特許第6771769号(P6771769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771769
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】塩粒子発生装置および腐食促進試験機
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   G01N17/00
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-138837(P2017-138837)
(22)【出願日】2017年7月18日
(65)【公開番号】特開2019-20255(P2019-20255A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2020年3月26日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107583
【氏名又は名称】スガ試験機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和哉
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−134162(JP,A)
【文献】 特開2014−105154(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3066162(JP,U)
【文献】 特開平10−123044(JP,A)
【文献】 特開2012−018035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
C01D 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水噴霧粒子を発生させる塩水噴霧部と、
前記塩水噴霧粒子を乾燥させることにより結晶化した塩粒子を発生させる塩粒子発生部と
を備え
前記塩粒子発生部は、
前記塩水噴霧粒子に対し、前記塩水噴霧部からの前記塩水噴霧粒子が供給される第1の配管の内部に挿管された第2の配管を通じて乾燥空気を供給する乾燥空気供給部と、
前記塩水噴霧粒子と前記乾燥空気との混合により前記塩粒子を発生させる混合部と
を有する
塩粒子発生装置。
【請求項2】
前記乾燥空気供給部は、前記塩水噴霧部からの前記塩水噴霧粒子の進行方向に沿って前記乾燥空気を供給する
請求項記載の塩粒子発生装置。
【請求項3】
前記塩水噴霧部は、
塩水を貯留する塩水貯留部と、
第1のノズルと、
前記塩水貯留部と前記第1のノズルとを繋ぐ塩水供給管と、
前記第1のノズルに近接配置された第2のノズルと、
前記第2のノズルに対し空気を供給する空気供給管と
を有している
請求項1または請求項2に記載の塩粒子発生装置。
【請求項4】
前記第2のノズルは、前記塩水貯留部に貯留された前記塩水の表面と対向すると共に前記空気が噴出される先端部を含む
請求項記載の塩粒子発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の塩粒子発生装置を備えた
腐食促進試験機。
【請求項6】
試験槽と、
前記塩粒子発生装置から前記塩粒子が供給され、前記塩粒子を含む調温調湿空気を前記試験槽に供給する調温調湿槽と、
前記試験槽と前記調温調湿槽との間に設けられた吹き出し口と、
前記調温調湿槽に設けられた温度調節器および蒸気供給機と
前記温度調節器および前記蒸気供給機と前記吹き出し口との間に設けられ、前記塩粒子発生装置からの前記塩粒子が前記調温調湿槽へ供給される塩粒子導入孔と
をさらに備えた
請求項記載の腐食促進試験機。
【請求項7】
前記試験槽内に、光源をさらに備えた
請求項に記載の腐食促進試験機。
【請求項8】
前記試験槽内に、降雨装置をさらに備えた
請求項または請求項に記載の腐食促進試験機。
【請求項9】
前記塩粒子発生装置、前記調温調湿槽、前記温度調節器および前記蒸気供給機の各々の動作を制御する制御部をさらに備え、
