【実施例】
【0028】
本発明の光計測装置に係る実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例では、流体として血液を挙げる。また、測定対象として、人工透析装置の血液回路を構成するチューブを挙げる。尚、本発明の光計測装置は、生体の血管内を流れる血液や、血液以外の任意の流体(例えば、インク、油、汚水、調味料等)の計測にも適用可能である。
【0029】
<第1実施例>
本発明の光計測装置に係る第1実施例について
図1乃至
図11を参照して説明する。
【0030】
(光計測装置の構成)
第1実施例に係る光計測装置の構成について
図1を参照して説明する。
図1は、第1実施例に係る光計測装置の構成を示すブロック図である。
【0031】
図1において、光計測装置100は、半導体レーザ11、レーザ駆動部12、受光素子21、I−V変換部22、BPF(Band−pass Filter)増幅器23、A/D変換部24、周波数解析部25、平均周波数演算部26、流速推定部27、外乱生成部31、同期検出部32、位相補償部33、基準電流部34、減算部35及び加算部36を備えて構成されている。
【0032】
レーザ駆動部12は、半導体レーザ11を駆動するための電流(具体的には、半導体レーザ11の閾値電流以上の規定の駆動電流)を発生する。半導体レーザ11は、レーザ駆動部12により発生された駆動電流に従ってレーザ発振する。半導体レーザ11から出射されたレーザ光は、例えばレンズ素子等の光学系(図示せず)を介して、被測定対象である体外循環血液回路(即ち、内部に血液が流れている透明なチューブ)に照射される。該照射されたレーザ光は、体外循環血液回路を構成するチューブや、その内部を流れる血液により散乱及び吸収される。
【0033】
尚、体外循環血液回路は、半導体レーザ11並びに受光素子21が設置・固定された筺体(図示せず)に、振動等により照射位置がずれないように半固定されている。
【0034】
受光素子21は、被測定対象に照射されたレーザ光の散乱光(ここでは、反射光)を受光する。受光素子21により受光される散乱光には、体外循環血液回路を構成するチューブ内を流れる血液(特に、当該血液に含まれる、移動している散乱体である赤血球)により散乱された散乱光や、チューブ等の静止している組織により散乱された散乱光が含まれる。
【0035】
受光素子21は、受光した散乱光の強度に応じた検出電流を出力する。I−V変換部22は、受光素子21から出力された検出電流を電圧信号(
図1における“検出電圧”参照)に変換する。
【0036】
ここで、受光素子21に入射する散乱光には、静止している組織(例えば、体外循環血液回路を構成するチューブ等)により散乱された散乱光と、移動物体である血液に含まれる赤血球により散乱された散乱光と、が含まれる。赤血球により散乱された散乱光には、該赤血球の移動速度に応じたドップラーシフトが生じている。
【0037】
このため、静止している組織により散乱された散乱光と、赤血球により散乱された散乱光とは、レーザ光の可干渉性により干渉を起こす。受光素子21から出力される検出電流には、この干渉の結果としての光ビート信号が含まれる。
【0038】
ここで、受光素子21及びI−V変換部22の一例について、
図2を参照して説明を加える。
図2は、第1実施例に係る受光素子21及びI−V変換部22の一例を示す回路図である。
【0039】
図2において、受光素子21は、例えばPIN型半導体によるフォトディテクタPDにより構成されている。I−V変換部22は、増幅器Amp1及び帰還抵抗Rfにより構成されている。ここで、増幅器Amp1は、所謂トランスインピーダンスアンプを構成している。
【0040】
フォトディテクタPDのアノードは、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。フォトディテクタPDのカソードは、増幅器Amp1の反転入力端子に接続されている。増幅器Amp1の非反転入力端子は、例えばグランド電位等の基準電位に接続されている。
【0041】
フォトディテクタPDから出力される検出電流は、帰還抵抗Rfにより電圧に変換され検出電圧(即ち、電圧信号)として、増幅器Amp1から出力される。
【0042】
再び
図1に戻り、BPF増幅器23は、I−V変換部22から出力された電圧信号に含まれる高周波数成分及び低周波数成分(即ち、所定の周波数帯域以外の信号成分)をカットした上で増幅する。I−V変換部22から出力された電圧信号には、例えばスイッチング電源ノイズ等のノイズ成分である高周波信号が含まれている。I−V変換部22から出力された電圧信号がBPF増幅器23に入力されることにより、ノイズ成分を抑制しつつ信号を増幅することができる。
