(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771486
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】クラッチシステム
(51)【国際特許分類】
F16D 47/04 20060101AFI20201012BHJP
F16D 27/112 20060101ALI20201012BHJP
F16D 13/52 20060101ALI20201012BHJP
B60K 17/04 20060101ALI20201012BHJP
B60K 6/383 20071001ALI20201012BHJP
B60K 6/387 20071001ALI20201012BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20201012BHJP
B60K 6/54 20071001ALI20201012BHJP
【FI】
F16D47/04ZHV
F16D27/112 D
F16D13/52 C
B60K17/04 G
B60K6/383
B60K6/387
B60K6/48
B60K6/54
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-554494(P2017-554494)
(86)(22)【出願日】2016年3月15日
(65)【公表番号】特表2018-517102(P2018-517102A)
(43)【公表日】2018年6月28日
(86)【国際出願番号】DE2016200141
(87)【国際公開番号】WO2016165701
(87)【国際公開日】20161020
【審査請求日】2019年3月12日
(31)【優先権主張番号】102015207039.5
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102015207041.7
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102015209791.9
(32)【優先日】2015年5月28日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス トリンケンシュー
(72)【発明者】
【氏名】ディアク ライツ
【審査官】
古▲瀬▼ 裕介
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−050299(JP,A)
【文献】
特開2011−196504(JP,A)
【文献】
特開2014−059034(JP,A)
【文献】
特開2014−025566(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/186101(WO,A1)
【文献】
特開2000−310260(JP,A)
【文献】
特開平07−269592(JP,A)
【文献】
米国特許第05819883(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 47/04
F16D 43/02 − 43/24
F16D 27/112
F16D 13/52
F16D 41/02
F16D 41/06
B60K 6/383
B60K 6/387
B60K 6/48
B60K 6/54
B60K 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車エンジンの駆動軸を自動車トランスミッション(20)の少なくとも1つのトランスミッション入力軸に断接するクラッチシステムであって、
トルク導入要素(12)と、トルク導出要素(18)と、の間でトルクを伝達する摩擦クラッチ(30)と、
前記摩擦クラッチ(30)の圧着プレートを軸方向で変位させるランプシステム(32)であって、入力ランプ(34)と、前記ランプシステム(32)の軸方向の延在寸法を変化させるべく前記入力ランプ(34)に対して回動可能な出力ランプ(36)と、を有するランプシステム(32)と、
前記トルク導入要素(12)と前記トルク導出要素(18)との間の差回転数の結果として前記出力ランプ(36)に対する前記入力ランプ(34)の回動を引き起こすパイロットクラッチ(40)と、
