【文献】
財団法人ニューメディア協議会,音響すかし技術を活用した情報配信システムの開発・調査 報告書,[オンライン],2010年 3月19日,第13-20頁,インターネット:<URL:https://hojo.keirin-autorace.or.jp/seikabutu/seika/21nx_/bhu_/zp_/21-26koho-01.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記携帯端末装置が、通信ネットワークを介して前記変換テーブルを取得し、前記携帯端末装置内に予め保持することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の放送システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
音声透かし放送システムでは、例えば、混雑している公共空間のように雑音の多い環境下において、人は放送音を聞き取ることができるが、端末装置は識別情報を抽出することができないという状況が発生する。一般に、雑音環境下であっても、人は注目している音声成分だけを選択して聴取することができ、このような選択的聴取は、カクテルパーティー効果と呼ばれている。これに対し、端末装置の収音信号から識別情報を抽出する演算処理では、同様の選択処理を行うことができず、雑音環境下では識別情報を抽出することができなくなる。つまり、放送システムとして許容される雑音環境下であっても、音声透かしによる情報伝送には失敗する可能性があり、信頼性に欠けるという問題があった。
【0006】
例えば、外国人や聴覚障がい者の端末装置に対し、火災、津波などの災害情報を伝送する場合に音声透かしを利用することが考えられる。しかし、災害情報を伝送する状況下では、平常時よりも雑音レベルが増大している可能性が高く、音声透かしによる情報伝送に失敗する可能性が高くなるという問題があった。
【0007】
そこで、放送空間内にサイネージ装置を設置し、音声透かし放送を行うとともに、表示出力を行うことも考えられる。しかしながら、通信ネットワークを介して、放送装置とサイネージ装置を接続した場合、通信ネットワークに障害が発生すれば、表示を行うことができないという問題がある。例えば、火災発生時の停電により、通信ネットワークが停止すれば、サイネージ装置による表示出力を行うことができない。一般に、非常放送に用いられる放送システムは、スピーカ線に耐火性ケーブルが用いられるなど、高い信頼性が確保されている場合が多いのに対し、通信ネットワークは、このような信頼性を有していない場合が多い。その一方で、サイネージ装置と放送装置を信頼性の高い専用線で接続しようとすれば、著しく設置コストが増大するという問題があった。
【0008】
さらに、携帯端末装置において表示出力を行うための音声透かし放送システムに限らず、サイネージ装置等の情報提示装置を設置し、放送内容に関連する情報を提示することにより、施設利用者の利便性を向上させようとする場合にも同様の問題があった。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、放送システムの利便性又は信頼性を向上させることを目的とする。また、放送システムに適用される情報提示装置の利便性又は信頼性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の本発明による放送システムは、放送内容に関連する情報の識別情報が重畳された放送信号をスピーカ線に出力する放送装置と、前記スピーカ線に接続され、前記放送信号に基づいて放音する1又は2以上のスピーカユニットと、前記スピーカ線に接続され、前記放送信号から前記識別情報を抽出し、抽出した識別情報に基づいて、前記スピーカユニットから放音され
る放送内容に関連する情報の提示を行う情報提示装置とを備える。
【0011】
上記構成を採用することにより、放送信号に基づいて、スピーカユニットから放送音を出力するとともに、情報提示装置において放送内容に関連する情報を提示することができる。このため、スピーカユニット及び情報提示装置により、互いに関連する情報をそれぞれ報知することができる。
【0012】
また、情報提示装置は、放送信号から前記識別情報を抽出し、抽出した識別情報に基づいて情報を提示する。このため、放送空間内の騒音環境による影響を受けることなく、スピーカユニットから放音された放送内容に関連する情報を提示することができる。
【0013】
