特許第6771330号(P6771330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6771330メタン酸化除去用触媒の製造方法およびメタン酸化除去方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771330
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】メタン酸化除去用触媒の製造方法およびメタン酸化除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20201012BHJP
   B01J 23/656 20060101ALI20201012BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20201012BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   B01J37/02 101C
   B01J23/656 AZAB
   B01J37/08
   B01D53/86 280
   B01J37/02 101D
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-146536(P2016-146536)
(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2018-15697(P2018-15697A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】大塚 浩文
(72)【発明者】
【氏名】藤田 弘樹
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−112912(JP,A)
【文献】 特開2012−096221(JP,A)
【文献】 特開2004−121960(JP,A)
【文献】 特開2007−069151(JP,A)
【文献】 特開昭55−088848(JP,A)
【文献】 特開平03−098644(JP,A)
【文献】 特開平11−319559(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/040152(WO,A1)
【文献】 特開2014−140807(JP,A)
【文献】 特開2014−155919(JP,A)
【文献】 特表2015−502845(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0322119(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
B01D53/86,53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するためのメタン酸化除去用触媒の製造方法であって、過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解し、実質的に塩素イオンを含まない硝酸酸性水溶液を酸化ジルコニウム担体に含浸させてイリジウム、白金およびレニウムを担持させた後、焼成することを特徴とするメタン酸化除去用触媒の製造方法。
【請求項2】
メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するためのメタン酸化除去用触媒の製造方法であって、予めレニウムを担持した酸化ジルコニウム担体に、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解し、実質的に塩素イオンを含まない硝酸酸性水溶液を含浸させてイリジウムおよび白金を担持させた後、焼成することを特徴とするメタン酸化除去用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記酸化ジルコニウム担体に含浸させる前の前記硝酸酸性水溶液を、常温から75℃の温度で熟成処理することを特徴とする請求項1または2に記載のメタン酸化除去用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記硝酸酸性水溶液が、さらに多価カルボン酸を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のメタン酸化除去用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記多価カルボン酸として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項4に記載のメタン酸化除去用触媒の製造方法。
【請求項6】
メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するメタン酸化除去方法であって、前記被処理ガスを300℃以上450℃以下の温度で、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の方法によって製造された触媒に接触させるメタン酸化除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するためのメタン酸化除去用触媒の製造方法およびメタン酸化除去方法に関する。
本明細書において、「過剰の酸素を含む」とは、メタン酸化除去用触媒に接触させる被処理ガスが、そこに含まれる炭化水素、一酸化炭素などの還元性成分を完全に酸化するのに必要な量以上に、酸素、窒素酸化物などの酸化性成分を含んでいることを意味する。
