特許第6771568号(P6771568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771568
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】補体活性化を抑制するポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20201012BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20201012BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20201012BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20201012BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 13/02 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20201012BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C12N15/62 Z
   C07K19/00ZNA
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N5/10
   C12N1/21
   C12N15/12
   C12N15/63 Z
   C12P21/02 C
   C07K14/47
   A61P13/02
   A61P13/12
   A61P31/00
   A61P17/02
   A61P9/10
   A61K38/16
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2018-533148(P2018-533148)
(86)(22)【出願日】2016年12月23日
(65)【公表番号】特表2019-508022(P2019-508022A)
(43)【公表日】2019年3月28日
(86)【国際出願番号】EP2016082614
(87)【国際公開番号】WO2017109208
(87)【国際公開日】20170629
【審査請求日】2018年7月25日
(31)【優先権主張番号】102015016665.4
(32)【優先日】2015年12月23日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506047949
【氏名又は名称】グリーンオヴェイション・バイオテック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】GREENOVATION BIOTECH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ミヒェルフェルダー
(72)【発明者】
【氏名】カルステン・ヘフナー
【審査官】 長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/092335(WO,A1)
【文献】 BLOOD, 2009, Vol.114, No.12, p.2439-2447
【文献】 e−免疫.com[online],PID知識の箱, INTERNET ARCHIVE: WAYBACK MACHINE,公開日:2015年10月1日, [検索日:2019年6月20日],< https://web.archive.org/web/20151001054747/http://emeneki.com/knowledge/complement_deficiency/detail01.html>
【文献】 The Journal of Clinical Investigation, 2013, Vol.123, No.6, p.2357-2360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
A61K 38/16
A61P 9/10
A61P 13/02
A61P 13/12
A61P 17/02
A61P 31/00
C07K 14/47
C07K 19/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/63
C12P 21/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
H因子(FH)のショートコンセンサスリピート(SCR)1−4H因子関連タンパク質1(FHR1)のSCR1およびSCR2、ならびに細胞表面に結合することができるドメインを含むポリペプチド。
【請求項2】
細胞表面に結合することができるドメインが、FHのSCR19およびSCR20を含む、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドが多量体である、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
FHR1のSCR1由来の少なくとも1つの二量体化モチーフを含む、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
ポリペプチドがTCC(C5b−9)の形成を抑制することができる、請求項1〜のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項6】
ポリペプチドのC5b−6への結合によりTCC形成が抑制される、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
構造:
A−B−C
[ここで、
Aは、FHR1のSCR1およびSCR2を含むか、またはFHR1のSCR1およびSCR2からなり、
Bは、FHのSCR1−4を含むか、またはFHのSCR1−4からなり、
Cは、細胞表面に結合することができるドメインである]
を有するポリペプチド。
【請求項8】
細胞表面に結合することができるドメインが、FHのSCR19およびSCR20を含む、請求項に記載のポリペプチド。
【請求項9】
AとBが直接に、またはリンカーを介して結合している、請求項またはに記載のポリペプチド。
【請求項10】
BとCが直接に、またはリンカーを介して結合している、請求項7〜9のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項11】
FHのSCR1−4が配列番号1のアミノ酸19〜264からなる、請求項1〜10のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項12】
FHR1のSCR1およびSCR2が配列番号2のアミノ酸22〜142からなる、請求項1〜11のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項13】
補体系が関連または関与する障害を治療または予防するための、請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドを有効成分として含む医薬組成物。
【請求項14】
補体系が関連または関与する障害が、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、血栓性微小血管症(TMA)、C3腎症(C3G)、IgA腎症、全身性エリテマトーデスの腎炎、移植片拒絶、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性症(AMD)、感染性疾患、敗血症、SIRS、外傷性傷害、虚血/再灌流傷害、および心筋梗塞からなる群から選択される、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項16】
請求項15に記載の核酸を含むプラスミドまたはベクター。
【請求項17】