また、情報提示装置をスピーカ線に接続することにより、情報提示装置に対する情報伝送について高い信頼性を確保することができる。また情報提示装置のための専用配線を設ける場合に比べ、情報提示装置の設置コストを大幅に低減することができる。
【0014】
また、スピーカユニットと情報提示装置が、同じスピーカ線に接続され、同じ放送信号に基づいて動作することにより、配線ミス等により、情報提示装置が放送内容と関連していない情報を提示するのを防止することができる。
【0015】
第2の本発明による放送システムは、上記構成に加えて、更に、前記スピーカユニットからの出力音を収音した収音信号から前記識別情報を抽出し、抽出した前記識別情報に基づいて放送内容に関連する情報の提示を行う2以上の携帯端末装置を含み、前記携帯端末装置が、当該端末装置ごとに予め定められた属性情報を有し、前記識別情報を前記属性情報に応じた報知情報に対応づける変換テーブルを備え、当該変換テーブルを用いて、前記識別情報を前記報知情報に変換し、当該報知情報を提示し、前記情報提示装置が、前記識別情報を予め定められた2以上の報知情報に対応づける変換テーブルを備え、当該変換テーブルを用いて、前記識別情報を前記2以上の報知情報に変換し、当該報知情報を提示するように構成される。
【0016】
このような構成により、各携帯端末装置では、その端末属性に応じた報知情報を提示することにより、各携帯端末装置の利用者に応じた情報提示を行うことができる一方、情報提示装置では、2以上の端末属性に応じた報知情報を提示することにより、任意の対象者に対する情報提示を行うことができる。
【0017】
第3の本発明による放送システムは、上記構成に加えて、更に、前記スピーカユニットからの出力音を収音した収音信号から前記識別情報を抽出し、抽出した前記識別情報に基づいて放送内容に関連する情報の提示を行う2以上の携帯端末装置を含み、前記携帯端末装置が、前記識別情報を当該端末装置ごとに予め定められた1つの言語に応じた報知情報に対応づける変換テーブルを備え、当該変換テーブルを用いて、前記識別情報を前記報知情報に変換し、当該報知情報を提示し、前記情報提示装置が、前記識別情報を予め定められた2以上の言語に応じた報知情報に対応づける変換テーブルを備え、当該変換テーブルを用いて、前記識別情報を前記2以上の言語に応じた報知情報に変換し、当該報知情報を提示するように構成される。
【0018】
このような構成により、各携帯端末装置では、その利用者が希望する言語に応じた報知情報を提示することにより、利用者に応じた情報提示を行うことができる一方、情報提示装置では、2以上の言語に応じた報知情報を提示することにより、任意の対象者に対する情報提示を行うことができる。
【0019】
第4の本発明による放送システムは、上記構成に加えて、2以上の前記情報提示装置を備え、前記情報提示装置が、前記識別情報を設置場所に応じた報知情報に対応づける変換テーブルを保持し、前記変換テーブルを用いて、前記識別情報を報知情報に変換し、当該報知情報を提示するように構成される。
【0020】
上記構成を採用することにより、情報提示装置が、その設置場所に応じた報知情報を提示することができる。例えば、災害警報を提示する場合において、設置場所に応じた避難経路を提示することができる。
【0021】
第5の本発明による放送システムは、上記構成に加えて、前記携帯端末装置が、無線通信ネットワークを介して前記変換テーブルを取得し、前記携帯端末装置内に予め保持するように構成される。
【0022】
上記構成を採用することにより、変換テーブルを容易に取得することができ、また、変換テーブルを予め取得して保持することにより、放送音の収音時における無線通信環境の影響を受けることなく、識別情報を報知情報に変換することができる。
【0023】
第6の本発明による情報提示装置は、放送内容に関連する情報の識別情報が重畳された放送信号が流れる、複数のスピーカが接続されているスピーカ線に接続する接続手段と、前記接続により得られる放送信号から前記識別情報を抽出する抽出手段と、抽出した前記識別情報に基づいて、前記スピーカユニットから放音され
る放送内容に関連する情報の提示を行う提示手段とを備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、放送システムの利便性又は信頼性を向上させることができる。また、放送システムに適用される情報提示装置の利便性又は信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
実施の形態1.
