(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
【0013】
図1は、本発明の実施形態による製造方法によって製造されたボールペンチップ10を備えたリフィル1の斜視図である。本明細書中では、リフィル1又は後述する筆記具の軸線方向において、ボールペンチップ10側を「前」側と規定し、ボールペンチップ10とは反対側を「後」側と規定する。同様に、ボールペンチップ10において、ボール11側を「前」側と規定し、ボール11とは反対側を「後」側と規定する。
【0014】
リフィル1は、インクを収容したインク収容管2を有している。インク収容管2の前端部の内面には、継手3の後端部の外面が嵌合している。継手3の前端部の内面には、ボールペンチップ10の後端部の外面が嵌合している。したがって、ボールペンチップ10は、継手3を介してインク収容管2に接続されている。インク収容管2の後端部の内面には、尾栓4の前端部の外面が嵌合している。
【0015】
図2は、
図1のボールペンチップ10の部分縦断面図である。ボールペンチップ10は、筆記部材としてのボール11と、ボール11を回転自在に抱持するボールホルダ12とを有している。ボールホルダ12は、より大径に形成された大径部13と、大径部13の後部においてより小径に形成され且つ継手3の前端部と嵌合する小径部14と、大径部13の前部においてテーパ状に形成されたテーパ部15とを有している。テーパ部15の外周面には、環状又は帯状で且つアンダーカット状の溝部16が形成されている。ボールペンチップ10には、軸線方向に貫通するインク流通孔17が形成されている。ボール11は、インク流通孔17の終端において、テーパ部15の先端部がかしめられることによって、ボール11が離脱することなく回転自在に抱持される。
【0016】
図3は、ボールペンチップ10の製造工程の一部を説明する図である。ボールペンチップ10は、加工機に取り付けられた円柱状のブランク又はワークWを段階的に切削加工することによってボールホルダ12を作製する工程と、作製されたボールホルダ12に対してボール11をセットし、ボールホルダ12の先端部をかしめる工程とを経て製造される。一般に、これら工程は1つの加工機によって行われる。本実施形態では、ボールペンチップ10の製造のための加工機として、MIKRON社製のMULTISTAR LX−24を使用するが、これに限定されない。
【0017】
図3(A)では、加工機に取り付けられたワークWの後部、すなわち大径部13の後部が切削加工され、小径部14が形成される。
図3(B)では、ワークWの前部、すなわち大径部13の前部が切削加工され、テーパ部15が形成される。
図3(C)では、テーパ部15の外周面が切削加工され、環状又は帯状で且つアンダーカット状の溝部16が形成される。
図3(D)では、作製されたボールホルダ12に対してボール11が取り付けられ、次いで、完成したボールペンチップ10が加工機から取り出される。なお、当然のことながら、ボールペンチップ10の製造工程には、
図3を参照しながら説明した以外にも、インク流通孔17を形成する等の複数の工程が含まれている。
【0018】
図4は、ボールペンチップの加工機用のスピンドル100の部分縦断面図である。スピンドル100は、
図3(B)に示されるテーパ部15に対して
図3(C)に示される溝部16を形成するために使用される。スピンドル100は、円筒状のアウターハウジング101と、アウターハウジングの内周に配置された中空のインナーハウジング102a及びインナーハウジング102bと、インナーハウジング102a及びインナーハウジング102b内に配置されたカムシャフト103と、菱形状に形成されたカムレバー104と、工具取付具105と、工具取付具105に対して取り付けられた切削工具106とを有している。切削工具106の先端部には、切刃107が設けられている。スピンドル100の軸線方向において、切削工具106側を「前」側と規定し、切削工具106とは反対側を「後」側と規定する。
【0019】