請求項15に記載の核酸、または請求項16に記載のプラスミドもしくはベクターを含む細胞。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリペプチドを製造する方法であって、請求項17に記載の細胞を、該ポリペプチドの発現を可能にする条件下に培地中で培養し、該細胞または該培地から該ポリペプチドを回収することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
補体系は、自然免疫の重要な部分であり、病原体の認識および排除、アポトーシス細胞もしくは免疫複合体のクリアランス、ならびに適応免疫応答の調節に寄与する(Ricklin et al. 2010, Carroll et al. 2011)。補体は、通常、酵素前駆体(zymogen)として、または膜タンパク質として循環する、主に肝臓で作られる多数の血漿タンパク質から成り、血漿、組織または細胞内で働く。古典的経路(CP)、レクチン経路(LP)あるいは第2経路(AP)の3つの補体経路のいずれが活性化されても、C3転換酵素が形成され(CP、LPではC4b2a、APではC3bBb)、これは補体系の中心的成分であるC3の、活性化産物C3bおよびアナフィラキシーペプチドC3aへの分解を引き起こす。それに続き、引き起こされるカスケード様反応において、病原体が破壊されるようマークされ、また、感染に対抗しホメオスタシスを維持するために免疫細胞を動員する一連の炎症反応が誘導される(Merle et al. 2015)。補体の活性化または調節のいずれが不全であっても、それは、免疫不全、自己免疫、慢性炎症、血栓性微小血管症、移植片拒絶ならびに腎臓および網膜疾患、例えば非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、C3腎症(C3G)および加齢黄斑変性症(AMD)を包含する多くの感染性もしくは非感染性疾患の原因または誘因となりうる(Holers 2008)。
【0002】
第2経路(AP)
CPおよびLPが、ある種の認識分子が引き金となって開始されるのに対し、APは常時低レベルで活性である。これは、「チックオーバー」と称されるメカニズムで起こるもので、C3b様分子であるC3(H2O)の内部C3チオエステルが、生体活性形態を形成するよう加水分解されることにより開始される。可溶性のB因子(FB)およびD因子(FD)(これはC3(H2O)結合FBを分解する)が作用して、液相C3転換酵素複合体(C3b(H2O)Bb)が形成され、天然C3分子が切断され、活性化される。活性化されたC3bは、チオエステル含有ドメイン(TEDまたはC3dドメイン)を介して、隣接表面のヒドロキシル基に共有結合する。病原体上で、C3bが、形成された部位のすぐ近くに蓄積し、さらなるC3転換酵素(C3bBb)が形成され、それによって補体活性化が増幅される。C3転換酵素に第2のC3bが結合することにより、C5転換酵素(C3bBbC3b)が形成され、これはC5の、強力な免疫エフェクター分子C5aおよびC5bへの分解を引き起こす。C5bは補体成分C6、C7、C8およびC9を動員してC5b−9終末膜侵襲複合体(MAC)を形成し、その結果、病原体が溶解される(Ricklin et al. 2010, Carroll et al. 2011)。
【0003】
APの制御
オプソニン化細胞および病原体の迅速な排除のため、および宿主組織損傷をもたらしうる無制限のAP活性化を最小限にするために、APは精密に制御されなければならない。健康な宿主細胞は通常、カスケードの異なる活性化段階で作用する、補体活性化制御因子(regulator of complement activation)(RCA)ファミリーのいくつもの膜結合または可溶性タンパク質(それらのいくつかは機能が重複しており、いくつかは独特の補体制御特性を有する)によって、補体が仲介する侵襲から保護されている(Zipfel et al. 2009)。
【0004】
新たなC3b生成は、I因子(FI)が仲介するC3bのiC3bへの不可逆分解にコファクターとして作用するRCAタンパク質によって、またはC3bBb転換酵素複合体の脱安定化によって(Decay Acceleration Activity, DAA)、厳重に制御されている。さらに、RCAはC5転換酵素活性を妨げることができ、それによりC5の活性化産物C5aおよびC5bへの分解を制御するか、または終末補体複合体(TCC)化合物に結合する因子によって、MAC複合体の膜挿入を抑制することができる。membrane cofactor protein(MCPまたはCD46)、補体受容体1(CR1またはCD35)、decay accelerating factor(DAFまたはCD55)、membrane inhibitor of reactive lysis(MIRL、CD59)、ならびに可溶性因子ビトロネクチンおよびクラステリン(clusterin)等と一緒に、H因子/FHRタンパク質ファミリーのメンバー、特にFHは、循環中において、およびそれが特異的に結合する表面上において、補体制御をサポートする。
【0005】
H因子/FHRタンパク質ファミリー
H因子/FHRタンパク質ファミリーは、5つの補体H因子関連タンパク質(FHR)であるFHR1、FHR2、FHR3、FHR4、FHR5、H因子(FH)およびスプライスバリアントであるH因子様タンパク質1(FHL−1)を含む、一群の関連性の高い血漿タンパク質を含む。ファミリーメンバーのそれぞれの単一遺伝子は、RCA遺伝子クラスター内において、ヒト染色体1q32上の個別のセグメント上に位置する(Skerka et al. 2013)。FHは第2経路の主要な制御因子であり、FHRの機能は完全にはわかっていない。FHRタンパク質の相互作用は、細胞表面上での補体制御活性を調節すると考えられている(Jozsi et al. 2015)。さらに、それらのホモおよびヘテロオリゴマー化能により、FHR1、FHR2およびFHR5のリガンドに対する親和性が高められうる。これは、補体活性化の認識および調節におけるファインチューニング様メカニズムとして提唱されている(Jozsi et al. 2015)。しかしながら、FHR1およびFHR2について、FH非依存性のユニークな補体制御特性もいくつか報告されている。FH、FHR1およびFHR2は補体活性化をダウンレギュレートしうるので、病的状態下の補体活性化を調節する手段の有望な候補であると考えられている(Licht et al. 2005, Licht et al. 2006, Skerka et al. 2013, Haffner et al. 2015)。
【0006】
FH/FHRタンパク質ファミリーのなかで、FHは、血漿中に約350〜600μg/mlの濃度で循環する、最も豊富な補体タンパク質である。分子量155kDaの単量体糖タンパク質であるFHは、APおよび補体経路の増幅ループを制御する。FHは20の反復的なショートコンセンサスリピート(short consensus repeat)(SCR)ドメインからなり、液相中および細胞表面上でC3転換酵素の活性化を制御する。N末端ドメインSCR1−4は、該タンパク質の補体制御領域を含む。FH SCR1−4はC3bに結合し、それによってC3およびC5転換酵素の形成を阻止し、また、C3b結合をFBと競合することによって、既に生成した転換酵素の分解を促進する(Weiler et al. 1976)。さらに、前記ドメインは、FHがFI仲介C3b不活性化のコファクターとして作用するのに関与する(Gordon et al. 1995, Rodriguez de Cordoba et al. 2004, Alexander et al. 2007, de Cordoba et al. 2008)。FHのC末端(SCR19−20)は主に、C3b、C3d、ペントラキシン、細胞外マトリックスおよび細胞表面と相互作用する結合認識ドメインを表す(Jarva et al. 1999, Oppermann et al. 2006, Hebecker et al. 2013)。細胞表面または生体膜上へのFHの結合は、グリコサミノグリカン(GAG)(例えばヘパリン)またはシアル酸のようなポリアニオン構造によって仲介され、内生細胞、例えば糸球体内皮細胞または糸球体基底膜(GBM)上における局部補体活性化を制御する(Jozsi et al. 2004, Ferreira et al. 2006, Jozsi et al. 2007, Blaum et al. 2015)。
