(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ゲル部材(36)、および分離する試料液を受けるための1つ以上の試料ウェル(420)を有する分離ゲル装置(401)を用いる、電気泳動分離方法であって、1つ以上の前記試料ウェル(420)は、前記ゲル部材(36)と流体接触し、
分離する試料液を1つ以上の前記試料ウェル(420)に加えるステップと、
電気泳動分離プロセスを進めるために、前記ゲル部材(36)に電場を印加するステップであって、試料成分は、分離のために1つ以上の前記試料ウェル(420)の前記試料液から前記ゲル部材(36)の中に取り出される、電場を印加するステップと、
除去基準を満たすときは、前記試料成分の前記分離ゲルへのローディングを中断するステップとを含み、
前記試料成分のローディングを中断するステップが、電気的接触の位置を移動させることによって、前記電場から1つ以上の前記試料ウェル(420)を除外することを含む、方法であって、
前記試料が、少なくとも1つの標識を含み、
前記方法がさらに、前記標識された試料の光検出によって、前記試料のローディングの進行を監視するステップを含み、前記除去基準が、前記光検出に基づいて決定される、方法。
請求項1に記載の方法によって、除去基準が満たされたときに、前記分離ゲルへの前記試料成分のローディングを中断するように構成される、自動化された電気泳動システム。
【背景技術】
【0002】
電気泳動は、分析に一般的に用いられる方法であり、荷電分子および粒子が、2つの電極間で電場をかけられた、通常はゲルである分離媒体内を移動する。タンパク質の分離は、等電点(pI)、分子の重さ、電荷、またはこれらの要素の組み合わせによってもよい。
【0003】
分離ゲルは、通常は支持体に置かれ、ゲルの2つの対向する端部は、溶液または硬質な形態で、電極バッファに接触する。電極は、電極バッファを含む容器に挿入することができる。バッファ溶液は、pHその他のパラメータを一定に保つために、電解質媒体、およびイオン用のリザーバの両方を形成する。分離後は、分子は異なる方法で、例えば視覚的には、ゲルの染色によって、もしくは染色されたゲルまたはラベラー試料をレーザースキャナ等でスキャンまたは画像化する等の光学手段によって、検出され識別される。
【0004】
ゲル電気泳動は、タンパク質、ペプチド、核酸等の生体分子を分離する目的で、今日では日常的に用いられている。試料は、様々なスクリーニング、識別(細胞シグナル伝達、発現および精製)、または臨床試験で取り扱われる。タンパク質試料は、例えばヒト、哺乳動物の組織、細胞溶解物、もしくは細菌、昆虫、または酵母の細胞系から派生したものであってもよい。様々な種類の分子の電気泳動条件は異なっており、多くの事例に適合させなければならない。したがって、試料の種類ごとにゲルおよびバッファ溶液の両方を選択しなければならないことが多い。
【0005】
蛍光色素を用いたタンパク質の標識化は、タンパク質を追跡および定量化するために選択される方法となっている。蛍光標識化は、感度が良く、直線的検出範囲が広くなる。また、タンパク質染色方法の簡便な代替手段を提供し、放射性標識化よりも安全な選択肢である。
【0006】
色素および標識化条件の選択は、用途に依存する。免疫学の用途、例えば抗体標識化では、高いシグナル強度を得ること、および色素対タンパク質比がこれに従って最適化されることが重要である。電気泳動では、適切な色素対タンパク質比を用いることも必要であり、この場合、高シグナル強度と鮮明な電気泳動バンドとの両方を得ることが必要である。さらに、等電点電気泳動(IEF)では、タンパク質の等電点が変わらないように、電荷が一致する色素を用いる必要がある。電気泳動のための事前標識化はよく知られている(例えば、1986年にオックスフォード大学のClarendon Pressより出版されたAnthony T.Andrewsによる『Electrophoresis』を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の全体を通して、電気泳動ゲルの分離ゾーンは、電気泳動の完了後に分離された試料の種が配置される、ゲルの一部として定義される。
【0013】
図1は、電気泳動カセット10の斜視図であり、国際公開第2014/007720号パンフレットに詳しく開示されており、これは、参照することによってその全体が本願に組み込まれる。本発明は、カセット10および関連する特徴を参照しながら以下に開示されるが、本発明は、他の電気泳動カセットまたは装置の使用を含み得ることが理解されるべきである。カセット10は、カセットハウジング20、取り外し可能なゲル支持フレーム30、部分別に除去可能な裏打ちフィルム40、および除去可能な試料ウェルカバー50を備える。
