(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771680
(24)【登録日】2020年10月1日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】アルミニウム合金、このアルミ合金からなる棒材および締結用部品
(51)【国際特許分類】
C22C 21/12 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
C22C21/12
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2019-547189(P2019-547189)
(86)(22)【出願日】2018年2月16日
(65)【公表番号】特表2020-500266(P2020-500266A)
(43)【公表日】2020年1月9日
(86)【国際出願番号】EP2018053904
(87)【国際公開番号】WO2018149975
(87)【国際公開日】20180823
【審査請求日】2019年5月10日
(31)【優先権主張番号】17156731.6
(32)【優先日】2017年2月17日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519167508
【氏名又は名称】ドラートヴェルク エリゼンタール ヴェー. エルトマン ゲーエムベーハー ウント コー
(73)【特許権者】
【識別番号】519167519
【氏名又は名称】リヒャルト ベルクナー フェアビンドゥングステヒニク ゲーエムベーハー ウント コー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】テオドール ヴィンゲン
(72)【発明者】
【氏名】ヤニーナ ドルスクス
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ ノイエラー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ イェニング
(72)【発明者】
【氏名】クルハ ビュシュラ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス マウアレーダー
【審査官】
鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第102828090(CN,A)
【文献】
特開平07−179977(JP,A)
【文献】
特開2010−150648(JP,A)
【文献】
特開平03−264639(JP,A)
【文献】
特開平03−149304(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/12 − 21/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結用部品の製造のための、主合金元素として88%より大きいアルミニウムの合金割合および5%以上の銅の合金割合を有するアルミニウム合金において、ニッケルおよびケイ素が追加的な合金元素であり、ニッケルの合金割合は0.15%以上であり、かつケイ素の合金割合は1.0%以下であり、
銅 5.0〜6.1%
ニッケル 0.15〜1.0%
ケイ素 0.4〜1.0%
鉄 0〜0.2%
マンガン 0〜0.2%
マグネシウム 1.5〜2.2%
クロム 0〜0.2%
亜鉛 0〜0.3%
チタン 0〜0.25%
不純物 0〜0.15%および
残余 アルミニウム
からなる、アルミニウム合金。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金から製造されていることを特徴とする、締結用部品。
【請求項3】
室温で570MPaより大きい引張強さを有する、請求項2に記載の締結用部品。
【請求項4】
高い耐熱性を有する、請求項1または2に記載の締結用部品において、前記締結用部品は、24時間にわたる200℃の温度負荷後に、室温での引張強さの0.8倍より大きい残留引張強さを有し、かつ/または400MPaより大きい残留引張強さを有する、締結用部品。
【請求項5】
内燃機関のエンジン用ねじとして使用される、請求項2から4までのいずれか1項に記載の締結用部品。
【請求項6】
蓄電池のターミナルとしてまたは蓄電池のターミナル用のねじとして使用される、請求項2から4までのいずれか1項に記載の締結用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部による、冷間成形用の棒材製造のための、特に締結用部品の製造のためのアルミニウム合金に関する。本発明は、さらに、このアルミニウム合金から製造された棒材、およびこのアルミ合金からなる締結用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車分野では、自動車の重量が燃料消費量およびCO
2排出量に直接影響を及ぼすため、部品の軽量化を重視している。ここでは、アルミニウムおよびマグネシウムのような軽金属の使用に重点が置かれている。これらの金属から製造された部品の締結用部品として、特にハウジング部品の締結のために、アルミニウムねじが使用されている。同様の締結用部品の使用の利点は、スチールねじと比べて重量の軽減にあるだけでなく、むしろ稼働中の締結用部品および部材の低い腐食電位およびエピタキシャル成長による特別な利点が生じる。アルミニウム合金およびその化学組成は、DIN EN 573−3に記載されている。
