(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下において、回転電機等の構成の説明の便宜上、上下左右前後等の方向を適宜使用する場合があるが、回転電機等の各構成の位置関係を限定するものではない。
【0014】
<1.第1実施形態>
第1実施形態の回転電機について説明する。
【0015】
(1−1.回転電機の全体構成)
図1及び
図2を用いて、本実施形態に係る回転電機1の全体構成の一例について説明する。
図1は回転電機1の全体構成の一例を表す軸方向断面図、
図2は回転電機1の全体構成の一例を表す
図1のII−II断面における横断面図である。
【0016】
図1及び
図2に示すように、回転電機1は、固定子2と、回転子3と、フレーム4と、負荷側ブラケット11と、反負荷側ブラケット13とを備えている。回転電機1は、モータ又は発電機として使用される。
【0017】
回転子3は、シャフト10と、シャフト10の外周に設けられた回転子鉄心15と、回転子鉄心15に配置された複数の永久磁石(図示省略)とを有する。回転子鉄心15は、複数の電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されており、固定子2と径方向に対向するように配置されている。
【0018】
負荷側ブラケット11は、フレーム4の負荷側(
図1中右側)に固定され、反負荷側ブラケット13は、フレーム4の反負荷側(
図1中左側)に固定されている。シャフト10は、負荷側ブラケット11に設けられた負荷側軸受12と、反負荷側ブラケット13に設けられた反負荷側軸受14とにより、回転軸心AX周りに回転自在に支持されている。
【0019】
なお、本明細書において「負荷側」とは回転電機1に対して負荷が取り付けられる方向、すなわちこの例ではシャフト10が突出する方向(
図1中右側)を指し、「反負荷側」とは負荷側の反対方向(
図1中左側)を指す。
【0020】
また、本明細書において「軸方向」とはシャフト10(回転子3)の回転軸心AXに沿った方向を指し、「周方向」とは回転軸心AX周りの周方向を指し、「径方向」とは回転軸心AXを中心とする径方向を指す。
【0021】
固定子2は、回転子3と径方向に対向するようにフレーム4の内周側に配置されている。固定子2は、フレーム4の内周面に設けられた固定子鉄心5と、固定子鉄心5に装着されたボビン6と、ボビン6に巻回された巻線7と、樹脂部8とを有している。ボビン6は、固定子鉄心5と巻線7とを電気的に絶縁するために、絶縁性材料で構成されている。なお、ボビン6はシート状のインシュレータでもよい。
【0022】
図2に示すように、固定子鉄心5は、複数(図示する例では12個)の鉄心片20(分割鉄心ともいう)を周方向に組み合わされて構成されている。各鉄心片20は、例えばプレス抜き加工により所定の形状に形成された複数の電磁鋼板が軸方向に積層されて構成されている。鉄心片20は、略円弧状のヨーク部21と、ヨーク部21に一体に設けられたティース部22とを有する。ティース部22は、ヨーク部21より径方向内側に向けて突出するように設けられた本体部22aと、本体部22aの内周側先端に設けられ、周方向の幅が拡大された拡幅部22bとを有する。
図2に示す例では、隣り合う拡幅部22bどうしの先端は周方向で離間しているが、接触してもよい。
【0023】
各鉄心片20は、ティース部22にボビン6及び巻線7が装着された後、周方向に連結されて固定子鉄心5が形成される。そして、当該固定子鉄心5がフレーム4の内周面に圧入又は焼きばめ等により固定された後、樹脂でモールドされる。その結果、
図1に示すように、固定子鉄心5(鉄心片20)やボビン6、巻線7は、樹脂で構成された樹脂部8により一体に固定されている。
【0024】
図2に示すように、それぞれのティース部22に装着された巻線7は、周方向に隣り合うティース部22の間のスロット部19に収容され、巻線7の巻回層の相対する側部同士が間隙19aを空けて配置される。間隙19a内にはモールド時に樹脂が圧入され、樹脂部8が充填されている。
【0025】
図1に示すように、樹脂部8の負荷側端部及び反負荷側端部には、略円環状の突出部8a,8bがそれぞれ形成されている。これら突出部8a,8bは、負荷側ブラケット11及び反負荷側ブラケット13にそれぞれインロー嵌合されている。
【0026】
(1−2.鉄心片の概略構成)
次に、
図3を用いて、鉄心片20の概略構成の一例について説明する。
図3は固定子鉄心5の一部分を抽出して表す説明図である。なお、
図3ではボビン6や樹脂部8の図示を省略している。
【0027】
図3に示すように、鉄心片20は、円弧状のヨーク部21と、ティース部22とを有する。ティース部22は、本体部22aと、拡幅部22bとを有する。各鉄心片20は、周方向における両側の端部に、隣接する鉄心片20と接触する径方向に沿った接触面24,26をそれぞれ有している。周方向における一方側(
図3中左側)の端部の接触面24には、突出部23が設けられ、周方向における他方側(
図3中右側)の端部の接触面26には、凹部25が設けられている。周方向に隣接する鉄心片20は、凹部25に隣接する鉄心片20の突出部23が収容され、接触面24,26を互いに接触させた状態で連結されている。
【0028】
(1−3.鉄心片の突出部及び凹部の形状)
次に、
図4及び
図5を用いて、鉄心片20の突出部23及び凹部25の形状の一例について説明する。
図4は鉄心片20の突出部23及び凹部25の軸方向に垂直な断面形状の一例を表す説明図である。
図5は曲げ応力が作用したときに突出部の第1傾斜面が凹部の第2傾斜面に当たることを表す説明図である。
【0029】
図4に示すように、突出部23及び凹部25は、ヨーク部21の径方向における中心位置に設けられている。すなわち、突出部23及び凹部25の組み合わせ中心線CL1は、ヨーク部21の径方向における中心線であるヨーク中心線CL0と略一致している。なお、組み合わせ中心線CL1は、後述する第1傾斜面23a,23b(第2傾斜面25a,25b)の延長線が公差する基準位置P0を通り、接触面24,26の法線方向に平行な線である。
【0030】
突出部23は、径方向の幅が先端に向けて小さくなる先細り形状、この例では等脚台形状に形成されており、径方向の外側及び内側に第1傾斜面23a,23bを備えている。第1傾斜面23a,23bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。
【0031】
