(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771512
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】抗不安薬組成物、製剤および使用方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/135 20060101AFI20201012BHJP
A61P 25/22 20060101ALI20201012BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20201012BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20201012BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20201012BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20201012BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
A61K31/135ZMD
A61P25/22
A61P43/00 111
A61K9/12
A61K47/04
A61K47/26
A61K9/08
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-124196(P2018-124196)
(22)【出願日】2018年6月29日
(62)【分割の表示】特願2015-528691(P2015-528691)の分割
【原出願日】2013年8月23日
(65)【公開番号】特開2018-162302(P2018-162302A)
(43)【公開日】2018年10月18日
【審査請求日】2018年7月5日
(31)【優先権主張番号】61/692,380
(32)【優先日】2012年8月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507272810
【氏名又は名称】ウェグ スチュアート エル
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100156982
【弁理士】
【氏名又は名称】秋澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】ウェグ スチュアート エル
【審査官】
参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−530385(JP,A)
【文献】
特表平10−500664(JP,A)
【文献】
特表2010−525081(JP,A)
【文献】
J. Anesth.,2012年 6月,Vol.26,pp.878-882
【文献】
ARCH GEN PSYCHIATRY,米国,1994年,Vol.51,p.199-214
【文献】
Can. J. Anesth.,2000年,Vol.47(9),pp.910-913
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/135
A61K 9/00
A61K 47/00JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象者の不安神経症の予防のための、ケタミン又はその製薬上許容し得る塩を含む医薬組成物であって、前記医薬組成物が0.05mg/kg〜0.3mg/kgのケタミン又はその製薬上許容し得る塩を鼻孔内投与するために調製されており、
前記鼻腔内投与は、100mg/ccの濃度のケタミンまたはその製薬上許容される塩の溶液を含む鼻腔内装置からのスプレー放出あたり10mgの量で1分間隔内に2〜3回のスプレー放出することを含み;
医学的又は歯科的処置の3〜5分前に対象者に投与される、前記医薬組成物。
【請求項2】
塩酸ケタミンを含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