前記制御部は、前記試験槽内の絶対湿度を一定に維持しつつ、前記塩粒子を含む前記調温調湿空気を前記試験槽に供給するように前記塩粒子発生装置、前記調温調湿槽、前記温度調節器および前記蒸気供給機の各々の動作を制御する
請求項から請求項のいずれか1項に記載の腐食促進試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩粒子を発生させる塩粒子発生装置、およびそれを備えた腐食促進試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腐食液を噴霧することにより霧状にしたものを試験片に付着させ、その試験片の耐食性を評価するという腐食促進試験方法(塩水噴霧試験方法)およびそれを行う腐食促進試験機が知られている(非特許文献1および特許文献1参照)。また、超音波霧発生器により発生された海水の霧と、加湿器からの空気とを混合したものを、試料が設置された腐食槽へ導入するようにした海塩粒子発生装置が開示されている(特許文献2参照)。さらに、微細な塩粒子を生成する方法、およびその塩粒子を用いて塩害評価を行うようにした塩害評価方法が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−89564号公報
【特許文献2】特開2007−218639号公報
【特許文献3】特開2002−257711号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】JIS Z 2371「塩水噴霧試験方法」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、各種材料の環境試験を行うにあたっては、より実環境に近い試験条件で実施することが望ましい。例えば実際の自然環境下においては、一日のなかで温度や相対湿度は変化するものの、空気中の水分量は実質的に一定に保持されている。
【0006】
また、実環境において海面から飛来する海塩粒子は、周囲の空気の相対湿度に影響を受け、相対湿度が75%以上の雰囲気では水分を吸湿したぬれ状態の液滴であり、相対湿度が75%から30%程度の雰囲気では液滴、または水分を失った乾燥状態の粒子として空気中に浮遊している。しかし、前述の腐食促進試験方法、海塩粒子発生装置および塩害評価方法において生成される塩粒子は、2流体ノズルまたは超音波霧発生器による微細な液滴(液体)であり、乾燥した粒子(固体)の状態で塩粒子を供給することはできなかった。
【0007】
さらに、実環境における海塩粒子による腐食は、対象物(試料)の表面状態(表面粗さや水膜の有無など)と海塩粒子の状態(液滴あるいは乾燥した粒子)に起因する塩粒子の付着力の違いに影響を受ける。しかし、例えば、非特許文献1に規定の塩水噴霧試験方法では、相対湿度が95%以上の雰囲気で微細な液滴状の塩粒子を試験片に自然落下させており、従来の試験装置および試験方法では、これらの実環境における腐食の形態を十分に再現できていなかった。
【0008】
したがって、実環境に沿った試験条件の再現に適した腐食促進試験機および腐食促進試験方法、ならびにその腐食促進試験機に好適な塩粒子発生装置を提供することが望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の塩粒子発生装置は、塩水噴霧粒子を発生させる塩水噴霧部と、塩水噴霧粒子を乾燥させることにより結晶化した塩粒子を発生させる塩粒子発生部とを備えたものである。また、本発明の腐食促進試験機は、上記本発明の塩粒子発生装置を備えたものである。また、本発明の腐食促進試験方法は、試料が載置された試験槽内に調温調湿空気を収容することと、調温調湿空気が収容された試験槽内に乾燥した塩粒子を供給することにより、試料の腐食を促すこととを含むものである。
【0010】
