特許第6771593号(P6771593)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6771593ビールのヘイズを安定化させるための酵母タンパク質抽出物の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771593
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】ビールのヘイズを安定化させるための酵母タンパク質抽出物の使用
(51)【国際特許分類】
   C12C 5/02 20060101AFI20201012BHJP
   C12H 1/14 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C12C5/02
   C12H1/14
【請求項の数】16
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-566886(P2018-566886)
(86)(22)【出願日】2017年6月26日
(65)【公表番号】特表2019-518464(P2019-518464A)
(43)【公表日】2019年7月4日
(86)【国際出願番号】FR2017051702
(87)【国際公開番号】WO2018002505
(87)【国際公開日】20180104
【審査請求日】2019年2月19日
(31)【優先権主張番号】1655992
(32)【優先日】2016年6月27日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506261567
【氏名又は名称】ルサッフル・エ・コンパニー
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ゴッセリン イヴ
(72)【発明者】
【氏名】メニン ルディ
(72)【発明者】
【氏名】メウレマン ステファヌ
【審査官】 田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−524446(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/170714(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C 5/02
C12H 1/12−1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルのヘイズまたは濁度を安定化させるための酵母タンパク質抽出物の使用。
【請求項2】
前記ビールはホワイトビールである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記酵母タンパク質抽出物が、15kDa超の分子量を有する30〜40重量%のタンパク質を含む、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記酵母タンパク質抽出物が、30kDa超の分子量を有する30〜40重量%のタンパク質を含む、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記酵母タンパク質抽出物が、280の平均塩基数を有する10〜14重量%のリボヌクレオチドを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記酵母タンパク質抽出物が、粉末または液体の形態である、請求項1〜のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記酵母が、サッカロミセス、クルイウェロマイセス、トルラ、カンジダからなる群から選択される、請求項1〜のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記酵母が、サッカロミセスである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記酵母が、サッカロミセス・セレビシエである、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記酵母タンパク質抽出物が粉末の形態であり、ビール1ヘクトリットル(hl)当たり5g〜80gの範囲の含有量で使用される、請求項1〜のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記酵母タンパク質抽出物が、ビール1ヘクトリットル(hl)当たり20〜60gの範囲の含有量で使用される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記酵母タンパク質抽出物が、ビール1ヘクトリットル(hl)当たり30〜50gの範囲の含有量で使用される、請求項10に記載の使用。