水、食塩水、重炭酸塩、スクロースおよびこれらの混合物からなる群から選ばれる適切な担体を含む、請求項又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
水溶液である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
対象者が成人である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
単回使用エアゾール装置中に調製されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
0.2mg/kg〜0.3mg/kgのケタミン又はその製薬上許容し得る塩を対象者に鼻孔内投与するために調整されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、薬化学の領域、さらに詳細には、不安神経症および/または軽微な抑うつ症の予防または治療において使用する製剤および組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
関連技術の説明
本発明は、主として、不安神経症を患っているまたは示す成人の治療に関する。以下の考察は、一般に、臨床(精神医学)用語において理解されているような不安神経症の症状を説明している;しかしながら、また、本明細書において後述するように、本発明は、実質的に全ての個々人がその生涯の幾つかの時点一般的に経験するあまり重症型でない症状に的を絞る。従って、以下の考察は、一般的な技術状況を認識するための上記症状の一般的説明とみなすべきである。
【0003】
従って、“不安神経症”とは、人を苦しめる或いは不愉快にする心配または他の不安の情動状態を称する。不安神経症は、例えば、全般性不安障害、強迫性障害、パニック障害、恐怖性障害およびストレス障害のような種々の不安障害の中心的特徴である。また、不安神経症は、他の精神障害を、例えば、混合性不安神経・抑うつ症(mixed−anxiety depression)を併発し得え、或いは、月経前症候群におけるようなこれら他の神経障害の症状でもあり得る。また、不安神経症は、精神障害以外の症状を、例えば、アルツハイマー病または線維筋痛を併発し得る。
【0004】
一般的な不安障害は、多くの場合ささいな挑発を伴う過剰な不安に特徴を有する。不安神経症は、多くの場合、2つ以上の関心事(例えば、財産と健康)および経時的変化を有する。不安神経症は、多くの場合、疲労、頭痛、筋緊張、筋肉痛、嚥下困難、身震い、単収縮、被刺激性、発汗、ほてり、情動不安および集中力低下のような1つ以上の身体症状を伴う。
【0005】
強迫性障害は、侵入思考(intrusive ideas) (汚染恐怖、飛行恐怖のような)または衝動的行為(他人に対する過失致傷)またはそのような衝動強迫思考によって生じる不安を減じるためにある種の行動を起す衝動強迫に特徴を有する。衝動強迫は、多くの場合、繰返しの手洗浄、計数行動またはある種の語句の発声のような繰返し行動を含み、他人にとっては観察可能であり得またはあり得ない。
【0006】
パニック発作は、1つ以上の認識または身体症状を伴う強い多くの場合自発性の不安症状に特徴を有する。認識症状としては、乾燥恐怖、発狂または自制心喪失の恐怖、非現実感、奇妙感(strangeness)または周囲からの孤立がある。身体症状としては、胸痛または胸部不快感、めまい、脱力、閉塞感、赤面または悪寒、吐き気または腹部苦悶、無感覚または刺激感、動悸または心拍数上昇、息切れまたは窒息感、発汗、および振戦または身震いがある。パニック発作は、自発的に生じ得、或いは他の不安神経障害と併発し得る;閉所恐怖症の人は、例えば、エレベータに入ったときにパニック発作を示し得る。パニック障害は、人がパニック発作を繰返して経験するときに生じる。
【0007】
パニック障害歴のない広場恐怖症
広場恐怖症は、パニック発作またはパニック様症状(例えば、急なめまい発作または急な下痢発作を示す恐怖)を生じる場合に逃げることが困難(または厄介)であり得るか或いは助けが可能であり得ない場所にいるかまたは状況にあることについての不安神経特性に特徴を有する症状である。広場恐怖症は、広場恐怖症を示すパニック障害およびパニック障害歴のない広場恐怖症に関連して生じる。パニック障害歴のない広場恐怖症の本質的な特徴は、その恐怖病巣が完全なパニック障害よりはむしろ無能力状態または極めて厄介なパニック様症状または限られた症状発作の発症に基づくことを除けば、広場恐怖症を示すパニック障害の本質的特徴と同様である。