図1は、組み立てられた状態の電気泳動カセットを示す。
【0014】
ゲルカセット10は、電気泳動分離用の平坦なゲル部材36を成形するためのゲル区画を内部に画定する。
【0015】
図2aおよび
図2bは、カセットのその他の部品が除去されたカセットハウジング20を示す。
図2bがカセットハウジング20を下側から示しているのに対して、
図2aは上面図である。カセットハウジング20は、通常、上面65および下面66を有する薄い上壁60、ならびに上壁60の周囲でそこから下方に突出し、底面80および内壁75を有する縁70からなる。上壁60の下面66、および縁70の内壁75は、ゲル区画をほぼ画定し、これは
図1に示され、以下でより詳細に説明されるように、縁70の底面80に、支持フレーム30および除去可能な裏打ちフィルム40を取り付けることによって、下から閉じることができる。開示されている実施形態では、カセット10に成形されたゲル部材36の厚さは、縁の内壁75の高さとほぼ同じになる。支持フレーム30および除去可能な裏打ちフィルム40が、開示されている実施形態にあるように平坦であれば、開示されている実施形態において、上壁60の厚さは均一であり、ゲル部材36の厚さも均一になる。ゲルの厚さは、好ましくは、特定のゲルの種類、および用いられるバッファ系に適合され、電気泳動手順に関与する所望の電流にも適合される。
【0016】
開示されているカセット10には、分離のために、ゲル部材36に試料をロードできるようにする10個の試料ウェル開口110が設けられ、各試料ウェル開口110は、分離中は1つの電気泳動レーンに対応する。試料ウェル開口110の数および形状は、電気泳動カセットの実際の寸法、分離の種類、および電気泳動ゲルの種類等に応じて異なっていてもよい。1つから例えば100個までの、任意適当な数の試料ウェル開口110があってもよい。
【0017】
図1では、試料ウェル開口110は、除去可能な試料ウェルカバー50で覆われており、これは、
図2cおよび
図2dにさらに詳しく開示される。試料ウェルカバー50は、ウェル開口110の上方で嵌合して、成形プロセスおよび貯蔵中はこれを閉じておくように配置される。試料が試料ウェル110にロードされる前に、ウェルカバー50は、試料ウェル110を開くために除去される。開示されている実施形態では、ウェルカバー50は、成形中にゲル溶液が漏れたり、貯蔵中にカセットの中に空気が入ったりするのを避ける目的で、本質的にシール作用をもたらすために、噛み合った状態で試料ウェル開口110に嵌合するように形成された、ウェル形成突起52を有する。一実施形態によれば、ウェル形成突起52は、除去されたときにゲル部材36へと延びる試料ウェルを形成するために、上壁60の下面66の下方に延びて、ゲル部材36に入るように設計される。別の実施形態では、ウェル形成突起52は、ゲル部材36のほぼ平坦な面を設けるために、上壁60の下面66と同一平面になるように設計され、試料ウェルは、試料ウェル開口110によって形成される。一実施形態では、試料ウェルカバー50は、上壁60の上面65をシールするように配置されるか、またはその結合体である。
【0018】
開示されている実施形態によれば、取り外し可能なゲル支持フレーム30は、縁70の底面80に取り外し可能に取り付けられ、次に、部分別に除去可能な裏打ちフィルム40が、ゲル支持フレーム30の底面に取り付け/積層される。ゲル支持フレーム30および裏打ちフィルム40は、電気泳動区画を閉じる下壁、ならびに成形および貯蔵用の過剰充填チャンバ100を共に設ける。
図2eに示されているように、ゲル支持フレーム30の開示されている実施形態は、2つのバッファスリット150aおよび150b、ならびに分離ゾーンウィンドウ160を有し、そのそれぞれが、
図2fに示されている裏打ちフィルム40の除去可能部分210a〜210cのそれぞれによって下から覆われる。適切な材料の組み合わせ、および接着技術を選択することによって、裏打ちフィルム40は、例えば、作業者が各剥離タブ211a〜211cを掴んで引っ張ることによって各部分210a〜210cを除去することができるように、ゲル支持フレーム30の底面に積層することができる。以下でより詳細に説明されるように、電気泳動実験を行う目的で、裏打ちフィルム40の部分210aおよび210bは、電気泳動装置のバッファパッドにゲルを接触させておくために除去される。電気泳動の実行に続いて、転写/ブロッティングおよびプロービングのための、ゲル部材36の分離ゾーンへのアクセスを提供するために、部分210bは、分離ゾーンウィンドウ160を介してゲルを露出させるために除去される。
