【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
実施例1では、加工処理として加圧加温処理のみを行ったものを示す。具体的には原料としてセルロース原綿を用い、公知の適当な叩解処理により予め繊維に亀裂を生じさせた。加圧加温処理として、圧力鍋を用いて144kPaの圧力下で60分、セルロース原綿を沸騰水に浸漬させた。そして、その後セルロース原綿が含水した状態で、極細化処理として、砥石(粒度#240)を用いて、砥石の間に含水したセルロース原綿を挟み、砥石を両手で押さえつけながら縦横各10往復及び円を描くように時計回りと反時計回りとで各20回ずつ砥石を擦る叩解処理を行った。
図1に、極細化処理後、乾燥機により乾燥させた実施例1における試料を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。なお、
図1及び以下の他の図で示す写真の撮影には電子顕微鏡を用いた。
【0041】
[比較例1]
比較例1として、加工処理を行わず、実施例1と同様の極細化処理のみを行ったものを示す。
図5に、極細化処理後、乾燥機により乾燥させた比較例1における試料を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。
【0042】
図1と
図5とを対比すると、
図5では繊維径が10μmを超えるものが解繊されることなくそのまま残っているが、
図1では少しの極細化処理により効果的に解繊されていることがわかる(例えば
図1中の矢印参照)。このように、加工処理として加圧加温処理を行った後の繊維は処理性能が高められていることがわかる。
【0043】
[実施例2]
実施例2では、加工処理として凍結融解処理のみを行ったものを示す。具体的には原料としてセルロース原綿を用いた。凍結融解処理として、デュワーフラスコに液体窒素を導入し、その中に含水させたセルロース原綿を5分間浸漬させた後、常温で自然融解させた。その後セルロース原綿が含水した状態で、実施例1と同様の極細化処理を行った。
図2に、極細化処理後、乾燥機により乾燥させた実施例2における試料を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。
【0044】
図2と
図5(比較例1)とを対比すると、
図5では繊維径が10μmを超えるものが解繊されることなくそのまま残っているが、
図2では例えば図中の矢印で指す繊維など
図5に比べ繊維の解繊度合が高いことがわかる。このように、加工処理として凍結融解処理を行った後の繊維は処理性能が高められていることがわかる。
【0045】
また、
図1と
図2とを対比すると、
図1の方が繊維の解繊度合が高く、このことから、加圧加温処理と凍結融解処理とでは、それぞれ単独で実行した場合、加圧加温処理の方が繊維の処理性能の向上効果が高いといえる。
【0046】
[実施例3]
実施例3では、加工処理として加圧加温処理と凍結融解処理との両者を行ったものを示す。具体的には上記と同様に原料としてセルロース原綿を用い、公知の適当な叩解処理により予め繊維に亀裂を生じさせた。そして、実施例1と同じ加圧加温処理を行った後、実施例2と同じ凍結融解処理を行った。その後セルロース原綿が含水した状態で、実施例1と同様の極細化処理を行った。
図3に、極細化処理後、乾燥機により乾燥させた実施例3における試料を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。
【0047】
図3と
図5(比較例1)とを対比すると、
図3では少しの極細化処理により効果的に解繊されていることがわかる。このように、加工処理として加圧加温処理と凍結融解処理とを行った後の繊維は処理性能が高められていることがわかる。
【0048】
また、比較のため、
図6に、比較例2として、加工処理を行わずに極細化処理を十分に施した従来技術による試料(いわば比較例1の試料に対しさらに追加的に十分な極細化処理を行った試料)を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。
図3と
図6とを対比すると、
図3における方が効果的に解繊されていることがわかり、実施例3における優れた処理性能の向上が確認できる。
【0049】
また、
図3を、
図1及び
図2と対比すると、
図3が最も繊維の解繊度合が高いことがわかる。このことから、加圧加温処理と凍結融解処理との両者を行うことにより、繊維の処理性能を一層向上させることができるのがわかる。
【0050】
[実施例4]
実施例4では、実施例1と基本的には同じ処理を行ったが、加圧加温処理において、グリコール酸水溶液(濃度10wt%)を沸騰させた沸騰水にセルロース原綿を浸漬させた。
図4に、極細化処理後、乾燥機により乾燥させた実施例4における試料を1000倍に拡大して撮影した写真を示す。
【0051】
