特許第6771556号(P6771556)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6771556低い残留MMA含量を有する耐衝撃性の透明な補綴材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771556
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】低い残留MMA含量を有する耐衝撃性の透明な補綴材料
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20201012BHJP
   A61K 6/831 20200101ALI20201012BHJP
   A61K 6/17 20200101ALI20201012BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20201012BHJP
   A61K 6/61 20200101ALI20201012BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20201012BHJP
   A61C 5/70 20170101ALI20201012BHJP
   A61C 8/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61C 13/087 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/26 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/48 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 24/04 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 24/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61L 24/06 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   A61K6/887
   A61K6/831
   A61K6/17
   A61K6/60
   A61K6/61
   A61K6/71
   A61C5/70
   A61C8/00
   A61C13/087
   A61L27/26
   A61L27/48
   A61L27/16
   A61L24/04 100
   A61L24/00 311
   A61L24/06
【請求項の数】18
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2018-524469(P2018-524469)
(86)(22)【出願日】2016年11月11日
(65)【公表番号】特表2018-535219(P2018-535219A)
(43)【公表日】2018年11月29日
(86)【国際出願番号】EP2016077420
(87)【国際公開番号】WO2017081244
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2018年8月20日
(31)【優先権主張番号】102015119539.9
(32)【優先日】2015年11月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】517275117
【氏名又は名称】クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アルフレート ホーマン
(72)【発明者】
【氏名】ズザンネ ブッシュ
【審査官】 佐々木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−285824(JP,A)
【文献】 特開平06−056619(JP,A)
【文献】 特開2015−227314(JP,A)
【文献】 特開2006−312634(JP,A)
【文献】 特開2008−081469(JP,A)
【文献】 特開2008−019246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/90
A61L 15/00−33/18
A61C 5/70− 5/88
A61C 8/00−13/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)少なくとも1種の液状モノマー成分と、
B)少なくとも1種の粉末状成分と
を含む、自家重合性の2成分系床用補綴材料であって、
前記成分(A)が、
(i)少なくともメチル(メタ)アクリレート、
(ii)250g/モル以下のモル質量を有する、少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)800nm未満の一次粒子サイズを有するポリマー粒子、
(vi)自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、
かつ前記成分(B)が、
(i)ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分、ここで、3つの前記フラクションが、
a)25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子および
c)55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、ここで、a):b):c)の質量比が、12〜18:1:1〜5であり、ならびに
(ii)自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含む
ことを特徴とする、自家重合性の2成分系床用補綴材料。
【請求項2】
それぞれ独立して、前記成分(A)が、(v)弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在するポリマー粒子を含み、および/または独立して、前記成分(B)が、(i)弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在するポリマー粒子の少なくとも1つのフラクションを含むことを特徴とする、請求項1に記載の床用補綴材料。
【請求項3】
(i)粒子サイズの異なる少なくとも3つの前記フラクションの各フラクションの平均粒子サイズが、他の2つのフラクションの平均粒子サイズとは少なくとも5μm離れていることを特徴とする、請求項1に記載の床用補綴材料。
【請求項4】
前記成分(B)が、粉末状成分として
)35μm±2.5μmの平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)45μm±2.5μmの平均粒子サイズのポリマー粒子および
c)60μm±2.5μmの平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択される、
3つのフラクションを有するポリマー粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項5】
(ii)前記N−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメートが、N−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−アルキレン−カルバメートであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項6】
(ii)前記N−アルキル置換アクリロイルオキシ−カルバメートが、n−ブチルアクリロイルオキシ−エチル−カルバメート(BAEC)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項7】
(v)前記コア−シェル粒子の一次粒子サイズが、500nmから10nmまでであることを特徴とする、請求項2〜6のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項8】
自家重合のための少なくとも1種の前記開始剤または前記開始剤系の少なくとも1種の前記成分が、酸化剤と、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、バルビツル酸またはバルビツル酸誘導体、スルフィン酸、スルフィン酸誘導体から選択される還元剤とを含むレドックス系、または(i)バルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体および(ii)少なくとも1種の銅塩または銅錯体および(iii)イオン性ハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物を含むレドックス系から選択される少なくとも1種の開始剤系を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項9】
自家重合のための少なくとも1種の前記開始剤または前記開始剤系の少なくとも1種の前記成分が、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトネートおよびトリアジン誘導体、トルイジン誘導体および/またはベンジルジブチルアンモニウムクロリドを含むレドックス系から選択される少なくとも1種の開始剤系を含むことを特徴とする、請求項8に記載の床用補綴材料。
【請求項10】