【0007】
FHR1は、5個のSCRで構成され(Skerka et al. 1991)、2つのアイソフォームを有する。1つまたは2つの炭水化物側鎖を有する2つのグリコシル化形態(約41kDaのFHR1α、および約37kDaのFHR1β)が、ヒト血漿中に約100μg/mlの濃度で循環する。FHR1はFHとのC末端配列相同性が高く、C末端SCR1およびSCR2は、FHR2のSCR1およびSCR2とのアミノ酸同一性が高く(それぞれ97%および100%)、FHR5のSCR1およびSCR2とのアミノ酸同一性が高い(それぞれ91%および83%)。FHR1はC5転換酵素活性を制御し、補体活性化を抑制するが、C3転換酵素活性は影響を受けない。N末端SCR1−2はC5およびC5b6に結合し、C末端SCR3−5はC3b、C3dおよびヘパリンに結合する。FHRは、SCR1−2のC5への結合によって、C5の活性化ならびにC5aおよびC5bへの分解を抑制すると考えられる。さらに、FHR1は終末経路制御因子であり、MACの形成を阻止するが、これはSCR1−2のC5b6複合体への結合によるものと考えられる(Heinen et al. 2009)。
【0008】
FHR2は4個のSCRからなり(Skerka et al. 1992)、FHのSCR6−7および19−20とのアミノ酸同一性を示す。FHR2のN末端SCR1は、FHR1およびFHR5とほぼ同じであり、ホモ二量体、およびFHR1とのヘテロ二量体の形成を可能にするが、FHR5とのヘテロ二量体は形成しない。FHR2はヒト血漿中に約50μg/mlの濃度で循環する。FHR2は補体活性化を制御するが、これはFHR2が結合したC3転換酵素は基質C3を分解しないというメカニズムによるものと考えられる。興味深いことに、FHR2は、殆ど、C3bからH因子を競合的に排除しない。FHR2は生理学的濃度でC3bとの結合をFHと競合しない(Goicoechea de Jorge et al. 2013)。
【0009】
FHR2と同様にFHR1も、またFHR5も、それぞれ、SCR1中に位置するTyr34、Ser36およびTyr39残基で構成される保存された二量体化インターフェースを含み、これは該集合体形成において重要な役割を果たし、N末端のタイトな逆平行結合によって伝搬されるホモおよびヘテロ二量体形成を促進する。FHRは、制御機能を有することに加えて、ある条件下にC3bまたは宿主/病原体細胞表面へのFHの結合を阻害(FHを競合的に排除)して、補体の脱制御(deregulation)(活性化)を引き起こす(Jozsi et al. 2015)。多量体FHR複合体の形成は、局部の濃度を高め得、それにより、基質または表面(FHRによって制御されるもの)への親和力および/または親和性を高め得る。病態生理学的条件下に、例えばC3腎症においてFHRの異常な多量体化(それによりリガンド結合およびFH競合が増す)により、脱制御が増強されるのではないかと考えられている(Goicoechea de Jorge et al. 2013)。
【0010】
AP関連疾患
補体成分およびFHのような制御因子の、突然変異、機能不全多型によって引き起こされるAP制御不全、またはAP活性化を促進する抗体は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)(Noris et al. 2009)またはC3腎症(C3G)(Barbour et al. 2013)、加齢黄斑変性症(AMD)(Kawa et al. 2014)または発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)(Holers 2008)のような疾患との関連性が高い。これら以外にも、IgA腎症(Maillard et al. 2015)、全身性エリテマトーデス(SLE)(Wilson et al. 1976)、虚血−再灌流(IR)傷害または移植片拒絶、関節リウマチ(RA)および他の多くの疾患(Holers 2008)(Ricklin et al. 2013)について、APの病原的役割が示されまたは仮定されている。
【0011】
非典型HUSおよびC3Gは、AP関連疾患の代表例である。aHUSにおいては、APの成分もしくは制御因子(C3、FB、FI、FH、FHR1またはMCP)のいずれかの突然変異または抗FH抗体により、制御されない補体活性化が起こり、最終的にC5b−9形成および内皮細胞損傷が起こる。それに伴い糸球体血栓性微小血管症(glomerular thrombotic microangiopathy)および急性腎不全が起こり、過去には、結果的に60%を超える患者が死亡するかまたは致命的な腎不全を起こしている。C3Gは、50%を超える患者において10年以内に致命的な腎不全に発展するもので、糸球体基底膜の中または上に補体の沈着が見られる。C3GにおけるAP活性化も、補体遺伝子、特にFHの突然変異によって、またはC3転換酵素に影響を及ぼす自己抗体(C3腎炎因子)よって引き起こされる(Loirat et al. 2011, Sethi et al. 2012)。
【0012】
補体関連疾患の治療オプション
aHUSまたはC3Gの治療における確立された治療オプションは限られており、その例には、血漿交換または新鮮凍結血漿(FFP)交換、免疫抑制処置、および腎移植があるが、基礎疾患の再発リスクは高い(Braun et al. 2005, Lu et al. 2012, Cataland et al. 2014, Masani et al. 2014)。補体を標的とする多くの治療法が現在研究段階にあるので、将来、治療オプションに加わるかもしれない(Wagner et al. 2010, Ricklin et al. 2013)。その中で、ヒト化モノクローナル抗C5抗体エクリズマブは、TCC形成を抑制するもので、最近aHUS治療用に承認された(Zimmerhackl et al. 2010)。C3Gに対しては、確立された治療法はまだ無い(Masani et al. 2014)。エクリズマブをC3G患者に適用した場合、部分奏功が一部の患者においてのみ得られている(Bomback et al. 2012)。
【0013】
終末補体エフェクター機能の抑制は、C5転換酵素によるC5分解を阻止すれば達成することができる。治療用モノクローナル抗体エクリズマブは、ヒトC5に結合し、それがC5転換酵素によって、強力なアナフィラトキシンであるC5a、および終末補体経路のイニシエーターであるC5bへと活性化されるのを阻止する(Parker et al. 2007)。このようにしてエクリズマブは、炎症シグナル伝達、およびMAC形成による細胞溶解を抑制するが、C3転換酵素、および制御されないC3a形成には影響しない。エクリズマブは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)(Hillmen et al. 2006)およびaHUS(Zuber et al. 2012)を含む補体仲介疾患の治療において、臨床アウトカムの顕著な改善を示し、受け入れられている。
【0014】