【0043】
A/D変換部24は、BPF増幅器23から出力された信号であるAC信号に対して、A/D変換処理(即ち、量子化処理)を行う。この結果、A/D変換部24から光ビート信号が出力される。
【0044】
周波数解析部25は、光ビート信号に対して、例えばデジタル信号処理(Digital Signal Processing:DSP)により、FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)等の周波数解析を行い、パワースペクトルP(f)を出力する。
【0045】
平均周波数演算部26は、パワースペクトルP(f)に基づいて、平均周波数fmを算出する。
【0046】
ここで、周波数解析部25及び平均周波数演算部26各々の一具体例を、
図3を参照して説明する。
図3は、第1実施例に係る周波数解析部25及び平均周波数演算部26の一例を示す概念図である。
【0047】
図3において、A/D変換部24から出力された光ビート信号は、周波数解析部25のバッファ&窓処理部において、蓄積されたnポイントの光ビート信号に係るデータ列は、例えばハニング窓で、FFTを実行するための前処理が施される。その後、ハニング窓の窓関数により制限されたデータに対し、FFT部においてnポイントのFFT演算が行われる。FFT部によるFFT演算の結果は、2乗演算部による複素共役処理の後、パワースペクトルP(f)としてn/2ポイントのデータが出力される。
【0048】
平均周波数演算部26の1次モーメント積算部は、パワースペクトルP(f)と周波数ベクトルfとを乗算し、規定帯域(ここでは、f0〜f1)で積算することにより、1次モーメントとして、1stM=Σ{f・P(f)}を出力する。平均周波数演算部26のパワー積算部は、パワースペクトルP(f)を、規定帯域(ここでは、f0〜f1)で積算し、Ps=Σ{P(f)}を出力する。平均周波数演算部26の除算部は、1次モーメント1stMを、パワー積算部の出力であるPsで除算した値を、平均周波数fmとして出力する。
【0049】
被測定対象の内部を流れる血液の流速と平均周波数fmとの関係は、例えば
図4に示すようである。具体的には、流速と平均周波数fmとの関係は、流速が増加するほど平均周波数fmも高くなるという関係である。
図4に示すように、流速が比較的高い領域及び流速が比較的低い領域では、線形性が低下する。この結果、計測可能な流速範囲は自ずと限定される。尚、流速が比較的低い領域では、平均周波数fmのSN比が低下することに起因して線形性が低下する。他方、流速が比較的高い領域では、BPF増幅器23の帯域幅やA/D変換部24のサンプリング周波数による制限に起因して線形性が低下する。
【0050】
再び
図1に戻り、流速推定部27は、例えば
図4に示す流速と平均周波数fmとの関係に係るテーブルを用いて、平均周波数演算部26から出力された平均周波数fmから流速を推定する。つまり、当該光計測装置100は、所謂レーザフローメトリ法による散乱流体の流速推定装置を構成している。
【0051】
光計測装置100は、更に、LD(Laser Diode)温度制御部40を備えて構成されている。ここで、LD温度制御部40について、
図5を参照して説明を加える。
図5は、第1実施例に係るLD温度制御部の構成を示すブロック図である。
【0052】
図5において、LD温度制御部40は、ペルチェ素子41、サーミスタ42、目標温度生成部43、電圧検出部44、減算部45、位相補償部46及び駆動回路47を備えて構成されている。半導体レーザ11は、伝熱板を介してペルチェ素子41の一方の面側に配置されている。半導体レーザ11に発生した熱は、伝熱板、ペルチェ素子41及び放熱板を介して外部環境に放熱される。
【0053】
伝熱板には、サーミスタ42が熱結合されている。サーミスタ42は、基準抵抗とブリッジ回路を構成しており(図示せず)、その中点が電圧検出部44に接続される。サーミスタ42は、NTC型のサーミスタである。NTC型のサーミスタは、温度が上昇するとサーミスタの電気抵抗が減少する。このため、中点電圧が温度により変化する。
【0054】
電圧検出部44により検出されたサーミスタ電圧(
図5における“温度検出電圧”参照)は、減算部45の一方の入力端に入力される。減算部45の他方の入力端には、目標温度生成部43により生成された目標温度電圧が入力される。尚、目標温度電圧部43は、例えばCPU(Central Processing Unit)及び、該CPUに内蔵されたD/A変換器等(図示せず)により構成されている。
【0055】
減算部45は、目標温度電圧から温度検出電圧を減算して温度誤差を生成する。位相補償部46は、減算部45により生成された温度誤差に対して、温度の負帰還制御に好適な位相補償(例えばPID(比例積分微分))制御を実行し、駆動回路47に駆動指令を出力する。駆動回路47は、駆動指令に従いペルチェ電流を生成する。