前記成分(A)および(B)を含む前記床用補綴材料が、
(i)20〜50質量%の、メチルメタクリレートならびに
任意に、メチルメタクリレートではない、少なくとも1種の(2−アルキル)アクリル酸エステル、
(ii)1〜30質量%の、250g/モル以下のモル質量を有する、少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)0.5〜10質量%の、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)0.05〜10質量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)0.1〜10質量%の、800nm未満の一次粒子サイズを有する、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在する、ポリマー粒子、
(vi)0.05〜2質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分、ならびに
(vii)48.3〜78.3質量%の、ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、(A)および(B)の全組成を基準としており、ここで、3つの前記フラクションが、
a)50〜90質量%で存在する、25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)0.1〜20質量%で存在する、40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子および
c)0.5〜30質量%で存在する、55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、ここで、a)、b)およびc)の質量%の記載は、前記粉末状成分(B)を基準としている
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の床用補綴材料。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の床用補綴材料の成分の
A)少なくとも1種の液状モノマー成分、および
B)少なくとも1種の粉末状成分
を混合し、引き続き重合させることによって、床用補綴材料重合物を製造する方法。
【請求項12】
A)モノマー成分およびB)粉末状成分を、前記粉末状成分:前記モノマー成分1:10〜10:1の質量比で混合することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の方法により得られた、床用補綴材料重合物。
【請求項14】
前記床用補綴材料重合物が、ISO 20795-1:2013により測定して3質量%以下のメチルメタクリレートの残留モノマー含量を有することを特徴とする、請求項13に記載の床用補綴材料重合物。
【請求項15】
前記床用補綴材料重合物が、ISO 20795-1:2013により測定して2.5質量%以下のメチルメタクリレートの残留モノマー含量を有することを特徴とする、請求項14に記載の床用補綴材料重合物。
【請求項16】
前記床用補綴材料重合物が、95%以上の透明度(金属製の型中で製造された厚さ3mmの測色用試験体で測定)を有することを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の床用補綴材料重合物。
【請求項17】
ヒトの歯科分野における、義歯、補綴物の部材、クラウン、テレスコープ、ベニア、橋義歯、補綴歯、インプラント、インプラント部材、アバットメント、上部構造物、矯正装置および器具を製造するための、またはオクルーザルスプリント、インプラント学用のサージカルテンプレート、マウスガード、骨セメントを製作するため、または獣医学分野における蹄修復材料を製造するためまたは医療用補装具を製造するための、請求項1〜10のいずれか1項に記載の床用補綴材料または請求項13〜16のいずれか1項に記載の床用補綴材料重合物の使用。
【請求項18】
自家重合性の床用補綴材料を含むキットであって、ここで、前記キットが別個の成分(A)および(B)を含み、前記成分(A)が、
(i)60〜85質量%の、メチルメタクリレート、
(ii)5〜20質量%の、250g/モル以下のモル質量を有する、少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)0.5〜10質量%の、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)0.05〜10質量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)0.1〜10質量%の、800nm未満の一次粒子サイズを有する、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在する、ポリマー粒子、
(vi)0.05〜2質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、前記成分(A)の全組成を基準としており、ならびに
成分(B)として、
(i)90〜99.95質量%の、ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分、ここで、3つの前記フラクションが、
a)50〜90質量%で存在する、25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)0.1〜20質量%で存在する、40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子および
c)0.5〜30質量%で存在する、55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、および
(ii)0.05〜10質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、前記成分(B)の全組成を基準としている
ことを特徴とする、前記キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、少なくとも1種の液状モノマー成分(A)と、少なくとも1種の粉末状成分(B)とを含む、自家重合性2成分系床用補綴材料、該材料を含有するキットならびにその製造方法であり、ここで、該補綴材料は、成分(A)中に、メチルメタクリレートに加えて、250g/モル以下のモル質量を有する少なくとも1種のN−アルキル置換アクリロイルオキシ−カルバメートと、任意に、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレートと、ウレタン(メタ)アクリレートではない二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマーと、任意に、800nm未満の一次粒子サイズを有するポリマー粒子とを含有し、かつ粉末状成分(B)は、異なる少なくとも3つの粒子サイズフラクションを有するポリマー粒子を含み、かつ(A)および(B)の双方とも、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分を含有する。
【0002】
自家重合性床用補綴材料は、低温硬化性床用補綴材料とも呼ばれ、加熱硬化系に比べて、より単純でより迅速な加工の利点を有する。しかし、該自家重合性床用補綴材料は、その製造後数日以内で、より高い残留メチルメタクリレート(MMA)含量を有する。低温硬化性床用補綴材料の規格は、製造48時間後に4.5質量%までの残留MMA含量を許容する。この制限にもかかわらず、再三再四患者に彼らの補綴物でアレルギー反応が起こる。
【0003】
さらにまた、DIN EN ISO 20795-1による高められた衝撃強さの要求事項を満たし、さらにまた同時に高い透明度を有し、ひいてはオクルーザルスプリントにも使用できる、耐衝撃性を有する低温硬化性床用補綴材料は、今日まで市場にない。
【0004】
PalaXpressUltraは、高められた破壊靭性を有するが、しかしながら該規格値を下回る。この材料は、2.9質量%の残留MMA含量を有し、かつ85%未満の平均透明度を有するに過ぎない。Ivoclarからは、例えば、耐衝撃性を有し、かつ2.2質量%の残留MMA含量を有するとされる、SR Ivocapシステムが供給される。しかし、これは、加熱重合ポリマーである。対応する規格には、加熱重合ポリマーの残留MMA含量が最大含量3質量%であると定められている。この系にとって不利であるのは、該Ivobaseシステムの高い購入価格を負担する必要性であり、該システムなしでは該Ivocapを有用に加工できない。さらに、極めて高い透明度を有する低温硬化性補綴材料、例えばPalaXpressがある。これは、3.3質量%の残留MMA含量を有するが、しかしながら、これは高められた破壊抵抗を有していない。
【0005】
材料が損傷することなく短時間の負荷、例えば前記の短時間の高い機械的な負荷を許容し、かつ同時に、自家重合性プラスチックの利点を有する、補綴材料への需要が存在する。これらの補綴材料は、低温硬化性の耐衝撃性材料と呼ばれる。これらの材料への要求事項は、DIN ISO 20795-1に記載されている。耐衝撃性材料は、すでに数年来上市されているが、しかしこれらは専ら加熱硬化性補綴材料の群に分類されうる。
【0006】