C3は補体カスケードの中心的位置にあることから、治療的介入のための標的として注目されており、したがって、C3の段階に作用する抑制剤も設計されている。コンプスタチンは、前臨床試験中の、13個のアミノ酸からなる小ペプチドである(Mastellos et al. 2015)。構造研究により、コンプスタチンはC3のβ鎖およびC3bに結合し、C3転換酵素との相互作用を阻害することがわかっている。コンプスタチンはこのようにしてC3活性化およびさらなるカスケード増幅を抑制し、下流の補体エフェクター形成を抑制する。コンプスタチンは、トロンビンのようなプロテアーゼによるC3分解も、「チックオーバー」によるC3のC3(H2O)への「活性化」も阻止せず(Ricklin et al. 2015)、インビトロで、および体外循環、敗血症およびPNHを含む動物モデルにおいて、補体抑制における有効性を示している。もう1つのアプローチは、我々の、FHまたは可溶性CR1のようなRCAのナチュラルパネルを活用すること、あるいはそれらの有効性を、選択されたドメインモジュールを組み合わせることによって改善することである(Ricklin et al. 2013)。FH SCR1−5およびCR2 SCR1−4を含むTT30は、既に補体仲介侵襲下にある部位に優先的に蓄積するように設計されている。TT30は宿主細胞表面上で、C3bに結合する液相FHの機能と、C3dに対するCR2の相互作用とを兼ね備え、C3bおよびC3dと同時に相互作用する。TT30は、AMD、虚血/再潅流傷害およびPNHのモデルにおいて顕著な改善を示している(Merle et al. 2015,)。SCR1−4またはSCR1−5およびSCR19−20を含むmini-FH分子は、C3bおよびC3dと高い親和性で結合し、aHUSおよびPNHのインビトロモデルにおいて天然FHと比較して、より良好な効果を示す(Hebecker et al. 2013, Schmidt et al. 2013)。しかしながら、C3G様表現型を示すFH欠損マウスにおいて、mini-FH、およびTT30のネズミアナログの、血漿第2経路制御に関する治療的効果は、半減期が短い関係で、比較的小さかった(Nichols et al. 2015, Ruseva et al. 2015)。
【0015】
エクリズマブは、aHUSおよびPNHにおける適用のために承認されている。エクリズマブは、C5転換酵素によるC5分解を非特異的に阻止する。エクリズマブ治療を受けている患者は、重篤な感染性疾患、特に髄膜炎のような髄膜炎菌感染症を発症する恐れがある。一方、TCC形成阻止は、C3転換酵素活性化に影響しない。したがって、治療を受けている患者において、アナフィラトキシンC3aが持続的に生成し、また、エクリズマブ治療を受けているC3G患者において見られるように、C3分解産物が腎臓に持続的に沈着する可能性がある。さらに、エクリズマブ治療を受けた患者の腎生検において、エクリズマブ抗体の蓄積が見られている(Herlitz et al. 2012)。そのような蓄積物による長期的影響はこれまでに研究されていない。
【0016】
C5転換酵素のみの抑制はまた、すべてのAP関連疾患に十分というわけではないかもしれない。エクリズマブのC3G患者における有効性に関する1つの症例報告によると、一部の患者において有益であったに過ぎず、それも多くは部分寛解であった(Bomback et al. 2012, Legendre et al. 2013)。
【0017】
コンプスタチン、mini-FHまたはTT30のような新しい補体制御剤は、補体活性化に対しC3転換酵素段階で作用することを目指すものである。これらの開発は、前臨床段階での研究中である。エクリズマブおよび現在開発中の他の制御剤は、C5転換酵素またはC3転換酵素のいずれかを標的としている。
【発明の概要】
【0018】
本発明者は、補体カスケードの複数のエフェクター部位に同時に作用することにより(C3/C5転換酵素の抑制、C5分解およびTCC形成の抑制)、補体活性化を効果的に抑制しうることを見出した。これにより、AP(CP)ダウンレギュレーションとアナフィラトキシン放出阻止との間のファインチューニング(それにより望ましくない副作用が低減されうる)を可能とする、AP(およびCP)活性のより効果的な制御が可能となる。
【0019】
本発明者はさらに、選択されたドメインモジュールで構成される制御剤中の二量体化モチーフが、1)多量体化複合体の形成によって制御活性を高めること、および、2)FHR仲介脱制御に対して抵抗性であることを、見出した。
【0020】
したがって本発明は、下記の態様(1)〜(24)に関する。
(1)抑制性C3転換酵素エフェクタードメインおよび抑制性C5転換酵素(C5結合)エフェクタードメインを含むポリペプチド。
(2)抑制性C3転換酵素エフェクタードメインが、解離促進(decay-accelerating)およびコファクター活性によって、C3転換酵素抑制をもたらす、上記項(1)のポリペプチド。
(3)ポリペプチドが解離促進およびコファクター活性を有する、上記項(1)または(2)のポリペプチド。
(4)抑制性C3転換酵素エフェクタードメインが、H因子(FH)の断片である、上記項(1)〜(3)のいずれかのポリペプチド。
(5)抑制性C3転換酵素エフェクタードメインが、FHのショートコンセンサスリピート(SCR)1−4を含むか、またはFHのSCR1−4からなる、上記項(1)〜(4)のいずれかのポリペプチド。
(6)抑制性C3転換酵素エフェクタードメインが、FHR2のSCR1−4を含むか、またはFHR2のSCR1−4からなる、上記項(1)〜(3)のいずれかのポリペプチド。
(7)抑制性C5転換酵素エフェクタードメインが、H因子関連タンパク質1(FHR1)の断片である、上記項(1)〜(6)のいずれかのポリペプチド。
(8)抑制性C5転換酵素エフェクタードメインが、FHR1のSCR1およびSCR2を含むか、またはFHR1のSCR1およびSCR2からなる、上記項(1)〜(7)のいずれかのポリペプチド。
(9)ポリペプチドのC5への結合により、C5の活性化ならびにC5aおよびC5bへの分解が抑制される、上記項(1)〜(8)のいずれかのポリペプチド。
(10)細胞表面に結合することができるドメインをさらに含む、上記項(1)〜(9)のいずれかのポリペプチド。
(11)細胞表面に結合することができるドメインが、FHのSCR19およびSCR20を含む、上記項(1)〜(10)のいずれかのポリペプチド。
(12)ポリペプチドが多量体である、上記項(1)〜(11)のいずれかのポリペプチド。
(13)FHR1のSCR1由来の少なくとも1つの二量体化モチーフを含む、上記項(12)のポリペプチド。
(14)ポリペプチドがTCC(C5b−9)の形成を抑制することができる、上記項(1)〜(13)のいずれかのポリペプチド。
(15)ポリペプチドのC5b−6への結合によりTCC形成が抑制される、上記項(14)のポリペプチド。
(16)構造:
A−B−C
[ここで、
Aは、上記項(1)〜(15)のいずれかにおいて規定される抑制性C5転換酵素エフェクタードメインであり、
Bは、上記項(1)〜(15)のいずれかにおいて規定される抑制性C3転換酵素エフェクタードメインであり、
Cは、存在しないか、または、上記項(1)〜(15)のいずれかにおいて規定される、細胞表面に結合することができるドメインである]
を有するポリペプチド。
(17)AとBが直接に、またはリンカーを介して結合している、上記項(16)のポリペプチド。
(18)BとCが直接に、またはリンカーを介して結合している、上記項(16)または(17)のポリペプチド。
(19)補体系が関連または関与する障害の治療または予防において使用するための、上記項(1)〜(18)のいずれかのポリペプチド。
(20)補体系が関連または関与する障害が、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、血栓性微小血管症(TMA)、C3腎症(C3G)、IgA腎症、全身性エリテマトーデスの腎炎、移植片拒絶、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性症(AMD)、感染性疾患、敗血症、SIRS、外傷性傷害、虚血/再灌流傷害、および心筋梗塞からなる群から選択される、上記項(19)に記載される使用のためのポリペプチド。
(21)上記項(1)〜(18)のいずれかのポリペプチドをコードする核酸。
(22)上記項(21)の核酸を含むプラスミドまたはベクター。
(23)上記項(21)の核酸、または上記項(22)のプラスミドもしくはベクターを含む細胞。