【0003】
成形性、強度および腐食安定性に関する妥協点として、アルミニウムねじの製造用に、EN AW−6056によるアルミニウム合金(Al Si1MgCuMn)が使用される。しかしながら、このアルミニウム合金の場合、限定的な温度耐久性を示すだけであるということが不利であると判明している。したがって、この合金から作製された締結用部品は、150℃までの温度範囲で、例えばオイルパンまたはギアハウジングのねじ止めのために使用可能であるにすぎない。より高温が生じるような領域、特に180℃以上の温度が支配するエンジン領域では、この合金から製造された締結用部品は適していない。さらに、この合金は、自動車分野において多くの用途にとって十分ではない機械特性パラメータを有する。したがって、エンジンブロックはしばしば軽金属から製造されているにもかかわらず、例えばシリンダヘッドのねじ止めのためにはいまだにスチールねじが使用されている。
【0004】
航空および宇宙航行の分野では、EN AW−2024(Al Cu4Mg1)によるアルミニウム合金から製造されている締結用部品が使用されている。これは、効果的な析出硬化によるAl
2Cu相の析出により、R
m=570MPaまでの引張強さを可能にする高強度合金である。しかしながら、この合金からの棒材製造は、極めて手間がかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の先行技術から出発して、本発明の基礎をなす課題は、高い強度および耐食性を有し、かつ経済的な棒材製造を可能にし、かつ締結用部品の製造のために180℃以上の温度範囲での使用に適しているアルミニウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この課題は、請求項1の特徴を有するアルミニウム合金により解決される。88%より大きい割合を有するアルミニウムおよび5%以上の割合を有する銅の他に、ニッケルおよびケイ素が追加的な合金元素であり、ニッケルの合金割合は0.15%以上であり、かつケイ素の合金割合は1.0%以下であるが、少なくとも0.1%の無視できない割合である。すべての上述のおよび次の割合の記述は質量%で示されている。この場合、アルミニウム割合は、好ましくは89%より大きい、または90%より大きい。この割合は、例えば88%〜90%の範囲内にあるか、または90%より大きい。
【0007】
意外にも、これらの割合のニッケルおよびケイ素の添加により、高い強度と同時に、加工性の改善が達成されることが明らかとなった。
【0008】
この効果は、特に、ニッケルの合金割合が0.15%〜1.0%であり、かつ/またはケイ素の合金割合が0.4%〜1.0%である場合に生じる。この場合、銅の合金割合は、好ましくは5.0%〜6.1%である。
【0009】
本発明の発展形態の場合に、マグネシウムが追加的な合金成分であり、その合金割合は1.5%〜2.2%である。それにより、合金の良好な基本強度が達成され、これは追加的な合金成分のニッケルの添加の際に、合金の極めて良好な強度特性を可能にする。
【0010】
本発明の別の実施態様において、マンガンおよび/またはチタンが追加的な合金成分である。この場合、マンガンは、合金の熱安定性に好ましい作用を及ぼし、チタンは細粒化に作用し、それにより成形性が改善される。
【0011】
本発明の主題は、さらに、請求項9記載のこのような合金からなる棒材、ならびに請求項10記載のこのような合金から製造された締結用部品でもある。
【0012】
本発明の別の発展形態および実施態様は、従属請求項に示されている。実施例を、次に詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
好ましい実施例として挙げられた合金は、次の組成を含む。
【0014】
【表1】
【0015】
さらに、合計で0.15%を超えず、かつより好ましくは個別に0.05%を超えないその他の
不純物が存在してよい。(示されたMg値およびZn値の代わりに、これらの値はわずかに相違してもよく、例えば1.83%(Mg)および0.19%(Zn)であってもよい。)
【0016】
この実施例による合金を基礎とする鋳造棒材は、棒材を所望の最終直径に引き抜く経済的な棒材引抜プロセスを可能にする。この棒材は、また締結用部品の、特にねじの経済的な製造を可能にする。この製造は公知の方法で行われる。特に、1つ以上の(冷間)成形過程を経て棒材から軸部を備えた頭部が形成され、この軸部は少なくとも部分領域に、特にねじ転造によりねじ山が設けられている。あるいは、ねじ付きボルト、またはリベットのような他の締結用部品もしくは固定用部品が製造される。
【0017】
合金の改善された特性に基づき、この棒材を基礎として製造された冷間成形された締結用部品、特にねじは、高い機械安定性および腐食安定性と同時に高い耐熱性を有する。この温度耐久性に基づき、このような締結用部品は、180℃以上の温度領域でも使用可能である。
【0018】
特に、アルミニウム合金から製造された締結用部品、特にねじは、好ましくは570MPaより大きい引張強さ(室温で)を有する。したがって、この合金は、EN AW−6056による通常のアルミニウム合金と比べて明らかに改善された引張強さを示す。
【0019】