前記パイロットクラッチ(40)を操作する操作要素(38)と、
前記トルク導入要素(12)から前記トルク導出要素(18)にトルクを伝達するとともに、前記トルク導出要素(18)から前記トルク導入要素(12)へのトルクフローを遮断する、前記摩擦クラッチ(30)に対して並列に接続されるフリーホイール(28)と、
を備えるクラッチシステムにおいて、
前記フリーホイール(28)は、前記トルク導入要素(12)に連結される入力レース(46)と、前記トルク導出要素(18)に連結される出力レース(48)とを有し、前記フリーホイール(28)の前記出力レース(48)は、前記摩擦クラッチ(30)の出力要素(52)に結合されており、前記出力レース(48)は、前記摩擦クラッチ(30)の、軸方向で位置が固定されたカウンタプレート(50)を介して前記出力要素(52)に結合されていることを特徴とする、クラッチシステム。
【請求項2】
前記フリーホイール(28)は、前記トルク導入要素(12)に連結される入力レース(46)と、前記トルク導出要素(18)に連結される出力レース(48)とを有し、前記パイロットクラッチ(40)は、閉鎖された状態で前記入力レース(46)に、摩擦結合式に連結されていることを特徴とする、請求項1記載のクラッチシステム。
【請求項3】
前記摩擦クラッチ(30)の出力要素(52)および/または前記トルク導出要素(18)は、組み込まれた半径方向ずれ補償部を有することを特徴とする、請求項1または2記載のクラッチシステム。
【請求項4】
前記パイロットクラッチ(40)は、該パイロットクラッチ(40)を所定の初期位置に位置決めする戻しばね(60)を有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載のクラッチシステム。
【請求項5】
前記パイロットクラッチ(40)は、前記操作要素(38)によって軸方向で変位可能な、前記パイロットクラッチ(40)を開放および/または閉鎖する引っ張り部材(62)を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のクラッチシステム。
【請求項6】
前記引っ張り部材(62)を用いて、該引っ張り部材(62)に回転可能に支持された摩擦要素(58)が、摩擦結合を介した前記トルク導入要素(12)との連結を形成すべく、軸方向で変位可能であり、前記摩擦要素(58)は、前記ランプシステム(32)の前記入力ランプ(34)に相対回動不能に、しかし、軸方向では相対的に移動可能に結合されていることを特徴とする、請求項5記載のクラッチシステム。
【請求項7】
前記ランプシステム(32)の前記出力ランプ(36)は、前記摩擦クラッチ(30)の前記圧着プレートと一体に構成されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のクラッチシステム。
【請求項8】
前記摩擦クラッチ(30)の出力要素(52)および/または前記トルク導出要素(18)に、電気機械(22)のロータ(26)が結合されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載のクラッチシステム。
【請求項9】
トルク導入要素(12)と、
トルク導出要素(18)と、
前記トルク導入要素(12)と前記トルク導出要素(18)との間でトルクを伝達する、請求項1から8までのいずれか1項記載のクラッチシステム(16)と、
電気機械(22)であって、該電気機械(22)と前記トルク導出要素(18)との間でトルクを伝達する電気機械(22)と、
を備える、自動車用のパワートレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にハイブリッド自動車において、自動車エンジンの駆動軸を自動車トランスミッションの少なくとも1つのトランスミッション入力軸に断接可能なクラッチシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2011/050773号において、いわゆるブースタクラッチの形態のクラッチシステムが公知であり、この公知のクラッチシステムでは、遮断クラッチとして構成される摩擦クラッチを、ランプシステムを用いて操作することができる。この摩擦クラッチを閉鎖するには、ランプシステムが、入力ランプ(Rampe:傾斜部)に対して相対的に回動可能な出力ランプによってランプシステムの軸方向の延在寸法を変化させ、これにより、摩擦クラッチの圧着プレートを軸方向で変位させることができる。これにより、摩擦クラッチの圧着プレートとカウンタプレートとの間で、1つのクラッチディスクを摩擦結合(reibschluessig)式に締め付けることができる。