【0019】
電気泳動の実行後の手順で、ゲル部材36の取り扱い性を大幅に改善するために、ゲル支持フレーム30は、カセット10から除去された後に、ゲル部材36に取り付けられたままにしておくように設計される。支持フレーム30は、ゲルの形状を保つため、かつゲル部材に覆われていないアクセス可能な把持部を設けてゲル部材36の取り扱いを容易にするために、適切な剛性を有する材料で形成される。裏打ちフィルム40の部分210cの除去後に、ゲル部材36の分離ゾーンの下面は、分離ゾーンウィンドウ160を介してアクセス可能になる。
【0020】
支持フレーム30は、支持フレーム30の位置合わせ用の位置基準を画定する、所定の位置合わせ構造を有する、位置合わせタグ180をさらに備える。開示されている実施形態では、2つの位置合わせ穴190aおよび190bの形状の位置合わせ構造は、電気泳動装置等において、カセット10および/または支持フレーム30の、2本のピンを備える等の相補的な位置合わせ構造に対する適切な位置合わせを確実にするために配置される。また、支持フレーム30は、カセット10から除去された後でもゲル部材36の固有性を安全な方法で読み取れるようにする、識別コード200等を適宜備える。識別コード200は、バーコードのような機械読み取り可能なコード、マトリックスコード等であってもよく、使用者および/または機器に関連情報を提供する。
【0021】
図3は、例えば、カセットハウジング20から取り外された、上面にゲル部材36が取り付けられた支持フレーム30によって形成される、電気泳動ゲルユニット35を示す。このようにして形成されたゲル部材36は、上述したように、上面および下面、ならびに試料分離ゾーンを有するほぼ平坦な部材である。支持フレーム30は、ゲル部材36の形状を保つため、かつ取り扱いを容易にするために配置されると同時に、分離ゾーンにほぼ対応する、ゲル部材の上面および下面の両方の部分にアクセスできるように形成される。以下に示すように、いずれかの面にある、ゲル部材36のアクセス可能な部分は、分離ゾーンよりも大きくてもよいが、分離した試料をゲル部材36から、例えば免疫ブロットによってブロット膜へ適切に転写できるように、いずれかの面にあるアクセス可能な部分は、これより小さいものであってはならない。
【0022】
図4は、これを用いて電気泳動実験を行うために、電気泳動カセット10に適合する電気泳動トレイ300の概略図を示す。
図4では、トレイ300が、別の機構として開示されるが、これは都合よく電気泳動装置の一体部分にすることができ、かついくつかの構成部品からなっているか、または2つ以上の電気泳動実験を並行して行うための2つ以上のカセット位置を有していてもよい。トレイ300は、電気泳動中に、電気泳動カセット10の少なくとも分離ゾーンを支持するためのカセット支持面310を有する。カセット支持面310は、一対のバッファパッドホルダ320aおよび320bのそれぞれで挟まれ、そのそれぞれが、電気泳動カセット10の背面で、バッファパッド322をバッファ結合部分に対する噛み合い位置に保持するように配置される。一実施形態によれば、トレイ300は、電気泳動カセット10の背面の部分に伝熱接触することによって、電気泳動中に電気泳動カセット10の温度を制御するためにカセット支持面310に結合された、伝熱ユニット(図示せず)を備える。開示されている実施形態では、トレイ300は、2つの個別の凹所として形成された2つのバッファパッドホルダ320aおよび320bと、トレイ上でカセット10の適切な向きを確保するために、支持フレーム30の位置合わせタグ180と相補的に形成された位置合わせ構造330とを有する、平坦な上面を備える。開示されている実施形態では、位置合わせ構造330は、細長いピン340a、円形のピン340b、および任意選択の壁部材345からなる。断面形状の異なるピン340aおよび340bを作ることによって、位置合わせ構造が非対称になり、位置合わせタグ180およびカセット10が、確実に適切な向きになる。カセット10がトレイ300に適切に配置されると、支持フレーム30のバッファスリット150aおよび150bが、(裏打ちフィルム40の個別の除去可能部分210aおよび210bが除去されて)バッファスリット150aおよび150bを介して露出されたゲルと、