【請求項13】
前記酵母タンパク質抽出物が、0〜80日の範囲の期間、40〜120EBCの範囲の濁度で、ビルのヘイズを安定化させることができ、前記濁度の値は、4℃の温度および90°の角度でHaffmans VOS ROTA 90/25比濁計(Analytica EBC − 方法9.30)を使用して測定される、請求項1〜12のいずれか一項に記載の使用。
【請求項14】
前記ビールはホワイトビールである、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
前記酵母タンパク質抽出物が、50〜110EBCの範囲の濁度である、請求項13に記載の使用。
【請求項16】
前記酵母タンパク質抽出物が、60〜100EBCの範囲の濁度である、請求項13に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、酵母タンパク質抽出物の新規使用、すなわち、飲料、特にビール、好ましくはホワイトビールのヘイズを安定化させるための酵母タンパク質抽出物の新規使用である。
【背景技術】
【0002】
ビールは、世界のほとんど全ての国に存在する唯一の世界共通の飲料のうちの1つである。ビールは、4つの主な成分、すなわち水、ホップ、オオムギおよび酵母から構成される。これらの要素のビールへの長期にわたる変換は、2〜3週間(工業用ビールについて)から数ヶ月(ビールの保管、高発酵ビール、トラピストビールなどについて)の範囲の期間にまで及ぶ。水の純度および品質は、ビールの清澄さおよび風味における決定因子である。水に含まれる主な無機塩(ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、硫酸塩および重炭酸塩)の割合は、口内での軟質性または硬質性に影響を及ぼすが、ビールの製造中にも影響を及ぼす。
【0003】
ホワイトビールは予想されるものとは異なり、ビールの色を示すものではなく、成分のコムギを示すものである。ホワイトビールは、オオムギ(および潜在的に他の穀物)に加えて多くの割合のコムギを含むビールである。ホワイトビールは一般に(ビールが濾過されない限り)自然のヘイズを有し、乳状の外観を与える。この乳状の外観およびドイツ語における白(ワイス)およびコムギ(ワイゼン)という言葉の意味的類似性は、「白(ホワイト)」という言葉の使用を説明する。しかしながら、色麦芽またはカラメル麦芽を使用することによって、琥珀色、茶色、または黒色でさえあるホワイトビールを製造することが可能である。
【0004】
伝統的に、2つの主な種類のホワイトビールが存在する:
− ドイツの「Weissbier/Weizenbier」は、大部分のコムギ麦芽および補足のオオムギ麦芽で製造され、多くのフェノール類を産生する特定の酵母で発酵され、クローブ(丁子)風味などのスパイシー風味を与える。
− ベルギーのホワイトビール(またはフランドル語で「witbier」)は、オオムギ麦芽および生のコムギまたはコムギ麦芽から主に得られ、一般に苦いまたは甘いオレンジ風味およびコリアンダー種子でスパイシー風味を与えられる。
【0005】
ビールのヘイズは主にタンパク質残留物(約40〜75%)およびポリフェノール(1.1〜7.7%)およびより少ない程度ではあるが、炭水化物(2〜15%)によって引き起こされる1、2(非特許文献1、2)。ヘイズは、デンプン、ペントサン、シュウ酸塩、β−グルカンなどの他の残留物にも起因し得る(非特許文献3)。
【0006】
さらに、ヘイズには2つの形態がある:可逆的であるチルヘイズ、および熟成時のビールの酸化の結果であるパーマネントヘイズ(非特許文献4)。両方の場合において、コロイドの形成に主に関与する化合物はタンパク質およびポリフェノールである。
【0007】
チルヘイズは、温度が約0℃に下がると徐々に形成されるが、ビールが再び加温すると消失する。これは、共有結合ではなく、水素結合、疎水性相互作用、およびイオン結合によって結合されるタンパク質とポリフェノールとの間の一時的な、したがって可逆的な会合に起因する。
【0008】
パーマネントヘイズに関しては、ポリフェノールが、ビールが熟成するとますます酸化されるにつれて、ポリフェノールをタンパク質に連結する結合が増加し、強化され、共有結合になる。生成した不溶性錯体は、熱の影響下ではもはや溶解せず、ヘイズはパーマネント(永久的)になる(非特許文献5)。いくつかの金属イオンの存在もまた、ヘイズの出現を促進することに留意されるべきである。