すなわち、過剰の酸素を含む被処理ガスとは、被処理ガス中の還元性成分の酸化当量よりも酸素を過剰に含む酸素濃度の被処理ガスを意味する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素の酸化除去触媒として、白金、パラジウムなどの白金族金属を担持した触媒が高い性能を示すことが知られている。例えば、アルミナ担体に白金とパラジウムとを担持した排ガス浄化用触媒が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、このような触媒を用いても、メタン発酵ガスや天然ガスの燃焼排ガスのように、含まれる炭化水素の主成分がメタンである場合には、メタンが高い化学的安定性を有するために、十分なメタン除去が達成されないという問題がある。
【0003】
さらに、被処理ガスが燃焼排ガスである場合には、燃料中に含まれている硫黄化合物に由来する硫黄酸化物(SOx)などの反応阻害物質が必然的に含まれているので、触媒表面に反応阻害物質が析出することにより、触媒活性が経時的に著しく低下することは避けがたい。
【0004】
例えば、ランパートら(Lampert et al.)は、パラジウム触媒を用いてメタン酸化を行った場合に、わずかに0.1ppmの二酸化硫黄が存在するだけで、数時間内にその触媒活性がほとんど失われることを示して、硫黄酸化物の存在が触媒活性に著しい悪影響を与えることを明らかにしている(非特許文献1参照)。
【0005】
過剰量の酸素が存在する排ガスに含まれる低濃度炭化水素の酸化用触媒として、ハニカム基材上にアルミナ担体を介して7g/L以上のパラジウムおよび3から20g/Lの白金を担持した触媒も提案されている(特許文献2参照)。しかしながら、この触媒を用いても、長期にわたる耐久性は十分ではなく、硫黄酸化物が共存する条件下では、触媒活性の経時的な劣化が避けられない。
【0006】
また、近年では地球温暖化問題が強く認識されるようになり、炭鉱換気ガスのように、希薄(0.1から1%程度)なメタンを含有するガスが大量に放散されている点が問題視され、その経済的な処理も課題となっている。ここでも、メタンを接触酸化により除去するにあたって、可能な限り低温で処理できる高活性な触媒が求められている。炭鉱換気ガスには、メタン以外にも、石炭の成分に由来する硫黄化合物(硫化水素、メルカプタン、二酸化硫黄)などが含まれる場合があり、硫化水素やメルカプタンなどは触媒上で酸化されて硫黄酸化物に変化するため、燃焼排ガスの場合と同様の被毒による活性低下が起こる。
【0007】
従って、従来技術の大きな問題点は、メタンに対して高い除去率が得られないこと、さらに硫黄化合物が共存する条件下では除去率が大きく低下することである。
【0008】
このような実状に鑑みて、酸化ジルコニウム担体にパラジウムまたはパラジウムと白金とを担持させた触媒が、硫黄酸化物共存下でも高いメタン酸化活性を維持し続けることが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、この触媒は、特に約400℃以下の低温域でのメタン酸化活性が低いため、低温で十分な性能を確保するには多量の触媒を必要とする。
【0009】
メタンを含有し酸素を過剰に含む燃焼排ガス中の炭化水素の浄化用触媒であって、酸化ジルコニウムに、白金、パラジウム、ロジウムおよびルテニウムからなる群より選択される少なくとも1種とイリジウムとを担持してなり、比表面積が2から60m/gである触媒が、硫黄酸化物共存下で、400℃程度という低い温度であっても高いメタン酸化活性を維持し続けることが開示されている(特許文献4参照)。
【0010】
酸化ジルコニウム担体にイリジウムおよび白金を担持してなる触媒が、硫黄酸化物共存下で高いメタン酸化活性を示すことは、今日では広く知られるようになっている(例えば、特許文献5、非特許文献2など)が、低い温度でもより高いメタン酸化活性が得られる触媒が求められている。
【0011】
特許文献6には、メタンおよび過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去する触媒であって、酸化ジルコニウム担体に白金、イリジウムおよびレニウムを担持してなる触媒が開示されている。
この触媒は、酸化ジルコニウム担体にイリジウムおよび白金を担持してなる触媒と比較して、400℃以下の低い温度で顕著にメタン酸化活性が向上するほか、経時的な耐久性にも優れている。
【0012】
しかし、特許文献6に示された触媒の調製に関しては、実用的および経済的観点からは、なお課題が残っている。
その課題とは、酸化ジルコニウム担体にイリジウムおよび白金を担持する際に、塩化物系の原料を用いることが高い活性を得るために必須となっている点である。
【0013】
特許文献6には、酸化ジルコニウム担体にイリジウム、白金およびレニウムの3成分を担持させるに際し、大別して2つの調製法が開示されている。
【0014】
第一の方法は、塩化レニウム(ReCl)を塩酸に溶解して調製した塩化レニウム酸と、ヘキサクロロイリジウム酸(HIrCl)およびヘキサクロロ白金酸(HPtCl)の混合溶液を用いて、酸化ジルコニウム担体にイリジウム、白金およびレニウムの3成分を同時に担持させる方法である。
【0015】
第二の方法は、過レニウム酸アンモニウムを用いて、まずレニウムを酸化ジルコニウム担体に担持させ、次いでヘキサクロロイリジウム酸およびヘキサクロロ白金酸の混合溶液を用いて、イリジウムおよび白金を担持させる方法である。
【0016】