凹部25は、突出部23と略同形の等脚台形状の凹部であり、径方向の外側及び内側に第2傾斜面25a,25bを備えている。第2傾斜面25a,25bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。鉄心片20の凹部25は、第2傾斜面25a,25bをそれぞれ突出部23の第1傾斜面23a,23bと接触させた状態で、隣接する鉄心片20の突出部23を収容する。
【0032】
突出部23の軸方向に垂直な断面形状は、次のように設定されている。すなわち、
図4及び
図5に示すように、突出部23は、接触面24の径方向における外側の第1端部A1を中心とし、突出部23の第1端部A1とは反対側に位置する第1傾斜面23bの先端側の第2端部A3との距離RAを半径とする円CAの内側において、第1傾斜面23bが第2傾斜面25bと接触する形状を有する。また、突出部23は、接触面24の径方向における内側の第1端部B1を中心とし、突出部23の第1端部B1とは反対側に位置する第1傾斜面23aの先端側の第2端部B3と第1端部B1との距離RBを半径とする円CBの内側において、第1傾斜面23aが第2傾斜面25aと接触する形状を有する。
【0033】
特に、この例では、突出部23の第1傾斜面23bの基端側の第3端部A2が、上記円CAの円周上に位置する。また、突出部23の第1傾斜面23aの基端側の第3端部B2が、上記円CBの円周上に位置する。
【0034】
突出部23は、上記の断面形状を有することにより、突出部23と凹部25が連結された状態で、第1端部A1又は第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、隣接する鉄心片20の接触面24,26間に隙間が生じにくい構造となっている。以下、上記断面形状についてより具体的に説明する。
【0035】
突出部23と凹部25とが組み合わされた構成では、隣接する鉄心片20の接触面24,26が開こうとするときの支点は、第1端部A1か第1端部B1である。仮に、第1端部A1を支点に開こうとする場合を考えると、開きを防ぐには以下の条件を満たせばよい。
【0036】
図4において、突出部23の基端部の径方向の寸法(第3端部B2,A2間の寸法)をL1、第1端部A1,B1と突出部23との径方向の間隔(第1端部A1と第3端部B2の間隔、第1端部B1と第3端部A2の間隔)をL2とする。つまり、L1+2L2がヨーク部21の径方向の厚さとなる。なお、L1とL2は任意の長さである。
【0037】
まず、第1端部A1を頂点として1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3を考える。この二等辺三角形の底辺(線分A2A3)の長さL4は、前述の接触角度θを用いて、
L4=2(L1+L2)sinθ
となる。
【0038】
二等辺三角形A1A2A3の底辺(線分A2A3)の組み合わせ中心線CL1に平行な寸法、すなわち接触面24,26の法線方向における突出部23の接触面24,26からの突出寸法L3を求めると、
L3=L4cosθ=2(L1+L2)sinθcosθ
=(L1+L2)sin2θ
となる。
【0039】
この突出寸法L3が突出部23の高さの基本となる。なお、実際には突出部23の先端にはプレス金型による丸みを帯びた角部が設けられるので、突出部23の実際の高さは上記L3に当該角部の半径Rが追加された寸法となる。この場合の突出寸法L5は、
L5=L3+αR=(L1+L2)sin2θ+αR
となる。
【0040】
ここで、係数αは鉄心片20の鋼板の積層による寸法のばらつきを考慮したもので、半径Rの数%〜30%程度の加算があった方が好ましい(例えばα≧1.3)。
【0041】
したがって、本明細書において「突出部の接触面からの突出寸法」という場合、上記突出寸法L3だけでなく、上記突出寸法L5を実質的に含むものとする。
【0042】
一方、突出部23の先端部と凹部25の底部との間には、第1傾斜面23a,23bと第2傾斜面25a,25b、及び、接触面24と接触面26とが確実に接触するように、微小な隙間(例えば10μm程度)が設けられている。したがって、凹部25の接触面24,26からの深さL6は上記隙間をΔLとして、
L6=L5+ΔL
となる。
【0043】
なお、組み合わせ中心線CL1上における上記基準位置P0の接触面24,26からの距離L7は、
L7=(L1/2)/tanθ
である。
【0044】
ここで、第1傾斜面23bの第2端部A3と第1端部A1との間の距離RAを半径として、第1端部A1を中心に円CAを描くと、その円CAは第1傾斜面23b(線分A2A3)の外側を通っているので、第1傾斜面23bは凹部25の第2傾斜面25bに当たることになる。したがって、突出部23が凹部25に組み合わされた際に、第1端部A1を支点とした曲げ応力に対し、接触面24と接触面26とが開きにくい構成となる。
【0045】
また、本実施形態では、突出部23と凹部25の組み合わせ中心線CL1がヨーク中心線CL0上に位置するので、第1端部B1を支点とする曲げ応力に対しても、上記と同様のことが言える。すなわち、第1傾斜面23aの第2端部B3と第1端部B1との間の距離RBを半径として第1端部B1を中心に円CBを描くと、その円CBは第1傾斜面23aの外側を通っているので、第1傾斜面23aは凹部25の第2傾斜面25aに当たることになる。したがって、第1端部B1を支点とする曲げ応力に対しても、接触面24と接触面26とが開きにくい構成となる。
【0046】
(1−4.接触角度θの設定条件)
次に、
図6を用いて、接触角度θの設定条件の一例について説明する。前述のように、突出部23と凹部25の組み合わせが曲げ応力によって外れないためには、二等辺三角形A1A2A3と二等辺三角形B1B2B3が構成されるように、接触角度θが設定されるのが好ましい。
【0047】
図6に示す例では、接触角度θが図の右側から順に45°,40°,30°,27°,20°,17°,15°、10°,7°となる線が、第3端部B2,A2のそれぞれから引かれている。これらの接触角度の線に対し、第1端部A1を支点とした半径RAの円CAと、第1端部B1を支点とした半径RBの円CBが交わるならば、RA=RB=L1+L2となり、1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3及び二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。
【0048】
図6では、第1端部B1を支点とした半径RBの円CBが図示されている。
図6に示すように、円CBと交差している接触角度θは、7°,10°,15°,17°,20°であり、第1傾斜面23aの接触角度θをこの角度範囲7°〜20°に設定した場合には二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。