【0009】
ヘイズを引き起こすタンパク質を同定するために、今日までいくつかの研究が実施されている。したがって、アルブミンおよびオオムギグロブリンに由来する酸性タンパク質はヘイズ形成の原因であり得る(非特許文献6)。プロリンに富むタンパク質がヘイズ形成に関与していることも実証されている1、3、5、6、7(非特許文献1、3、7、8、9)。ポリフェノールに関しては、コロイド安定性に関与するものはフラボノイドである。
【0010】
ビール、特にホワイトビールの分野では、ビールが永久的で安定したヘイズを有することが必要である。これは、「乳状」外観がレシピ中の小麦の存在により、ホワイトビールの不可欠な成分であるからである。これは、このビールの特定の特性に寄与し、それを消費者に魅力的なものにする。
【0011】
ビール、サイダーまたは他のアルコールまたはノンアルコール飲料のヘイズまたは濁度を改善および/または調整するために、1種(または複数種)の曇り剤(clouding agent)を加えることが可能である。
【0012】
飲料に加えられる曇り剤は、より自然な外観を飲料に与える。
【0013】
飲料に一般に使用される曇り剤の中で、タンパク質、水溶性ガムおよび油溶性ガムを挙げることができる。
【0014】
水溶性ガムの例として、懸濁粒子の沈殿を防止するために飲料中で作用するアラビアガムまたはアカシアガムが挙げられる。
【0015】
曇り剤の例として、販売されているものを挙げることもできる:
− 水中のコプラエキスのエマルションである、CBS(Customized Brewing Solutions)による名称「Cloudix WB(登録商標)」、
− 酵母誘導体である、Kerryによる名称「Biocloud(登録商標)」。
【0016】
しかしながら、従来技術の曇り剤は、それらが常に安定であるとは限らないので、ビール、特にホワイトビールに特に適していない。実際に、ホワイトビール中に存在するにもかかわらず、その濁度は経時的に減少する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Steiner E.,Becker T. and Gastl M.,Turbidity and Haze Formation in Beer − Insights and Overview,2012,J.Inst.Brew.,116,360−368
【非特許文献2】Delvaux,F.,Delvaux,F.R.,Delcour,J.A.,Characterisation of the colloidal haze in commercial and pilot scale Belgian white beers,2000,J.Inst.Brew.,106,221−227
【非特許文献3】Bamforth,C.W.,Beer haze.1999,J.Am.Soc.Brew.Chem.,57(3),81−90
【非特許文献4】Nadzeyka,A.,Altenhofen,U. and Zahn,H.,The significance of beer proteins in relationship to cold break and age−related haze Formation,1979,Brauwissenschaft,32(6),167−172
【非特許文献5】Siebert,K.J.,Carrasco,A. and Lynn,P.Y.,Formation of protein−polyphenol haze in beverages,1996,J.Agr.Food Chem.,44(8),1997−2005
【非特許文献6】Loisa,M.,Nummi,M. and Daussant,J.,Quantitative determination of some beer protein components by an immunological method,1971,Brauwissenschaft,24(10),366−368
【非特許文献7】Asano,K.,Shinagawa,K. and Hashimoto,N.,Characterization of haze−forming proteins of beer and their roles in chill haze formation,1982,J.Am.Soc.Brew.Chem.,40(4),147−154
