(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6771824
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】ゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物及びその利用
(51)【国際特許分類】
A23L 27/00 20160101AFI20201012BHJP
A23L 27/20 20160101ALI20201012BHJP
A23L 29/30 20160101ALI20201012BHJP
A23C 9/152 20060101ALI20201012BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20201012BHJP
A23L 2/38 20060101ALI20201012BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
A23L27/00 Z
A23L27/20 D
A23L29/30
A23C9/152
A23L2/00 B
A23L2/38 P
A23L2/02 B
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-210008(P2016-210008)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2018-68168(P2018-68168A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231453
【氏名又は名称】日本食品化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100157772
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 武孝
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 信人
(72)【発明者】
【氏名】石川 岳
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 貴久
【審査官】
中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−148661(JP,A)
【文献】
特開平11−103814(JP,A)
【文献】
特開2011−206030(JP,A)
【文献】
特開2015−008687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Brix値30に調整した水溶液の420nmの吸光度から720nmの吸光度を減じた値である着色度が0.007以上1.5以下であることを特徴とするゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物(但し、ゲンチオオリゴ糖含有糖質の水素による還元処理物を除く)。
【請求項2】
請求項1記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を有効成分とする対象物の風味向上剤。
【請求項3】
前記対象物が、ビール系飲料、低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品から選ばれた1種である、請求項2記載の対象物の風味向上剤。
【請求項4】
請求項1記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を添加することを特徴とする対象物の風味向上方法。
【請求項5】
前記対象物が、ビール系飲料、低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品から選ばれた1種である、請求項4記載の対象物の風味向上方法。
【請求項6】
前記対象物中に、前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を、該ゲンチオオリゴ糖の乾燥物換算で0.001〜1.000質量%含有せしめるように添加する、請求項4又は5記載の対象物の風味向上方法。
【請求項7】
ゲンチオオリゴ糖含有糖質を加熱処理して、Brix値30に調整した水溶液の420nmの吸光度から720nmの吸光度を減じた値である着色度が0.007以上1.5以下である該糖質の加熱処理物を得ることを特徴とするゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の製造方法(但し、水素による還元処理を行う製造方法を除く)。