図4から明らかなように、少しの極細化処理により効果的に繊維が解繊されていることがわかる。そして、
図1(実施例1)と
図4とを比較すると、
図4に示す繊維の方がより解繊度合が高いといえる。このことから、加圧加温処理において、酸水溶液(グリコール酸水溶液)を沸騰させた沸騰水を用いる方が繊維の処理性能をより高めることができるのがわかる。
【0052】
[実施例5]
実施例5では、極細化処理を行う前の試料の状態を示す。具体的には、セルロース原綿に対し叩解処理を行った後、フィブリル化していないいわゆる芯の部分のみを叩解処理後の繊維から分離し、その芯の部分を試料とした。また、この試料には、上記と同様に公知の適当な叩解処理により予め繊維に亀裂を生じさせた。そして、その後、実施例4と同様にして、加圧加温処理において、圧力鍋を用いて144kPaの圧力下で30分、グリコール酸水溶液(濃度5wt%)を沸騰させた沸騰水に試料を浸漬させた。
図7に、加圧加温処理後、乾燥機により乾燥させた実施例5における試料を5000倍に拡大して撮影した写真を示す。
【0053】
図7と、実施例5における加圧加温処理前の芯の部分の試料(比較例3)を5000倍に拡大して撮影した写真を示す
図8とを比較すると、
図8の加圧加温処理前の状態から、
図7では繊維の芯の部分が効果的に解繊されていることがわかる。このように、加圧加温処理を行うことにより、繊維の処理性能が高められていることがわかる。
【0054】
[実施例6,7、比較例4]
さらに、繊度1.7dtexのリヨセル繊維に対し、上記の加工処理を行った例について説明する。以下では、このリヨセル繊維について、加工処理として、オートクレーブ装置を用いて、700kPaの圧力下で、165℃まで昇温させた水に一時間含浸させる加圧加温処理を行ったものを実施例6とし、実施例6と同様の加圧加温処理を行った後、実施例2と同様の凍結融解処理を行ったものを実施例7とし、加工処理を行わなかったものを比較例4として説明する。
【0055】
まず、
図9〜11を用いて、加工処理後の繊維の状態を示す。
図9〜11は1000倍に拡大した各例のリヨセル繊維の写真であり、
図9が実施例6、
図10が実施例7、
図11が比較例4のリヨセル繊維を示す。
図9〜11を比較すると、加工処理を行った繊維を示す
図9,10では、各繊維の表面に長さ方向に延びる縦筋が生じており、また表面がナノサイズの極細繊維に分かれていっていることがわかる。また、
図9と
図10とを比較すると、加工処理としてさらに凍結融解処理を行った繊維を示す
図10では、より一層極細繊維に分かれていることがわかる。
【0056】
次に、
図12〜17を用いて、加工処理が繊維に与える影響について説明する。
図12〜14は5000倍に拡大した各例のリヨセル繊維の断面の写真であり、
図12が実施例6、
図13が実施例7、
図14が比較例4のリヨセル繊維の断面を示す。
図12〜14を比較すると、加工処理を行った
図12,13に示す繊維については断面に細かな穴が生じていることがわかる。この穴は繊維の裂け目に相当するものであり、つまり、加工処理を行った繊維については、繊維内部において繊維の長さ方向に沿った多数の亀裂が生じていることがわかる。
【0057】
図15〜17は、さらに繊維に対して叩解処理(ビーターで1時間程度)を行った後の状態を示し、5000倍に拡大した叩解処理後の各例のリヨセル繊維の断面を示す。
図15が実施例6、
図16が実施例7、
図17が比較例4のリヨセル繊維の断面を示す。
図15〜17を比較すると、加工処理として加圧加温処理を行った繊維を示す
図15では、加工処理を行っていない繊維を示す
図17に比べ、繊維の断面に多くの亀裂が確認でき、また、繊維の表面からより極細の繊維に分かれていっていることがわかる。つまり、繊維内部で生じていた亀裂に沿って繊維が細かく裂けていっていることがわかる。さらに、加工処理として加圧加温処理と凍結融解処理とを行った繊維を示す
図16では、繊維内部で生じていた亀裂に沿って、
図15に比べさらに細かく繊維が裂けていっていることがわかる。このように、本実施形態の加工処理を行うことにより繊維内部に細かな亀裂が生じ、その細かな亀裂に沿って繊維が細かく裂けていっていることがわかる。つまり、繊維内部に細かな亀裂が生じることにより、加工処理を行うことによって極細繊維の生産効率が高められていることがわかる。
【0058】
次に、表1を用いて、加工処理を行った繊維から生成した極細繊維の強度について説明する。表1は、実施例6,7及び比較例4の繊維について、極細化処理としてそれぞれビーターにより2kg荷重で6時間叩解処理を行った各極細繊維をシート状に成形した後の各シートについての坪量(単位面積当たりの重さ)、厚さ、密度、及び、引張試験を行うことにより得た引張強度と比引張強さのデータを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