【非特許文献8】Limure,T.,Nankaku,N.Watanabe−Sugimoto,M.,Hirota,N.,T.Z.,Kihara,M.,Hayashi,K.,Ito,K. and Sato,K.,Identification of novel haze−active beer proteins by proteome analysis,2009,J.Cereal Sci.,49(1),141−147
【非特許文献9】Leiper,K.A.,Stewart,G.G. and McKeown,I.P.,Beer polypeptides and silica gel. Part I. Polypeptides involved in haze formation,2003,J.Inst.Brew.,109(1),57−72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、飲料、より特にはビール、好ましくはホワイトビールのための新規な曇り剤または濁り剤を開発する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、全く予想外かつ驚くべきことに、酵母タンパク質抽出物が、飲料、特にビール、好ましくはホワイトビールのヘイズまたは濁度を経時的に満足のいく方法で安定化させることができることを発見した。
【0020】
酵母タンパク質抽出物は、飲料、特にワインを清澄化するための使用について従来技術において特に記載されているので、この発見は全く予想外である10
【0021】
「清澄化」は、特に製品の透明性、濾過性および安定性を改善する目的で、処理すべき製品(液体、マスト/麦汁)に、沈殿物における沈殿によって、前記製品中に懸濁された粒子を凝集および沈降させることができる物質を導入することからなる技術である。したがって、清澄化により、製品中に懸濁された可視および/または不可視粒子、ならびにまた、ヘイズおよび前記製品の濾過性の欠如の原因であるコロイドの負荷が、大幅に低減されるか、またはさらに完全に排除される。
【0022】
したがって、本発明によれば、酵母タンパク質抽出物は、ある特定の意味で、従来技術によって示唆されたものとは逆の作用を有するので、本発明者らの発見は全く予想外である。
【0023】
実際に、本発明によれば、酵母タンパク質抽出物は、沈殿(清澄化)によって懸濁粒子を除去するために使用されず、むしろ反対に、懸濁粒子の沈殿を阻止するため(ヘイズ安定化)に使用される。
【0024】
したがって、本発明の対象は、飲料、特にビール、好ましくはホワイトビールのヘイズまたは濁度を安定化させるための酵母タンパク質抽出物の使用である。
【0025】
本出願において、飲料、特にビールのヘイズは、飲料、特にビールの濁度を示す。
【0026】
濁度は、そのヘイズを引き起こす液体中の物質の含有量を示す。
【0027】
濁度は、比濁法、不透明度測定法および濁度測定法などの、濁った媒体についての異なる測光法によって測定される。一般的には、それは、NTU(ネフェロメ濁度単位:Nephelometric Turbidity Units)で表される。醸造分野では、ヘイズ測定単位は、EBC(European Brewing Convention)、ASBC(American Society of Brewing Chemists)、HelmおよびFTU(Formazin Nephelometric Unit)である。これらの異なる単位間の関係は次の通りである:1EBC=69.2ASBC=40Helm=4FTU(Analytica EBC − 方法9.30)。
【0028】
濁度測定は、濁度計または比濁計などの装置を使用して実施される。これは、一般に、液体によって散乱された光を測定する光電受容体である。より詳細には、それは、液体中の懸濁物質の濃度を評価することを可能にする懸濁液による光の散乱である。この装置は一般に、白色光源または赤外線光源からなる。比濁法では、散乱光は入射光に対して90°の角度および25°の角度で測定される。濁度測定では、散乱光は入射光の軸に配置された検出器によって測定される。
【0029】
本発明に従って使用される酵母タンパク質抽出物(YPE)は、「無傷」酵母、すなわち、生きている、または不活性化された「全」酵母の原形質分離および溶解に由来する生成物を示す。
【0030】
本発明により使用される酵母タンパク質抽出物は、15kDa超、好ましくは30kDa超の分子量を有する30〜40重量%のタンパク質を含む。
【0031】
本発明により使用される酵母タンパク質抽出物はまた、280の平均塩基数を有する10〜14重量%のリボヌクレオチドを含む。