本発明の塩粒子発生装置では、塩水噴霧粒子を乾燥させて結晶化した塩粒子を発生させるようにしたので、乾燥した微細な塩粒子を供給することができる。また、本発明の腐食促進試験機および腐食促進試験方法では、乾燥した塩粒子を温湿度が制御された試験槽内に供給し試験片に付着させることができるので、空気中の相対湿度の変動により状態が変化した塩粒子の試験片への付着具合の違いによる腐食の影響を再現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腐食促進試験機によれば、実環境に沿った試験条件を比較的容易に再現できる。また、本発明の塩粒子発生装置によれば、本発明の腐食促進試験機に好適に用いることができる。さらに、本発明の腐食促進試験方法によれば、実環境における腐食の形態を容易に再現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態に係る腐食促進試験機の全体構成例を表す概略図である。
図2A図1に示した腐食促進試験機を使用した第1の腐食促進試験の工程を説明するための説明図である。
図2B図1に示した腐食促進試験機を使用した第2の腐食促進試験の工程を説明するための説明図である。
図2C図1に示した腐食促進試験機を使用した第3の腐食促進試験の工程を説明するための説明図である。
図2D図1に示した腐食促進試験機を使用した第4の腐食促進試験の工程を説明するための説明図である。
図3図1に示した腐食促進試験機における変形例としての混合部を表した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、その説明は以下の順序で行う。
1.一実施の形態(塩粒子発生装置を備えた腐食促進試験機)
2.変形例(塩粒子発生装置の他の構成例)
【0014】
<1.一実施の形態>
[腐食促進試験機100の構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る腐食促進試験機100の概略構成例を模式的に表したものである。図1に示した腐食促進試験機100は、1つの試験槽1内で各種環境試験、例えば乾燥試験と、湿潤試験とを順次繰り返し行うことができる試験機である。図1に示したように、この腐食促進試験機100は、本体10と、その本体10に取り付けられた塩粒子発生装置20とを備えている。
【0015】
[本体10の構成]
本体10の内部には、試験槽1および調温調湿槽2が設けられている。本体10には、さらに、制御部3と、循環送風機4と、排気部6と、蒸気供給機7とが取り付けられている。本体10は、例えば底部10A、後方壁部10B、前方壁部10Cおよび天井部10Dなどを有する箱型の容器であり、前方壁部10Cに開口10Kが設けられている。なお、本明細書では、鉛直方向をY軸方向とし、扉13(後出)に平行な水平方向をX軸方向とし、奥行方向をZ軸方向とする。制御部3は中央演算処理装置(CPU)やメモリを有するコンピュータを利用し、メモリに予め記憶させた所定のプログラムに従い、各種環境試験の実行制御を行うものである。また、塩粒子発生装置20は、塩水噴霧部8と、乾燥空気供給装置5と、混合部9とを有している。
【0016】
試験槽1は、その内部に試験片Sを収容し、その試験片Sに対して各種環境試験が実行される空間を提供する部材である。試験槽1の中央付近には、試験片Sを複数載置することのできる試験片載置台11(以下、単に載置台11という。)が例えばX軸およびZ軸に沿って水平に延在するように設けられている。なお、塩粒子を複数の試験片Sに均等に付着させるため、試験槽1内には、載置台11が1段のみ設けられているとよい。
【0017】
試験槽1と調温調湿槽2との間には仕切り壁12が設けられている。仕切り壁12は、前方壁部10Cに設けられた開口10Kと、Z軸方向において対向している。仕切り壁12の上部には、調温調湿槽2内の調温調湿空気が試験槽1内へ吹き出す窓口としての吹き出し口15が設けられている。吹き出し口15は、少なくとも載置台11よりも上方に位置することが望ましい。また、仕切り壁12の下部には、試験槽1内の空気を調温調湿槽2へ排出するための窓口としての排出口16が設けられている。排出口16は、例えば仕切り壁12のうち載置台11の下方に設けられている。開口10Kには扉13が開閉可能に取り付けられており、開口10Kを介して試験槽1への試験片Sの設置と、試験槽1からの試験片Sの取り出しとが実施可能となっている。