【0008】
また、広場恐怖症を発症するほぼ全ての個々人(95%を越える)は、パニック障害の現診断(または歴)を有する。対照的に、疫学サンプルにおけるパニック障害歴のない広場恐怖症の有病率は、広場恐怖症を示すパニック障害における有病率よりも高いことが報告されている。
【0009】
強迫性障害(OCD)
一次症状は、時間浪費性の苦悩を生じるか或いは人の正常な日常または生き方を著しく妨げるに十分な重篤性を有する再発性強迫観念(即ち、著しい不安を生ずる再発性で侵入性の思考、心証または衝動)および/または強迫(即ち、人の強迫観念によって生じる不安を減じるために行う繰返しの行動または精神活動)である。不安は、この障害の関連特性である:患者は、例えば、強迫観念の原因に関与する状況の恐怖性回避を示し得る。典型的な強迫観念は、汚染、疑惑(自信喪失のような)および憂慮すべき性的または宗教的思想に関連する。典型的な強迫としては、事物の洗浄、チェック、注文、並びに計数がある。
【0010】
社会恐怖症
社会恐怖症は、狼狽(embarrassment)が生じ得る社会的または能力状況の絶え間ない恐怖に特徴を有する。社会恐怖症の個々人が恐れるまたは逃避する典型的な状況としては、パーティー、会合、他人の前での食事、他人の前での執筆、弁論、会話、新たな人との出会い、および他の関連状況がある。社会的または能力状況の暴露は、ほぼ何時でも、即座の不安反応、並びに発汗、身震い、心臓鼓動の上昇または激化、精神錯乱および逃亡欲求を引起こす。また、社会的回避および隔離も、特により般化した条件において、過激となり得る。アルコール依存症は、他のいずれの不安神経障害よりももっと一般的に社会恐怖症と関連し、頻繁に、社会恐怖の自己治療での試みを示す。
【0011】
心的外傷後ストレス障害(PTSD)
主要な特徴的症状は、衝撃的(即ち、精神的に悲慘な)出来事の再体験、その出来事に関連する刺激の回避、一般的反応性の無感覚、および覚醒増強を含む。憂慮する“出来事”は、単純な死別、慢性病および夫婦間葛藤のような一般的体験の範囲外である。
【0012】
全般性不安障害(GAD)
GADは、本質的な特性が、2つ以上の生活環境についての6ヶ月間以上の非現実的なまたは過剰な不安および悩みである症状である。その悩みは、抑制するのが困難なものとして体験しなければならず、その間、患者は、上記よりも少ない日数の間上記懸念ごとに悩まされる。患者が不安である場合、彼らは、運動緊張(motor tension)、自律神経系の活動亢進および覚醒およびスキャニングの兆候を示す。
【0013】
特定恐怖症
特定恐怖症は、本質的特性が限局性刺激の絶え間ない恐怖であって、その恐怖がパニック発作を示す或いは社会状況における屈辱または狼狽(社会恐怖症に属する)の恐怖以外の物事または状況でありえる不安神経障害である。例としては、飛行、高さ、動物、注射および血液の各恐怖症がある。単純な恐怖症は、“特定”恐怖症として、全体としての集団内で称し得る。恐怖刺激への暴露は、ほぼ何時でも、即座の不安反応をもたらす。
【0014】
複数の原因、特に、遺伝子構造、初期成長および発育、並びにその後の人生経験の組合せが不安神経障害において疑われている。不安神経障害は、何らかの形のカウンセリングまたは心理療法または薬物療法(薬物治療)の単独または組合せによって治療する。不安神経障害患者を治療するのに典型的に使用する薬剤は、ベンゾジアセピン、選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)およびブスピロンである。
【0015】
鎮痛剤として機能する、コカインのような麻酔薬は、過去においては、抑うつ症に関連する症状に対して使用されていた。モルヒネエリクサー(morphine elixer)は、コカイン製剤が抑うつ症および関連不安神経症の治療用であったように、抑うつ症に対して広く使用されていた。抑うつ症および/または不安神経症の治療用に使用されている麻酔剤以外のオピオイド類等のような薬物の多くの例が存在するけれども、上述の薬物は、全て、これらの薬物が習慣性であり、且つ投与した集団のうちで依存性を強力に誘発するという欠点を抱えている。結果として、そのような薬物の使用および投与は、最小限とし、そして強力に管理することが望ましい。