【0056】
サーミスタ42、電圧検出部44、減算部45、位相補償部46、駆動回路47及びペルチェ素子41により、LD温度制御ループが形成される。
【0057】
外部環境温度が高い場合、ペルチェ素子41は、ペルチェ電流に対応した熱流量にて、伝熱板を介して半導体レーザ11に発生した熱を放熱板に移動させる。放熱板は、その熱を外部環境に放熱する。この場合、ペルチェ素子41は、半導体レーザ11を冷却することになる。他方、外部環境温度が低い場合、ペルチェ素子41には逆向きのペルチェ電流が印加され、熱流量の極性は反転して、伝熱板を介して半導体レーザ11は加熱される。この場合、ペルチェ素子41は、半導体レーザ11を加熱することになる。このような動作により。サーミスタ42の検出電圧は、外部環境温度が変化しても、温度制御ループの負帰還作用により、目標電圧(目標温度)に維持される。
【0058】
(温度制御の問題点)
ファブリペロー型の半導体レーザは、駆動電流が一定であっても、素子の温度変化により、出射光パワーと発振波長が変動する。具体的には、温度が上昇するとレーザ発振の閾値電流が指数関数的に上昇し、出射光パワーは低下する。また、屈折率の温度依存性等により、縦モードの実効的な共振器長が、温度のわずかな上昇で変化し発振波長が長くなる。温度がさらに上昇すると隣接モードとの利得差が反転し、隣接モードに突然移行する波長飛び、所謂モードホップが生じる。モードホップが生じる温度条件下では、隣接モードとの利得差がなくなり、所謂モード競合が生じる。或いは、複数の発振波長が存在する所謂マルチモード状態となる。
【0059】
当該光計測装置100のようなレーザドップラ作用を利用した光計測装置では、光の干渉性が重要である。計測精度を向上させるには、レーザ発振を光干渉性の高いシングルモードに維持する必要がある。レーザフローメトリ法による散乱流体の流量推定において、レーザの発振状態が、シングルモードからマルチモードに移行すると、光の干渉性の低下により、光ビート信号の振幅が低下し、結果的に計測SN比が低下することが、本願発明者の研究により判明している。このような問題に対応すべく、
図5に示したLD温度制御部40の作用により、半導体レーザ11の温度を一定にするための温度の負帰還制御が実行される。
【0060】
しかしながら、外部環境温度が変化すると、温度の負帰還制御の作用により、サーミスタ42による検出温度が一定に維持されたとしても、温度制御の対象である半導体レーザ11の温度は、必ずしも一定に維持されない。
【0061】
その理由を、
図5及び
図6を参照して説明する。
図6は、第1実施例に係るLD温度制御部における部材の位置と温度との関係との一例を示す図である。
【0062】
サーミスタ42と外部環境との間の熱流量は、
図5に示すように、伝熱板による熱伝導、ペルチェ素子41による熱伝導、及び放熱板から外部環境への熱伝達があり、各部材が熱抵抗を有している。加えて、各部材間の接触面での接触熱抵抗も存在する。特に自然冷却とした場合、放熱板から外部環境への熱伝達における熱抵抗は比較的大きくなる。
【0063】
また、サーミスタ42と半導体レーザ11との間の熱伝導過程には、
図5に示すように、サーミスタ42と伝熱板との間の接触熱抵抗、半導体レーザ11自身のパッケージと素子との間の熱抵抗等が存在する。
【0064】
図6において、外部環境温度が比較的高い“T2H”であり、半導体レーザ11が駆動されている(即ち、半導体レーザ11が発熱している)場合、ペルチェ電流がゼロであると(即ち、ペルチェ素子41による強制的な熱移動がないとすると)、外部環境と半導体レーザ11との間の温度は、破線(i)で表される。
【0065】
このとき、LD温度制御部40に係る目標温度が“T1”に設定され、ペルチェ素子41により半導体レーザ11が冷却され、サーミスタ42の検出温度が“T1”になった場合、外部環境とサーミスタ42との間の温度は、実線(ii)で表される。ここで、上述の如く、サーミスタ42と半導体レーザ11との間には熱抵抗が存在するので、サーミスタ42の温度と半導体レーザ11の温度とは一致しない。
【0066】
同様に、外部環境温度が比較的低い“T2L”であり、半導体レーザ11が駆動されている場合、ペルチェ電流がゼロであると、外部環境と半導体レーザ11との間の温度は、破線(iv)で表される。
【0067】
このとき、LD温度制御部40に係る目標温度が“T1”に設定され、ペルチェ素子41により半導体レーザ11が加熱され、サーミスタ42の検出温度が“T1”になった場合、外部環境とサーミスタ42との間の温度は、実線(iii)で表される。この場合も、サーミスタ42の温度と半導体レーザ11の温度とは一致しない。