第一の方法では、塩化レニウムを安定に溶解させるために強い塩酸酸性の溶液を用いる必要があり、工業的には課題が多い。
第二の方法では、レニウムの担持では塩化物の使用を回避できるため、第一の方法よりも優れているが、イリジウムおよび白金の担持には塩化物を用いるため、同様に工業的には課題がある。
塩化物系の原料を用いて触媒を調製する場合の具体的な問題として次のものがある。まず、ハニカム触媒を調製する場合に、塩素分による腐食の問題からメタル基材を利用できないこと。さらに、触媒調製時の乾燥および焼成工程において、腐食性の高い塩化水素が発生するため、耐腐食性の高い特別の設備が必要となり、経済性の点で問題を生じることがある。
【0017】
特許文献4には、イリジウムの有機金属錯体であるトリス(アセチルアセトナト)イリジウムとジニトロジアンミン白金の硝酸溶液を用いて調製したイリジウム−白金/ジルコニア触媒の活性結果も示されている。しかし、イリジウムの有機金属錯体は高価であることに加えて、難溶性で取り扱いが難しいことから、経済性の点で有利とはいえない。
【0018】
ガス燃料の燃焼排ガス中に含まれるNOx成分を分解除去させるために、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタンの1種または複数種からなる多孔状の担体に、イリジウム、白金、ロジウムの1種または複数種を担持させたNOx除去用触媒が提案されている(特許文献7参照)。しかしながら、この文献は、NOx除去性能を示すのみで、炭化水素の除去率については、一切教示しておらず、炭化水素の中で最も難分解性のメタンを酸化分解できるかどうかについては、何ら示唆もしていない。
【0019】
また、クエン酸を使用する特定の方法により、活性アルミナなどの無機質担体に白金およびロジウムの少なくとも1種とイリジウムおよびルテニウムの少なくとも1種とを併せて担持させた排気ガス浄化用触媒を製造する方法が開示されている(特許文献8参照)。この文献によれば、イリジウムおよび/またはルテニウムが、白金および/またはロジウムと融点の高い固溶体を形成するので、得られた触媒の耐熱性が向上するとされている。しかしながら、この文献は、得られた触媒のNOx転化率が改善されたことを示すのみで、排気ガスに含まれる炭化水素の中でも特に難分解性のメタンの酸化分解については、一切教示していない。
【0020】
高性能の白金含有触媒を与える触媒担持用白金含有溶液の製造方法であって、2.5規定以下の希硝酸水溶液中で、該希硝酸水溶液1リットル当り0.01から0.5モルの割合の量のジニトロジアンミン白金を90℃から100℃で加温熟成することを特徴とする方法が知られている(特許文献9)。しかし、この文献では、白金または白金−ロジウム触媒によるガソリンエンジン排ガスの理論空燃比条件での排ガス浄化性能が示されるのみで、排気ガス中に存在する種々の炭化水素類中でもメタンが特に難分解性であることについての認識を示しておらず、従って、過剰の酸素を含む排ガス中のメタンをどのようにすれば、効率良く酸化分解できるかなどについては、一切明らかにしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開昭51−106691号公報
【特許文献2】特開平8−332392号公報
【特許文献3】特開平11−319559号公報
【特許文献4】国際公開第2002/040152号
【特許文献5】特開2009−112912号公報
【特許文献6】特開2012−96221号公報
【特許文献7】特開平3−293035号公報
【特許文献8】特開平3−98644号公報
【特許文献9】特公昭63−27053号公報
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】アプライド キャタリシス B:エンバイロンメンタル(Applied Catalysis B: Environmental),第14巻,1997年,p.211−223
【非特許文献2】キャタリシス レターズ(Catalysis Letters),第141巻,2011年,p.413−419
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンの酸化除去に関し、経済性で種々問題がある塩化物系の原料を用いることなく、低い温度でも高いメタン分解能を発揮する触媒を製造する方法、ならびに、この方法により製造された触媒を用いた被処理ガス中のメタンの酸化除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するための本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法の特徴構成は、過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解し、実質的に塩素イオンを含まない硝酸酸性水溶液を酸化ジルコニウム担体に含浸させてイリジウム、白金およびレニウムを担持させた後、焼成する点にある。
【0025】
上記目的を達成するための本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法の別の特徴構成は、予めレニウムを担持した酸化ジルコニウム担体に、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解し、実質的に塩素イオンを含まない硝酸酸性水溶液を含浸させてイリジウムおよび白金を担持させた後、焼成することを特徴とする点にある。
【0026】
上記構成において、前記酸化ジルコニウム担体に含浸させる前の前記硝酸酸性水溶液を、常温から75℃の温度で熟成処理してもよい。なお、本発明において常温とは5℃以上35℃以下を意味する。