図6は、例えば接触角度θを15°に設定した場合の円CBとの交点が第2端部B3に設定された場合を示している。同様に、第1傾斜面23bの接触角度θをこの角度範囲7°〜20°に設定することで二等辺三角形A1A2A3を構成することができる。
【0049】
(1−5.鋼板の摩擦係数に基づいた接触角度θの設定条件)
前述のように、鉄心片20は、例えばプレス抜き加工により所定の形状に形成された鋼板を積層して構成されている。接触角度θは、上記鋼板の摩擦係数に基づいて設定されるのがより好ましい。
【0050】
具体的には、積層鋼板として例えば厚さ0.3mm、0.35mm、0.5mmのケイ素鋼板を使用した場合、本願発明者等がケイ素鋼板の積層方向に垂直な方向(面方向)の摩擦係数を測定すると、例えば0.167〜0.308の範囲の摩擦係数が得られた。
【0051】
ここで、斜面上の物体が滑り出す直前の物体の面が水平となす角度、すなわち最大摩擦角度θoは、
摩擦係数μ=tanθo
と表わされる。この式に、摩擦係数μの実測値0.167〜0.308を代入すると、
μ=0.167〜0.308=tan9.5°〜tan17.2°
となることから、最大摩擦角度θo=9.5°〜17.2°となる。すなわち、第1傾斜面23a,23b及び第2傾斜面25a,25bの接触角度θが9.5°〜17.2°の範囲の場合に、第1傾斜面23a,23bと第2傾斜面25a,25bとの間で最大摩擦力が得られることとなる。
【0052】
前述の
図6に示す例では、半径RAの円CA及び距離RBの円CBと交差する接触角度θは7°〜20°の範囲であったが、接触角度7°ではtan7°=0.1228の摩擦係数となり、摩擦係数μの実測値0.167(tan9.5°)以下となる。また、接触角度20°ではtan20°=0.364となり、摩擦係数μの実測値0.308(tan17.2°)以上となる。したがって、
図6に示す例では、接触角度θを10°〜17°の範囲(10°,15°,17°)に設定するのが好ましい。
【0053】
以上から、接触角度θを、積層ケイ素鋼板の摩擦係数相当の9.5°〜17.2°の範囲に設定することで、円環状に連結した鉄心片20にフレーム4を焼きばめした後に、例えば磁気振動や衝撃などにより突出部23と凹部25の嵌合部を動き難くすることができる。
【0054】
(1−6.回転電機の製造方法)
本実施形態の回転電機1は、概略次のようにして組み立てられる。各鉄心片20は、ティース部22にボビン6及び巻線7が装着された後、環状に連結されて固定子鉄心5が形成される。そして、当該固定子鉄心5の外側にフレーム4が圧入又は焼きばめ等により固定される。その後、固定子鉄心5と固定子鉄心5に装着された複数の巻線7等とが樹脂部8で一体化される。このようにして、固定子2が組み立てられる。
【0055】
次に、シャフト10が設置された負荷側ブラケット11が、シャフト10及び回転子3を固定子2の内側に挿入させつつ、フレーム4の負荷側に固定される。そして、反負荷側ブラケット13が、反負荷側軸受14にシャフト10を圧入させつつ、フレーム4の反負荷側に固定される。以上により、回転電機1が組み上がる。なお、負荷側ブラケット11と反負荷側ブラケット13を組み付ける順番は、上記と反対としてもよい。
【0056】
なお、以上説明した形状である突出部23と凹部25が、接触面の径方向の外側又は内側の第1端部を回動中心とする突出部の凹部に対する回動を阻止する手段の一例に相当する。
【0057】
(1−7.第1実施形態の効果)
以上説明した本実施形態の回転電機1によれば、次の効果を奏する。すなわち、複数の鉄心片20が円環状に連結されて構成された固定子鉄心5がフレーム4の内側に焼きばめ等により固定された回転電機1では、フレーム4の内径や肉厚のばらつき、鉄心片20の外径のばらつき等に起因して、鉄心片20の外周面や接触面に不均等な圧縮力が作用する場合がある。この圧縮力の強弱により、固定子鉄心5の円環形状に折れ曲がりが生じて鉄心片20の接触面24,26間に隙間が生じた場合には、固定子鉄心5を通る磁束の妨げとなる。
【0058】
本実施形態では、各鉄心片20が有する突出部23及び凹部25が上記断面形状となっていることにより、突出部23と凹部25が連結された状態で第1端部A1,B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、突出部23の第1端部A1,B1とは反対側の第1傾斜面23b,23aの少なくとも一部が凹部25の第2傾斜面25b,25aに当たることとなる。したがって、隣接する鉄心片20の接触面24,26間に隙間が生じにくい構造とすることができる。その結果、接触面24,26の接触を維持し、固定子鉄心5の磁路を確保することができる。
【0059】
また、固定子鉄心5の剛性が向上するので、フレーム4と固定子鉄心5との締め代を必要以上に大きくせずに適切な大きさに設定することが可能となる。これにより、鉄心片20の接触面24,26が大きくたわむことがなく、また固定子2と回転子3のギャップを精度良く保つことが可能となり、コギングや磁気音を低減することができる。また、固定子2を補強するためのモールド工程を無くすことも可能となる。さらに、隣接する鉄心片20間のヨーク部21の接続面積を増大できるので、鉄損を低減できる。その結果、回転電機の発熱を低減できる。
【0060】
また、本実施形態では特に、突出部23の軸方向に垂直な断面形状は、突出部23の第1端部A1,B1とは反対側に位置する第1傾斜面23b,23aの基端側の第3端部A2,B2が、上記円CA,CBの円周上に位置する形状である。
【0061】
これにより、突出部23と凹部25が連結された状態で第1端部A1,B1を支点とする曲げ力が作用した場合に、突出部23の第1端部A1,B1とは反対側の第1傾斜面23b,23aの全部が凹部25の第2傾斜面25b,25aに当たることとなる。したがって、隣接する鉄心片20の接触面24,26間の隙間をさらに生じにくい構造とすることができる。
【0062】
また、本実施形態では特に、鉄心片20は、複数の鋼板が積層されて構成されており、突出部23の軸方向に垂直な断面形状は、接触面24,26の法線方向に対する第1傾斜面23a,23bの接触角度θが、鋼板の摩擦係数μに基づいて設定された形状である。
【0063】
これにより、突出部23の第1傾斜面23a,23bと凹部25の第2傾斜面25a,25bとの間の摩擦力を増大できるので、突出部23と凹部25が連結された状態からさらに動きにくい構造とすることができる。したがって、隣接する鉄心片20の接触面24,26間の隙間をさらに生じにくい構造とすることができる。