【請求項8】
前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質を、100〜200℃にて1分〜12時間の範囲で、前記着色度となるように加熱処理する、請求項7記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の製造方法。
【請求項9】
前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質の水溶液を加熱処理する、請求項7又は8記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の製造方法。
【請求項10】
前記水溶液は、固形分濃度55〜80質量%のシラップである請求項9記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の製造方法。
【請求項11】
請求項1記載のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を含有する飲食品。
【請求項12】
請求項2又は3記載の風味向上剤を含有する飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲンチオオリゴ糖含有糖質の加熱処理物、特に苦味付与等の風味向上剤として有用なゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
苦味は、甘味・塩味・酸味・うま味と共に味の基本味の一つであり、種々の飲食品において適度な苦味の付与が求められている。特に、ビール系飲料、低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品などにおいては、一定程度の苦味を有していることがその嗜好性を決めるうえで重要である。このため、飲食品に苦味を付与する素材が市場で求められている。飲食品の苦味付与剤(苦味料)としては、例えば、カラメル色素、ナリンギン、カフェインなどが知られているが、カラメル色素はカラメル特有の風味(カラメル臭)を有しており、ナリンギンは苦さだけでなく酸味や僅かな柑橘風味を有しており、カフェインは苦さが長く曳きすぎる傾向があるなど、それぞれに特徴を有し、飲食品の種類によっては風味を阻害してしまうという問題があった。また、カフェインは、その興奮作用のために添加が制限される場合があった。
【0003】
一方、ゲンチオビオースに代表されるゲンチオオリゴ糖もまた、飲食品へ苦味を付与する素材として知られており、癖がなくまろやかでコクのある苦味を有している。ゲンチオオリゴ糖を含有する糖質には、更に、飲食品の味に幅・深みやボディー感を付与する効果、果汁感を増強する効果、高甘味度甘味料の味質を改良する効果、乳類の後味のキレを改善する効果等、優れた風味向上効果が知られている(特許文献1、非特許文献1)。ゲンチオオリゴ糖を含有する糖質は、高濃度グルコース溶液に微生物起源のβ−グルコシダーゼを作用させて製造する手法が知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−83557号公報
【特許文献2】特開平02−219584号公報
【特許文献3】特開平04−148661号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】月刊バイオインダストリー 2009年4月号 68〜71頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ゲンチオオリゴ糖含有糖質を改良する技術については、上記特許文献3に、ゲンチオオリゴ糖等のβ−グルコオリゴ糖を含むオリゴ糖シロップを還元処理すると、当該オリゴ糖の特有な苦みが消失し、良好でまろやかな甘味を呈するようになることが記載されている。
【0007】
しかしながら、ゲンチオオリゴ糖含有糖質の苦味を効率良く増強する方法は、未だ知られていなかった。
【0008】
よって、本発明の目的は、好ましい味質を有するゲンチオオリゴ糖を含有する糖質において、その苦味を増強する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ゲンチオオリゴ糖含有糖質に一定程度の加熱処理を施すことでその苦味を増強できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1は、Brix値30に調整した水溶液の420nmの吸光度から720nmの吸光度を減じた値である着色度が0.007以上1.5以下であることを特徴とするゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を提供するものである。
