特許第6771636号(P6771636)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東邦チタニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6771636-銅粉体の製造方法 図000004
  • 特許6771636-銅粉体の製造方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6771636
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】銅粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/28 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   B22F9/28 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-211357(P2019-211357)
(22)【出願日】2019年11月22日
【審査請求日】2019年12月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貢
【審査官】 田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−351621(JP,A)
【文献】 特開2004−027242(JP,A)
【文献】 特開平10−219313(JP,A)
【文献】 特開2000−335905(JP,A)
【文献】 特開2009−013456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
B22F 1/00
C01G 1/06,3/05,5/02,53/09
C01B 9/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化炉内で金属原料である球状の金属銅と塩素ガスとを反応させて塩化銅ガスを得て、前記塩化銅ガスを還元性ガスと反応させて銅粉体を生成する金属粉体の製造方法において、
前記塩化炉が円筒形状であり、
前記塩素ガスの進行方向に垂直な断面における前記塩化炉の断面積(S)に対し、前記塩素ガスの進行方向に垂直な断面における前記球状の金属銅の最大合計断面積(s)の比(s/S)が、前記塩化炉の前記金属原料が充填された領域の全範囲において0.60以上0.90以下であり、
前記球状の金属銅の平均直径(d)と、前記塩素ガスの進行方向に垂直な断面における、前記塩化炉の断面の直径(D)との比(d/D)が、0.03以上0.2以下であることを特徴とする銅粉体の製造方法。
【請求項2】
前記金属銅の短径に対する長径の比で定義される球形度(短径/長径)が、0.8以上であることを特徴とする請求項1に記載の銅粉体の製造方法。
【請求項3】
前記球状の金属銅の平均直径(d)が6mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅粉体の製造方法。
【請求項4】
前記塩素ガスの進行方向に垂直な任意の2箇所の断面における該球状の金属銅の断面積(s1及びs2、但し、s2≧s1とする)の比(s1/s2)が、0.6以上であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の銅粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、金属粉体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な金属粒子の集合体である金属粉体や金属粉体を含む導電性ペーストは、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板の配線や端子、積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極や外部電極など、各種電子部品を製造するための原材料として幅広く利用されている。特に銅粉体は、銅の高い導電性に起因し、MLCCの内部電極の薄膜化や外部電極の小型が可能であること、周波数特性の大幅な改善が可能であることから、従来多用されてきたニッケル粉や銀粉に替わる材料として期待されている。
【0003】
