【実施例】
【0037】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0038】
[実験例1]
餡に酵母細胞を添加し、官能評価を行った。餡としてはマロン餡、いも餡及び練り餡を評価した。
【0039】
(サンプルの調製)
マロン餡、いも餡及び錬り餡に、酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)を添加した。対照として、酵母細胞を添加しなかった餡を使用した。なお、「モイステックスSTD」は、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞をプロテアーゼ及び乳化剤で処理したものである。
【0040】
《マロン餡》
マロン餡は、生あん、水あめ、香料、マルトース、栗甘露煮ペースト、食塩、トレハロース、加工でんぷん、pH調整剤、増粘多糖類、香料、着色料(ウコン、カロチン)を原材料とするものであった。表1に示す割合で、マロン餡に酵母細胞及び少量の水を添加し、元のマロン餡の質量になるまで加熱することにより、試験区及び対照のマロン餡を調製した。
【0041】
【表1】
【0042】
《いも餡》
いも餡は、さつまいも、砂糖、還元水あめ、食塩、香料、pH調整剤、着色料(クチナシ、カロチン)を原材料とするものであった。表2に示す割合で、いも餡に酵母細胞及び少量の水を添加し、元のいも餡の質量になるまで加熱することにより、試験区及び対照のいも餡を調製した。
【0043】
【表2】
【0044】
《練り餡》
練り餡は、砂糖(白ザラ糖)、小豆、食塩を原材料とするものであった。表3に示す割合で、練り餡に酵母細胞及び少量の水を添加し、元の練り餡の質量になるまで加熱することにより、試験区及び対照の練り餡を調製した。
【0045】
【表3】
【0046】
(官能評価試験)
訓練されたパネラー12人にて各種餡の官能評価試験を行った。試験区及び対照の各種餡を比較し、各項目(素材の風味、甘味の広がり、総合的な美味しさ)でそれぞれ優れた方を選択させた。下記表4〜6に、対照及び試験区の各種餡の選択人数の結果を示す。
【0047】
【表4】
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
その結果、いずれの餡においても、酵母細胞を添加した試験区の餡の方が、対照と比較して、素材の風味が向上し、甘味の広がりが向上し、総合的な美味しさも向上したことが明らかとなった。また、試験区の餡は、甘味の後引きが強い傾向にあり、甘さや風味を強く感じる傾向にあった。
【0051】
より詳細には、マロン餡の場合、栗の風味が向上し、食した途中から立ち上がる栗の味が強調された。また、いも餡の場合には、いもの風味と甘味(中から後味)が強調され持続した。また、練り餡の場合には、小豆の風味と甘味(中から後味)が強調され持続した。
【0052】
[実験例2]
餡に添加する酵母細胞の割合を変化させて官能評価試験を行った。餡としては実験例1と同様の練り餡を使用した。
【0053】
(サンプルの調製)
錬り餡100質量部に対し、酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)を0.1、0.2、0.3、0.5、0.7、1.0、1.5又は2.0質量部添加し、それぞれ試験区のサンプルとした。また、対照として、酵母細胞を添加しなかった餡を使用した。
【0054】
(官能評価試験)
訓練されたパネラー12人にて各種餡の官能評価試験を行った。試験区及び対照の各種餡を比較し、各項目(素材の風味、甘味の広がり、総合的な美味しさ)でそれぞれ優れた方を選択させた。また、差がない場合にはその旨を回答させた。下記表7に、選択人数の結果を示す。表中、試験区の質量部の記載は、錬り餡100質量部に対して添加した酵母細胞の質量部を示す。
【0055】
【表7】
【0056】
その結果、餡100質量部に対し、酵母細胞を0.3〜1.5質量部添加すると、対照と比較して、素材の風味、甘味の広がり、総合的な美味しさが向上したと評価される傾向が認められた。特に、餡100質量部に対し、酵母細胞を0.5〜1.5質量部添加した場合に、官能評価の結果の向上が顕著であった。
【0057】
また、餡100質量部に対し、酵母細胞を2.0質量部添加すると、酵母臭の際立ちが気になったために、素材の風味、甘味の広がり、総合的な美味しさに影響を及ぼし、その結果、各項目で対照のほうが評価される傾向が認められた。
【0058】
[実験例3]