【0003】
パワートレーン、特にハイブリッド自動車のパワートレーン内のトルク伝達を容易かつ効率的に様々な走行ストラテジに適合させることができるようにしたいという要求が絶えず存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、パワートレーン、特にハイブリッド自動車のパワートレーン内のトルク伝達を容易かつ効率的に様々な走行ストラテジに適合させることができる手段を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題は、本発明により、請求項1に記載の特徴を有するクラッチシステムによって解決される。本発明の好ましい構成は、従属請求項および以下の説明に記載されており、それぞれ単独でも任意の組み合わせでも本発明の一態様をなし得る。
【0006】
本発明により、自動車エンジンの駆動軸を自動車トランスミッションの少なくとも1つのトランスミッション入力軸に断接するクラッチシステムに、トルク導入要素、特に自動車エンジンの駆動軸と、トルク導出要素、特に自動車トランスミッションのトランスミッション入力軸と、の間でトルクを伝達する摩擦クラッチ、特に多板クラッチとして構成される摩擦クラッチと、摩擦クラッチの圧着プレートを軸方向で変位させるランプシステムであって、入力ランプと、ランプシステムの軸方向の延在寸法を変化させるべく入力ランプに対して相対的に回動可能な出力ランプと、を有するランプシステムと、トルク導入要素とトルク導出要素との間の差回転数の結果として出力ランプに対して相対的な入力ランプの回動を引き起こすパイロットクラッチと、パイロットクラッチを操作する操作要素と、トルク導入要素からトルク導出要素にトルクを伝達するとともに、トルク導出要素からトルク導入要素へのトルクフローを遮断する、摩擦クラッチに対して並列に接続されるフリーホイールと、が設けられている。
【0007】
平常のドライビング運転(Zugbetrieb)中、トルク導入要素からトルク導出要素へのトルクフローは、主としてフリーホイールを介して実施することができる。これにより、内燃機関として構成される自動車エンジン内で発生したトルクを自動車トランスミッションのトランスミッション入力軸に伝達し、自動車を駆動することができる。この走行ストラテジでは、トルク導入要素がトルク導出要素を追い越しているので、フリーホイールは、このとき、常時そのロック位置にあって、トルクを伝達する。コースティング運転(Schubbetrieb)中は、トルク導出要素がトルク導入要素を追い越すことができ、これによりフリーホイールは、そのフリーホイール(空転)位置を占め、コースティング方向ではトルクを伝達し得ない。これによりトルク伝達は、コースティング運転中、摩擦クラッチを介してしか実施され得ない。パイロットクラッチが閉鎖されているとき、ランプシステムの入力ランプは、トルク導入要素に連結され、出力ランプは、トルク導出要素に連結されているので、入力ランプと出力ランプとに回転数差が生じ、この回転数差は、出力ランプに対する入力ランプの相対的な回動に至らしめる。これによりランプシステムは、その軸方向の延在寸法を拡大することができ、これにより、特に遮断クラッチとして構成される摩擦クラッチは閉鎖され、トルク導出要素からトルク導入要素へのトルクフローが実現可能である。これにより、コースティング運転中、トランスミッション入力軸から自動車エンジンへのトルクフローを実現することができ、例えば、自動車エンジンの質量慣性モーメントを用いて、自動車を制動する付加的な制動出力を得ることができる。パイロットクラッチが開放されているときは、入力ランプが、トルク導入要素から連結解除されており、もはやトルク導入要素に支持されていない。この状態では、入力ランプと出力ランプとの間に回転数差が存在せず、摩擦クラッチは開放されている。これにより、コースティング運転中、トランスミッション入力軸から自動車エンジンへのトルクフローを遮断することができ、例えばセーリング運転モード(Segelbetriebsmodus)において、自動車エンジンの質量慣性モーメントによる不要な引きずり損失なしに、自動車を惰性走行させることができる。