【0016】
ベンゾジアセピン類は、急速かつ強力な抗不安および鎮痛催眠作用を有する大分類の比較的安全で且つ広く処方されている薬剤である。SSRI群内の薬物は、パニック障害、広場恐怖症、OCD、社会恐怖症、心的外傷後ストレス障害、特定恐怖症およびより広範囲の不安神経障害のような不安神経障害の治療用に使用されている[Kaplan & Sadock's Comprehensive textbook of psychiatry 7th. edition, 1, 1441−1498 (1999)]。ブスピロンは、FDAにより抗不安薬として承認され、GADの治療において最も有用である比較的選択性の5HT
1A部分的作用薬であり、現在、SSRIに対する補助薬として頻繁に使用されている [Kaplan & Sadock's Comprehensive textbook of psychiatry 7th. edition, 1, 1441−1498 (1999)]。
【0017】
GADに対する有効な薬物療法および心理学的療法は存在するようである。殆どの薬物試験はGADについての旧基準に基づいているけれども(旧基準はその後実質的に改定されている)、ブスピロン、イミプラミンおよび種々のベンゾジアゼピン類のような一定範囲の薬理的介入はGADに対して有用である証拠が存在する。薬物療法は、幾つかの他の不安神経障害におけるよりもGADにおいてはあまり有効ではないとみなされている[Kaplan & Sadock's Comprehensive textbook of psychiatry 7th. edition, 1, 1441−1498 (1999)]。治療は、通常行動暴露である。薬物は、暴露処置の開始に伴う予期神経症を緩和するために必要に応じて使用する。低投与量のベンゾジアセピンとβ−アドレナリン受容体拮抗薬を、この目的において、必要に応じた基準に基づき使用し得る。
【0018】
不安神経障害を治療するのに使用する数種の薬物、特に、ベンゾジアゼピン類の可能性ある副作用に関する懸念が明らかになってきている。これらの薬物に関連し、治療の間を通じて低減することのできる一般的な副作用としては、鎮静、疲労、運動失調、不明朗発語および健忘症がある;後者の2つの作用は、薬剤を高投与量で使用するか或いは乱用する場合に観察可能である。また、ベンゾジアセピンは、薬物依存(即ち、使用中止後の心理的または行動的症状)を生じさせる潜在力を有し、この点、説明した麻酔剤に関連して挙げた同じ欠点を被る。
【0019】
従って、有効で且つ安全な抗不安薬である新規な薬剤が継続して求められている。さらに詳細には、抗不安薬として機能し、且つ麻酔効果が残らない、且つ中毒或いは依存或いは呼吸または循環の虚脱/障害を潜在力誘発しない薬物投与のための剤形および組成物の開発が求められている。また、本発明が関することは、上記の目的を達成することである。
【発明の概要】
【0020】
発明の要約
本発明によれば、対象者の不安神経症の発症を抑制または治療する方法であって、上記対象者に、NMDA受容体拮抗薬を非麻酔性または軽微に鎮痛性である量で含む抗不安薬を投与することを特徴とする方法を開示する。さらに詳細には、上記NMDA受容体拮抗薬は、組成物中で、約0.05mg/kg〜約0.5mg/kgの典型的な単位投与量で調合し得、約0.1mg/kg〜0.3mg/kgが典型的である。
【0021】
本発明方法は、静脈内、鼻孔内、経皮、経粘膜および口内投与のような種々の経路によって上記抗不安薬を投与することを含む。
本発明は、NMDA受容体拮抗薬の使用、およびNMDA受容体拮抗薬を含有する製剤、および医薬組成物の製造に関し、これらの全ては、不安神経症の自然発症並びに不安神経障害の症状を軽減することに使用し得る。
【0022】
