特許第6771816号(P6771816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771816
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】回転力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/04 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
   F16D7/04 A
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-137112(P2016-137112)
(22)【出願日】2016年7月11日
(65)【公開番号】特開2018-9601(P2018-9601A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000178583
【氏名又は名称】山崎産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095522
【弁理士】
【氏名又は名称】高良 尚志
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋平
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−195313(JP,A)
【文献】 特開平11−243726(JP,A)
【文献】 特開2006−308026(JP,A)
【文献】 特開2005−138733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00− 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の回転軸線のまわりに回転する駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部により回転力を伝達する装置であって、
前記従動回転部に、径方向外方に向かう成分を有する出力用腕状部であって、前記回転軸線のまわりに前記従動回転部と共に所定回転角の正回転又は逆回転をすることにより、その出力用腕状部を介して作動対象部材を動作させ得るものが設けられ、
前記伝達部及び被伝達部の双方における少なくとも回転軸線を中心とする所定半径方向幅の環状部分に、所定の中心角を周期として軸線方向の振幅を有する三角波状又は曲線波状の周方向連続波形状部がそれぞれ設けられ、
前記伝達部と被伝達部は軸線方向に相対し、前記伝達部と被伝達部の間には、軸線方向のまわりの回転力の伝達に伴い軸線方向に離隔しようとする向きの軸線方向力が発生し得、
前記伝達部と被伝達部は、所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で相対的に軸線方向に移動し得、
前記駆動回転部と従動回転部の一方又は両方には、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられており、
設定トルク未満の負荷においては、前記軸線方向の付勢力により前記伝達部と被伝達部の軸線方向相互位置が所定の範囲内に維持されて両者の周方向連続波形状部同士の噛み合いにより所要の回転力が伝達され、前記駆動回転部と共に前記出力用腕状部が回転し得る状態が維持され、
前記作動対象部材に対する予期しない荷重載荷等により出力用腕状部を介して設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して両者の周方向連続波形状部同士が伝達部と被伝達部を所定の範囲よりも相対的に軸線方向に離隔させ、前記の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断され、
負荷が設定トルク未満に戻ることにより、前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が回復することを特徴とする回転力伝達装置。
【請求項2】
上記周方向連続波形状部の波形が回転の向きによらず一定である請求項1記載の回転力伝達装置。
【請求項3】
上記周方向連続波形状部の波形が二等辺三角波形状である請求項2記載の回転力伝達装置。
【請求項4】
上記周方向連続波形状部の波形が正弦波状である請求項2記載の回転力伝達装置
【請求項5】
駆動回転部と従動回転部の何れか一方における回転部に、相対回転可能に他方の回転部が同軸状に外嵌し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得る請求項1乃至4の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【請求項6】
駆動回転部に対し、従動回転部が回転可能に同軸状に外嵌し、
前記駆動回転部の基端部のうち先端側に有する伝達部と、前記従動回転部の基端側に有する被伝達部が、軸方向に相対し、前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で前記駆動回転部に対し前記従動回転部が軸線方向に移動し得、
前記駆動回転部のうち前記従動回転部よりも先端側の部分と、その従動回転部の間に、前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられている請求項1乃至4の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【請求項7】
上記出力用腕状部が、径方向外方に向かって突出したものである請求項1乃至6の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【請求項8】