【0018】
さらに、試験槽1内には、吹き出し口15の近傍に、例えば乾球温度計18Aと湿球温度計18Bとを有する温湿度センサ18がさらに設けられているとよい。
【0019】
調温調湿槽2は、仕切り壁12に設けられた吹き出し口15および排出口16を介して試験槽1と連通しており、所定の温度および所定の湿度に調整された空気、すなわち調温調湿空気を生成し、その調温調湿空気を試験槽1へ供給するものである。調温調湿槽2には冷却器21およびヒータ22が設けられている。さらに、調温調湿槽2には、本体10の外側に設けられた蒸気供給機7から伸びる蒸気導入路72の蒸気導入孔72Kが露出している。冷却器21の制御、ヒータ22および蒸気供給機7の制御は、制御部3により行われるようになっている。
【0020】
調温調湿槽2には、調温調湿槽2内の調温調湿空気を試験槽1内へ送風する循環送風機4が設けられている。循環送風機4は、モータ41と、モータ41によって回転するシャフト42と、シャフト42の先端に固定された羽部43とを有する。循環送風機4は、モータ41によりシャフト42および羽部43を回転させ、吹き出し口15を介して調温調湿空気を試験槽1へ送風するようになっている。また、循環送風機4は、排出口16を介して試験槽1内の空気を強制的に調温調湿槽2内へ取り込むように機能する。したがって、循環送風機4によって生成される循環流により、試験槽1と調温調湿槽2との間で空気が循環するようになっている。その際、制御部3により冷却器21およびヒータ22を制御(必要に応じて蒸気供給機7も制御)することで、複合サイクル試験の各試験工程において、あるいは各試験工程間の移行時において、試験槽1内の雰囲気を所定の温湿度に調節することができる。
【0021】
循環送風機4は、調温調湿槽2のうち、後述の塩粒子導入孔9Kに対して試験槽1と調温調湿槽2との間を循環する循環流の上流側、例えば調温調湿槽2内の下部における排出口16の近傍に設けられているとよい。これは、塩粒子導入孔9Kを介して塩粒子発生装置20から供給される微細な塩粒子が、試験槽1に導入される前に循環送風機4に付着してしまうのを回避するためである。また、循環送風機4は、幅方向(調温調湿槽2と試験槽1とを結ぶ方向と直交する方向)であるX軸方向に並ぶように複数配置されていてもよい。
【0022】
調温調湿槽2には、さらに蒸気供給機7が設けられており、この蒸気供給機7により調温調湿槽2内に蒸気が供給され、調温調湿槽2内の空気の湿度を上げることが可能になっている。蒸気供給機7は、水を収容し、蒸気を発生させる容器70と、その容器70の内部の水に浸漬されるように設けられたヒータ71と、蒸気導入路72とを有する。蒸気供給機7は、容器70の内部に収容された水をヒータ71によって加熱することにより蒸気を発生させる。容器70は本体10の外側に設けられている。蒸気導入路72は、容器70と調温調湿槽2とを繋ぐように設けられた配管であり、後方壁部10Bを貫いて調温調湿槽2内に露出した蒸気導入孔72Kを含んでいる。
【0023】
試験槽1には、排気管61を含む排気部6が設けられており、蒸気供給機7や塩粒子発生装置20から供給される外気の導入量に応じて試験槽1内の循環空気を試験槽1の外へ排出可能となっている。排気管61は、試験槽1内の循環空気を取り込むと共に、取り込んだ循環空気を本体10の外部へ排出するための配管である。
【0024】
また、試験槽1内には、載置台11の上方に複数の光源14が、載置台11の延在方向であるX軸およびZ軸に沿って所定の間隔で配置されている。複数の光源14は、太陽光を模擬する光を、載置台11に載置された試験片Sに対して照射するものである。具体的には、複数の光源14は、例えばハロゲンランプ、キセノンランプまたは紫外線蛍光灯である。複数の光源14における放射照度や照射のタイミング(点灯動作および消灯動作)などは、制御部3により制御されるようになっている。