サンプルの形態に対する酵母細胞の影響を検討した。具体的には、液体状又は粉末状のサンプルに酵母細胞を添加して官能評価試験を行った。
【0059】
(液体状サンプルの調製)
0.5質量%ショ糖溶液100質量部に、酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)を1質量部添加し、試験区とした。対照として、酵母細胞を添加しなかった0.5質量%ショ糖溶液を使用した。
【0060】
(粉末状サンプルの調製)
ショ糖100質量部に、酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)を1、2又は3質量部添加し、試験区とした。対照として、酵母細胞を添加しなかったショ糖を使用した。
【0061】
(官能評価試験)
調製した各サンプルについて、官能評価試験を行った。評価基準は次の通りとした。下記表8に官能評価試験の結果を示す。表中、試験区の質量部の記載は、0.5質量%ショ糖溶液又はショ糖100質量部に対して添加した酵母細胞の質量部を示す。
《評価基準》
◎:甘味を強く感じる
○:やや甘味を感じる
△:標準
×:異味を感じる
【0062】
【表8】
【0063】
その結果、液体状サンプル、粉末状サンプル共に、サンプル100質量部あたり酵母細胞を0.5〜2質量部添加すると、対照と比較して甘味が強く感じられた。特に、サンプル100質量部あたり酵母細胞を1質量部添加すると、対照と比較して甘味の強さが顕著であった。また、粉末状サンプルに、サンプル100質量部あたり酵母細胞を2、3質量部添加したサンプルでは、酵母細胞の臭いがやや感じられた。
【0064】
[実験例4]
糖の種類に対する酵母細胞の影響を検討した。具体的には、粉末状のサンプル100質量部に酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)を2.0質量部添加して官能評価試験を行った。サンプルとして、各種の糖類を使用した。評価基準は、ブドウ糖の甘味の強さを標準として、以下の通りとした。対照として、酵母細胞を添加しなかったサンプルを使用した。表9に糖の種類及び官能評価試験の結果を示す。
《評価基準》
◎:標準より甘味を強く感じる
○:標準よりやや甘味を感じる
△:標準(ブドウ糖の甘味の強さ)
×:異味を感じる
【0065】
【表9】
【0066】
その結果、糖の種類に関わらず、酵母細胞を添加した試験区では、対照と比較して甘味が強く感じられることが明らかとなった。
【0067】
[実験例5]
甘味以外の風味に対する酵母細胞の影響を検討した。具体的には、粉末状の各種サンプル100質量部に酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)2質量部を添加して官能評価試験を行った。評価基準は次の通りとした。風味としては、塩味、旨味、苦味、酸味及び辛みを検討した。サンプルとしては、食塩(塩味)、グルタミン酸ソーダ(旨味)、抹茶パウダー(苦味)、レモンパウダー(酸味)及び胡椒(辛み)を使用した。対照として、酵母細胞を添加しなかったサンプルを使用した。表13に糖の種類及び官能評価試験の結果を示す。表中、試験区の質量部の記載は、各種類の糖100質量部に対して添加した酵母細胞の質量部を示す。
【0068】
《評価基準》
◎:風味を強く感じる
○:やや風味を感じる
△:標準
×:異味を感じる
【0069】
【表10】
【0070】
その結果、酵母細胞を添加することにより、甘味以外の風味も向上することが明らかとなった。より詳細には、塩味については、試験区では先味が上がり、後にも塩味が残る傾向が認められた。また、旨味については、試験区では旨味が強く感じられた。また、苦味については、試験区ではビター感が強く感じられた。また、酸味については、試験区では全体的に酸味の底上げがされているように感じられた。また、辛みについては、試験区では、後にまで胡椒感が持続する傾向が認められた。
【0071】
[実験例6]
モイステックスSTD(商品名、富士食品工業株式会社製)以外の酵母細胞について、風味向上効果を検討した。酵母細胞としては次の(1)〜(3)を使用した。なお、上述した通り「モイステックスSTD」は、酵母エキスを抽出した後の酵母細胞をプロテアーゼ及び乳化剤で処理したものである。
(1)パン酵母から酵母エキスを抽出した後、酵素処理等を行わずにそのまま乾燥させた酵母細胞(商品名「DYP−SY−02」、富士食品工業製)
(2)ビール製造を行った後のビール酵母を乾燥させた酵母細胞(商品名「ビール酵母(栄養酵母)」、アサヒフードアンドヘルスケア株式会社)