(1)放送システム100の概略構成
図1は、本発明の実施の形態1による放送システムの一構成例を示した図である。この放送システム100は、信号処理装置1、放送装置2、スピーカ線3、スピーカユニット4、携帯端末装置5、情報提示装置6及びデータサーバ7により構成される。
【0027】
放送システム100は、多数の施設利用者を有する施設に設置される構内放送システムであり、駅、空港などの公共施設、コンサートホール、学校、ビルなどの大規模施設、その他の施設に設置されている。このような放送システム100を用いることにより、予め定められた施設内の放送空間に対し音響放送を行って、放送空間内の施設利用者に対し、知覚可能な放送音として各種情報を提供することができる。
【0028】
また、放送システム100では、音声透かしにより音響信号に識別情報を重畳した放送信号が生成され、携帯端末装置5において、識別情報に対応する報知情報が提示される。同様にして、放送空間内に設置された情報提示装置6においても、識別情報に対応する報知情報が提示される。さらに、携帯端末装置5では、予め定められた1つの言語で放送内容と関連する情報が提示されるのに対し、情報提示装置6では、2以上の言語で放送内容と関連する情報が提示される。
【0029】
ここで、情報の提示とは、表示装置に視覚情報を表示すること、スピーカで聴覚情報を出力すること、触覚デバイスにより、振動、温度、湿度の変化を出力すること、嗅覚デバイスにより、匂い物質を放出すること等が含まれる。また、放送内容とは、音響信号の内容を指すものである。
【0030】
音響信号の内容とは、例えば、アナウンス、特定の意味を持つサイン音、特定の状態を表す音楽等が該当する。
【0031】
放送内容に関連する情報として、例えば、放送内容が、火事であることを伝える放送の場合、1)火災マークの表示、2)英語、中国語等の外国語で火事であることを伝える文字情報の表示、3)外国語の音声で火事であることを伝える音声、4)火事の時に熱くなる触覚デバイスを熱くする、5)火事の時に嗅覚デバイスから焦げたような臭いを放出する、等が該当する。
【0032】
A)信号処理装置1
信号処理装置1は、音声透かしにより音響信号に識別情報を重畳し、放送信号を生成する装置である。音響信号及び識別信号は、図示しない外部装置で生成され、信号処理装置1へ入力される。また、生成された放送信号は、放送装置2へ出力される。
【0033】
音響信号は、CDなどの音楽記録媒体から再生されたBGMや、マイク入力された音声メッセージなどを含む音響情報を示す信号であり、例えば、音響情報を時間軸上における音圧変化として示す可聴周波数帯域の信号が用いられる。
【0034】
識別情報は、報知情報に対応づけられた情報である。また、報知情報は、放送内容に関連するように予め定められた情報であり、当該報知情報が放送内容と関連するように、識別情報は音響信号に重畳される。報知情報は、文字又は画像からなる情報であり、火災、地震、台風、津波等の災害警報、列車や航空機の運行情報などの施設運営者が施設利用者に報知する各種情報である。携帯端末装置5及び情報提示装置6において表示出力される報知情報は、各装置が保持する変換テーブルを構成する2以上の報知情報の中から、識別情報に基づいて選択される。
【0035】
音声透かしは、人の聴覚特性を利用して、音響信号に対し、人が知覚できないように情報を埋め込む周知の技術であり、エコーハイディング法、エコー拡散法、スペクトル拡散法、周期的位相変調法などが知られている。このような音声透かしによって生成された放送信号は、可聴周波数帯域の信号であり、スピーカユニット4が放音した場合に、聴者は、音響情報を知覚することができるが、識別情報を知覚することができない信号である。なお、放送信号は、識別情報が重畳されていること自体が知覚されにくい信号であることが望ましい。
【0036】
B)放送装置2
放送装置2は、信号処理装置1から入力される放送信号を増幅し、スピーカ線3へ出力する装置である。なお、信号処理装置1及び放送装置2を一体化し、放送装置2が信号処理装置1の機能を内蔵するように構成することもできる。
【0037】
C)スピーカ線3