【0032】
例えば、本発明により有益に使用される酵母タンパク質抽出物は、
− 15kDa超、好ましくは30kDa超の分子量を有する30〜40重量%のタンパク質、
− 280の平均塩基数を有する10〜14重量%のリボヌクレオチド
を含み、重量パーセンテージはYPEの全重量に対して定義される。
【0033】
本発明により使用される酵母タンパク質抽出物(YPE)は、特別に選択された酵母株からの天然タンパク質の抽出および保存を可能にする方法により得られるので、特に好都合である。
【0034】
YPEを調製するための方法の主要なステップは、以下の通りである:
− 一方で、内部高分子を酵母からその天然の状態で放出し、他方で、これらの高分子の溶解酵素を不活性化するために、無傷(全)酵母の原形質分解、
− 遠心分離による分離、
− YPEを含む可溶性画分の回収、
− 任意選択で可溶性画分の乾燥。
【0035】
本発明により使用される酵母タンパク質抽出物は、多かれ少なかれ濃縮された粉末または液体の形態、好ましくは粉末の形態であってもよい。
【0036】
本発明によれば、酵母は、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)、クルイウェロマイセス(Kluyveromyces)、トルラ(Torula)、カンジダ(Candida)からなる群から選択され、好ましくはサッカロミセスであり、有益にはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。
【0037】
本発明に従って使用されるYPEの例として、「Spring’Finer(登録商標)」の名称でFermentisによって販売されているYPEを挙げることができる。
【0038】
より詳細には、サッカロミセス・セレビシエ酵母株に由来するタンパク質抽出物である。
【0039】
もっぱら酵母起源のもので、YPE「Spring’Finer(登録商標)」はアレルゲンを含まない。
【0040】
本発明の有益な実施形態によれば、酵母タンパク質抽出物は粉末の形態であり、飲料1ヘクトリットル(hl)当たり5g〜80g、好ましくは20〜60g/hl、より好ましくは30〜50g/hlの範囲の含有量で使用される。
【0041】
飲料がビール、特にホワイトビールである場合、30〜50g/hlの含有量での酵母タンパク質抽出物の使用が特に好適である。
【0042】
本発明の有益な実施形態によれば、酵母タンパク質抽出物は、0〜80日の範囲の期間、40〜120EBC、好ましくは50〜110EBC、さらにより好ましくは60〜100EBCの範囲の濁度で、飲料、特にビール、好ましくはホワイトビールのヘイズを安定化させることができ、濁度の値は、4℃の温度および90°の角度でHaffmans VOS ROTA90/25比濁計(Analytica EBC − 方法9.30)を使用して測定される。
【0043】
Haffmans VOS ROTA 90/25比濁計は、2つの測定角度にてボトルおよびキュベット中でビールのヘイズを測定するように設計される:
− 90℃の角度にて主に光の分散を引き起こす、タンパク質などの1μm未満の粒子、
− 25℃の角度にて主に光の分散を引き起こす、酵母などの1μmを超える粒子。
【0044】
この機器は最近のMEBAK推奨に適合する。
【0045】
濁度の値は、EBC、ASBC、HelmまたはFTUで表される。これらの異なる単位の間の関係は次の通りである:1EBC=69.2ASBC=40Helm=4FTU。
【0046】
適切な濃度の酵母タンパク質抽出物を使用することにより、飲料、特にビール、好ましくはホワイトビールのヘイズの経時的な満足のいく安定化が可能になる。
【0047】
経時的な安定性は、4℃の温度での保存条件下で80日まで延びる安定性を意味することを意図する。
【0048】
本発明をここで、完全に非限定的な例示として与えられる以下の実施例および図面を使用して説明する。
【0049】
本発明の例で使用されるYPEは、「Spring’Finer(登録商標)」YPEであり、区別せずに「YPE」または「Spring’Finer YPE」と示される。それは、その溶解を促進し、その使用を確実にする、微小顆粒形態の完全に可溶性の製品である。pH調整などの使用前の処理は必要としない。
【0050】
本発明のYPEは、従来技術の曇り剤、すなわち、酵母誘導体である、Kerryによって販売されている「Biocloud(登録商標)」と比較される。
【0051】
