(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光透過性の無機層が第1の主面の大半を覆って設けられていないガラス基板と比べた場合、バーコビッチ圧子および約160mNまでの荷重を使用して引っ掻いたときに、引っ掻き傷の幅が少なくとも20%減少している、請求項1記載の耐引掻性ガラス物品。
【発明を実施するための形態】
【0018】
耐引掻性ガラス物品を形成する方法は、互いに対向する2つの主面を有する化学強化ガラス基板を提供する工程、および第1の主面の大半を覆って光透過性の無機層を形成する工程を有してなる。その基板の化学強化に悪影響を与えるのを防ぐために、前記形成工程は、そのガラス基板を500℃の最高温度に加熱する工程を含む。無機層を形成する工程中の基板の温度は、約−200℃から500℃に及び得る。実施の形態において、基板の温度は、無機層の形成中に、ほぼ室温と約500℃の間の温度、例えば、500℃未満または300℃未満の温度に維持される。
【0019】
ここに開示された方法は、ガラス基板の化学強化の悪影響に対処するものである。ガラス基板の化学強化への悪影響は、工程条件による無機層の性質へのどのような悪影響または有益な影響からも区別すべきである。1つ以上の実施の形態において、ガラス基板の化学強化への悪影響は、ここにさらに詳しく論じられるように、化学強化プロセスによってガラス基板に生じる圧縮応力の緩和を含むことがある。
【0020】
ガラス基板120上に形成された無機層110を備えた耐引掻性ガラス物品100が
図1に示されている。
【0021】
ガラス基板自体は、様々な異なるプロセスを使用して提供してよい。例えば、例示のガラス基板形成方法としては、フロート法、並びにフュージョンドロー法およびスロットドロー法などのダウンドロー法が挙げられる。
【0022】
フロートガラス法において、滑らかな表面および均一な厚さにより特徴付けられることのあるガラス板は、溶融金属、通常はスズの床上に溶融ガラスを浮かせることによって製造される。例示のプロセスにおいて、溶融スズ床の表面上に供給される溶融ガラスが、浮いているリボンを形成する。そのガラスリボンがスズ浴に沿って流れながら、固体のガラス板がスズからローラ上に持ち上げられるようになるまで、温度が徐々に低下する。一旦、浴から外されると、そのガラス板は、さらに冷却し、アニールして、内部応力を減少させることができる。
【0023】
ダウンドロー法では、均一な厚さを有し、比較的無垢な表面を備えたガラス板が製造される。ガラス表面の強度は、表面傷の量とサイズにより制御されるので、接触が最小の無垢表面は、初期強度がより高い。次いで、この高強度ガラスが化学強化されると、結果として生じた強度は、ラップ仕上げされ、研磨された表面の強度よりも高いことがあり得る。ダウンドロー法により製造されたガラスは、約2mm未満の厚さまで板引き(drawn)されることがある。その上、ダウンドロー法により製造されたガラスは、非常に平らで滑らかな表面を有し、これは、費用のかかる研削と研磨を必要とせずに、最終用途に使用することができる。
【0024】
フュージョンドロー法では、例えば、溶融ガラス原材料を受け入れるための通路を有する板引き用タンクが使用される。その通路は、通路の両側に通路の長手方向に沿って上部が開いた堰を有する。その通路が溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰を越えて溢れる。溶融ガラスは、重力のために、板引き用タンクの外面を下方に流れる。これらの外面は、板引き用タンクの下の縁で接合するように、下方と内方に延在している。2つの流れるガラス表面は、この縁で結合して融合し、1つの流れる板を形成する。フュージョンドロー法は、通路を越えて流れる2つの薄いガラス膜が共に融合するので、結果として得られるガラス板の外面の両方とも、装置のどの部分とも接触しないという利点を提示する。このように、フュージョンドロー法により形成されたガラス板の表面特性は、そのような接触により影響を受けない。
【0025】
スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。ここでは、溶融原材料ガラスが板引き用タンクに供給される。板引き用タンクの底部に開放スロットがあり、このスロットは、スロットの長さに伸びるノズルを有している。溶融ガラスはスロット/ノズルを通って流れ、連続板として下方に、アニール領域へと板引きされる。このスロットドロー法は、2枚の板が共に融合されるのではなく、1枚の板だけがスロットを通って板引きされるので、フュージョンドロー法よりも薄い板を提供することができる。
【0026】
