【実施例】
【0039】
1)細胞融合
ヒトオクルディン発現プラスミドをWistarラット皮下に免疫し、血清中の抗体価上昇が観察された個体に対し、最終免疫(ブースティング)を行った。最終免疫後、動物からリンパ細胞を回収し、マウスミエローマ細胞(P3U1)と細胞融合を行った。融合後の細胞を96-well plate 10枚に播種し、培養培地1*にて13日間、37 ℃、5% CO
2下で培養した。
*培養培地1:D-MEM (Wako, 044-29765) + 10% FCS (Hyclone, Lot.FQF24009), 10% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement (Roche, 1088947), 1×HAT supplement (Life technology, 21060017), 50μg/mL Penicillin/Streptomycin (Life technology, 15140122), 4 mM L-Glutamine (Life technology, 25030081)
2)特異モノクローナル抗体産生ハイブリドーマの樹立
培養後、全てのプレートウェルから培養上清を回収した。チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞、CHO/hOCLN細胞)を用い、上記で回収した培養上清、及びPE標識したPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、フローサイトメーター(FCM)解析を行った。ここで、CHO/hOCLN細胞は、CHO細胞にヒトオクルディン遺伝子をコードしたpBOMB0ベクターを遺伝子導入した一過性にヒトオクルディンを過剰に発現した細胞である。
【0040】
FCM解析にて、陽性を示すシフトが確認されたウェルから、それぞれハイブリドーマ細胞を回収し、各クローンに関し1.2 cells/wellで96-well plate 1枚に撒き、培養培地1*にて11日間、37 ℃、5% CO
2下で培養した。培養後、顕微鏡下でシングルコロニー形成の認められるウェルをプレートあたり20〜30選択し、そのハイブリドーマ培養上清を回収した。チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞、hOCLN/CHO細胞)を用い、上記で回収した培養上清、及びPE標識したPE標識抗ラットIgG抗体で染色し、フローサイトメーター(FCM)解析を行った。
【0041】
FCM陽性の確認された4クローン分のプレートから、シフト強度が強く、且つ細胞数の多いウェルを各クローン3 wellずつ選択し、24-well plateに37 ℃、5% CO
2下で拡大し培養培地1*にて培養を行った。3日間培養後、全てのウェルを6-well plateに拡大し培養培地2*にて培養を行った。3日間培養後、培養上清を回収した。
【0042】
また、インタクトな状態のオクルディンへの結合性を調べる目的でHepatoma細胞(Huh7.5.1-8細胞、OKH-4細胞)を用い、上記で回収した培養上清、及びAlexa488標識抗ラットIgG抗体で染色し、フローサイトメーター(FCM)解析を行った。
【0043】
ここで、Huh7.5.1細胞は、高分化型ヒト肝癌由来細胞株であり、高いC型肝炎ウイルス(HCV)感染感受性を示す、57歳男性患者の肝癌より分離されたHuh7細胞の亜株である。Huh7細胞よりHCV複製能の高い株としてHuh7.5細胞が分離され、更にHuh7.5細胞にHCV複製システムを導入して樹立した細胞株(HCVレプリコン細胞株)からインターフェロンガンマ処理によりレプリコンを排除することでHuh7.5.1細胞は樹立された。Huh7.5.1-8細胞は、HCVに対して、より感染感受性が高い細胞亜株としてHuh7.5.1細胞から分離された株である。また、OKH-4細胞は、Huh7.5.1-8細胞由来のオクルディン欠損細胞である。Huh7.5.1-8細胞にヒトオクルディンへの標的配列を含むpX330ベクター(CRISRP/Cas9システム)を遺伝子導入し、樹立されたものである。遺伝子発現解析を行った結果、OKH-4細胞はオクルディンの発現が特異的に欠損していることがわかっている。イムノブロット解析、細胞免疫染色、FCM解析等によってもオクルディンの欠損が確認されている。
【0044】
FCM解析の結果、全てのウェルにおいて、オクルディン特異的な陽性を示すシフトが確認された。シフト強度が強く、且つ細胞数の多いウェルを各クローン1 wellずつ選択し、75 cm
2 Flaskに37 ℃、5% CO
2下で拡大し培養培地2*(下記参照)にて培養を行った。3〜5日間培養後、150 cm
2プレートに拡大し培養培地2*にて培養を行った。5日間培養後、培養上清を回収した。チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞、CHO/hOCLN細胞)、Hepatoma細胞(Huh7.5.1細胞、OKH-4細胞)を用い、回収した培養上清の一部、及びチャイニーズハムスター卵巣細胞ではPE標識、Hepatoma細胞ではAlexa488標識した抗ラットIgG抗体で染色し、FCM解析を行った。この結果、
図1に示される合計4クローンにおいて、各クローンで複数の陽性を示すシフトが確認された(
図2、
図3)。
図2は、各抗体クローンの一過性発現したオクルディンの細胞表面への結合をFCMにより解析した結果である。ここで
図2において、白で示されたエリア(以下、塗りつぶされていないエリアを意味する。)は、各ハイブリドーマ培養上清によるCHO細胞(オクルディン陰性細胞)の染色パターンであり、右側の塗りつぶされたエリアは、各ハイブリドーマ培養上清によるCHO/hOCLN細胞(オクルディン陽性細胞)の染色パターンである。全てのクローンはCHO/hOCLN細胞(オクルディン発現細胞)への高い結合性(陽性シフト)を示した。
図3は、インタクトに発現している細胞表面のオクルディンへの各抗体クローンの結合をFCMにより解析した結果である。ここで
図3において、白で示されたエリアは、各ハイブリドーマ培養上清によるOKH-4細胞(オクルディン陰性細胞)の染色パターンであり、右側の塗りつぶされたエリアは、各ハイブリドーマ培養上清によるHuh7.5.1-8細胞(オクルディン陽性細胞)の染色パターンである。全てのクローンはHuh7.5.1-8細胞(オクルディン陽性細胞)への高い結合性(陽性シフト)を示した。また、培養上清の一部を用いて、Rat immunoglobulin isotyping ELISA kitを用いて培養上清中の抗体のクラス、サブクラス決定を行った。結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
*培養培地2:D-MEM (Wako, 044-29765) + 10% FCS (Hyclone, Lot.FQF24009), 5% BM condimed H1 Hybridoma cloning supplement (Roche, 1088947), 1×HAT supplement (Life technology, 21060017), 50μg/mL Penicillin/Streptomycin (Life technology, 15140122), 4 mM L-Glutamine (Life technology, 25030081)
3)抗オクルディンモノクローナル抗体の各動物種オクルディンに対する結合性解析
ヒトオクルディン(NP_001192183.1)、カニクイザルオクルディン(XP_005557154.1)、マウスオクルディン(NP_032782.1)、ラットオクルディン(NP_112619.2)、イヌオクルディン(NP_001003195.1)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5cellsに対し、各抗体5μg/ mLを100 μL添加、撹拌後、氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したGoat anti-rat IgG(H+L)-Alexa488抗体(Life technology)を添加、撹拌後、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、0.2% BSA-PBSにて終濃度5μg/mLとなるように希釈したPI(Miltenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。結果を