さらに詳細には、本発明は、あまり重症性を有さず、さらに、正常な個々人が頻繁に経験する不安および心配の念として最も良く説明することのできる不安神経症に関する。この不安神経症の形態は、上記で詳細に説明している臨床または精神状態と区別し得る。ここで説明した障害は、人の機能レベルを妨げ得るものの、本発明を使用することによって有効に治療し得る。本発明の化合物は、重症でない不安神経症の治療において特に有用である。例えば、偶発的なパニック発作を示す人は、その人がパニック障害を有していない可能性があるにもかかわらず、本発明の化合物で治療し得る;その人は、本発明の化合物による治療を開始する前に、繰返しのパニック発作に苦しむのを或いは繰返しのパニック発作によって無能力になるのを待つ必要はない。同様に、軽微な病態の急性ストレス障害患者も本発明の化合物によって治療し得る;患者は、その急性障害が心的外傷後ストレス障害に進行するのを待つ必要はない。要は、不安神経症の治療を求めている人が不安神経症を不愉快であると気付き、不安神経症を緩和しおよび/または不安神経症の発症を予防することを欲することのみである。
【0023】
本発明の組成物、製剤および装置は、同様に、例えば、適切な単位剤形を単回使用エアゾールまたは個人補完および即使用用の複数回使用スプレー装置中で調合し得るキットにおいて具現化する。
【0024】
従って、本発明の主たる目的は、対象者の不安神経症を、認識機能障害をもたらすことなくまた患者機能/能力への負の影響が殆どまたは全く無しで、予防し、緩和しまたは治療する抗不安薬の投与用の製剤および組成物を調製することである。
従って、本発明のさらなる目的は、急速な発現と救済を負の後遺症なしで提供する上述したような製剤、組成物および投与方法を提供することである。
【0025】
本発明のさらなる目的は、投与装置内の分離可能な容器、例えば、シリンジ内に配分した本発明の製剤および組成物を含む単位剤形および相応するキットを提供することである。
他の目的および利点は、以下の詳細な説明の見解から当業者にとっては明白になるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明によれば、上記の目的および利点は、容易に達成される。
本発明の最も広範囲の局面においては、本発明は、予期に反して、安全且つ有効な抗不安薬として機能する組成物および製剤に関する。本発明は、麻酔投与量未満のNMDA受容体拮抗薬、例えば、ケタミンを、本発明において興味のある軽微な病態の不安神経症を治療するのに特に適する抗不安薬として使用するために投与することを含む。上記方法、組成物および剤形は、青年世代および高齢者からの成人対象者による使用を特に意図する。
【0027】
NMDA受容体拮抗薬は、多くの理由によって、治療上価値がある。麻酔に加え、ある種のNMDA受容体拮抗薬は、深い鎮痛、一般的な麻酔および鎮痛の極めて望ましい成分を提供する。また、NMDA受容体拮抗薬は、多くの臨床上関連する状況(神経障害痛状態、虚血、脳損傷、およびある種のタイプのけいれんのような)下において神経保護性である。
【0028】
商業的に入手可能であって且つ広範囲の用途を有する数種のNMDA拮抗薬が存在する。例えば、メマンチンは、認知症の認識、心理、社会および運動障害において急速且つ持続性の改善をもたらす;デキストロメトルファンは、咳を緩和するのに使用する;アマンタジンは、抗ウイルス物質である;そして、麻酔剤としてのケタミン。また、メタドン、デキストロプロポキシフェンおよびケトベミドンのようなある種のオピオイド類もNMDA拮抗薬として分類される。MK−801 (マレイン酸ジゾシルピン)およびフェンシクリジンは、商業的には使用されてなく、そして、デキストロメトルファンは、商業的に使用されており、他の例である。
【0029】
監視医療実務においての神経毒のないNMDA拮抗薬製剤に関しては、多くの潜在的な商業的用途が存在する。適応症としては、限定するものではないが、認知症の治療、咳の抑制(咳止め)、抗ウイルス治療、不随意筋活動の治療、抗うつ薬、依存の抑制および離脱症の治療がある。例えば、本発明に従って有用であるケタミンは、突出した痛み、麻酔および鎮静用の鎮痛剤として使用し得る。ケタミンにおけるさらなる適応症としては、外傷性整形外科損傷痛、片頭痛の痛み、最終段階陣痛用の産科用途、中枢性疼痛、歯痛、および急性および慢性の中度乃至重度の疼痛に関連するさらなる症状を有する主体者がある。
【0030】