いくつかの実施の形態において、化学強化ガラス基板には、Na
2SO
4、NaCl、NaF、NaBr、K
2SO
4、KCl、KF、KBr、およびSnO
2を含む群から選択される少なくとも1種類の清澄剤が0〜2モル%バッチ配合されることがある。
【0027】
ガラス基板は、一旦形成されたら、イオン交換プロセスによって化学強化してよい。このプロセスにおいて、通常は、ガラス基板を所定の期間に亘り溶融塩浴中に浸漬することによって、ガラスの表面またはその近くのイオンが、塩浴からのより大きい金属イオンと交換される。1つの実施の形態において、溶融塩浴の温度は約430℃であり、所定の期間は約8時間である。より大きいイオンをガラス中に含ませることによって、表面近くの領域に圧縮応力が生じるために、基板が強化される。その圧縮応力を釣り合わせるために、対応する引張応力がガラスの中央領域内に誘発される。
【0028】
1つの例示の実施の形態において、化学強化ガラス中のナトリウムイオンは、溶融浴からのカリウムイオンにより置換することができるが、ルビジウムやセシウムなどの原子半径のより大きい他のアルカリ金属イオンも、そのガラス中のより小さいアルカリ金属イオンを置換し得る。特別な実施の形態によれば、ガラス中のより小さいアルカリ金属イオンは、Ag
+イオンにより置換され得る。同様に、以下に限られないが、硫酸塩、ハロゲン化物などの他のアルカリ金属塩をイオン交換プロセスに使用してもよい。
【0029】
ガラス網目構造が緩和し得る温度より低い温度で、より小さいイオンをより大きいイオンで置換すると、ガラスの表面に亘り、応力プロファイルをもたらすイオン分布が生じる。入り込むイオンの体積がより大きいために、ガラスの表面に圧縮応力(CS)が、ガラスの中央に張力(中央張力、またはCT)が生じる。この圧縮応力は、以下の近似の関係式により中央張力に関連付けられる:
【0031】
式中、tはガラス板の全厚であり、DOLは、層の深さとも称される、交換の深さである。
【0032】
1つの実施の形態において、化学強化ガラス板は、少なくとも300MPa、例えば、少なくとも400、450、500、550、600、650、700、750または800MPaの表面圧縮応力、少なくとも約20μm(例えば、少なくとも約20、25、30、35、40、45または50μm)の層の深さ、および/または40MPa超(例えば、40、45、または50MPa超)であるが、100MPa未満(例えば、100、95、90、85、80、75、70、65、60、または55MPa未満)の中央張力を有し得る。
【0033】
ガラス基板として使用してよい例示のイオン交換可能なガラスは、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスまたはアルカリアルミノホウケイ酸塩ガラスであるが、他のガラス組成物も考えられる。ここに用いたように、「イオン交換可能な」は、ガラスが、そのガラスの表面またはその近くに位置する陽イオンを、サイズがそれより大きいか小さい同じ価数の陽イオンと交換できることを意味する。ガラス組成物の一例は、SiO
2、B
2O
3およびNa
2Oを含み、ここで、(SiO
2+B
2O
3)≧66モル%およびNa
2O≧9モル%である。ある実施の形態において、ガラス基板は少なくとも6質量%の酸化アルミニウムを含む。さらに別の実施の形態において、ガラス基板は、アルカリ土類酸化物の含有量が少なくとも5質量%であるように、1種類以上のアルカリ土類酸化物を含む。適切なガラス組成物は、いくつかの実施の形態において、K
2O、MgO、およびCaOの内の少なくとも1つをさらに含む。特別な実施の形態において、ガラス基板は、61〜75モル%のSiO
2、7〜15モル%のAl
2O
3、0〜12モル%のB
2O
3、9〜21モル%のNa
2O、0〜4モル%のK
2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含んで差し支えない。
【0034】
ガラス基板に適したさらに別の例のガラス組成物は、60〜70モル%のSiO
2、6〜14モル%のAl
2O
3、0〜15モル%のB
2O
3、0〜15モル%のLi
2O、0〜20モル%のNa
2O、0〜10モル%のK
2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO
2、0〜1モル%のSnO
2、0〜1モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、ここで、12モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦20モル%、および0モル%≦(MgO+CaO)≦10モル%である。