スピーカ線3は、放送装置2からスピーカユニット4へ放送信号を伝送するための伝送線であり、対象施設内に敷設されている。スピーカ線3には、1つの放送装置2が接続されるとともに、1又は2以上のスピーカユニット4が接続される。さらに、スピーカ線3には、1又は2以上の情報提示装置6が接続される。
【0038】
スピーカ線3には、耐火性ケーブルを用いることが望ましい。耐火性ケーブルは、信号線が耐火層で覆われているため、火災発生時であっても絶縁性を確保することができる。放送システムは、災害発生時の非常放送にも用いられるため、火災発生時であっても機能する耐火性ケーブルが用いられている場合が多く、高い信頼性が確保されている。スピーカユニット4だけでなく情報提示装置6もスピーカ線3に接続することにより、情報提示装置6の表示出力についても、スピーカユニット4の放送音出力と同様の高い信頼性を確保することができる。
【0039】
D)スピーカユニット4
スピーカユニット4は、スピーカ線3を介して、放送装置2から放送信号が入力され、放送音として放送空間に出力する。つまり、電気信号として入力された放送信号を音波に変換し、放送音として放送空間に放音する。スピーカユニット4は、例えば、放送空間の天井や壁に取り付けられる。また、放送空間内の任意の場所で放送音を聞き取ることができるように、放送空間の広さ、形状、騒音環境等に応じて、1又は2以上のスピーカユニット4が設置される。
【0040】
E)携帯端末装置5
携帯端末装置5は、施設利用者が所有する携帯可能な小型端末であり、例えば、携帯電話機、スマートフォンなどが用いられる。携帯端末装置5は、マイクロフォンを有し、スピーカユニット4からの放送音を収音し、収音信号から識別情報を抽出することができる。抽出した識別情報は、変換テーブルを用いて報知情報に変換され、携帯端末装置5の表示部に表示される。
【0041】
変換テーブルは、通信ネットワークNを介して、データサーバ7から取得し、携帯端末装置5内に予め保持されている。携帯端末装置5は、無線通信機能を有し、アクセスポイントAPとの無線回線を介して、通信ネットワークNに接続することができる。このため、通信ネットワークNを介して、データサーバ7から変換テーブルを取得することができる。
【0042】
F)情報提示装置6
情報提示装置6は、放送空間内から視認可能に設置される表示装置であり、例えば、放送空間の天井や壁に取り付けられ、あるいは、床上に立設され、多数の施設利用者に対する表示出力を行う。また、放送空間内のより多くの場所から利用できるように、放送空間の広さ、形状等に応じて、1又は2以上の情報提示装置6が設置される。情報提示装置6として、例えば、デジタルサイネージ装置を用いることができる。デジタルサイネージ装置は、携帯端末装置5よりも大型の表示装置、例えばLEDパネル、有機ELパネルを備え、離れた場所からも視認可能な電子掲示板である。なお、非常時に商用電源からの電力供給が停止した場合、非常用電源から電力供給を受けることで、所定時間、例えば30分間は稼働することができる。
【0043】
情報提示装置6は、スピーカ線3に接続され、スピーカユニット4を介在することなく、スピーカ線3上の放送信号を受信し、この受信信号から識別情報を抽出することができる。抽出した識別情報は、変換テーブルを用いて報知情報に変換され、情報提示装置6の表示部に表示される。変換テーブルは、通信ネットワークNを介して、データサーバ7から取得し、情報提示装置6内に予め保持されている。
【0044】
G)データサーバ7
データサーバ7は、LAN、インターネットなどの通信ネットワークNに接続されたデータサーバであり、携帯端末装置5及び情報提示装置6からのデータ取得要求に基づいて、変換テーブルを提供する。
【0045】
(2)放送システム100の設置例
図2は、放送システム100の設置例を模式的に示した図である。放送空間Rは、天井にスピーカユニット4a,4b、壁面にスピーカユニット4cがそれぞれ設置され、3つのスピーカユニット4a〜4cにより、放送空間R内の任意の位置において放送音を聴取することができるように構成されている。また、放送空間Rの左側の壁面に情報提示装置6aが設置され、右側の床上に情報提示装置6bが立設されている。放送空間R内には、多数の施設利用者が存在し、一部の施設利用者を除き、携帯端末装置5をそれぞれ携行している。
【0046】
(3)スピーカ線3との接続方法