上記設定トルクが回転の向きによらず実質上一定である請求項1乃至7の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【請求項9】
上記軸線方向の付勢力が、弾性体による弾性的な付勢力である請求項1乃至8の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部により、設定トルクを上回る過大な負荷が加わることを適切に防ぎつつ回転力を伝達する回転力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平11−191250号公報には、スリップ板にフェルトが貼り付けられ、プーリーがスプリングにより前記フェルトに押さえつけられてカラーの周りを前記フェルトと摺動しながら回転するトルクリミッターが記載されている。
【0003】
この技術は、ある程度大きい半径位置においてフェルトとの摺動によりトルクを制限しつつ回転力を伝達するには適するが、比較的小さい半径の回転体同士の回転力伝達を効率良く行ないつつトルクを適切に制限するには適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−191250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、比較的小さい半径の伝達部と被伝達部における回転力伝達であっても、設定トルクを上回る過大な負荷が加わることを適切に防ぎつつ回転力を効率良く伝達することができる回転力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転力伝達装置は、次のように表すことができる。
【0007】
(1) 駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部により回転力を伝達する装置であって、
前記伝達部と被伝達部は軸線方向に相対し、前記伝達部と被伝達部の間には、軸線方向のまわりの回転力の伝達に伴い軸線方向に離隔しようとする向きの軸線方向力が発生し得、
前記伝達部と被伝達部は、所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で相対的に軸線方向に移動し得、
前記駆動回転部と従動回転部の一方又は両方には、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられており、
設定トルク未満の負荷においては、前記軸線方向の付勢力により前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して前記伝達部と被伝達部が相対的に軸線方向に離隔する方向に移動することにより所要の回転力の伝達が中断され、負荷が設定トルク未満に戻ることにより、前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が回復することを特徴とする回転力伝達装置。
【0008】
駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部は、所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で相対的に軸線方向に移動し得る。
【0009】
設定トルク未満の負荷においては、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力により伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が維持される。
【0010】
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、付勢力に抗して伝達部と被伝達部が相対的に軸線方向に離隔する方向に移動することにより所要の回転力の伝達が中断され、負荷が設定トルク未満に戻ることにより、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が回復する。
【0011】
よって、比較的小さい半径の伝達部と被伝達部における回転力伝達であっても、設定トルクを上回る過大な負荷が加わることを適切に防ぎつつ回転力を効率良く伝達することができる。
【0012】
(2) 伝達部及び被伝達部の双方における少なくとも回転軸線を中心とする所定半径方向幅の環状部分に、所定の中心角を周期として軸線方向の振幅を有する波形状部がそれぞれ設けられ、
設定トルク未満の負荷においては、上記軸線方向の付勢力により伝達部と被伝達部の軸線方向相互位置が所定の範囲内に維持されて両者の波形状部同士の噛み合いにより所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して両者の波形状部同士が伝達部と被伝達部を所定の範囲よりも相対的に軸線方向に離隔させ、前記の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断されるものである上記(1)記載の回転力伝達装置。
【0013】
(3) 伝達部及び被伝達部の何れか一方に多数の凸部が設けられ、他方に多数の凸部又は凹部が設けられ、
設定トルク未満の負荷においては、上記軸線方向の付勢力により伝達部と被伝達部の軸線方向相互位置が所定の範囲内に維持されて両者の凸部同士又は凸部と凹部の噛み合いにより所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して両者の凸部同士又は凸部と凹部が伝達部と被伝達部を所定の範囲よりも相対的に軸線方向に離隔させて前記の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断されるものである上記(1)記載の回転力伝達装置。
【0014】
(4) 駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部が同軸状をなす上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【0015】