【0035】
さらにまた別の例のガラス組成物は、63.5〜66.5モル%のSiO
2、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、0〜5モル%のLi
2O、8〜18モル%のNa
2O、0〜5モル%のK
2O、1〜7モル%のMgO、0〜2.5モル%のCaO、0〜3モル%のZrO
2、0.05〜0.25モル%のSnO
2、0.05〜0.5モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、ここで、14モル%≦(Li
2O+Na
2O+K
2O)≦18モル%、および2モル%≦(MgO+CaO)≦7モル%である。
【0036】
特別な実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、アルミナ、少なくとも1種類のアルカリ金属およびいくつかの実施の形態において、50モル%超のSiO
2、他の実施の形態において、少なくとも58モル%のSiO
2、さらに他の実施の形態において、少なくとも60モル%のSiO
2を含み、ここで、比(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤>1であり、この比において、成分はモル%で表され、改質剤はアルカリ金属酸化物である。このガラスは、特別な実施の形態において、58〜72モル%のSiO
2、9〜17モル%のAl
2O
3、2〜12モル%のB
2O
3、8〜16モル%のNa
2O、および0〜4モル%のK
2Oを含み、から実質的になり、またはからなり、比(Al
2O
3+B
2O
3)/Σ改質剤>1である。
【0037】
別の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、61〜75モル%のSiO
2、7〜15モル%のAl
2O
3、0〜12モル%のB
2O
3、9〜21モル%のNa
2O、0〜4モル%のK
2O、0〜7モル%のMgO、および0〜3モル%のCaOを含む、から実質的になる、またはからなる。
【0038】
さらに別の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラス基板は、60〜70モル%のSiO
2、6〜14モル%のAl
2O
3、0〜15モル%のB
2O
3、0〜15モル%のLi
2O、0〜20モル%のNa
2O、0〜10モル%のK
2O、0〜8モル%のMgO、0〜10モル%のCaO、0〜5モル%のZrO
2、0〜1モル%のSnO
2、0〜1モル%のCeO
2、50ppm未満のAs
2O
3、および50ppm未満のSb
2O
3を含み、から実質的になり、またはからなり、ここで、12モル%≦Li
2O+Na
2O+K
2O≦20モル%、および0モル%≦MgO+CaO≦10モル%である。
【0039】
さらに別の実施の形態において、アルカリアルミノケイ酸塩ガラスは、64〜68モル%のSiO
2、12〜16モル%のNa
2O、8〜12モル%のAl
2O
3、0〜3モル%のB
2O
3、2〜5モル%のK
2O、4〜6モル%のMgO、および0〜5モル%のCaOを含み、から実質的になり、またはからなり、ここで、66モル%≦SiO
2+B
2O
3+CaO≦69モル%、Na
2O+K
2O+B
2O
3+MgO+CaO+SrO>10モル%、5モル%≦MgO+CaO+SrO≦8モル%、(Na
2O+B
2O
3)−Al
2O
3≦2モル%、2モル%≦Na
2O−Al
2O
3≦6モル%、および4モル%≦(Na
2O+K
2O)−Al
2O
3≦10モル%である。
【0040】
このガラス基板は、約100マイクロメートルから5mmに及ぶ厚さを有し得る。例の基板の厚さは、100マイクロメートルから500マイクロメートルに及び、例えば、100、200、300、400または500マイクロメートルである。さらに別の例の基板の厚さは、500マイクロメートルから1000マイクロメートルに及び、例えば、500、600、700、800、900または1000マイクロメートルである。このガラス基板は、1mm超、例えば、約2、3、4、または5mmの厚さを有してもよい。
【0041】
前記無機層は、適切な出発材料のガラス基板上への直接の化学蒸着(例えば、プラズマ支援化学蒸着)、物理蒸着(例えば、スパッタ堆積またはレーザアブレーション)または熱蒸発によって形成することができる。スパッタ法は、反応性スパッタリングまたは非反応性スパッタリングを含んでもよい。そのような無機層を形成するための単槽スパッタ堆積装置200が
図2に概略示されている。
【0042】