【0068】
ここで特に、ペルチェ素子41により半導体レーザ11が冷却された場合も、ペルチェ素子41により半導体レーザ11が加熱された場合も、サーミスタ42の検出温度は“T1”であるが、半導体レーザ11の温度にはΔTの誤差が生じる(即ち、半導体レーザ11の位置における実線(ii)と実線(iii)との差分)。この誤差ΔTは、サーミスタ42と半導体レーザ11との間の熱抵抗がゼロにならない限りゼロにはならない。つまり、現実的には、誤差ΔTをゼロにすることはできない。
【0069】
LD温度制御部40に係る温度制御ループの負帰還作用により、目標温度(即ち、サーミスタ42の検出温度)を所定値(ここでは、“T1”)に維持できたとしても、外部環境温度が比較的大きく変化すると、半導体レーザ11の温度がわずかではあるが変化してしまう。
【0070】
ファブリペロー型の半導体レーザのモード間の遷移温度は数度以下であり、シングルモードを維持するには、半導体レーザ11の温度変動を1度以下に制御する必要がある。このため、外部環境温度の変化が比較的大きい場合、LD温度制御部40に係る温度制御ループのみでは、半導体レーザ11の温度制御を適切に行うことは難しい。
【0071】
(平均周波数)
次に、平均周波数fmについて
図7を参照して説明を加える。
図7は、パワースペクトルの一例を示す図である。
【0072】
図7(a)に示すように、被測定対象の内部を流れる血液の流速が比較的低い場合のパワースペクトルP1(f)は比較的低い周波数に集中する。このため、流速が比較的低い場合、平均周波数は比較的低い“f1”となる。他方、被測定対象の内部を流れる血液の流速が比較的高い場合のパワースペクトルP2(f)は比較的高い周波数に集中する。このため、流速が比較的高い場合、平均周波数は比較的高い“f2”となる。
【0073】
図7(b)は、被測定対象の内部を流れる血液の流速は一定であるが、半導体レーザ11の発振モードが異なる場合のパワースペクトルの一例を示している。半導体レーザ11がシングルモードで発振している場合のパワースペクトルP1(f)の平均周波数は“f1”となる。
【0074】
他方、半導体レーザ11がマルチモードで発振している場合のパワースペクトルP1M(f)は、パワースペクトルP1(f)に比べて、低周波数成分が少なく、高周波数成分が多い。これは、マルチモードの場合、光干渉性が低下することにより、光ビート信号の振幅が減少するためである。特に、高周波数成分の増加は、モードホップによるインパルス状のノイズが関連していると考えられる。この結果、パワースペクトルP1M(f)の平均周波数は“f1M”となる。
【0075】
図7(a)に示すように、流速が高いほど平均周波数が高くなる。このため、半導体レーザ11がマルチモードで発振している場合、流速が同じであるにもかかわらず、半導体レーザ11がシングルモードで発振している場合よりも高い流速が誤って推定されてしまう。
【0076】
外部環境温度の変化が比較的大きい場合、LD温度制御部40だけでは半導体レーザ11の温度制御を適切に行うことは難しく、モードホップに起因して流速が誤って推定される可能性がある。
【0077】
(温度と平均周波数との関係)
サーミスタ42の検出温度(≒半導体レーザ11の温度)と平均周波数との関係の一例を
図8に示す。
図8に示すように、サーミスタ42の検出温度が変化すると、半導体レーザ11の発振モードも変化し、シングルモードとマルチモードとを交互に繰り返す。半導体レーザ11の発振モードがシングルモードの場合、流速が変わらなければ平均周波数も変化しない(具体的には、流速が比較的低い場合平均周波数は“f1”であり、流速が比較的高い場合平均周波数は“f2”である)。他方、半導体レーザ11の発振モードがマルチモードの場合、流速が変わらなくとも平均周波数が不規則に変化してしまう。
【0078】
半導体レーザ11の温度は、LD温度制御部40に係る温度制御ループの他に、半導体レーザ11自身の発熱によっても変化する。ここで、半導体レーザ11自身の発熱量は、該半導体レーザ11に供給される駆動電流の大きさによって変化する。
【0079】
仮に、半導体レーザ11の発振モードが、
図8の区間Aにおけるマルチモードである場合、半導体レーザ11に供給される駆動電流を減らすことによって、半導体レーザ11の発熱を抑制すれば、半導体レーザ11の温度が低下し、発振モードをマルチモードからシングルモードへ変化させることができる。同様に、半導体レーザ11の発振モードが、
図8の区間Bにおけるマルチモードである場合、半導体レーザ11に供給される駆動電流を増やすことによって、半導体レーザ11の発熱を増やせば、半導体レーザ11の温度が上昇し、発振モードをマルチモードからシングルモードへ変化させることができる。