【0011】
また、本発明の第2は、上記のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を有効成分とする対象物の風味向上剤を提供するものである。
【0012】
上記風味向上剤においては、前記対象物が、ビール系飲料、低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品から選ばれた1種であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の第3は、上記のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を添加することを特徴とする対象物の風味向上方法を提供するものである。
【0014】
上記風味向上方法においては、前記対象物が、ビール系飲料、低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品から選ばれた1種であることが好ましい。
【0015】
また、上記風味向上方法においては、前記対象物中に、前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を、該ゲンチオオリゴ糖の乾燥物換算で0.001〜1.000質量%含有せしめるように添加することが好ましい。
【0016】
また、本発明の第4は、ゲンチオオリゴ糖含有糖質を加熱処理して、Brix値30に調整した水溶液の420nmの吸光度から720nmの吸光度を減じた値である着色度が0.007以上1.5以下である該糖質の加熱処理物を得ることを特徴とするゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の製造方法を提供するものである。
【0017】
上記製造方法においては、前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質を、100〜200℃にて1分〜12時間の範囲で、前記着色度となるように加熱処理することが好ましい。
【0018】
また、上記製造方法においては、前記ゲンチオオリゴ糖含有糖質の水溶液を加熱処理することが好ましい。
【0019】
また、上記製造方法においては、前記水溶液は、固形分濃度55〜80質量%のシラップであることが好ましい。
【0020】
また、本発明の第5は、上記のゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を含有する飲食品を提供するものである。
【0021】
また、本発明の第6は、上記の風味向上剤を含有する飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ゲンチオオリゴ糖含有糖質のもつ味質を著しく損なうことなく、その苦味が増強された、ゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を提供することができる。また、そのゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物による好ましい味質と苦味を生かした新規な風味向上剤を提供することができる。更には、そのゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物を添加することにより、飲食品等の対象物の風味を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において、ゲンチオオリゴ糖とは、グルコースがβ−1,6−グルコシド結合したβ−グルコオリゴ糖であり、例えば重合度2のゲンチオビオース、重合度3のゲンチオトリオース、重合度4のゲンチオテトラオース等が挙げられる。ゲンチオオリゴ糖の中でもゲンチオビオースが特に有効である。
【0024】
ゲンチオオリゴ糖は、特開平1−222779号、特開平2−219584号等に記載された酵素法、ゲンチアノースの酸分解、プスツランやラミナランなどの加水分解物から調製する方法などにより製造することができる。製造効率及びコストの観点から、高濃度グルコース溶液に、β−グルコシダーゼを作用させることで製造するのが好ましい。また、市販のゲンチオオリゴ糖を使用してもよい。例えば、日本食品化工株式会社製の「日食ゲントース#45(商品名)」は、高濃度グルコース溶液に、微生物起源のβ−グルコシダーゼを作用させることで製造された、ゲンチオオリゴ糖を含有するシラップ状のゲンチオオリゴ糖含有糖質であり、本発明において好適に使用できる。