この装置200は、1つ以上のガラス基板212をその上に搭載できる基板ステージ210、およびマスクステージ220を有する真空室205を備えており、このマスクステージは、基板の規定領域上への無機層のパターン付き堆積のためのシャドーマスク222を搭載するために使用できる。真空室205には、内圧を制御するための真空ポート240、並びに水冷ポート250およびガス入口ポート260が設けられている。この真空室は、クライオポンプ(CTI−8200/Helix;米国、マサチューセッツ州)で操作することができ、蒸発プロセス(〜10
-6トル)およびRFスパッタ堆積プロセス(〜10
-3トル)の両方に適した圧力で作動することができる。
【0043】
図2に示されるように、各々が随意的な対応するシャドーマスク222を有する、ガラス基板212上に材料を蒸発させるための多数の蒸発設備280が、リード線282を通じてそれぞれの電源290に接続されている。蒸発させるべき出発材料200は、各設備280に配置することができる。厚さモニタ286は、堆積される材料の量の制御を行うために、制御装置293および制御ステーション295を含むフィードバック制御ループに組み込むことができる。
【0044】
例のシステムにおいて、蒸発設備280の各々には、約80〜180ワットの動作電力でDC電流を供給するために、一対の銅線282が備えられている。実効設備抵抗は、一般に、その形状の関数であり、これにより、正確な電流とワット数が決まる。
【0045】
無機材料(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物または金属ホウ化物)の層をガラス基板上に形成するための、スパッタ目標310を有するRFスパッタガン300も設けられている。このRFスパッタガン300は、RF電源390およびフィードバック制御装置293を通じて、制御ステーション395に接続されている。無機層をスパッタリングするために、水冷円筒型RFスパッタガン(Onyx−3(商標)、ペンシルベニア州、Angstrom Sciences)を真空室205内に配置することができる。適切なRF堆積条件には、約〜5Å/秒の典型的な堆積速度に対応する、50〜150W順電力(<1W反射電力)がある(米国、コロラド州、Advanced Energy)。実施の形態において、スパッタ率は、例えば、0.1オングストローム/秒と10オングストローム/秒の間で様々であり得る。
【0046】
基板の化学強化に悪影響を与えるのを防ぐために、無機材料の層を形成するために使用される堆積温度、加工圧力および/または堆積時間を制御してもよい。1つ以上の実施の形態において、堆積時間は、約1分から約600分、約10分から約600分、約30分から約500分、約100分から約400分、約200分から約300分の範囲、およびそれらの間の全ての範囲と部分的な範囲の時間に制御してもよい。1つの変更例において、無機材料の層が形成される圧力すなわち加工圧力は、約0.1ミリトルと100トルの間、約0.1ミリトルと約100ミリトルの間、およびそれらの範囲と部分的な範囲に制御してもよい。別の変更例において、無機材料の層が形成される温度は、約300℃未満の温度に制御してもよい。
【0047】
1つ以上の実施の形態において、堆積時間、圧力および堆積温度の工程条件の1つ、2つまたは3つが制御されることがある。堆積温度に関して、いくつかの実施の形態において、堆積温度が約300℃未満に維持される場合、堆積時間が制限される必要はないことに留意されたい。例えば、そのような温度で、堆積プロセスは、使用される堆積プロセスの種類に応じて、数分から数時間に亘り継続してよい。いくつかのスパッタプロセスについて、堆積時間は、堆積温度が約300℃未満に制御されている場合、数時間続いてよい。これらの温度では、ガラス基板に生じる圧縮応力(およびガラス基板の中央領域に存在する任意の対応する中央張力)は、著しくは影響を受けない。
【0048】
300℃以上(例えば、400℃以上、またさらには500℃以上)の堆積温度を使用する場合、堆積時間は、ガラス基板の化学強化が悪影響を受け始める前に、数分またさらには数秒に制限される必要があることがある。全堆積時間が数分または数秒である場合でさえ、その悪影響が見られることがある。全堆積時間は、ガラス基板が堆積温度にもはや曝露されないように(例えば、ガラス基板を堆積室から取り出すか、そうでなければ、堆積室を約300℃未満の温度に冷却することにより)堆積が中断される堆積方法に含まれる、ガラス基板が堆積温度に曝露される時間を含む。ガラス基板が堆積温度に曝露されない時間は、全堆積時間に含まれない。ガラス基板の化学強化に対する悪影響は、少なくとも一部は、高い堆積温度の結果としてガラス基板内に促進された拡散によると考えられる。この高い堆積温度は、ガラス基板内のイオン移動度を増加させ、それゆえ、ガラス基板の表面に層状に存在するより大きいイオンを移動させ、それゆえ、ガラス基板の表面における圧縮応力に悪影響を与え得る。