本発明の課題は、材料、殊に医療分野に適した材料、好ましくは、破壊靭性に関するDIN ISO 20795-1規格の基準値を満たし、好ましくは該基準値を上回る、低温重合用の床用補綴材料を提供することであった。そのうえ、該材料は、明らかに改善された透明度を有するものとする。さらなる課題は、低温重合ポリマー用の重合された材料中で極めて低い残留MMA含量を得ることにあった。さらに、該材料が、費用のかかる補助器具なしで製造できるという課題があり、殊に、加工も特殊な補助器具なしで可能であるものとする。該材料は、典型的な歯科技工的な技術および装置を用いて加工できるものとする。さらなる課題は、高い破壊靭性を有する材料、殊に、極めて高い透明度を有する補綴材料を提供することにあった。
【0007】
意外にも、成分(A)および成分(B)を混合し、かつ低温重合もしくは自家重合の条件下で重合させることにより得ることができる、本発明による2成分系床用補綴材料を用いて、極めて高い透明度、高い破壊靭性および低い残留MMA含量(残留メチルメタクリレート含量)を単一の材料中で併せ持ち、それにもかかわらず、低温硬化性プラスチックに相応して容易に加工できる材料を得ることができることが見出された。
【0008】
本発明の対象は、ISO 20795-1:2013規格による最大2.2質量%の残留MMA含量、2MPa/m以上の最大応力拡大係数として表される破壊靭性および1200J/m以上の全破壊仕事を有し、さらにまた90%を超える極めて高い透明度を有する、自家重合性床用補綴材料である。その高い透明度に基づき、該材料は、例えば、オクルーザルスプリントおよびインプラント作業用サージカルテンプレートにも適している。
【0009】
本発明の対象は、自家重合性2成分系床用補綴材料であって、殊に、少なくとも1種の液状モノマー成分(A)と、少なくとも1種の粉末状成分(B)とを混合し、かつ該自家重合の条件下で重合させることにより得ることができ、ここで、該床用補綴材料が、少なくとも1種の液状モノマー成分(A)と、少なくとも1種の粉末状成分(B)とを含み、ここで、成分(A)が、
(i)少なくとも1種のメチルメタクリレートならびに任意に、メチルメタクリレートではない、少なくとも1種の(2−アルキル)アクリル酸エステル、
(ii)250g/モル以下のモル質量を有する、少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)任意に、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)任意に、800nm未満の一次粒子サイズを有するポリマー粒子、殊にコア−シェル粒子、殊に500nm〜10nmの一次粒子サイズを有するコア−シェル粒子、
(vi)自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、かつ成分(B)が、
(i)ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分、殊に、粒子サイズの少なくとも3つの該フラクションの各フラクションの平均粒子サイズが、他の2つのフラクションの平均粒子サイズとは少なくとも5μmだけ離れており、かつ好ましくは、全てのフラクションの平均粒子サイズが、10〜120μm、殊に30〜65μmの範囲内であり、好ましくは、3つの該フラクションが、
1)a)25μm以上40μm未満、殊に30μm以上40μm未満、好ましくは35μm±2.5μm
b)40μm以上55μm未満、殊に40〜50μm、好ましくは45μm±2.5μm
c)55〜100μm、殊に55〜80μm、好ましくは55〜65μm、さらに好ましくは60μm±2.5μm
の平均粒子サイズのポリマー粒子から選択されているか、または好ましくは
2)a)35μm±2.5μm
b)45μm±2.5μm
c)60μm±2.5μm
の平均粒子サイズのポリマー粒子から選択されており、ここで、a)対b)対c)の質量比が、12〜18対1対1〜5、好ましくは14〜17対1対2〜4、特に好ましくは±0.5の変動幅で15〜16対1対3であり、ならびに
(ii)自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含む。
【0010】
本発明によれば、MMAの残留モノマー含量を低下させるために、一方では、該MMAを他の成分により交換でき、任意に、適した温度制御により重合度を増加させることもできる。重合中の温度上昇は、該開始剤系、該モノマー系および使用されるポリマービーズにより決定的な影響を受ける。これらの成分は、適した方法で互いに調和させなければならない。確かに、該重合の範囲内での激しい温度上昇は、通例、より高い重合度および高い曲げ強さをもたらすが、しかしながらその適合精度を犠牲にする、それというのも、その収縮が極めて高いからであり、また、その破壊靭性を犠牲にする。さらにまた、気泡が生成物中に生じうる。その温度が、他方では重合中に低すぎる場合には、これはその透明度およびロバストネスに不利な影響を及ぼしうる。さらに、通常の重合時間は、該材料の最終硬さおよび上記の規格に相応して要求される残留MMA含量を達成するのに十分ではない。そのうえ、その機械的性質は、化学組成に加えビーズの平均粒子サイズおよび架橋度の点で相違する、適正なポリマービーズの選択の影響を受ける。理想的には、該粉末成分は、その補綴材料において良好な機械的性質をもたらす大きなビーズと、その系に、変色に対する該系のロバストネスを付与する中間的なビーズと、他のものの隙間に存在し、かつその充填密度を高めることができる小さなビーズ分とを含む。大きなビーズは、容易に白化をまねき、したがって、特定割合でのみ使用することができる。中間的なビーズの場合に、該系への影響は、それらの膨潤挙動によって決定される。極めて小さなビーズは通常、極めて迅速に膨潤し、かつ混合された該補綴材料の粘度を極めて激しく高めるので、補綴物用の型への正確な流出がもはや保証されていない危険が上昇する。したがって、該ビーズの理想的な直径は、同様に下限がある。
【0011】
高い透明度は、配合成分を、それらの屈折率に関して最適に選択することにより、達成することができる。前記の課題の解決のために、全ての成分が、その反応系へのそれらの特異的な影響に関して調べられ、該粉末成分を、選択された該モノマー系と混合する際に、その加工時間が、ダブルキュベットも気泡不含で充填できるほど十分に長いように、互いに組み合わされる。同時に、通常の重合時間で十分であり、かつ高い曲げ強さにもかかわらず耐衝撃値が達成され、その透明度が極めて良好であり、かつ平均以上に低い残留MMA含量が生じるほど、その温度上昇は大きい。
【0012】
前記の機械的な値を達成するための最適な球充填は、定義された三峰性のビーズ系の使用により達成することができ、該系中で、最も小さいポリマー粒子、殊にビーズが、約35μmの平均直径を有し、中間的なポリマー粒子が約45μmの平均直径を有し、かつ最も大きいポリマー粒子が約60μmの平均直径を有する。好ましくは、3つの該ビーズの割合は、ポリマー粒子の粒子サイズフラクションと同義に定義されて互いに調節される。そのうえ、該補綴材料中での最適な球充填は、ナノスケールの一次粒子を有するポリマー粒子の使用によりさらに改善することができ、該粒子は、好ましくは、該液状モノマー成分中に存在して、最適な均一分布に調節することができる。好ましくは、少なくとも1つの粒子サイズフラクションは、重合された補綴物のよりいっそう高い破壊安全性を得るために、コア−シェル粒子(Kern-Schale Partikel)を含む。MMAベースの該モノマーマトリックスは、好ましくは、少なくとも5質量%、好ましくは10質量%の短鎖脂肪族アクリロイルオキシ−エチルカルバメートにより変性される。
【0013】
意外なことに、MMA 10質量%の該カルバメートとの交換に基づき、少なくとも30質量%の該残留MMA含量の低下を達成することができた。圧力釜中で2barおよび55℃の水温で30分の重合時間の場合に、本発明による生成物は、製造48時間後に2.0質量%でしかない残留MMA含量を有する。測定された値は、4日後に1.8質量%に低下する。該MMA含量の1.8質量%への低下は、該重合を60分間実施することによって促進することができる。この場合に、1.8質量%の値は、該製造48時間後にすでに達成することができる。これらの値ではもちろん、加熱硬化性材料の規格をはるかに下回るので、本発明による材料は初めて、明らかにより高い残留MMA含量を有する従来の低温重合ポリマーの欠点をもはや有していない。公知の低温重合ポリマーは、とりわけ、その短い重合時間および温和な重合条件に基づき、より高い残留MMA含量を有する。
【0014】
本発明による補綴材料は、古典的な低温重合ポリマーよりも少なくとも30質量%低い残留MMA含量を有し、かつ少なくとも1200J/mの破壊仕事の値および少なくとも70MPaの曲げ強さならびに古典的な低温重合ポリマーよりもはるかに優る破壊安定性を有する。同時に、好ましくはその透明度は少なくとも95%である。
【0015】