さらに詳細には、ケタミン、即ち、NMDA受容体拮抗薬は、臨床において、解離性麻酔薬として25年間を越えて使用されており、麻酔薬として急性に使用したとき、広い安全域を示している。試験により、疼痛の患者自己管理(Wegに付与された米国特許第6,248,789号および第5,543,434号)、術後鎮痛(Naguib et al., Can. Anaesth. Soc. J. 1986, 33:16; Dich-Nielsen et al., Acta Anaesthesiol. Scand. 1992, 36:583;Battacharya et al., Ann. Acad. Med. Singapore 1994, 23:456)、骨折および軟質組織損傷患者の緊急時鎮痛 (Hirlinger and Pfenninger, Anaesthsist 1987, 36:140)、筋骨格外傷 (Gurnani et al., Anaesth. Intens. Care 1996, 24:32)、創傷治療処置 (Bookwalter, Plastic Surg. Nursing 1994, 14:43;Humphries et al., J. Burn Care Rehabil. 1997, 18:34)、ヘルペス後神経痛に起因する神経障害痛の急性症状の管理 (Eide et al., Pain 1994, 58:347)、幻肢痛 (Knox et al., Anaesth. Intens. Care 1995, 23:620)、侵害受容性口腔顔面痛 (Mathisen et al., Pain 1995, 61:215)およびがん痛 (Mercadante et al., J. Pain Symptom Manage. 1995, 10:564;Clark and Kalan, J. Pain Symptom. Manage. 1995, 10:310;Fine, J. Pain Symptom Manage. 1999, 17:296;Lauretti et al., Anesthesiology 1999, 90:1528)のような種々の多様な適応症におけるケタミンの鎮痛有効性が実証されている。これらの試験は、経鼻、非経口および経口のような種々の経路によって投与したケタミンの使用を説明している。
【0031】
本発明において考慮し得るさらなる抗不安薬としては、ブスピロン、セルトラリン、パロキセチン、ネファゾドンおよびフルキセチン(fluxetine)のようなトリプタミン再取込み阻害剤;ベンゾジアセピン類(例えば、ジアゼパム、トフィソパム、アルプラゾラムおよびフルトパゼパム(flutopazepam))のようなGABA受容体作用薬;ピバガビンのようなコルチコトロピン放出因子拮抗薬;および、アミスルピリドのようなMAO阻害薬がある。しかしながら、本発明において意図し、使用する好ましい薬剤は、NMDA受容体拮抗薬、特に、ケタミンおよびその製薬上許容し得る塩を含む。
【0032】
本発明の利点は、投与に関して制約がないことである。上記組成物または投与量は、対象者によってまたは有資格介護人によって投与し得る。従って、上記組成物および投与量は、麻酔専門医または同様な特別訓練を受けた医療介護士の対応、介護または関与を通常は必要としない簡単な処置に先立って、そのような専門職の対応を手配し確保することなしで投与することができる。低投与量を診療所内で投与することができ、患者は、急速な回復を示すであろう。
【0033】
本発明方法は、対象者を術前治療するのに使用し得る。例えば、本発明の投与量は、特定処置に先立っての、口腔内への吸収のためのスプレーによるような全身への分布および効用のために投与し得る。さらに、本発明の組成物および投与量は、鼻スプレーにおいて、例えば、1回のスプレー投与即ち1回の吹出し当り10mgの量で、1分間隔内で2〜5回の吹出しで投与して、例えば歯科恐怖症を軽減し克服し得る。そのように、例えば、重症の歯科恐怖症患者は、説明したような鼻スプレーの自己投与後に、何らの認識機能障害なしで不安神経症の緩和を示すであろう。また、低投与量前投薬の本発明方法は、電気ショック療法を実施する前に使用して治療前不安の発生を最小限にまたは防止することができる。
【0034】
