(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
イオン源装置においては、引出電流値の増加が望まれている。イオン源装置の引出電流値は、イオンが生成される容器と引出電極との間の距離や電位差といったパラメータにより決定される。しかし、これらのパラメータは、引出エネルギやイオンビームのエミッタンスといったイオン源装置へ要求される別の性能から決定されてしまう。従って、引出電流値を増大させるためにパラメータを自由に設定することができないので、引出電流値を増大させることが難しかった。
【0005】
そこで、本発明では、イオン源装置への要求性能を満たしつつ、引出電流値を増大させることが可能なイオン源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るイオン源装置は、電子を放出する一対の第1の電極と、電子が閉じ込められると共に原料ガスが供給される領域を一対の第1の電極の間に画成し、電子と原料ガスとが衝突して発生したイオンが引き出される孔部を有する第2の電極と、第2の電極との間で電位差を形成するように、第2の電極から引き出されたイオンの引出方向に沿って第2の電極から離間して配置された引出電極と、第2の電極と引出電極との間に設けられた中間電極と、を備え、第2の電極と中間電極との間の第1の電位差は、第2の電極と引出電極との間の第2の電位差よりも大きい。
【0007】
この装置によれば、第2の電極が画成する領域で生成されたイオンは、第2の電極と中間電極との電位差に対応する引出電流値と引出エネルギをもって孔部から引き出される。そして、中間電極と引出電極との間において、引出エネルギが中間電極と引出電極との電位差に対応するように変化するが、引出電流値は維持される。従って、引出エネルギは、第2の電極と引出電極との間の第2の電位差に基づいて決定される。この第2の電位差は、要求される引出エネルギを満たすように決定することができる。一方、引出電流値は、第2の電極と中間電極との間の第1の電位差に基づいて決定される。従って、引出電流値を決定する電位差を、引出エネルギを決定する電位差に左右されることなく設定することが可能になる。そして、第1の電位差は、第2の電位差よりも大きいので、引出エネルギに基づく電位差により決定される引出電流値よりも増大させることができる。これにより、要求される引出エネルギを満たしつつ、引出電流量を増大させることができる。
【0008】
第2の電極の電位は、正の電位であり、中間電極の電位は、負の電位であり、引出電極の電位は、接地電位であってもよい。この構成によれば、所望の引出エネルギと所望の引出電流値とを有する正のイオンを引き出すことができる。
【0009】
中間電極の電位を調整する電位調整部をさらに備えてもよい。この構成によれば、第2の電極と中間電極との間の第1の電位差を調整することが可能になる。第1の電位差は、引出電流値を決定する。従って、引出電流値の大きさを制御することができる。
【0010】
第2の電極と中間電極との間の距離を制御するために、中間電極の位置を調整する位置調整部をさらに備えてもよい。この構成によれば、第2の電極と中間電極との間の距離を調整することが可能になる。この距離は、引出電流値を決定する。従って、引出電流値の大きさを制御することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、要求性能を満たしつつ、引出電流値を増大させることが可能なイオン源装置が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を実施するための形態を詳細に説明する。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るイオン源装置を有する粒子加速システムを示す正面図である。
図1に示すように、粒子加速システム1Aは、イオン源装置10A、加速器30、輸送部40及び支持部50を備える。以下の説明においては、粒子加速システム1Aを水平面に載置した状態における装置の上下方向をZ軸方向とし、後述するイオンの輸送経路Pを含む平面内、且つ、Z軸方向に垂直な方向をX軸方向とし、Z軸方向及びX軸方向に垂直な方向をY軸方向とする。粒子加速システム1Aは、例えばα粒子、陽子、重陽子等のイオンを生成すると共に加速させる。粒子加速システム1Aは、加速させたイオンを、例えば陽電子放出断層撮影(PET:Positron Emission Tomography)、中性子捕捉療法(BNCT:Boron Neutron Capture Therapy)等を行う装置に供給する。
【0015】