意外なことに、(ii)250g/モル以下のモル質量を有するN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメートのうち少なくとも1種の含分またはカルバメートの混合物が該組成中で使用され、かつカルバメートの該量が少なくとも、概ね同じ量のメチルメタクリレートを置換する場合に、メチルメタクリレートの残留モノマー含量が、さらに明らかに、標準条件に従い重合された材料中で低下できることが見出された。その際に、N−アルキルまたはN−アルケニル−置換アクリロイルオキシ−カルバメートとして、好ましくはN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−アルキレン−カルバメート(N−アルキル−アクリロイルオキシ−(CH−カルバメート、n=1、2、3、4、5、6)、特に好ましくはN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−メチレン−カルバメート、アクリロイルオキシ−エチレン−カルバメートまたはアクリロイルオキシ−プロピレン−カルバメートが使用される。N−アルキル−アクリロイルオキシ−エチレン−カルバメートが特に好ましい。さらに好ましいのは、メチル−、エチル−、n−プロピル−、イソプロピル−、n−ブチル−、イソブチル−、tert−ブチル、ペンチル−またはヘキシル−およびそれらの構造異性体から選択されるN−アルキル−置換アクリロイルオキシ−カルバメートである。好ましいカルバメートは、イソブチルアクリロイルオキシ−エチル−カルバメート、tert−ブチルアクリロイルオキシ−エチル−カルバメート、n−プロピルアクリロイルオキシ−エチル−カルバメート、n−プロピルアクリロイルオキシ−プロピル−カルバメートであり、ここで、本発明によれば、n−ブチルアクリロイルオキシ−エチル−カルバメート(BAEC)を使用することができる。本発明の対象は、少なくとも1つの弾性相で変性されたコア−シェル粒子および250g/モル以下のモル質量を有する少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、好ましくはモノ−カルバメートの使用でもある。
【0016】
好ましくは、60〜95質量%、好ましくは60〜90質量%、特に好ましくは60〜85質量%または70〜90質量%のMMA含量および250g/モル未満のモル質量を有する脂肪族アクリロイルオキシ−カルバメートを5〜20質量%の割合で有するモノマー成分が使用される。そのうえ、好ましくは、それらの平均直径の点で互いに少なくとも5μmだけ相違する、PMMAベースのポリマー粒子もしくはビーズの異なる少なくとも3つの粒子サイズフラクションを有するポリマー粒子の混合物が使用される。
【0017】
特に好ましい変形例に相応して、該補綴材料は、成分(A)および(B)を含み、ここで、全組成における該補綴材料[単位:質量パーセント]は、合計100質量%で次のものを含む:
(i)20〜50質量%の、メチルメタクリレート(MMA)、
(ii)1〜30質量%の、250g/モル以下のモル質量を有する、少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)0.5〜10質量%の、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、例えばオリゴマーまたはデンドリマー、
(iv)0.05〜10質量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)0.1〜10質量%の、800nm未満の一次粒子サイズを有する、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在する、ポリマー粒子、
(vi)0.05〜2質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分、ならびに
(vii)48.3〜78.3質量%、殊に55〜65質量%の、ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含むポリマー粒子を含有する、少なくとも1種の粉末状成分(B)、ここで、質量%の記載は、全組成を基準としており、かつ3つの該フラクションが、
a)50〜90質量%で存在する、25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)0.1〜20質量%で存在する、40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、および
c)0.5〜30質量%で存在する、55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、ここで、a)、b)およびc)の質量%の記載は、成分(B)の全組成を基準としている。
同様に本発明の対象は、ISO 20795-1:2013により測定して3質量%以下のMMAの残留モノマー含量を有する補綴材料重合物であり、殊にこれは、2.5質量%以下、好ましくは2.4、2.3、2.2、2.1、2.05、2.0または1.9質量%以下のMMAの残留モノマー含量を、殊に±0.05質量%の変動幅で、有する。
【0018】
さらに、本発明の対象は、95%以上、殊に97%以上の透明度(金属製の型中で製造された厚さ3mmの測色用試験体で、測色計SF 600 (Datacolor)を用いて測定)を有する、補綴材料重合物である。
【0019】
さらなる変形例によれば、本発明の対象は、≧2.4MPa・m1/2、殊に2.45MPa・m1/2以上、好ましくは2.5MPa・m1/2以上の最大応力拡大係数Kmaxとしての破壊靭性、および≧1000J/m、殊に1100J/m以上、好ましくは1200J/m以上、さらに好ましくは1250J/m以上の全破壊仕事Wf(J/m)としての破壊靭性を有する、補綴材料重合物である。そのうえ、特に好ましいのは、65MPa超、特に好ましくは70MPa超の曲げ強さである。さらに、顔料添加されていない補綴重合物の透明度が、90%以上、殊に95%以上の範囲内である場合が好ましい(3mm厚さのプレートで測定)。
【0020】
本発明によれば、前記課題は、250g/モル以下の分子量を有する該カルバメート、弾性コアを有するコア−シェル粒子の少なくとも1つ以上のフラクションならびに該粉末状成分中の該ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションの併用により、解決される。該補綴材料の高い透明度は、該補綴材料重合物の屈折率に類似した屈折率を有する特殊なコア−シェル粒子の選択により保証することができた。したがって、800nm未満の粒子サイズを有する該ポリマー粒子は、好ましくは、弾性相で変性されたコア−シェル粒子として存在し、好ましくは、約1.49の屈折率(R.I. 約1.4900)を有する。
【0021】
本発明によれば特に好ましいコア−シェル粒子は、凝集して存在する。前記課題は、一次粒子サイズが約200〜400nmである、凝集されたコア−シェル粒子(不規則に形成された凝集体、d50 約50〜300μm)の使用により、解決することができる。該コア−シェル粒子はおそらく、固体における表面相互作用に基づいて凝集して存在する。該添加剤は、該液体と混合されかつ分散されて、安定な懸濁液を形成し、該懸濁液は、数週以内では少し沈降するに過ぎない。MMA中に懸濁させることにより、該凝集体は、該一次粒子へ比較的迅速に崩壊する。
【0022】
耐衝撃性添加剤としての該コア−シェル粒子の、250g/モル未満の分子量を有する少なくとも1種のカルバメート、好ましくはn−ブチルアクリルオキシエチル−カルバメートとの組み合わせでの使用により、耐衝撃性に関するISO 20795-1の要求事項を満たす補綴材料を製造することができる。さらにまた、曲げ強さおよび弾性率が、耐衝撃性ではない材料と同じオーダーであり、かつ同時に高透明かつ色調安定性である、補綴材料を提供することができる。本発明による補綴物は、該重合プロセス中および重合プロセス後の水含有材料、例えば複模型用ゲルまたはプラスターとの接触により、白化を示さないかまたは殆ど示さない。
【0023】
本発明の対象は、それぞれ独立して、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在する(v)ポリマー粒子を含有する成分(A)を含む床用補綴材料でもあり、ここで、該弾性相がコアとして、硬化された外側シェル内に存在し(コア−シェル粒子)、かつ殊に該弾性相が、スチレン−ブチルアクリレートポリマーを含み、および/または独立して、成分(B)が、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在するポリマー粒子の少なくとも1つのフラクションを含み、ここで、該弾性相がコアとして、硬化された外側シェル内に存在し(コア−シェル粒子)、かつ殊に該弾性相が、スチレン−ブチルアクリレートポリマーを含む。該コア−シェル粒子は、通例、不規則に形成された凝集体(d50 約50〜300μm)を含み、該凝集体が、該モノマー成分中に溶解して該一次粒子となる。該一次粒子サイズは、約200〜400nmである。該コア−シェル粒子はおそらく、固体における表面相互作用に基づいて凝集して存在する。
【0024】
さらに、本発明による補綴材料は、通常の歯科技工的な方法および器具を用いて混合および加工することができる。加工のために、従来の、歯科技工士に慣用の技術および補助手段を使用することができる。特殊な埋没材、プラスター、キュベット、装置等(例えばIvoclarシステムの場合の)は、回避することができる。
【0025】
補綴材料を通常の歯科材料から区別するために、補綴材料が、実質的な量のポリマー粉末状成分、例えばPMMA(ポリメチル(メタ)アクリレート)および/またはポリエチル(メタ)アクリレートを、殊に全組成中に50質量%以上で、含むことが強調される。通常の補綴材料は、通例、粉末状成分と液状成分とを有するキットとして提供される。充填物を製造するための歯科材料は、本質的には、好ましくは60質量%を超える割合で該重合性組成物中に存在する無機フィラー(歯科用ガラス)と、しばしばビスGMA(ビスフェノール−A−(ジ)メタクリレート)をベースとする主に高分子量のモノマーとをベースとする。
【0026】