【0027】
また、上記構成において、前記硝酸酸性水溶液が、さらに多価カルボン酸を含んでもよい。
【0028】
また、上記構成において、前記多価カルボン酸として、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0029】
また、上記目的を達成するための本発明のメタン酸化除去方法の特徴構成は、メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するメタン酸化除去方法であって、前記被処理ガスを300℃以上450℃以下の温度で、上記の方法によって製造された触媒に接触させる点にある。
【発明の効果】
【0030】
本発明の方法により製造されるメタン酸化除去用触媒は、水蒸気や硫黄化合物による活性阻害に対して非常に優れた抵抗性を示すので、被処理ガスの一例である燃焼排ガスのように水蒸気を大量に含み、かつ硫黄酸化物を含む排ガスにおいても、高いメタン酸化活性を発揮する。
また、本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法では、塩化物を原料として用いないため、腐食性の高い塩化水素の発生がなく、経済性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明の実施形態に係るメタン酸化除去用触媒の製造方法およびメタン酸化除去方法を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0032】
メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含む被処理ガス中のメタンを酸化除去するためのメタン酸化除去用触媒の製造方法は、過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液を酸化ジルコニウム担体に含浸させてイリジウム、白金およびレニウムを担持させた後、焼成することを特徴とする。
【0033】
担体である酸化ジルコニウムの表面積が小さすぎる場合には、触媒活性成分を高分散に保つことができなくなる。一方、表面積が大きすぎる場合には、酸化ジルコニウムの熱安定性が十分でなく、触媒の使用中に酸化ジルコニウム自体の焼結が進行するおそれがある。
【0034】
担体として用いる酸化ジルコニウムの比表面積(本明細書においては、BET法による比表面積を言う)は、通常2から90m/g程度であり、好ましくは10から30m/g程度である。酸化ジルコニウムの結晶形は単斜晶が好ましいが、質量基準で25%以下の正方晶や立方晶を含んでいても良い。なお、結晶相含有比率の測定には、X線回折測定などの公知の方法が適用できる。このような酸化ジルコニウムは、市販の触媒担体用酸化ジルコニウムをそのままでもよいし、あるいは空気などの酸化雰囲気下において500℃から800℃で焼成するなどの方法により調製することができる。
【0035】
担体として用いる酸化ジルコニウムには、コージェライト等の支持体への付着性や焼結性の改善のため、アルミナ、シリカなどの酸化ジルコニウム以外の微量の成分を含んでいても良いが、これらの成分は質量基準で2%を超えないことが望ましい。
【0036】
酸化ジルコニウムに対する白金、イリジウムおよびレニウムの担持量は、少なすぎる場合には触媒活性が低くなるのに対し、多すぎる場合には粒径が大きくなって、担持された触媒活性成分が有効に利用されなくなる。
【0037】
白金の担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で0.5から20%程度であるのが好ましく、0.5から5%程度であるのがより好ましい。イリジウムの担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で0.5から20%程度であるのが好ましく、0.5から5%程度であるのがより好ましい。白金とイリジウムの担持量の比率は、イリジウム/白金の質量比で0.3から5程度であるのが好ましく、1から2程度であるのがより好ましい。
【0038】
レニウムの担持量は、酸化ジルコニウムに対する質量比で0.1から10%程度であるのが好ましく、0.2から2%程度であるのがより好ましい。白金とレニウムの担持量の比率は、レニウム/白金の質量比で0.1から2程度であるのが好ましく、0.2から1程度であるのがより好ましい。
【0039】
本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法においては、過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解して所定量のイリジウム、白金およびレニウムを含む硝酸酸性水溶液を調製し、これを酸化ジルコニウム担体に含浸させてイリジウム、白金およびレニウムを担持する工程を経る。
【0040】
過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液は、例えば、硝酸イリジウム、ジニトロジアンミン白金のそれぞれの硝酸酸性水溶液を調製し、これを混合したものに、過レニウム酸アンモニウムを溶解して調製することができる。過レニウム酸アンモニウムに代えて、酸化レニウム(Re)あるいはこれを水に溶解して得た過レニウム酸を用いてもよいが、過レニウム酸カリウムなど焼成後に触媒に残存する陽イオンを含む過レニウム酸化合物を使用すると、触媒の活性を低下させる恐れがある。
【0041】