【0025】
本発明において使用されるゲンチオオリゴ糖含有糖質におけるゲンチオオリゴ糖の含有量については、特に制限はなく、例えば、ゲンチオビオース含有量が乾燥物換算で0.1〜100質量%であることが好ましく、1〜100質量%であることが好ましく、3〜100質量%でることが特に好ましい。ここで、本発明において使用されるゲンチオオリゴ糖含有糖質とは、上記ゲンチオオリゴ糖のそれ自体を含む意味である。
【0026】
本発明において使用されるゲンチオオリゴ糖含有糖質におけるゲンチオオリゴ糖以外の糖質については、特に制限はなく、例えば、セロビオース・ラミナリビオース・ソホロース・イソトレハロース等のβ−グルコオリゴ糖、マルトース、トレハロース、イソマルトース、ニゲロース・コージビオース等のα−グルコオリゴ糖、グルコース、フルクトース、スクロース等が挙げられる。その味質のバランス等を考慮すると、ゲンチオオリゴ糖含有糖質はグルコースを含有していることが好ましく、グルコースを乾燥物換算で0.1〜80質量%含有していることが好ましく、1〜70質量%含有していることがより好ましく、5〜60質量%含有していることが特に好ましい。
【0027】
本発明において使用されるゲンチオオリゴ糖含有糖質の性状についても、特に制限はないが、加熱処理時の作業性や加熱処理時の着色度管理の容易さを考慮すると液状のシラップを用いるのが好ましく、固形分濃度55〜80質量%のシラップを用いることがより好ましく、固形分濃度60〜75質量%のシラップを用いることが特に好ましい。
【0028】
本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物は、上記に説明したゲンチオオリゴ糖含有糖質を、比較的温和な条件下にて加熱処理することにより得ることができる。具体的には、得られる加熱処理物について、Brix値(Bx.)が30となるように調整した水溶液の、下記式における着色度が0.007以上1.5以下となる程度に、ゲンチオオリゴ糖含有糖質を加熱処理することにより得ることができる。後述の実施例で示されるように、ゲンチオオリゴ糖含有糖質をこのように比較的温和な条件下にて加熱処理することにより、ゲンチオオリゴ糖含有糖質が呈する苦味を効率よく増強することができる。その効果の点からは、上記着色度は、0.01以上1.5以下とするのが好ましく、0.01以上0.5以下とするのがより好ましい。
【0029】
〔着色度〕
着色度=420nmの吸光度(OD420)−720nmの吸光度(OD720)
【0030】
ゲンチオオリゴ糖含有糖質の加熱処理は、得られる加熱処理物について、上記着色度となるように適宜調整して行えばよく、その手法に特に制限はない。加熱温度は、例えば、100〜200℃、好ましくは120〜170℃とすることができ、加熱時間は、例えば、1分〜12時間、好ましくは10分〜2時間とすることができる。加熱温度が高いほど、また加熱時間が長いほど加熱処理物の着色度は増加する傾向となる。加熱処理を行う機器についても特に制限はなく、例えば、鍋、平釜、棚式熱風乾燥機、薄膜式蒸発器、フラッシュエバポレーター、減圧乾燥機、熱風乾燥機、スチームジャケットスクリューコンベヤー、ドラムドライヤー、エクストルーダー、ウォームシャフト反応機、ニーダー等を用いることができる。
【0031】
また、ゲンチオオリゴ糖含有糖質の加熱処理の際には、本発明の効果を損なわない範囲で、その組成物中にゲンチオオリゴ糖含有糖質以外の成分を含んでいてもよく、そのような成分としては、例えば、他の単糖・オリゴ糖・多糖、アミノ酸・ペプチド・蛋白質、酸・アルカリ等が挙げられる。
【0032】
また、加熱処理の際のゲンチオオリゴ糖含有糖質の性状としては、上述したようなゲンチオオリゴ糖の調製の際に得られた水溶液状のシラップを用いてもよく、粉末等の固形状のゲンチオオリゴ糖含有糖質を水等に溶解したり、懸濁したりして調製した組成物を用いてもよい。あるいは粉末等の固形状のゲンチオオリゴ糖含有糖質に対して、そのまま乾式で加熱処理を施してもよい。
【0033】
ゲンチオオリゴ糖含有糖質の性状として、水溶液状のシラップを加熱処理して加熱処理物を得た場合は、そのまま液状品としてもよく、噴霧乾燥等により粉末化してもよい。微生物汚染等を考慮すると、本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物は、固形分濃度60質量%以上(好ましくは65質量%以上)の液状(シラップ)、あるいは粉末状であることが好ましい。また、必要に応じ常法に従って脱色・脱臭等の精製処理を行ってもよい。
【0034】