(5) 駆動回転部と従動回転部の何れか一方における回転部に、相対回転可能に他方の回転部が同軸状に外嵌し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられている上記(4)記載の回転力伝達装置。
【0016】
(6) 非回転軸体に対し、駆動回転部と従動回転部が回転可能に同軸状に外嵌し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられている上記(4)記載の回転力伝達装置。
【0017】
(7) 従動回転部に、径方向外方に向かう成分を有する出力用腕状部が設けられた上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【0018】
(8) 上記設定トルクが回転の向きによらず実質上一定である上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【0019】
(9) 上記軸線方向の付勢力が、弾性体による弾性的な付勢力である上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の回転力伝達装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の回転力伝達装置によれば、設定トルク未満の負荷においては、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力により伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して伝達部と被伝達部が相対的に軸線方向に離隔する方向に移動することにより所要の回転力の伝達が中断され、負荷が設定トルク未満に戻ることにより、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が回復するので、比較的小さい半径の伝達部と被伝達部における回転力伝達であっても、設定トルクを上回る過大な負荷が加わることを適切に防ぎつつ回転力を効率良く伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】分解斜視図である。
図2】回転力伝達状態の斜視図である。
図3】回転力伝達中断状態の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[1] 本発明の実施の形態の一例としての回転力伝達装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0023】
この例の回転力伝達装置Aは、駆動回転部Dの伝達部D1と、駆動回転部Dの回転部に対し回転可能且つ軸線方向に摺動可能なように同軸状に外嵌された従動回転部Nの被伝達部N1により、駆動回転部Dから従動回転部Nへ回転力を伝達するものである。
【0024】
駆動回転部Dは、基端部D2と、基端部D2よりも縮径した軸部D3と、軸部D3の先端側に同軸状に形成された円板状の拡径先端部D4からなる。動力源である電動機Mの出力軸M1と、基端部D2及び軸部D3の基部は、それらをそれぞれ貫通する孔にピンPが挿通されて相対回転不能に連結されている。
【0025】
従動回転部Nは、円筒状基部N2と、円筒状基部N2から径方向外方に向かって突出した出力用腕状部N3からなる。出力用腕状部N3の先端部が作動対象部材(図示せず)に作用し、円筒状基部N2の正回転及び逆回転の両方または何れか一方により作動対象部材を動作させるものである。
【0026】
軸部D3のうち基端側には従動回転部Nにおける円筒状基部N2が回転可能に同軸状に外嵌され、軸部D3のうち円筒状基部N2と拡径先端部D4の間には、圧縮コイルバネSが外嵌されている。
【0027】
駆動回転部Dの基端部D2のうち先端側の環状端面部が伝達部D1を構成し、従動回転部Nの円筒状基部N2のうち伝達部D1に軸方向に相対する環状部が被伝達部N1を構成する。
【0028】
伝達部D1と被伝達部N1には、それぞれ、周方向に所定の中心角を周期とする二等辺三角形状波形の三角波状の波形状部Dw・Nwが、軸方向に相対するように設けられている。波形状部Dwと波形状部Nwは同一である。伝達部D1と被伝達部N1の間には、軸線方向のまわりの回転力の伝達に伴い軸線方向に離隔しようとする向きの軸線方向力が発生し得る。
【0029】
従動回転部Nは、その被伝達部N1の波形状部Nwが駆動回転部Dにおける伝達部D1の波形状部Dwと噛み合って駆動回転部Dから従動回転部Nへ所要の回転力が伝達され得る図2に示されるような軸線方向位置(被伝達部N1と伝達部D1の両波形状部Dw・Nwが深く噛み合う軸線方向位置)と、被伝達部N1の波形状部Nwと駆動回転部Dにおける伝達部D1の波形状部Dwの噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断される図3に示されるような軸線方向位置の間を軸線方向に移動し得る。
【0030】
従動回転部Nは、圧縮コイルバネSにより伝達部D1側へ軸線方向に付勢されていることにより、駆動回転部Dから従動回転部Nへ伝達されるべきトルク(負荷)が設定トルク未満である場合は、その被伝達部N1の波形状部Nwが駆動回転部Dにおける伝達部D1の波形状部Dwと深く噛み合って駆動回転部Dから従動回転部Nへ所要の回転力が伝達され得る図2に示されるような軸線方向位置が維持される。
【0031】
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、被伝達部N1と伝達部D1の両波形状部Dw・Nw同士の噛み合いにより、伝達部D1に対し、被伝達部N1を有する従動回転部Nが圧縮コイルバネSによる付勢力に抗して軸線方向に押し出され、所要の回転力の伝達が中断されて、駆動回転部Dは従動回転部Nに対し空転する。設定トルク以上の負荷が継続すれば、被伝達部N1と伝達部D1の軸線方向相互位置は、駆動回転部Dの回転による波形状部Dwと波形状部Nwの位相の変化に応じて変動する。