【0064】
<2.第2実施形態>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、突出部及び凹部をヨーク中心線CL0よりも径方向外側寄りに配置した実施形態である。
【0065】
(2−1.鉄心片の突出部及び凹部の形状)
図7及び
図8を用いて、本実施形態の鉄心片20Aの突出部33及び凹部35の形状の一例について説明する。
図7及び
図8に示すように、本実施形態における鉄心片20Aは、周方向における一方側端部の径方向に沿った接触面34に突出部33を備え、周方向における他方側端部の径方向に沿った接触面36に、隣接した鉄心片20Aの突出部33を収容する凹部35を備える。
【0066】
突出部33は、前述の第1実施形態と同様に等脚台形状に形成されており、径方向の外側及び内側に第1傾斜面33a,33bを有している。第1傾斜面33a,33bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。なお、本実施形態における組み合わせ中心線CL1は、第1傾斜面33a,33b(第2傾斜面35a,35b)の延長線が公差する基準位置P0を通り、接触面34,36の法線方向に平行な線である。
【0067】
凹部35は、突出部33と略同形の等脚台形状の凹部であり、径方向の外側及び内側に第2傾斜面35a,35bを備えている。第2傾斜面35a,35bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。鉄心片20Aの凹部35は、第2傾斜面35a,35bをそれぞれ突出部33の第1傾斜面33a,33bと接触させた状態で、隣接する鉄心片20Aの突出部33を収容する。
【0068】
本実施形態における突出部33及び凹部35は、接触面34,36における径方向外側寄りに配置されており、突出部33と凹部35との組み合わせ中心線CL1は、ヨーク中心線CL0よりも径方向外側に位置している。
【0069】
本実施形態では、
図7及び
図8に示すように、突出部33の上記軸方向に垂直な断面形状は、突出部33の径方向の外側に位置する第1傾斜面33aの基端側の第3端部B2が、接触面34,36の径方向における内側の第1端部B1を中心とし、第1傾斜面33aの先端側の第2端部B3と第1端部B1との距離RBを半径とする円CBの円周上に位置する形状である。
【0070】
このような構成の鉄心片20Aにおいても、隣接する鉄心片20Aの接触面34,36が開こうとするときの支点は、一方の第1端部A1か他方の第1端部B1となる。仮に、第1端部A1を支点に開こうとする場合を考えると、開きを防ぐには以下の条件を満たせばよい。
【0071】
突出部33の基端部の径方向の寸法(第3端部B2,A2間の寸法)をL1、第1端部A1と突出部33との径方向の間隔をL2、第1端部B1と突出部33との径方向の間隔をL8(L8>L2)とする。つまり、L1+L2+L8がヨーク部21の径方向の厚さとなる。なお、L1とL2とL8は任意の長さである。
【0072】
第1端部A1を頂点として1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3を考える。この場合の仮想的な突出部(
図7中破線で図示)の突出寸法L3a,L5aを求めると、第1実施形態と同様にして、
L4a=2(L1+L2)sinθ
L3a=L4a×cosθ=2(L1+L2)sinθcosθ
=(L1+L2)sin2θ
L5a=L3a+αR=(L1+L2)sin2θ+αR
となる。
【0073】
次に、第1端部B1を支点として接触面34,36が開こうとする場合を考えると、同様に二等辺三角形B1B2B3を考えて、
L4b=2(L1+L8)sinθ
L3b=(L1+L8)sin2θ
L5b=(L1+L8)sin2θ+αR
となる。
【0074】
この場合、上記基準位置P0の接触面34,36からの距離L7は第1実施形態と同様であり、L7=(L1/2)/tanθ
である。
【0075】
この例では、L2<L8であるので、L3a<L3b(L5a<L5b)である。したがって、
図8に示すように、第1端部A1を支点とする距離RAを半径とする円CAよりも、第1端部B1を支点とする距離RBを半径とする円CBの方が半径が長い。本実施形態では、この距離RBの寸法を維持可能な突出部33の突出高さL3b(又はL5b)が突出部33の突出寸法とされる。仮に、突出高さL3a(又はL5a)が突出寸法とされた場合には、第1端部A1を中心とする距離RAを半径とする円CAの内側には第1傾斜面33bの全部が入るものの、第1端部B1を中心とする線分B1B3’を半径とする円(図示省略)の内側には第1傾斜面33aの一部しか入らない。これに対し、突出高さL3b(又はL5b)が突出寸法とされた場合には、第1端部A1を中心とする線分A1A3’を半径とする円(図示省略)の内側に第1傾斜面33bの全部が入ると共に、第1端部B1を中心とする距離RBを半径とする円CBの内側に第1傾斜面33aの全部が入ることとなる。したがって、第1端部A1及び第1端部B1のいずれを支点とする曲げ応力に対しても、第1傾斜面33a,33bと第2傾斜面35a,35b、及び、接触面34と接触面36とが開きにくい構成となる。
【0076】
(2−2.接触角度θの設定条件)
次に、
図9を用いて、接触角度θの設定条件の一例について説明する。
図9に示す例では、前述の
図6と同様に、接触角度θが図の右側から順に45°,40°,30°,27°,20°,17°,15°、10°,7°となる線が、第3端部B2,A2のそれぞれから引かれている。これらの接触角度の線に対し、第1端部A1を支点とした半径RA(=L1+L2)の円CAと、第1端部B1を支点とした半径RB(=L1+L8)の円CBが交わるならば、1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3、1辺がL1+L8の二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。
図9に示す例では、円CA及び円CBともに、7°,10°,15°,17°,20°で交差している。つまり、第1傾斜面33a,33bの接触角度θをこの角度範囲7°〜20°に設定することで、二等辺三角形A1A2A3及び二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。なお、
図9では、例えば接触角度θを15°に設定した場合の、円CAとの交点が第2端部A3、円CBとの交点が第2端部B3として示されている。本実施形態では、上述のように、第2端部B3位置が突出部33の突出寸法の基準となる。