過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液を所定の方法で熟成することで、より高活性の触媒が得られる。熟成は、常温から90℃の温度で、30分から30日程度行う。温度が高いほど熟成の時間は短くてよく、常温で20日程度、75℃では1時間程度でよい。熟成の時間が短すぎると効果がなく、長すぎても触媒の分散度が低下して活性が低下する。熟成の機構は不明であるが、イリジウムおよび白金錯体が縮合してクラスターを形成することにより、原子レベルでイリジウムおよび白金が均一に混合した担持状態の形成が促進されている可能性がある。
【0042】
熟成に代えて、多価カルボン酸を添加して同様の効果を奏する。これは特許文献8と同様の効果とも推測されるが、実際は異なるものと考えられる。特許文献8では活性金属の状態は金属状態であるのに対し、本願の製造方法により調製される触媒では、活性金属は酸化状態にあることから、特許文献8のような固溶体は形成されないと考えられる。
【0043】
多価カルボン酸には、水酸基をもつヒドロキシカルボン酸が含まれる。
多価カルボン酸として好ましいのは、脂肪族で短鎖の多価カルボン酸である。特に好ましいものは、ヒドロキシカルボン酸である。ヒドロキシカルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸が好ましい。
長鎖のカルボン酸や芳香族のカルボン酸は、分子量あたりのカルボキシル基の数が小さいために、質量当たりの効果が薄くなることに加えて、触媒の焼成工程においてイリジウムおよび白金を過度に還元して、メタン酸化活性を損なう場合がある。
【0044】
多価カルボン酸の添加量は、少なすぎると効果が薄く、多すぎてもかえって効果が損なわれる場合がある。硝酸酸性水溶液中への多価カルボン酸の添加量は、好ましくは硝酸酸性水溶液中の(多価カルボン酸)/(白金+イリジウム)の質量比で0.2から5.0程度、より好ましくは0.2から2.0程度、さらに好ましくは0.5から2.0程度とする。あるいは、硝酸酸性水溶液中のイリジウムおよび白金イオンの合計の物質量に対して、多価カルボン酸のカルボキシル基の物質量が、好ましくは0.6から20倍程度、より好ましくは0.6から10倍程度、さらに好ましくは0.6から6倍程度としてもよい。
【0045】
含浸時間は、所定の担持量が確保される限り、特に制限されないが、通常1から50時間程度、好ましくは3から20時間程度である。次いで、所定の金属成分を担持させた酸化ジルコニウムを、必要に応じてホットプレートないしエバポレーターなどの加熱装置を用い、80℃から120℃で蒸発乾固または乾燥させた後に、焼成する。
【0046】
焼成は、酸化性ガスの流通下で行えばよい。例えば、空気の流通下に行えばよい。あるいは、空気または酸素と窒素などの不活性ガスとを適宜混合したガスなどの酸化性ガスの流通下において行っても良い。
【0047】
焼成温度は、高すぎる場合には、担持された金属の粒成長が進んで高い活性が得られない。逆に、低すぎる場合には、焼成が十分に行われないので、触媒の使用中に担持された金属粒子が粗大化して、安定した活性が得られないおそれがある。従って、安定して高い触媒活性を得るためには、焼成温度は、450から650℃程度とするのが好ましく、500から600℃程度とするのがより好ましい。焼成時間は、特に制限されないが、通常1から50時間程度であり、好ましくは3から20時間程度である。
【0048】
本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法の別の特徴構成は、予めレニウムを担持した酸化ジルコニウム担体に、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液を含浸させてイリジウムおよび白金を担持させた後、焼成する。
【0049】
この場合も、イリジウム、白金およびレニウムの担持量は、上述のイリジウム、白金およびレニウムの3成分を同時に担持する場合と同様である。また、硝酸酸性水溶液の熟成ないし多価カルボン酸の添加も、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液に対して、3成分を同時に担持する場合と同様に行うことができる。
【0050】
本発明の方法で得られた触媒は、ペレット状やハニカム状などの任意の形状に成形して用いても良く、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いてもよい。好ましくは、耐火性ハニカム上にウオッシュコートして用いる。
【0051】
耐火性ハニカム上にウオッシュコートする場合には、上記の方法で調製したメタン酸化除去用触媒をスラリー状にしてウオッシュコートしても良く、あるいは、あらかじめ酸化ジルコニウムを耐火性ハニカム上にウオッシュコートした後に、上記の含浸手法に従って過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液を含浸させて活性成分を担持してもよい。いずれの場合にも、必要に応じて、バインダーを添加することができる。好ましい一例として、酸化ジルコニウム担体にバインダー(例えば酸化ジルコニウムゾル)と適量の水および必要に応じて増粘剤を添加してスラリーを調製し、これを耐火性ハニカム上にコートして、乾燥した後650から750℃で焼成することで、耐火性ハニカム上に酸化ジルコニウム層を形成し、これに過レニウム酸またはその塩と、硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金を溶解した硝酸酸性水溶液を含浸させて白金、イリジウムおよびレニウムを担持する方法が挙げられる。本発明のメタン酸化除去用触媒の製造方法では、メタル担体を腐食させる塩化物を使用しないので、コージェライトのようなセラミック担体だけでなく、ステンレス箔を用いたメタル担体も採用できる。