図3は、スピーカ線3に対するスピーカユニット4及び情報提示装置6の接続方法の一例を示した図であり、スピーカ線3として、ハイインピーダンス伝送路を採用する場合の例が示されている。
【0047】
ハイインピーダンス伝送路は、放送装置2、スピーカユニット4及び情報提示装置6をハイインピーダンス接続する伝送路であり、信号を高電圧化して伝送するため、ローインピーダンス接続する伝送路に比べて、放送信号を伝送する際の電力損失が少なく、配線長を長くすることができる。また、より多くのスピーカユニット4及び情報提示装置6を接続することができる。このため、スピーカ線3には、ハイインピーダンス伝送路を用いることが望ましい。
【0048】
スピーカ線3は、正相(HOT)及び逆相(COLD)の信号線3a,3bにより構成される。放送信号は、例えば100Vの放送信号として放送装置2によって供給され、インピーダンスマッチングのためのトランスを介して低電圧化した後に利用される。
【0049】
スピーカユニット4は、トランス40、増幅回路41及びスピーカ42によって構成される。トランス40は、スピーカ線3に接続され、放送信号を低電圧化する。低電圧化された放送信号は、増幅回路41で増幅された後、スピーカ42で音波に変換され、放送音として放送空間Rへ出力される。
【0050】
情報提示装置6は、接続アダプタ60を介して、スピーカ線3に接続される。接続アダプタ60は、トランス601及び可変抵抗器602により構成され、トランス601で低電圧化され、可変抵抗器602で音量調節された放送信号は、情報提示装置のマイク入力端子に入力される。
【0051】
(4)変換テーブルTb
図4は、変換テーブルTbの一例を示した図である。変換テーブルTbは、携帯端末装置5及び情報提示装置6が、識別情報を報知情報に変換するために使用するデータテーブルである。
【0052】
例えば、識別情報「0001」は、報知情報「津波が来ます。西山の避難所に逃げてください。」に対応づけられ、識別情報「0002」は、「ミサイルが発射されました。付近の上空を通過する予定です。焦らずに待機してください。」に対応づけられている。このため、携帯端末装置5及び情報提示装置6は、識別情報「0001」を取得した場合、表示画面に報知情報「津波が来ます。西山の避難所に逃げてください。」を表示する。
【0053】
図示した変換テーブルTbは、識別情報が4桁の数字で構成され、報知情報が日本語のメッセージで構成されている。同様にして、他の言語の変換テーブルTb、つまり、報知情報が同じ内容の他の言語のメッセージで構成される変換テーブルTbを用いることもできる。この放送システム100では、言語が異なる2以上の変換テーブルTb、例えば、日本語、英語、中国語、韓国語、フランス語、イタリア語、スペイン語の各変換テーブルTbを用いることができる。
【0054】
特定の利用者を対象とする携帯端末装置5では、当該利用者が使用する言語に応じた変換テーブルが用いられる。つまり、言語が異なる多数の変換テーブルTbの中から、いずれか一つが選択的に用いられ、利用者に応じた言語で報知情報が表示される。これに対し、多数の施設利用者を対象とする情報提示装置6では、言語が異なる多数の変換テーブルTbの中から、予め定められた2以上の言語の変換テーブルTbが選択的に用いられる。例えば、利用者が比較的多いと考えられる日本語、英語及び中国語の変換テーブルTbが用いられ、これらの3言語の各報知情報が同時又は順次に表示される。
【0055】
変換テーブルTbは、通信ネットワークNを介して、データサーバ7から予めダウンロードされる。携帯端末装置5は、無線回線を介して、変換テーブルTbを取得し、携帯端末装置5内に保持している。同様にして、情報提示装置6も、無線通信又は有線回線を介して、変換テーブルTbを取得し、情報提示装置6内に保持している。
【0056】
携帯端末装置5は、指定された言語の変換テーブルTbのみをダウンロードし、あるいは、全ての変換テーブルTbをダウンロードした後、指定された言語の変換テーブルTbのみを選択的に使用するように構成される。言語の指定は、ユーザ操作によって行われ、あるいは、携帯端末装置5の端末属性に基づいて行われる。一般に、携帯端末装置5は、初期設定時に使用言語が指定され、端末属性として保持している。このような端末属性に基づいて、使用する変換テーブルTbを自動的に決定することができる。