加えて、この状況で、ハイブリッド自動車の場合、容易に、電気機械がモータ運転され、自動車エンジンの質量慣性モーメントによる不要な引きずり損失を甘受する必要なく、自動車を駆動することができる。コースティング運転中の運転モードの切り換えには、パイロットクラッチを用いて短時間、トルク導入要素とトルク導出要素との間に存在する回転数差を、摩擦クラッチを操作するために利用することだけが必要であり、その結果、パワートレーン、特にハイブリッド自動車のパワートレーン内でのトルク伝達を容易かつ効率的に様々な走行ストラテジに適合させることができる。
【0008】
パイロットクラッチ、ランプシステムおよび摩擦クラッチは、相俟っていわゆるブースタクラッチを形成することができる。摩擦クラッチが閉鎖された状態では、トルク導入要素とトルク導出要素とは、滑りなしの運転中、略同じ回転数を有する。摩擦クラッチが開放された状態では、トルク導入要素とトルク導出要素とは、異なる回転数で回転することができ、その結果、トルク導入要素とトルク導出要素との間に回転数差が生じる。トルク導入要素と摩擦クラッチとを介して流れるトルクの少なくとも一部は、少なくとも一部閉鎖されたパイロットクラッチを介して流れることができ、その結果、パイロットクラッチが閉鎖された状態では、少なくとも一時的にランプシステムを介したトルク伝達が実施可能であり、これにより、構成部材にかかる負荷を軽減可能である。特にパイロットクラッチは、出力ランプに対して相対的な入力ランプの回動時、トルク導入要素とトルク導出要素との間の滑りを伴う摩擦結合を引き起こす。この滑りを伴う摩擦結合によって、パイロットクラッチ内には、出力ランプに対する入力ランプの相対的な回動に利用され得る回転数差を形成可能である。同時に、滑り運転中、トルクも伝達することができ、このトルクは、ランプシステムへさらに伝えられ、相応に高い圧着力を圧着プレートのために提供することができる。トルク導入要素とトルク導出要素との間の回転数同化がまだ実施されていなければ、滑り運転されるパイロットクラッチは、パイロットクラッチとのランプシステムの好適な連結を介して、この回転数差を出力ランプに対する入力ランプの相対回動に変換することができる。これにより、ランプシステムの軸方向の延在寸法は、パイロットクラッチ内の回転数差、ひいては、トルク導出要素に対するトルク導入要素の回転数差の結果として、変化することができる。ランプシステムの延在寸法が変化することで、摩擦クラッチを閉鎖するように圧着プレートを変位させることができる。このとき、圧着プレートを変位させる変位力を、パイロットクラッチを介して伝達されるトルクから分岐させることができる。例えば圧着プレートが1つのクラッチディスクおよび/または多板クラッチの複数のディスクを締め付けるところまで、ランプシステムの延在寸法が変化すると、滑り運転の終了後、トルク導入要素の回転数とトルク導出要素の回転数とが、互いに同期しており、その結果、回転数差はもはや存在しない。こうして、ランプシステムは、達成された位置にとどまることができる。
【0009】
摩擦クラッチの閉鎖位置では、伝達すべきトルクの大部分が、クラッチディスクとカウンタプレートの摩擦対を介して伝達可能であり、伝達すべきトルクのより小さい部分が、パイロットクラッチを介して伝達可能である。これにより、パイロットクラッチを介して、相応に高い圧着力を圧着プレートに及ぼすことができ、その結果、相応してより高いトルクを確実かつスリップなしに伝達することができる。この場合、ランプシステムのランプ勾配を好適に選択することで、力の変換が達成可能であり、その結果、パイロットクラッチを操作する小さな操作力で、変換されて高められた圧着力を達成可能である。さらに、伝達すべきトルクの一部が、圧着力を提供するために利用可能であり、その結果、別のエネルギ源から圧着力を供給することができる。パイロットクラッチを介して間接的にのみ圧着プレートに作用する操作力により、パイロットクラッチを介して、摩擦クラッチを閉鎖するための、伝達すべきトルクからのトルク分岐および/または力増幅が達成可能であり、その結果、摩擦クラッチを、明らかに高められた圧着力で摩擦結合式に閉鎖することができ、これにより、摩擦クラッチの確実な閉鎖が、僅かな構造的な手間で可能である。
【0010】
