【実施例1】
【0026】
先ず、
図11および
図12を用いて、自動車シートなどの車両用シートの一般的なシートカバーとその製造工程の一部について説明する。
図11はシートカバーの一部断面を示し、
図12はシートカバーの製造工程における一部断面を示している。
【0027】
一般的なシートカバーは、
図11に示すように、表皮材7とクッション材であるワディング9を接着材8で貼り合せた積層の生地により形成されている。この接着材8には、いわゆるホットメルト接着材と呼ばれるシート状の接着材が多く用いられる。ホットメルト接着材は、常温では固形のものを80℃から100℃程度の熱で加熱溶融させて塗布し、冷却によって固着するタイプの接着材である。ホットメルト接着材の材質は、例えば、ポリアミドやエチレン酢酸ビニルのような熱可塑性プラスチック等である。
【0028】
また、
図12に示すように、一般的なシートカバーの製造工程においては、
図11のような表皮材7、接着材8、ワディング9の三層の素材を加熱しながらプレス機によりプレス加工し、積層の生地を形成する。従来、このプレス機には、平型のプレス機の上型13と同じく平型のプレス機の下型14を用いており、平面状の生地を形成している。
【0029】
この平面状の積層の生地を、自動車シートのシートカバーとして使用する場合、上記で説明したように、シートの凹部に使用するため凹面を形成しようとすると、表皮材7の表面にチリジワ或いは銀ジワと呼ばれる細かい皺が生じてしまう。特に、表皮材7の素材として牛皮のような天然皮革を用いた場合は、チリジワ或いは銀ジワが顕著に生じる。この表皮材7の表面に形成されるチリジワ或いは銀ジワにより、シートの外観性が低下してしまう。
【0030】
次に、
図1を用いて、本発明の一実施例である自動車シートなどの車両用シートの全体概要を説明する。実施例1における車両用シート1は、
図1に示すように、その主な部位として、シートの座面部となるシートクッション2、シートクッション2の背側に設けられ、シートの背もたれ部となるシートバック3、乗員の頭部および頸部を保護するヘッドレスト4などを有している。シートクッション2の両脇には、座面部のサイド部分のサポートとなるサイドサポート5が設けられている。
【0031】
車両用シート1のシートクッション2およびシートバック3の一部の表面には、凹部(窪み)6が立体的に設けられている。この凹部(窪み)6の表面には上記で説明したようなチリジワ或いは銀ジワがほとんど生じていない。
【0032】
図2に、上記の凹部(窪み)6の部分のシートカバーの一部断面を示す。
図1の凹部(窪み)6の部分のシートカバーは、
図2に示すように、生地が凹形状に形成されている。この生地は、
図11と同様に、表皮材7、接着材8、ワディング9の三層の素材を加熱しながらプレス機によりプレス加工した積層の生地であるが、予め凹形状に形成されている点において、
図11の平面状の生地とは異なっている。
【0033】
この凹形状の積層の生地は、
図3に示すように、凸型のプレス機の上型10と凹型のプレス機の下型11で、表皮材7、接着材8、ワディング9の三層の素材を加熱しながらプレス加工することにより形成することができる。
【0034】
ここで、ワディング9は、ウレタンを素材とするウレタンワディング等を用いる。このウレタンワディングは、その密度が20g/
dm
3〜50g/
dm
3程度の高密度ワディングを使用するのがより好適である。シートのクッション性を向上するとともに、シートの凹部(窪み)の表面にチリジワ或いは銀ジワが生じるのを抑制するのに効果的である。
【0035】
図4および
図5に、加熱しながら積層の生地をプレス加工する例を示す。
図4では、凹型のプレス機の下型11に複数の貫通孔を設け、その貫通孔を通して約100℃の蒸気を供給することにより、ワディング9側から積層の生地を加熱している。積層の生地を蒸気で加熱しながら、プレス機の上型10およびプレス機の下型11によりプレス加工することにより、接着材8を溶融させて表皮材7とワディング9を接着する。
【0036】
また、
図5では、プレス機の下型11に電熱ヒータを設け、ワディング9側から積層の生地を直接加熱している。加熱されたプレス機の下型11で積層の生地を直接加熱しながら、プレス機の上型10およびプレス機の下型11によりプレス加工することにより、接着材8を溶融させて表皮材7とワディング9を接着する。もちろん、熱源が上部、すなわちプレス機の上型10に備えられている場合も工程及び完成品について前述の実施例と相違ないことはいうまでもない。
【0037】
次に、
図6および
図7を用いて、本実施例における車両用シートの製造方法について説明する。
図6は、本実施例の車両用シートの製造工程の概要を示している。
【0038】
先ずはじめに、工程aにおいてシート表皮材原反の裁断を行う。次に、工程bにおいて