【0077】
なお、鉄心片20Aの上記以外の構成は、前述の鉄心片20と同様である。また、以上では突出部33及び凹部35をヨーク中心線CL0よりも径方向外側寄りに配置した場合を説明したが、径方向内側寄りに配置してもよい。
【0078】
(2−3.第2実施形態の効果)
以上説明した第2実施形態によれば、次の効果を奏する。すなわち、一般に、鉄心片20Aのヨーク部21を通る磁束の密度は、径方向内側の方が径方向外側よりも高い。したがって、突出部33及び凹部35を接触面34,36における径方向の外側寄りに配置することで、磁路を拡大でき、鉄損の低減効果を高めることができる。
【0079】
この場合、接触面34の径方向外側の第1端部A1を中心とする円CAよりも、径方向内側の第1端部B1を中心とする円CBの方が、半径が大きい。本実施形態では、突出部33が上記断面形状となっていることにより、半径が大きい方の円CBに対応した形状となる。これにより、径方向外側の第1端部A1を支点とする曲げ力が作用した場合と、径方向内側の第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合の両方において、第1傾斜面33b,33aの全部が円(第1端部A1を中心とする線分A1A3’を半径とする円、第1端部B1を中心とする距離RBを半径とする円CB)の内側において凹部35の第2傾斜面35b,35aに当たる構造とすることができる。したがって、隣接する鉄心片20Aの接触面34,36間の隙間を生じにくい構造とすることができる。その結果、接触面34,36の接触を維持し、固定子鉄心5の磁路を確保することができる。
【0080】
<3.第3実施形態>
次に、第3実施形態について説明する。第3実施形態は、突出部及び凹部をヨーク中心線CL0よりも径方向外側寄りに配置しつつ、上述の第2実施形態よりも突出部の突出寸法を低減させた実施形態である。
【0081】
(3−1.鉄心片の突出部及び凹部の形状)
図10及び
図11を用いて、本実施形態の鉄心片20Bの突出部43及び凹部45の形状の一例について説明する。
図10及び
図11に示すように、本実施形態における鉄心片20Bは、周方向における一方側端部の径方向に沿った接触面44に突出部43を備え、周方向における他方側端部の径方向に沿った接触面46に、隣接した鉄心片20Bの突出部43を収容する凹部45を備える。
【0082】
突出部43は、台形状に形成されており、径方向の外側及び内側に第1傾斜面43a,43bを有している。第1傾斜面43aは、組み合わせ中心線CL1に対して接触角度θcだけ傾斜しており、第1傾斜面43bは、組み合わせ中心線CL1に対して接触角度θだけ傾斜している。なお、本実施形態における組み合わせ中心線CL1は、第1傾斜面43a,43b(第2傾斜面45a,45b)の延長線が公差する基準位置P0を通り、接触面44,46の法線方向に平行な線である。
【0083】
凹部45は、突出部43と略同形の台形状の凹部であり、径方向の外側及び内側に第2傾斜面45a,45bを有している。第2傾斜面45aは、組み合わせ中心線CL1に対して接触角度θcだけ傾斜しており、第2傾斜面45bは、組み合わせ中心線CL1に対して接触角度θだけ傾斜している。鉄心片20Bの凹部45は、第2傾斜面45a,45bをそれぞれ突出部43の第1傾斜面43a,43bと接触させた状態で、隣接する鉄心片20Bの突出部43を収容する。
【0084】
本実施形態における突出部43及び凹部45は、接触面44,46における径方向外側寄りに配置されており、突出部43と凹部45との組み合わせ中心線CL1は、ヨーク中心線CL0よりも径方向外側に位置している。
【0085】
本実施形態では、
図10及び
図11に示すように、突出部43の上記軸方向に垂直な断面形状は、突出部43の径方向の外側に位置する第1傾斜面43aの接触角度θcが、突出部43の径方向の内側に位置する第1傾斜面43bの接触角度θよりも小さい形状である。
【0086】
このような構成の鉄心片20Bにおいても、隣接する鉄心片20Bの接触面44,46が開こうとするときの支点は、一方の第1端部A1か他方の第1端部B1となる。第1端部A1を頂点とする二等辺三角形A1A2A3(頂角2θ)と、第1端部B1を頂点とする二等辺三角形B1B2B3c(頂角2θc)について考える。
【0087】
二等辺三角形A1A2A3より割り出される寸法L3a,L5aは、
図7の場合と同じである。一方、第1端部B1を頂点とする二等辺三角形B1B2B3cについては、寸法L1,L8は
図7の場合と同じであり、接触角度はθc<θであるので、突出部43の突出寸法L3c,L5cは
図7の場合と同じ計算式で、
L4c=2(L1+L8)sinθc
L3c=L4c×cosθ=2(L1+L8)sinθc×cosθc
=(L1+L8)sin2θc
L5c=(L1+L8)sin2θc+αR
となる。
【0088】
θ>θcなので、sin2θ>sin2θcとなる。したがって、
図11に示すように、突出部43の突出寸法L3c(L5c)は、
図7の突出部33の突出寸法L3b(L5b)と比べてL3c<L3b(L5c<L5b)である。すなわち、突出部43の突出寸法を
図7の突出部33の場合よりも小さくすることができる。このようにして、第1傾斜面43aの接触角度θcを変えることにより、突出部43の先端の位置を調整できる。したがって、例えば突出寸法L3c(L5c)が突出寸法L3a(L5a)と等しくなるようにθcを設定してもよい。
【0089】
このとき、上記基準位置P0の接触面44,46からの距離をL7cとすると、
L7c=L1/(tanθ+tanθc)
となる。この場合の距離L7cは、
図7の場合のL7=(L1/2)/tanθより大きくなる。
【0090】
(3−2.接触角度θの設定条件)
次に、前述の
図9を用いて、接触角度θの設定条件の一例について説明する。先の
図9に示すように、第2端部B3は、接触面44,46から第2端部A3よりも先端側に位置している。これは、
図7の状態を示している。
図7の突出部33よりも突出寸法を小さくしたい場合、
図10の鉄心片20Bのような構成とすればよい。上記
図9に示す例では、接触角度15°の線と円CAとの交点である第2端部A3とほぼ同じ突出位置で円CBと交わるのは接触角度10°の線である。したがって、接触角度θcを約10°前後に設定することにより、突出寸法L3c(L5c)を突出寸法L3a(L5a)と略等しくすることができる。
【0091】
なお、鉄心片20Bの上記以外の構成は、前述の鉄心片20Aと同様である。
【0092】