金属粉体の製造方法には、湿式法や気相成長法などの方法が知られている。気相成長法は湿式法と比較して、製造プロセスがシンプルであるので、大量生産に向いており、製造条件を適切に制御することで、諸特性の優れた金属粉体を製造することも可能である。気相成長法は、金属塩化物ガスを還元性ガスで還元して金属粉体を得ることを基本としている。金属塩化物ガスを得る方法としては、金属塩化物を加熱する方法もあるが、この方法では、金属塩化物ガスの生成量の制御が困難であるため、供給量が不安定となり、粒子径の制御が困難となることに伴って、粒子径分布がブロードになってしまうという欠点がある。一方、金属を原料として、該金属を塩素ガスと反応させることにより金属塩化物ガスを発生させる方法がある。この方法は、金属塩化物より安価な金属原料を使用できること、金属塩化物ガスの供給量を安定させることができるという優位性がある。
【0004】
しかし、金属と塩素ガスとが適切に反応しないことがあり、例えば、反応の進行に伴って金属原料が均一に塩化されず、塩化炉内に設置した金属原料の中央部あるいは周辺部のみが選択的に塩化されて、金属原料が部分的に減少する場合がある。この様なことが起きると、塩化炉に供給された塩素の一部が、金属原料と反応せずに、還元炉に供給されてしまい、還元炉の反応温度上昇や還元炉に供給される金属塩化物ガスの分圧減少のため粗粉が発生してしまうという問題がある。
【0005】
気相成長法における金属塩化物の生成に関する先行文献としては、以下のものがある。
特許文献1には、複数の球状の金属を反応管内に一列に収容する技術が開示されている。金属原料を一列に収容することで、反応管の内壁側への金属の集積は起こらず、金属が互いに融着するという棚吊りと呼ばれる現象が生ぜず、また、加熱により金属が熱膨張しても、反応管へ作用する圧力は皆無か、或いはきわめて微々たるものとなるので、反応管が膨張する圧力を金属から周期的に受けることによる反応管の亀裂や破損が生じて使用寿命が短いという問題も解消されるとしている。しかし、金属を一列に収容するのでは、反応させる金属が少ないので生産性に劣り、また、反応管を多数並べるのでは、装置が複雑となりコストアップとなってしまう。
【0006】
特許文献2には、塩化炉内で、金属原料と塩素ガスとを反応させて金属塩化物蒸気を連続的に生成させる際に、塩化炉の重量を秤量し、この秤量結果に基づいて金属原料の塩化炉への供給を制御する技術が開示されている。しかし、本内容は、塩化炉の重量を秤量して、その結果に不具合が生じた場合に諸対策を採ることできるようにすることに関する技術が示されているのみであり、そもそも不具合が生じないようにすることに関する技術は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−351621号公報
【特許文献2】特開2004−027242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この様に、気相成長法による金属粉体の製造方法において、良好に金属塩化物を生成させる技術は重要であるにも拘らず、これまで殆ど研究されることがなかった。
【0009】
このような背景に鑑み、本発明の一実施形態は、金属原料と塩素ガスが適切に反応しなかったり、反応の進行に伴って金属原料の一部が選択的に反応して部分的に減少して、塩化炉に供給された塩素ガスが金属原料と反応せずに、未反応の塩素ガスとして還元炉へ供給され、粗粉が生成されたりすることを抑制できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る金属粉体の製造方法は、塩化炉内で金属原料と塩素ガスとを反応させて金属塩化物を得て、金属塩化物を還元性ガスと反応させて金属粉体を生成する方法であり、塩素ガスの進行方向に垂直な断面における塩化炉の断面積(S)に対し、塩素ガスの進行方向に垂直な断面における金属原料の断面積(s)の比(s/S)が、0.5以上0.95以下となるようにされている。
【0011】
本発明の一実施形態に係る金属粉体の製造方法において、金属原料の短径に対する長径の比で定義される球形度(短径/長径)が、0.8以上であることが一態様として例示される。
【0012】
本発明の一実施形態に係る金属粉体の製造方法において、金属原料の平均直径(d)と、塩素ガスの進行方向に垂直な断面における、塩化炉の断面の直径(D)との比(d/D)が、0.03以上0.2以下であることが一態様として例示される。
【0013】
本発明の一実施形態に係る金属粉体の製造方法において、金属原料の平均直径(d)が6mm以上30mm以下であることが一態様として例示される。
【0014】