【0080】
本願発明者は、この点に着目し、半導体レーザ11に供給される駆動電流を適切に制御することによって、発振モードをマルチモードからシングルモードへ遷移させ、流速の誤検出を抑制することにした。具体的には、当該光計測装置1を次のように構成した。
【0081】
(駆動電流探索ループ)
光計測装置1は、更に、外乱生成部31、同期検出部32、位相補償部33、基準電流部34、減算部35及び加算部36を備えて構成されている(
図1参照)。
【0082】
外乱生成部31は、外乱信号を生成する。外乱信号は、例えば
図10に示すように、振幅が±1で、繰り返し周期がT、パルスデューティ比が50%の矩形波である。外乱信号の繰り返し周期Tは、周波数解析部25におけるFFTに必要なnポイントのデータが取得可能な時間の2倍よりも長い時間に設定される。その理由は、当該光計測装置100が、外乱信号の半周期に少なくとも1以上のFFT結果から平均周波数fmが演算できるように条件設定されているからである。
【0083】
同期検出部32の一具体例を、
図9を参照して説明する。
図9は、第1実施例に係る同期検出部32の一例を示す概念図である。
【0084】
図9において、同期検出部32は、乗算器及びLPF(Low−pass Filter)を備えて構成されている。平均周波数演算部26により演算された平均周波数fmは、乗算器の一方に入力される。外乱生成部31により生成された外乱信号は、乗算器の他方に入力される。乗算器は、平均周波数fmと外乱信号とを乗算することにより、両者の位相差を算出する。つまり、乗算器は、位相比較器として動作する。乗算器の出力はLPFにより平均化され検波信号が出力される(
図10参照)。
【0085】
位相補償部33は、同期検出部32から出力された検波信号に対して、所定の位相補償制御を実行する。減算部35の一方の入力端には、位相補償部33からの出力が入力される。また、減算部35の他方の入力端には、基準電流部34からの基準電流が入力される。減算部35は、基準電流を基準として、位相補償部33からの出力を減算した値を、誤差信号として出力する。
【0086】
加算部36の一方の入力端には誤差信号が入力される。加算部36の他方の入力端には外乱信号が入力される。加算部36は、誤差信号に外乱信号を加算して、LD電流指令を生成する。外乱信号が加算されるので、LD電流指令は外乱信号に同期して微小振動(ウォブリング)することとなる(
図10参照)。
【0087】
次に、
図8の区間A及びB(即ち、マルチモード時)における検波信号等について、
図10を参照して説明する。
図10は、外乱信号、LD電流指令、平均周波数、乗算器出力及び検波信号各々の一例を示す図である。
【0088】
図8の区間Aでは、サーミスタ42の検出温度(言い換えれば、半導体レーザ11の駆動電流)が高くなるほど平均周波数も高くなる。つまり、区間Aでは平均周波数の傾き(即ち、微分値)は「正」となる。他方、区間Bでは、サーミスタ42の検出温度が高くなるほど平均周波数は低くなる。つまり、区間Bでは平均周波数の傾きは「負」となる。
【0089】
ここで、LD電流指令は、上述の如く、外乱信号に同期して微小振動しているので、半導体レーザ11に供給される駆動電流も外乱信号に同期して微小振動することとなる。この結果、平均周波数演算部26により演算された平均周波数fmも外乱信号に同期して微小振動する。
【0090】
図8の区間Aでは、平均周波数の傾きが「正」であるので、平均周波数演算部26により演算された平均周波数fmの微小振動は、外乱信号と同相となる(
図10の平均周波数fmの“同相(区間A)”参照)。従って、同期検出部32の乗算器の出力は正出力となる。このため、同期検出部32のLPFの積分作用により、検波信号は増加する。
【0091】
他方、区間Bでは、平均周波数の傾きが「負」であるので、
平均周波数演算部26により演算された平均周波数fmの微小振動は、外乱信号と逆相となる(
図10の平均周波数fmの“逆相(区間B)”参照)。従って、同期検出部32の乗算器の出力は負出力となる。このため、検波信号は減少する。
【0092】
上述の如く、減算部35では、基準電流から位相補償部33の出力が減算され、誤差信号が出力される。区間Aでは、検波信号が増加するため、該検波信号を反映する位相補償部33の出力も増加する。この結果、誤差信号は減少することとなる。すると、LD電流指令も減少し、半導体レーザ11に供給される駆動電流も減少する。駆動電流の減少に起因して半導体レーザ11の温度が低下すると、該半導体レーザ11の発振モードは、マルチモード(区間A)からシングルモード(
図8において区間Aの左側に隣接する区間)へ移行する。