(3−3.第3実施形態の効果)
以上説明した第3実施形態によれば、次の効果を奏する。すなわち、突出部43の接触面44,46からの突出寸法は、鉄心片20Bの構造上の都合(例えば鉄心片20Bのヨーク部21の径方向の寸法との割合等)により、所定の寸法以内に制限したい場合がある。
【0093】
本実施形態では、突出部43が上記断面形状となっていることにより、径方向外側の第1端部A1を支点とする曲げ力が作用した場合と、径方向内側の第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合の両方において、第1傾斜面43b,43aの全部が円(第1端部A1を中心とする距離RAを半径とする円CA、第1端部B1を中心とする距離RBを半径とする円CB)の内側において凹部45の第2傾斜面45b,45aに当たる構造とすることができる。したがって、隣接する鉄心片20Bの接触面44,46間に隙間が生じにくい構造とすることができる。その結果、接触面44,46の接触を維持し、固定子鉄心5の磁路を確保することができる。その上で、接触角度θcを調整することにより突出部43の先端の位置(突出寸法)を調整することができるので、突出部43の接触面44,46からの突出寸法を低減することができる。したがって、上記ニーズに対応することができる。
【0094】
<4.変形例>
なお、開示の実施形態は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0095】
(4−1.突出部及び凹部が三角形状である場合)
以上では、突出部及び凹部が略台形状である場合を一例として説明したが、突出部及び凹部の形状を略三角形状としてもよい。
図12及び
図13を用いて、本変形例における鉄心片の突出部及び凹部の形状の一例について説明する。
【0096】
図12に示すように、本変形例における鉄心片120は、周方向における一方側端部の径方向に沿った接触面124に突出部123を備え、周方向における他方側端部の径方向に沿った接触面126に、隣接した鉄心片120の突出部123を収容する凹部125を備える。突出部123及び凹部125は、ヨーク部121の径方向における中心位置に設けられている。すなわち、組み合わせ中心線CL1とヨーク中心線CL0とは略一致している。
【0097】
突出部123は、略二等辺三角形状に形成されており、径方向の外側及び内側に第1傾斜面123a,123bを有している。第1傾斜面123a,123bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。
【0098】
凹部125は、突出部123と略同形の二等辺三角形状の凹部であり、径方向の外側及び内側に第2傾斜面125a,125bを備えている。第2傾斜面125a,125bは、組み合わせ中心線CL1に対してそれぞれ接触角度θだけ傾斜している。鉄心片120の凹部125は、第2傾斜面125a,125bをそれぞれ突出部123の第1傾斜面123a,123bと接触させた状態で、隣接する鉄心片120の突出部123を収容する。
【0099】
突出部123の軸方向に垂直な断面形状は、次のように設定されている。すなわち、
図12及び
図13に示すように、突出部123は、接触面124の径方向における外側の第1端部A1を中心とし、突出部123の第1端部A1とは反対側に位置する第1傾斜面123bの先端側の第2端部A3との距離RAを半径とする円CAの内側において、第1傾斜面123bが第2傾斜面125bと接触する形状を有する。また、突出部123は、接触面124の径方向における内側の第1端部B1を中心とし、突出部123の第1端部B1とは反対側に位置する第1傾斜面123aの先端側の第2端部B3と第1端部B1との距離RBを半径とする円CBの内側において、第1傾斜面123aが第2傾斜面125aと接触する形状を有する。
【0100】
特に、この例では、突出部123の第1傾斜面123bの基端側の第3端部A2が、上記円CAの円周上に位置する。また、突出部123の第1傾斜面123aの基端側の第3端部B2が、上記円CBの円周上に位置する。
【0101】
突出部123は、上記断面形状を有することにより、突出部123と凹部125が連結された状態で、第1端部A1又は第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、隣接する鉄心片120の接触面124,126間に隙間が生じにくい構造とすることができる。
【0102】
なお、本変形例における、接触面124,126の開きを防ぐための各寸法L1〜L7の関係は、前述の第1実施形態と同様であるので説明を省略する。また、本変形例において、前述の第2及び第3実施形態と同様に、突出部123及び凹部125をヨーク中心線CL0よりも径方向外側寄り又は内側寄りに配置してもよい。
【0103】
(4−2.接触面間に隙間を設ける場合)
以上では、隣接する鉄心片20の接触面24と接触面26とが接触する場合を一例として説明したが、接触面に作用する圧縮力を緩和するために、接触面24と接触面26との間に微小な隙間を設ける構成としてもよい。
図14を用いて、本変形例における鉄心片の突出部及び凹部の形状の一例について説明する。
【0104】
図14に示すように、本変形例では、隣接する鉄心片20Cの接触面24と接触面26との間に、微小な隙間(例えば数10μm程度)が設けられている。すなわち、本明細書における「接触面」とは必ずしも接触する面に限るものではなく、このように微小な隙間を介して配置された面も含むものであり、接触しうる面という意味合いである。一方、突出部23の先端部と凹部25の底部は接触している。凹部25の接触面26からの深さL6は上記隙間をΔLとして、
L6=L5−ΔL
となる。
【0105】
上記の隙間ΔL(前述の
図4等に示すΔLも同様)は、円環状に連結した鉄心片20Cにフレーム4を焼きばめ等した場合の締め代の大きさ、フレーム4の内径の真円度、ティース部22の先端形状等に応じて、適宜の値に設定されるのが好ましい。
【0106】
なお、本変形例における各寸法L1〜L7(L6を除く)の関係は、前述の第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0107】
本変形例によれば、突出部23と凹部25が連結された状態で、第1端部A1又は第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、隣接する鉄心片20Cの接触面24,26間の隙間ΔLが変動しにくい構造とすることができる。また、予め隙間ΔLを設けているので、接触面24,26に作用する圧縮力を緩和することができる。