本発明の一実施形態に係る金属粉体の製造方法において、塩素ガスの進行方向に垂直な任意の2箇所の断面における該金属原料の断面積(s1及びs2、但し、s2≧s1とする)の比(s1/s2)が、0.6以上であることが一態様として例示される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、塩化炉における金属原料と塩素ガスとの反応を適切に行うことができ、反応が進行しても反応の適切性が維持されることができるので、未反応塩素ガスが還元炉へ供給されることを抑制することができ、粗粉の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る金属粉体製造装置の概略的な構成を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る金属粉体製造装置の塩化炉の断面積Sと、金属原料の断面積sとの関係を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の内容を、図面等を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様を含み、以下に例示される実施形態の内容に限定して解釈されるものではない。図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、それはあくまで一例であって、本発明の内容を限定するものではない。また、本明細書において、ある図面に記載されたある要素と、他の図面に記載されたある要素とが同一又は対応する関係にあるときは、同一の符号を付して、繰り返しの説明を適宜省略することがある。さらに各要素に対する「第1」、「第2」と付記された文字は、各要素を区別するために用いられる便宜的な標識であり、特段の説明がない限りそれ以上の意味を有しない。
【0018】
1.銅粉体の製造方法
銅粉体は、金属銅を金属原料として用い、該金属銅を塩素ガスと反応させ、生成した塩化銅ガスを還元性ガスと反応させることで生成される。このように生成された銅粉体に対して適宜塩素成分や酸素成分を低減する処理、表面処理が行われる。以下、製造方法の各段階について説明する。
【0019】
1−1.塩化銅ガスの生成
金属銅を金属原料として用い、該金属銅を塩素ガスと反応させることで塩化銅ガスを生成する。この方法は、塩化銅よりも安価な金属銅を用いることができる点でコスト的に優位性があるのみならず、塩化銅ガスの供給量を安定化させることができる。具体的な塩化銅ガスの製造方法としては、金属銅をその融点以下(例えば800℃以上1000℃以下)で塩素ガスと反応させることによって塩化銅ガスを生成させることができる。塩素ガスは、実質的に塩素のみを含有するものであっても良く、希釈用の不活性ガスを含有する塩素と希釈用の不活性ガスの混合ガスであってもよい。混合ガスを用いることで、金属銅と反応させる塩素の量を容易に、かつ精密に制御することが可能となる。具体的な金属銅の形状や設置方法は後に詳細に説明する。
【0020】
1−2.塩化銅の還元
生成した塩化銅ガスを還元性ガスと反応させて銅粉体を生成させる。還元性ガスとしては、例えば水素やヒドラジン、アンモニア、メタンなどを用いることができる。還元性ガスは、塩化銅ガスに対して化学量論量以上用いることができる。例えば、塩化銅ガスがすべて一価の銅の塩化物からなり、還元性ガスが水素の場合、還元性ガスの導入量は塩化銅ガスに対して50モル%以上10000モル%以下、500モル%以上10000モル%以下、あるいは1000モル%以上10000モル%以下とすることができる。この反応によって、塩化銅は還元されて銅になり、銅元素は銅粒子に成長して、集合体としての銅粉体となる。
【0021】
1−3.塩素成分の低減
上記の製造方法によって得られた銅粉体に対して、銅粉体が含有する塩素成分を低減するために、塩基の水溶液あるいは懸濁液で処理することで、塩素成分の除去を行っても良い。
【0022】
1−4.酸素成分の低減
上記の製造方法によって得られた銅粉体に対して、酸素成分の低減のために、アスコルビン酸やヒドラジン、クエン酸などを含む溶液、または懸濁液を洗浄液として用いて処理した後、水で洗浄し、ろ過、乾燥を行っても良い。
【0023】
1−5.表面処理
上記の製造方法によって得られた銅粉体に対して、所定の表面処理を行っても良い。表面処理材としては、ベンゾトリアゾールとその誘導体、トリアゾールとその誘導体、チアゾールとその誘導体、ベンゾチアゾールとその誘導体、イミダゾールとその誘導体、およびベンズイミダゾールとその誘導体などの含窒素ヘテロ芳香族化合物に例示される材料を使用することができる。
【0024】
1−6.その他の処理