【0025】
試験槽1内には、載置台11の上方に降雨装置17がさらに設けられている。降雨装置17は、例えばX軸およびZ軸に沿って水平に伸びる配管171と、その配管171に所定の間隔で離散的に設けられた複数のノズル172とを有している。降雨装置17は実環境における降雨を再現する装置であり、配管171には試験槽1の外部から所定の温度の水が供給され、ノズル172から水滴が吐出されることで各試験片Sに水滴が落下するようになっている。
【0026】
[塩粒子発生装置20の構成]
塩粒子発生装置20は、塩水噴霧粒子を発生させる塩水噴霧部8と、その塩水噴霧粒子を乾燥させることにより結晶化した塩粒子を発生させる塩粒子発生部とを有している。塩粒子発生装置20は、塩粒子発生部として、例えば乾燥空気供給装置5と混合部9とを有している。
【0027】
塩水噴霧部8は、例えば塩水貯留部80と、第1のノズル81と、塩水供給管82と、第2のノズル83と、空気供給管84とを有している。塩水貯留部80は塩水を貯留する容器であり、塩水供給管82は塩水貯留部80と第1のノズル81とを繋ぐものである。塩水貯留部80に貯留する塩水は、例えば、非特許文献1に記載の塩化ナトリウムを含む中性塩水溶液のほか、塩化ナトリウムに加え塩化マグネシウムなどを含む人工海水、または、塩化カルシウムなどを含む融雪塩による影響を模擬できる塩溶液などが好適である。また、第2のノズル83は第1のノズル81に近接配置されており、空気供給管84から供給される圧縮空気を、先端部から塩水貯留部80に貯留された塩水の表面に向けて噴出するように構成されている。
【0028】
乾燥空気供給装置5は、塩水噴霧部8から供給される塩水噴霧粒子に対して乾燥空気を供給するものである。乾燥空気供給装置5は、例えばコンプレッサ51と、圧力計52と、ヒータ53と、乾燥空気導入路54とを有している。コンプレッサ51は空気を圧縮し、乾燥空気導入路54を介して混合部9へ乾燥空気を圧送する。圧力計52は乾燥空気導入路54に設けられ、混合部9へ圧送される乾燥空気の圧力を測定する。ヒータ53は、乾燥空気導入路54の周囲に設けられ、乾燥空気導入路54を通過する乾燥空気を加熱する。
【0029】
混合部9は、塩水噴霧部8から供給される塩水噴霧粒子と乾燥空気供給装置5から供給される乾燥空気とを混合することにより霧状の塩水を乾燥させ、結晶化した(固体の)塩粒子を発生させる機構である。混合部9は例えば管状部材であり、本体10の後方壁部10Bを貫いてその先端の塩粒子導入孔9Kが本体10の調温調湿槽2内に露出している。塩粒子導入孔9Kは、調温調湿槽2内のうちの、吹き出し口15と蒸気供給機7の蒸気導入孔72Kとの間に設けられているとよい。また、塩粒子導入孔9Kは、調温調湿槽2内のうちの、吹き出し口15とヒータ22との間に設けられているとよい。
【0030】
さらに、乾燥空気供給装置5は、塩水噴霧部8からの塩水噴霧粒子の進行方向(図1では紙面左方向、すなわち+Z方向)に沿って混合部9へ乾燥空気を供給するようになっているとよい。塩水噴霧部8からの塩水噴霧粒子の進行を妨げにくくなり、塩水噴霧粒子を調温調湿槽2へより安定して供給することができるからである。
【0031】
なお、乾燥空気供給装置5は、本発明の「乾燥空気供給部」に対応する一具体例であり、混合部9は、本発明の「混合部」に対応する一具体例である。
【0032】
[腐食促進試験機100の作用効果]
このように、腐食促進試験機100では、塩粒子発生装置20を設け、結晶化した微細な塩粒子を本体10の調温調湿槽2内へ供給するようにしたので、実環境に沿った試験条件を比較的容易に再現できる。
【0033】
(塩水噴霧部8の動作)