粒子加速システム1Aにおいて、イオン源装置10Aと加速器30とは、輸送部40によって互いに接続される。イオン源装置10A、加速器30及び輸送部40は、ZX平面上に配置される。イオン源装置10Aに対してX軸正方向側に輸送部40が配置され、輸送部40のZ軸正方向側に加速器30が配置される。また、イオン源装置10Aの下方(Z軸負方向)側に支持部50が設けられる。粒子加速システム1Aは、台座S上に載置される。
【0016】
イオン源装置10Aは、気体分子からプラズマの状態のイオンを生成する装置である。イオン源装置10Aは、複数種類のイオンを生成可能である。イオン源装置10Aは、例えばヘリウムからα粒子を生成可能であり、また、水素から陽子を生成可能である。なお、イオン源装置10Aは、必ずしもα粒子及び陽子を生成可能でなくてもよい。イオン源装置10Aの具体的な構成については後述する。
【0017】
加速器30は、イオン源装置10Aによって生成されたイオンを加速して、荷電粒子線を作り出す。本実施形態においては、加速器30として、サイクロトロンを例示している。なお、加速器30は、サイクロトロンに限定されず、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン、ライナック等であってもよい。
【0018】
加速器30は、略円筒形状を呈し、その中心軸線L2がZ軸方向に延在する向きに配置される。加速器30は、イオン源装置10Aよりも、Z軸方向において高い位置に配置される。加速器30は、加速されるべきイオンが加速器30の所定位置に入射されると、そのイオンを加速する。この加速器30では、加速されるべきイオンは、加速器30の下面(Z軸負方向の面)側の中心部に開口した入射部30aに入射される。なお、加速器30の中心軸線L2は、Z軸方向に延在していなくてもよく、例えば、図中に示す粒子加速システム1A全体がY軸を中心として90°回転した状態とされて、中心軸線L2がX軸方向に延在してもよい。また、図中に示す粒子加速システム1A全体がX軸を中心として90°回転した状態とされて、中心軸線L2がY軸方向に延在してもよい。この場合、イオン源装置10Aの中心軸線L1はXY平面内に位置する。
【0019】
輸送部40は、イオン源装置10Aによって生成されたイオンを、イオン源装置10Aから加速器30へ輸送する。輸送部40は、アインツェルレンズ41、偏向電磁石42及びベローズ43を有する。アインツェルレンズ41は、輸送されるイオンを収束させる。偏向電磁石42は、磁場を生成し、当該磁場によって、アインツェルレンズ41を通過したイオンの輸送方向をZX平面内において曲げる。偏向電磁石42は、イオンを加速器30の入射部30aへ案内する。
【0020】
支持部50は、イオン源装置10Aを支持する機構である。支持部50は、イオン源装置10Aに対して着脱可能な複数の架台である。なお、支持部50を構成する複数の架台のそれぞれは、輸送部40に対してイオン源装置10Aが互いに異なる取付角度及び取付位置となるように、イオン源装置10Aを支持してもよい。すなわち、支持部50は、これら着脱可能な複数の架台を交換することにより、輸送部40に対するイオン源装置10Aの取付角度及び取付位置を調整可能である。支持部50は、イオン源装置10Aと接続される側とは反対側において、台座Sに支持されている。
【0021】
以下、イオン源装置10Aの構成について詳細に説明する。
【0022】
イオン源装置10Aは、加速器30の外部に設けられた外部イオン源である。イオン源装置10Aは、略円筒形状を呈し、その中心軸線L1はZX平面内に位置する。イオン源装置10Aは、延在方向における一端において、中心軸線L1に対して斜めに傾斜した端面10aを有する。イオン源装置10Aは、端面10aが略垂直となるように配置される。端面10aは、輸送部40のアインツェルレンズ41における筐体41aのX軸負方向側の外面に対向する。イオン源装置10Aは、ZX平面内において、端面10a側である一端側が他端側よりもZ軸方向において高い位置となるように、中心軸線L1が傾いて配置される。
【0023】
図2は、
図1のイオン源装置10Aの内部構造をZ軸正方向から見た断面図である。
図2に示すように、イオン源装置10Aは、真空箱11、気体分子流路12、電極13、電磁石14、引出電極15及び中間電極16を有する。
【0024】
真空箱11は、イオン源装置10Aの内部に配置される。真空箱11は、図示しない真空ポンプと接続されており、その内部を真空状態に保持する。真空箱11は、気体分子流路12を介して、内部に原料ガスとしての気体分子を導入する。例えば、イオンとしてα粒子が生成される場合には、気体分子としてヘリウムを用いる。なお、α粒子以外のイオンが生成される場合には、そのイオンに対応した気体分子を用いる。
【0025】
