(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1に、半導体レーザ(レーザダイオード)と固体レーザとを用いて、半導体基板に注入されたドーパントを活性化するレーザアニール方法が開示されている。このレーザアニール方法では、レーザダイオード及び固体レーザからパルスレーザビームが出力される。レーザダイオードは、制御装置からの制御信号によって制御される。
【0003】
レーザアニールにおいては、レーザダイオードのパルス幅、パルスの繰り返し周波数、及び基板表面におけるパルスエネルギ密度が最適値に設定される。レーザダイオードのパルス幅、及びパルスの繰り返し周波数は、レーザダイオードに供給される駆動電流のオンオフのタイミングによって規定される。半導体基板の表面におけるビームサイズが一定の場合、パルスエネルギ密度からパルスエネルギが算出される。パルスエネルギは、レーザダイオードに供給する駆動電流の大きさによって決まる。
【0004】
レーザダイオードの駆動電流の大きさは、一般的に以下の手順で決めることができる。パルス幅及び繰り返し周波数を目標値に設定し、駆動電流の大きさを変化させてレーザダイオードを駆動する。このとき、レーザダイオードから出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギを計測する。パルスエネルギの計測結果に基づいて、最適な駆動電流の大きさを決定することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最適な駆動電流の大きさを決定するために、駆動電流の大きさが異なる複数の駆動条件でレーザ発振させる必要があるため、レーザダイオードの駆動条件を決定するまでに、ある程度の時間を要する。また、レーザダイオードの駆動条件を調整するために、駆動電流を、ある幅で変化させることにより、実際の加工時に流れる駆動電流よりも大きな駆動電流が流れる。これにより、レーザダイオードの寿命が短くなる場合がある。
【0007】
本発明の目的は、レーザダイオードの駆動条件を短時間で決定することが可能なレーザ加工装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によると、
パルスレーザビームを出力するレーザダイオードと、
加工対象物を保持するステージと、
前記レーザダイオードから前記ステージに保持された加工対象物に前記パルスレーザビームを導く伝搬光学系と、
前記加工対象物に入射させる前記パルスレーザビームのパルス幅、パルスの繰り返し周波数、及びパルスエネルギ密度を規定する加工レシピと、前記レーザダイオードの
駆動電流及び駆動電圧との関係を定義する関係定義データを記憶している制御装置と、
入力装置と
を有し、
前記制御装置は、
前記入力装置を通して前記加工レシピが入力されると、入力された前記加工レシピと、前記関係定義データとに基づいて、前記レーザダイオードの
駆動電流及び駆動電圧を決定し、
決定された
駆動電流及び駆動電圧で前記レーザダイオードを駆動するレーザ加工装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
関係定義データを用いてレーザダイオードの駆動条件を決定するため、駆動条件決定のための時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1に、実施例によるレーザ加工装置の概略図を示す。ドライバ回路22からレーザダイオード21に駆動電流が供給されることにより、レーザダイオード21がパルスレーザビームを出力する。ステージ40に加工対象物50が保持されている。伝搬光学系25が、レーザダイオード21から出力されたパルスレーザビームを、ステージ40に保持された加工対象物50まで導く。
【0012】
伝搬光学系25は、部分反射鏡26及び可変減衰器27を含む。さらに、伝搬光学系25は、必要に応じて、ビームエキスパンダ、均一化光学系、レンズ等を含む。部分反射鏡26で反射されたパルスレーザビームが加工対象物50に入射する。部分反射鏡26を透過したパルスレーザビームが、エネルギ計測器23に入射する。エネルギ計測器23は、パルスエネルギを計測する。パルスエネルギの計測結果が制御装置10に入力される。可変減衰器27は、制御装置10からの指令により、パルスレーザビームの減衰量を変化させる。
【0013】
入力装置12から、加工レシピが入力される。加工レシピは、パルスレーザビームのパルス幅、パルスの繰り返し周波数(以下、単に「周波数」という。)、1パルスあたりのエネルギ密度(以下、「パルスエネルギ密度」という。)を規定する。入力された加工レシピによってパルス幅、周波数、及びパルスエネルギ密度の第1目標値が決定される。
【0014】