【0032】
負荷が設定トルク未満に戻ると、圧縮コイルバネSの付勢力により被伝達部N1と伝達部D1の両波形状部Dw・Nw同士が深く噛み合った状態が維持されて所要の回転力が伝達され得る状態が回復する。
【0033】
このようにして、比較的小さい半径の伝達部D1と被伝達部N1における回転力伝達であっても、設定トルクを上回る過大な負荷が加わることを適切に防ぎつつ回転力を効率良く伝達することができる。例えば、動力源の出力軸を所定回転角の正回転又は逆回転させることにより、従動回転部Nを回転駆動し、出力用腕状部N3を介して作動対象部材を動作させることができ、作動対象部材に予期しない荷重等が載荷されて伝達部D1と被伝達部N1の間に設定トルクを超える過大な負荷が加わった場合は、被伝達部N1と伝達部D1の両波形状部Dw・Nw同士の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断され、動力源又はその他の箇所に損傷等の不都合が引き起こされることが防がれる。
【0034】
[2] 本発明の回転力伝達装置の実施の形態を、上記以外の形態を含めて更に説明する。
【0035】
本発明の回転力伝達装置は、駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部により、駆動回転部から従動回転部へ回転力を伝達するものである。
【0036】
(1) 駆動回転部と従動回転部
【0037】
駆動回転部としては、例えば、電動機又は電動機に減速装置等を組み合わせた動力源の出力軸又はこれに連結される回転部を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0038】
従動回転部としては、例えば、駆動回転部の回転力により回転駆動される従動軸や従動環状部を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0039】
駆動回転部と従動回転部は、同軸状をなし、同一の回転軸線のまわりに回転するものであることが望ましいが、必ずしもこれに限るものではない。
【0040】
(2) 伝達部と被伝達部
【0041】
(2-1) 駆動回転部の伝達部と従動回転部の被伝達部は、軸線方向に相対し、それらの伝達部と被伝達部の間には、軸線方向のまわりの回転の回転力の伝達に伴い軸線方向に離隔しようとする向きの軸線方向力が発生し得る。伝達部と被伝達部は、両者が相接して両者の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方には、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられている。
【0042】
付勢力は、弾性的な付勢力であることが好ましい。例えば、圧縮コイルばね又は引張コイルばね等の弾性体による弾性的な付勢力を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0043】
このような構成としては、例えば、円柱状又は円筒状の駆動回転部と従動回転部が、それらの一方又は両方が軸線方向に移動し得るように同軸状に配置され、それらの駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように圧縮コイルばね等による軸線方向の付勢力が加えられたものを挙げることができる。
【0044】
このような構成のより具体的な例としては、
互いに独立状をなし(同一の基体に対しそれぞれ支持体等を介して回転可能に支持されたものを含む)、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように圧縮コイルばね等による軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられたもの、
駆動回転部と従動回転部の何れか一方における回転軸等の回転部に、相対回転可能に他方の回転部が同軸状に外嵌し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように圧縮コイルばね等による軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられたもの、
非回転軸体(中実でも筒状でもよい)に対し、駆動回転部と従動回転部が回転可能に同軸状に外嵌し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る相互位置と所要の回転力が伝達され得ない相互位置の間で駆動回転部と従動回転部が相対的に軸線方向に移動し得、駆動回転部と従動回転部の一方又は両方に対し、伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得るように圧縮コイルばね等による軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力が加えられたもの、
などを挙げることができる。
【0045】
従動回転部には、例えば、径方向外方に向かう成分を有する(軸線方向成分を有してもよい)作用腕、連接棒、クランク軸を介した連接棒等の、直線状又は屈曲若しくは湾曲状の出力用腕状部を設けることもできる。
【0046】
(2-2) 駆動回転部の伝達部としては、例えば、動力源の出力軸の先端部、環状端面部(拡径又は縮径により形成された環状端面部)、回転軸線のまわりに回転対称状に形成された凹部の底部等を挙げることができる。
【0047】
駆動回転部の伝達部の基本形状としては、例えば、円柱状、円筒状又はその他の横断面形状の駆動回転部における、
回転軸線に直交する端面部(例えば円形又は円環状の端面部)、