本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物は、風味向上剤の有効成分として好適に用いられる。すなわち、本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物は、その苦味に代表される特有の味質を有しており、当該味質により、添加した対象物の味質・香り等の風味、より具体的には苦味の強さ、コク、キレ、ボディー感、高甘味度甘味料の味質、果汁感の強さ、乳味感・乳味の後味、アルコール飲料のドライ感等を向上させることができる。ここで風味向上とは、問題のない風味をより好ましくすることに加え、問題のある風味を改善させることも含む。その対象物としては、好ましくは飲食品であるが、飲食品添加用組成物や動物飼料用組成物等であってもよい。
【0035】
上記風味向上剤は、好ましくは苦味付与剤として用いることができる。ここで、苦味付与剤とは、対象物に苦味を付与するもの(苦味料)を意味し、その対象物としては、好ましくは飲食品であるが、飲食品添加用組成物や動物飼料用組成物等であってもよい。
【0036】
上記風味向上剤は、有効成分であるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物に加え、その効果を損なわない範囲で他の素材を含有していてもよい。その他の素材に制限はないが、例えば、ナリンギン・カフェイン等の他の苦味料、デンプン・デキストリン等の他の糖質、香料、着色料等が挙げられる。
【0037】
上記風味向上剤におけるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物の含有量については、特に制限はなく、適用する飲食品等の対象物の種類や他の原料の配合等により適宜決定することができる。典型的には、例えば、上記風味向上剤中にゲンチオオリゴ糖の乾燥物換算で0.001〜1.000質量%含有せしめることが好ましく、0.003〜0.500質量%含有せしめることがより好ましく、0.005〜0.100質量%含有せしめることが更により好ましい。
【0038】
上記風味向上剤の性状については、特に制限はなく、例えば、液状であってもよく、粉末状であってもよい。
【0039】
本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物又はこれを有効成分とする風味向上剤が適用される飲食品としては、特に制限はなく、例えば、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、清涼飲料、冷菓、氷菓、調味料、ソース、洋菓子、和菓子、パン、麺など種々の飲食品が挙げられる。なかでも、本発明によれば苦味付与に基づく風味向上効果を奏するので、特に、ビール系飲料、低アルコールチューハイ等の低アルコール飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品などに好適に用いられる。なお、ビール系飲料とは、通常の当業者に理解されるように、ビール様の外見・風味を有する炭酸飲料を包含する意味であり、より具体的には、ビール、発泡酒、所謂「第3のビール」あるいは「新ジャンル」と呼ばれるその他の醸造酒(発泡性)・その他のリキュール(発泡性)、非発酵ビール風味アルコール飲料、ビール風味ノンアルコール飲料などを含む意味である。低アルコール飲料とは、アルコール度数9%以下のアルコール飲料を意味し(ビール系飲料、コーヒー風味の飲食品、チョコレート風味の飲食品、カラメル風味の飲食品、果汁風味の飲食品、抹茶風味の飲食品を除く)、ハイボール・ジントニック等のカクテル、アルコール度数9%以下の日本酒・紹興酒等の醸造酒などを含む意味である。コーヒー風味の飲食品とは、コーヒー成分の有無に拘わらずコーヒー様の風味を有する飲食品を包含する意味であり、コーヒー・カフェオレ・カフェラテ等のコーヒー風味のノンアルコール飲料、コーヒーリキュール・コーヒーカクテル・コーヒー風味のチューハイ等のコーヒー風味のアルコール飲料、コーヒー風味のゼリー・キャンディ・氷菓等のコーヒー風味の菓子類などを含む意味である。チョコレート風味の飲食品とは、チョコレート成分の有無に拘わらずチョコレート様の風味を有する飲食品を包含する意味であり、ココア・ホットチョコレート等のチョコレート風味のノンアルコール飲料、チョコレートリキュール・チョコレートカクテル等のチョコレート風味のアルコール飲料、チョコレート・チョコレート風味のケーキ・クッキー・クリーム等のチョコレート風味の菓子類などを含む意味である。カラメル風味の飲食品とは、カラメル成分の有無に拘わらずカラメル様の風味を有する飲食品を包含する意味であり、カラメル・カラメル色素・キャラメル・キャラメルソースなどを含む意味である。