本発明の実施例に記載された濁度の値は、Haffmans VOS ROTA 90/25濁度計により測定され、EBCで表される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】時間tにおける90°の角度(図1a)および25°の角度(図1b)における、「ピルス」型の安定化させたビールの濁度(EBC)に対する曇り剤(YPEおよびBiocloud)の濃度(g/hl)の影響を示す。濁度は4℃の温度にて測定する。
図2】「天然」YPE、すなわち低温殺菌を受けていないYPEが添加された、安定化させていないビールについて、時間(日数で表す)の関数として得られた濁度の値(EBC)を示す。試料を20℃にて保存し、測定を20℃の温度および90°の角度にて実施した。異なる濃度のYPE(0、20、30、50g/hl)を試験した。図2aは、ビールの試料が測定前に撹拌されていないときに得られた結果に関し、図2bは、ビールの試料が測定前に撹拌されたときの結果に関する。
図3】「天然」YPEが添加された、安定化させていないビールについて、時間(日数)の関数として得られた濁度の値(EBC)を示す。試料を4℃にて保存し、測定を4℃の温度および90°の角度にて実施する。異なる濃度のYPE(0、20、30、50g/hl)を試験した。図3aは、ビールの試料が測定前に撹拌されていないときに得られた結果に関し、図3bは、ビールの試料が測定前に撹拌されたときの結果に関する。
図4】70℃にて20分間低温殺菌したYPEが添加された、安定化させていないビールについて、時間(日数)の関数として得られた濁度の値(EBC)を示す。試料を20℃にて保存し、測定を20℃の温度および90°の角度にて実施する。異なる濃度のYPE(0、20、30、50g/hl)を試験した。図4aは、ビールの試料が測定前に撹拌されていないときに得られた結果に関し、図4bは、ビールの試料が測定前に撹拌されたときの結果に関する。
図5】70℃にて20分間低温殺菌したYPEが添加された、安定化させていないビールについて、時間(日数)の関数として得られた濁度の値(EBC)を示す。試料を4℃にて保存し、測定を4℃の温度および90°の角度にて実施する。異なる濃度のYPE(0、20、30、50g/hl)を試験した。図5aは、ビールの試料が測定前に撹拌されていないときに得られた結果に関し、図5bは、ビールの試料が測定前に撹拌されたときの結果に関する。
図6図2〜5から得られた全てのデータをまとめているヒストグラムである。より詳細には、撹拌したまたはしていない、20℃、4℃にて、安定化させていないビールにおける30g/hlの濃度にてYPE(天然YPE、70℃にて20分間低温殺菌したYPE)について得られた濁度を示す。
図7】撹拌したまたはしていない、20℃、4℃にて、「ピルス」型の安定化させたビールにおける30g/hlの濃度にてYPE(天然YPE、ボトルに添加する前に70℃にて20分間低温殺菌したYPE、およびビールを含むボトル中で70℃にて20分間低温殺菌したYPE)について得られた濁度を示すヒストグラムである。
【実施例】
【0053】
実施例1:本発明のYPEと従来技術の曇り剤「Biocloud(登録商標)」との比較
この実施例は、「ピルス」型の安定化させたビールの濁度に対する曇り剤(YPEまたはBiocloud)の濃度の影響を研究する。
【0054】
本発明によるYPE曇り剤(Spring’Finer)を、従来技術のBiocloud(登録商標)曇り剤と比較する。
【0055】
使用したビールは「ピルス」型である。ピルゼナー、ピルゼンまたはピルスナーとも称される。それは、ラガー型に類似した低発酵の透明なブロンドビールである。それは、約5度のアルコール含量を有し、使用されるホップの種類に応じて、中程度の苦味を有する。
【0056】
ボトルに添加する前に、各曇り剤(YPEまたはBiocloud)を、1本のボトルに相当する体積のピルスビールに溶解する。使用される曇り剤の質量は、それが100倍に濃縮されるようなものである。次いで、溶液中の曇り剤をその体積の1/100の量でボトルに添加することが必要である。
【0057】
試験した最終濃度は、ピルスビール1ヘクトリットル(hl)当たり0〜50グラム(g)の範囲の曇り剤である。
【0058】
上記を例示するために、50g/hlの最終濃度の曇り剤について計算する例をここで提示する。12.5gの曇り剤を250mlのピルスビールに溶解し、5000g/hlの濃度を得る。次に、この溶液2.5mlを250mlボトルのピルスビールに加える。希釈係数は100(250/2.5)であるので、最終濃度は、250mlボトルのピルスビール当たり実際に50g/hlの曇り剤である。
【0059】