【0049】
前記無機層は、金属酸化物層、金属窒化物層、金属炭化物層または金属ホウ化物層から構成されることがある。そのような酸化物層、窒化物層、炭化物層またはホウ化物層の例の金属としては、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、チタン、バナジウム、クロム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、スズ、ハフニウム、タンタルおよびタングステンが挙げられる。非限定的な例の無機層としては、酸化アルミニウム層および酸化ジルコニウム層が挙げられる。
【0050】
無機層の厚さは、10nmから3マイクロメートルに及び得る。例えば、無機層の平均厚は、約10、20、50、100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1500、2000nm、2500nm、3000nmおよびそれらの間の全ての範囲と部分的な範囲であり得る。
【0051】
無機層は、基板の硬度より大きい(例えば、それより少なくとも10%大きい)硬度を有し得る。例えば、無機層の硬度は、基板の硬度より少なくとも10、20、30、40または50%大きいことがあり得る。例の無機層は、少なくとも9GPaのバーコビッチ圧子硬度を有し得る。無機層は、圧縮応力の状態下にあり得る。ここに述べたように、いくつかの例において、無機層の圧縮応力は、その下のガラス基板の圧縮応力および/または無機層を形成するための使用されるプロセスによるその下のガラス基板の圧縮応力に対する影響とは無関係である。
【0052】
無機層の性質は、それが形成されるまたはガラス基板上に堆積される温度に応じて変わるであろう。例えば、無機層などの層が高温で堆積された場合、そのような層中、またはそれらの層を形成するために使用される前駆体材料中に見られることがある不純物が追い払われることがある。より高い温度により、層中の任意の空隙が埋まることもあり、これにより、より緻密な膜が生じ得る。何故ならば、その層(例えば、無機層)を形成するためにガラス基板上に堆積された原子は、表面移動度がより大きく、移動してそのような空隙を埋めることができるからである。他方で、ガラス基板の表面が冷たいまたは未加熱の場合、その層(例えば、無機層)を形成するためにガラス基板上に堆積された原子は、移動度が小さく、したがって、形成された層中の空隙を同じほど容易には埋めない。したがって、より低い温度で形成された結果としての層は、それほど緻密ではない。論じられるように、ここに記載された実施の形態の無機層を形成するために、より低い温度が使用されるが、結果として形成された無機層はそれでも、必須の耐引掻性または他の特性を与え、その一方で、ガラス基板は化学強化による強度を維持する。
【0053】
無機層は、化学強化ガラス基板にCTEを一致させることができる。実施の形態において、無機層は、ガラス基板の熱膨張係数から、多くとも10%しか異ならない熱膨張係数を有する、例えば、CTEの差は10、5、2または1%未満である。
【0054】
様々な実施の形態によれば、耐引掻性ガラス基板は、低質量、高い耐衝撃性、および高い光透過性を含むことがある、一連の性質を有することがある。
【0055】
無機層の光学的性質は、光の散乱と吸収を最小にするように調節することができ、これにより、光学的品質の高いガラス物品を得ることができる。ガラス基板がディスプレイのカバーガラスとして使用される用途において、無機層は、光学的に透明(例えば、無色透明)かつ光透過性であり得る。例えば、無機層は、約3未満、例えば、約1.4から2の可視スペクトル内の屈折率、および40%未満、例えば、40、30、20、10または5%未満の可視スペクトル内の最大反射率を有し得る。例えば、無機層は、入射光の95%以上、例えば、少なくとも95、96、97、98または99%を透過できる。無機層は、微小延性引っ掻き傷を含む引っ掻き傷を実質的に含まないことがあり得る。
【0056】
耐引掻性試験中に施される荷重サイクルは、通常、3つの異なる応答領域(regime)を引き起こす。印加された荷重の関数としてガラス表面に生じた引っ掻き傷パターンが、
図3に概略示されている。