電磁石14は、真空箱11内に磁場を形成する。電磁石14は、Y軸方向において真空箱11を挟むように対を成して設けられる。これにより、電磁石14は、真空箱11内に、Y軸方向に概略沿った方向の磁場を形成する。電磁石14は、真空箱11内に形成する磁場の強度を適切に調整することにより、磁場の作用によって真空箱11内に電子を閉じ込める。
【0026】
電極13は、アノード電極13a(第2の電極)と、一対のカソード電極13b,13b(第1の電極)とを有する。アノード電極13aは、Y軸方向視における真空箱11の中央付近に設けられる。一対のカソード電極13b,13bは、中心軸線L1と交差する方向(即ちY軸方向)にアノード電極13aを挟むように設けられる。
【0027】
アノード電極13aは、Y軸方向に沿った中心軸線L3を有する円筒状を成し、サポート17によって真空箱11に対し支持されて真空箱11内に設けられる。なお、アノード電極13aの中心軸線L3の方向は、イオン源装置10Aの中心軸線L1に沿った方向としてもよい。アノード電極13aの円筒面には、サポート17に設けられた気体分子流路12の先端が接続され、気体分子流路12を介してアノード電極13aに気体分子が導入される。また、アノード電極13aには、サポート17に設けられた電気配線17aを介して所定の電位が与えられる。例えば、アノード電極13aには、正の電位である+16kVが与えられる。アノード電極13aのY軸方向に沿った両端面は、カソード電極13b,13bと対面する。それぞれの両端面の略中央には、カソード電極13bから放出された電子を受け入れるための受入孔部13abが設けられる。アノード電極13aの円筒面には、イオンを引き出すためのスリット13aa(孔部)が設けられる。スリット13aaは、中心軸線L1上に設けられる。
【0028】
カソード電極13bは、例えば熱電子放出によって真空箱11内に電子を供給する。具体的には、アノード電極13aの受入孔部13abを介して、アノード電極13aの内部に電子を供給する。カソード電極13bは、冷却配管18に接続され、冷却配管18によって真空箱11に対し支持されている。カソード電極13bは、冷却配管18中を流通する冷媒によって冷却される。冷却配管18と真空箱11との接点には真空シール19が配置されている。また、カソード電極13b,13bには、冷却配管18に設けられた電気配線18aを介して所定の電位が与えられる。
【0029】
電極13においては、一方のカソード電極13bから電子(e
−)が放出され、一対のカソード電極13b,13b間で電子が往復する。この際、電磁石14により、アノード電極13aの円筒軸方向(Y軸方向)に磁場が生成されると、電子は、螺旋運動をしながら、アノード電極13aに衝突することなくアノード電極13a内に閉じ込められる。アノード電極13a内において一対のカソード電極13b,13b間を往復する電子が、気体分子流路12により導入されたヘリウム等の気体分子と衝突することで、α粒子等のイオンが生成される。
【0030】
引出電極15は、引出電圧が印加されることによって、真空箱11内からイオンを引き出す。引出電極15は、印加される引出電圧に対応した引出エネルギで、真空箱11内からイオンを引き出す。すなわち、真空箱11から引き出されたイオンは、アノード電極13aの電位(Va)と引出電極15の電位(Vp)との電位差(ΔV2=Va−Vp)に対応した引出エネルギを有する。
【0031】
引出電極15は、一例として、タングステン製の厚さが4mm程度である平板であり、アノード電極13aから引き出されたイオンを通過させる孔15aを有する。孔15aは、一例として、高さ10mm、幅20mmの矩形状である。この孔15aの中心軸線は、中心軸線L1に一致する。引出電極15は、中心軸線L1に沿ってアノード電極13aから第2の距離(D2:
図3参照)だけ離間するようにサポート21を介して真空箱11内に配置される。サポート21は、一端に引出電極15が取り付けられ、他端は真空シール19を介して真空箱11の外部に導かれる。サポート21には、引出電極15に所定の電位を与えるための電気配線21aが設けられる。引出電極15には、例えば、接地電位(すなわちゼロ電位)が与えられる。従って、アノード電極13aの電位(Va=+16kV)と引出電極15の電位(Vp=0kV)との間において、アノード電極13aから見た第2の電位差(ΔV2)は、−16kVであり、真空箱11から引き出されるイオンはこの第2の電位差(ΔV2)に応じた引出エネルギを有する。
【0032】
中間電極16は、一例として、タングステン製の厚さが3mm程度である平板であり、アノード電極13aから引き出されたイオンを通過させる孔16aを有する。孔16aは、一例として、高さ10mm、幅20mmの矩形状である。この孔16aの中心軸線は、中心軸線L1に一致する。中間電極16は、中心軸線L1に沿ってアノード電極13aから第1の距離(D1:
図3参照)だけ離間するようにサポート21,22を介して真空箱11内に配置される。一例として、引出電極15から中間電極16までの第3の距離(D3:
図3参照)は、3.5mm程度である。第1の距離(D1)は、一例として7mmである。中間電極16が取り付けられたサポート22は、絶縁ガイシ23を介して引出電極15が取り付けられたサポート21に取り付けられる。また、サポート22の他端は、真空シール19を介して真空箱11の外部に導かれる。サポート22には、中間電極16に所定の電位を与えるための電気配線22aが設けられる。中間電極16には、例えば、負の電位が与えられる。中間電極16の電位(Vm)は、アノード電極13aの電位(Va)を基準にすると−16kV以上46kV以下の値を取り得る。また、中間電極16の電位(Vm)は、グランド電位を基準にすると0kV以上30kV以下の値を取り得る。一例として、中間電極16の電位(Vm)が−30kVであるとする。この場合、アノード電極13aの電位(Va=+16kV)と中間電極16の電位(Vm=−30kV)との第1の電位差(ΔV1)は、46kVであり、真空箱11から引き出されるイオンはこの第1の電位差(ΔV1)に応じた引出電流値を有する。
【0033】
以下、イオン源装置10Aの作用効果について詳細に説明する。
図3は、実施形態に係るイオン源装置10Aが備えるアノード電極13a、引出電極15及び中間電極16との配置と、電位との関係とを模式的に示す図である。
【0034】
図3に示されるように、引出電極15は、アノード電極13aに対して中心軸線L1に沿って第2の距離(D2)だけ離間する。中間電極16は、アノード電極13aに対して中心軸線L1に沿って第1の距離(D1)だけ離間する。そしてアノード電極13aの電位(Va)は一例として+16kVであり、引出電極15の電位(Vp)は一例としてゼロであり、中間電極16の電位(Vm)は一例として−30kVである。従って、アノード電極13aと中間電極16との第1の電位差(ΔV1)は、46kVであり、アノード電極13aと引出電極15との第2の電位差(ΔV2)は、16kVであり、中間電極16と引出電極15と第3の電位差(ΔV3)は、30kVである。ここで、第1の電位差(ΔV1)は、イオン源装置10Aに要求される引出電流値を満たすように設定される。また、第2の電位差(ΔV2)は、イオン源装置10Aに要求される引出エネルギを満たすように設定される。
【0035】
まず、アノード電極13aの内部で生成されたイオンは、第1の電位差(ΔV1)に基づいて、アノード電極13aのスリット13aaから引き出される。この引き出されたイオンは、第1の電位差(ΔV1)に基づく引出エネルギと引出電流値とを有する。ここで、引出エネルギとは、個々のイオンが有する速度に対応する速度エネルギとも言える。また、引出電流値とは、スリット13aaから引き出されるイオンの数であるとも言える。換言すると、第1の電位差(ΔV1)に基づいて加速されることにより所定の速度エネルギが与えられたイオンが、第1の電位差(ΔV1)に基づく数だけアノード電極13aから引き出される。ここで、第1の電位差(ΔV1)は、第2の電位差(ΔV2)よりも大きい。従って、引出エネルギ及び引出電流値は、中間電極16を設けない場合よりも大きくなる。
【0036】
イオンは、中間電極16の孔16aを通過して、中間電極16と引出電極15との間の領域に到達する。この領域では、第2の電位差(ΔV2)に基づいてイオンの特性が変化する。
【0037】
まず、孔16aを通過した後に引出電極15の孔15aを通過して真空箱11から引き出されるイオンの数は、第3の電位差(ΔV3)よって増減することはない。従って、引出電流値は、第1の電位差(ΔV1)の影響を受けるが、第3の電位差(ΔV3)の影響は受けないので、引出電極15の存在は、最終的な引出電流値の大きさに影響を与えない。このため、中間電極16を設けない場合よりも大きくされた引出電流値は維持される。
【0038】
一方、個々のイオンは第3の電位差(ΔV3)に基づいて減速され、最終的に、第2の電位差(ΔV2)に基づく速度に収束する。すなわち、引出エネルギは、結果的に第2の電位差(ΔV2)に基づく大きさに収束する。このため、中間電極16によって要求値よりも大きくされた引出エネルギは、要求値に収束する。従って、引出エネルギの点からみれば、中間電極16の存在は、結果的に引出エネルギの大きさに影響を与えない。
【0039】
従って、中間電極16を設けることにより、引出エネルギの要求値を満たしながら、引出電流値を増加させることができる。
【0040】