少なくとも1種の二官能性またはより多官能性の該ウレタン(メタ)アクリレートは、ウレタンジメタクリレート、好ましくはビス(メタクリルオキシ−2−エトキシカルボニルアミノ)−アルキレン、アクリルオキシ置換ウレタンデンドリマー、ジウレタンアクリレートオリゴマー、ウレタン(メタ)アクリレートデンドリマー、約300g/モルのウレタンメタクリレートポリマー(デンドリマー、Laromer UA9049、アクリレートモノマーブレンド(41.7質量% HEMA−TMDI/8質量% TEGDMA、CAS 109-16-0)中50%)、アルキル官能性ウレタンジメタクリレートオリゴマー、芳香族官能化ウレタンジメタクリレートオリゴマー、脂肪族不飽和ウレタンアクリレート、ビス(メタクリルオキシ−2−エトキシカルボニルアミノ)置換ポリエーテル、芳香族ウレタンジアクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタンジアクリレートオリゴマー、一官能性ウレタンアクリレート、脂肪族ウレタンジアクリレート、六官能性脂肪族ウレタン樹脂、脂肪族ウレタントリアクリレート、UDMA、脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー、不飽和脂肪族ウレタンアクリレートから選択されていてよい。適したウレタン(メタ)アクリレートは、次の商標名で入手可能である:Ebecryl 230(脂肪族ウレタンジアクリレート)、Actilane 9290、Craynor 9200(ジウレタンアクリレートオリゴマー)、Ebecryl 210(芳香族ウレタンジアクリレートオリゴマー)、Ebecryl 270(脂肪族ウレタンジアクリレートオリゴマー)、Actilane 165、Actilane 250、Genomer 1122(一官能性ウレタンアクリレート)、Photomer 6210(CAS No. 52404-33-8、脂肪族ウレタンジアクリレート)、Photomer 6623(六官能性脂肪族ウレタン樹脂)、Photomer 6891(脂肪族ウレタントリアクリレート)、UDMA、Roskydal LS 2258(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー)、Roskydal XP 2513(不飽和脂肪族ウレタンアクリレート)。
【0027】
その際に、成分(v)、すなわち、少なくとも1つの弾性相により変性されたコア−シェル粒子が、成分(A)の全組成を基準として、0.001〜20質量%、殊に10質量%まで、好ましくは5質量%までで存在し、かつ(ii)250g/モル未満のモル質量を有する少なくとも1種のカルバメートが、殊にジウレタンではなく、成分(A)の全組成(すなわち成分(A)の100質量%)を基準として、0.001〜30質量%、好ましくは10質量%まで、さらに好ましくは5質量%までで存在する場合が特に好ましい。該コア−シェル粒子は、耐衝撃性改良剤とも呼ばれる。
【0028】
本発明による床用補綴材料は、耐衝撃性改良剤(コア−シェル粒子)および該カルバメートが添加されるにもかかわらず、ISO 20795-1による耐光性試験(Suntest)に合格する。
【0029】
特に好ましい床用補綴材料は、好ましくは、コア−シェル粒子を有し、変性された該コア−シェル粒子の弾性相の分布が、次の可能性a〜dから選択されている:a)硬質の外側シェル(例えばPMMA製)内のコアとしての弾性相(例えばブチルアクリレート製)(コア−シェル粒子);b)硬質マトリックス内のコアとしての複数の弾性相、c)硬質マトリックス中に分布しているa)からのコア−シェル粒子、かつd)外側シェルとしての弾性相を有する硬質コア。本発明によるコア−シェル粒子は、同様に、以下の多層構造を有していてよい:e)シェルとしての複数の層と、1つの外側シェルとを有し、内部にあるコア、ここで、殊に(i)該シェルのうち少なくとも1つ、好ましくは該外側シェルが、硬質であり、かつ残りの該シェルおよび該コアがそれぞれ独立して、弾性相からなる。変形例において、該弾性相および該硬質相は、該シェルと該コアとに他の方法で区分されていてよい。
【0030】
さらに、好ましいコア−シェル粒子は、該補綴材料重合物の屈折率に類似した屈折率を有する。好ましくは、該コア−シェル粒子の屈折率は、±0.02、殊に±0.01の変動幅で概ね1.49である。本発明によれば特に好ましいコア−シェル粒子は、凝集して存在する。その際に、無秩序に形成されていてよい、該コア−シェル粒子の凝集体は、不規則に形成された凝集体として、平均直径d50 約50〜300μmを有する。該一次粒子の好ましいサイズは、500nm未満、殊に100nmまで、好ましくは200〜400nmである。同様に、200nm以下ないし2nm、ならびに150から10nmまでの一次粒子サイズを有するコア−シェル粒子をコア−シェル粒子として使用することができる。
【0031】
好ましくは、該コア−シェル粒子は、1.48〜1.60、殊に1.49〜1.55の屈折率を有する。特に好ましくは、該コア−シェル粒子の屈折率は、PMMAの屈折率の範囲内であり、したがって好ましくは、該屈折率は、概ね1.48〜1.50である。
【0032】
同様に好ましいのは、密度が0.9〜1.5g/ml、殊に0.95〜1.4g/mlであるコア−シェル粒子である。好ましくは、そのかさ密度は同時に、0.1〜0.6g/ml、好ましくは0.1〜0.6g/mlである。
【0033】
硬質の外側シェル、硬質マトリックス、硬質コアは、該弾性相の材料よりも低い弾性を好ましくは有する材料であると理解される。好ましい無機硬質コアは、力の影響下で本質的に変形を示さないのに対し、有機硬質材料は力の作用下で、該弾性相よりも明らかに少ない変形を受ける。硬質の外側シェル、硬質マトリックスおよび/または硬質コアとしての該硬質材料は、該弾性相をその形で安定化させる。弾性相は、力の作用下で可逆的な変形を受ける、少なくとも1種の弾性材料から形成される。該弾性相の変形は、有利に力の作用なしで完全に可逆的である。
【0034】
好ましい成分B)は、好ましくは、任意に架橋されており、かつホモポリマーまたはコポリマーとして存在するポリアルキル(メタ)アクリレートを含むポリマー粉末の形態のポリマーを含むa)ポリマー粒子を含む、少なくとも1種の粉末状成分を含み、ここで、該ポリマーは、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ポリプロピレングリコール−モノメタクリレート、テトラヒドロフリル−メタクリレート、ポリプロピレングリコール−モノメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ポリプロピレングリコール−モノアクリレート、テトラヒドロフリル−アクリレート、ポリプロピレングリコール−モノアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレートから選択される、1個の(メタ)アクリレート基を含む少なくとも1種のモノマー、これらの(メタ)アクリレートのうち少なくとも1種を含有する混合物および/または前記のモノマーのうち1種または少なくとも2種を含むコポリマー、ポリアミド粒子、ポリアミド繊維ベースとする。さらにまた、該ポリマー粒子は、歯科用モノマー、例えばMMAの混合物および付加的に少なくとも1種の架橋剤も含んでいてよい。
【0035】
本発明の好ましい実施変型に相応して、それぞれ独立して、粉末状成分(B)のポリマー粒子の1つの粒子サイズフラクションは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子もしくはビーズを含む。特に好ましくは、該粉末状成分は、殊に10〜100μmの粒子サイズを有する、ポリマー粒子および/または粉砕ポリマーとして、および/または重合導入されるコモノマーであるスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、置換ビニルトルエン、例えばビニルベンジルクロリド、ハロゲン化ビニル、例えば塩化ビニル、ビニルエステル、例えば酢酸ビニル、複素環式ビニル化合物、例えば2−ビニルピリジン、酢酸ビニルおよびプロピオン酸ビニル、ブタジエン、イソブチレン、2−クロロブタジエン、2−メチルブタジエン、ビニルピリジン、シクロペンテン、(メタ)アクリル酸エステル、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ブチルアクリレートおよびヒドロキシエチルメタクリレート、さらにアクリロニトリル、マレイン酸およびマレイン酸誘導体、例えば無水マレイン酸、フマル酸およびフマル酸誘導体、例えばフマル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸ならびにアリール(メタ)アクリレート、例えばベンジルメタクリレートまたはフェニルメタクリレートならびに任意にこれらのコモノマーの混合物を含むコポリマーをベースとする、ポリメチルメタクリレート(PMMA)ビーズ、および任意に付加的に、熱分解シリカまたは沈降シリカ、歯科用ガラス、例えばアルミノケイ酸塩ガラスまたはフルオロアルミノケイ酸塩ガラス、ケイ酸バリウムアルミニウム、ケイ酸ストロンチウム、ホウケイ酸ストロンチウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸リチウムアルミニウム、層状ケイ酸塩、ゼオライト、酸化物ベースまたは混合酸化物ベースの非晶質球状フィラー、殊にSiOおよびZrOの混合酸化物、ガラス繊維および/または炭素繊維を含む、b)無機フィラーならびに粉末状成分a)およびb)を含む混合物を含む。
【0036】
b)無機フィラーは、通例、該補綴プラスチック組成全体もしくは成分(A)および(B)の合計を基準として、0〜10質量%、好ましくは0.0001〜3質量%で使用される。成分(B)中で、100質量%の成分(B)の全組成を基準として、これらのフィラーは通例、0〜20質量%、好ましくは0.001〜10質量%の範囲内で存在する。