図4に示す。いずれの抗体クローンも、ヒトオクルディン、カニクイザルオクルディン結合した。Clone 1-3は、マウスオクルディン、ラットオクルディンに結合性を示したのに対し、他の3 クローンでは結合性が確認されなかった。イヌオクルディンに対してどのクローンも結合性を有していなかった。
【0047】
4)抗オクルディンモノクローナル抗体の各種MARVELファミリーに対する結合性解析
ヒトオクルディン(NP_001192183.1)、ヒトトリセルリン(NP_001231663.1)、ヒトマーベルD3アイソフォーム1(NP_001017967.2)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5cellsに対し、各抗体5μg/ mLを100 μL添加、撹拌後、氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したGoat anti-rat IgG(H+L)-Alexa488抗体(Life technology)を添加、撹拌後、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、0.2% BSA-PBSにて終濃度5μg/mLとなるように希釈したPI(Miltenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。結果を
図5に示す。いずれの抗体クローンも、ヒトトリセルリン、ヒトマーベルD3 アイソフォーム1には結合せず、ヒトオクルディンに特異的に結合した。
【0048】
5)ラット抗体の認識領域配列解析
5−1)ヒトオクルディン細胞外領域欠損体を用いたエピトープ解析
ヒトオクルディン(NP_001192183.1)(Wild type)及び第一及び第二細胞外領域欠損体(以下、ΔEL1、ΔEL2)ヒトオクルディン発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5cellsに対し、各抗体5μg/ mLを100 μL添加、撹拌後、氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したGoat anti-rat IgG(H+L)-Alexa488抗体(Life technology)を添加、撹拌後、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、0.2% BSA-PBSにて終濃度5μg/mLとなるように希釈したPI(Miltenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。結果を
図6に示す。Clone 1-3は、ΔEL2で結合性が消失し、他の3 Cloneについては、ΔEL1で結合性が消失した。このことから、Clone1-3は第二細胞外領域、Clone32-1、Clone 37-5、Clone 44-10は第一細胞外領域を認識することが分かった。
【0049】
5−2)オクルディン変異体に対する結合性解析
図7は、細胞外領域配列の相同性解析であり、Clustal W2を用いて、ヒトオクルディン、カニクイザルオクルディン、マウスオクルディン、ラットオクルディン、イヌオクルディン、ウシオクルディンのアミノ酸配列の相同性を解析したものである。第一細胞外ループ中のエピトープは、DRGYGTSLLGGSVGYPYGGSGFGSYGSGYGYGYGYGYGYGGYTDPR(Asp Arg Gly Tyr Gly Thr Ser Leu Leu Gly Gly Ser Val Gly Tyr Pro Tyr Gly Gly Ser Gly Phe Gly Ser Tyr Gly Ser Gly Tyr Gly Tyr Gly Tyr Gly Tyr Gly Tyr Gly Tyr Gly Gly Tyr Thr Asp Pro Arg)(配列番号1)である。また、第二細胞外ループ中のエピトープは、GVNPTAQSSGSLYGSQIYALCNQFYTPAATGLYVDQYLYHYCVVDPQE (Gly Val Asn Pro Thr Ala Gln Ser Ser Gly Ser Leu Tyr Gly Ser Gln Ile Tyr Ala Leu Cys Asn Gln Phe Tyr Thr Pro Ala Ala Thr Gly Leu Tyr Val Asp Gln Tyr Leu Tyr His Tyr Cys Val Val Asp Pro Gln Glu)(配列番号2)であった。
5−3)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−1
図8は、マウスオクルディンとヒトオクルディンの細胞外領域(第1細胞外領域/第2細胞外領域)についてそれぞれスワップ変異体を作製して解析した結果である。マウスオクルディン(m/m)、又はマウス/ヒトオクルディン(m/h)、ヒト/マウスオクルディン(h/m)、ヒトオクルディン(h/h)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。結果を
図8に示す。Clone 1-3に関しては、全てのスワップ変異体で結合性を確認できた。Clone 32-1、Clone 37-5、Clone 44-10に関しては、h/h、h/m変異体に関しては結合性を示したが、m/h及びm/m変異体では結合性は認められなかった。この結果より、Clone32-1、Clone37-5、Clone44-10は、第一細胞外領域にエピトープがあり、それはマウス型に変換することで結合性が消失することが分かった。
【0050】
5−4)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−2
図9は、ヒトオクルディン第一細胞外領域をマウス型に置き換えた(マウス、ラットに共通しない変異は除く)オクルディン各変異体発現細胞への抗体の結合を解析した結果である。ヒトオクルディンの第一細胞外領域のアミノ酸をマウス型に置換した変異体(S96G、L98F、V102L、G103N、ΔG107、S116G、G119_Y120 insG)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。Clone1-3は全ての変異体での結合を確認した。Clone 32-1、Clone 37-5、Clone 44-10に関して、アミノ酸置換体では結合性の変化は認められなかった。しかし、オクルディンの細胞外第一領域107番目のグリシンを欠損させることで結合性の消失(劇的な低下)が確認された。このことから、Clone 32-1、Clone 37-5、Clone 44-10のオクルディンの認識には細胞外第一領域の107番目のグリシンが重要であることが分かった。(なお、第二細胞外領域を認識するClone 1-3は全ての変異体への結合が確認されており、各変異体の細胞表面への発現には問題がないことを示している。)
5−5)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−3
図10は、ヒトオクルディン第一細胞外領域をウシ型に置き換えたオクルディン各変異体発現細胞への抗体の結合を解析した結果である。ヒトオクルディンの第一細胞外領域のアミノ酸をウシ型に置換した変異体(ΔS96、L98M、G100A、S101G、G107A、G110A、G129_G130 insT)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。Clone1-3は全ての変異体での結合を確認した。Clone 32-1については、G110A変異で大きく結合が低下し、G107A変異で完全に結合性が消失した。Clone 37-5については、G107A変異及びG110A変異で結合性が認められなかった。Clone 44-10に関しては結合性が、G107A変異、G110A変異で確認できた。他の変異体へは3 Cloneとも結合性を有していた。このことから、Clone 32-1、Clone 37-5のオクルディンの認識には、