図5aおよび
図5bに概略的に示されているバッファパッド322との間の噛み合い接触を可能にするために、それぞれのバッファコンパートメント320aおよび320bに配置され、バッファパッド322は、
図6a、
図6b、および
図6cに示されているように、それぞれのバッファパッドホルダ320aおよび320bに置かれる。
【0023】
一実施形態によれば、
図5aおよび
図5bに概略的に開示されているバッファパッド322は、バッファストリップ324、および電極装置325を収容するカップ323を備える。
図5bは、
図5aの断面図である。カップは、電極装置325を電気泳動装置の電源に接続するための、外部電気コネクタ326をさらに備える。したがって、トレイ300は、相補的な電気コネクタ(図示せず)を備える。カップ323は、バッファパッドホルダ320aおよび320bに嵌合するように形成され、その結果、バッファストリップ324の上部は、トレイ300に置かれたカセットのゲルに接触させておくことができる。バッファストリップ324は、例えば、国際公開第87/004948号パンフレットに開示されている種類のゲル材に組み込まれるバッファ物質からなっていてもよい。バッファストリップ324をカップ323に置くことによって、複数回の電気泳動の実施の合間にバッファ媒体を変更することが、例えばゲルストリップを直接バッファ凹所に置く場合に比べて非常に容易になる。
図5bに開示されているように、ゲルストリップ324は、カセット10内のゲルに接触するのを容易にするための凸部を伴って形成されてもよい。
【0024】
図6bおよび
図6cは、トレイ300、およびバッファパッド322が内部に置かれた、バッファパッドホルダ320aの概略側面図を示し、電気泳動カセット10は、トレイ300に連結するために、所定の位置でトレイ300のカセット支持面310の少し上方に持ち上げられている。電気泳動の背面で、バッファパッドとバッファ結合部との間に適切な噛み合い接触を確保するために、バッファパッドとバッファ結合部との噛み合いは、ある程度付勢されてもよい。これは、例えば水がパッドからゲルに物質移動できることによって、バッファパッド322が収縮するいくつかのゲル/パッドの組成については、特に重要な場合がある。ゲルに対してバッファパッド322を付勢することによって、このような状況を達成することができる。バッファパッド322のゲル構成要素に適切な材料特性を選択することによって、これは、付勢された噛み合いを少なくとも部分的にもたらし得る、適切な弾性材からなることができる。一実施形態では、付勢された噛み合いは、その形状によってある程度の圧縮が可能な、特定の形状のバッファストリップを設けることによって達成することができる。
図6bおよび
図6cで開示されている実施形態では、バッファストリップの材料特性とこの形状とを組み合わせて、
図6cに開示されているような付勢された噛み合いをもたらすために、ばね部品327がバッファパッドホルダ320aに導入されている。
【0025】
図7〜
図9は、電気泳動カセット10、および適合する電気泳動装置350を用いた、電気泳動分離実験の実施に含まれる手順を概略的に示す。いくつかの手順の個別の順番は、異なる場合がある。
【0026】
・バッファパッド322が、トレイ300のバッファパッドホルダ320aおよび320bに置かれる。(
図6a)
・裏打ちフィルム40の除去可能部分210aおよび210bが、剥離タブ211aおよび211bをそれぞれ引っ張ることによってカセット10から除去され、支持フレーム30のバッファスリット150aおよび150bをそれぞれ介して、ゲル部材36が露出する(
図7)。
【0027】
・試料ウェルカバー50が、試料ウェル110を露出させるために除去される(
図7)。
【0028】
・カセット10が、相補的な位置合わせ構造330に配置された、支持フレーム30の位置合わせタグ180を用いてトレイ300に配置され、その結果、トレイ300で、カセット10の適切な向きが確保される(
図8)。
【0029】
・試料が、ピペット360等によって、試料ウェル110の中にロードされる(
図9)。
【0030】
・電気泳動装置350を用いて、電気泳動プロセスが行われる(
図9)。
【0031】