カムシャフト103は、インナーハウジング102a及びインナーハウジング102bに対して前後方向に移動可能であり、図示しないスプリングによって後方に付勢されている。カムシャフト103の側面には、傾斜したカム面108が設けられている。カムレバー104は、支点109を中心に揺動可能に設けられている。カムレバー104の後端部には、円筒面状のカム受け面110が設けられている。カムレバー104の前端部には、連結部111が設けられている。工具取付具105は、インナーハウジング102a及びインナーハウジング102bの前端面に対して、アウターハウジング101の径方向に沿って往復動可能に取り付けられている。したがって、切削工具106は、スピンドル100の回転軸線に対して直交する方向に移動可能に構成されている。
【0020】
カムシャフト103が前方に移動すると、カムシャフト103のカム面108とカムレバー104のカム受け面110とが協働し、支点109を中心としてカムレバー104を揺動させる。具体的には、
図4において、カムレバー104は反時計回りに揺動する。カムレバー104の他端である連結部111は、工具取付具105に設けられた係合穴112に挿入されている。したがって、カムレバー104の連結部111が揺動すると、連結部111と係合穴112との係合によって、工具取付具105が押圧力を受けて径方向に移動する。具体的には、
図4において、工具取付具105は右側に移動する。この移動によって、後述するように切刃107による切削加工が行われる。工具取付具105は、スプリング113によって、元の位置に戻る方向に、すなわち
図4において左方向に付勢されている。
【0021】
カムシャフト103が後方に移動すると、カムレバー104による押圧力が解除されることから、スプリング113の付勢力によって、工具取付具105は元の位置に戻る。このとき、工具取付具105の係合穴112とカムレバー104の連結部111との係合によって、カムレバー104のカム受け面110がカムシャフト103のカム面108と当接しながら、カムレバー104は、
図4において、時計回りに揺動する。
【0022】
加工機によって、スピンドル100のアウターハウジング101に対して、インナーハウジング102a及びインナーハウジング102bと、カムシャフト103と、カムレバー104と、工具取付具105及び切削工具106と、スプリング113とが、一体的に回転する。この回転は、ベアリング114によって支持される。これら部材が回転しながら、上述したように、カムシャフト103が前後動し、それによって工具取付具105の往復運動が行われる。
【0023】
図5は、ボールペンチップ10の溝部16の切削加工を説明する図である。
図5では、図中下方が鉛直下方であり、図中上方が鉛直上方である。
図5に示されるように、加工機の加工台Sに対して、テーパ部15を有するワークWが取り付けられている。
【0024】
図5(A)は、加工機によって、スピンドル100が下降している状態を示している。
図5(B)は、スピンドル100の下降が完了し、切削工具106を、スピンドル100の回転軸線に対して直交する方向に移動させている状態を示している。すなわち、加工機によってカムシャフト103が前方に移動し、カムレバー104を介して工具取付具105が径方向に移動する。
図5(C)は、切削工具106の切刃107が、ワークWのテーパ部15に当接し、切削が行われている状態を示している。すなわち、ワークWに対して、切削工具106がその周囲を回転することによって、ワークWのテーパ部15の全周に亘り切削され、環状且つアンダーカット状の溝部16が形成される。次いで、加工機によってカムシャフト103が後方に移動し、溝部16を形成する工程が完了する。
【0025】
スピンドル100によれば、スピンドル100が下降した後、切削工具106を、スピンドル100の回転軸線に対して直交する方向に移動させることができることから、単にスピンドル100を下降させただけでは加工できないような、環状且つアンダーカット状の溝部16を切削加工することができる。
【0026】
本実施形態によるボールペンチップ10の製造方法は、要するに、加工機に円柱状のワークWを取り付ける工程と、ワークWの一端にボールペンチップ10の先端部に相当するテーパ部15を形成する工程と、テーパ部15に環状且つアンダーカット状の溝部16を形成する工程と、すべての工程終了後に、ボールペンチップ10を加工機から取り出す工程と、を含む。すなわち、アンダーカット状の溝部16の切削加工を、別工程ではなく、ボールペンチップ10を製造する一連の製造工程において行うことができる。そのため、ボールペンチップ10の作製後の後工程で溝部16の切削加工を行うことによってボール11周辺の間隙等に切粉が混入することを防止することができる。
【0027】