図9でも示した107番目のグリシンに加え、110番目のグリシンも影響を与えること(特に37-5では認識に必須)が分かった。G110A変異体(110番目のグリシンがアラニンに置換)の認識に両者で差があることから、エピトープが若干異なることが示唆される。また、Clone 44-10のオクルディンの認識では、細胞外第一領域の107番目のグリシンがアラニンになっても認識できる一方で
図9より107番目のグリシンが欠損すると認識できないこと、また、110番目のグリシンをアラニンに置換しても認識できることから、Clone 44-10のエピトープはClone 32-1、Clone 37-5とは異なることも分かった。(なお、第二細胞外領域を認識するClone 1-3は全ての変異体への結合が確認されており、各変異体の細胞表面への発現には問題がないことを示している。)
5−6)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−4
図11は、ヒトオクルディン第一細胞外領域104-115についてアラニン(Alanine,A)に置き換えたオクルディン各変異体発現細胞への抗体の結合を解析した結果である。各アラニン置換変異体(Y104A、P105A、Y106A、G107A、G108A、S109A、G110A、F111A、G112A、S113A、Y114A、G115A)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。Clone1-3は全ての変異体での結合を確認した。Clone 32-1については、Y104A、P105A、G107A、G108A、F111A変異で完全に結合性が消失した。Clone 37-5については、G107A、G108A、G110A、F111A変異で結合性が認められなかった。Clone 44-10に関しては結合性が、Y104A、G108A、F111A変異で完全に結合性が消失することが確認できた。以上の結果より、Clone32-1、37-5、44-10抗体のエピトープは近傍にあると示唆されるものの、それぞれ異なることが分かった。(なお、第二細胞外領域を認識するClone 1-3は全ての変異体への結合が確認されており、各変異体の細胞表面への発現には問題がないことを示している。)
5−7)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−5
図12は、第二細胞外領域をイヌ型に置換(マウス、ラットに共通しない変異は除く)した解析結果である。ヒトオクルディンの第二細胞外領域のアミノ酸をイヌ型に置換した変異体(S203A、G209S、L215M、T221A、P222S、A223T、V229M、P222S/A223T)を発現させたHT1080発現をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。Clone 32-1は作製した全てのヒトオクルディン変異体への結合性を確認した。一方、A223T変異を加えることでClone 1-3の結合性の低下が認められ、近傍のP222S変異をさらに加えることで結合性が完全に消失した。このことから、Clone 1-3の認識には、オクルディンの第二細胞外領域のP222、A223が重要であることが分かった。(なお、第一細胞外領域を認識するClone 32-1は全ての変異体への結合が確認されており、各変異体の細胞表面への発現には問題がないことを示している。)
5−8)ヒトオクルディン細胞外領域変異体を用いたエピトープ解析−6
図13は、第二細胞外領域にある2か所のシステイン(Cysteine、C)残基(216番目及び237番目)それぞれ、あるいは両方をセリン(Serine、S)に変換した変異体(C216S、C237S、C216S/C237S)について解析した結果である。各変異体発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。Clone 32-1、Clone 37-5、Clone 44-10については全ての変異体で結合性を確認できた。Clone 1-3では、Cysteine残基に変異を加えることで結合性が消失(劇的に低下)した。このことは、216番目システイン及び237番目のシステインが分子間でジスルフィド結合を形成することで生じるループ構造が、Clone1-3の認識に重要であることを示唆している。(なお、第一細胞外領域を認識するClone 32-1、Clone 37-5、Clone 44-10は全ての変異体への結合が確認されており、各変異体の細胞表面への発現には問題がないことを示している。)
6)抗オクルディンモノクローナル抗体の性状解析
6-1)抗オクルディンモノクローナル抗体の結合力解析
HT1080細胞(HT1080 cells)、及びhOCLN発現HT1080細胞(HT1080/hOCLN cells)を用いて、各クローンの結合力を細胞エライザ(Cell ELISA)で評価した。コラーゲンコートを行った96well plate (Corning)に各細胞を播種し、37℃で2日間培養した。3.7% Formaldehydeで固定化した後、5% Skim-milkでBlockingし、各精製抗オクルディンモノクローナル抗体を反応させた。洗浄後、ヒツジ抗ラットIgG-HRP(GE Health care)を反応させた。よく洗浄した後、基質であるOPD溶液を加え、十分反応させた後、プレートリーダーで492nmの波長を測定し、各クローンにおける結合力を評価した。コントロールとして、ラットIgG(Jackson Immuno Research)を用いた。HT1080細胞では、どの抗体の濃度でも結合性は認められなかった(
図14A)。一方、HT1080/hOCLN細胞では、用量依存的な吸光度の上昇が認められた(
図14B)。各抗オクルディンモノクローナル抗体のKd値を算出した。Clone 1-3 :Kd=0.58±0.03nM、Clone 32-1:Kd=0.59±0.05nM、Clone 37-5:Kd=0.72±0.08nM、Clone 44-10:Kd=0.63±0.05nMであった。各抗オクルディンモノクローナル抗体とも、ヒトオクルディンに対し同等な非常に強い結合力(Kd:ピコモルオーダー)を保持していた。
【0051】
6−2)抗オクルディンモノクローナル抗体を用いたイムノブロット解析
HT1080細胞並びにFLAGタグを付加したヒト及びマウスオクルディンを発現したHT1080細胞を1% Triton-Xを含むPBSで懸濁し、超音波処理することで細胞溶解液を調製した。ポリアクリルアミド電気泳動後、polyvinylidene fluoride(PVDF)膜に転写し、PVDF膜を5% スキムミルク含有T-TBS中でブロッキング(室温、2時間)し、一次抗体(Mouse 抗OCLN抗体(invitrogen)、Clone 1-3、32-1、37-5、44-10、mouse 抗FLAG 抗体(wako)、mouse抗GAPDH 抗体(abcam)を作用(室温、2時間)させ、その後二次抗体(Goat 抗mouse IgG HRP-conjugated(Jackckson)、Goat 抗Rat IgG HRP-conjugated(GE health care))を作用(室温、1時間)させ、十分に洗浄した後に、ECL Western Blotting Detection Reagents(GE Healthcare Bio-Sciences Corp)又はECL plus Western blotting detection system(GE Healthcare Bio-Sciences Corp)を添加し、Image Quant LAS 4010(GE Healthcare Bio-Sciences Corp)を用いて抗体認識バンドを検出した。結果を
図15に示す。FLAGタグヒトOCLNを発現しているHT1080細胞の溶解液を用いてウエスタンブロッテイングを行ったところ、Clone 1-3はOCLNと反応せず、Clone 32-1、37-5、44-10ではヒトOCLNとの反応が観察された。マウスOCLNはラットOCLN抗体では検出できなかった。
【0052】
6−3)抗オクルディンモノクローナル抗体を用いた免疫沈降法(IP)解析