上記の製造方法によって得られた銅粉体に対して、乾燥、分級、解砕、篩別などの処理を行ってもよい。分級は乾式分級でも湿式分級でも良く、乾式分級では、気流分級、重力場分級、慣性力場分級、遠心力場分級など、任意の方式を採用できる。湿式分級においても同様に、重力場分級や遠心力場分級などの方式を採用することができる。解砕は、例えばジェットミルを用いて行うことができる。篩別は、所望のメッシュサイズを有する篩を振動させ、これに銅粉体を通過させることで行うことができる。分級、解砕、篩別処理を行うことで、銅粉体の粒子径分布をより小さくすることが可能である。
【0025】
2.銅粉体の特性
2−1.平均粒子径
以上の工程により製造される銅粉体は、気相成長法によって一次粉体が生成されることに起因して平均粒子径が小さく、その分布も狭い。ここで銅粉体の平均粒子径とは、銅粉体の体積基準の粒子径ヒストグラムにおける累積頻度が50%になるときの粒子径のことをいう。銅粉体の体積基準の粒子径とは、銅粉体に含まれる各粒子の体積で重みづけられた粒子径である。以下の式で表されるように、粒子径di(iは1からkの自然数、i≦k)を有する粒子の総体積を粉体に含まれる全粒子の総体積で除すことで、粒子径diを有する粒子の頻度Fが得られる。この頻度Fを累積し、50%となるときの粒子径がメジアン径D50である。ここでは、平均粒子径もD50として表記する。
【0026】
【数1】
ここでViは、粒子径diを有する銅粒子の体積であり、niは粒子径diを有する銅粒子の個数である。
【0027】
以下に、体積Viおよび粒子径diの算出方法について説明する。銅粉体を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察した顕微鏡写真において、輪郭が確認された銅粒子(例えば100個から10000個、典型的には500個)を目視観察する。次いで、目視観察された銅粒子の表面積Siから、その表面積と同じ面積を有する想定円の直径としてその銅粒子の粒子径を算出する。具体的には、下式により、粒子径diを算出する。
Si=π(di)
【0028】
次いで、算出された粒子径diから、下式により、銅粒子の体積Viを算出する。
Vi=4π(di/2)/3
【0029】
本発明の一実施形態に係る銅粉体の製造方法により作製された銅粉体は、平均粒子径D50が、100nm以上500nm以下、具体的には100nm以上300nm以下であり、粗粉の割合が極めて少ないものが得られている。この範囲を満たす本銅粉体を焼結することで、厚さの小さい金属膜を与えることができるため、例えばMLCCの電極の薄膜化、LTCC基板などの電子部品の配線や端子の微細化などに寄与することができる。上記のような平均粒子径D50を有する銅粉体は、第3節に示す銅粉体の製造装置、及び第4節で述べる塩化炉における塩素ガスと金属原料の配置によって得ることができる。
【0030】
2−2.粗粉
本発明の一実施形態において、平均粒子径D50の2倍以上の粒径を有する銅粒子を粗粉と定義する。例えば、銅粉体の平均粒子径D50が300nmである場合、600nm以上の粒子径を有する銅粒子は粗粉に分類される。
【0031】
3.銅粉体の製造装置
図1に銅粉体の製造装置100の概要を示す。製造装置100は主な構成として、金属塩化物生成装置110と還元装置150を備える。金属塩化物生成装置110と還元装置150はそれぞれ塩化炉112と還元炉152を有する。図示しないが、製造装置100はさらに、還元炉152に接続される分離装置や、還元炉152または分離装置に接続されるバグフィルターなどの回収装置を備えてもよい。塩化炉112と還元炉152は第1の輸送管120によって連結され、還元炉152と分離装置またはバグフィルターは第2の輸送管156によって連結される。
【0032】
塩化炉112は、金属(0価の金属)と塩素(Cl)ガスの反応によって金属塩化物を生成することを機能の一つとして有する。金属原料としては、金属銅が用いられるが、その他に銀、ニッケルなどを用いることができる。金属原料の形状に制限は無く、例えば粒状、ペレット状、ワイヤー状、プレート状の金属を使用することができる。本実施形態では、金属原料として、好適には、球状のものを用いる。
【0033】
金属塩化物生成装置110は、塩化炉112を加熱するためのヒータ114を有し、加熱された塩化炉112内で金属原料と塩素ガスが反応して金属塩化物を生成する。塩化炉112は、一方の端に塩素ガスを導入するためのガス導入管122を有し、他方に金属塩化物を還元炉152へ輸送する第1の輸送艦120を有する。ガス導入管126から供給された塩素ガスは、塩化炉112内に充満し、自然流によって第1の輸送管120の方向に流れる。塩化炉112にはさらに、金属原料を投入するための開口116が設けられる。