【0052】
本発明のメタン酸化除去方法は、上記の方法に従い製造されたメタン酸化除去用触媒を用いることを特徴とする。
【0053】
本発明のメタン酸化除去方法が処理対象とするのは、メタン、硫黄化合物および過剰の酸素を含むガス(被処理ガス)であり、例えば、燃焼排ガス、炭鉱換気ガスや各種化学プロセスから放出されるガスである。被処理ガス中には、メタンの他に、エタン、プロパンなどの低級炭化水素や一酸化炭素、含酸素化合物などの可燃性成分が含まれていても差し支えない。これらは、メタンに比して易分解性なので、メタンと同時に容易に酸化除去できる。
【0054】
被処理ガス中の可燃性成分の濃度は、特に制限されないが、高すぎる場合には触媒層で極端な温度上昇が生じ、触媒の耐久性に悪影響を及ぼす可能性があるので、炭素数基準によるメタン換算の濃度として1体積%以下とするのが好ましく、体積基準で5,000ppm以下であればさらに好ましい。
【0055】
メタン酸化除去用触媒の使用量が少なすぎる場合には、有効な除去率が得られないので、ガス時間当たり空間速度(GHSV)で500,000h−1以下となる量を使用するのが好ましい。一方、ガス時間当たり空間速度(GHSV)を低くするほど触媒量が多くなるので、浄化率は向上するが、GHSVが低すぎる場合には、経済的に不利であり、また触媒層での圧力損失が大きくなる。従って、GHSVの下限は、1,000h−1程度とするのが好ましく、5,000h−1程度とするのがより好ましい。
【0056】
被処理ガス中の酸素濃度は、被処理ガス中の還元性成分の酸化当量よりも酸素を過剰に含む限り特に制限されないが、体積基準として約2%以上(より好ましくは約5%以上)であって且つ炭化水素などからなる還元性成分の酸化当量の約5倍以上(より好ましくは約10倍以上)の酸素が存在するのが好ましい。
被処理ガス中の酸素濃度が極端に低い場合には、反応速度が低下するおそれがあるので、予め所要の量の空気や酸素過剰の排ガスなどを混ぜてもよい。
【0057】
被処理ガスの温度は、通常300℃以上600℃以下程度であり、好ましくは300℃以上450℃以下℃程度である。これよりも低い温度では、メタン酸化除去用触媒の活性が不十分となり、有効な除去率が得られない。一方、被処理ガスの温度が600℃を超える場合、あるいは被処理ガス中の可燃性成分の濃度が高く、触媒出口における被処理ガスの温度が600℃を超える場合には、触媒の耐久性が低下する場合がある。
【0058】
本発明のメタン酸化除去方法によれば、被処理ガス中のメタンの酸化除去を安定して行うことが可能となるので、メタン発酵ガスや天然ガス系都市ガスなどの燃焼排ガスや、炭鉱換気ガス、各種プロセスガスなどのメタンおよび硫黄化合物を含有するガス(被処理ガスの一例)をメタン酸化除去方法で処理することにより、ガス中に含まれるメタンを酸化除去して、その反応熱を回収してエネルギーとして有効利用できるほか、地球環境の改善にも寄与する。
【0059】
炭鉱換気ガスの場合は1から3体積%程度、燃焼排ガス中には5から15体積%程度の水蒸気が含まれているが、本発明のメタン酸化除去方法によれば、このように水蒸気を含む排ガスに対しても、有効なメタン酸化除去が達成される。
【0060】
また、燃焼排ガス中には、触媒活性を著しく低下させる硫黄酸化物が通常含まれるが、メタン酸化除去用触媒は、硫黄酸化物による活性低下に対して特に高い抵抗性を示すので、体積基準で0.1から30ppm程度の硫黄酸化物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。ランドフィルガスなど廃棄物由来のガスには、硫化水素やメルカプタンなどの硫黄化合物が含まれ、これらは触媒上で硫黄酸化物となって触媒活性を著しく低下させるが、本発明のメタン酸化除去方法によれば、体積基準で0.1から30ppm程度の硫黄化合物が含まれる場合でも、メタン転化率には実質的に影響がない。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
〔実施例1〕(触媒Aの調製)
酸化ジルコニウム(日本電工社製「N−PC」、比表面積28m/g)を空気中700℃で6時間焼成して、焼成酸化ジルコニウム(比表面積17m/g)を得た。
ジニトロジアンミン白金(Pt(NO(NH; 白金 60.0%含有)10gを20%硝酸50gに加熱溶解して、白金として10.0質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液を得た。
【0063】
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO)の希硝酸溶液(8.65g)と白金として10.0質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(4.80g)とを混合し、純水(10mL)で希釈し、これに過レニウム酸アンモニウム(0.173g)を溶解して、硝酸酸性水溶液を調整した。この硝酸酸性水溶液に上記の焼成酸化ジルコニウム24gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。さらに、ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt−0.5%Re/酸化ジルコニウム(触媒A)を得た。
この触媒Aの比表面積は17m/gであった。
【0064】