100mm ディッシュ上で コンフルエントのFLAG(N末)タグヒト及びマウスOCLN発現HT1080細胞又はCaco-2細胞を、IP用RIPA buffer 2mLで溶解し、エッペンドルフチューブに回収した。4℃で2時間反応後(上清100μLをLysateとして保存)、500μlの抗体溶液を終濃度1μg/ tubeになるように加え、更に4℃で2時間反応させた。反応させた溶液に、抗体結合性アガロース担体(ProteinA/G agarose plus, Santa-cruz)を、4℃で2時間反応させた。反応液を遠心し、未反応の細胞溶解液を除いた。得られた沈殿に対し、IP用RIPA bufferで3回洗浄した後、100μLのサンプルバッファーを加え、泳動サンプルとした。ポジティブコントロールとして、市販のmouse抗OCLN抗体(OC-3F10、Zymed)を用いた。ネガティブコントロールとしてラットIgG(Jackson社)を用いた。結果を
図16に示す。(A)、(B)双方の結果から、どのクローンでも免疫沈降法に適用できることが示された。マウスOCLN(C)についてはいずれの抗体でも反応性を示さなかった。OCLNをnativeに発現しているCaco-2細胞(D)については、全てのクローンで免疫沈降法に適用できることがわかった。
【0053】
6−4)抗オクルディンモノクローナル抗体を用いた免疫染色解析
12穴プレート(FALCON)にカバーガラスをのせて、50μg/mLのコラーゲンタイプI(BD Biosciences、溶媒:0.02M CH
3COOH)を1 mL/well添加した。室温で1 時間静置した後、PBSで2回洗浄し、Caco-2細胞を1×10
5 cells/wellで播種し、72 時間前培養した。その後、PBSで2回洗浄を行い、3.7%ホルムアルデヒド(キシダ化学)を500μL/well添加し、室温で30 分静置することで固定を施した。その後、PBSで2回洗浄し、0.1%(v/v) Triton-X-100/PBSを500μL添加し、10分間静置することで浸透化を施し、PBSで2回洗浄を行った。10μg/mLの各種オクルディン抗体を処理し、1 時間反応を行った。その後、ヤギ抗rat IgG-Alexa488(Life Technologies、1/500 in 1%BSA-PBS)を混和した溶液を500μL/well添加し2 時間遮光静置した後、2回洗浄を行った。その後、10 ng/mLのDAPIを添加し、15分室温で静置することで核を染色した。更にPBSによる洗浄を2回行った後、それぞれのカバーガラスをanti-fade(ナカライテスク)を1滴添加したスライドガラスにのせて、封入を行った。共焦点顕微鏡LSM780(Zeiss)にて蛍光を観察した。結果を
図17に示す。いずれのクローンも免疫染色に適用できることが分かった。
【0054】
6−5)抗オクルディンモノクローナル抗体のバリア機能制御活性解析
ヒト腸管上皮モデルとして汎用されるCaco-2細胞を用いて抗オクルディンモノクローナル抗体のバリア機能制御活性を解析した。Caco-2細胞をtrans well (CORNING) のtop wellに8×10
4 cells/300 μLで播種し、bottom wellには700 μLの培地を加え、37℃、5% CO
2環境下で培養した。1日おきにMillicell-ERS (MILLIPORE)で経上皮電気抵抗 (TEER) 値を測定し、培地交換を行い37℃、5% CO
2環境下で培養を続けた。TEER値が安定した細胞播種10日後、抗オクルディンモノクローナル抗体を培地で50 μg/mLに調製し、また、ネガティブコントロールとしてラット抗体(Jackson Immuno Research)を、ポジティブコントロールとしてウェルシュ菌の下痢毒素で毒素領域を除いたC-CPEをそれぞれ培地で5.0 μg/mLに調製し、前培養していた細胞の培地を除いてtop wellに300 μLの培地、bottom wellには700 μLの抗体希釈液をそれぞれ加え、37℃、5% CO
2環境下で培養し、抗体添加後経時的にTEER値を測定した。その後、top wellの培地、bottom wellの抗体希釈液を除去し、PBSで洗浄した。Top wellは300 μL、bottom well は700μLの培地に交換し、更に経時的ににTEERを測定した。結果を
図18に示す。各抗オクルディンモノクローナル抗体を5.0 μg/mL処理しても影響は見られなかった。
【0055】
6−6)抗オクルディンモノクローナル抗体の細胞増殖への影響の解析
96穴プレートにHCVのin vitro 感染系で用いられるHuh7.5.1-8細胞を1.0×10
4 cells/well播種し、一晩培養した。抗オクルディンモノクローナル抗体の抗体希釈液を調製し、細胞の培養上清を除き、各抗体希釈液を100 μL添加し、4日間培養した。XTT試薬(Roche)を添加し、37℃でincubateした。OD450を測定し、抗体非添加群の吸光度を基準として各抗体濃度における吸光度の相対値を求め、生存率とした。結果を
図19に示す。抗オクルディンモノクローナル抗体を処理しても細胞の増殖に影響はなかった。
【0056】
7)ラット抗オクルディンモノクローナル抗体のin vitro HCV感染阻害活性解析(Cell-cultured HCV (HCVcc)を用いた解析)
培地には、10%fetal bovine serum (Cell Culture Bioscience), non-essential amino acid (Hyclone SH30238.01)及びpenicillin/streptomycin(Wako, 168-23191)含有D-MEM(Wako, 044-29765)を用いた。
【0057】
コラーゲンタイプIコート48穴プレート(Corning, NCO3548)にHuh7.5.1-8細胞を5 × 10
4cells/500 μL/wellで播種し、37 ℃、1日間培養した。培地を除き、4種のオクルディン精製抗体を0.1〜5μg含む培地(250μL)を添加し、室温 (25 ℃)で30分培養した。
【0058】
その後、HCVcc(genotype 2a)を50倍希釈したものをそれぞれ250μL/well添加し、室温で2時間培養した。血清を含まない培地500μL/wellで3回洗浄し、前処理の1/2の濃度にした抗体液500μLを加え、37 ℃で4日間培養した。
【0059】
細胞をPBS 500μL/wellで3回洗浄し、Blood/Cultured Cell Total RNA Purification Mini Kit (FAVORGEN)を用いRNA抽出・精製を行い、滅菌水50μLで溶解し、-80℃で保存した。尚、RNA濃度は、Nano Dropを用いて測定した。
【0060】
精製したRNAを用いて、Taqman qRT-PCR法(試薬はRNA-direct Realtime PCR Master Mix(Toyobo)、機器はLightCycler (Roche))にてHCVゲノムRNA定量を行った。尚、反応溶液は、表2の組成に準じて調整した。
【0061】
【表2】
【0062】
尚、Sense Primerは5’-ACGGGGTTAATTATGCAACAGG-3’(配列番号13)であり、Anitisense Primerは5’-ACGGTGATGCAGGACAACAG-3’(配列番号14)であり、Taqman Probeは5’-[6-FAM]AGCAAGAAGATAGAAAAGGGGAAACCGGGTAG[TAMRA-6-FAM]-3’(配列番号15)であった。
【0063】
結果を
図20に示す。ここで
図20は、HCVcc (genotype 2a)を用いたin vitro HCV感染阻害活性であり、細胞内のHCVゲノムRNAの定量結果である。データは抗体非添加群のHCV ゲノムRNAコピー数に対する割合(mean ± SD)で表記した(n=4)。破線はバックグラウンドを示している。
【0064】
HCVcc感染系にて、抗オクルディンモノクローナル抗体のHCV感染阻害活性を解析したところ、いずれのクローンも添加濃度依存的に細胞内のHCV RNA量が低下しており、顕著な感染阻害作用が認められた(
図20)。尚、感染阻害活性は、1-3>37-5=44-10>32-1の順であった。
【0065】
8)ラット抗オクルディンモノクローナル抗体のin vitro感染阻害活性解析(HCV pseudoparticles(HCVpp、genotype 1a、1b及び2a)を用いた解析)
Huh7.5.1-8細胞を1×10
5 cells/well/500μLで48穴プレートに播種し、一晩培養した。抗オクルディンモノクローナル抗体を培地で各濃度に調製し、前培養していた細胞の培地を除いて250μL/wellの抗体溶液を加え、室温で30分静置した。なお、各抗体は0、0.25、2.5μg/wellで作用させた。