ランプシステムのランプのランプ勾配を介して、力の増幅が実施可能であり、その結果、圧着プレートにおいて達成可能な圧着力と比較して、明らかに低い操作力が、パイロットクラッチを閉鎖するために加えられればよい。これにより操作システム、特に磁気式の操作システムは、操作システムが圧着プレートを直接変位させる場合と比較して、明らかに小型かつ省スペースに寸法設定することができる。さらに、パイロットクラッチを圧着プレートの領域から移設することが可能である。これによりパイロットクラッチは、特に圧着プレートと比較して、少なくとも大部分、圧着プレートに対して半径方向内側に位置決めすることができ、その結果、クラッチディスクの摩擦フェーシングに対して半径方向内側のスペースが利用可能である。これにより、クラッチディスクの摩擦接触を、比較的遠く半径方向外側に離れた領域で行うことができ、その結果、相応に大きな摩擦面を実現するのに必要な、半径方向内側への摩擦クラッチの延在寸法は、相応して小さくて済む。その際、ランプシステムを操作するために、パイロットクラッチは、僅かなトルクさえ伝達すればよく、その結果、クラッチディスクと比較して小さな平均摩擦半径上にある相応に小さな摩擦面で既に十分との認識を利用することができる。
【0011】
出力ランプは、トルク導出要素に相対回動不能に、しかし、軸方向では可動に連結されていることができる。これにより、トルク導出要素に連結される出力ランプと、パイロットクラッチを介してトルク導入要素に連結可能な入力ランプとは、トルク導出要素とトルク導入要素との間に差回転数があるとき、互いに相対的に回動可能である。ランプシステムのランプは、直接互いに滑動してもよいし、少なくとも1つの玉、円筒ころ、その他の回転可能な要素を介して互いに相対的に回動され、その結果、玉−ランプ−システムが形成されてもよい。ランプが互いに相対的に回動することで、入力ランプおよび出力ランプの、それぞれ他方の対向するランプから背離した背面の間隔が変化することができ、その結果、ランプシステムの軸方向の延在寸法を、相応して縮小または拡大することができる。特に好ましくは、出力ランプに対する入力ランプの最大の相対的な回動角が、例えば少なくとも1つのストッパにより制限されており、これにより例えば、摩擦クラッチの摩擦フェーシングの最大の摩耗範囲の超過を回避することができる。
【0012】
特にフリーホイールは、トルク導入要素に連結される入力レースと、トルク導出要素に連結される出力レースとを有しており、パイロットクラッチは、閉鎖された状態で入力レースに、特に摩擦クラッチの入力ディスクキャリアを介して間接的に、摩擦結合式に連結されている。これにより、フリーホイールの入力レースは、トルクフロー内における、トルクの出力分岐を実施し得る箇所であり得る。これにより、ドライビング運転が行われているとき、自動車エンジンによって発生したトルクが略完全にフリーホイールに達し、フリーホイールを介してトルク導出要素に伝えられることを保証可能である。コースティング運転時、フリーホイールがフリーホイール位置にあるとき、パイロットクラッチがコースティング運転中トルク導入要素へのトルクフローを予定している限り、トルク導出要素から来たトルクを、フリーホイールの出力レースを介する代わりに、摩擦クラッチを介して入力レースに伝達することができる。ドライビング運転中は、すべてのトルクを、パイロットクラッチおよび摩擦クラッチを迂回して導くことができる一方、コースティング運転中は、トルクを、フリーホイールを迂回して導くことができる。これにより、伝達すべきトルクの、ドライビング運転中とコースティング運転中とで異なる荷重伝達経路を極めて短く維持することができ、これにより、クラッチシステムの省スペースの構成が可能となる。
【0013】
好ましくは、フリーホイールは、トルク導入要素に連結される入力レースと、トルク導出要素に連結される出力レースとを有し、フリーホイールの出力レースは、摩擦クラッチの出力要素、特に出力ディスクキャリアとして構成される出力要素に結合されており、特に出力レースは、摩擦クラッチの、軸方向で位置が固定されたカウンタプレートを介して出力要素に結合されている。これにより、ドライビング運転中のトルクフローを、摩擦クラッチの出力部において直接、トルク導出要素に供給することができ、その結果、ドライビング運転中とコースティング運転中とで、可及的多くの、トルクを伝達する部分区間が共用可能である。これにより、伝達すべきトルクの、ドライビング運転中とコースティング運転中とで異なる荷重伝達経路を極めて短く維持することができ、これにより、クラッチシステムの省スペースの構成が可能となる。
