【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の沓の製作方法の一例を概説すると以下の通りとなる。まず、所定の曲率を有する成形型のキャビティに相手材形成用の金属板を収容し、金属板をプレス冷間加工等して塑性変形させることにより、所定の曲率を有する相手材を製作する。次に、製作された曲率を有する相手材を、沓本体の有する同様の曲率を備えた凹球状の摺動面に取り付けることにより、沓本体に相手材が取り付けられた沓が製作される。
【0007】
しかしながら、この製作方法では、製作される相手材の有する曲率面に応じたキャビティを有する成形型を都度用意する必要があり、結果として沓の製作コストの増加に繋がる。さらに、沓本体に相手材を取り付けるに当たり、相手材を冷間プレスする工程と、冷間プレスされた相手材を沓本体に取り付ける工程といった複数の工程を要することから、自ずと製作手間がかかる。
【0008】
本発明は、製作コストが増加することなく、製作手間のかからない滑り免震装置を構成する沓の製作方法と、この製作方法により製作された沓、さらには、この沓の前駆体を提供することを目的としている。
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の一態様は、
滑り免震装置を構成する沓の凹球状の第一摺動面において、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材を設置する、滑り免震装置を構成する沓の製作方法であって、
平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓を取り付けることにより、沓本体を製作し、
前記ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の前記相手材を、前記ストッパーリングに対して同心に位置合わせし、該相手材を前記第一摺動面に押し付けることにより、該相手材を湾曲に変形させて該ストッパーリング内に嵌め込むことを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材(もしくは滑り板)を、第一摺動面に押し付け、湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことにより、手間のかからない製作方法にて沓を製作することができる。また、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング内に湾曲した状態で嵌め込まれている相手材に対して、窪んでいる側から相手材を押し込むことにより、第二分割体から相手材を容易に取り外すことができる。仮に、沓が分割体でない場合は、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材の取り外しが容易でなく、取り外しに手間と時間を要することに加えて、ストッパーリングに対して強固に固定されている相手材を取り外す際に当該相手材を損傷させる可能性がある。
【0011】
第一分割沓と第二分割沓は、対応するボルト孔に対してボルトを螺合すること等により、双方を取り外し自在に固定することができる。ここで、「ストッパーリングの内周の直径よりも大きな直径を有する平面視円形の相手材」とは、例えば、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも僅かに大きいことを意味している。すなわち、相手材の直径がストッパーリングの内周の直径よりも大き過ぎては相手材を変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができなくなることから、嵌め込みが可能な程度に大きいことを意味するものである。
【0012】
設計例を挙げると、第一摺動面の直径を2000mm、曲率半径を2500mmとした場合、相手材の直径は2057mmとなり、従って、直径2000mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が57mm大きく設定される。また、第一摺動面の直径を500mm、曲率半径を4500mmとした場合、相手材の直径は500.25mmとなり、直径500mmのストッパーリングの内周の直径よりも相手材の直径が0.25mm大きく設定される。
【0013】
このように湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれた平面視円形の相手材には、その径方向に圧縮力が作用しており、その反力がストッパーリングの内周面に作用することから、ストッパーリング内に相手材を湾曲に変形させて嵌め込むことにより、ストッパーリングに対して相手材を強固に取り付けることができる。
【0014】
第二分割沓の内部に平面視円形の開口が設けられ、この開口の壁面(内周面)がストッパーリングとなる。このストッパーリングの内周面は、垂直に立ち上がる形態であってもよいし、テーパー状に立ち上がる形態であってもよいし、垂直に立ち上がった後にテーパー状に立ち上がる形態であってもよい。
【0015】
ここで、滑り免震装置が片面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓もしくは下沓であり、滑り免震装置が両面滑り免震装置の場合は、製作対象の沓は上沓及び下沓となる。
【0016】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様は、二つの第三分割沓を相互に取り付けることにより前記第二分割沓を製作し、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、第二分割沓がさらに二つの第三分割沓により形成されることにより、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓を二つの第三分割沓に分割することにより、第二分割沓から相手材をより一層容易に取り外すことができる。例えば、ストッパーリング(の内周面)に対して相手材が強固に摩擦係合している場合、窪んでいる側から相手材を押し込むだけでは簡単に相手材を取り外しできない事態も生じ得るが、第二分割沓を例えば半割りの二つの第三分割沓に分割することにより、相手材の取り外しが容易になる。
【0018】
ここで、双方の第三分割沓の端面同士が面接触するのみで第二分割沓を形成する形態であってもよいし、双方の第三分割沓の端部が備える雄部と雌部が相互に係合することにより第二分割沓を形成する形態等であってもよい。
【0019】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様は、前記第一分割沓における前記第一摺動面の周囲に環状溝が設けられており、
前記第二分割沓において前記環状溝に対応する位置に環状せん断キーが設けられており、
前記環状溝に前記環状せん断キーを嵌め込むことにより、該第二分割沓を前記第一分割沓に取り付けることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、第一分割沓における第一摺動面の周囲にある環状溝に対して、第二分割沓において環状溝に対応する位置に設けられている環状せん断キーを嵌め込むことにより、第二分割沓のストッパーリング内に嵌め込まれた相手材により第二分割沓の径方向外側に反力が作用する場合に、この反力に対して環状せん断キーが対抗することができる。尚、第一分割沓と第二分割沓がボルト接合される場合に、この第二分割沓の径方向外側に作用する反力をボルトにて対抗することができるが、環状せん断キーを備える形態ではボルトの負担分を低減することが可能になる。ここで、環状せん断キーは、連続した環状の形態の他にも、不連続(間欠的)な環状の形態がある。