好ましい発展形態の場合に、この合金から製造された締結用部品、特にねじは、特に高い耐熱性を特徴とする。例えば、この締結用部品は、24時間にわたる200℃の温度負荷でもなお、室温での引張強さの0.8倍より大きい残留引張強さを有する。補足的にまたはこれに代えて、この残留引張強さは、400MPaより大きく、特に450MPaより大きい。さらに、この引張強さは、全体として、わずかに傾斜するほぼ線形の低下を示すだけであることが認識できる。引張強さは、ほぼ500MPaの高い水準に維持される。
【0020】
したがって、このような締結用部品は、特に、熱的に高い負荷がかかる領域での使用に適しており、かつこの種の熱的に高い負荷がかかる領域内で好都合に使用される。熱的に高い負荷がかかる領域とは、この場合、少なくとも一時的に150℃を超える、好ましくは180℃を超える、好ましくは200℃を超える温度を有する領域であると解釈される。この温度は、この場合、例えば0.5時間を超える、または1〜3時間を超える期間にわたり到達されかつ繰り返される。この種の熱的に繰り返される負荷は、例えば自動車エンジンの場合に生じる。
【0021】
特に、締結用部品は、自動車内で使用および取付けされていて、ここでは特にエンジン領域内に、特別にエンジン内自体に使用および取付けされている。エンジンは、特に内燃機関である。したがって、このねじは、特にエンジン用ねじとして、例えばシリンダヘッド用ねじとして使用される。
【0022】
あるいは、締結用部品は、好ましくは電気接続部品として使用され、特に自動車バッテリのバッテリ接続部の領域で使用される。締結用部品は、例えばターミナルまたはこのようなターミナル用のねじである。特に、電気走行モータを備えた電気自動車の場合に、自動車内に高い容量を有する蓄電池が取り付けられていて、この蓄電池には短い充電時間で極めて高い充電電流が供給される。また、これらの蓄電池は、電気走行モータに高い出力を供給するように設計されていて、この蓄電池は頻繁に100KWを超える電力を有する。相応して高い電流により、電線および特にバッテリ極は、熱的に非常に酷使される。
【0023】
ここでは、棒材または締結用部品がアルミニウム合金から製造されていることが記載されている場合には、これらは、完全に合金からなる棒材または締結用部品であるとも、場合により被覆、例えばスライド被覆を備えたものでもあると解釈される。しかしながら、その他に、これらは、2種の異なる材料からなり、第一の材料からなる心材と第二の材料からなる外被からなる棒材または締結用部品であるような部品とも解釈される。心材(好ましくは)または外被が、本発明によるアルミニウム合金からなる。この種のねじは、独国特許出願公開第102014220337号明細書から引用することができる。この場合、アルミニウム心材がチタン外被により取り囲まれている。独国特許出願公開第102014220338号明細書からは、この種のねじ用の特別な製造方法を引用することができる。
【0024】
本発明によるアルミニウム合金を実施しかつ発展させる多くの可能性がある。このために、とりわけ、請求項1に従属する請求項、および合金組成が参照され、この合金組成の範囲幅が次の表1に示されている。
【0025】
【表2】
【0026】
その他の
不純物は、合計で0.15%を超えてはならず、好ましくは個別に0.05%を超えてはならない。残余はアルミニウムである。この割合は、88%より大きく、好ましくは90%より大きい。アルミニウムの割合は、さらに、好ましくは93%未満である。
【0027】
本発明の実施例を、次に図面を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】多様なアルミニウム合金の耐熱性について単純化された比較グラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1には、多様な合金からなる部品(ねじ)について、時間(保持時間)に対する引張強さ(MPaで表す)が示されている。この場合、部品は200℃に加熱され、この温度を合計で24時間保持した。
【0030】
これらの多様な合金は、2つの比較合金V1、V2および本発明による合金L(破線)である。比較合金V1は、EN AW−6056による合金(実線)であり、比較合金V2は、いわゆる7xxx合金(点線)である。
【0031】
このグラフに基づき、本発明による合金Lが、比較合金V1と比べて、一貫して明らかにより高い引張強さを有することを良好に認識することができる。この引張強さは、全体の保持時間にわたり、比較合金V1の引張強度よりも100MPaより高くにある。
【0032】
比較合金V2と比べて、本発明による合金Lは、保持時間の初めではより低い引張強さを有するが、明らかに改善された耐熱性により優れるため、引張強さは、より長い保持時間でも高く維持され、かつ数時間後にはすでに、比較合金V2よりも高い引張強さを有する。
【0033】
これらの特性に基づいて、本発明による合金Lは、熱的に高い負荷がかかる領域内での用途にとって特に適していて、かつその領域内でも使用される。特に、この合金は、ねじのような締結用部品の製造用に考慮される。
【0034】
図2は、このようなねじ2を側面図で例示的に示す。ねじ2は、頭部4から中心の縦軸に沿って延び、この頭部に軸部6が引き続く。軸部6の部分領域には、ねじ山8が設けられている。図示されたねじ2は、エンジン用ねじ、特にシリンダヘッド用ねじである。これらは、典型的に数センチメートルから10または15cmまでの長さを有し、かつ例えばM8、M10、M11、またはM12ねじとして構成されている。