試料をホモジナイズ(撹拌)して、その後、測定する。
【0060】
ビールの試料の90°の角度および25°の角度での濁度の測定を、Haffmans VOS ROTA 90/25比濁計を用いて4℃にて実施する。濁度の値はEBCで表す。
【0061】
結果
その結果を図1図1aおよび図1b)に示す。
【0062】
濁度の値は、曇り剤の濃度と共に直線的に増加する。
【0063】
YPEは、Biocloudよりもビールにおいて微細なヘイズをもたらす。実際に、YPEについての濁度は25°よりも90°で高く、一方、Biocloudについてはその逆が観察されることに留意されたい。
【0064】
結論
YPEはBiocloudよりも微細なヘイズを与え、より均一であり、したがって消費者にとってより魅力的であるという利点を与えるようである。さらに、ボトルの底部に沈殿する傾向が少なく、このようにしてヘイズの経時的な安定性にプラスの影響を与える。
【0065】
実施例2:YPEで得られた濁度の値に対するビールの種類および温度の影響
試験製品:
本発明のYPEの曇り剤(Spring’Finer)
ビールA:濾過し、安定化させ(ヘイズの原因となる「タンパク質−ポリフェノール」複合体を全て除去した)、低温殺菌したビール。
ビールB:遠心分離し、低温殺菌したビール(安定化させていない)。
ビールC:遠心分離したビール(低温殺菌しておらず、安定化させていない)。
【0066】
ボトルに添加する前に、曇り剤YPEを1本のボトルに相当する体積のビールA、BまたはCに溶解し、70℃の温度で20分間低温殺菌する。使用する曇り剤の質量は、それが100倍に濃縮されるようなものである。次いで、溶液中の曇り剤をその体積の1/100の量でボトルに添加することが必要である。
【0067】
各ボトル中の最終濃度は、ビール1ヘクトリットル(hl)当たり、予め溶解した30グラム(g)のYPEである。
【0068】
試料をホモジナイズ(撹拌)し、その後、測定する。
【0069】
ビール試料の濁度の測定は、Haffmans VOS ROTA 90/25比濁計を用いて、90°の角度、20℃および4℃の温度で実施する。濁度の値はEBCで表す。
【0070】
結果
結果を以下の表1に示す。
表1:30g/hlのYPE(溶液中で予め低温殺菌した)を含むビールの試料(A、B、C)および2つの市販のベルギーホワイトビール(ホワイト1、ホワイト2)について90°の角度、20℃および4℃での濁度の値(EBC)
【0071】
【表1】
【0072】
濁度の値は20℃の温度よりも4℃の温度の方が高い:YPEはポリペプチドおよびポリフェノールの会合に起因するチルヘイズの形成に関与する。
【0073】
予想されるように、YPEの存在下でのチルヘイズの形成は、安定化させていないビール(BおよびC)において向上する。これは、安定化させたビール(A)において、ヘイズの原因となる「タンパク質−ポリフェノール」複合体の全てが除去されたためである。
【0074】
結論
安定化させていないビール(BおよびC)に添加されたYPEは、市販のベルギーホワイトビール(ホワイト1およびホワイト2)と同様のチルヘイズを達成することを可能にする。
【0075】
実施例3:安定化させていないビールにおけるYPEの使用に関連するヘイズの安定性
試験製品:
本発明の曇り剤YPE(Spring’Finer)
ビールC:遠心分離したビール(低温殺菌せず、安定化していない)。
【0076】
ボトルに添加する前に、曇り剤YPEを1本のボトルに相当する体積のビールCに溶解する。使用する曇り剤の質量は、それが100倍に濃縮されるようなものである。次いで、溶液中の曇り剤をその体積の1/100の量でボトルに添加することが必要である。
【0077】
処理:
低温殺菌なし:天然YPE
YPEの溶液を100倍に濃縮し(ビールCに予め溶解することによって得た)、70℃で20分間低温殺菌し、その後、ボトルに添加する。
【0078】
ボトル中で最終的に試験した濃度は、1hlのビール当たり0、20、30および50gの予め溶解したYPEである。
【0079】
ビール試料の濁度の測定は、Haffmans VOS ROTA 90/25比濁計を用いて90°、20℃および4℃の温度で実施する。濁度の値はEBCで表す。
【0080】
YPEを含有するビールの濁度を75日の期間にわたって測定する。ビールを20℃および4℃で保存し、その濁度を、試料のホモジナイズ(撹拌)前およびホモジナイズ後に測定する(ビールの供給状態を再現するために:「グラスに充填する前に最初にグラスの半分を注ぎ、ボトルを穏やかに回転させる」)。
【0081】
結果
結果を図2〜6に示す。
【0082】