図3の矢印Aは、引っ掻き傷の方向を示している。第1の領域は、微小延性領域(I)であり、これは、圧子400の下での塑性変形および永久的な溝410の出現に相当する。この第1の領域において、表面下の横断亀裂も現れることもある。微小延性形態の特徴は、溝410の両側に損傷または破片がないことである。荷重が増加したときに遭遇する、第2の領域(II)は、微小亀裂領域と呼ばれる。横断亀裂の表面との交差の結果として、小片およびかけら420の形成が、微小亀裂領域で生じる。微小亀裂領域において、半径方向(シェブロン)亀裂425が形成されることもある。そのような亀裂は、ガラスの光透過性に劇的に影響を与え得る。第3の領域(III)は、微小摩耗領域と称され、多量の破片430の形成により特徴付けられる。
【0057】
酸化物コーティングに関する実験において、例えば、同じ基礎組成の非化学強化ガラスおよび化学強化ガラスと比べた、無機層が被覆された化学強化ガラス基板について、微小延性引っ掻き傷に関して耐引掻性の著しい改善が達成された。
【0058】
一組の実験において、酸化アルミニウムターゲットから化学強化ガラス基板へのRFマグネトロンスパッタリングによって、薄い酸化アルミニウム層を堆積させた。基板の温度は、堆積中に100℃と300℃の間に保持し、最終的な酸化物層の厚さは約200nmであった。堆積速度は、0.01nm/秒と1nm/秒の間で変動した。
【0059】
耐引掻性の増加は、保護されたガラス基板に関する引っ掻き傷深さの減少と相関した。先端がダイヤモンドのバーコビッチ圧子を使用して測定して、無機保護層を有するガラス基板の引っ掻き傷深さは、著しく減少した。(A)化学強化されていないガラス基板、(B)化学強化ガラス基板、および(C)基板の試験表面を覆って無機層が形成された化学強化ガラス基板に関する、引っ掻き傷深さ対印加荷重のプロットが
図4に示されている。無機保護層を持たない化学強化ガラス基板と比べると、無機保護層の付加により、引っ掻き傷深さが25%も減少した。一例として、ガラス基板の表面上に無機層を形成することにより、そのようなサンプルの引っ掻き傷深さを(他の点では同等であるが、未保護のガラス基板と比べて)少なくとも10%、例えば、10、20、30、40または50%を超えて減少させることができる。
【0060】
開示された方法に加え、その方法を使用して製造した耐引掻性ガラス物品も開示されている。そのガラス物品は、化学強化ガラス基板およびその基板の一方の主面の大半を覆って形成された光透過性の無機層を備えている。無機層は、物品の全体的な光学的透明性を維持しながら、ガラス表面の耐引掻性を大幅に向上させることができる。
【0061】
耐引掻性から恩恵を受けるであろうガラス物品を取り入れる技術としては、時計のガラス、食料品店のスキャナー窓、コピー機のスキャナー窓、およびLCDスクリーンプロテクタ、ハードディスクメモリの表面、エンジンのピストンリング、工作機械、および他の移動および摺動する構成要素を含む軍事用と民間用の光学素子が挙げられる。
【0062】
その少なくとも一部が透過性であるカバープレートを備えた携帯型電子機器も開示されている。そのような携帯型電子機器としては、以下に限られないが、個人情報端末、携帯電話、ペイジャー、時計、ラジオ、ラップトップコンピュータおよびノート型コンピュータなどの携帯型通信機器が挙げられる。ここに用いたように、「カバープレート」は、視覚ディスプレイをカバーするガラス板またはウィンドウを称する。カバープレートの少なくとも一部は、ディスプレイを見ることができるように透過性である。このカバープレートは、ある程度、衝撃、破壊、および引っ掻き傷に対して耐性であることがあり、高い表面強度、硬度、および耐引掻性を有するウィンドウが望ましいそれらの電子機器に用途が見出されている。1つの実施の形態において、そのカバープレートはタッチセンサー方式である。
【0063】
携帯電話の平面図の略図が
図5に示されている。携帯電話500は、ここに記載された耐引掻性の化学強化ガラスから構成されたカバープレート510を備えている。携帯電話500において、カバープレート510はディスプレイ・ウィンドウとして働く。カバープレートの形成中、ダウンドロー法により形成されたガラスの板を所望の形状とサイズに切断することができる。カバープレートを所望のサイズに切断する前または後に、ガラス板をイオン交換により強化し、次いで、ガラスの曝露表面を覆って耐引掻性の無機層を設けてもよい。次いで、カバープレートを、接着剤または当該技術分野に公知の手段を使用して、携帯型電子機器の本体に接合してもよい。
【0064】
以下に限られないが、上述した携帯型電子機器並びに非電子式時計などの機器用カバープレートも提供される。このカバープレートは、先に開示されたガラス組成物のいずれから形成してもよい。
【0065】