制御装置10の記憶装置11に、関係定義データ13が格納されている。関係定義データ13は、加工レシピと、レーザダイオード21の駆動条件との関係を定義している。入力装置12から加工レシピが入力されると、制御装置10は、入力された加工レシピと、関係定義データ13とに基づいて、レーザダイオード21の駆動条件を決定する。この駆動条件は、加工対象物50の表面におけるパルスエネルギ密度が、パルスエネルギ密度の第1目標値に等しくなるように決定される。駆動条件には、パルス幅、周波数、及び駆動電流の大きさが含まれる。
【0015】
制御装置10は、決定された駆動条件をドライバ回路22に設定する。ドライバ回路22は、制御装置10から出力開始信号を受けると、設定されている駆動条件でレーザダイオード21を駆動する。
【0016】
さらに、制御装置10は、エネルギ計測器23の計測結果から求まるパルスエネルギ密度が、パルスエネルギ密度の第1目標値に近づくように、可変減衰器27を制御する。
【0017】
図2に、関係定義データ13の一例を表形式で示す。パルス幅、周波数、動作条件の組み合わせごとに、パルスエネルギが決定されている。動作条件には、駆動電流の大きさと駆動電圧の大きさとが含まれる。実際には、駆動電流及び駆動電圧の一方が決まれば、他方も決まる。パルスエネルギの値は、実際にレーザダイオード21(
図1)からパルスレーザビームを出力して、そのパルスエネルギを計測することにより、決定することができる。レーザ加工を行なうときのパルス幅、周波数、及びパルスエネルギの目標値が決まれば、関係定義データ13から、動作条件を求めることができる。
【0018】
図3に、実施例によるレーザ加工装置を用いたレーザ加工方法のフローチャートを示す。ステップS1において、オペレータが入力装置12(
図1)を操作して、加工レシピを入力する。具体的には、パルス幅の第1目標値、周波数の第1目標値、及びパルスエネルギ密度の第1目標値が入力される。入力された加工レシピは、制御装置10(
図1)に送信される。
【0019】
ステップS2において、制御装置10(
図1)が、パルスエネルギ密度の第1目標値から、パルスエネルギの第1目標値を算出する。パルスエネルギの第1目標値は、パルスエネルギ密度の第1目標値を、加工対象物50の表面におけるビーム断面の面積で除算することにより算出される。なお、レーザ加工時におけるビーム断面の面積を考慮して、パルスエネルギの第1目標値を入力装置12から入力するようにしてもよい。この場合には、ステップS2の処理は不要である。
【0020】
ステップS3において、制御装置10(
図1)が、パルス幅の第1目標値、周波数の第1目標値、パルスエネルギの第1目標値、及び関係定義データ13(
図2)に基づいて、駆動条件を決定する。具体的には、第1目標値に一致するパルス幅、周波数、及びパルスエネルギの組に関連付けられた動作条件を抽出する。第1目標値に一致するパルスエネルギが関係定義データ13に定義されていない場合には、補間演算を行なって駆動条件を決定することができる。その他に、第1目標値以上で、かつ最も小さいパルスエネルギに関連付けられた動作条件を抽出してもよい。
【0021】
ステップS4において、制御装置10が、決定された駆動条件をドライバ回路22(
図1)に設定する。ステップS5において、制御装置10がドライバ回路22に、出力開始信号を送信する。ドライバ回路22は、出力開始信号を受信すると、ステップS4で設定されたパルス幅、周波数、及び駆動条件に基づいてレーザダイオード21を駆動する。レーザダイオード21に駆動電流が供給されることにより、レーザダイオード21からパルスレーザビームが出力される。
【0022】
上記実施例では、ステップS1で入力された加工レシピと、関係定義データ13(
図2)とに基づいて、駆動条件が決定される。このため、目標とするパルスエネルギが得られるまで、種々の駆動条件でレーザダイオードを駆動して、パルスエネルギを測定する評価手順を実行する必要がない。このため、加工レシピの入力からレーザ加工処理開始までの時間を短縮することができる。
【0023】
パルスエネルギの評価手順の実行中には、レーザダイオードに、実際の加工時よりも大きな駆動電流が流れる場合がある。この大きな駆動電流により、レーザダイオードの劣化が進むことが懸念される。実施例においては、パルスエネルギの評価手順を実行するする必要が無いため、レーザダイオードの劣化を抑制することができる。
【0024】
図4に、実施例によるレーザ加工装置を用いた他のレーザ加工方法のフローチャートを示す。以下、
図3に示したフローチャートとの相違点について説明する。
【0025】
図4に示した手順では、ステップS3において、第1目標値に一致するパルスエネルギが関係定義データ13(
図2)に定義されていない場合には、第1目標値以上で、かつ最も小さいパルスエネルギに関連付けられた動作条件が抽出される。ステップS4の後、ステップS41において、レーザダイオード21からパルスレーザビームを出力して、パルスエネルギを計測する。パルスエネルギの計測には。エネルギ計測器23が用いられる。
【0026】