さらに、また、鼻投与に関しては、専有噴霧器を使用し得る。同様に、パッチを使用して前投薬として適用し得る。また、鼻内投与は、プレジェッテ(pledgette)を使用することによっても実施し得る;プレジェッテを、プレジェッテの容量に応じて10mg/cc〜100mg/ccで満たし、次いで、鼻孔内に置き得る。上記薬剤を鼻スプレーから注入する場合、該当する治療の実施前に、綿密な制御または計量放出用に設計されたアプリケータを使用し得る。
【0035】
さらに、経口腔投与も包含される。この場合、プレジェッテの容量に応じて、10mg/cc〜100mg/ccの投与量を齦頬移行部(buccal fold)内に置いたプレジェッテ中に注入する。プレジェッテを齦頬移行部内で1〜2分間保持し、所望の不安緩解が達成されたときに取出す。
【0036】
本発明の投与量および投与方法は、当該技術において知られている麻酔薬の小児投与量(10mg〜30mgの範囲が典型的である)の投与とは区別される。その差異は、小児投与量の量またはサイズが本発明の投与量の量またはサイズのおおよそ10倍であること、そして、小児投与による目的が鎮静させることであるのに対し、本発明の場合は、その目的は不安神経症を緩和して鎮静を回避することである。本発明は、その感触を正確に表現し得、相応に、その状態および感触を説明し得る成人を意図し、結果として、過剰投薬および可能性ある情動不安を回避することができる。
【0037】
本発明のさらなる局面は、本発明の方法と、本発明の目的の関連において、意識下鎮静の形態とみなされ得る不安神経症からの緩和レベルを助長させるまたは達成する活性成分の一般的な投与量範囲との使用である。特に、上記方法は、患者による本発明組成物の自己投与を意図して、不安状態からの緩和を認識的且つ情緒的安定性の保持によって達成する。
【0038】
本発明のさらなる局面においては、本発明によって調製し、投与することのできる組成物は、注入部位の組織の除去または処置のための補完的治療薬、薬剤等のような他の成分も含み得る。そのような薬剤の選択および混入は、当該技術の熟練の範囲内で変動し得、熟練医師によって決定し得る。
【0039】
実施例
本発明は、以下の具体的な実施例を考慮すれば、より一層良好に理解し得るであろう;各成分の百分率は、全て、質量%である。
【実施例1】
【0040】
鼻腔内投与用の、活性成分を100mg/ccの濃度で含む鼻用ディスペンサーからなる単位投与量ケタミンを調製した。投与は、投与したときのおおよその濃度においてのおおよそ20〜30mgの活性成分の2〜3回スプレー放出からなり、結果として、合計で約0.2〜0.3mg/kgの活性成分を分配した。上記単位投与量を、局所麻酔下に膝の注射療法を予定している50歳の健常男性に、局所麻酔注射の3〜5分前に投与した。上記単位投与量は、通常の鼻スプレーディスペンサーにより、交互の各鼻孔内での上記単位投与量の3回スプレー放出の量および処方で投与した。対象者は、不安神経症からの緩和および15〜30分間持続した一般的な鎮静効果を示していた。
【実施例2】
【0041】
単位投与量を、実施例1と同じ方法および量で調製し、重度の歯科恐怖症に悩んでいる48歳の女性に投与した。この女性は、局所麻酔下に抜歯を受ける予定であった。上記単位投与量を、実施例1と同じ方法および頻度で、対象者が歯科医院に移動する前に投与した。対象者は、十分に明快であって歯科医院へドライブし得、追加の投与量を歯科医の待機室内への到着時に投与した。患者は、不安神経症を発症することなく、歯科処置を受けた。実施例1の経験報告と同様な形で、女性は、不安神経症からの緩和および15〜30分間持続した一般的な鎮静効果を報告した。
【実施例3】
【0042】
この実施例においては、同じ単位投与量を調製し、対象者に、実施例1および2によるのと同じ処方に従って投与した。この場合、対象者は47歳の良好な健康の女性であり、彼女は、手からの局所麻酔下での異物の除去を必要としていた。対象者は、上記処置を受ける5分前に上記単位投与量を受けて、上記実施例1および2における対象者によるのと同じ経験および緩和を報告していた。
【実施例4】
【0043】
この実施例においては、同じ単位投与量を調製し、対象者に、実施例1〜3によるのと同じ療法に従って投与した。この場合、対象者は良好な健康の40歳の女性であり、彼女は、これも局所麻酔下での必要としていた首のホクロの切除を受けた。対象者は、上記処置を受けるおよそ5分前に上記単位投与量を受けて、上記実施例1〜3における対象者によるのと同じ経験および緩和を報告していた。