ここに用いたように、単数形の名詞は、文脈が明白にそうではないと示していない限り、複数の対象を含む。それゆえ、例えば、「層」への言及は、文脈が明白にそうではないと示していない限り、そのような「層」を2つ以上有する例を含む。
【0066】
範囲は、「約」ある特定の値から、および/または「約」別の特定の値まで、としてここに表すことができる。そのような範囲が表現されている場合、例は、ある特定の値から、および/または他の特定の値までを含む。同様に、値が、「約」という先行詞を使用して、近似として表現されている場合、特定の値は別の態様を構成することが理解されよう。範囲の各々の端点は、他の端点に関してと、他の端点とは無関係の両方で有意であることがさらに理解されよう。
【0067】
特に明記のない限り、ここに述べられたどの方法も、その工程が特定の順序で行われることを要求すると解釈されることは決して意図されていない。したがって、方法の請求項が、工程が従うべき順序を実際に列挙していない場合、または工程が特定の順序に制限されるべきことが、請求項または説明において他に具体的に述べられていない場合、どのような特定の順序も暗示されることは決して意図されていない。
【実施例】
【0068】
様々な実施の形態を、以下の実施例によりさらに明らかにする。
【0069】
実施例1
実施例1および比較実施例2にしたがって、各々4つのサンプルを調製した。実施例1による4つのサンプルは、互いに対向する2つの主面を有する化学強化ガラス基板を提供し、一方の表面に、窒化アルミニウムから構成される無機層をイオンビームスパッタリング法により堆積させることによって調製した。実施例1による4つのサンプルの各々に結果として形成された無機層の厚さは、約1.175μmであった。その堆積温度は約160℃に維持し、圧力は0.588ミリトルに維持した。
【0070】
無機層は、3.9kWのDC電力を供給し、約75sccm(標準状態下の立方センチメートル毎分)(約0.13Pa・m
3/s)の流量で流されたアルゴンの存在下でターゲットからスパッタリングした。このイオンビームは、窒素ガスとアルゴンガスの混合物を使用して、約0.224kWから約0.196kWの範囲の電力で発生させた。
【0071】
比較実施例2の4つのサンプルの各々は、実施例1のサンプルに使用した化学強化ガラス基板と同じ圧縮応力および圧縮応力層の厚さを有する化学強化ガラス基板を4つ提供することによって調製した。
【0072】
実施例1および比較実施例2のサンプルの各々を、バーコビッチ圧子を使用して4つの異なる荷重で引っ掻いた。実施例1のサンプルについて、無機層を備えたガラス基板の側面を引っ掻いた。サンプルの各々の引っ掻き傷の幅と深さを測定した。これらが、表1に示されている。
【0073】
【表1】
【0074】
図6は、各サンプルを引っ掻いた後の、実施例1と比較実施例2のサンプルの原子間力顕微鏡法(AFM)の画像を示している。図に示すように、無機層が約300℃未満の温度で形成されたとしても、ガラス基板上に形成されたその層に含まれる、サンプルの引っ掻き傷の深さと幅が著しく減少している。実施例1によるガラス基板の化学強化も維持された、言い換えれば、悪影響を受けなかった。
【0075】
ここでの記述は、特定の様式で機能するように「構成されている」または「適合されている」構成要素を称することにも留意されたい。この点に関して、そのような構成要素は、特定の性質を具体化するように、すなわち特定の様式で機能するように「構成されており」または「適合されており」、ここで、そのような記述は、意図する使用の記述とは対照的に、構造的な記述である。より詳しくは、構成要素が「構成されている」または「適合されている」様式へのここでの言及は、その構成要素の既存の物理的状態を意味し、それ自体、その構成要素の構造的特徴の明確な記述と解釈すべきである。
【0076】
特定の実施の形態の様々な特徴、要素または工程が、「含む」という移行句を使用して開示されていることがあるが、移行句「からなる」または「から実質的になる」を使用して記載されていることもあるものを含む、代わりの実施の形態が暗示されていることも理解すべきである。それゆえ、例えば、ガラス材料を含むガラス基板に対して暗示された代わりの実施の形態は、ガラス基板がガラス材料からなる実施の形態およびガラス基板がガラス材料から実質的になる実施の形態を含む。
【0077】
本発明の精神および範囲から逸脱せずに、本開示に様々な改変および変更を行えることが、当業者には明白であろう。本発明の精神および実体を組み込んだ開示された実施の形態の改変、組合せ、下位の組合せおよび変更が、当業者に想起されるであろうから、本発明は、付随の特許請求の範囲およびそれらの同等物の範囲内に全てを含むように解釈されるべきである。