【0014】
特に好ましくは、摩擦クラッチの出力要素および/またはトルク導出要素は、組み込まれた半径方向ずれ補償部(Radialversatzausgleich)、特にモーメントフィーラ(Momentenfuehler)を有する。これにより、パイロットクラッチに生じた回転数差による摩擦クラッチの開放および閉鎖を、よりソフトに実施可能である。加えて、パイロットクラッチおよび摩擦クラッチの関連する構成部材の、摩擦クラッチの操作のために発生する相対回動を、自動的に補償することができる。特に半径方向ずれ補償部において、摩擦クラッチの閉鎖時、作用するトルクによってばね要素を付勢することができ、その結果、かかっていたトルクがなくなると、付勢されたばね要素は、摩擦クラッチを自動的に開放することができる。これにより、コースティング運転とドライビング運転との間での切り換えを、外部の制御部が摩擦クラッチまたはパイロットクラッチに作用する必要なく、簡単に実現することができる。
【0015】
特にパイロットクラッチは、パイロットクラッチを所定の初期位置、特にパイロットクラッチの閉鎖位置に相当する初期位置に位置決めする戻しばねを有する。操作要素は、コースティング運転中、トルク導入要素および自動車エンジンへのトルク伝達が遮断されることが望ましいとき、例えばセーリング運転時や、ハイブリッド自動車の、トルク導出要素に作用する電気機械を用いた、自動車の純粋に電気的な駆動時にのみ、操作されればよい。
【0016】
好ましくは、パイロットクラッチは、操作要素によって軸方向で特に磁気式に変位可能な、パイロットクラッチを開放および/または閉鎖する引っ張り部材(Zuganker)を有する。引っ張り部材により、例えば、摩擦結合を介したトルク導入要素との連結用の摩擦対を構成し得る摩擦要素は、パイロットクラッチを選択的に開放および/または閉鎖するために軸方向で変位可能である。このために、引っ張り部材の短い軸方向の変位行程が必要であるにすぎないので、引っ張り部材は、操作要素によって発生する磁力によって容易に変位可能である。このために、特に引っ張り部材は、少なくとも操作要素に対向する領域で強磁性材料により形成されている。
【0017】
特に好ましくは、引っ張り部材を用いて、引っ張り部材に回転可能に支持された摩擦要素が、摩擦結合を介したトルク導入要素との連結を形成すべく、軸方向で変位可能であり、摩擦要素は、ランプシステムの入力ランプに相対回動不能に、しかし軸方向では相対的に移動可能に結合されている。摩擦要素は、引っ張り部材によって軸方向で変位するとき、例えば歯列を介して入力ランプに相対回動不能に結合されたままであり、これにより、回転数差があり、摩擦結合式の連結があるとき、ランプシステムを駆動することができる。摩擦要素は、入力ランプとともに連れ回るように構成されていることができる一方、引っ張り部材は、特に軸方向で変位可能なだけで、連れ回りはしないように構成されている。摩擦要素は、軸受、特に溝玉軸受を介して引っ張り部材に回転自在に支持されていることができる。引っ張り部材は、軸受の、摩擦要素とは反対側の軸受レースに作用することができ、これにより、この軸受レースを軸方向で変位させることができ、この軸受レースは、摩擦要素に結合される他方の軸受レースを軸方向に連れ動かすことができるので、同時に摩擦要素も、軸方向で変位する。
【0018】
特にランプシステムの出力ランプは、摩擦クラッチの圧着プレートと一体に構成されている。これにより出力ランプは、同時に摩擦クラッチの圧着プレートを形成することができるので、相応に小さな組み付けスペースが得られる。出力ランプの、入力ランプに向かう軸方向面には、周方向で斜面を構成することができ、これにより、ランプシステムを形成することができる一方、出力ランプの、入力ランプとは反対側の軸方向面は、摩擦クラッチ用の圧着プレートの摩擦面を形成することができる。
【0019】