果汁風味の飲食品とは、果汁成分の有無に拘わらず果汁様の風味を有する飲食品を包含する意味であり、ワイン・果実酒・果実リキュール・果汁風味チューハイ等の果汁風味のアルコール飲料、果汁飲料・炭酸飲料・果汁風味のフレーバーウォーター・果汁風味のノンアルコールチューハイ等の果汁風味のノンアルコール飲料、果汁風味のゼリー・冷菓・氷菓・ピュレ等の菓子類などを含む意味である。抹茶風味の飲食品とは、抹茶成分の有無に拘わらず抹茶様の風味を有する飲食品を包含する意味であり、抹茶風味リキュール・抹茶風味カクテル等の抹茶風味のアルコール飲料、抹茶・抹茶風味ラテ・抹茶風味ノンアルコールカクテル等の抹茶風味のノンアルコール飲料、抹茶風味の焼き菓子・冷菓・氷菓・クリーム・チョコレート等の菓子類などを含む意味である。
【0040】
本発明によるゲンチオオリゴ糖含有糖質加熱処理物又はこれを有効成分とする風味向上剤の飲食品等の対象物への添加量については、特に制限はなく、適用する飲食品等の対象物の種類や他の原料の配合等により適宜決定することができる。典型的には、例えば、飲食品等の対象物中にゲンチオオリゴ糖の乾燥物換算で0.001〜1.000質量%含有せしめることが好ましく、0.003〜0.500質量%含有せしめることがより好ましく、0.005〜0.100質量%含有せしめることが更により好ましい。また、飲食品等の対象物に配合するタイミングについても、特に制限はなく、飲食品等の対象物の加工(調理、調製)前、加工中、加工後のいずれでもよい。
【0041】
なお、本発明は、ゲンチオオリゴ糖含有糖質に一定程度の加熱処理を施すことにより処理前に比べ苦味が増強するという知見に基づくものである。よって、本発明の別の観点からは、ゲンチオオリゴ糖を一定程度加熱処理することを特徴とするゲンチオオリゴ糖含有糖質の苦味増強方法を提供することもできる。その加熱方法や加熱条件及び原料となるゲンチオオリゴ糖含有糖質は、上述した通りである。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[試験例1]
ゲンチオオリゴ糖含有糖質である日食ゲントース#45(日本食品化工社製)を、送風定温乾燥器(DRK633DB、アドバンテック社製)を用いて所定の加熱温度及び加熱時間にて加熱処理することで、試料1−1〜試料1〜11を調製した。各試料の加熱温度(乾燥器の送風の設定温度)及び加熱時間は下記表1に記載した通りである。なお、原料として用いたゲンチオオリゴ糖含有糖質(日食ゲントース#45)は、ゲンチオオリゴ糖に加えグルコースを約50%(固形分当たり)含有する固形分濃度71%のシラップである。
【0044】
〔1.着色度の測定〕
各試料について、以下の手法により、その着色度を測定した。
【0045】
得られた各試料を純水でBx.30に調整し、1cm石英セルを用いて分光光度計(U−2900、日立ハイテクサイエンス社製)にて希釈試料の420nm及び720nmの吸光度をそれぞれ測定して、420nmの吸光度から720nmの吸光度を減じた値を着色度とした。
【0046】
〔2.官能評価〕
得られた各試料を純水でBx.10に希釈し、下記基準の通り、ゲンチオオリゴ糖含有糖質(日食ゲントース#45)を比較試料として官能評価を行った。
【0047】
(評価基準)
・苦味:比較例試料(日食ゲントース#45)の苦味を5点とし、1〜10点の10段階で相対的にその苦味の強さを評価した(苦味が強い程高得点)。
・カラメル臭:比較例試料(日食ゲントース#45)のカラメル臭を1点、カラメル(PR−75E、仙波糖化社製)のカラメル臭を10点とし、1〜10点の10段階で相対的にそのカラメル臭の強さを評価した(カラメル臭が強い程高得点)。
【0048】
上記基準に基づき、5名のパネラーにより官能評価を実施し、その平均点を算出した。
【0049】
各試料の着色度及び官能評価結果を表1に纏めた。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の通り、着色度が1.5以下となるように加熱処理された試料(試料1−1〜試料1−6、試料1−8〜試料1−9)は、いずれも比較試料である加熱処理前のゲンチオオリゴ糖含有糖質に比べ、その苦味が増強されていた。また、カラメル臭に関しても、4点以下と著しく強いものではなかった。特に、着色度が0.01〜1.5である試料(試料1−2〜試料1−6、試料1−8〜試料1−9)は、その苦味増強効果が強かった。一方、着色度が1.5を上回った試料(試料1−7、試料1−10〜試料1−11)は、いずれも比較試料である加熱処理前のゲンチオオリゴ糖含有糖質に比べその苦味が低下していた。これは、加熱時間が長くなることで大量の有機酸が生成し、増加した酸味によって苦味が打ち消されたものと考えられた。また、加熱時間が長くなるとカラメル臭がより強くなった。