ここで、イオン源装置1の引出電流値は、空間電荷制限電流密度に依存する。空間電荷制限電流密度は、チャイルド・ラングミュアーの法則(Child-Langmuirの法則)によれば、下記式(1)により示される。式(1)によれば、空間電荷制限電流密度は、電圧値の3/2乗倍である。
【数1】
J
CL:空間電荷制限電流密度
V:引出電圧
d:電極間距離
式(1)によれば、引出電流値を大きくするためには、電極間距離(d)を小さくする、或いは、引出電圧(V)を大きくすることが考えられる。しかし、電極間距離(d)は、絶縁破壊やイオンビームのエミッタンスの点から取り得る値は制限される。また、引出電圧(V)は、本実施形態における第2の電位差(ΔV2)に対応する。第2の電位差(ΔV2)は、引出エネルギから決定される。
【0041】
そこで、このイオン源装置10Aによれば、アノード電極13aが画成する領域で生成されたイオンは、アノード電極13aと中間電極16との電位差(ΔV1)に対応する引出電流値と引出エネルギをもってスリット13aaから引き出される。そして、中間電極16と引出電極15との間において、引出エネルギが中間電極16と引出電極15との電位差(ΔV3)に対応するように変化するが、引出電流値は中間電極16と引出電極15との電位差(ΔV3)に関係なく維持される。従って、引出エネルギは、アノード電極13aと引出電極15との間の第2の電位差(ΔV2)に基づいて決定される。この第2の電位差(ΔV2)は、要求される引出エネルギを満たすように決定することができる。一方、引出電流値は、アノード電極13aと中間電極16との間の第1の電位差(ΔV1)に基づいて決定される。従って、引出電流値を決定する電位差(ΔV1)を、引出エネルギを決定する電位差(ΔV2)に左右されることなく設定することが可能になる。そして、第1の電位差(ΔV1)は、第2の電位差(ΔV2)よりも大きいので、引出エネルギに基づく電位差(ΔV2)により決定される引出電流値よりも増大させることができる。これにより、要求される引出エネルギを満たしつつ、引出電流量を増大させることができる。
【0042】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係るイオン源装置について説明する。
図4に示されるように、イオン源装置10Bは、引出電流値を調整可能な点で、第1実施形態のイオン源装置10Aと相違する。イオン源装置10Bは、電位調整部24と、位置調整部26とを有する。
【0043】
電位調整部24は、電源60と中間電極16とを接続する電気配線22aの途中に設けられる。電位調整部24は、中間電極16に与える電位を調整する。中間電極16の電位(Vm)が変わると、第1の電位差(ΔV1)が変わる。第1の電位差(ΔV1)は、既に述べたように引出電流値に影響する。従って、電位調整部24によれば、引出電流値を制御することができる。例えば、電位調整部24によれば、中間電極16を設けない場合に対して、引出電流値を1倍以上3倍以下程度の範囲において制御することができる。
【0044】
引出電流値は、既に述べたように空間電荷制限電流密度に依存する。空間電荷制限電流密度を示すチャイルド・ラングミュアーの法則によると、引出電流値は、アノード電極13aと中間電極16と第1の電位差(ΔV1)に加えて、アノード電極13aと中間電極16との間の距離(D1)にも依存する。具体的には、引出電流値を増加させるためには、距離(D1)を小さくすればよく、引出電流値を減少させるためには、距離(D1)を大きくすればよい。そこで、位置調整部26を用いてアノード電極13aに対する中間電極16の位置を調整する。位置調整部26は、一例として中心軸線L1に沿った方向に10mm程度のストロークを有する。位置調整部26によれば、中間電極16を設けない場合に対して、引出電流値をある程度の倍率の範囲において制御することができる。
【0045】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0046】
例えば、上記実施形態では、正のイオンが引き出される場合を例に説明した。実施形態のイオン源装置は、負のイオンが引き出される構成であってもよい。この場合には、アノード電極13aに負の電位が与えられ、中間電極16に正の電位が与えられ、引出電極15にはゼロの電位が与えられる。このような構成であっても、上記実施形態と同様に、引出エネルギの要求値を満たしながら、引出電流値を増加させることができる。
【0047】
また、上記実施形態では、アノード電極13aの電位を+16kVとし、中間電極16の電位を−30kVとし、引出電極15の電位をゼロとしたが、これらの大きさに限定されない。アノード電極13aの電位(Va)、中間電極16の電位(Vm)、及び引出電極15の電位(Vp)は、第1の電位差(ΔV1)と第2の電位差(ΔV2)との関係(ΔV1>ΔV2)を満たす所望の値としてよい。