(24)上記項(1)〜(18)のいずれかのポリペプチドを製造する方法であって、上記項(23)の細胞を、該ポリペプチドの発現を可能にする条件下に培地中で培養し、該細胞または該培地から該ポリペプチドを回収することを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】MFHR1の構造および特徴付け。 A)MFHR1の構造構成。MFHR1は、N末端においてFHR1のSCR1−2(FHR1 1−2)がhFHのSCR1−4およびSCR19−20(それぞれFH1−4およびFH19−20と称する)に結合したものからなる融合タンパク質である。精製手段としてペンタヒスチジンタグ(N末端)を用いた。FHR1−2は二量体化モチーフを含み、C5転換酵素活性およびMAC形成を抑制する。FHは、解離促進およびコファクター活性を有し(FH1−4)、C3bおよび細胞表面への結合部位を有する(FH19−20)。 B)バキュロウイルス感染SF9細胞の上清からNi親和性およびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製したMFHR1の、SDS−PAGEおよびCoomassie染色(左)または銀染色(右)。MFHR1は、還元条件下に、計算される分子量58.65kDaに見られる。MFHR1の移動が非還元条件下により速いことは(Coomassie染色、右レーン)、ジスルフィド結合が存在することを示す。 C)ポリクローナル抗ヒトHF、抗FH1−4またはモノクローナル抗C18および抗FHR1−2抗体を用いた免疫検出は、組換えMFHR1(I)においてFHR1−2、FH1−4およびFH20が無傷の完全性を有することを示す。組換えFH1−4;19−20(II)、全長FHR1(III)、FH1−4(IV)またはヒト血漿由来hFH(V)は対照である。
図2】MFHR1はC3bに結合し、コファクター活性を示し、C3転換酵素を解離する。 A)MFHR1とC3bとの相互作用を、ELISAによって解析した。C3bをマイクロタイタープレート上に固定し、MFHR1またはhFHの段階希釈物を加え、結合を、抗FH 1次抗体およびHRP標識抗ヤギ2次抗体を用いて検出した。対照としてBSAコーティングしたウェルを用いた。データは、n=3実験からの平均±SDである。C3bに対するhFHの最大結合を相対結合100%と規定した。 B)MFHR1はC3bBb(C3転換酵素)複合体を効果的に解離する。マイクロタイタープレートにおいてC3b、B因子(FB)およびD因子(FD)の存在下に転換酵素を形成し、hFHまたはMFHR1を加えて37℃でインキュベートした。インタクトC3bBb、および該複合体の解離を、FBの相対量によって測定した。対照ウェル(C3b+FB+FD、制御因子なし)のOD450値を100%と規定した。FDを加えないものを陰性対照とした。データは、n=3実験からの平均±SDである。 C)MFHR1はコファクター活性を示す。コファクター試験を行うのに、C3bおよびI因子(FI)を、さまざまな濃度のMFHR1またはhFH(5〜250nM)と共に、37℃で30分間インキュベートした。SDS−PAGEおよびCoomassieブルー染色によって、α鎖の切断、ならびにα’68断片、α’43断片、α’46断片を可視化した。 D)コファクター活性を定量するために、C3b α鎖のバンド強度をデンシトメトリーにより測定し、インタクトC3b α鎖をβ鎖に対して正規化し、100%と規定した。データは、n=5実験からの平均値±SDである。
図3】MFHR1はC5に結合し、C5転換酵素/C5分解およびMAC形成の抑制によって終末経路の活性化を制御する。 A)ELISAによって測定されるとおり、MFHR1はC5に結合する。等モル量のMFHR1、全長FHR1、hFHまたはBSA(133nM)をNuncプレートに固定し、さまざまな濃度(10、20、40μg/ml)のC5と共にインキュベートした。モノクローナルC5抗体およびHRP標識2次抗体を用いて結合を検出した。データは、n=3実験からの平均±SDである。 B)MFHR1はC5分解を阻止することによりAP活性化を抑制する。B因子(FB)およびD因子(FD)を加えて、ヒツジ赤血球(sE)上にコブラ毒因子(CVF)C5転換酵素を形成させた。C5、C6、C7、C8およびC9成分を加えて溶血を誘導し、414nmにおいて検出した。C5をFHR1、MFHR1またはエクリズマブと予めインキュベートした場合、溶血は顕著に抑制されたが、hFHまたはBSAは抑制を示さなかった。CVF転換酵素なしの対照(−FB/FD)またはC5なしの対照は、溶血を誘導しなかった。 C)MFHR1はsE上の膜侵襲複合体(MAC)の形成を抑制する。sE上のMAC形成を、C5b6、C7、C8およびC9成分とのインキュベーションにより誘導し、細胞の溶血により検出した。C5b6をMFHR1、FHR1またはエクリズマブと予めインキュベートした場合、hFHまたはBSAの場合と比較して、溶血は顕著に抑制された。C9なしのサンプルは、溶血を誘導しなかった。 BおよびCにおいて、制御因子なし(w/o)の対照を100%と規定した。データはいずれも、3実験の平均値±SDである。***は、ボンフェローニの多重比較検定による一元ANOVAにより、w/o対照に対しP<0.001。
図4】MFHR1は補体第2経路(AP)および古典的経路(CP)の活性化を抑制し、ヒト血清中のアナフィラトキシン放出を、臨床的に意義のあるレベルで低減する。 ヒト血清にMFHR1、hFH、FHR1またはエクリズマブを加えて、A)C3b沈着、またはB)C5b−9複合体形成を、特定の緩衝条件を用いてLPSにより第2経路(AP)活性化を誘導した後に測定した。 A)抗ヒトC3およびHRP標識2次抗体を用いるELISAにより測定されたとおり、MFHR1は、表面C3b沈着を、hFHよりも効果的に低減する。予想通り、エクリズマブはC3b沈着を抑制しなかった。 B)補体AP−ELISA(WIESLAB(登録商標))により測定されたとおり、MFHR1は、C5b−9を、hFHまたはエクリズマブよりも効果的に抑制する。各実験において無処置対照血清を100%と規定した。データは、4名の健康なドナーの血清を用いるn=4アッセイからの単一の値±SEMである。さらに、特定のC3a、C5aELISA(Quidel)を用いた、AP活性化血清の上清のアッセイにより示されるとおり、MFHR1は、C)C3a、およびD)C5aの生成を効果的に抑制する(n=3アッセイ±SEM)。 E)MFHR1による古典的経路(CP)抑制を、補体CP−ELISA(WIESLAB(登録商標)を用いて試験した。各実験において無処置対照血清のAP活性を100%と規定した。データは、3名の健康なドナーの血清を用いるn=3アッセイからの単一の値±SEMである。計算されたIC50値を表1に示す。
図5】ヒト血清中におけるMFHR1のAP制御活性は、多量体複合体によって高められる。 A)ウシ血清アルブミン(BSA)、血清血漿由来FH(hFH)およびMFHR1のサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200 10/300 GL)。BSA混合物の3つの構成体、すなわちI.BSA三量体(198kDa、10.35ml)、II.BSA二量体(132kDa、11.45ml)およびIII.BSA単量体(66kDa、13.4ml)は、分子量に応じた異なる保持容量を示した。同じ条件で、hFH(9.3ml)は、ピークのタンパク質種は約300kDaの二量体タンパク質として移動することを示した。MFHR1は、保持容積10mlでピーク(I)を示し、MFHR1は液相中を主に多量体形態で移動することが示された。理論的な三量体(II、10.7)、二量体(III、11.4)、中間形態(IV〜V)または単量体(IV、13.5)MFHR1が、溶出プロファイルに示される。 B)AにおいてSECカラムから溶出したMFHR1の解析。画分からのタンパク質20μlを10%SDS−PAGEに適用し、銀染色した。 C)その後、単一の、またはプールしたMFHR1 SEC画分を10nMでヒト血清に加え、LPSコーティングしたウェルにおいて、AP特異的緩衝条件でのインキュベーションにより、AP活性化を誘導した。MFHR1画分の制御活性を、C5b−9複合体形成を測定することにより解析した。無処置対照血清のAP活性を100%と規定した。
図6】MFHR1はFHR1およびFHR5による脱制御に抵抗性である。 A)C3bに対するMFHR1の結合は、FHR1またはFHR5により競合的に阻害されない。MFHR1(三角形)またはhFH(四角形)(試験タンパク質と称する)を、単独で、または等モル量ないし100倍過剰の範囲のさまざまな濃度のFHR1(黒色線)またはFHR5(灰色線)と共に、C3bコーティングしたマイクロタイタープレートに加えた。C3bに対するMFHR1またはhFHの結合を、特異的な抗体を用いて検出した。3アッセイの平均とSDを示す。 B)MFHR1が仲介する、血清誘導AP活性化からのヒツジ赤血球(sE)保護は、FHR5により減弱されないが、hFHのAP制御作用はFHR5により用量依存的な脱制御を受けた。MFHR1またはhFHを、sEのFH除去血清誘導溶解を50%に低下する濃度で使用し、等モル量ないし100倍過剰の範囲のさまざまな濃度のFHR5を加えた。溶血を414nmで測定し、データを、FHR5を加えなかったサンプルに対する相対的な増加として表した。データは、n=3アッセイからの単一の値±SEMである。