【0034】
生成する金属塩化物は塩化炉112内で気体(ガス)、あるいは液体として存在し、金属塩化物のガスは第1の輸送管120を通して還元炉152に導入される。還元炉152は、金属塩化物を還元するための還元性ガスである水素やヒドラジン、アンモニア、メタンなどを導入するためのガス導入管158を備える。還元装置150は還元炉152を加熱するためのヒータ154を有し、加熱された還元炉152内で金属塩化物が還元され、これによって金属粉末が生成する。還元炉152には外部から図示しないガス導入管を介して窒素ガスなどの不活性ガスが導入され、これによって生成した金属粉体が冷却されるとともに第2の輸送管156を通して分離装置や回収装置へ輸送される。
【0035】
図1は、金属塩化物生成装置110が還元装置150の上に位置するように描かれているが、これらの位置関係には制限はなく、例えば金属塩化物生成装置110と還元装置150を水平に配置してもよい。
【0036】
詳細な説明は割愛するが、分離装置は、金属粉体に含まれる凝集物や、還元炉152内で副生する金属の焼結物を除去することで金属粉体を精製する機能を有する。回収装置は、精製された金属粉体を窒素ガスから単離するために設けられる。
【0037】
4.塩化炉における塩素ガスと金属原料
塩化炉における塩素ガスの詳細について、以下に説明する。
【0038】
4−1.塩素ガスについて
本発明の一実施形態において、塩素ガスの進行方向とは、塩化炉内での局所的な塩素ガスの進行方向によらず、全体として塩化炉内で塩素ガスが進行していく方向を意味する。従って、金属原料の配置によって、微視的に見ると塩素ガスは様々な方向に進むこともあるが、全体としては、塩化炉の構造に対応した方向に進むのであり、塩素ガスの進行方向とは、その様な方向を意味している。
【0039】
例えば、図1に示すように、塩化炉112が縦型であり、塩化炉112の上部のガス導入管122から塩素ガスを導入され、金属原料と塩素ガスとの反応の結果生成された金属塩化物ガスが塩化炉112の下部に設けられた第1の輸送管120から排出される構造の場合、塩素ガスの進行方向Fとは、図1中に矢印で示すように垂直下向きである。
【0040】
塩素ガスの進行方向Fに垂直な断面における該塩化炉の断面積とは、上記で定義された塩素ガスの進行方向に垂直な断面で塩化炉を切断した際の、仮想切断面の面積のことをいう。例えば、図1に示す塩化炉112において、点線に沿って切断された断面から求められる仮想断面積を塩化炉の断面積というものとする。塩化炉が円筒形状である場合は、切断断面は円となる。
【0041】
4−2.金属原料について
塩素ガスの進行方向に垂直な断面における金属原料の断面積とは、上記と同様に、塩素ガスの進行方向に垂直な断面で、塩化炉の金属原料が充填されている領域(以下、充填層と称する)の任意の場所を切断した際の、仮想切断面の面積のことをいう。充填層は塩化炉に対して小さな金属原料から構成されている場合が殆どであるので、金属原料の個々の粒子(又はペレットなど)の隙間の部分は当該面積には含まれない。
【0042】
例えば、図2に示すように、塩化炉112が筒型であり塩素ガスが塩化炉112の進行方向Fがその長手方向と平行である場合、その進行方向Fと垂直な断面積Sは塩化炉112の内径の断面積と等しくなる。塩化炉112には金属原料102が複数個充填された充填104を有する。充填104は、塩化炉112のある位置で、塩素ガスの進行方向Fにおける垂直な断面における個々の金属原料102の断面s11、s12、s13、・・・、s1nの合計の断面積s(s=s11+s12+s13+・・・+s1n)を有する。
【0043】
塩化炉の断面積Sと、金属原料の断面積sとの比、s/Sは充填層の断面における充填率に相当する指標である。ここで、s/Sが0.5未満であると、金属原料間の隙間が大きすぎるために、反応の進行に伴って、反応が偏って進行して、金属原料の一部分のみが過度に消費されて減少してしまい、未反応の塩素の発生が生じやすい。一方、s/Sが0.95を超えると、金属原料間の隙間が少なすぎるために、金属原料と塩素ガスとの反応が不充分となり、反応の進行に伴って、反応が偏って進行して、金属原料の一部分のみが過度に消費されて減少してしまい、未反応塩素の発生が生じやすい。
【0044】
金属原料は粒状のものが用いられ、短径に対する長径の比で定義される球形度(短径/長径)が、0.8以上であることが好ましい。球形度は短径/長径で定義される値であるので、最大値は1であり、そのときは完全な球となり、それが球形度の上限である。金属原料の形状は基本的には任意であるが、全くばらばらであったり、立方体形状であったりすると、上記の充填率の要件を満たすように充填層を形成することが容易でない。従って、本発明の一実施形態において、金属原料は球形に近い方が望ましい。