なお、テーパ部15に対する溝部16の切削加工は、テーパ部15がすでに形成されている限り、いつ行ってもよい。例えば、
図3において、ボール11が取り付けられる前に溝部16を形成したが、
図5において、ボール11が取り付けられた後に溝部16を形成している。
【0028】
図5を参照しながら上述したように、溝部16が、ワークWに対して径方向の外側から内側に向かう切削加工によって形成される。すなわち、加工機がスピンドル100とスピンドル100の先端に取り付けられた切削工具106とを有し、切削工具106をスピンドル100の回転軸線に対して直交する方向に移動させて溝部16が形成される。溝部16の切削加工時には、
図5に示されるように、切削工具106の切刃107がテーパ部15の傾斜と同一の傾斜を有するように配置される。切刃107の形状を変えることによって、溝部16の形状を任意に形成することができる。
【0029】
図6は、
図1のリフィルを有する複式筆記具50の縦断面図である。複式筆記具50は、軸筒51と、軸筒51内に収容された複数のリフィル1と、ノック棒52と、ノック棒52の後端部に設けられた消去部材53と、消去部材53をカバーするノックカバー54とを有している。複式筆記具50は、後端部をノック操作することによって、複数のリフィル1のうちの1つを択一的に筆記状態にすることができる。
【0030】
複式筆記具50のリフィル1の各々は、互いに異なる色のインクが収容されている。特に、軸筒51が不透明な場合、又は、軸筒51が透明であってもインク収容管2が不透明な場合、筆記をして筆跡を見るまでリフィル1に収容されたインクの色が不明であると不便である。そこで、リフィル1の溝部16を、ボールペンチップ10が取り付けられるリフィル1に収容されるインクと同じ色の塗料で着色する。ボールペンチップ10の溝部16は、筆記状態において、軸筒51の前端部から突出するため、着色された溝部16の色を見ることによって、リフィル1に収容されたインク色を認識することができる。
【0031】
また、異なる色のインクのみならず、溝部16に着色する色の濃度を変えることによって、例えば油性インク、水性インク、ゲルインク、熱変色性インク等の異なるインク種類を認識することができるようにしてもよい。
【0032】
複式筆記具50の場合、ノック操作によって選択されたリフィル1のボールペンチップ10が軸筒51から突出する際にリフィル1が撓むことから、ボールペンチップ10が軸筒51の前端部の開口の縁部と摩擦する。その結果、溝部16の塗料が剥離する可能性がある。そこで、溝部16を着色する塗料として、紫外線硬化性塗料を使用することが好ましい。その結果、溝部16に塗布された塗料の摩擦に対する耐久性が向上し、塗料の剥離が防止される。
【0033】
紫外線硬化塗料は、溶剤、重合開始剤、粘度調整剤、着色剤、主樹脂を含む塗膜構成成分、添加剤等からなり、特に主樹脂として1分子中の(メタ)アクリロイル基数が1〜7であるアクリルアクリレートと1分子中の(メタ)アクリロイル基数が1〜5であるポリエステルアクリレートの混合物からなる反応性オリゴマーを、塗膜構成成分(溶剤を除く)に対して、20〜90質量%含有することで、ボールペンチップ10の溝部16への密着性、硬度に優れた着色をすることができる。
【0034】
アクリルアクリレートとしては、例えば、オリゴマー1分子中に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイル基を導入した構造を有する化合物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリロイル基は、アクリロイル基又はメタクリロイル基を指す(以下、同様)。オリゴマー1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は好ましくは2〜4である。質量平均分子量は好ましくは5,000〜100,000である。分子量が低すぎると、基本的な塗膜物性が得られない。また、紫外線照射による架橋反応が進行し難くなることで、塗膜にべたつきが残りやすくなる。さらに、乾燥時に溶媒と同様に揮発することが考えられ、これにより硬化性や塗膜の均一性が悪化する。一方、分子量が高すぎると、外観(平滑性)が悪化し、また、高分子化による粘度増大により、塗装時のシンナー希釈率を高くする必要があり、これにより塗装付着効率が低下する。
【0035】