【0052】
以上の結果より、ゲンチオオリゴ糖含有糖質にその着色度が1.5以下となるように比較的温和な加熱処理を施すことによりその苦味を増強できること、一方で着色度が1.5を上回ると加熱処理が強すぎて逆にその苦味は弱くなりまたカラメル臭が顕著となることが明らかとなった。なお、試料をHPLC分析したところ、加熱処理の前後でその糖組成に大きな変化はなかった。
【0053】
[試験例2]
ゲンチオオリゴ糖含有糖質である日食ゲントース#45(日本食品化工社製)に加え、グルコース(含水ブドウ糖結晶、日本食品化工社製)、スクロース(グラニュー糖、フジ日本精糖社製)、及びマルトース(サンマルトS、林原社製)の固形分濃度70%の水溶液を調製し、送風定温乾燥器(DRK633DB、アドバンテック社製)を用いて150℃で1時間加熱処理することで試料2−1〜試料2〜4を調製した。
【0054】
〔1.着色度の測定〕
各試料の着色度は、試験例1と同様にして測定した。
【0055】
〔2.官能評価〕
得られた各試料を純水でBx.10に希釈し、下記基準の通り、苦味の強さを加熱処理前の糖液と比較した。
【0056】
(評価基準)
○:加熱処理前の糖液に比べ苦味が増強している。
×:加熱処理前の糖液と比べ苦味が変わらない。
【0057】
上記基準に基づき、パネラー1名により官能評価を実施し、その意見を評価結果として採用した。
【0058】
各試料の着色度及び官能評価結果を表2に纏めた。
【0059】
【表2】
【0060】
表2の通り、試験例1の結果と同様に、ゲンチオオリゴ糖含有糖質(試料2−1)においてはその着色度が1.5以下となるように比較的温和な加熱処理を施すことによりその苦味が増強されたのに対し、その他の糖類(グルコース(試料2−2)、スクロース(試料2−3)、マルトース(試料2−4))においては、いずれも加熱処理前及び加熱処理後で全く苦味を感じず、加熱処理によりその苦味が全く変化しなかった。なお、いずれの試料も、加熱処理による生じるカラメル臭は同程度でほとんど感じないものだった。
【0061】
以上の結果より、試験例1にて確認された加熱処理による苦味の増強効果は、ゲンチオオリゴ糖含有糖質に特有の効果であり、他の糖質においては当該効果が発揮されないことが明らかになった。
【0062】
[試験例3]
試験例1で調製した試料1−4を固形分70%に調整し、市販の清涼飲料水(「ミニッツメイド Qoo みかん」日本コカ・コーラ株式会社製)に0.5質量%となるように添加して清涼飲料水を調製した。また、果糖ぶどう糖液糖(フジフラクトH−100:日本食品化工株式会社製)を同じ市販の清涼飲料水に試料1−4と同程度の甘味度になるように添加して清涼飲料水を調製した。各試料を添加した清涼飲料水について、その味を下記評価基準にてパネラー7名で官能評価した。評価した総合評価の平均点およびコメントを表3に示した。
【0063】
<評価基準>
1点:未添加の飲料に比べ、呈味を損なっている
2点:未添加の飲料に比べ、呈味を損なっている面もある
3点:未添加の飲料に比べ、変化はない
4点:未添加の飲料に比べ、呈味が全体的に向上しており好ましい
5点:未添加の飲料に比べ、呈味が全体的に顕著に向上しており特に好ましい
【0064】
<評価結果>
【0065】
【表3】
【0066】
表3に示す通り、加熱処理されたゲンチオオリゴ糖含有糖質である試料1−4は、未添加に比べ果汁感やトップの味が向上していた。一方で、試料1−4と同程度の甘味度となるように添加した果糖ぶどう糖液糖は果汁感がぼやけてしまい、十分な呈味向上効果は得られなかった。
【0067】
[試験例4]
試験例1で調製した試料1−4を固形分70%に調整し、市販の乳飲料(「VANHOUTEN COCOA」明治株式会社製)に1.0質量%となるように添加して乳飲料を調製した。また、果糖ぶどう糖液糖(フジフラクトH−100:日本食品化工株式会社製)を同じ市販の乳飲料に試料1−4と同程度の甘味度になるように添加して乳飲料を調製した。各試料を添加した乳飲料について、その味を試験例3と同様にしてパネラー8名で官能評価した。評価した総合評価の平均点およびコメントを表4に示した。
【0068】
<評価結果>
【0069】
【表4】
【0070】
表4に示す通り、加熱処理されたゲンチオオリゴ糖含有糖質である試料1−4は、未添加に比べココア感やトップの味が向上していた。一方で、試料1−4と同程度の甘味度となるように添加した果糖ぶどう糖液糖は味がぼやけてしまい、十分な呈味向上効果は得られなかった。