【0066】
HCVpp(genotype 1a(H77株)、1b(TH株、Con-1株)又は2a(JFH-1株、J6株)、Microbe and Infection 15, 45-55 , 2013に従い調製)あるいはVSV(水疱性口炎ウイルス)をそれぞれ250μL/well添加し、37 ℃で6時間培養した。血清を含まない培地500μL/wellで3回洗浄し、前処理の1/2の濃度にした抗体液500μLを加え、37 ℃で3日間培養した。
【0067】
培地を除去後、Lysis Buffer(Promega)を100μL/well加え、溶解液を1.5mLチューブに回収し、10,000 rpm、1分間遠心し、氷上に置いた。本上清10μLと発光基質(ピッカジーン)50μLを混ぜ、Luminescencer-PSNで発光強度の測定を行った。
【0068】
結果を
図21、
図22、
図23、
図24、
図25及び
図26に示す。
図21は、HCVpp(genotype 1a)、
図22は、HCVpp(genotype 1b-TH)、
図23は、HCVpp(genotype 1b-Con-1)、
図24は、HCVpp(genotype 2a-JFH1)、
図25はHCVpp(genotype 2a-J6)、
図26は、VSVに対する感染阻害活性を示す図である。データは抗体非添加群のルシフェラーゼ活性に対する割合(mean ± SD)で表記した(n=3)。抗オクルディンモノクローナル抗体は評価した全てのgenotype で、添加量依存的な感染阻害活性を示した。またオクルディンを介さずに細胞内へ侵入するVSVに関しては感染阻害活性をいずれの抗体でも確認できなかった。なお、感染阻害活性は、1-3>44-10≧37-5>32-1の順であった。阻害活性の強さの順番は上記7)のHCVccの結果(
図20)とよく相関していた。
【0069】
9)NS5A阻害剤耐性変異導入ウイルス株における抗オクルディンモノクローナル抗体の感染阻害能の解析
NS5A阻害剤耐性変異は、インターフェロン耐性のHCV genotype 1bについて数多く報告されている。しかしながらHCV genotype 1bについて全長のレプリコンを用いたin vitroにおけるウイルスの生活環を効率的に再現する評価系は確立されていない。そこで、in vitroで広く汎用されているJFH-1株(HCV genotype 2a)のNS5A領域について、genotype 1bのCon-1株に置換したキメラ全長レプリコン(JFH-1/NS5A-Con-1)を野生株として用いた。キメラ全長レプリコンのNS5AにNS5A阻害剤耐性変異であるL31V変異、Y93H変異を加え、抗オクルディンモノクローナル抗体における感染阻害能を評価した。トリプシン処理で回収したHuh7.5.1-8細胞をK-PBS 5mLで1回洗浄した後、細胞数がおおよそ2×10
7cells/mLになるようにした。0.4cmキュベットにこれらの細胞を500μLとin vitroで合成したHCV RNAを50μg加えて氷上で5分間静置した。エレクトロポレーションを行う前にサスペンドして細胞を再懸濁した。Gene Pulser X cell(Bio Rad)を用いて 975μFD, 290mVの条件でエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーション後、1.5 mLの血清培地を加え15分間静置した。トランスフェクションした細胞を50mL コニカルチューブに移して室温、200 × g、5分間で細胞を沈殿させた。沈殿させた細胞は10 mLの培地でサスペンションした後、3×10
6 cells/dishをコラーゲンコートの10 cm
2ディッシュに播いて37℃で培養した。翌日(24時間以上)に血清培地を取り除き、新しい血清培地を加えて37℃で更に4日間培養した。回収したウイルス上清はMillex-HV 0.45μm (Millipore)で濾過した後に、Amicon Ultra-15 (Millipore)を用いて約10倍ウイルス液の濃縮を行った。以降の操作は前項のCell culture derived HCV (HCVcc)を用いた感染阻害活性解析に準ずる。ポジティブコントロールとして、クラウディン-1抗体(Anti-CL1 Clone 2C1)を用いた。結果を
図27に示す。破線はバックグラウンドを示している。検討した抗オクルディンモノクローナル抗体Clone 1-3 及びClone 44-10では、NS5A阻害剤耐性変異導入株に対しても感染阻害活性を有していた。NS5A阻害剤はウイルスを標的にしていているのに対し、抗オクルディンモノクローナル抗体は宿主因子を標的にしていることから、NS5A阻害剤耐性変異導入株に対しても感染阻害活性を有することは予想されることであり、他のDAA剤耐性ウイルスにも広く有効であることが強く予見される。
【0070】
10)オクルディン抗体による様々なHCVcc株に対する感染阻害解析
HCVccのシステムにおいて、細胞培養で感染系が確立しているTNS2-J1(Genotype 1b/2a)とJc-1(Genotype 2a)の感染に対して、オクルディン抗体で阻害ができるか評価した。評価系としては蛍光蛋白質の細胞内局在を蛍光顕微鏡で観察することでHCV感染を判断できる実験系を用いた。Interferon-β promoter stimulator -1 (IPS-1)は、ミトコンドリア外膜上に存在する膜蛋白質で、RNAウイルス感染時にIFN-β産生に関与することで自然免疫を誘導する。HCVの非構造蛋白質であるNS3/NS4Aはプロテアーゼ活性を有しており、IPS-1切断活性を有している。HCV感染時、HCVはIPS-1を切断することにより、IFN-βの産生を阻害していることが報告されている。蛍光蛋白質融合遺伝子mCherry−NLS-IPS-1は、赤色の蛍光蛋白質mCherry、核移行シグナル(Nuclear localize signal, NLS)、そしてIPS-1を含む遺伝子である。HCV感染により、産生されるNS3/NS4Aにより細胞質側に存在するIPS-1が切断され、NLSにより核へ蛍光蛋白質が移行する。この細胞内における蛍光蛋白質の挙動変化(核への移行)を観察することでHCVの感染を評価できる。また、HCV感染性はイムノブロット解析を用いた方法でも評価した。コントロールとしては、HCV-JFH1を用いた。結果を
図28、
図29に示す。未処理又はコントロール抗体添加群ではいずれもHCV感染を示す蛍光蛋白質の核への移行が全ての細胞で起こっていた。オクルディン抗体1-3を処理することにより、核への移行が全ての種類のウイルスで完全に抑えられた。オクルディン抗体37-5、44-10についてもごく一部感染が起こっているものの大部分の感染を抑制していることが分かった。オクルディン抗体32-1では、TNS2-J1株では蛍光蛋白質の核への移行を全て阻止したが、Jc-1では半分程度感染が確認された。イムノブロット解析及びHCV coreに対する免疫染色でも同様な結果が得られた(
図29及び30)。以上の結果より、樹立抗体、特に1-3は様々なHCVcc感染を阻害できるプローブであることを確認した。
【0071】
11)オクルディン抗体によるHCV Cell-to-cell感染阻害解析
HCVには、受容体依存性エンドサイトーシスを介した侵入(Cell-free感染)に加えて、直接細胞から細胞へ移動して広がる感染(Cell-to-cell 感染)が存在する。Cell-to-cell感染は、生体内の持続感染時の感染維持に特に重要と考えられている。In vitro感染培養細胞系では、Cell-free感染とCell-to-cell感染が起こっている。そこでCell-to-cell感染を特異的に評価するために、侵入受容体の一つであるCD81を欠損しているためCell-free感染を起こさないCD81欠損細胞(751r細胞)を用いた。検出系としては、前項の複製能評価システムを用いた。本項ではまず、Cell-free感染を起こさない751r細胞にmCherry-NLS-IPS-1を導入しレポーター細胞を樹立した。本評価系を用いて、Cell-to-cell感染をオクルディン抗体が阻害できるか評価した。HCV-JFH-1感染させたHuh7.5.1-8細胞と751r/ mCherry-NLS-IPS1細胞を共培養することで、Cell-to-cell感染が起こる条件とした。結果を