塩水噴霧部8では、第2のノズル83から空気を噴出させることにより第1のノズル81の先端近傍が負圧になり、塩水供給管82の内部の塩水が、第1のノズル81の先端から塩水貯留部80に貯留された塩水の表面へ向けて噴霧される。噴霧された塩水は塩水貯留部80に貯留された塩水の表面に衝突し、その衝撃でより微細な液滴(塩水噴霧粒子)が発生し、塩水噴霧部8内の雰囲気中に舞い上がることとなる。この塩水噴霧粒子の粒子径は例えば20μm以下である。そのようにして生じた塩水噴霧粒子はいずれも液体であり、大型の液滴は重力により塩水面へ自然落下するが、軽量のものは上方へ舞い上がり混合部9へ向かうこととなる。このとき、第2のノズル83から噴出させる空気の単位時間あたりの量を制御することにより、塩水噴霧粒子の発生量を調節することができる。
【0034】
(乾燥空気供給装置5の動作)
乾燥空気供給装置5では、まず、制御部3からの指令によりコンプレッサ51が起動し、乾燥空気導入路54を介して混合部9へ向けて圧縮空気の圧送を開始する。その際、圧力計52により測定される圧縮空気の圧力データが制御部3へ送信され、コンプレッサ51からの圧縮空気の量が調節されるようになっている。また、制御部3の指令によりヒータ53が発熱し、圧縮空気を加熱することで圧縮空気を乾燥させる。このようにして、乾燥空気供給装置5から乾燥空気導入路54を介して混合部9へ乾燥空気が供給される。
【0035】
(混合部9の動作)
混合部9では、塩水噴霧部8から供給される塩水噴霧粒子に対し乾燥空気供給装置5から供給される乾燥空気を混合させる。これにより、塩水噴霧粒子が乾燥されて結晶化した塩粒子が発生することとなる。このとき発生する塩粒子の粒子径は、おおよそ実際の海塩粒子の粒子径である0.01μm〜10μmの範囲内となる。
【0036】
(腐食促進試験機100の動作)
腐食促進試験機100では、塩粒子発生装置20から本体10へ供給される結晶化した微細な塩粒子を試験槽1へ導入することにより、塩粒子の付着と単独あるいは複数の環境試験とを組み合わせた腐食促進試験(複合サイクル試験)を行うことができる。
【0037】
例えば、塩粒子の供給と複数の環境試験を組み合わせた腐食促進試験として、図2Aに示したように、湿潤環境中に塩粒子を浮遊させて行う湿潤試験(工程1)と乾燥環境中に塩粒子を浮遊させて行う乾燥試験(工程2)とを順次行う複合サイクル試験を実施できる。この腐食促進試験では、最初に試験片Sを載置した試験槽1内の空気を温度50℃および相対湿度95%以上で3時間に亘って保持しつつ、その空気中に乾燥した微細な塩粒子を供給する湿潤試験(工程1)を行う。工程1の終了後、試験槽1内の空気を温度60℃および相対湿度25%に移行させて3時間に亘って保持しつつ、工程1と同様にその空気中に結晶化した微細な塩粒子を浮遊させる乾燥試験(工程2)を行う。この工程1と工程2の組み合わせを1サイクルとし、所定の回数繰り返す。
【0038】
また、より自然環境に近い試験条件を再現する複合サイクル試験として、例えば図2Bに示したように、湿潤試験と乾燥試験と降雨試験とを順次行うものが挙げられる。その場合、例えば湿潤試験(工程1)では、試験槽1内の空気を、温度25℃および相対湿度95%で3時間に亘って保持しつつその空気中に結晶化した微細な塩粒子を浮遊させる。乾燥試験(工程2)では、試験槽1内の空気を、例えば温度35℃および相対湿度60%で3時間に亘って保持しつつその空気中に結晶化した微細な塩粒子を浮遊させる。さらに、降雨試験(工程3)では、水滴を10分間に亘って降雨装置17から試験片Sへ向けて供給する。なお、図2Bの例では、湿潤試験(工程1)と乾燥試験(工程2)とを交互に8回ずつ実施したのち降雨試験(工程3)を1回行う、という操作を1サイクルとしている。
【0039】
さらに、例えば図2Cに示したように、乾燥試験の際に光照射を併せて行うようにしてもよい。具体的には、湿潤試験(工程1)では、試験槽1内の空気を、例えば温度25℃および相対湿度95%で3時間に亘って保持しつつその空気中に結晶化した微細な塩粒子を浮遊させる。また、それに続く乾燥試験(工程2)では、試験槽1内の空気を、温度35℃および相対湿度60%で3時間に亘って保持しつつその空気中に結晶化した微細な塩粒子を浮遊させると共に試験片Sに対し光源14から光を照射する。光源14から照射する光は、例えば300nm〜400nmの波長範囲で60W/m2の放射照度の光である。さらに、降雨試験(工程3)では、水滴を10分間に亘って降雨装置17から試験片Sへ向けて供給する。なお、図2Cの例では、湿潤試験(工程1)と乾燥試験(工程2)とを交互に8回ずつ実施したのち降雨試験(工程3)を1回行う、という操作を1サイクルとしている。