【0108】
(4−3.その他)
以上では、二等辺三角形A1A2A3や二等辺三角形B1B2B3が構成されるように接触角度θが設定される場合について説明したが、突出部及び凹部の形状はこれに限定されるものではない。そのような二等辺三角形が構成されない場合でも、突出部23の断面形状が、第1端部A1を中心とし距離RAを半径とする円CAの内側において、第1傾斜面23bの少なくとも一部が第2傾斜面25bと接触する形状であれば、第1端部A1を支点とする曲げ力に対して隣接する鉄心片20の接触面24,26間に隙間が生じにくい構造とすることができる。また、突出部23の断面形状が、第1端部B1を中心とし距離RBを半径とする円CBの内側において、第1傾斜面23aの少なくとも一部が第2傾斜面25aと接触する形状であれば、第1端部B1を支点とする曲げ力に対して隣接する鉄心片20の接触面24,26間に隙間が生じにくい構造とすることができる。
【0109】
<5.第4実施形態>
次に、第4実施形態について説明する。第4実施形態は、各鉄心片に突出部及び凹部を複数設けることにより、各鉄心片間の接触面積を増大させた実施形態である。
(5−1.鉄心片の概略構成)
図15を用いて、本実施形態の鉄心片220の概略構成の一例について説明する。
図15は固定子鉄心5の一部分を抽出して表す説明図である。なお、
図15ではボビン6や樹脂部8の図示を省略している。
【0110】
図15に示すように、鉄心片220は、円弧状のヨーク部221と、ティース部222とを有する。ティース部222は、本体部222aと、拡幅部222bとを有する。各鉄心片220は、周方向における両側の端部に、隣接する鉄心片220と接触する径方向に沿った接触面224,226をそれぞれ有している。周方向における一方側(
図15中左側)の端部の接触面224には、2つの突出部223が設けられ、周方向における他方側(
図15中右側)の端部の接触面226には、2つの凹部225が設けられている。周方向に隣接する鉄心片220は、2つの凹部225に隣接する鉄心片220の2つの突出部223がそれぞれ収容され、接触面224,226を互いに接触させた状態で連結されている。
【0111】
(5−2.鉄心片の突出部及び凹部の形状)
次に、
図16及び
図17を用いて、鉄心片220の突出部223及び凹部225の形状の一例について説明する。
【0112】
図16に示すように、2つの突出部223は、それぞれ同じ形状及び同じ大きさを有しており、ヨーク中心線CL0を中心に径方向に対称に配置されている。同様に、2つの凹部225も、それぞれ同じ形状及び同じ大きさを有しており、ヨーク中心線CL0を中心に径方向に対称に配置されている。以下では、説明の便宜上、径方向外側に位置する突出部223及び凹部225を「外側突出部223」及び「外側凹部225」と、径方向内側に位置する突出部223及び凹部225を「内側突出部223」及び「内側凹部225」ともいう。
【0113】
図16において、外側突出部223及び内側突出部223の基端部の径方向の寸法(第3端部B2,A2間の寸法)をそれぞれL1、第1端部A1,B1と各突出部223との径方向の間隔(第1端部A1と外側突出部223の第3端部B2との間隔、第1端部B1と内側突出部223の第3端部A2との間隔)をそれぞれL2、外側突出部223と内側突出部223の径方向の間隔をL8とする。つまり、2(L1+L2)+L8がヨーク部221の径方向の厚さとなる。なお、L1とL2は任意の長さである。
【0114】
なお、この例では外側突出部223と内側突出部223を、同じ形状及び同じ大きさとし、ヨーク中心線CL0を中心に径方向に対称に配置したが、異なる形状及び異なる大きさとし、ヨーク中心線CL0を中心に径方向に非対称に配置してもよい。
【0115】
まず、外側突出部223の断面形状について説明する。第1端部A1を頂点として1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3を考える。この二等辺三角形の底辺(線分A2A3)の長さL4は、前述の接触角度θを用いて、
L4=2(L1+L2)sinθ
となる。
【0116】
二等辺三角形A1A2A3の底辺(線分A2A3)の組み合わせ中心線CL1に平行な寸法、すなわち接触面224,226の法線方向における外側突出部223の接触面224,226からの突出寸法L3を求めると、
L3=L4cosθ=2(L1+L2)sinθcosθ
=(L1+L2)sin2θ
となる。
【0117】
この突出寸法L3が外側突出部223の高さの基本となる。なお、実際には外側突出部223の先端にはプレス金型による丸みを帯びた角部が設けられるので、外側突出部223の実際の高さは上記L3に当該角部の半径Rが追加された寸法となる。この場合の突出寸法L5は、
L5=L3+αR=(L1+L2)sin2θ+αR
となる。
【0118】
ここで、係数αは鉄心片220の鋼板の積層による寸法のばらつきを考慮したもので、半径Rの数%〜30%程度の加算があった方が好ましい(例えばα≧1.3)。
【0119】
一方、外側突出部223の先端部と凹部225の底部との間には、第1傾斜面223a,223bと第2傾斜面225a,225b、及び、接触面224と接触面226とが確実に接触するように、微小な隙間(例えば10μm程度)が設けられている。したがって、凹部225の接触面224,226からの深さL6は上記隙間をΔLとして、
L6=L5+ΔL
となる。
【0120】
なお、組み合わせ中心線CL1上における上記基準位置P0の接触面224,226からの距離L7は、
L7=(L1/2)/tanθ
である。
【0121】
図17に示すように、第1傾斜面223bの第2端部A3と第1端部A1との間の距離RAを半径として、第1端部A1を中心に円CAを描くと、その円CAは第1傾斜面223b(線分A2A3)の外側を通っているので、第1傾斜面223bは凹部225の第2傾斜面225bに当たることになる。したがって、外側突出部223が外側凹部225に組み合わされた際に、第1端部A1を支点とした曲げ応力に対し、接触面224と接触面226とが開きにくい構成となる。
【0122】
次に、内側突出部223の断面形状について説明する。前述のように、内側突出部223と外側突出部223とは、同じ形状及び同じ大きさを有する。このため、第1端部B1を頂点として1辺がL1+L2の二等辺三角形B1B2B3を考えると、内側突出部223の寸法関係は上側突出部223と同様となる。すなわち、