図31で示す。ラットコントロール抗体処理群では、赤色の蛍光蛋白質の核への移行が確認された。一般にCell-free感染に比べ、Cell-to-cell感染は起こりにくいことが知られており、今回の系でも感染は弱く、Huh7.5.1-8細胞と接している751r/ mCherry-NLS-IPS1細胞の一部に感染が広がっているのが見られるのみであった。オクルディン抗体クローン1-3とクローン 37-5処理群では、非感染群と同様に、全て赤色の蛍光蛋白質は細胞質側に局在したままであった(
図31)。即ち、オクルディン抗体により、Acceptor細胞である751r/mCherry-NLS-IPS-1細胞内へのHCVの移行が阻止されたことを示している。この事から、オクルディン抗体1-3及び37-5は、Cell-to-cell感染を阻害することがわかった。
【0072】
12)ヒトIgG4変異体キメラ抗体の作製
12−1)発現ベクター作製
IgG4は、重鎖定常領域内にある228番目のSerをProに置換することで生体内安定性が向上することが知られている(Immunology, 105, 9-19, 2002)。そこで、228番目のSerをProに置換するようにプライマーを設計し、pFUSE-CHIg-hG4 (Invivogen)を鋳型にNheIサイト及びBsrGIサイト間の682 bpをPCR法により増幅、PCR産物を電気泳動により分離後、精製しpFUSE-CHIg-hG4mを得た。尚、変異挿入部上流のプライマーにはNheIサイト、下流のプライマーにはBsrGIサイトを付加した。
【0073】
各抗体クローンの可変部領域のVL領域及びVH領域のアミノ酸をコードする遺伝子をPCR法により増幅した。なお、VL遺伝子の上流にAgeIサイト、下流にBsiWIサイト、VH遺伝子の上流にEcoRIサイト、下流にNheIサイトを付加した。PCR産物を電気泳動により分離・精製した。
【0074】
増幅したVL遺伝子及びヒトIgG kappa鎖定常領域をもつクローニングベクターであるpFUSE2-CLIg-hk (Invivogen)をAgeI及びBsiWIで処理後、ライゲーションした。増幅したVH遺伝子及びpFUSE-CHIg-hG4mをEcoRI及びNheIで処理後、ライゲーションした。各ライゲーション産物をコンピテントセルDH5αにトランスフォーメーションし、独立に大腸菌クローンを培養、プラスミドDNAを回収後、シークエンスを確認し、pFUSE2-CLIg-hk-anti-オクルディン及びpFUSE-CHIg-hG4m-anti-オクルディンを得た。
【0075】
12-2)ヒトIgG4変異体キメラ抗体の精製
培養用6 穴プレートに2× 10
5 cells/wellのCHO-K1細胞を播種し、37 ℃、5% CO
2環境下でサブコンフルエントになるまで培養した。作製した発現ベクター2μg(pFUSE2-CLIg-hk-anti-オクルディンを1.2μg、pFUSE-CHIg-hG4mutant-anti-オクルディンを0.8μg)をOpti-MEM1 (GIBCO) 100μL及びFuGENE(登録商標)HD Transfection Reagent (Roche) 4μLと混合し、15分間常温静置した。CHO細胞の培地を交換し、上記の混合液をウェルに全量加えた。その後、2日間、37 ℃、5% CO
2環境下で培養し、上清を回収した。
【0076】
12−3)各種オクルディンに対する結合性解析
HT1080細胞、ヒトオクルディン及びマウスオクルディン発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、前項で作製したヒトIgG4変異体キメラ抗体を含む培養上清を100μL添加し、撹拌し氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したGoat anti-human IgG(H+L)-FITC抗体(Jackson Immuno Research)を添加、撹拌、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、0.2% BSA-PBSにて終濃度5μg/mLとなるように希釈したPI(Miltenyi Biotec)を加え、FCM解析を行った。結果を
図32に示す。作製した全てのキメラ抗体でヒトオクルディンへの結合性を示した。またClone 1-3をキメラ化したものでは、
図4に示したラット抗体の場合と同様に、マウスオクルディンへの結合性も認められた。以上の結果から、それぞれのクローンのCDR領域がヒトオクルディン結合に必須であり、その結合性状を反映していることが示された。
【0077】
12−4)ヒトIgG4変異体キメラ抗体によるin vitro HCV感染阻害
7)と同様の方法にて、ヒトIgG4変異体キメラ抗体のin vitro HCV感染への影響を検討した。結果を
図33に示す。ここで
図33は、HCVcc (genotype 2a)を用いたin vitro HCV感染阻害活性であり、細胞内のHCVゲノムRNAの定量結果である。データは抗体非添加群のHCV ゲノムRNAコピー数に対する割合(mean ±SD)で表記した(n=4)。破線はバックグラウンドを示している。
【0078】
HCVcc感染系にて、抗オクルディンヒトIgG4変異体キメラ抗体のHCV感染阻害活性を解析したところ、Xi 1−3,Xi 37−5ともに添加濃度依存的に細胞内のHCV RNA量が低下しており、ラット抗体と同様に、顕著な感染阻害作用が認められた(
図33)。尚、感染阻害活性の強さは、1-3>37-5であった。
【0079】
13)ラット抗オクルディンモノクローナル抗体のin vivo HCV感染阻止試験
HCV (genotype 1b)を投与したヒト肝臓キメラマウスを用いて、ラット抗オクルディンモノクローナル抗体のin vivo感染阻害活性を解析した。ヒト肝臓キメラマウス(uPA-SCIDマウスより作製)は株式会社フェニックスバイオより入手した。雄性、12〜16週齢、体重15g以上、血中ヒトアルブミン7.0 mg/mL以上の個体を選択した。群編成では、体重及び血中ヒトアルブミン濃度の平均値を考慮してマウスを3群(Control抗体を4匹、オクルディン抗体投与の2群については3匹)に振り分けた。
【0080】
Control抗体、Clone 1-3又はClone 37-5を、マウスに腹腔内投与した。初回投与日をday 0とし、抗体投与量はday 0に50mg/kg、day3に30mg/kg、day7に20mg/kg、day10に10mg/kgとした。抗体投与液の希釈には生理食塩水を用いた。
【0081】
初回抗体投与の8時間後にマウスにイソフルラン麻酔を施し、生理食塩水で1.0×10
5 copies/mLに調製したHCV(genotype 1b)100μLを眼窩静脈叢から接種した。
【0082】
コントロール抗体、Clone 1-3又はClone 37-5を投与したマウス血清を経日的に回収し、血清中HCV RNA量を測定することでHCV感染阻害活性を評価した。結果を
図34に示す。Control抗体投与マウスではday14以降全てのマウスでウイルスRNAが検出され、Day21以降はウイルスRNA量が約10
7copies/mLを示しプラトーに達したのに対して、Clone 1-3又はClone 37-5を投与した全てのマウスでウイルスRNA量が定量限界以下のままであった。以上の結果から、ラット抗オクルディンモノクローナル抗体Clone 1-3又はClone 37-5投与により、HCV感染が完全に阻止できることが示された。
【0083】
詳細な手順、他の結果を以下に示す。
【0084】
day0、day3、day7、day10、day14、day21、day28、day35、day42に、マウスの一般状態を観察し、体重を計測した。なお、day0、day3、day7、day10は抗体投与前に行った。
【0085】
day0、day3、day7、day10、day14、day21、day28、day35、day42に採血を行った。なお、day0、day3、day7、day10は抗体投与前に、マウスにイソフルラン麻酔を施し、眼窩静脈叢より採血した。
【0086】