【0037】
同様に本発明の意味で、ポリマー粒子は、(メタ)アクリレート基を1個のみ有する少なくとも1種の(メタ)アクリレートモノマーをベースとするか、またはこれらの(メタ)アクリレートモノマーのうち少なくとも2種の混合物をベースとするものである。
【0038】
本発明によるコア−シェル粒子は、弾性相として好ましくは、少なくとも1種のポリ−(n−ブチル−アクリレート)PBA、特に好ましくはスチレン−ブチルアクリレートポリマーを含む。同様に適しているのは、他のブタジエン−スチレンコポリマー、ニトリル−ブタジエンコポリマー、シリコーンゴム−(グラフトコポリマー)、ポリウレタンポリマー、ポリオレフィンベースのポリウレタン(ポリブタジエンベースのポリウレタン)であり、これは好ましくはMMA中に存在していてよい。該コア−シェル粒子の粒子サイズは、500nm以下、例えば50nm〜500nm、殊に400nm以下ないし100nm、または選択的に、100nm未満ないし2nmであってよく、同様に、該弾性相は、ポリジメチルシロキサン変性ポリウレタンおよび/またはエポキシ官能化された弾性相をベースとしていてよい。
【0039】
本発明によるコア−シェル粒子は、硬質シェル、硬質コアおよび/または硬質マトリックスとして、少なくとも1種の(メタ)アクリレートポリマー、好ましくはアルキル(メタ)アクリレートポリマー、例えばPMMA;ポリスチレン、エポキシ官能化コア、ならびに前記のポリマーの単独縮合物または共縮合物を含む。
【0040】
好ましいコア−シェル粒子は、d50 <400μmおよび一次粒子サイズd50 500nm未満を有する凝集体を含む。さらに好ましくは、該コア−シェル粒子の一次粒子は、殊にd50値として、100nm以上であってよい。
【0041】
同様に適したコア−シェル粒子は、殊に1μm未満の粒子サイズを有する、硬質の外側シェルを有するアクリレートポリマーを含む弾性コアを含む。さらに、該コア−シェル粒子は、好ましくは、重合性モノマーに対して反応性の基を有していてよく、好ましくは、その外側シェルは、(メタ)アクリレート基で官能化されている。
【0042】
さらに、本発明の対象は、(A)液状モノマー成分を含む床用補綴材料であり、該成分は、少なくとも1種のモノマー、殊に、メチルメタクリレートと任意に少なくとも1種の(2−アルキル)アクリル酸エステルとを含むモノマーの混合物を含み、殊に、成分(A)は、メチルメタクリレートを含む。変形例において、成分(A)は、次のモノマーのうち少なくとも1種または挙げるモノマーのうち少なくとも2種を含む混合物を含有していてよい:メチルメタクリレートならびに任意に付加的にエチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ポリプロピレングリコール−モノメタクリレート、テトラヒドロフリル−メタクリレート、ポリプロピレングリコール−モノメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、2−フェノキシエチルアクリレート、イソボルニルアクリレート、イソデシルアクリレート、ポリプロピレングリコール−モノアクリレート、テトラヒドロフリル−アクリレート、ポリプロピレングリコール−モノアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ベンジル−、フルフリル−またはフェニル−(メタ)アクリレート、これらの(メタ)アクリレートのうち少なくとも1種を含有する混合物および/または前記のモノマーのうち1種または少なくとも2種を含むコポリマー。
【0043】
さらに、成分(A)は、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の(iv)二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、例えば好ましくはトリス−(2−ヒドロキシエチル)−イソシアヌレート−トリアクリレート(Sartomer 368)を含む。選択的に、(iv)ウレタン(メタ)アクリレートではない、二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマーとして、次のモノマーのうち1種または挙げるモノマーのうち少なくとも2種を含む混合物を使用することができる:1,4−ブタンジオールジメタクリレート(1,4−BDMA)またはペンタエリトリトールテトラアクリレート、ビス−GMA−モノマー(ビスフェノール−A−グリシジル−メタクリレート)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)およびジエチレングリコールジメタクリレート(DEGMA)、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ドデカンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキシルデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリトリトールテトラ(メタ)アクリレートならびにブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシル化/プロポキシル化ビスフェノール−A−ジ(メタ)アクリレート、これらの(メタ)アクリレートのうち少なくとも1種を含有する混合物および/または前記のモノマーのうち1種または少なくとも2種を含むコポリマー。
液状成分(A)に適したアルキルメタクリレートとして、メチル−、エチル−、n−プロピル、イソプロピル−、n−ブチル−、t−ブチル−、イソブチル−、ベンジル−およびフルフリル−メタクリレートまたはそれらの混合物が指摘される。メチルメタクリレートがこれらの中では特に好ましい。
【0044】
好ましくは、(A)液状モノマー成分は、
(i)60〜90質量%、好ましくは60〜85質量%の、メチルメタクリレートならびに
任意に、MMAではない、少なくとも1種の(2−アルキル)アクリル酸エステル、
(ii)5〜20質量%の、250g/モル以下のモル質量を有する少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)0.5〜10質量%の、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)0.05〜10質量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)0.1〜10質量%の、800nm未満の一次粒子サイズを有する、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在する、ポリマー粒子、
(vi)0.05〜2質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、成分(A)の全組成を基準としている。
該コア−シェル粒子は、通例、該モノマー中に懸濁される。
【0045】
本発明によれば、粉末状成分(B)の全組成は、次のように構成される:
(i)90〜99.95質量%の、ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分、ここで、3つの該フラクションは、
a)50〜90質量%で存在する、25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)0.1〜20質量%で存在する、40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、および
c)0.5〜30質量%で存在する、55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、および
(ii)0.05〜10質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分、ここで、前記の質量%の記載は、成分(B)の全組成を基準としている。
【0046】
100質量%の全組成(A)および100質量%の全組成(B)は、(A):(B)の質量比1:20〜20:1で、好ましくは(A):(B)の質量比1:10〜10:1、好ましくは5:15〜9:8、好ましくは5〜8:8〜12で、より好ましくは(A):(B)の質量比7:10で、殊に±1、好ましくは0.5の変動幅で、混合することができる。
【0047】
本発明による、殊に成分(A)および(B)を含む、混合されているがまだ重合されていない床用補綴材料中の室温で液状のメチルメタクリレートの割合は、殊に20質量%〜50質量%、好ましくは30〜40質量%である。
【0048】
さらに、本発明の対象は、好ましくは成分(A)、(B)中または(A)および(B)中に、フィラー、顔料、安定剤、調整剤、抗菌添加剤、紫外線吸収剤、チキソトロープ剤、触媒および架橋剤の群からの少なくとも1種または複数の物質を付加的に含有する、床用補綴材料である。そのような添加剤は―顔料、安定剤および調整剤も―、むしろ少量で、例えば、該材料の全質量を基準として、全部で0.01〜3.0質量%、特に0.01〜1.0質量%で、使用される。適した安定剤は、例えば、ヒドロキノンモノメチルエーテルまたは2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(BHT)である。
【0049】
同様に本発明の対象は、任意に付加的に、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または少なくとも1種の開始剤系を有し、これが、反応条件もしくは重合系に応じて、液状成分(A)中、粉末状成分(B)中または(A)および(B)中に存在していてよい、床用補綴材料である。