【0045】
本発明の一実施形態において、金属原料の直径とは、金属原料の球形度が0.8以上であるときに、長径と短径の平均値として定義する。また、金属原料の平均直径とは、原料として使用する金属原料の直径の平均値として定義する。塩化炉の塩素ガスの進行方向に垂直な断面の直径(D)に対し、金属原料の垂直な断面と平行な断面の平均直径(d)の比(d/D)が、0.03以上0.2以下であることが好ましい。この比(d/D)が0.03未満であると、塩化炉の断面積と比較して、金属原料の平均直径が非常に小さくなり、多くの小さな金属原料を設置することになるが、その様な場合は、上記の充填率の要件を充足しにくくなる。一方、比(d/D)が0.2を超えると、塩化炉の断面積と比較して、金属原料の平均直径が比較的多いものとなり、少数の大きな金属原料を設置することになるが、その様な場合は、請求項1の要件を充足しにくくなる。
【0046】
本発明の一実施形態において、金属原料の球形度が0.8以上であり、金属原料の平均直径(d)が6mm以上30mm以下であることが好ましく、11mm以上27mm以下であることがさらに好ましい。塩化炉の断面積はあまりに小さいと生産性が劣り、逆に、余りに大きいと均一な反応が困難になる。従って、塩化炉の断面積は150cm以上250cm以下であることが好ましいので、金属原料の平均直径(d)が6mm以上30mm以下であることが好ましい。この範囲外であると、上記と同様に充填率の要件を充足しにくくなる。
【0047】
本発明の一実施形態において、塩素ガスの進行方向に垂直な任意の2箇所の断面における該金属原料の断面積(s1及びs2、但し、s2≧s1とする)の比(s1/s2)が、0.6以上であることが好ましい。塩素ガスの進行方向に垂直な断面における該金属原料の断面積が充填率の範囲内であっても、その値が大きく異なる場合は、未反応塩素の発生が生じやすくなる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例をあげて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0049】
[実施例1]
塩化炉に金属原料となる金属銅を設置して、塩化炉の温度を900℃とした。塩化炉の上部の塩素導入管から導入される塩素ガスの体積と塩化炉の下部の塩素導入管から導入される塩素ガスの体積比が1:0.17、塩化炉の上部の塩素導入管から導入される塩素ガスの体積と窒素ガスの体積比が29:61、塩化炉の下部の塩素導入管から導入される塩素ガスの体積と窒素ガスの体積比が2:98となる様に塩化炉に塩素ガス及び窒素ガスを導入して金属銅と塩素ガスを反応させて、塩化銅ガスを生成させた。このときの塩化炉の断面積S、金属原料の断面積s、塩化炉の断面積と金属原料の断面積の比(s/S)、塩化炉の断面の直径D、金属原料の平均直径d、塩素ガスの進行方向に垂直な断面における、塩化炉の断面の直径Dと金属原料の平均直径dとの比(d/D)、金属原料の球形度、塩素ガスの進行方向に垂直な任意の2箇所の断面における該金属原料の断面積の比(s1/s2)等は表1の通りである。
【0050】
生成させた塩化銅ガスを1150℃に加熱した還元炉に導き、塩化銅ガスに対して水素ガスを4600モル%、塩化銅ガスに対して窒素ガスを24600モル%となる様に、水素ガス及び窒素ガスを還元炉に導入させて、塩化銅を還元させて銅を生成させ、生成させた銅を窒素ガスで冷却させて個々の銅粒子を得て、銅粒子の集合体として銅粉体を得た。
【0051】
得られた銅粉体を走査型電子顕微鏡(SEM:株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU5000)を用いて、倍率15000倍におけるSEM像の一つの視野中に存在する500個の銅粒子を画像解析ソフト(株式会社マウンテック製Macview4.0)を用いて解析した結果、平均粒子径D50は246nmであった。
【0052】
平均粒子径D50の2倍以上の粒径を有する銅粒子を粗粉と定義して、全銅粉体(上述した倍率15000倍におけるSEM像の一つの視野中に存在する500個の銅粒子)に対する粗粉の存在比率(%)を評価したところ、粗粉の存在比率は0.6%であった。
【0053】
なお、粗粉の存在比率が、1.0%以下を◎、1.0%超2.5%以下を〇、2.5%超3.0%以下を△、3.0%超を×と評価し、この基準に基づく評価結果を表1に併記した。実施例1では粗粉の存在比率が0.6%であるため非常に良好な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