ステップS42において、制御装置10が、パルスエネルギの計測結果に基づいて、可変減衰器27(
図1)を調整する。具体的には、加工対象物50に到達するパルスエネルギが、ステップS2で算出されたパルスエネルギの第1目標値に一致するように、可変減衰器27を調整する。その後、ステップS5において、ドライバ回路22に出力開始信号を送信する。
【0027】
図4に示した手順では、ステップS3において、第1目標値よりも大きなパルスエネルギに関連付けられた駆動条件が抽出される。このため、レーザダイオード21から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギは、第1目標値よりも大きくなる。ステップS42において、加工対象物50に到達するパルスレーザビームのパルスエネルギが、第1目標値に近づくように、より好ましくは第1目標値に一致するように可変減衰器27を調整する。このため、加工対象物50に到達するパルスレーザビームのパルスエネルギを、第1目標値に近づけることができる。
【0028】
図5に、さらに他のレーザ加工方法のステップS3(
図4)のフローチャートを示す。ステップS3以外のステップは、
図3に示したステップと同一である。
【0029】
ステップS31において、パルスエネルギの第1目標値に補正値を加算することにより、第2目標値を求める。補正値として、予め決められた固定値を用いてもよいし、第1目標値に一定の比率、例えば3%を乗じた値を用いてもよい。
【0030】
ステップS32において、パルス幅の第1目標値、周波数の第1目標値、及びパルスエネルギの第2目標値、及び関係定義データ13(
図2)に基づいて、駆動条件を決定する。
【0031】
図5に示した手順では、パルスエネルギが第1目標値よりも大きくなる条件を満たすように、駆動条件が決定される。レーザダイオード21(
図1)から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギと、第1目標値との差分は、ステップS41、S42(
図4)の処理によって解消される。このため、第1目標値に近いパルスエネルギを有するパルスレーザビームを加工対象物50(
図1)に入射させることができる。
【0032】
レーザダイオード21の劣化が進むと、関係定義データ13(
図2)に示された所定の駆動条件でレーザダイオード21を駆動しても、当該駆動条件に関連付けられたパルスエネルギが得られない場合がある。
図5に示した手順では、パルスエネルギの第1目標値よりも大きい第2目標値に基づいて、駆動条件を決定している。このため、レーザダイオード21の劣化が進んでいる場合でも、第1目標値に近いパルスエネルギのパルスレーザビームを加工対象物50に入射させることができる。
【0033】
次に、
図6を参照して、他の実施例によるレーザ加工装置について説明する。
図1に示した実施例では、レーザ光源としてレーザダイオード21のみが用いられていたが、
図6に示した実施例では、レーザ光源として、レーザダイオード21及び固体レーザ発振器31が用いられる。レーザダイオード21は、例えば波長690nm以上950nm以下のパルスレーザビームを出力する。固体レーザ発振器31は、緑色の波長域のパルスレーザビームを出力する。固体レーザ発振器31には、例えば第2高調波を出力するNd:YAG、Nd:YLF、Nd:YVO
4等のQスイッチレーザが用いられる。
【0034】
レーザダイオード21から出力されたパルスレーザビームが、可変減衰器27、ビームエキスパンダ28、ホモジナイザ29を経由し、ダイクロイックミラー61で反射され、レンズ62を経由して加工対象物50に入射する。固体レーザ発振器31から出力されたパルスレーザビームが、可変減衰器37、ビームエキスパンダ38、ホモジナイザ39、折り返しミラー60を経由し、ダイクロイックミラー61を透過し、レンズ62を経由して加工対象物50に入射する。
【0035】
レーザダイオード21から出力されたパルスレーザビームの一部は、ダイクロイックミラー61を透過してエネルギ計測器23に入射する。レーザダイオード21は、ドライバ回路22により駆動される。固体レーザ発振器31は、ドライバ回路32により駆動される。制御装置10が、
図3〜
図5のいずれかに示された手順で、レーザダイオード21のドライバ回路22を制御する。さらに、制御装置10は、ドライバ回路32を制御する。
【0036】
図6に示した実施例では、固体レーザ発振器31を用いて、シリコン基板の相対的に浅い領域の活性化アニールが行われ、レーザダイオード21を用いて、シリコン基板の相対的に深い領域の活性化アニールが行われる。レーザダイオード21を用いたレーザ加工の手順に、
図3〜
図5のいずれかに示された手順が適用されるため、加工レシピの入力から、駆動電流の大きさを決定するまでの時間を短縮することができる。
【0037】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。