〔実施例2〕(触媒Bの調製)
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウムの希硝酸溶液(8.65g)と白金として10.0質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(4.80g)とを混合し、純水(10mL)で希釈し、これに過レニウム酸アンモニウム(0.173g)を溶解して、硝酸酸性水溶液を調整した。この硝酸酸性水溶液を、撹拌しながら、液温を60℃に60分保って熟成させた。液温の保持には、ホットプレートを用いた。熟成した硝酸酸性水溶液に、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム24gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt−0.5%Re/酸化ジルコニウム(触媒B)を得た。この触媒Bの比表面積は17m/gであった。
【0065】
〔実施例3〕(触媒Cの調製)
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウム(Ir(NO)の希硝酸溶液(8.65g)と白金として10.0質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(4.80g)とを混合し、純水(10mL)で希釈し、これに過レニウム酸アンモニウム(0.173g)およびクエン酸2gを加えて撹拌溶解し、硝酸酸性水溶液を得た。硝酸酸性水溶液の(クエン酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.7、(クエン酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約5である。この硝酸酸性水溶液に、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム24gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中にて550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt−0.5%Re/酸化ジルコニウム(触媒C)を得た。
【0066】
〔実施例4〕(触媒Dの調製)
過レニウム酸アンモニウム(1.15g)を純水(72g)に撹拌溶解した。この水溶液に、実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム80gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、115℃で乾燥した後、空気中500℃で6時間焼成して1%Re/酸化ジルコニウムを得た。つまり、予めレニウムを担持した酸化ジルコニウムを得た。
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウムの希硝酸溶液(7.57g)と白金として10.0質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(4.20g)とを混合し、純水(8mL)で希釈し、さらにリンゴ酸(1g)を添加し、撹拌して、硝酸酸性溶液を調整した。硝酸酸性水溶液の(リンゴ酸)/(イリジウム+白金)の質量比は約1.0、(リンゴ酸のカルボキシル基)/(イリジウム+白金)の物質量比は約3である。
この硝酸酸性水溶液に、上記の1%Re/酸化ジルコニウム21gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。蒸発乾固し、120℃で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt−1%Re/酸化ジルコニウム(触媒D)を得た。
【0067】
〔参考例1〕(触媒Eの調製)
ジニトロジアンミン白金(白金 60.5%含有)10gを20%硝酸50gに加熱溶解して、白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液を得た。
イリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウムの希硝酸溶液(10.84g)と白金として10.1質量%を含有する硝酸酸性のジニトロジアンミン白金水溶液(5.94g)とを混合し、純水(10mL)で希釈して硝酸酸性水溶液を調整した。この硝酸酸性水溶液に実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム30gを浸漬し、適宜撹拌しながら15時間の含浸処理を行った。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒E)を得た。この触媒Eの比表面積は17m/gであった。
【0068】
〔参考例2〕(触媒Fの調製)
ヘキサヒドロキソ白金酸(HPt(OH))0.82gを40%硝酸16gに加熱溶解した。これにイリジウムとして8.3質量%を含有する硝酸イリジウムの希硝酸溶液(9.57g)を混合した。この混合溶液を実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム26.5gに含浸させた。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒F)を得た。この触媒Fの比表面積は17m/gであった。
【0069】
〔比較例1〕(触媒Gの調製)