図9では、概略的に開示されている電気泳動装置350は、電気泳動トレイ300を保持するトレイローディング機構370を備える。一実施形態によれば、電気泳動装置350は、装置内で直接、分離の結果を画像化するための蛍光画像化ユニット(図示せず)を備える。このような方法で、電気泳動カセット10は、分離後に別の画像化ユニットに移動させる必要がない。上述したように、開示されているカセットは、適切な材料の選択、およびカセットの部品によって放射される蛍光や画像の歪み等の望ましくない光学効果を回避する設計によって、画像化用に設計することができる。カセット10、およびトレイに凹設されたバッファパッド322を有する、電気泳動トレイ300の開示されている実施形態の1つの利点は、電気泳動の構成が薄型になることによって、画像化ユニットをゲルの近くで動作させることができ、感度および解像度が増し、光学効果のマイナスの影響が回避されることである。開示されている実施形態では、電気泳動トレイ300は、その上に配置されたゲルカセット10と共に、ほぼ水平な位置で示されている。しかしながら、電気泳動トレイ300ならびにゲルカセット10は、垂直または逆さま等、他の向きで使用するために配置されてもよいことに留意すべきである。
【0032】
電気泳動分離プロセスでは、事前標識された試料が用いられるときは、標識される試料の標識化プロセスを確実に効率の良いものにするために、多くの場合、Cy色素等の大量の標識化合物を用いることが望ましい。本発明者は、分離する試料成分の前に移動することのない、過剰な標識がわずか1パーセント以下であっても、過剰な標識は、試料成分が分離された「バンド」として存在している、分離ゾーンを変色させることを観察した。特に、小さいタンパク質等の、サイズの小さい試料成分の少量の試料を処理しているときに、過剰な標識は、ゲル部材の分離ゾーンの一部でこのような試料からのシグナルを隠す場合があり、視覚的な印象が非常に乏しくなる。また、試料の容量が大きくなると、この問題が大きくなる場合がある。さらに、試料の容量が大きい場合、全ての試料成分を試料液からゲル部材へと移動させるために必要な時間枠が延長されるために、試料成分に関連するバンドが広がることもさらに留意されてきた。これは、染色後の試料でも観察されている。
【0033】
本発明は、試料成分がゲル部材に「ロードされた」段階で電気泳動分離する従来の方法に対し、分離ゲルへの試料成分のローディングを中止する追加のステップを提供することにより、これらの問題に対する解決策を提供し、これにより、過剰な標識が、後の段階でゲル部材にロードされることが防止される。特定の分離パラメータに応じて、所定の時間後にウェルに残っている溶液を除去することにより、分離ゾーンの過剰な標識に関する問題が、ほぼ排除されることが実証されている。さらに、電気泳動分離における妨害物として現れる場合がある「フレーム(flame)」、フック(hook)、横すじ(streaking)のような他の妨害物も、この浄化方法によって大幅に低減される。小さいタンパク質等の、サイズの小さい少量の試料成分の検出を可能にすること以外に、この浄化により、過剰な標識による弊害を受けることなく、より大きい試料容量を適用することも可能になり、これは、試料のタンパク質濃度が低いときに一般的に用いられる方法である。
【0034】
本発明は、電気泳動分離に関連して用いられ得る、蛍光標識、放射性標識等のほぼあらゆる種類の標識に用いることができ、かつ電気泳動分離技術を用いて分離され得る、あらゆる種類の試料に用いることができる。蛍光標識は、フルオロフォアの化学的に反応性の誘導体を用いて達成される。一般的な反応基は、以下のものを含んでいる。
【0035】
・FITCおよびTRITC(フルオレセインおよびローダミンの誘導体)等のイソチオシアネート誘導体。これは、目的の化合物と色素との間にチオウレイド結合を形成する1級アミンに対して反応性である。
【0036】
・NHS−フルオレセイン等のスクシンイミジルエステル。これは、アミド結合を形成するアミノ基に対して反応性である。
【0037】
・フルオレセイン―5−マレイミド等のマレイミド活性化フルオロフォア。これは、容易にスルフヒドリル基と反応する。スルフヒドリル基は、マレイミドの二重結合に加えられる。
【0038】
・オリゴヌクレオチド合成における、6−FAMホスホロアミダイト2等の、保護フルオレセインその他のフルオロフォアを含むいくつかのホスホロアミダイト試薬。[2]は、フルオロフォア標識オリゴヌクレオチドの調製を可能にするヒドロキシ基と反応する。
【0039】
このような任意の反応性色素の別の分子との反応は、フルオロフォアと標識された分子との間に形成される、安定した共有結合になる。
【0040】