day0、day7、day14、day21、day28、day35、day42の採血液を用いて血清中HCVゲノムRNA量を測定した。採取した血清5μLからSepaGene RV-R(エーディア株式会社、東京)を用いてRNA抽出を行い、RNAを1 mM DTT(プロメガ株式会社、東京)と0.4U/μL ribonuclease inhibitor(タカラバイオ株式会社、滋賀)を含む10μLのNuclease-free water(Life Technologies Corporation、CA、USA)に溶解した。PCR反応液は、溶解したRNA原液もしくは希釈したRNAを2.5μLとTaqMan EZ RT-PCR Core Reagents(Life Technologies Corporation)を用いて調製した。PCR反応と解析にはABI Prism 7500(Life Technologies Corporation)を用いた。RT-PCR反応は、50℃ 2分→60℃ 30分→95℃ 5分→(95℃ 20秒→62℃ 1分)×50サイクルで行った。
【0087】
day0、day7、day14、day21、day28、day35、day42の採血液を用いて血中ヒトアルブミン濃度を測定した。血液2μLを緩衝液(LX試薬栄研シリーズ共用緩衝液、栄研化学株式会社、東京)と混合し、370 × g、3分間の遠心分離を行った後、ラテックス凝集免疫比濁法(LX試薬’栄研’Alb-II、栄研化学株式会社、東京)を用いて、吸光マイクロプレートリーダー(Vmax、日本モレキュラーデバイス株式会社、東京)で測定した。
【0088】
day0、day7、day14、day21、day28、day35、day42の採血液を用いて血清中ALT及びAST活性を測定した。採取した血清10μLを生理食塩液で希釈し、POP・POD・ロイコ色素法(ピルビン酸オキシダーゼにより発生する過酸化水素とペルオキシダーゼによりジアリールイミダゾールロイコ色素を青色に発色)により、ドライケム3500(富士フィルム、東京)を用いて測定した。
【0089】
結果を
図35〜
図38に示す。ここで
図35は、HCV (genotype 1b)を投与したヒト肝キメラマウスに各種抗体を投与した際の体重変化である。
図36は、HCV (genotype 1b)を投与したヒト肝キメラマウスに各種抗体を投与した際の血中のヒトアルブミン濃度である。
図37は、HCV (genotype 1b)を投与したヒト肝キメラマウスに各種抗体を投与した際のAST値である。
図38は、HCV (genotype 1b)を投与したヒト肝キメラマウスに各種抗体を投与した際のALT値である。
【0090】
抗オクルディン抗体投与による一般状態の変化、体重減少、血中ヒトアルブミン濃度減少、AST値、ALT値の有意な増加等は認められなかったことから、Clone 1-3及びClone 37-5は安全性及び有効性を兼ね備えた感染阻害分子であると考えられた。
【0091】
14)In vivo持続感染状態からのラット抗オクルディンモノクローナル抗体投与の効果
13)の実験で、コントロール抗体を投与した4匹はHCV持続感染状態になっている。これらのマウスに対するラット抗オクルディン抗体1-3及びマウス抗クローディン1抗体3A2の効果を検討した。抗体の投与は、Day42(0), 45(3),49(7),52(10)に、各30mg/kgを腹腔内投与で行った(各2匹ずつ)。投与開始後、1週間ごとに採血をし、血中HCV量を測定した(方法は13)と同様)。結果を
図39に示す。クローディン1抗体3A2投与マウスではウイルスRNA量に変動がみられなかったのに対して、オクルディン抗体1-3投与マウスではウイルスRNA量が低下する傾向がみられ、投与を中止すると、10日ほど遅れてウイルスRNA量が元に戻ることが確認された。以上の結果から、ラット抗オクルディン抗体1-3は、HCV持続感染からでも血中ウイルス量低下させることができることが示された。
【0092】
15)DAA剤とラット抗オクルディンモノクローナル抗体の併用投与in vivo試験
HCV (genotype 1a)を持続感染させたヒト肝臓キメラマウスを用いて、DAA剤(Direct-acting antiviral agent(直接作用型抗ウイルス剤), Nesbuvir,NS5B阻害剤)とラット抗オクルディンモノクローナル抗体の併用投与試験を行った。基本的な操作は13)14)と同様である。Nesbuvirのみ投与群(101〜104)、Nesbuvir+オクルディン抗体1-3投与群(201〜204)とした。Nesbuvirは毎日2回50mg/kg投与、オクルディン抗体1-3はDay0, 3, 7に30mg/kg投与で行った。結果を
図40に示す。Nesbuvir単独投与群では、全てのマウス(101〜104)でブレークスルーがみられ、薬剤を投与しているにも関わらず血中ウイルス量が上昇した(おそらく耐性ウイルスが増殖している)。一方で、Nesbuvir+オクルディン抗体1-3併用投与群では、1匹(201)が原因不明で死亡し、血中ウイルス量があまり下がらなかった1匹(204)では弱いブレークスルー傾向がみられたが、残り2匹(202, 203)ではブレークスルーがみられなかった。以上の結果から、オクルディン抗体1-3併用投与により、ブレークスルー(耐性ウイルスの発生)を阻止できる可能性が示された。つまり、オクルディン抗体はDAA剤との併用で、有用な併用効果を示すことが考えられた。
【0093】
16)抗オクルディン抗体FabフラグメントによるHCVcc感染阻害アッセイ
16−1)抗オクルディン抗体Fab1-3の作製
15ml tube(FALCON)に抗オクルディン抗体Clone1-3を消化用バッファー(20mM sodium phosphate, 10mM EDTA,20mM Cysteine; pH 7.0)に溶解させ、Immobilized Papain (Agarose Resin)(GE health care)を加えた。37℃で、4時間インキュベートさせた。その後10mM Tris-HCl (pH7.5)を1.0ml加え、遠心し上清を回収した。回収したサンプルをAb-Rapid SPiN(プロテノバ)に加え1時間反応させた。カラムを遠心し、通過区分をFab区分として回収した。その後PD10カラム(GE-Health care)でPBSに置換した。得られた目的タンパク質溶液をもちいて、還元条件下のSDS-PAGEを行った。結果を
図41に示す。目的の位置にFabのバンドを確認した。未消化のFull-body及びFcのバンドは確認できなかった。
【0094】
16−2)抗オクルディン抗体Fab1-3のオクルディン結合能の解析
ヒトオクルディンを発現させたHT1080発現をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、各抗体及びFab 5μg/mLを100μL添加し、5−1)と同様の操作でFCM解析を行った。結果を
図42に示す。作製したFab1-3はヒトオクルディンに対する結合性を有していた。
【0095】
16−3)抗オクルディン抗体Fab1-3のin vitro HCV感染阻害活性解析(Cell-cultured HCV (HCVcc)を用いた解析)
培地には、10% fetal bovine serum (Cell Culture Bioscience), non-essential amino acid (Hyclone SH30238.01)及びpenicillin/streptomycin(Wako, 168-23191)含有D-MEM(Wako, 044-29765)を用いた。
【0096】
コラーゲンタイプIコート48穴プレート(Corning, NCO3548)にHuh7.5.1-8細胞を5 × 10
4cells/500 μL/wellで播種し、37 ℃、1日間培養した。培地を除き、精製Fab1-3を0.5〜5μg含む培地(250μL)を添加し、室温 (25 ℃)で30分培養した。
【0097】
その後、HCVcc(genotype 2a)を50倍希釈したものをそれぞれ250μL/well添加し、室温で2時間培養した。血清を含まない培地500μL/wellで3回洗浄し、前処理の1/2の濃度にした精製Fab1-3液500μLを加え、37 ℃で4日間培養した。
【0098】
細胞をPBS 500μL/wellで3回洗浄し、Blood/Cultured Cell Total RNA Purification Mini Kit (FAVORGEN)を用いRNA抽出・精製を行い、滅菌水50μLで溶解し、-80℃で保存した。尚、RNA濃度は、Nano Dropを用いて測定した。