【実施例5】
【0044】
首に影響を及ぼしている乾癬性関節炎の肥満37歳男性[約1m90cm、約136kg (6ft3in、300lb)]は、足の裏に埋込まれた3CMの木材裂片を有していた。不安神経症と恐怖を抑制するために、彼をNIE 2012 (50%ケタミンスプレー、1/10mlスプレー)の3回吹出しによって処置し、2分おいて、足を検診することについての不安を処置した。3分後、足を検診し、裂片を確認し、掴み、問題なく取除いた。
【実施例6】
【0045】
NSTTEMI心臓歴の病歴と、上口唇領域上での歯科手術のために設けられた心臓ステントよって抑制されている咽喉痛とを示す62歳男性。NIE 2012の2回または3回吹出しを歯科医が投与して、パラチン局所麻酔神経ブロックの必要性の不安、恐怖および心配を処置した。同じ歯科恐怖症および不安神経症により、数回の訪問と局所麻酔を骨移植術および上顎洞拳上術(sinus lift)において必要とした。各々の場合において、NIE 2012処置後の注入において沈静および管理容易性が存在した。
【実施例7】
【0046】
55歳女性は、民間航空フライトを行うことについて不安で恐ろしかった。フライトの前夜、彼女は、NIE 2012の1回の吹出しを試験として服用した。翌日、出発ターミナル待合領域を出て搭乗に至る前に、彼女は、NIE 2012の1回の吹出しを服用した。その後、彼女は、通路を歩いて、機上のシートに問題なく着席した。彼女は、飛行機がほぼ離陸した時点の数分後、もう1回の吹出しを服用した。
【0047】
本発明の方法および組成物は、目の手術、例えば、レージック(lazik)手術、白内障の手術、網膜症状を治療するための硝子体茎切除術等のような手術処置の心配から生じるまたは発症する不安神経症を緩和するように実施し得る。各々の場合において、上記方法および組成物は、上記処置に先立って個々人へ事前投与することによって、本明細書において教示し、例証しているようにして実施し得る。
【0048】
本発明方法および相応する混合物は、Ethicon社によって開発され、市販され、“SEDASYS”として知られているコンピュータ管理および制御システムと同様にして実施し得る。以下は、Sedasys Systemに関する一般的情報であり、この情報は、本明細書に参考として取入れる。
【0049】
上記SEDASYSシステムは、薬物プロポフォールを軽度から中度の鎮静のために伝達させるコンピュータ支援個人向け鎮静装置である。この装置は、総合的な患者モニタリングを提供し、それに応じて、薬物伝達を調整することによって鎮静の深さを制約する。上記システムは、鎮静剤(薬)を、血流中に、静脈内(IV)注入によって投与する。上記装置は、過鎮静に関連する兆候を検知し得、注入を自動的に修正または停止する。
【0050】
上記4構成要素システムは、下記の要素を含む:
患者を、処置前から、処置中および処置後 回復まで滞在させるように設計したベッドサイドモニタリングユニット(Bedside Monitoring Unit;BMU)。
処置ルーム内に滞在させ、さらなる患者モニタリングを提供するように設計されている処置ルームユニット(Procedure Room Unit;PRU)。このユニットは、鎮静剤(薬)注入ポンプコントローラも収容している。
ディスプレーモニターおよびコネクター。
一人患者使用用の使い捨て装置。
【0051】
直ぐ上での引用に加えて種々の刊行物を本明細書において引用している;これらの刊行物の開示は、それらの開示全体を参考として本明細書に取入れる。本明細書でのいずれの文献の引用も、そのような文献が本発明に対する従来技術として利用可能であるとの容認とみなすべきではない。
【0052】
本発明を、本明細書において、特定の実施態様、各種特定の材料、手順および実施例を参照することによって説明し例示してきたけれども、本発明は、上記特定の材料、材料の組合せおよびその目的のために選定した手順に限定されるものではないことを理解されたい。事実、本明細書において説明したこと以外の本発明の種々の修正は、上記の説明から当業者にとって明白になるであろうし、そのような修正は、本発明の範囲内に属するものとする。