【0040】
さらに、例えば図2Dに示したように、試験槽1内の空気に含まれる水分量(水蒸気量)を一定にしながら温度および相対湿度を変化させる絶対湿度一定の腐食促進試験を実施してもよい。この腐食促進試験は、後述するように乾燥した塩粒子を試験槽1内に導入することを除き、ISO 16539に記載のA法の試験条件に基づいたものである。まず、試験槽1内を温度30℃および相対湿度90%で6時間36分保持する湿潤試験(工程4)を実施する。その後、試験槽1内の温度および相対湿度をAからEの条件に順次移行させる乾燥試験(工程5)を、移行時間を含めて10時間48分に亘って実施する。その後、工程4と同様の温湿度条件である湿潤試験(工程6)を6時間36分に亘って実施し、この24時間の操作を1サイクルとする。
【0041】
この工程5の乾燥試験では、条件AからEに亘って試験槽1内の温度と相対湿度は随時変化するが、試験槽1内の空気中に含まれる水蒸気量(容積絶対湿度)は約25g/m3で一定であり、絶対湿度一定の条件となっている。ISO 16539のA法では、前述の1サイクルを実施する前に、人工海水溶液を自動または手動のノズルを用いて微細な溶液として試験片に付着させる塩分付着工程を規定している。しかし、この腐食促進試験機100で実施する図2Dの腐食促進試験では、制御部3の制御により、塩分付着工程を設けずに、試験槽1内を絶対湿度一定の環境条件に制御しながら、乾燥した塩粒子を試験槽1内に供給する。したがって、絶対湿度一定の条件下で試験片Sに付着させることができる。
【0042】
また、ISO 16539のA法では、各サイクルの終了時に40℃を超えない温度の脱イオン水などの洗浄水で試験片上に付着した塩粒子を洗い流すリンス処理を規定しているが、本発明の腐食促進試験機100では、前述の降雨装置17から脱イオン水などの洗浄水を試験片S上に供給することで、リンス処理工程も含めて自動でサイクルを行うことが可能である。
【0043】
このように腐食促進試験機100では、塩粒子発生装置20から本体10へ供給される結晶化した微細な塩粒子を試験槽1へ導入しながら、湿潤試験および乾燥試験が実施可能である。この腐食促進試験機100では、霧状の微細な液滴(液体)ではなく、結晶化した微細な粒子(固体)の状態で塩を直接試験槽1へ導入することができるので、塩粒子は試験槽1内の相対湿度の変動に影響を受けて状態が変化し、液滴(液体)、結晶化した粒子(固体)、あるいは液滴と結晶の塩粒子が併存する状態で、試験片Sに付着する。したがって、実環境に近似した状態の塩粒子を試料に付着させて、その腐食の形態を再現することができる。
【0044】
さらに、乾燥空気供給装置5は、塩水噴霧部8からの塩水噴霧粒子の進行方向に沿って混合部9へ乾燥空気を供給するようにしたので、塩水噴霧部8からの塩水噴霧粒子の進行を妨げにくくなり、塩水噴霧粒子を調温調湿槽2へより安定して供給することができる。
【0045】
また、腐食促進試験機100では、試験槽1内に、太陽光を模擬した光を発する光源14を設けるようにしたので、腐食促進試験と同時に光照射試験を合わせて行うことができ、自然環境における腐食の形態をより再現しかつ促進性の高い腐食促進試験を実施できる。具体的には、試験片Sが凹凸を有する構造物(工業製品あるいはその構成部品など)の場合、光源14から試験片Sに対して光を照射すると、試験片Sにおける被照射面の温度と、その被照射面以外の面(凹凸により影になる面または裏面)の温度との間に差が生じる。すなわち、影になる面または裏面の温度が被照射面の温度よりも低くなり、その結果、影になる面または裏面における相対湿度が被照射面における相対湿度よりも高くなる傾向になる。このとき、試験片Sに付着した塩粒子は相対湿度の上昇により水分を吸収しやすくなるので、影になる面または裏面は被照射面よりも腐食が促進されやすくなる。