好ましくは、摩擦クラッチの出力要素および/またはトルク導出要素に、電気機械のロータが結合されている。これにより、クラッチシステムは、ハイブリッド自動車内にハイブリッドモジュールとして容易に組み込まれることができる。ロータは、電気機械のステータと協働することができ、これにより、電気機械のモータ運転中、トルクをトルク導出要素に導入し、電気機械のジェネレータ運転中、トルクを導出することができる。例えば自動車が純粋に電気的に駆動されることが望まれ、このときトルク導出要素がトルク導入要素を追い越す運転モードにおいて、電気機械から、特に停止された自動車エンジンへと至るトルクフローを、パイロットクラッチを用いて容易に遮断することができる。好ましくは、パイロットクラッチを操作するために場合によっては必要な電気エネルギは、電気機械から取り出し可能である。さらに、自動車エンジンの始動のためにパイロットクラッチを閉鎖することが可能であり、その結果、電気機械は、自動車エンジンを始動するための始動トルクを自動車エンジンに導入することができる。
【0020】
さらに本発明は、トルク導入要素、特に自動車エンジンの駆動軸と、トルク導出要素、特に自動車トランスミッションのトランスミッション入力軸と、トルク導入要素とトルク導出要素との間でトルクを伝達する、上述のように形成され、発展されていることができるクラッチシステムと、電気機械であって、電気機械とトルク導出要素との間でトルクを伝達する電気機械と、を備える、自動車用のパワートレーンに関する。コースティング運転中の運転モードの切り換えには、パイロットクラッチを用いて短時間、トルク導入要素とトルク導出要素との間に存在する回転数差を、摩擦クラッチを操作するために利用することだけが必要であり、その結果、特にハイブリッド自動車が純粋に電気的に電気機械によって駆動されることが望まれるとき、ハイブリッド自動車のパワートレーン内でのトルク伝達の、様々な走行ストラテジへの容易かつ効率的な適合が可能である。
【0021】
以下に、本発明について添付図面を参照しながら好ましい実施例を基に例示説明する。以下に示す特徴は、それぞれ単独でも、任意の組み合わせでも本発明の一態様をなし得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ドライビング運転中のパワートレーンの概略的な原理図である。
【
図2】ドライビング運転からコースティング運転への切り換わり時の、
図1に示したパワートレーンの概略的な原理図である。
【
図3】コースティング運転中の、
図1に示したパワートレーンの概略的な原理図である。
【
図4】純粋に電気的な運転中の、
図1に示したパワートレーンの概略的な原理図である。
【
図5】
図1に示したパワートレーン用のクラッチシステムの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1に示すパワートレーン10は、トルク導入要素12、具体的には、自動車エンジンの、クランク軸として構成される駆動軸を有し、トルク導入要素12は、トーショナルバイブレーションダンパ14、具体的にはデュアルマスフライホイールと、クラッチシステム16とを介してトルク導出要素18、具体的には自動車トランスミッション20のトランスミッション入力軸に断接可能である。トルク導出要素18には、トルクを交換するように電気機械22が作用していてもよい。このために電気機械22は、通電可能なステータ24を有し、ステータ24は、トルク導出要素18に連結されるロータ26と協働可能である。場合によっては、トルク導入要素12とクラッチシステム16との間および/またはクラッチシステム16とトルク導出要素18との間に遮断クラッチが設けられていてもよく、これにより、自動車エンジンが作動しているとき、自動車トランスミッション20内でギヤ段のシフトを行うことができる。
【0024】
クラッチシステム16は、フリーホイール28を備え、フリーホイール28を介して、
図1に示したドライビング運転中、自動車エンジンによって発生したトルクを、トルク導入要素12からトルク導出要素18に伝達可能である。