【0057】
なお、情報提示装置6及び携帯端末装置5は、異なる変換テーブルTbを用いるように構成することもできる。例えば、情報提示装置6は、携帯端末装置5よりも簡略化したメッセージを表示するように構成することもできる。
【0058】
(5)携帯端末装置5の構成及び動作
図5は、
図1の携帯端末装置5の一構成例を示したブロック図である。携帯端末装置5は、端末属性記憶部50、マイク51、識別情報抽出部52、識別情報記憶部53、テーブル取得部54、テーブル記憶部55、変換部56及び表示部57を備える。
【0059】
端末属性記憶部50は、携帯端末装置5の属性情報を保持する記憶手段であり、属性情報の一つとして、当該携帯端末装置5において使用する言語を保持している。使用言語は、例えば、初期設定時に利用者によって指定され、端末属性記憶部50内に保持されている。
【0060】
マイク51は、音圧を電気信号に変換する収音手段であり、放送音、つまり、スピーカユニット4からの出力音を収音し、収音信号を生成する。生成した収音信号は、識別情報抽出部52へ出力される。
【0061】
識別情報抽出部52は、収音信号から識別情報を抽出する信号処理手段である。識別情報の抽出に成功すれば、抽出された識別情報が出力される。例えば、音声透かしとして、拡散エコー法を用いる場合であれば、ケプストラム変換及びカーネル相関の各処理により、識別情報が抽出される。具体的には、収音信号を短いタイムスロットに分割し、FFT(高速フーリエ変換)処理、対数変換及びIFFT(逆高速フーリエ変換)を行って、当該タイムスロットのケプストラムが求められる。さらに、当該ケプストラムについて、予め与えられている2つのカーネル情報との相関を求めることにより、当該タイムスロットに重畳されたビット情報を判別する。このような判別処理をビット数分だけ繰り返すことにより、所望のビット数からなる識別情報が抽出される。
【0062】
識別情報記憶部53は、識別情報を記憶する記憶手段である。識別情報抽出部52において、新たな識別情報が抽出された場合、識別情報記憶部53は、古い識別情報を上書きして更新し、最後に取得した識別情報を保持する。
【0063】
テーブル取得部54は、データサーバ7から変換テーブルTbを取得する手段である。例えば、無線回線を介して通信ネットワークNに接続され、データサーバ7へ要求パケットを送信することにより、変換テーブルTbを取得する。要求パケットには、言語の指定が含まれ、データサーバ7から当該言語の変換テーブルを取得する。言語の指定は、端末属性記憶部50が保持する言語情報に基づいて行われる。
【0064】
テーブル記憶部55は、テーブル取得部54が取得した変換テーブルTbを保持する記憶手段である。
【0065】
変換部56は、変換テーブルTbを用いて、識別情報を報知情報に変換する処理部である。識別情報は、識別情報記憶部53から読み出され、変換テーブルTbは、テーブル記憶部55から読み出される。
【0066】
表示部57は、変換部56により生成された報知情報を表示する表示手段であり、液晶パネルや有機ELパネルが用いられる。
【0067】
図6のステップS101〜S104は、携帯端末装置5の動作の一例を示したフローチャートである。
【0068】
マイク51は、スピーカユニット4から出力される放送音を収音し、収音信号を生成する(ステップS101)。識別情報抽出部52は、この収音信号から識別情報を抽出する(ステップS102)。識別情報の抽出に成功すれば、変換部56が、変換テーブルTbを用いて、識別情報を報知情報に変換する(ステップS103)。このようにして得られた報知情報が表示部57によって表示出力される(ステップS104)。
【0069】
(6)情報提示装置6の構成及び動作
図7は、
図1の情報提示装置6の一構成例を示したブロック図である。情報提示装置6は、信号受信部61、識別情報抽出部62、識別情報記憶部63、テーブル取得部64、テーブル記憶部65、変換部66及び表示部67を備える。
【0070】
信号受信部61は、接続アダプタ60を介して、スピーカ線3に接続され、スピーカ線3上の放送信号を受信する。
【0071】