【0093】
同様に、区間Bでは、検波信号が減少するため、位相補償部33の出力も減少する。この結果、誤差信号は増加することとなる。すると、LD電流指令も増加し、半導体レーザ11に供給される駆動電流も増加する。駆動電流の増加に起因して半導体レーザ11の温度が上昇すると、該半導体レーザ11の発振モードは、マルチモード(区間B)からシングルモード(
図8において区間Bの右側に隣接する区間)へ移行する。
【0094】
このように、当該光計測装置100では、外乱生成部31、同期検出部32、位相補償部33、減算部35及び加算部36、並びに平均周波数演算部26等により駆動電流探索ループが形成される。この駆動電流探索ループにより、半導体レーザ11の供給される駆動電流が適切に設定される。
【0095】
ここで、当該光計測装置100の動作時における駆動電流及び平均周波数各々の具体例について
図11を参照して説明する。
【0096】
図11(a)の時刻t0において、半導体レーザ11に供給される駆動電流は“i2−Δi”であり、平均周波数は“f2+Δf”であるとする。この場合、
図11(b)に示すように、半導体レーザ11の発振モードはマルチモードである。
【0097】
図11(a)の時刻t1において、光計測装置100を統括制御するCPU(図示せず)により上記駆動電流探索ループがONされると、駆動電流が外乱信号に同期して微小振動する(尚、
図11(a)では、縮尺の関係から太線で表記している)。
【0098】
図11(a)に示すように、駆動電流探索ループの負帰還作用により、時刻t1から駆動電流は徐々に増加し最終的に“i2”に収束する(尚、時刻t2において整定状態となったものとする)。このとき、平均周波数は、時刻t1から徐々に減少し最終的に“f2”に収束する。
【0099】
図11(b)に示すように、駆動電流が“i2”になると、半導体レーザ11の発振モードはシングルモードになる。このため、平均周波数“f2”は、適切な値であると言える。
【0100】
(駆動電流探索ループと温度制御ループとの関係)
LD温度制御部40(
図5参照)による温度制御ループの周波数は1Hz以下の帯域で設計せざるをえない。なぜなら、温度制御ループを構成する部材の熱容量により、サーミスタ42により検出される温度は瞬間的には変化しないからである(即ち、時間応答性が遅いからである)。
【0101】
他方、駆動電流探索ループにおける外乱信号の周波数は、例えば50Hz以上の帯域に設定可能である。なぜなら、駆動電流の変化により、半導体レーザ11の温度を局所的に変化させることは比較的容易だからである(即ち、時間応答性が早いからである)。
【0102】
このため、駆動電流探索ループによる半導体レーザ11の局所的な温度変化は、温度制御ループに影響を及ぼすことはないと考えられる。つまり、駆動電流探索ループと温度制御ループとが干渉することはないと考えられる。
【0103】
(効果)
当該光計測装置100によれば、半導体レーザ11の発振モードが、被測定対象の内部を流れる血液の流速の計測に不適切なマルチモードになったとしても、上述の駆動電流探索ループにより、発振モードを流速の計測に好適なシングルモードに移行することができる。このため、当該光計測装置100によれば、半導体レーザ11から出射されるレーザ光の特性変化を抑制して、流速を適切に計測することができる。
【0104】
尚、本実施例に係る駆動電流探索ループは、半導体レーザ11の発振モードをシングルモードに維持することを目的としており、半導体レーザ11から出射されるレーザ光の波長を所定値に維持することは目的とはしていないことに留意されたし。
【0105】
半導体レーザ11に供給される駆動電流が変化することによって、半導体レーザ11から出射されるレーザ光の波長は変化する可能性はあるが、例えば
図11(b)に示すように、シングルモードが維持されてさえいれば、適切な平均周波数を求めることができ、もって、流速を適切に計測することができる。
【0106】
<第1変形例>
当該光計測装置100による計測前、或いは製品出荷前の調整として、LD温度制御部40により半導体レーザ11の温度を変更しつつ、規定の速度で流れる規定の散乱流体を光計測装置100で計測して、例えば
図8に示すような、サーミスタ42の検出温度と平均周波数との関係が求められてよい。そして、光計測装置100は、該求められた関係に基づいて、半導体レーザ11の発振モードがシングルモードとなるように、LD温度制御部40に係る目標温度の初期値が設定されてよい。
【0107】
このように構成すれば、例えば外部環境温度が、当該光計測装置100の設計時の温度(例えば常温)からずれている場合や、半導体レーザ11の経年変化等により温度に対するレーザ発振特性が変化している場合であっても、LD温度制御部40に係る目標温度の初期値を適切に設定することができる。