図7】MFHR1は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)およびC3腎症(C3G)の治療モデルにおいて、制御されない補体活性化を低減する。 A)FHの突然変異は家族性aHUSの原因であり得、患者血清をヒツジ赤血球(sE)に加えた場合、患者血清における補体制御欠如が溶血を仲介する。aHUS患者(pat. #1 FH R1215Q (Gerber et al. 2003))の血清に加えられたMFHR1は、エクリズマブよりも効果的に、補体仲介MAC形成および溶血からsEを保護する。データは、n=3実験からの平均値±SDである。 B)C3Gにおいては通常、過剰な補体活性化により血清C3が増加するので、制御されない補体活性化の抑制がC3Gの新たな治療オプションとなる可能性がある。C3Neph陽性患者の血清に加えられたMFHR1は、LPS刺激によるAP活性化およびC5b−9形成を効果的に抑制する。
図8】MFHR1は、C3腎症(C3G)における制御されない補体活性化に対し、インビボで顕著な治療的有効性を示す。 A〜C)FH欠損マウス(FH−/−)は、APの過剰活性化により、異常な糸球体C3沈着、および低い血清C3レベルを示し、したがって、補体標的薬物の治療的有効性を試験するためのC3Gモデルとして有用である。 A)MFHR1は、0.5mg MFHR1の腹腔内注射後の示される時点においてC3血清レベルを、hFHに匹敵するレベルで顕著に高める。個々のデータポイントをプロットし、平均値をバーで示す。 B)MFHR1は異常な糸球体C3沈着を顕著に低減する。MFHR1、hFHまたはPBSで処置したFH−/−マウスの、投与24時間後の糸球体C3蛍光強度を測定した。無処置野生型マウスの切片を陰性対照として用いた。任意蛍光単位(AFU)で表した個々のデータポイントをプロットし、平均±SDをバーで示す。 C)糸球体C3沈着の画像。スケールバー:50μm。***は、ボンフェローニ検定による一元ANOVAにより、PBS群に対しP<0.001。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本発明は、抑制性C3転換酵素エフェクタードメイン、抑制性C5転換酵素エフェクタードメイン(C5結合ドメイン)、および場合により抑制性TCC形成ドメインおよび/または二量体化モチーフを含むポリペプチドに関する。
【0023】
本発明に関し「抑制性C3転換酵素エフェクタードメイン」は、C3転換酵素を抑制すること、すなわちC3転換酵素形成を抑制することのできるアミノ酸配列を指す。C3転換酵素の抑制は典型的には、対照と比較して、補体第2経路活性化後にC3b沈着が抑制される場合または低下したC3a生成がある場合に存在する。C3bおよびC3aの生成は、図4Aまたは図4Cにそれぞれ示すように、アッセイにおいて測定することができる。別の一態様においては、抑制性C3転換酵素エフェクタードメインは、C3転換酵素解離促進活性およびコファクター活性を有する。C3転換酵素解離促進活性は、図2Bに示すように、アッセイにおいて測定することができる。コファクター活性は、図2C〜2Dに示すように、アッセイにおいて測定することができる。
【0024】
いくつかの態様においては、抑制性C3転換酵素エフェクタードメインは、FHの断片である。本発明において、FHは、配列番号1に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するタンパク質を意味する。FHの、配列番号1に示すアミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%である。最も好ましくは、FHは、配列番号1に示すアミノ酸配列を含むか、または配列番号1に示すアミノ酸配列からなる。
【0025】
2つのアミノ酸配列の間の配列比較およびパーセント同一性(およびパーセント類似性)決定は、任意の適当なプログラムを用いて、例えばプログラム「BLAST 2 SEQUENCES (blastp)」(Tatusova et al. (1999) FEMS Microbiol. Lett. 174, 247-250)を、Matrix BLOSUM62; Open gap 11 and extension gap 1 penalties; gap x_dropoff50; expect 10.0 word size 3; Filter: noneのパラメータで用いて行うことができる。
【0026】
C3転換酵素エフェクタードメインは、好ましくは、FHのSCR1−4を含むか、またはFHのSCR1−4からなる。一態様においては、C3転換酵素エフェクタードメインは、配列番号1のアミノ酸19〜264を含むか、または配列番号1のアミノ酸19〜264からなる。
【0027】
他の一態様においては、抑制性C3転換酵素エフェクタードメインは、FHR2の断片である。本発明において、FHR2は、配列番号3に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するタンパク質を意味する。FHR2の、配列番号3に示すアミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%である。最も好ましくは、FHR2は、配列番号3に示すアミノ酸配列を含むか、または配列番号3に示すアミノ酸配列からなる。
【0028】
C3転換酵素エフェクタードメインは、好ましくは、FHR2のSCR1−4を含むか、またはFHのSCR1−4からなりうる。一態様においては、C3転換酵素エフェクタードメインは、配列番号3のアミノ酸22〜268を含むか、または配列番号3のアミノ酸22〜268からなる。
【0029】
本発明に関し「抑制性C5転換酵素エフェクタードメイン」は、C5転換酵素を抑制することのできるアミノ酸配列を指す。C5転換酵素の抑制(C5分解の阻止)は典型的には、低下したC5a生成がある場合に存在する。C5aの生成は、図4Dに示すように、アッセイにおいて測定することができる。他の1つの実験アプローチにおいては、抑制性エフェクタードメインのC5への結合が示される(図3A)。これにより、実験用C5転換酵素によるC5のC5aおよびC5bへの分解が抑制され、MAC形成および細胞溶解が抑制される(図3B)。
【0030】
いくつかの態様においては、抑制性C5転換酵素エフェクタードメインは、FHR1の断片である。本発明において、FHR1は、配列番号2に示すアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性を有するタンパク質を意味する。FHR1の、配列番号2に示すアミノ酸配列とのアミノ酸配列同一性は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらに好ましくは少なくとも95%である。最も好ましくは、FHR1は、配列番号2に示すアミノ酸配列を含むか、または配列番号2に示すアミノ酸配列からなる。FHR1のSCR1−2は、C5に結合し、C5転換酵素によるC5の分解を阻止するほか、図5に示すようにMFHR1の多量体化(該ポリペプチドの機能を増幅する)をもたらす二量体化モチーフを含む。FHR1のSCR1−2は、C5転換酵素を抑制するほか、C5b−6を結合することによりMAC形成を阻止する(図3C)。
【0031】
抑制性C5転換酵素エフェクタードメインは、好ましくは、FHR1のSCR1およびSCR2を含むか、またはFHR1のSCR1およびSCR2からなる。一態様においては、C5転換酵素エフェクタードメインは、配列番号2のアミノ酸22〜142を含むか、または配列番号2のアミノ酸22〜142からなる。
【0032】