識別情報抽出部62は、信号受信部61の受信信号から識別情報を抽出する信号処理手段である。識別情報の抽出に成功すれば、識別情報が出力される。識別情報抽出部62における処理は、携帯端末装置5の識別情報抽出部52における処理と同一である。
【0072】
識別情報記憶部63は、識別情報を記憶する記憶手段である。識別情報抽出部62において、新たな識別情報が抽出された場合、識別情報記憶部63は、古い識別情報を上書きして更新し、最後に取得した識別情報を保持している。
【0073】
テーブル取得部64は、データサーバ7から変換テーブルTbを取得する手段である。例えば、無線回線又は有線回線を介して通信ネットワークNに接続され、データサーバ7へ要求パケットを送信することにより、変換テーブルTbを取得する。要求パケットには、言語の指定が含まれ、データサーバ7から当該言語の変換テーブルを取得する。テーブル取得部64は、予め定められた2以上の言語を指定し、各言語に対応する2以上の変換テーブルTbを取得する。
【0074】
テーブル記憶部65は、テーブル取得部64が取得した変換テーブルTbを保持する記憶手段である。テーブル記憶部65には、言語の異なる2以上の変換テーブルTbが保持されている。これらの変換テーブルTbは、識別情報が共通であり、報知情報の言語が異なっているため、識別情報を2以上の言語の報知情報に対応づけた変換テーブルと等価である。
【0075】
変換部66は、変換テーブルTbを用いて、識別情報を報知情報に変換する処理部であり、2以上の変換テーブルTbを用いて、1つの識別情報から言語が異なる2以上の報知情報を生成する。識別情報は、識別情報記憶部63から読み出され、2以上の変換テーブルTbは、テーブル記憶部65から読み出される。
【0076】
表示部67は、変換部66により生成された報知情報を表示する表示手段であり、液晶パネルや有機ELパネルが用いられる。なお、言語が異なる2以上の報知情報は、同時に表示され、あるいは、順次に表示される。
【0077】
図8のステップS201〜S204は、情報提示装置6の動作の一例を示したフローチャートである。
【0078】
信号受信部61は、スピーカ線3上の放送信号を受信し、受信信号を生成する(ステップS201)。識別情報抽出部62は、この収音信号から識別情報を抽出する(ステップS202)。識別情報の抽出に成功すれば、変換部66が、2以上の変換テーブルTbを用いて、識別情報を2以上の報知情報に変換する(ステップS203)。このようにして得られた2以上の報知情報が表示部67によって表示出力される(ステップS204)。
【0079】
(7)効果
本実施の形態による放送システム100では、信号処理装置1が、音声透かしにより音響信号に識別情報を重畳した放送信号を生成し、放送装置2が、当該放送信号をスピーカ線3に出力し、各携帯端末装置5及び情報提示装置6が、当該放送信号に基づいて表示出力を行う。つまり、同じ放送信号に基づいて、各携帯端末装置5では、特定の端末利用者に対し、視認性、利便性の高い情報提示を行う一方、情報提示装置6では、放送空間内の任意の施設利用者に対し、広く情報提示を行うことができる。
【0080】
このため、放送システム100の利便性を向上させることができる。例えば、携帯端末装置5を携行しない施設利用者や、携帯端末装置5が正常に動作しない端末利用者に対しても情報提示を行うことができる。また、携帯端末装置5では、利用者の使用言語で情報を提示する一方、情報提示装置6では、2以上の言語で情報を提示することにより、さらに利便性を向上させることができる。
【0081】
また、本実施の形態による放送システム100では、携帯端末装置5が、スピーカユニット4が出力する放送音を収音した収音信号から識別情報を抽出するのに対し、情報提示装置6は、スピーカユニット4を介在させることなく、スピーカ線3上の放送信号から識別情報を抽出する。このため、情報提示装置6は、放送空間R内の騒音環境による影響を受けることなく、識別情報を確実に取得することができる。従って、騒音環境下では、情報提示装置6により携帯端末装置5を補完することができ、放送システム100の信頼性を向上させることができる。
【0082】