(3)パン酵母から上記(1)の酵母細胞とは異なる方法で酵母エキスを抽出した後、酵素処理を行わずにそのまま乾燥させた酵母細胞(発明者らによる試作品、未酵素処理酵母細胞)
【0072】
食塩又は上白糖100質量部に、各酵母細胞2質量部をそれぞれ添加し、官能評価試験を行った。対照として、酵母細胞を添加しなかったサンプルを使用した。評価基準は次の通りとした。風味としては、塩味又は甘さを検討した。表14に官能評価試験の結果を示す。表中、試験区の質量部の記載は、各サンプル(食塩又は上白糖)100質量部に対して添加した酵母細胞の質量部を示す。
【0073】
《評価基準》
◎:風味を強く感じる
○:やや風味を感じる
△:標準
【0074】
【表11】
【0075】
その結果、モイステックスSTD以外の酵母細胞にも風味向上効果があることが明らかとなった。しかしながら、酵素処理等を行っていない、パン酵母(DYP−SY−02)、ビール酵母(栄養酵母)、パン酵母(未酵素処理酵母細胞)のいずれの場合においても酵母臭が感じられた。この結果から、酵母エキスの抽出又はビール製造等の工程後の酵母細胞自体に風味向上効果があることが明らかとなった。特に、モイステックスSTDについては、風味の向上を阻害する異味を有しておらず、その風味増強効果が顕著であった。
【0076】
[実験例7]
酵母菌自体に風味向上効果があるのか否かについて検討した。酵母菌としては、カネカイースト(生イーストタイプ、カネカ製)、製パン用ドライイースト(秋田十條化成(株)製)を使用した。
【0077】
食塩又は上白糖100質量部に、各酵母菌2質量部をそれぞれ添加し、官能評価試験を行った。対照として、酵母菌添加しなかったサンプルを使用した。評価基準は次の通りとした。風味としては、塩味又は甘さを検討した。表15に官能評価試験の結果を示す。表中、試験区の質量部の記載は、各サンプル(食塩又は上白糖)100質量部に対して添加した酵母菌の質量部を示す。
【0078】
《評価基準》
◎:風味を強く感じる
○:やや風味を感じる
△:標準
【0079】
【表12】
【0080】
その結果、酵母菌自体には風味向上効果がないことが明らかとなった。また、カネカイースト、製パン用ドライイーストのいずれにおいても、酵母菌の添加による異味が感じられた。
【0081】
[実験例8]
酵母細胞による牡蠣の風味向上効果について検討した。具体的には、まず、1(w/v)%酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)−2(w/v)%食塩水に牡蠣を浸した。続いて、3時間浸漬後水を切った。続いて、100℃のスチームオーブンで9分間加熱した(試験区)。対照として、1(w/v)%酵母細胞−2(w/v)%食塩水の代わりに2(w/v)%食塩水を使用した点以外は試験区の牡蠣と同様に調理した牡蠣を使用した。
【0082】
訓練されたパネラー15人にて、調理後の各牡蠣について官能評価試験を行い、それぞれ優れた方を選択させた。下記表16に、対照及び試験区の各牡蠣の選択人数の結果を示す。その結果、試験区の牡蠣の方が旨い、味が濃いと感じる人が多数であった。
【0083】
【表13】
【0084】
[実験例9]
酵母細胞による牡蠣の風味向上効果について更に検討した。具体的には、まず、1(w/v)%酵母細胞(商品名「モイステックスSTD」、富士食品工業株式会社製)−2(w/v)%食塩水に牡蠣を浸した。続いて、3時間浸漬後水を切った。続いて、水を切った牡蠣の一部をサンプルとして回収した(加熱前試験区)。
【0085】
続いて、残りの牡蠣を100℃のスチームオーブンで9分間加熱した(加熱後試験区)。対照として、1(w/v)%酵母細胞−2(w/v)%食塩水の代わりに2(w/v)%食塩水を使用した点以外は試験区の牡蠣と同様に調理した牡蠣を使用した(加熱前対照、加熱後対照)。
【0086】
続いて、加熱前試験区、加熱後試験区、加熱前対照、加熱後対照の各牡蠣をフードプロセッサーでペースト状にし、水分含量、固形分含量、灰分、全窒素含量、コハク酸含量及びグリシン含量を測定した。表17に結果を示す。なお、コハク酸及びグリシンは、牡蠣の旨味成分であることが知られている。
【0087】
【表14】
【0088】
続いて、表17の結果に基づいて、牡蠣の加熱前後におけるコハク酸及びグリシンの減少率を算出した。結果を表18に示す。
【0089】
【表15】
【0090】
その結果、試験区の牡蠣では、対照の牡蠣よりも、加熱によるコハク酸及びグリシンの減少率がいずれも少ないことが明らかとなった。