図4或いは
図5に示した方法を用いてシート表皮材の凹面接着を行う。この工程bは、上記したように、表皮材7、接着材8、ワディング9の三層の素材を加熱しながらプレス機によりプレス加工を施す工程である。
【0039】
続いて、シート表皮材の各ピースを縫製する(工程c)。また、別のラインでは、金属材料等の成形・加工によりシートのフレームを形成し(工程d)、リクライニングアジャスタやシートレバーなどのシート機構部品の組み付けが行われる(工程e)。
【0040】
さらに別のラインでは、トリムカバーとウレタンの一体発泡(工程f)、トリムカバーとウレタンパッドの接着成形(工程g)などの処理が行われる。
【0041】
図6に示すように、それぞれの工程で形成されたシートの各部はシートアッセンブリー工程(工程h)でシートとして組み立てられる。その後、検査(工程i)を経て、自動車メーカなどへ出荷される(工程j)。
【0042】
上述のシート表皮材の凹面接着工程(工程b)について、その工程の内訳を
図7に示す。表皮材6、接着材8、クッション材となるワディング9を三層に重ね合わせて積層の生地を形成する(工程k)。次に、この積層の生地を
図4或いは
図5に示した方法を用いてプレス加工を施し、生地を凹形状に加工する(工程l)。
【0043】
以上説明したように、本実施例の車両用シートおよびその製造方法によれば、表皮材に牛皮のような天然皮革(本革)を用いた場合であっても、シート表面の凹部にチリジワ或いは銀ジワなどの細かい皺が少ない車両用シートを製造し、提供することができる。
【0044】
また、シートの凹部(窪み)のシートカバーの生地を予め凹形状に形成しておくことにより、シートアッセンブリー工程でシートカバーを凹形状に加工する必要が無くなり、作業性が向上する。
【実施例2】
【0045】
図8および
図9を用いて、本発明の別の実施例である自動車シートなどの車両用シートについて説明する。
図8は、
図1に示す車両用シート1の凹部(窪み)6の部分のシートカバーの一部断面を示している。本実施例におけるシートカバーは、
図8に示すように、表皮材7、クッション材となるワディング9、接着材8、形状維持材となる芯地12の四層の素材を加熱しながらプレス機によりプレス加工した積層の生地を用いている。
【0046】
この
図8に示す積層の生地は、
図2に示した生地と同様に、プレス面に曲面(凹凸面)を有する金型を用いることにより、予め凹形状に形成されている。
図8の生地を、
図1の車両用シート1の凹部(窪み)6に用いることで、立体的な凹部を形成することができる。また、予め凹形状が形成された生地を用いることにより、表皮材7の表面にチリジワ或いは銀ジワが生じるのを防ぐことができる。さらに、形状維持材である芯地12を含む生地により形成しており、より確実に凹形状を形成し、その凹形状を維持することができる。
【0047】
この形状維持材である芯地12には、綿、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、ポリプロピレン等を素材とする織物や編物、或いは、ポリエステル、レーヨン、ナイロン、アクリル、ポリプロピレン等を素材とする不織布を用いる。
【0048】
この凹形状の積層の生地は、
図9に示すように、凸型のプレス機の上型10と凹型のプレス機の下型11で、表皮材7、ワディング9、接着材8、芯地12の四層の素材を加熱しながらプレス加工することにより形成する。
【0049】
図10に本実施例における車両用シートの製造方法の一部工程を示す。
図10は、実施例1において
図6で説明した工程bの内訳を示している。表皮材7、ワディング9、接着材8、芯地12を四層に重ね合わせて積層の生地を形成する(工程m)。次に、この積層の生地を
図4或いは
図5に示した方法を用いてプレス加工を施し、生地を凹形状に加工する(工程n)。
【0050】
以上説明したように、本実施例の車両用シートおよびその製造方法によれば、表皮材に牛皮のような天然皮革(本革)を用いた場合であっても、シート表面の凹部にチリジワ或いは銀ジワなどの細かい皺が少ない車両用シートを製造し、提供することができる。
【0051】
また、本発明は、シート表面のベルトバックル周辺部分に対して凹形状を形成する際に適用することも可能である。
【0052】
また、シートの凹部(窪み)部のシートカバーの生地を予め凹形状に形成しておくことにより、シートアッセンブリー工程でシートカバーを凹形状に加工する必要が無くなり、作業性が向上する。
【0053】
また、シートの凹部(窪み)を形成する部分に形状維持材である芯地12を含む生地を用いることで、シートの凹形状を長期に渡り維持することが可能となる。
【0054】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。