【0021】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0022】
本態様によれば、相手材が、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることにより、相手材を、その周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込むことができる。
【0023】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材を前記第一摺動面に押し付ける際に押し付け治具を適用し、該押し付け治具は、前記第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、前記第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれか一種であることを特徴とする。
【0024】
本態様によれば、第一摺動面と同じ曲率を有する中空もしくは中実なブロック体、もしくは、第一摺動面と同じ曲率の押し付け面を有する複数の押し付け片を放射状に備えている線状体、のいずれかの形態の押し付け治具を適用することにより、簡易な構成の押し付け治具にて、平面視円形の相手材の全面を可及的均一で、かつ効率的に沓本体の第一摺動面に押し付けることができる。尚、線状体を構成する複数の押し付け片の表面に、第一摺動面と同じ曲率を有する面材が取り付けられている形態であってもよい。
【0025】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記ストッパーリングの内周面が、前記第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であり、該テーパー面に沿って前記相手材を前記第一摺動面に嵌め込むことを特徴とする。
【0026】
本態様によれば、ストッパーリングの内周面が第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であることにより、相手材を湾曲に変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、相手材の端部をテーパー面に沿って湾曲に変形させ易くなり、相手材の全体をスムーズに湾曲に変形させてストッパーリング内に嵌め込むことができる。ここで、「第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面である」とは、ストッパーリングの内周面が全てテーパー面である形態の他に、第一摺動面側から鉛直に立ち上がり、その後、外側に向かって末広がりのテーパー面を有している形態等も含んでいる。
【0027】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の製作方法の他の態様において、前記相手材はステンレス製の相手材であり、該相手材の厚みが1mm以上であることを特徴とする。
【0028】
本態様によれば、ステンレス製の相手材の厚みが1mm以上であることにより、相手材を湾曲に弾性変形させて第一摺動面に嵌め込む際に、当該相手材に皺が発生するのを抑制することができる。また、滑り免震装置の供用後、第一摺動面に嵌め込まれた相手材に沿って摺動体が繰り返し摺動する過程においても、相手材に皺が発生するのを抑制することができる。ここで、厚みが1mm以上とは、例えば厚みが3mm乃至10mm程度の範囲の厚みを例示できる。
【0029】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の一態様において、
前記沓は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有する、滑り免震装置を構成する沓において、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していて、前記ストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、該ストッパーリング内において該相手材はその径方向に圧縮力を有する状態となっていることを特徴とする。
【0030】
本態様によれば、本発明の製作方法によって製作されていることにより、相手材が湾曲に変形してストッパーリング内に嵌め込まれている状態において、相手材は弾性変形して収縮し、その径方向に圧縮力を有する状態となっている。尚、この「弾性変形」は、原則的には相手材が完全に弾性変形していることを意味しているが、その他、弾性変形に加えて塑性変形が多少進んでいる状態も含むものとする。相手材がその径方向に圧縮力が作用した状態でストッパーリング内に嵌め込まれていることにより、径方向の圧縮力の反力がストッパーリングの内周面に作用することになり、ストッパーリングに対して相手材が強固に取り付けられる。また、第一摺動面に対する相手材の取り付けに際して、接着剤等は一切不要になる。
【0031】
また、ストッパーリングの内周面は、既述するように、第一摺動面側から外側に向かって末広がりのテーパー面であるのがよく、さらに、当該内周面の根元(第一摺動面との界面)には、周方向に連続した溝条が設けられていてもよい。湾曲に変形した相手材は外側に膨らんで元に戻ろうとするため、ストッパーリングの内周面の根元に連続した溝条が設けられていることにより、この溝条に相手材の端部が入り込んで係合し、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止することができる。また、溝条の代わりに、ストッパーリングの内周面の下方位置(第一摺動面よりも僅かに上方の位置)に、ストッパーリングの周方向に間隔を置いて複数のボルトを径方向内側に突出する態様で固定しておき、複数のボルトに相手材を係止することにより、ストッパーリングから相手材が係脱するのを防止してもよい。
【0032】
また、既述するように、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に嵌め込まれている相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。
【0033】
また、本発明による滑り免震装置を構成する沓の前駆体の一態様は、
凹球状の第一摺動面を備える沓本体と、
前記第一摺動面に設置される相手材であって、摺動体の凸球状の第二摺動面に取り付けられている摩擦材の相手材と、を有し、
前記沓本体は、平面視円形の前記第一摺動面を備える第一分割沓に対して、前記摺動体の摺動範囲を規定する平面視円形のストッパーリングを備えている第二分割沓が取り付けられることにより形成されており、
平面視円形の前記相手材は、前記ストッパーリング内の前記第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有していることを特徴とする。
【0034】
本態様によれば、沓本体と、ストッパーリング内の第一摺動面における中心を通る弧の長さ以上の直径を有している相手材とを備えることにより、相手材がその周方向に圧縮力を有する状態で第一摺動面に嵌め込まれるとともに、相手材を第一摺動面に密着させて取り付けることができる。
【0035】
また、既述するように、沓が、第一摺動面を備える第一分割沓とストッパーリングを備えている第二分割沓とにより構成されていることから、ストッパーリング内に一度嵌め込んだ相手材をストッパーリングから取り外す際に、第一分割沓から第二分割沓を取り外し、第二分割沓から相手材を容易に取り外すことができる。