【0050】
自家重合または低温重合のための次の開始剤および/または開始剤系は、a)少なくとも1種の開始剤、殊に少なくとも1種の過酸化物および/またはアゾ化合物、殊にLPO:ジラウロイルペルオキシド、BPO:ジベンゾイルペルオキシド、t−BPEH:tert−ブチルペル−2−エチルヘキサノエート、AIBN:2,2′−アゾビス−(イソブチロニトリル)、DTBP:ジ−tert−ブチルペルオキシド、および任意にb)少なくとも1種の活性剤、殊に少なくとも1種の芳香族アミン、例えばN,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジンおよび/またはp−ジベンジルアミノ安息香酸ジエチルエステルまたはc)レドックス系から選択される少なくとも1種の開始剤系、殊に、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジンおよびp−ジメチルアミノ安息香酸ジエチルエステルから選択されるアミンとのジベンゾイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシドおよびカンファーキノンから選択される組み合わせまたは過酸化物と、アスコルビン酸、アスコルビン酸誘導体、バルビツル酸またはバルビツル酸誘導体、スルフィン酸、スルフィン酸誘導体から選択される還元剤とを含むレドックス系、特に好ましいのは、(i)バルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体および(ii)少なくとも1種の銅塩または銅錯体および(iii)イオン性ハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物を含むレドックス系であり、特に好ましいのは、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトネート、トリアジン誘導体、トルイジン誘導体および/またはベンジルジブチルアンモニウムクロリドを含むレドックス系である。特に好ましくは、該2成分系床用補綴材料中の重合は、バルビツル酸誘導体によって開始される。
【0051】
本発明の対象は、成分A)少なくとも1種の液状モノマー成分、およびB)少なくとも1種の粉末状成分を混合し、引き続き重合もしくは硬化させることによる、床用補綴材料重合物の製造方法、ならびに該方法により得ることができる補綴材料でもある。その際に、モノマー成分(A)および粉末状成分(B)が、1:10〜10:1の質量比で、殊に粉末状成分8〜12:モノマー成分4〜8の質量比で、好ましくは成分(A):(B) 7:10で、混合される場合が特に好ましく、ここで、その変動幅は±1、好ましくは±0.5であってよい。
【0052】
同様に本発明の対象は、モノマー成分(A)および粉末状成分(B)を混合し、殊に重合性床用補綴材料として、雌型、例えば、少なくとも1つの歯科用補綴成形体、例えば歯、オクルーザルスプリント、切削加工用ブロックもしくは切削加工用ディスク、義歯、補綴物の部材、サージカルテンプレート、インプラント、マウスガード、関節補綴物、クラウン、テレスコープ、ベニア、橋義歯、補綴歯、インプラント部材、アバットメント、上部構造物、矯正装置および器具、蹄部材の注型用の型中へ移し、殊に、該材料を、殊に2bar以上、例えば2.5〜10bar、好ましくは2〜4barの、高められた圧力下で重合されることによる方法である。好ましくは、該重合は、35℃〜60℃、好ましくは45℃〜60℃の温度で、好ましくは約55℃で、20〜180分間、好ましくは約55℃で30分間、行われる。該重合は、その際に、好ましくは1〜5barの少し高められた圧力下、殊に2barで行われる。
【0053】
成分A)およびB)の混合は、本発明によれば、歯科技工士に公知の単純な措置によって、例えばへらを用いて、行うことができる。
【0054】
さらなる変形例によれば、本発明の対象は、自家重合性補綴材料を含むキットであり、ここで、該キットは、別個の成分(A)および(B)を含むものであって、成分(A)が、
(i)60〜85質量%の、メチルメタクリレート、
(ii)5〜20質量%の、250g/モル以下のモル質量を有する少なくとも1種のN−アルキルまたはN−アルケニル置換アクリロイルオキシ−カルバメート、
(iii)0.5〜10質量%の、少なくとも1種の少なくとも二官能性のウレタン(メタ)アクリレート、
(iv)0.05〜10質量%の、ウレタン(メタ)アクリレートではない、少なくとも1種の二官能性、三官能性、四官能性またはより多官能性のモノマー、
(v)0.1〜10質量%の、800nm未満の一次粒子サイズを有する、弾性相により変性されたコア−シェル粒子として存在するポリマー粒子、
(vi)0.05〜2質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、成分(A)の全組成を基準としており、ならびに成分(B)として、
(i)90〜99.95質量%の、ポリマー粒子の粒子サイズの異なる少なくとも3つのフラクションを含む、ポリマー粒子の少なくとも1種の粉末状成分、ここで、3つの該フラクションが、
a)20〜90質量%、好ましくは50〜90質量%で存在する、25μm以上40μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、
b)0.1〜50質量%、好ましくは0.1〜20質量%で存在する、40μm以上55μm未満の平均粒子サイズのポリマー粒子、および
c)0.5〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%で存在する、55μm以上100μm以下の平均粒子サイズのポリマー粒子
から選択されており、および
(ii)0.05〜10質量%の、自家重合のための少なくとも1種の開始剤または開始剤系の少なくとも1種の成分
を含み、ここで、前記の質量%の記載は、成分(B)の全組成を基準としている
ことにより特徴付けられる。
【0055】
本発明の対象は、次の製品を製造するための、補綴材料重合物または該補綴材料重合物の使用でもある:補綴成形体の形態の、ヒトの歯科分野における、例えば歯科用補綴成形体、例えば歯、オクルーザルスプリント、切削加工用ブロックもしくは切削加工用ディスク、義歯、補綴物の部材、サージカルテンプレート、インプラント、マウスガード、関節補綴物、クラウン、テレスコープ、ベニア、橋義歯、補綴歯、インプラント部材、アバットメント、上部構造物、矯正装置および器具、骨またはその部材の形態の補綴成形体、獣医学分野における補綴成形体、例えば蹄部材、殊に蹄修復材料のためまたは医療用補装具における。
【0056】
自家重合性または低温重合性とみなされるのは、補綴材料が本発明によれば、ISO 20795-1(箇条3.1)による基準が満たされている場合である。低温重合プラスチックとみなされるのは、65℃未満で重合する組成物である。本発明による低温重合性補綴材料は、好ましくは、双方の成分(A)および(B)の混合後の50℃〜65℃、好ましくは50〜60℃、さらに好ましくは50℃〜55℃の温度範囲で自発的に硬化もしくは重合することができる。好ましくは、該重合は、5〜180分にわたって、好ましくは30〜60分間、特に好ましくは30分間、行われる。前記の規格に相応して、65℃から自発的に硬化もしくは重合する重合性組成物は、加熱硬化性組成物と呼ばれる。
【0057】
該2成分系床用補綴材料の粉末成分は、通例、粉末状成分として、殊にメタクリレートベースの、ポリマー粒子、および/またはメタクリレートベースのビーズポリマーを含有する。ビーズポリマーは、この分野ではしばしば粉末と呼ばれる。
【0058】
好ましい実施形態において、架橋剤は少なくとも部分的に、第一の(コ)ポリマーのビーズ中へおよび/または第二の(コ)ポリマーのビーズ中へ、重合導入されている。したがって、第一および第二のビーズポリマーは、架橋および部分架橋されたビーズポリマーも含む。
【0059】
架橋のためには、通例、多官能性コモノマーまたは多官能性オリゴマーが使われる。二官能性、三官能性およびより多官能性の(メタ)アクリレートに加えて、このためには、少なくとも2個の異なる反応性C−C二重結合を有するグラフト架橋剤、例えばアルキルメタクリレートおよびアルキルアクリレート、ならびに芳香族架橋剤、例えば1,2−ジビニルベンゼン、1,3−ジビニルベンゼンおよび1,4−ジビニルベンゼンも適している。該二官能性(メタ)アクリレートの中で、殊に、プロパンジオール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオールおよびエイコサンジオールの(メタ)アクリレートならびにさらにエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ドデカエチレングリコール、テトラデカエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびテトラデカプロピレングリコールのジ(メタ)アクリレート、そのうえ、グリセリンジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス[(γ−メタクリルオキシ−β−オキシプロポキシ)−フェニルプロパン]、ネオペンチルグリコール−ジ(メタ)アクリレート、1分子あたり2〜10個のエトキシ基を有する2,2−ジ−メタクリルオキシポリエトキシフェニル)プロパンならびに1,2−ビス(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタンが挙げられる。例示的に、多官能性(メタ)アクリレートとして、例えばジ−、トリ−および/またはテトラ−(メタ)アクリレート、例えば1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートならびにジ−またはトリ−ビニル系化合物、例えばジビニルベンゼンが強調される。そのような架橋剤分子の含量は、該ビーズポリマーのための出発混合物中で、好ましくは0.1質量%〜10質量%の範囲内、殊に0.5質量%〜5質量%の範囲内である。