ポリエステルアクリレートとしては、ポリエステル1分子中に1個又は2個以上の(メタ)アクリロイル基を導入した構造を有する化合物が挙げられる。オリゴマー1分子中の(メタ)アクリロイル基の数は好ましくは1〜5である。質量平均分子量は好ましくは3,000〜100,000である。分子量が低すぎると、基本的な塗膜物性が得られない。また、紫外線照射による架橋反応が進行し難くなることで、塗膜にべたつきが残りやすくなる。さらに、乾燥時に溶媒と同様に揮発することが考えられ、これにより硬化性や塗膜の均一性が悪化する。一方、分子量が高すぎると、外観(平滑性)が悪化し、また、高分子化による粘度増大により、塗装時のシンナー希釈率を高くする必要があり、これにより塗装付着効率が低下する。
【0036】
上記アクリルアクリレートとポリエステルアクリレートの混合物は、本発明の金属用UV塗料において主樹脂として好適に用いることができるので、その含有量は、当該金属用UV塗料の揮発成分である溶剤を除いた塗膜構成成分に対して10質量%以上を要し、好ましくは20〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%とするのが良い。含有量が少なすぎると金属素材との密着性が低下し、含有量が多すぎると密着性以外の塗膜物性(硬度等)の調整が困難となる。
【0037】
溝部16を、ボールペンチップ10が取り付けられるリフィル1に収容されるインクと同じ色で着色する工程は、ボールペンチップ10を加工機から取り出す工程の後に行われる。しかしながら、加工機における1つの工程において着色を行ってもよい。
【0038】
なお、溝部16には、塗料に加え又は塗料に代えて、リフィル1から吐出されたインクをはじくような撥水剤を塗布してもよい。それによって、リフィル1から吐出されたものの筆記面に移行しなかったインクがテーパ部15に付着することを防止することができる。すなわち、こうしたインクがテーパ部15に付着し、一定量蓄積すると、一気に筆記面に移行して筆記面を汚す原因となる。溝部16に撥水剤が塗布されていることによって、テーパ部15に対するインクの付着を防止することができる。なお、複式筆記具ではなく、単式筆記具として、溝部16が形成されたボールペンチップ10を備えたリフィル1を1つのみ軸筒に収容するように構成してもよい。
【0039】
溝部16を、リフィル1に収容されたインク色とは無関係に、インクの性質を判別するために着色してもよい。例えば、複数のリフィル1のうち、熱変色性インクが収容されたリフィル1のボールペンチップ10の溝部16を黒で着色し、非熱変色性インクが収容されたリフィル1のボールペンチップ10の溝部16を白で着色するようにしてもよい。
【0040】
ここで、熱変色性インクとは、常温(例えば25℃)で所定の色彩(第1色)を維持し、所定温度(例えば60℃)まで昇温させると別の色彩(第2色)へと変化し、その後、所定温度(例えば−5℃)まで冷却させると、再び元の色彩(第1色)へと復帰する性質を有するインクをいう。熱変色性インクを用いた筆記具では上記第2色を無色とし、第1色(例えば赤)で筆記した描線を昇温させて無色とすることを、ここでは「消去する」ということとする。したがって、描線が筆記された筆記面等に対して摩擦体としての高摩耗性材料で形成された消去部材53によって擦過して摩擦熱を生じさせ、それによって描線を無色に変化、すなわち消去させる。なお、当然のことながら上記第2色は、無色以外の有色でもよい。
【0041】
また、熱変色性インクは、少なくともロイコ色素、顕色剤、好適な変色温度調整剤を含む熱変色性組成物を、平均粒子径が0.2〜3μmとなるように、マイクロカプセル化することにより、低温側変色温度が−30℃以上の熱変色性マイクロカプセル顔料と、低温側変色温度が−30℃未満の熱変色性マイクロカプセル顔料を含むことでインクの真贋を容易に判断することが可能となる熱変色性筆記具を提供することができる。なお、「平均粒子径」は、粒度分析計〔マイクロトラックHRA9320−X100(日機装社製)〕にて、屈折率1.81、体積基準により算出されたD50の値である。
【解決手段】ボールペンチップ10の製造方法が、加工機に円柱状のワークWを取り付ける工程と、ワークWの一端にボールペンチップ10の先端部に相当するテーパ部15を形成する工程と、テーパ部15に環状且つアンダーカット状の溝部16を形成する工程と、ボールペンチップ10を加工機から取り出す工程と、を含む。