抑制性C3転換酵素エフェクタードメイン、抑制性C5転換酵素および抑制性MAC形成エフェクタードメインは、直接に、またはリンカーを介して融合しうる。リンカーは、ペプチドリンカーまたは非ペプチドリンカーでありうる。リンカーは、好ましくは1〜100個のアミノ酸、より好ましくは1〜50個のアミノ酸、より好ましくは1〜20個のアミノ酸、より好ましくは1〜10個のアミノ酸、最も好ましくは1〜5個のアミノ酸からなる。リンカー配列は通常、C3転換酵素エフェクタードメインのアミノ酸配列および抑制性C5転換酵素エフェクタードメインのアミノ酸配列に対して異種である。
【0033】
本発明のポリペプチドは、構造:A−Bを有しうる。この構造中、Aは、本発明において規定されるC3転換酵素エフェクタードメインであり、Bは、本発明において規定されるC5転換酵素エフェクタードメインである。他の一態様においては、本発明のポリペプチドは構造:B−Aを有し得、この構造中、Aは、本発明において規定されるC3転換酵素エフェクタードメインであり、Bは、本発明において規定されるC5転換酵素エフェクタードメインである。
【0034】
ある特定の態様において、本発明のポリペプチドは、配列番号4、配列番号5、配列番号6および配列番号7からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、または該アミノ酸配列からなる。
【0035】
いくつかの態様において、本発明のポリペプチドは、細胞表面結合特性を有する第3のドメインを含む。好ましくは、第3のドメインはFHの断片を含むか、またはFHの断片からなる。より好ましくは、第3のドメインはFHのSCR19およびSCR20を含むか、またはFHのSCR19およびSCR20からなる。一態様において、第3のドメインは、配列番号1のアミノ酸1107−1230を含むか、または配列番号1のアミノ酸1107−1230からなる。
【0036】
本発明のポリペプチドは、構造:A−B−Cを有しうる。この構造中、Aは、本発明において規定されるC5転換酵素エフェクタードメインであり、Bは、本発明において規定されるC3転換酵素エフェクタードメインであり、Cは、本発明において規定される第3のドメインである。他の一態様においては、本発明のポリペプチドは、構造:A−C−B、B−A−C、B−C−A、C−A−BまたはC−B−Aを有し得、ここで、A、BおよびCの意味は本発明において規定されるとおりである。記号A、BおよびCの順序はポリペプチドのN末端からC末端への配列を示し、例えばA−B−CにおいてはドメインAはN末端に、ドメインCはC末端に存在する。
【0037】
第3のドメインは、C3転換酵素エフェクタードメインおよび/またはC5エフェクタードメインおよびMACエフェクタードメインに、直接に、または先に規定したリンカーを介して融合しうる。
【0038】
ある特定の態様において、本発明のポリペプチドは配列番号8に示すアミノ酸配列を含むか、または配列番号8に示すアミノ酸配列からなる。他の一態様において、本発明のポリペプチドは配列番号9に示すアミノ酸配列を含むか、または配列番号9に示すアミノ酸配列からなる。
【0039】
本発明のポリペプチドは、補体系に関連および/または関与する障害を治療または予防するために使用することができる。そのような障害は、非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、血栓性微小血管症(TMA)、C3腎症(C3G)、IgA腎症、全身性エリテマトーデスの腎炎、腎移植患者における液性拒絶、虚血−再灌流後(例えば腎移植後)の組織傷害、過剰な補体活性化、組織傷害(例えば血液透析下のもの)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、加齢黄斑変性症(AMD)、感染性疾患、敗血症、SIRS、外傷性傷害、心筋梗塞、さらなる局所的または全身的傷害の原因である、補体活性化を伴う疾患および状態を含むが、それに限定されない。
【0040】
好ましくは、治療または予防する障害は、aHUS、TMA、C3G、IgA腎症、全身性エリテマトーデスの腎炎、PNHおよびAMDからなる群から選択される。
【0041】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドをコードする核酸を提供し、これは宿主細胞における発現のために、適当なプラスミドおよびベクターに挿入しうる。
【0042】
発現させるポリペプチドをコードする核酸は、当分野で知られた方法に従って調製することができる。FH(NCBIリファレンス配列:NM 00186.3)、FHR1(NCBIリファレンス配列:NM 002113.2)およびFHR2(NCBIリファレンス配列:NP 005657.1)のcDNA配列に基づいて、前記ポリペプチドをコードする組換えDNAを設計および生成することができる。
【0043】
タンパク質発現のために、cDNAが、発現プラスミドに正しい向きで挿入された完全なオープンリーディングフレームを含むコンストラクトを使用しうる。典型的な発現ベクターは、プラスミド含有細胞において、挿入された核酸に対応するmRNAの大量合成を指示するプロモーターを含む。典型的な発現ベクターはまた、宿主生物内における自律複製を可能にする複製起点配列、および合成されたmRNAの翻訳効率を高める配列も含む。例えばウイルスの調節エレメント(例えばEpstein Barr Virusゲノム由来のOriP配列)を用いることにより、安定な長期ベクターを自由複製体として維持しうる。ベクターをゲノムDNAに組み込んだ細胞系を生成することもでき、それによって遺伝子産物を継続的に産生することができる。通常、提供される細胞は、ポリペプチドをコードする核酸を適当な宿主細胞に導入することによって得られる。
【0044】
細胞培養およびポリペプチド発現が可能な任意の宿主細胞を、本発明に従って使用しうる。いくつかの態様において、宿主細胞は哺乳動物細胞である。他のいくつかの態様においては、宿主細胞は昆虫細胞(例えばSf9細胞)またはphyscomitrellaの細胞(例えばヒメツリガネゴケ(physcomitrella patens))である。宿主細胞は細菌細胞であってもよい。
【0045】
本発明に従って発現させた糖タンパク質を、単離および/または精製することが通常望ましい。いくつかの態様においては、精製工程の第1ステップとして、発現糖タンパク質を媒体中に放出させ、細胞および他の固形物を例えば遠心分離または濾過により除去しうる。
【0046】
発現ポリペプチドを、クロマトグラフィー(イオン交換、アフィニティ、サイズ排除、およびヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー)、ゲル濾過、遠心分離、もしくは溶解度差、エタノール沈殿を包含するがそれに限定されない標準的方法によって、および/または他の任意の利用可能なタンパク質精製方法によって、単離および精製しうる(例えば、Scopes, Protein Purification Principles and Practice 2nd Edition, Springer-Verlag, New York, 1987; Higgins, S. J. and Hames, B. D. (eds.), Protein Expression: A Practical Approach, Oxford Univ Press, 1999; およびDeutscher, M. P., Simon, M. I., Abelson, J. N. (eds.), Guide to Protein Purification: Methods in Enzymology (Methods in Enzymology Series, Vol. 182), Academic Press, 1997(いずれも参照により本書の一部とする)を参照されたい)。
【0047】
当業者は、精製方法は、精製するポリペプチドの性質、ポリペプチドを発現させた細胞の性質、および/または細胞を培養した培地の組成に応じて異なり得ることを理解しうる。
【0048】
本発明のもう一つの側面は、本発明のポリペプチド、および薬学的に許容しうる賦形剤または担体を含む医薬組成物である。医薬組成物は、ポリペプチドを、対象において補体関連障害を治療または予防するのに有効な量で含みうる。