【0108】
加えて、LD温度制御部40に係る目標温度の初期値を適切に設定されれば、駆動電流探索ループにおいて、駆動電流が過大になったり過小になったりすることを防止することができる。この結果、過大な駆動電流に起因して半導体レーザ11の素子寿命が短縮されたり、過小な駆動電流に起因してSN比が低下し、計測結果の誤差が増大したりすることを防止することができる。
【0109】
<第2変形例>
同期検出部32の具体的な構成は、
図9に示す構成に限らず、例えば
図12に示す構成であってもよい。
【0110】
測定対象である人工透析装置の血液回路を構成するチューブを流れる血液は、チューブがチューブポンプ(例えばチューブをローラでしごいて管内の血液を押し出す方式のポンプ)等により移送される。このため、流速には、チューブポンプのローラの回転数に応じた脈動成分が存在する。この脈動成分の周波数が、外乱信号の周波数に比べて低くなるべく、あらかじめ外乱信号の周波数を設定しておく。
【0111】
図12に示すように、同期検出部32の乗算器の前段に、例えば
図13に示す周波数特性を有するHPF(High−pass Filter)を設けることにより、上記脈動成分に起因するノイズ成分を抑制することができる。この結果、検波信号のSN比を向上させることができる。
【0112】
図13に示すように、外乱信号の周波数fwbを、HPFのカットオフ周波数fhpに比べて高く設定することによって、外乱信号に同期して変化した信号成分を同期検出部32において比較的効率良く検出することができる。
【0113】
<第2実施例>
本発明の光計測装置に係る第2実施例について
図14を参照して説明する。第2実施例では、構成の一部が異なる以外は、上述した第1実施例と同様である。よって、第2実施例について、第1実施例と重複する説明を省略するとともに、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点について、
図14を参照して説明する。
【0114】
(光計測装置の構成)
図14において、光計測装置200は、LPF増幅器51、戻り光量判定器52、ゲイン選択部53、ホールド部54、BPF55、規定時間生成部56、バックモニタPD(Photo Detector)61、I−V変換部62及び出射光判定器63を備えて構成されている。
【0115】
平均周波数演算部26から出力された平均周波数fmは、BPF55に入力される。BPF55の低周波数側のカットオフ周波数は、例えば
図13に示す周波数fhpであってよい。また、BPF55の高周波数側のカットオフ周波数は、外乱信号の周波数よりも高い周波数に設定されている。
【0116】
LPF増幅器51は、I−V変換部22から出力された電圧信号に含まれる高周波成分をカットした上で増幅する。LPF増幅器51から出力されたDC信号は、戻り光量判定器52に入力される。
【0117】
ここで、被測定対象の内部を流れる流体に散乱光が含まれていない又は殆ど含まれていない場合、後方散乱光である反射光を主に受光すべく配置された受光素子21への戻り光のレベル(光量)は低下する。この結果、I−V変換部22から出力される検出電圧が低下し、LPF増幅器51から出力されるDC信号のレベルも低下する。
【0118】
戻り光量判定器52は、DC信号のレベルが比較的低い場合、流体が散乱体を含まない又は殆ど含まないと判定し、上述の駆動電流探索ループを開状態とするループ開閉信号を出力する。他方、戻り光量判定器52は、DC信号のレベルが比較的高い場合、流体に散乱体が含まれると判定し、駆動電流探索ループを閉状態とするループ開閉信号を出力する。
【0119】
ループ開閉信号は、ホールド部54に入力される。ホールド部54に、閉状態とするループ開閉信号が入力されると、上述の第1実施例と同様に、検波信号の変化に応じて変化するLD電流指令が、ホールド部54から出力される。他方、ホールド部54に、開状態とするループ開閉信号が入力されると、開状態とするループ開閉信号が入力されている期間、閉状態から開状態へ移行する直前のLD電流指令が維持される。
【0120】
バックモニタPD61は、半導体レーザ11から出射された光の光量を検出して、光量に応じた検出電流を出力する。I−V変換部62は、バックモニタPD61から出力された検出電流を電圧信号(
図14における“バックモニタ信号”参照)に変換する。I−V変換部62から出力されたバックモニタ信号は、出射光判定器63に入力される。
【0121】