塩化炉の断面積Sと、金属原料の断面積sとの比、s/Sを0.75とした以外は、実施例1と同様の条件で銅粉体の作製を行った。
【0055】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、平均粒子径D50は249nm、粗粉の存在比率は0.8%であり非常に良好な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
塩化炉の断面積Sと、金属原料の断面積sとの比、s/Sを0.90とした以外は、実施例1と同様の条件で銅粉体の作製を行った。
【0057】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、平均粒子径D50は251nm、粗粉の存在比率は0.7%であり非常に良好な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0058】
[実施例4]
金属原料の平均直径dを1.52mm、塩化炉の塩素ガスの進行方向に垂直な断面の直径(D)に対し、金属原料の垂直な断面と平行な断面の平均直径(d)の比(d/D)を0.01とした以外は、実施例2と同様の条件で銅粉体の作製を行った。
【0059】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、平均粒子径D50は245nm、粗粉の存在比率は1.5%であり良好な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0060】
[実施例5]
金属原料として球形のものに代えて立方体のものを用いたこと以外は、実施例2と同様の条件で銅粉体の作製を行った。
【0061】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、平均粒子径D50は263nm、粗粉の存在比率は2.7%であり許容可能な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0062】
[実施例6]
塩素ガスの進行方向に垂直な任意の2箇所の断面における該金属原料の断面積(s1及びs2、但し、s2≧s1とする)の比(s1/s2)を0.50とした以外は、実施例2と同様の条件で銅粉体の作製を行った。
【0063】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、平均粒子径D50は252nm、粗粉の存在比率は3.0%であり許容可能な結果が得られた。
以上の結果を表1に示す。
【0064】
[比較例]
比較例として、塩化炉の断面積Sと、金属原料の断面積sとの比、s/Sを0.99としたとき(比較例1)、及び0.30としたとき(比較例2)について作製された銅粉体の評価を行った。
【0065】
得られた銅粉体を、実施例1と同様の方法で評価した結果、比較例1の平均粒子径D50は332nm、粗粉の存在比率は3.9%、及び比較例2の平均粒子径D50は325nm、粗粉の存在比率は4.2%であった。
以上の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、塩化炉における金属原料と塩素ガスとの反応を適切に行うことができ、反応が進行しても反応の適切性が維持されることができるので、未反応塩素ガスが還元炉へ供給されることが抑制でき、粗粉の生成を抑制することができる。本発明は産業上有用な発明である。
【符号の説明】
【0068】
100・・・製造装置、102・・・金属原料、104・・・充填、110・・・金属塩化物生成装置、112・・・塩化炉、114・・・ヒータ、116・・・開口、120・・・第1の輸送管、122・・・第1のガス導入管、150・・・還元装置、152・・・還元炉、154・・・ヒータ、156・・・第2の輸送管、158・・・第3のガス導入管
【要約】
【課題】気相法による金属粉体の製造方法において、塩化炉に供給された塩素ガスが金属原料と反応せずに、未反応の塩素ガスとして還元炉へ供給されて粗粉が生成されることを抑制できる製造方法を提供すること。
【解決手段】塩化炉内で金属原料と塩素ガスとを反応させて金属塩化物を得て、金属塩化物を還元性ガスと反応させて金属粉体を生成する金属粉体の製造方法において、塩化炉の塩素ガスの進行方向に垂直な断面積(S)に対し、金属原料の前記方向に垂直な断面積(s)の比(s/S)が、0.5以上0.95以下である。
【選択図】図1
図1
図2