【0060】
該重合に必要なラジカル開始剤系は、反応条件もしくは重合系に応じて、液状成分(A)および/または粉末状成分(B)中に含まれている。これに関する詳細は当業者に公知である。例えば、低温重合ポリマーのためのベース混合物の場合に、該開始剤系はたいてい、双方の成分、すなわち、該液状成分および該粉末状成分中に存在し、それに応じて、これらの成分を混合する際に一緒になる。したがって、通例、開始剤成分(c)は、粉末状成分(B)中に、殊に(i)バルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体の形態で、存在する。該開始剤系(c)のさらなる部分、通例、共開始剤は、液状成分(A)中に存在していてよい。該開始剤系の好ましい成分は、(ii)少なくとも1種の銅塩または銅錯体および(iii)イオン性ハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物を含み、特に好ましいのは、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトネート、トリアジン誘導体、トルイジン誘導体および/またはベンジルジブチルアンモニウムクロリドを含むレドックス系である。ラジカル開始剤系として、挙げたレドックス系が適している。好都合な実施態様において、そのようなレドックス系は、バルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体(例えば25〜80質量%)、少なくとも1種の銅塩または銅錯体(例えば0.1〜8質量%)およびイオノゲンとして存在するハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物(例えば0.05〜7質量%)を含有する。例示的に、前記のレドックス系の適した成分として、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトネート、塩化銅(II)、トリアジン誘導体、トルイジン誘導体および/またはベンジルジブチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0061】
好ましくは、自家重合のための少なくとも1種の該開始剤または該開始剤系の少なくとも1種の成分は、酸化剤と、バルビツル酸またはバルビツル酸誘導体、スルフィン酸、スルフィン酸誘導体または前記の還元剤のうち少なくとも2種を含む混合物から選択される還元剤とを含むレドックス系から選択される、少なくとも1種の開始剤系を含み、特に好ましいのは、(i)少なくとも1種のバルビツル酸またはチオバルビツル酸またはバルビツル酸誘導体またはチオバルビツル酸誘導体または前記の還元剤のうち少なくとも2種を含む混合物および(ii)少なくとも1種の銅塩、例えば塩化銅(II)、または銅錯体および(iii)イオン性ハロゲン原子を有する少なくとも1種の化合物を含むレドックス系であり、好ましくは(i)は該粉末状成分中に存在し、殊に(ii)および(iii)は該液状モノマー成分中に存在し、特に好ましいのは、1−ベンジル−5−フェニルバルビツル酸、銅アセチルアセトネートおよびトリアジン誘導体、トルイジン誘導体および/またはベンジルジブチルアンモニウムクロリドを含むレドックス系である。該トルイジン誘導体は、該バルビツル酸のための共開始剤として使用される。任意に、該系(iv)は、少なくとも1種の過酸化物を含んでいてよい。その際に、成分(ii)および(iii)は好ましくは、液状モノマー成分A中に存在し、かつ成分(i)および任意に(iv)好ましくは、該粉末状成分中に存在する。
【0062】
該組成物の硬化は、好ましくは、気泡形成を回避するために、室温でもしくは少し高められた温度で少し加圧下でのレドックス開始ラジカル重合により行われる。特に好ましい開始剤系は、バルビツル酸と、銅イオンおよび塩化物イオンと一緒の組み合わせである。この系は、過酸化物−アミン系とは異なり、高い色調安定性およびより低い毒性の点で優れている。
【0063】
さらに、粉末状成分(B)および/または液状成分(A)は、公知の方法で、安定剤、紫外線吸収剤、チキソトロープ剤およびフィラーの群からのさらなる添加剤を有していてよい。
【0064】
本発明は、以下の例によってより詳細に説明されるが、本発明をこれらの実施例に限定するものではない。
【実施例】
【0065】
粉末混合物の製造:PMMAベースのビーズ3種から、バルビツル酸と一緒に、三峰性の粉末系を、混合により製造する。該液体の製造は、以下に示される成分から、混合により行った。
【0066】
以下の測定値を、DIN EN ISO 20795-1規格に相応して測定した。該残留MMA含量を、同様にこの規格に相応して箇条8.8に類似して求めた。箇条5.2.10は、高められた衝撃強さを有する材料については、その最大応力拡大係数が少なくとも1.9MPa・m1/2でなければならないことを定義する。該測定を、箇条8.6により行う。箇条5.2.11は、その全破壊仕事が少なくとも900J/mでなければならないことを定義する。該破壊靭性の測定を、EN ISO 20795-1:2013規格に類似して箇条8.6により実施した。その装置の名前は次の通りである:Zwick/Roell Z010、機械の型式TMT1-FR010TN.A50。本例において、最も大きな粒子径を有するフラクションとして、コア−シェルビーズ、例えば6681Fを使用したが、ここで、通常のビーズも使用することができる。
例1〜3:該プラスチックを、全て比10:7で注型法を用いて製造した。例4は、比10:5で製造した。該測定を箇条8.6により行った。その試験体を、55℃および圧力2barで30分間重合させた。
例1
【表1】
【0067】
床用補綴材料のための通常の加工方法に相応して、DIN EN ISO 20795-1規格による試験体(39mm×8mm×4mm)を、その物理的性質の測定のために、粉末:液体の比10:7で製造した。
次の測定値が測定された:
【表2】
* RTで開始した重合で測定。
【0068】
金属製の型中で製造された測色用試験体は、96%の透明度を示す。製造48時間後の残留MMA含量(標準試験)は、30分の重合時間の場合に2.0質量%、60分の場合に1.8質量%である。30分の重合時間の場合に、その製造4日後のMMAの残留モノマー含量は、1.8質量%である。
【0069】
例2:例1に類似して、試験体を、以下の表に示された組成に相応して製造する。
【表3】
【0070】
次の測定値は、前記の規格(DIN EN ISO 20795-1)により測定された:
【表4】
* RTで開始した重合で測定。
【0071】
該試験体は低い透明度を示す、それというのも、そのPMMAビーズが依然として目に見えるからである。その加工時間は明らかに短すぎる。確かに、耐衝撃性を達成することができるが、しかし、該ビーズの不適当なブレンドは、不都合な温度プロファイルをまねき、その際に、その重合温度が高く上昇し過ぎることがあり、ひいては加工および透明度の損失をまねく。
【0072】
例3:例1に類似して、試験体を、以下の表に示された組成に相応して製造する。
【表5】
【0073】
次の測定値が測定された:
【表6】
* RTで開始した重合で測定。
【0074】
該試料は、0.9質量%の残留MMA含量を有する。しかし、該モノマーマトリックスおよびビーズ混合物中の理想的ではない比に基づき、規格に従う耐衝撃性は達成されない。
【0075】
例4:該粉末状成分ならびに該液状成分を、比10:7で混合したので、次の組成が得られる。
【表7】
【0076】
例5:該粉末状成分ならびに該液状成分を、次に、比10:5で混合したので、次の組成が得られる。
【表8】
【0077】
該補綴材料重合物は、1126.89J/mの全破壊仕事および2.53MPa・m1/2の最大応力拡大係数を有する。その弾性率は2273kJ/モルである。最適なフィッティングを有する補綴物を製造するために、粉末:液体10:5の比で混合されたペーストを、注入装置Palajetを用いて(プラスター製の型中へ)注入する。この適用方法を用いても、耐衝撃値が達成される。
【0078】
本発明によるモノマー混合物から製造される補綴材料は、全ての比較例に比べて明らかに改善された破壊靭性、高められた透明度ならびに最も少ないMMAの残留モノマー含量を示す。
【0079】
測色用試験体:次の粉末混合物およびモノマー混合物を、粉末10g:液体7mlの比で強力に混合し、膨潤段階(23℃で約5分)後に、金属製の型中で30×30×3mmの寸法を有する試験体を注型し、かつ55℃および圧力2barで30分、Palamat elite中で重合させる。その透明度測定を、測色計FS600 Datacolorで実施した。
【0080】
機械的強度用の試験体:次の粉末混合物およびモノマー混合物を、粉末10g:液体7mlの比で強力に混合し、膨潤段階(23℃で約5分)後に、100×100×5mmの寸法を有する試験体を注型し、55℃および圧力2barで30分、Palamat elite中で重合させる。該試験板を引き続き、ISO 20795-1に示された幾何学的形状に正確に切断し、かつ研磨する。機械的および色彩的試験のための試験体は、鋼製の型中で製造される。