出射光判定器63は、バックモニタ信号のレベルが比較的高い場合(即ち、半導体レーザ11から出射された光のパワーが比較的高い場合)、もしくは、バックモニタ信号のレベルが著しく低い(過小な駆動電流に起因し光のパワーが落ち、SN比が低下し、計測結果の誤差が増大するような)場合、制限状態を示す電流制限信号を出力する。他方、出射光判定器63は、バックモニタ信号のレベルが上記以外で流速計測に好適な場合(即ち、半導体レーザ11から出射された光のパワーが流速計測に好適な場合)、通常状態を示す電流制限信号を出力する。
【0122】
電流制限信号は、ホールド部54に入力される。ホールド部54に、通常状態を示す電流制限信号が入力されると、上述の第1実施例と同様に、検波信号の変化に応じて変化するLD電流指令が、ホールド部54から出力される。他方、ホールド部54に、制限状態を示す電流制限信号が入力されると、制限状態を示す電流制限信号が入力されている期間、通常態から制限状態へ移行する直前のLD電流指令が維持される。
【0123】
規定時間生成部56は、光計測装置200を統括制御するCPU(図示せず)からの電流探索指令を受信すると、規定時間を示す信号をゲイン選択部53に送信する。規定時間を示す信号を受信したゲイン選択部53は、規定時間だけ通常時よりも高いゲインを選択する。
【0124】
(技術的効果)
1.流体が散乱体を含まない場合
測定対象の内部に流れる流体が散乱体を含まない又は殆ど含まない場合、光ビート信号が得られないので、流体の流量に応じた平均周波数fmは得られない。このとき、駆動電流探索ループがONされると、半導体レーザ11の発振モードがシングルモードであるかマルチモードであるかにかかわらず、平均周波数fmが変化することとなる。この結果、LD電流指令が一方的に増加又は減少するという現象が起こる可能性がある。つまり、駆動電流が一方的に増加又は減少するという現象が起こる可能性がある。
【0125】
本実施例では、LPF増幅器51から出力されるDC信号のレベルが比較的低い場合、戻り光量判定器52は駆動電流探索ループを開状態とするループ開閉信号を出力する。この結果、開状態とするループ開閉信号がホールド部54に入力されている期間、閉状態から開状態へ移行する直前のLD電流指令が維持される。
【0126】
加えて、I−V変換部62から出力されるバックモニタ信号のレベルが比較的高い場合、もしくは、バックモニタ信号のレベルが著しく低い場合、出射光判定器63は制限状態を示す電流制限信号を出力する。制限状態を示す電流制限信号がホールド部54に入力されている期間、通常態から制限状態へ移行する直前のLD電流指令が維持される。
【0127】
このように構成することにより、LD電流指令及び駆動電流が、一方的に増加又は減少するという現象を防止することができる。このため、駆動電流探索ループを安定して動作させることができる。加えて、半導体レーザ11の劣化を抑制することができる。
【0128】
2.駆動電流探索に要する時間の短縮
例えば
図11(a)における時刻t0の駆動電流“i2−Δi”が、整定状態の駆動電流“i2”から比較的大きく乖離している場合、整定状態に至るまでに要する時間が比較的長くなる。
【0129】
ゲイン選択部53により、規定時間だけ通常時よりも高いゲインが選択されると、外乱信号の振幅が比較的大きくなる。すると、同期検出部32に入力される平均周波数fmの変動成分も比較的大きくなる。この結果、検波信号の振幅も増加する。この作用により、駆動電流探索ループのループゲインが増加される。このため、トランジェント特性が改善し(具体的には、整定時間が短縮され)、整定状態に至るまでに要する時間が短縮される。
【0130】
従って、半導体レーザ11の発振モードがマルチモードである期間を比較的短くすることができるとともに、比較的短期間で、発振モードをマルチモードからシングルモードへ移行させることができる。
【0131】
加えて、ゲインが高い状態を規定時間に限定することにより、駆動電流の振動状態が助長される可能性を抑制することができる。この結果、駆動電流探索ループを安定して動作させることができる。
【0132】
<変形例>
受光素子21に加えて、戻り光量判定器52に入力されるDC信号を生成するための受光素子が設けられてもよい。該受光素子は、検出面積が比較的大きいことが望ましい。このように構成すれば、該受光素子から出力される検出電流が増加し、DC信号のSN比を向上させることができる。
【0133】
加えて、受光素子21の静電容量を比較的小さくするとともに、検出面積を比較的小さくすれば、光計測装置200の検出可能な流速の上限を拡大させることができる。
【0134】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う光計測装置及び方法、コンピュータプログラム並びに記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。