表1から明らかなように、加工処理を行わなかった比較例4の繊維に比べ、加工処理を行った実施例6,7の繊維では比引張強さが高くなっている。特に、加工処理として加圧加温処理に加えて凍結融解処理を行った実施例7の繊維では、比較例4の繊維に比べて、比引張強さが2倍以上に高められている。一本一本の繊維が極めて細い状態となると、単位体積当たりの繊維の構成本数が増加することにより強度が高まることがわかっており、実施例6,7の繊維は、比較例4の繊維に比べ、極細化が進展していることがわかる。このように加工処理を施した極細化用繊維を用いて極細繊維を製造することにより、極めて効率的に極細繊維を製造することができ、また、その結果、製造された極細繊維の強度を高めることも可能となる。
【0061】
さらに、加圧加温処理や凍結融解処理等の加工処理を施した極細化用繊維に対して叩解処理を行って得られた極細繊維を用いて抄紙したシートの比引張強さの試験結果を
図18,19を用いて示す。
図18は、加工処理の効果を確認するために行った実験試料作製方法と評価フローを示し、
図18(及び
図19)において「G」とあるのは何の前処理も行わなかったリヨセル繊維であり、
図18に示すように、リヨセル繊維に対してそのまま後述の叩解処理が行われている。「G−A」は加圧加温処理を行って叩解処理を行ったリヨセル繊維であり、具体的には加圧加温処理(高温・高圧処理)としてオートクレーブ(容量120リッター、蒸気加熱式)を用いて0.6MPaの圧力下で沸騰水に1時間浸漬させた後のリヨセル繊維である。「G−A−N1」及び「G−A−N2」は、加圧加温処理と凍結融解処理とを行って叩解処理を行ったリヨセル繊維であり、具体的には「G−A」と同様の加圧加温処理を行った後に、「G−A−N1」では凍結融解処理(凍結処理)として液体窒素を用いて−196℃の温度下で10分間放置した後融解させる処理を行い、「G−A−N2」では凍結融解処理として家庭用冷凍庫を用いて−15℃の温度下で1時間放置した後融解させる処理を行った。そして、各リヨセル繊維についてビーターによる叩解処理を所定時間(1時間、2時間、及び、4時間)行い、各繊維について処理時間ごと(1時間、2時間、及び、4時間)に熊谷理機工業(株)製の角形シートマシンを用いて250mm×250mm、坪量20g/m
2のシートを作製して、各シートの物性値を測定した。表2〜5に各シートの物性値を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
【表4】
【0065】
【表5】
【0066】
図19は、各シートに対して行った引張試験の結果であり、処理時間と比引張強さ(N/m・g)との関係を示す。なお、極細化が進むと、上記のように比引張強さも高くなるという関係にあり、即ち、比引張強さはシートの繊維径と相関があり、極細化がどの程度進んでいるのかの指標となる値である。
【0067】
図19から明らかなように、加圧加温処理や凍結融解処理の加工処理を行っている繊維(「G−A」、「G−A−N1」、「G−A−N2」)は、加工処理を行っていない繊維(「G」)に比べ、明らかに比引張強さが高くなっている。つまり、加工処理を行っている繊維(「G−A」、「G−A−N1」、「G−A−N2」)の方がより極細化が進んでいることを示す。また、加圧加温処理のみを行っている繊維(「G−A」)と、加圧加温処理に加え凍結融解処理を行っている繊維(「G−A−N1」、「G−A−N2」)と、を比較すると、叩解処理を2時間行った時点の比引張強さが加圧加温処理に加え凍結融解処理を行っている繊維の方が明らかに高くなっており、凍結融解処理も併せて行うことにより、より極細化が進んでいることがわかる。なお、4時間行った時点で「G−A−N1」、「G−A−N2」の比引張強さが低下しているが、これは叩解処理を行い過ぎたことにより繊維が長さ方向に千切れて短繊維化が起きていることによるものと考えられる。ただし、この短繊維化は、4時間の叩解処理を終えるまでに十分に繊維が極細化したことで、繊維を極細にするために加えられていた力が、繊維を千切れさせるように働くことになったことによるものであるといえ、「G−A−N1」、「G−A−N2」による極細繊維の生産効率の高さを反映したものといえる。
【0068】
本評価実験で用いたビーターは熊谷理機工業(株)製のナイアガラビータ(TAPPI標準型)を用いたが、本評価におけるビーターによる叩解は叩解方法の一例であって、叩解処理に用いる装置はビーターに限られない。また、本評価実験の目的は、あくまでも、加工処理なしの試料と比較することにより本発明の加工処理方法が叩解特性の向上と極細化繊維を得るのに格段に優れる効果を有することを示すことにある。したがって、叩解処理に用いる装置と叩解条件はその用途に応じて適宜選択される。
【0069】
本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。従って、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。