【0046】
さらに、腐食促進試験機100では、試験槽1内に、降雨を模擬した水滴を試験片S上に向けて供給する降雨装置17を設けるようにしたので、塩粒子が付着した後の降雨により、試験片S上に付着した塩粒子が洗い流された状態を再現できる。したがって、より自然環境に近似した腐食の形態を再現した腐食促進試験を実施可能となる。
【0047】
さらに、腐食促進試験機100では、試験槽1内の空気中の水分量(絶対湿度)を一定にしながら温度と相対湿度を変化させる環境試験と、乾燥した塩粒子の供給を組み合わせた腐食促進試験を実施できる。従来の絶対湿度一定の腐食促進試験では液滴の状態で塩粒子を供給していたため、温度と相対湿度が移行する環境試験中の塩粒子の供給が不可能であった。しかし、この腐食促進試験機100では、乾燥した塩粒子で供給が可能であるため、空気中の水分量が一定で温度と相対湿度が変動する環境における塩粒子による腐食の挙動を再現することができる。
【0048】
<2.変形例>
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態において説明した各部材の配置位置や形状、個数等は例示であって、上記実施の形態において説明したものに限定されない。例えば塩粒子導入孔9Kの位置や蒸気導入孔72Kの位置、あるいは排気部6の位置などは、図1に示したものに限定されない。また、本発明の腐食促進試験機は、上記実施の形態において説明した以外の部材を備えるようにしてもよいし、図1に示した部材の一部を除去したものであってもよい。例えば降雨装置17や光源14を備えていなくともよい。
【0049】
また、例えば図3に示したように、塩粒子発生装置20は、先端を複数に分岐することで複数の塩粒子導入孔9K1〜9K4を設けるようにした混合部9Aを有するようにしてもよい。複数の塩粒子導入孔9K1〜9K4は、例えばX軸に沿って水平に並んでいる。このように複数の塩粒子導入孔9K1〜9K4から塩粒子を調温調湿槽2へ導入することにより、試験槽1内の空気中における塩粒子の空間的な偏りをよりいっそう緩和することができ、より信頼性の高い腐食促進試験を実施できる。なお、塩粒子導入孔の数は4つに限定されるものではない。
【0050】
また、上記実施の形態では、塩粒子発生部として乾燥空気供給装置5および混合部9を例示したが、本発明の塩粒子発生部はこれに限定されるものではない。
【0051】
(塩粒子発生部の第1の変形例)
例えば混合部9において円管の内部に円筒状のイオン交換膜(例えばデュポン社の「ナフィオン」など)を設け、円筒状のイオン交換膜の内側に塩水噴霧粒子(液体)を流し、円筒状のイオン交換膜と円管との隙間に乾燥空気を流すようにしてもよい。円筒状のイオン交換膜の内側を流れる塩水噴霧粒子の水分がイオン交換膜を介して外側へ移動し、その結果、塩水噴霧粒子が水分を失い、結晶化することで塩粒子が生成されるからである。
【符号の説明】
【0052】
100…腐食促進試験機、1…試験槽、10…本体、10A…底部、10B〜10C…壁部、10D…天井部、10K…開口、11…試験片載置台、12…仕切り壁、13…扉、14…光源、15…吹き出し口、16…排出口、17…降雨装置、18…温湿度センサ、2…調温調湿槽、20…塩粒子発生装置、21…冷却器、22…ヒータ、3…制御部、4…循環送風機、41…モータ、42…シャフト、43…羽部、5…乾燥空気供給装置、51…コンプレッサ、52…圧力計、53…ヒータ、54…乾燥空気導入路、6…排気部、61…排気管、7…蒸気供給機、70…容器、71…ヒータ、72…蒸気導入路、72K…蒸気導入孔、8…塩水噴霧部、80…塩水貯留部、81…第1のノズル、82…塩水供給管、83…第2のノズル、84…空気供給管、9…混合部、9K…塩粒子導入孔。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3