1)溶液中の天然YPE(曇り剤YPEの低温殺菌なし)
天然YPEを異なる濃度で添加したビールCについて時間の関数として得られた濁度の値を示す:
− 20℃の温度で、図2a(測定前の撹拌なし)および図2b(測定前の撹拌あり)、
− 4℃の温度で、図3a(測定前の撹拌なし)および図3b(測定前の撹拌あり)。
【0083】
2)溶液中のYPE、70℃の温度で20分間低温殺菌し、その後、ボトルに添加する
溶液中の低温殺菌したYPEを異なる濃度で添加したビールCについて時間の関数として得られた濁度の値を示す:
− 20℃の温度で、図4a(測定前の撹拌なし)および図4b(測定前の撹拌あり)、
− 4℃の温度で、図5a(測定前の撹拌なし)および図5b(測定前の撹拌あり)。
【0084】
3)30g/hlの濃度に対するポイント1および2の要約
撹拌ありまたはなしで、20および4℃で測定した、溶液中の天然YPEおよび低温殺菌したYPEを30g/hlの量で添加したビールCについての濁度の値を図6に示す。
【0085】
図2〜6からの観察および結論
曇り剤を使用する主な目的は、ヘイズが経時的に安定したままであり、したがってボトルの底部に沈殿しないことである。
【0086】
(天然または低温殺菌した)YPEの使用によるビールのヘイズは最初にわずかに減少するが、最終的には安定化する。
【0087】
再び、濁度の値は、20℃の温度よりも4℃の温度の方が高い:YPEは、ポリペプチドおよびポリフェノールの会合に起因するチルヘイズの形成に関与する。
【0088】
したがって、一方では使用が簡単であり、他方では経時的なビールのヘイズの良好な安定性を可能にするので、天然YPEの使用は良好な選択である。
【0089】
実施例4:ピルスビールにおけるYPEの使用に関連するヘイズの安定性
試験製品:
本発明のYPEの曇り剤(Spring’Finer)
ビールA:濾過し、安定化させ(ヘイズの原因となる「タンパク質−ポリフェノール」複合体を全て除去した)、低温殺菌したビール。
【0090】
ボトルに添加する前に、曇り剤YPEを、1本のボトルに相当する体積のビールAに溶解する。使用する曇り剤の質量は、それが100倍に濃縮されるようなものである。次いで、溶液中の曇り剤をその体積の1/100の量でボトルに添加することが必要である。
【0091】
処理:
低温殺菌なし:天然YPE
YPEの溶液を100倍に濃縮し(ビールAに予め溶解することによって得た)、70℃にて20分間低温殺菌し、その後、ボトルに添加する。
【0092】
100倍濃縮した、低温殺菌していないYPE溶液を添加した後、70℃にて20分間ボトルを低温殺菌する。
【0093】
ボトル中で最終的に試験した濃度は、ビール1hl当たり、予め溶解した0、20、30および50gのYPEである。
【0094】
ビール試料の濁度の測定は、Haffmans VOS ROTA 90/25比濁計を用いて、90°、20℃および4℃の温度にて実施する。濁度の値はEBCで表す。
【0095】
YPEを含有するビールの濁度を75日の期間にわたって測定する。ビールを20℃および4℃で保存し、その濁度を試料のホモジナイズ(撹拌)前およびホモジナイズ後に測定する。
【0096】
結果
天然YPR(30g/hl)、予め低温殺菌した溶解したYPE(30g/hl)、およびビールを含むボトル内で溶解し、低温殺菌したYPE(30g/hl)を加えたビールAについて90°の角度、撹拌したまたはしていない20℃および4℃にて測定した濁度の値を図7に示す。
【0097】
観察および結論
天然YPEまたは低温殺菌したYPEを含むビールにおけるヘイズがビールの保存の間に著しく減少することが図7から見出され得る。
【0098】
4℃でのYPE(天然または低温殺菌した)の存在下でのヘイズの経時的な安定性は、安定化させたビールではマイナスの影響を受けるが、安定化させていないビールではそのようなことはない(図6を参照のこと)。
【0099】
これは、ピルス型の安定化させたビール(ビールA)において、ヘイズに関与する全ての「タンパク質−ポリフェノール」複合体が除去されたからである。
【0100】
さらに、予め溶解したYPEを含むビールの低温殺菌は、その構造に関して曇り剤に影響を及ぼし、したがってヘイズの安定性に影響を及ぼすようである。これは、試料が測定前にホモジナイズされない場合、ヘイズの有意な低下が観察されるが、ボトルが撹拌されると前記ヘイズが完全に再懸濁され、YPEが分解されたことを示唆するからである。
【0101】
参考文献
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7