図17に示すように、第1傾斜面223aの第2端部B3と第1端部B1との間の距離RBを半径として第1端部B1を中心に円CBを描くと、その円CBは第1傾斜面223aの外側を通っているので、第1傾斜面223aは凹部225の第2傾斜面225aに当たることになる。したがって、第1端部B1を支点とする曲げ応力に対しても、接触面24と接触面26とが開きにくい構成となる。
【0123】
(5−3.接触角度θの設定条件)
次に、前述の
図6を用いて、接触角度θの設定条件の一例について説明する。前述のように、外側突出部223と外側凹部225及び内側突出部223と内側凹部225の組み合わせが曲げ応力によって外れないためには、二等辺三角形A1A2A3と二等辺三角形B1B2B3が構成されるように、接触角度θが設定されるのが好ましい。
【0124】
図6に示す例では、接触角度θが図の右側から順に45°,40°,30°,27°,20°,17°,15°、10°,7°となる線が、第3端部B2,A2のそれぞれから引かれている。これらの接触角度の線に対し、第1端部A1を支点とした半径RAの円CAと、第1端部B1を支点とした半径RBの円CBが交わるならば、RA=RB=L1+L2となり、1辺がL1+L2の二等辺三角形A1A2A3及び二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。
【0125】
図6では、第1端部B1を支点とした半径RBの円CBが図示されている。
図6に示すように、円CBと交差している接触角度θは、7°,10°,15°,17°,20°であり、第1傾斜面223aの接触角度θをこの角度範囲7°〜20°に設定した場合には二等辺三角形B1B2B3を構成することができる。
図6は、例えば接触角度θを15°に設定した場合の円CBとの交点が第2端部B3に設定された場合を示している。同様に、第1傾斜面223bの接触角度θをこの角度範囲7°〜20°に設定することで二等辺三角形A1A2A3を構成することができる。
【0126】
なお、本実施形態においても、前述の第1実施形態と同様に、接触角度θを、積層ケイ素鋼板の摩擦係数相当の9.5°〜17.2°の範囲に設定することで、円環状に連結した鉄心片220にフレーム4を焼きばめした後に、例えば磁気振動や衝撃などにより突出部223と凹部225の嵌合部を動き難くすることができる。
【0127】
(5−4.第4実施形態の効果)
以上説明した第4実施形態によれば、次の効果を奏する。すなわち、回転電機の小型化が進み、固定子鉄心5のヨーク部221が薄くなると、隣接する鉄心片220同士の接触面積が減少するので、磁路の減少を招く可能性がある。本実施形態によれば、各鉄心片220に2つの突出部223及び2つの凹部225をそれぞれ設けて接触面積を増大することができるので、固定子鉄心5の磁路を拡大できる。その上で、第1端部A1,B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、隣接する鉄心片220の接触面224,226間の隙間を生じにくい構造とすることができる。以上のように、本実施形態の構成は、小型(小容量)の回転電機に有効であるが、径方向に2つの突出部223及び2つの凹部225を設ける構造上、固定子鉄心5のヨーク部221にある程度の厚みがある場合が好ましく、中型から大型(中容量から大容量)の回転電機に対して特に好適である。
【0128】
なお、以上では各鉄心片220に突出部223及び凹部225をそれぞれ2つ設ける構成としたが、3つ以上設ける構成としてもよい。その場合には磁路の拡大効果をさらに高めることができる。
【0129】
<6.変形例>
なお、開示の実施形態は、上記に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0130】
(6−1.接触面間に隙間を設ける場合)
以上では、隣接する鉄心片220の接触面224と接触面226とが接触する場合を一例として説明したが、接触面に作用する圧縮力を緩和するために、接触面224と接触面226との間に微小な隙間を設ける構成としてもよい。
図18を用いて、本変形例における鉄心片の突出部及び凹部の形状の一例について説明する。
【0131】
図18に示すように、本変形例では、隣接する鉄心片220の接触面224と接触面226との間に、微小な隙間(例えば数10μm程度)が設けられている。一方、2つの突出部223の先端部と2つの凹部225の底部はそれぞれ接触している。凹部225の接触面226からの深さL6は上記隙間をΔLとして、
L6=L5−ΔL
となる。
【0132】
上記の隙間ΔLは、円環状に連結した鉄心片220にフレーム4を焼きばめ等した場合の締め代の大きさ、フレーム4の内径の真円度、ティース部222の先端形状等に応じて、適宜の値に設定されるのが好ましい。
【0133】
なお、本変形例における各寸法L1〜L8(L6を除く)の関係は、前述の第4実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0134】
本変形例によれば、突出部223と凹部225が連結された状態で、第1端部A1又は第1端部B1を支点とする曲げ力が作用した場合でも、隣接する鉄心片220の接触面224,226間の隙間ΔLが変動しにくい構造とすることができる。また、予め隙間ΔLを設けているので、接触面224,226に作用する圧縮力を緩和することができる。
【0135】
(6−2.その他)
以上では、各鉄心片220が1つのティース部222を有する場合を一例として説明したが、例えば巻線を分布巻きする場合等、各鉄心片220が2つ以上のティース部222を有する構成としてもよい。このような鉄心片に対しても以上説明した接続形状を適用することで、各実施形態等と同様の効果を得ることができる。
【0136】
なお、以上の説明において、「垂直」「平行」「平面」等の記載がある場合には、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「垂直」「平行」「平面」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に垂直」「実質的に平行」「実質的に平面」という意味である。
【0137】
また、以上の説明において、外観上の寸法や大きさ、形状、位置等が「同一」「同じ」「等しい」「異なる」等の記載がある場合は、当該記載は厳密な意味ではない。すなわち、それら「同一」「等しい」「異なる」とは、設計上、製造上の公差、誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に同じ」「実質的に等しい」「実質的に異なる」という意味である。
【0138】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。