上述したように、電気泳動のための事前標識化はよく知られている(例えば、1986年にオックスフォード大学のClarendon Pressより出版されたAnthony T.Andrewsによる『Electrophoresis』を参照)。
【0041】
国際公報第2013/180642号パンフレットまた、タンパク質の標識化の方法およびキットの一例が、国際公開第2011/149415号パンフレットで提供されており、これは、参照することによってその全体が本願に組み込まれる。
【0042】
図10a〜
図10cは、本開示の一実施形態による、分離ゲル装置401、および電気泳動分離の方法のステップを概略的に開示している。分離ゲル装置は、ゲル部材36、および分離する試料液を受けるための1つ以上の試料ウェル420を備え、試料ウェル420は、ゲル部材36と流体接触している。開示されている実施形態では、分離ゲル装置401は、電気泳動分離を進めるためにゲル部材に電場を印加するための、第1および第2の電極、ならびにバッファ装置400および410のそれぞれをさらに備える。
図10a〜
図10c、ならびに
図13〜15における、電極ならびにバッファ装置400および410は非常に概略的であり、それぞれが電極402およびバッファパッド403を備えるが、本発明を限定するものとみなされるべきではない。上述したように、分離プロセス中に、電極は、電極間に電場をもたらすための適切な電源に接続される。図面では、印加される電力は単に+および−記号で示されるが、極性は、分離するゲルおよび試料の種類に従って変化し得ることに留意するべきである。バッファパッド403は、上述したような任意適当な種類であってもよく、ゲル部材の上に配置されることが示されているが、端面、底面、またはそれらの任意の組み合わせ等の任意適当な位置に配置されてもよい。さらに、バッファパッドの1つ以上が、バッファ容器に含まれる液体バッファや吸収性材料等に置き換えられてもよい。開示されている実施形態では、試料ウェル420が、ゲル部材36の上に置かれたカップ形状の機構として概略的に開示されているが、これは、例えば
図1〜
図9に関連して開示されているように、ゲル部材の凹所として等、任意適当な方法で設けられてもよい。
【0043】
1つの実施形態によれば、電気泳動分離の方法は、以下のステップを含む。
【0044】
・分離する試料液を1つ以上の試料ウェルに加えるステップ(
図10b)。
【0045】
・電気泳動分離プロセスを進めるために、ゲル部材に電場を印加するステップであって、試料成分は、分離するために、(複数の)試料ウェル内の試料液から、ゲル部材へと取り出される(
図10b〜
図10c)。
【0046】
―試料成分の分離は、分離前部460および分離末端470によって概略的に示されている。
【0047】
・除去基準が満たされたときに、試料成分の分離ゲルへのローディングを中断するステップ(
図10c)。
【0048】
―ローディングの中断は、試料液除去装置430による残っている試料液の除去によって、概略的に示されている。
【0049】
図10cに開示されているように、試料成分のローディングの中断は、1つ以上の試料ウェルから残っている試料液を除去することによって達成できるが、これは、試料成分および/または過剰な標識等がゲル部材36にロードされるのを十分に制限する、任意適当な方法で行われてもよい。残っている試料液の除去は、残っている試料液を吸引することを含み、これは、
図10c、11、12a、および12bに開示されているような試料吸引装置によって行うことができる。
図11に開示されている実施形態では、各試料ウェルから残っている試料液を吸引するのに用いられるピペットタイプの装置360として吸引装置が開示されており、より高度な実施形態では、ピペットはマルチチップタイプであってもよく、2つ以上の試料ウェルから、好ましくは全部で10個のウェルから同時に、並行して液体を吸引することができる。
【0050】
図12aおよび
図12bに開示されている実施形態では、吸引装置は、電気泳動ゲル装置の1つ以上の試料ウェルから残っている試料液を吸引するための1つ以上の吸引タブ431を含む、試料液除去装置430として開示されている。一実施形態によれば、吸引タブ431は、吸収材からなっているが、代替的な実施形態では、細管式等であってもよい。一実施形態では、試料液除去装置430は、吸引タブ431が形成された、吸収材のシートからなる。
図12bに開示されているタイプ等の、複数の試料ウェルを有する電気泳動カセットに対して、試料液除去装置430は、適切には、カセット10のウェルの配列に合わせた吸引タブ431を備えている。一実施形態では、濾紙等のシートは、カセット10のウェルの中に嵌合するコームの形に切断される。