図2に示すように、ドライビング運転からコースティング運転に切り換わると、トルク導出要素18は、トルク導入要素12を追い越すこと(オーバラン)ができ、その結果、フリーホイール28を介したトルクフローは、もはや不可能である。例えば自動車エンジンの質量慣性モーメントを用いて自動車を制動するために、トルクをトルク導出要素18からトルク導入要素12に伝達すべく、トルクは、摩擦クラッチ30を介して伝達可能である。摩擦クラッチ30の操作用にランプシステム32あるいはカムシステムが設けられており、ランプシステム32は、入力ランプ34が出力ランプ36に対して相対的に回動されることで、ランプシステム32の軸方向の延在寸法を変化させることができる。このために出力ランプ36は、トルク導出要素18に連結されている一方、入力ランプ34は、操作要素38を用いて操作可能なパイロットクラッチ40を介してトルク導入要素12に連結されていることができる。コースティング運転中のトルク導出要素18に対するトルク導入要素12の回転数差により、パイロットクラッチ40が閉鎖されているとき、入力ランプ34は、出力ランプ36に対して相対的に回動することができる。これにより、ランプシステム32の軸方向の延在寸法を増大することができ、これにより、摩擦クラッチ30は閉鎖され、トルク導出要素18からクラッチシステム16を介してトルク導入要素12へと至るトルクフローが、
図3に示すように実現可能である。コースティング運転中、操作要素38を用いてパイロットクラッチ40を開放し、トルク導入要素12へのトルクフローを遮断することも可能である。この状態は、
図4に示すように、例えば自動車が純粋に電気的に電気機械22により駆動されることが望ましいときに生じる。
【0025】
図5にさらに詳細に示すように、クラッチシステム16は、固定のハウジング42を備えることができ、ハウジング42には、電気機械22のステータ24が取り付けられており、かつトルク導入要素12がパイロット軸受44を介して回転自在に支持されることができる。トルク導入要素12は、フリーホイール28の、入力レースとして機能する内レース46に結合されている。フリーホイール28は、出力レースとして機能する外レース48を有し、外レース48は、多板クラッチとして構成される摩擦クラッチ30のカウンタプレート50にリベット止めされている。カウンタプレート50は、アウタディスクキャリアとして構成される出力要素52に結合されている。他方、出力要素52は、組み込まれた半径方向ずれ補償部として機能するモーメントフィーラ54を介してトルク導出要素18に結合されている。
【0026】
加えて、フリーホイール28の内レース46には、摩擦クラッチ30の、インナディスクキャリアとして構成される入力要素56がリベット止めされている。入力要素56には、パイロットクラッチ40の摩擦要素58が作用することができ、これにより生じる摩擦対によって、パイロットクラッチ40を閉鎖することができる。摩擦要素58は、ランプシステム32の入力ランプ34に相対回動不能に、しかし軸方向では変位可能に結合されており、これにより、トルク導入要素12とトルク導出要素18との間の回転数差の結果として、ランプシステム32の軸方向の延在寸法を増大させることができる。このとき、トルク出力要素18に連結される出力ランプ36は、同時に摩擦クラッチ30の圧着プレートとして機能することができる。パイロットクラッチ40は、「常閉形」として構成されており、戻しばね60を有する。戻しばね60は、摩擦要素58を適当な圧着力で入力要素56に押し付ける。このために戻しばね60は、摩擦要素58に特に直接作用する。図示の実施の形態では、戻しばね60は、引っ張り部材62および/または玉軸受64に作用する。玉軸受64を介して摩擦要素58は、引っ張り部材62に回転自在に支持されている。引っ張り部材52は、強磁性材料から製造されていて、操作要素38によって磁気吸引されることができ、これにより、摩擦要素58と入力要素56との間の摩擦対を戻しばね60のばね力に抗して解除し、パイロットクラッチ40を開放することができる。パイロットクラッチ40が開放されているとき、例えばモーメントフィーラ54によって加えられるばね力は、摩擦クラッチ30を自動的に開放位置へ動かすことができる。
【符号の説明】
【0027】
10 パワートレーン
12 トルク導入要素
14 トーショナルバイブレーションダンパ
16 クラッチシステム
18 トルク導出要素
20 自動車トランスミッション
22 電気機械
24 ステータ
26 ロータ
28 フリーホイール
30 摩擦クラッチ
32 ランプシステム
34 入力ランプ
36 出力ランプ
38 操作要素
40 パイロットクラッチ
42 ハウジング
44 パイロット軸受
46 内レース
48 外レース
50 カウンタプレート
52 出力要素
54 モーメントフィーラ
56 入力要素
58 摩擦要素
60 戻しばね
62 引っ張り部材
64 玉軸受