ヘキサヒドロキソ白金酸の硝酸溶液と硝酸イリジウムの希硝酸溶液とを混合した後、過レニウム酸アンモニウム(0.38g)を添加して溶解させてから含浸に用いた他は、参考例2と同様にして3%Ir−2%Pt−1%Re/酸化ジルコニウム(触媒G)を得た。この触媒Gの比表面積は17m/gであった。
【0070】
〔参考例3〕(触媒Hの調製)
イリジウムとして8.6質量%を含有するヘキサクロロイリジウム酸(HIrCl)の希塩酸溶液(11.2g)および白金として16.3質量%を含有するヘキサクロロ白金酸(HPtCl)水溶液(3.93g)を混合し、純水(14mL)で希釈して硝酸酸性水溶液を得た。この硝酸酸性水溶液を実施例1と同じ焼成酸化ジルコニウム32gに含浸させた。ホットプレート上で蒸発乾固し、120℃の定温乾燥器で乾燥した後、空気中において550℃で6時間焼成して3%Ir−2%Pt/酸化ジルコニウム(触媒H)を得た。この触媒Hの比表面積は17m/gであった。
【0071】
〔参考例4〕(触媒Iの調製)
焼成酸化ジルコニウムに代えて実施例4と同じ1%Re/酸化ジルコニウムを用いた他は参考例3と同様にして3%Ir−2%Pt−1%Re/酸化ジルコニウム(触媒I)を得た。この触媒Iの比表面積は17m/gであった。
【0072】
〔活性評価試験〕
実施例1から4、参考例1から4および比較例1において調製した触媒AからIをそれぞれ打錠成形してから砕いて粒径を1から2mmに揃えた。各成形体1.45g(約1.5mL)を石英製反応管(内径15mm)に充填した。次いで、メタン1.000ppm、酸素10%、水蒸気10%(いずれも体積基準)および残部窒素からなる組成を有するガスを、2L/min(標準状態における体積)の流量で反応管に流通し、触媒層温度375℃、400℃、425℃および450℃におけるメタン転化率を測定した(「初期」のメタン転化率)。反応前後のガス組成は、水素炎イオン化検知器および熱伝導度検出器を有するガスクロマトグラフにより測定した。その後、触媒層温度を450℃に保ったまま、反応ガスに二酸化硫黄3ppmを添加して反応を継続し、20、60時間後のそれぞれの時点で、触媒層温度375℃、400℃、425℃および450℃におけるメタン転化率を同様に測定した(「20時間後」および「60時間後」のメタン転化率)。いずれの触媒・反応条件でも、メタン濃度の減少に対応する二酸化炭素の生成が確認され、メタンは触媒上で完全酸化されていた。
【0073】
メタン転化率の測定結果を表1に示す。ここで、メタン転化率とは、以下の式によって求められる値である。
メタン転化率(%)=100×(1−[CH−OUT]/[CH−in])
式中、[CH−OUT]とは触媒層出口のメタン濃度を示し、[CH−in]とは触媒層入口のメタン濃度を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
酸化ジルコニウムに塩化物を用いてイリジウムおよび白金を担持して調製された参考例3の触媒Hは、初期において400℃で87%のメタン転化率を示し、20時間後で82%、60時間後でも80%と高い値を維持した。
また予めレニウムを担持した酸化ジルコニウムに塩化物を用いてイリジウムおよび白金を担持して調製された参考例4の触媒Iは、初期において400℃で92%のメタン転化率を示し、20時間後で86%、60時間後でも86%と高い値を維持した。
このように塩化物を用いてイリジウムおよび白金を担持した場合、高いメタン酸化活性が得られ、さらにレニウムを添加することにより、低温活性が向上するとともに、活性の経時的な安定性が向上することが確認された。
【0076】
一方、塩化物の使用に関わる問題を回避するために、硝酸イリジウムとヘキサヒドロキソ白金酸を用いてイリジウムおよび白金を担持して調製された参考例2の触媒Fでは、400℃におけるメタン転化率は、初期で59%、20時間後で66%、60時間後で62%と、低い値にとどまった。
またレニウムを添加した触媒Gでも、400℃におけるメタン転化率は、初期で78%、20時間後で65%、60時間後で67%となった。
触媒Gのメタン転化率は、触媒Fのメタン転化率と比較すれば、レニウムの添加による低温活性の向上および活性の経時的安定性の向上は見られたものの、活性の水準は低いものであった。
【0077】
これに対し、本発明の製造方法により調製された触媒Aでは、400℃におけるメタン転化率は、初期で81%、20時間後で75%、60時間後で75%となった。触媒Aの活性の水準は高いものであり、かつレニウムを添加しない触媒(参考例1、触媒E)と比較すると、活性の水準は遜色なく、しかも、反応開始20時間後と60時間後のメタン転化率を比較すると明らかであるように、活性の経時的な安定性は触媒Aの方が優れており、レニウムの添加効果が表れている。
【0078】
さらに、酸化ジルコニウム担体に含浸させる前の硝酸酸性水溶液を熟成処理した触媒Bおよび硝酸酸性水溶液にクエン酸を添加した触媒C、およびリンゴ酸を添加した触媒Dでは、活性が顕著に向上した。特に触媒Cでは、塩化物を用いて調製された触媒Iと大差ないメタン酸化活性を示した。また、触媒Dのように、予めレニウムを担持した酸化ジルコニウムに硝酸イリジウムおよびジニトロジアンミン白金およびリンゴ酸を溶解した硝酸酸性水溶液を含浸させても活性およびその経時的な安定性に優れたメタン酸化触媒を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の製造方法は、燃焼排ガスのように水蒸気を大量に含み、かつ硫黄酸化物を含む排ガスにおいても、高いメタン酸化活性を発揮する触媒を経済的に得ることができる。従って、被処理ガス中のメタンの酸化除去を経済的に有利に行うことができる。