【0051】
あるいは、残りの試料液を除去するステップは、例えば、
図13に示すような注射器の先端の形状の試料排出装置440を介して、残りの試料液を排出することによって行われる。
【0052】
図14aおよび
図14bに概略的に示されている一実施形態によれば、試料成分のローディングを中断するステップは、分離末端470がゲル部材にロードされたときに、電気的接触の位置を移動させることによって、電場から(複数の)試料ウェルを除外するステップを含む。開示されているように、これは、分離方向に対して試料ウェルの下流に位置する追加の電極およびバッファ装置450を設けることによって、かつ試料の全ての関連成分が、追加の電極450を通り過ぎたときに、追加の電極装置450のスイッチを入れることによって達成することができる。したがって、その後の分離は、追加の電極450と第2の電極410との間の電場に基づいて行われ、試料ウェルからそれ以上試料成分がロードされることはない。
【0053】
図15aおよび
図15bに概略的に示されている一実施形態によれば、試料成分のローディングを中断するステップは、試料シャッターによって、(複数の)試料ウェルを機械的に切り離すステップを含む。
【0054】
一実施形態によれば、除去基準は、所定の分離時間として選択される。所定の時間は、用いられる特定の電気泳動構成のパラメータの範囲、電力、試料、温度等に大きく依存して選択される。
図1〜
図9に開示されているようなカセットベースのシステムの場合は、試料成分のローディングを中断する前の分離時間は、1分から数十分、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10分かまたはそれ以上の範囲であってもよいことが判明している。
【0055】
一実施形態によれば、本発明の方法は、標識された試料の光検出によって、ゲル部材への試料のローディングの進行を監視するステップを含み、除去基準は、光検出に基づいて決定される。この実施形態では、除去基準は、光検出された所定のローディング率として決定することができる。
【0056】
一実施形態によれば、ローディング率は、以下のステップによって決定される。
【0057】
・電気泳動分離プロセスの開始時に、試料ウェルの合計標識強度を測定するステップ。
【0058】
・電気泳動分離プロセス中に、試料ウェルの標識強度を登録するか、または電気泳動分離プロセス中に、(複数の)試料ウェルの試料液からゲル部材へと取り出された試料成分から、標識強度を登録するステップ。
【0059】
・上述の強度からローディング率を計算するステップ。
【0060】
別の実施形態によれば、除去基準は、標識された試料の位置、例えば分離前部460および末端470の光検出に基づいて決定され、試料成分のローディングを中断するステップは、例えば、分離前部460が所定の位置に達したとき等に開始されてもよい。
【0061】
電気泳動分離を行うのに用いるシステムに応じて、電場は、試料のローディングを中断するステップの間は中断することができる。
【0062】
一実施形態によれば、本発明による電気泳動分離を行う自動化された電気泳動システムが提供され、このシステムは、除去基準が満たされたときに、試料成分の分離ゲルへのローディングを中断するように構成される。これを提供するために、このシステムは、電気泳動プロセスを停止して、残っている試料を試料ウェルから除去することを使用者に促すように構成することができる。
【0063】
電気泳動は5分後に停止されて、約5秒間、コームがウェルの中に配置され、その後、コームが除去されて電気泳動が再開した。この手順により、ゲルの下側3分の1のCy色素のバックグラウンドについての問題が、タンパク質シグナルを減少させることなく完全に排除される。
【0064】
図16は、16個の試料ウェルの試料を分離させた後の、電気泳動ゲル部材の画像を開示する(各試料ウェルの試料成分は、個別の「レーン」に沿って分離される)。開示されている実験では、電源は10分後に中断され、電源が再びオンになる前に、残っている試料液をウェル1〜8から除去するために試料液除去装置が用いられ、電気泳動分離が完了した。
図16から、本発明の効果は明白である。
【0065】
図17は、異なるコントラストレベルで行った試料の画像モンタージュを示し、右側の画像は、5分後に、残っている試料液をウェルから除去した後の改善された結果を示す。