【0049】
本明細書に記載される方法に適当な本発明のポリペプチドの医薬製剤は、所望の純度を有する糖タンパク質を、当分野で通常用いられる任意の薬学的に許容しうる担体、賦形剤または安定剤(本明細書において、これらを総称して「担体」という)、すなわち緩衝剤、安定剤、保存剤、等張化剤、非イオン性界面活性剤、抗酸化剤および他のさまざまな添加剤と混合することにより、貯蔵のために凍結乾燥製剤または水溶液として、調製しうる(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition(Osol, ed. 1980)を参照されたい)。そのような添加剤は、使用される用量および濃度で被投与体にとって無毒でなければならない。
【0050】
本発明の医薬組成物は、経口、舌下、鼻内、眼内、直腸、経皮、粘膜、局所または非経口投与用に調製しうる。非経口投与は、皮内、皮下、筋肉内(i.m.)、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、動脈内、骨髄内、心臓内、関節内(関節)、滑膜内、頭蓋内、髄腔内およびくも膜下(髄液内)注射または注入、好ましくは、マウスにおいては腹腔内(i.p.)注射、ヒトにおいては静脈内(i.v.)を包含しうる。そのような投与のために、薬物製剤の非経口注射または注入に適する任意の装置を使用しうる。例えば、医薬組成物を滅菌プレフィルドシリンジに充填しうる。
【0051】
本発明の可溶性ポリペプチドの有効な用量、総投与回数および処置期間の決定は、当業者がその能力の範囲内で十分行うことができ、標準的な用量漸増試験を用いて行うことができる。本発明の可溶性ポリペプチドの投与量は、投与する可溶性ポリペプチド、被投与体、および障害の種類および重篤度、被投与体の健康状態、治療レジメン(例えば、他の治療剤を併用するかどうか)、ならびに選択した投与経路によって異なり得、当業者は適当な用量を容易に決定することができる。
【0052】
アミノ酸配列一覧:
【実施例】
【0053】
MFHR1は、N末端FH制御活性ドメインSCR1−4(C3/C5転換酵素解離促進およびコファクター活性)とFHのC末端表面認識ドメイン(SCR19−20)にFHR1のN末端ドメイン(SCR1−2)が組み合わせられたものからなる(図1)。FHR1は、唯一知られる内因性の、C5転換酵素の補体制御因子である。FHR1 SCR1−2がC5に結合し、それによりC5aおよびC5bへのC5の分解を阻止する。FHR1 SCR1−2はさらに、C5b6に結合することによって、終末補体経路を抑制する。上記ドメインが組み合わせられることによって、補体活性化がカスケードの複数のエフェクター部位で抑制される(C3b分解、C3/C5転換酵素抑制、C5分解およびC5b−9形成の阻止)。それにより、AP関連疾患を進行させるように作用すると考えられるアナフィラトキシンC3aおよびC5aの生成の抑制ももたらされる。
【0054】
MFHR1を作成するために、上記FHおよびFHR1ドメインの求められる配列を含むcDNA断片をPCRにより増幅し、その後、セルフプライミング・オーバーラップPCRによって結合させた。DNAをpFastbac gp67-10xHisバキュロ発現ベクターにクローニングし、SF9昆虫細胞においてMFHR1を発現させた。MFHR1のアミノ酸配列を配列番号8に示す。このタンパク質を、アフィニティクロマトグラフィーおよびサイズ排除クロマトグラフィーによって精製した。SDS−PAGEおよびCommassieまたは銀染色ゲルは、MFHR1の計算される分子量に相当する58.65kDaに単一のバンドを示した(図1B)。FHR1 SCR1−2およびFH SCR1−4およびSCR19−20がうまく融合されたことが、FHR1由来ドメインSCR1−2の検出のための特異的な抗体、FH由来ドメイン1−4の検出のための抗FH1−4抗体、FH由来ドメイン20の検出のためのモノクローナル抗C18抗体、およびポリクローナルFH抗体を用いる免疫検出により確認された(図1C)。
【0055】
MFHR1は、C3bに結合し(図2A)、C3転換酵素を解離させ(図2B)、コファクター活性を示す(図2C〜2D)。血漿精製FH(FHplasma)とは対照的に、FHR1およびMFHR1は、FHR1由来SCR1−2に仲介されるC5結合能を示す(図3A)。FHR1およびMFHR1は、C5転換酵素/C5分解の抑制(図3B)およびMAC形成の抑制(図3C)により、終末経路活性化を制御する。このことは、本発明の新規融合タンパク質MFHR1は、FH(図2)およびFHR1(図3)の補体制御活性を維持するにとどまらず、その両方の性質を融合することを示す。MFHR1は、ヒツジ赤血球のaHUS血清誘発溶血をエクリズマブよりも効果的に抑制し、このことは、制御活性だけでなく、FHドメイン19−20に由来する表面認識もMFHR1において維持されていることを示している(図7A)。MFHR1の高い活性は、ELISAに基づく補体活性アッセイにおいてさらに強調された。MFHR1をスパイクしたヒト血清において、補体カスケードの活性化に続き、AP制御活性を、C3b沈着(図4A)またはC5b6−9(図4B)の測定によって測定し、CP制御活性を、WIESLAB(登録商標)CP-ELISAを用いるC5b6−9の測定によって測定した(図4E)。健常ヒト血清(NHS)またはC3G患者(再発患者、C3Nef自己抗体ポジティブ)の血清にMFHR1を添加すると、補体活性化は用量依存的に効果的に抑制される(図4A〜4B、4E、7B)。溶血アッセイにおけるように、MFHR1は、hFH(表1)、エクリズマブ、および前臨床段階で試験されている関連する他の抑制剤よりも、モル基準で高い抑制効果を示した(表1にIC50値を示す)。さらに本発明者は、MFHR1は、ヒト血清においてC3a(図4C)およびC5a(図4D)の生成を、エクリズマブよりも効果的に抑制することを示す。
【0056】
二量体化モチーフ(FHR1のSCR1により仲介される)の使用は、MFHR1の多量体複合体の形成を促進する。本発明者は、多量体複合体は制御活性がより高いことを示したが、これは、局部的に制御剤濃度を高めることによるものと考えられる(図5)。さらに、MFHR1はFHR仲介脱制御に対し抵抗性である(図6A〜B)。
【0057】
MFHR1の治療剤としての有用性は、治療法の2つのインビトロモデル、およびネズミのC3Gインビボモデルにおいて証明された。aHUS(図7A)およびC3G(図7B)の患者の血清において、MFHR1の添加は、制御されない補体活性化を効果的に低減させる。C3G様表現型を示すFH−/−欠損マウスにおいて、MFHR1の投与により、速やかに血漿C3レベルが正常化され(図8A)、糸球体C3沈着が解消された(図8B〜C)。
【0058】
【表1】
【0059】
本発明者による結果は全体として、補体活性化を、補体カスケードの複数のエフェクター部位において(C3b分解、C3/C5転換酵素阻害、C5分解およびTCC形成の阻止)、同時に、また、多量体化能によって(またはその両方で)、抑制する複合的なアプローチは、補体活性化の制御剤を改善するための「従来の」アプローチと比較して、いくつもの利点を有することを示している。FHおよびFHR1由来の異なる機能性ペプチドを含むMFHR1は、C3およびC5転換酵素の段階で、また、終末補体経路を抑制することにより、補体活性化を制御し、FHもしくはエクリズマブまたは他の既知の臨床的に意味のある補体抑制剤よりも有効でありうる。特に注目すべきことに、MFHR1は、FHR1およびFHR5による脱制御に対する抵抗性が高く、その制御効果は多量体複合体形成によって増強されうる。
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参考文献
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【0062】
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図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]