構成5〕
また、前記粒状触媒が、担体に金属ニッケルを担持してなる見掛密度0.5〜10g/cm
3の触媒であってもよい。
【0024】
〔作用効果5〕
粒状触媒として、担体に金属を担持してなる見掛密度0.5〜10g/cm3の触媒を用いると、粒状触媒の流動に伴う流動触媒同士の摩擦等に対する機械強度を高くすることができる。また、粒状触媒は、見掛密度を0.5〜10g/cm3としておくことにより、水を主成分とする流体に容易に流動させられる。粒状触媒の見掛密度の範囲は、0.5〜2g/cm3であることがより好ましく、0.9〜1.2g/cm3であることがさらに好ましい。
【0025】
〔構成6〕
また、前記触媒充填塔が、内部を250℃〜350℃に加熱する加熱部を備えてもよい。
【0026】
〔作用効果6〕
上記構成によると、粒状触媒は、たとえば、メタノール等に代表される被処理物(有機物)をより効率的に水熱ガス化反応により処理することができ、被処理物を含有する流体を効率良く清浄化することができる。
【0027】
〔構成7〕
また、本発明の廃水処理方法の特徴構成は、金属を活性成分とする粒状触媒を充填された触媒充填塔を用いて金属塩溶解有機廃水に含まれる有機成分を水熱ガス化処理する廃水処理法であって、
金属塩溶解有機廃水をpH5以上9未満に調整して、生成する固形成分を除去する第一工程と、前記第一工程にてpHが5以上9未満に調整された金属塩溶解有機廃水をpH9以上13.5未満に調整
すること及び前記金属塩溶解有機廃水に炭酸ナトリウムを添加することにより、生成する固形成分を除去する第二工程とを行い、pH9以上13.5未満に調整された金属塩溶解有機廃水を前記触媒充填塔に供給する点にある。
【0028】
〔作用効果7〕
第一工程により、廃水を中性側のpH5以上9未満に保持して固形成分を生成することができ、この固形成分は主にアルミニウム等の廃水中に含まれる金属成分となっているため、この固形成分を除去すると、主にアルミニウムを効率よく除去することができる。すなわち、アルミニウムはpH5以上9未満程度で水酸化アルミニウムとして沈殿するから、固形成分の除去により廃水中からアルミニウム成分を除去することができる。
【0029】
また、第二工程に
おいて、第一工程にてpHが5以上9未満に調整された廃水をpH9以上13.5未満に保持
すること及び金属塩溶解有機廃水に炭酸ナトリウムを添加することにより、固形成分を生成することができ、この固形成分は主に鉄やカルシウム等の廃水中に含まれる金属成分となっているため、この固形成分を除去すると、主に鉄やカルシウム等を効率よく除去することができる。すなわち、カルシウムはpH9以上13.5未満において、溶存の炭酸ガス等と相まって炭酸カルシウムとして沈殿するから、廃水中からカルシウム成分を除去することができる。
【0030】
そのため、供給される廃水中には、特にアルミニウムやカルシウムといった、析出堆積して配管等を閉塞するおそれを生じる成分を、ともに減少したものとなっている。そのため、廃水の流路が閉塞して廃水が流れなかったり、配管や触媒充填等の内圧が上昇するため、それらの耐圧以上の内圧がかかってしまう恐れがあり運転を止める必要があったりする等の問題を解消することができる。
【0031】
〔構成8〕
また、上記廃水処理方法の前記第二工程において、水酸化ナトリウムを添加した後に炭酸ナトリウムを添加して、金属塩溶解有機廃水をpH9以上13.5未満に調整することが好ましい。
【0032】
〔作用効果8〕
水酸化ナトリウムを添加した後に炭酸ナトリウムを添加すると、pHの高くなった状態の廃水に炭酸ナトリウムを添加することになるから、pH9以上13.5未満に調整するために消費される炭酸ナトリウムの使用量を低減できるとともに、炭酸ナトリウムの不必要な分解反応を抑制できる。