また、本実施の形態による放送システム100では、情報提示装置6がスピーカ線3に接続され、スピーカ線3を介して放送装置2から識別情報を取得する。非常放送にも用いられる放送システムは一般に高い信頼性を有するため、スピーカ線3を介して識別情報を取得することにより、情報提示装置6の信頼性を向上させることができる。例えば、LANやインターネットなどの一般的な通信ネットワークを介して識別情報を取得する場合に比べ、停電などの非常時における情報提示装置6の信頼性を放送システムの信頼性と同程度まで向上させることができる。特に、スピーカ線3に耐火性ケーブルが用いられている場合、火災発生時にも情報提示装置6の機能も維持することができる。しかも、情報提示装置6のために専用線を敷設する場合に比べ、情報提示装置6の設置コストを大幅に低減することができる。
【0083】
また、本実施の形態による放送システム100では、同じ放送空間Rをカバーするスピーカユニット4及び情報提示装置6が、同じスピーカ線3に接続され、携帯端末装置5及び情報提示装置6が、同じ放送信号に基づいて表示出力を行う。このため、配線ミス等により、各携帯端末装置5と情報提示装置6が、互いに整合しない表示出力を行うのを防止することができる。
【0084】
また、本実施の形態による放送システム100では、携帯端末装置5は、1つの言語が属性情報として予め指定され、当該言語に応じた変換テーブルTbを用いて、識別情報を当該言語の報知情報に変換し、表示出力する。このため、各携帯端末装置5では、その利用者が希望する言語で情報提示を行うことができる。一方、情報提示装置6は、予め定められた2以上の言語に応じた変換テーブルTbを用いて、識別情報を2以上の言語の各報知情報に変換し、それぞれを表示出力する。このため、情報提示装置6では、2以上の言語に応じた報知情報を表示し、任意の対象者に対する情報提示を行うことができる。
【0085】
また、本実施の形態による放送システム100では、各携帯端末装置5及び情報提示装置6が、それぞれ通信ネットワークNを介して変換テーブルTbを取得し、各装置内に予め保持している。このため、通信ネットワークを介して変換テーブルTbを取得することにより、容易に取得することができる。また、変換テーブルTbを予め取得して保持することにより、通信環境の影響を受けることなく表示出力を行うことができるとともに、識別情報の情報量を低減することができる。
【0086】
実施の形態2.
上記実施の形態では、携帯端末装置5及び情報提示装置6が同じ変換テーブルTbを使用する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、情報提示装置6が携帯端末装置5とは異なる変換テーブルTbを用いる例について説明する。また、2以上の情報表示端末6が互いに異なる変換テーブルTbを使用する例について説明する。
【0087】
図9は、本発明の実施の形態2による変換テーブルTb1〜Tb3の一例を示した図である。
図9(a)には、各携帯端末装置5が使用する変換テーブルTb1が示され、
図9(b)には、情報提示装置6aが使用する変換テーブルTb2が示され、
図9(c)には、情報提示装置6bが使用する変換テーブルTb3が示されている。
【0088】
図中の(a)〜(c)は、識別情報0001に対応づけられた報知情報に含まれる避難経路の情報が異なっている。変換テーブルTb1には、「最寄りの出口を通って」という避難経路に関する一般的、抽象的な情報が含まれるのに対し、変換テーブルTb2には、「第1出口を通って」という避難経路に関する個別的、具体的な情報が含まれ、変換テーブルTb3には、「第2出口を通って」という避難経路に関する個別的、具体的な情報が含まれている。
【0089】
変換テーブルTb2,Tb3は、情報提示装置6a,6b用の変換テーブルであり、それぞれの設置場所に応じた個別具体的な避難経路の情報が含まれている。これに対し、各携帯端末装置5用の変換テーブルTb1は、その位置が特定されないため、個別具体的な避難経路の情報が含まれていない。
【0090】
本実施の形態による放送システムでは、情報提示装置6が携帯端末装置5とは異なる変換テーブルTb2,Tb3を用いることにより、利便性を向上させることができる。また、2以上の情報提示装置を設置する場合、互いに異なる変換テーブルTb2,Tb3を用いることにより、それらの設置場所に応じた情報提示を行うことができ、さらに利便性を向上させることができる。特に、報知情報が災害警報である場合に好適である。