先端に向かって縮径する円錐台形状の外周面部若しくは先端に向かって拡径する円錐台形状の内周面部に相当する部分、
先端に向かって縮径する円錐形状の外周面部若しくは先端に向かって拡径する円錐形状の内周面部、
半球状の凸面部若しくは凹面部又はその他の湾曲状の凸面部若しくは凹面部、或いは、
これらにおける回転軸線を中心とする所定の環状部分であって、
駆動回転部の回転軸線を軸とする回転体を形成するもの又は駆動回転部の回転軸線のまわりに回転対称状をなすものを挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0048】
(2-3) 従動回転部の被伝達部としては、例えば、駆動回転部の回転力により回転駆動される従動軸や従動環状部の先端部、拡径部、回転軸線のまわりに回転対称状に形成された凹部の底部を挙げることができる。
【0049】
従動回転部の被伝達部の基本形状は、伝達部との間に所要の回転力が伝達され得るように伝達部の形状に対応する形状である。
【0050】
伝達部の基本形状が前記のような形状である場合、従動回転部の被伝達部の基本形状は、それぞれに対応する形状、すなわち例えば、
円柱状、円筒状又はその他の横断面形状の従動回転部における、
回転軸線に直交する端面部(例えば円形又は円環状の端面部)、
先端に向かって拡径する円錐台形状の内周面部若しくは先端に向かって縮径する円錐台形状の外周面部に相当する部分、
先端に向かって拡径する円錐形状の内周面部若しくは先端に向かって縮径する円錐形状の外周面部、
半球状の凹面部若しくは凸面部又はその他の湾曲状の凹面部若しくは凸面部、或いは、
これらにおける回転軸線を中心とする所定の環状部分であって、
従動回転部の回転軸線を軸とする回転体を形成するもの又は従動回転部の回転軸線のまわりに回転対称状をなすものを挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0051】
(2-4) 伝達部と被伝達部の基本形状における表面部の形態は、
軸線方向に相対した状態の伝達部と被伝達部の間に、軸線方向のまわりの回転力の伝達に伴い軸線方向に離隔しようとする向きの軸線方向力が発生し得、
設定トルク未満の負荷においては、軸線方向に互いに向かい合う向きの付勢力により前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して前記伝達部と被伝達部が相対的に軸線方向に離隔する方向に移動することにより所要の回転力の伝達が中断され、負荷が設定トルク未満に戻ることにより、前記伝達部と被伝達部の間に所要の回転力が伝達され得る状態が回復するものであることを要する。
【0052】
伝達部の基本形状における表面部の形態と被伝達部の基本形状における表面部の形態の組み合わせの例としては、
・伝達部と被伝達部の何れか一方に多数の凸部(例えば周方向に傾斜面を有する凸部)が設けられ、他方に多数の凸部又は凹部(例えば周方向に傾斜面を有する凹部)が設けられ、
設定トルク未満の負荷においては、前記軸線方向の付勢力により伝達部と被伝達部の軸線方向相互位置が所定の範囲内に維持されて両者の凸部同士又は凸部と凹部の噛み合いにより所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して両者の凸部同士又は凸部と凹部が伝達部と被伝達部を所定の範囲よりも相対的に軸線方向に離隔させて前記の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断されるもの、
・伝達部と被伝達部の両方における少なくとも回転軸線を中心とする所定半径方向幅の環状部分に、所定の中心角を周期として軸線方向の振幅を有する波形状部(周方向に進行する波形状部。半径方向において振幅が変化しないことが望ましい。)がそれぞれ設けられ、
設定トルク未満の負荷においては、前記軸線方向の付勢力により伝達部と被伝達部の軸線方向相互位置が所定の範囲内に維持されて両者の波形状部同士の噛み合いにより所要の回転力が伝達され得る状態が維持され、
設定トルク以上の負荷が加わった場合は、前記付勢力に抗して両者の波形状部同士が伝達部と被伝達部を所定の範囲よりも相対的に軸線方向に離隔させ、前記の噛み合いが解除され又は不十分となって所要の回転力の伝達が中断されるもの
を挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0053】
前記波形状部としては、例えば、
周方向に、三角波状、曲線波状(典型的には例えば正弦波状)、又は鋸歯状の波形をなし、設定トルク以上の負荷が加わった場合における伝達部と被伝達部の噛み合いの解除と回復が円滑に行われるものを挙げることができるが、これらに限るものではない。
【0054】
設定トルクは、回転の向きによらず実質上一定とすることができる他、回転の向きに応じて異なるトルクを設定することもできる。
【0055】
回転の向きによらず実質上一定のトルクを設定するには、例えば、伝達部と被伝達部の凸部同士若しくは凸部と凹部又は波形状部同士の接触する角度等の態様が回転の向きによらず一定であるものとすることが挙げられる。例えば、二等辺三角形状の波形の三角波状、正弦波状の曲線波状である。
【0056】
回転の向きに応じて異なるトルクを設定するには、例えば、伝達部と被伝達部の凸部同士若しくは凸部と凹部又は波形状部同士の接触する角度等の態様が、回転の向き応じて異なるものとすることが挙げられる。例えば、回転軸線に直交する面に対する角度を小さくすれば設定トルクを小さくすることができ、その角度を大きくすれば設定トルクを大きくすることができる。
【符号の説明】
【0057】
A 回転力伝達装置
D 駆動回転部
D1 伝達部
D2 基端部
D3 軸部
D4 拡径先端部
Dw 波形状部
M 電動機
M1 出力軸
N 従動回転部
N1 被伝達部
N2 円筒状基部
N3 出力用腕状部
Nw 波形状部
P ピン
S 圧縮コイルバネ
図1
図2
図3