【0099】
精製したRNAを用いて、Taqman qRT-PCR法(試薬はRNA-direct Realtime PCR Master Mix(Toyobo)、機器はLightCycler (Roche))にてHCVゲノムRNA定量を行った。尚、反応溶液は、表2の組成に準じて調整した。
【0100】
結果を
図43に示す。ここで
図43は、HCVcc (genotype 2a)を用いたin vitro HCV感染阻害活性であり、細胞内のHCVゲノムRNAの定量結果である。データは抗体非添加群のHCV ゲノムRNAコピー数に対する割合(mean ±SD)で表記した(n=4)。
【0101】
HCVcc感染系にて、抗オクルディンFab1-3についてHCV感染阻害活性を解析したところ、添加濃度依存的に細胞内のHCV RNA量が低下しており、顕著な感染阻害作用が認められた。尚、顕鏡下で細胞障害性は観察されなかった。以上の結果から、抗オクルディン抗体1-3は1価でも十分なHCV感染阻害能を有することが示され、本エピトープに結合する低分子がHCV感染阻害剤として機能しうることが強く示唆される。
【0102】
17)抗オクルディン一本鎖抗体scFvの作製とscFvによるHCV感染阻害
17−1)抗オクルディン一本鎖抗体scFv発現ベクター作製
一本鎖抗体は、抗体の可変領域VH、VLについて、適当なリンカー(汎用されているリンカーとして(GlyGlyGlyGlySer)
3等が知られている)で連結させた一つの読み枠で合成される分子である。Clone1-3とClone37-5につてそれぞれVH、VLに対するプライマー及びリンカーに対応するプライマーを設計し、Assembly PCRによりscFv遺伝子を作製した。作製したscFv遺伝子をpSecTag2/Hygro A(Invitrogen)を鋳型にClone1-3ではHindIIIサイト及びXhoIサイト間、Clone37-5ではBamHIサイト及びXhoIサイト間にライゲーションにより挿入した。各ライゲーション産物をコンピテントセルDH5αにトランスフォーメーションし、独立に大腸菌クローンを培養、プラスミドDNAを回収後、シークエンスを確認し、pSecTag2/Hygro-scFv1-3及びscFv37-5を得た。作製したコンストラクトのアミノ酸シーケンスを
図44に示す。
【0103】
17−2)scFvを含む培養上清の回収
培養用6 穴プレートに5 × 10
5 cells/wellのHEK293T細胞を播種し、37 ℃、5% CO
2環境下でサブコンフルエントになるまで培養した。作製した発現ベクター2μgをOpti-MEM1 (GIBCO) 100μL及びFuGENE(登録商標)HD Transfection Reagent (Roche) 4μLと混合し、15分間常温静置した。CHO細胞の培地を交換し、上記の混合液をウェルに全量加えた。その後、2日間、37 ℃、5% CO
2環境下で培養し、上清を回収した。
【0104】
17−3)各種オクルディンに対する結合性解析
HT1080細胞、ヒトオクルディン及びヒトオクルディン第一細胞外領域欠損(ΔEL1)、ヒトオクルディン第二細胞外領域欠損(ΔEL1)発現HT1080細胞をトリプシン処理により回収した。5.0×10
5 cellsに対し、前項で作製したscFvを含む培養上清を100μL添加し、撹拌し氷上で1時間静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したマウス抗HisタグIgG(MBL)を添加し、撹拌、氷上で60分静置した。0.2% BSA-PBSにて1回洗浄後、1% BSA-PBSにて希釈したヤギ抗マウスIgG(H+L)-Alexa488抗体(Jackson Immuno Research)を添加、撹拌、氷上で遮光し30分静置した。0.2% BSA-PBSにて2回洗浄後、FCM解析を行った。ポジティブコントロールとして、各ラット抗オクルディン抗体を用いた。またネガティブコントロールとしてラットIgG及びHEK293T細胞の培養上清を使用した。結果を
図45に示す。作製したscFvは、ヒトオクルディンに対して結合性を有していた。またそれぞれのエピトープに対する特異性を保持していた。
【0105】
17−4)抗オクルディン一本鎖抗体scFvのin vitro感染阻害活性解析(HCV pseudoparticles(HCVpp、genotype 2a)を用いた解析)
Huh7.5.1-8細胞を1×10
5 cells/well/500μLで48-well plateに播種し、一晩培養した。抗オクルディン一本鎖抗体を含む培地を各濃度に調製し、前培養していた細胞の培地を除いて250μL/wellのscFv含有培地を加え、室温で30分静置した。なお、各培地は原液又は10倍希釈で作用させた。
【0106】
HCVpp(genotype 2a(JFH-1株)、Microbe and Infection 15, 45-55 , 2013に従い調製)をそれぞれ250μL/well添加し、37 ℃で6時間培養した。血清を含まない培地500μL/wellで3回洗浄し、前処理の1/2の濃度にしたscFv含有培養液500μLを加え、37 ℃で3日間培養した。
【0107】
培地を除去後、Lysis Buffer(Promega)を100μL/well加え、溶解液を1.5mlチューブに回収し、10,000 rpm、1分間遠心し、氷上に置いた。本上清10μLと発光基質(ピッカジーン)50μLを混ぜ、Luminescencer-PSNで発光強度の測定を行った。
【0108】
結果を
図46に示す。
図46はHCVpp(genotype 2a-JFH-1)を用いたin vitro HCV感染阻害活性を示す図である。データは培地非添加群のルシフェラーゼ活性に対する割合(mean ± SD)で表記した(n=3)。抗オクルディン一本鎖抗体は添加量依存的な感染阻害活性を示した(*1は原液、*10は10倍希釈培地)。なお、感染阻害活性は、1-3>37-5の順であった。阻害傾向は
図24と相関していた。また培地添加による細胞への影響は顕鏡下で確認できなかった。
【0109】
18)オクルディン結合分子取得に向けたスクリーニング系への応用
18−1)抗オクルディン抗体Clone1-3のHRPラベル化
抗オクルディン抗体の定量的な検出を簡便にするため、抗体のHRP標識を行った。まず、抗体溶液が4mg/mL(3.8-4.2mg/mL)になるように調製し、溶液のpHを100mM Na
2CO
3/NaHCO
3を用いて9.8に合わせた。300μL抗体溶液(4mg/mL)を100μLのPOD溶液に加え(Ab:POD=1M :5M)、25℃のウォーターバス中で3時間反応させた。
反応停止液として2M Triethanolamine(pH8.0)溶液と200mM NaBH
4を加え4℃で2時間反応させた。ラベル化抗体の安定化のため1MのGlycine溶液を10μL加え、よく混合した。200mLのPBSで3回以上十分な透析を行い、ラベル化抗体を調製した。
【0110】
18−2)抗オクルディン抗体Clone1-3のHRPラベル化体を用いたスクリーニング系構築
ヒトオクルディン発現HT1080細胞(HT1080/hOCLN細胞)及びHRP標識抗体を用いてスクリーニング系を構築した。コラーゲンコートを行った96well plate (Corning)にHT1080/hOCLN細胞を播種し、37℃で2日間培養した。3.7% Formaldehydeで固定化した後、5% Skim-milkでBlockingし、ラベル化した抗オクルディンモノクローナル抗体1-3−HRPを反応させた。よく洗浄した後、基質であるTMB溶液を加え、十分反応させた後、プレートリーダーで450nmの波長を測定し、ラベル化抗体の結合量を評価した。結合阻害コントロールとして、ラット抗オクルディン抗体1-3を前処理した条件でも行った。またバックグラウンドを見る目的でラベル化抗体処置なしも測定した。結果を
図47に示す。ラベル化抗体非添加群ではシグナルは検出されなかった、ラベル化抗体添加群では強いシグナルが検出できた。また非標識の抗体を加えることでこのシグナルは有意に減弱した。つまり本解析系をもちいることで、オクルディンと抗体の結合を阻害するオクルディン結合分子の取得が可能であることが示された。本系を用いたオクルディン結合分子のスクリーニングを通じて、HCV感染阻害を示す分子が新たに見出されることが期待される。