(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772029
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】ステアリング装置の防塵構造
(51)【国際特許分類】
B62D 1/16 20060101AFI20201012BHJP
【FI】
B62D1/16
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-212445(P2016-212445)
(22)【出願日】2016年10月31日
(65)【公開番号】特開2018-69941(P2018-69941A)
(43)【公開日】2018年5月10日
【審査請求日】2019年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古谷 孝宏
【審査官】
飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−091441(JP,A)
【文献】
特開2008−080991(JP,A)
【文献】
実開昭59−111766(JP,U)
【文献】
特開平10−287249(JP,A)
【文献】
特開2003−182593(JP,A)
【文献】
実開昭58−182868(JP,U)
【文献】
実開平01−063573(JP,U)
【文献】
国際公開第2011/154154(WO,A1)
【文献】
特開2006−069433(JP,A)
【文献】
実開昭62−040073(JP,U)
【文献】
特開2010−162978(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00−1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトのフロアに対する貫通部を包囲しながら起立して前記ステアリングシャフトの下側部分を被覆するダストカバーを備え、該ダストカバーの上端が前記ステアリングシャフトにおけるアッパージョイントより低い位置で樹脂カラーを介し回動自在に且つ軸心方向へ摺動自在に外嵌装着されていることを特徴とするステアリング装置の防塵構造。
【請求項2】
ステアリングシャフトの上側部分を軸支しているステアリングコラムのステアリングサポートへの組み付けを仲介するコラムブラケットをフロアまで延長して固定し、該コラムブラケットが前方からの外力に対するスティフナとして機能し得るように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のステアリング装置の防塵構造。
【請求項3】
ステアリングシャフトの下側部分が雌型のロアシャフトに雄型のアッパーシャフトを摺動自在に嵌挿してなるテレスコピック式の伸縮構造として構成され、前記アッパーシャフトの中途部に対してダストカバーの上端が外嵌装着されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のステアリング装置の防塵構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置の防塵構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4は一般的なキャブオーバー型車両におけるステアリング装置の一例を示すもので、運転者により操作されるステアリングホイール1を上端に備えたステアリングシャフト2は、ステアリングコラム3により回動自在に軸支され、そのままフロア4下まで延びてステアリングギヤボックス5に接続されるようになっており、ステアリングホイール1の操作力がステアリングシャフト2を介しステアリングギヤボックス5に伝達されてピットマンアーム6を揺動する大きな力に変換され、該ピットマンアーム6の揺動によりドラッグリンク7が押し引きされて、図示しないナックルアームやタイロッドを介し前輪が操舵されるようになっている。
【0003】
そして、ステアリングシャフト2を軸支しているステアリングコラム3は、ダッシュパネル8の車室側に組み付けられているステアリングサポート9によりコラムブラケット10を介して支持されるようにしてあるが、ステアリングシャフト2の下側部分は、キャブのチルトやキャブサスペンションの動作を拘束しないよう雌型のロアシャフト2aに雄型のアッパーシャフト2bを摺動自在に嵌挿してなるテレスコピック式の伸縮構造として構成されていて、強度部材としての役割を果たさないようになっているため、ステアリングホイール1,ステアリングシャフト2,ステアリングコラム3等から成るステアリング装置の荷重は、実質的に前記ステアリングサポート9により片持ちで支えられるようになっている。
【0004】
また、
図4中11はステアリングホイール1の傾斜角を調整し得るようステアリングシャフト2の中途部に屈折自在な継手部を構成するアッパージョイント、12はステアリングホイール1を調整位置に固定したり解除したりするためのアジャスティングレバー、13はステアリングコラム3を被覆するコラムカバー、14はステアリングシャフト2のフロア4に対する貫通部4aを包囲しながら起立して前記ステアリングシャフト2の下側部分を被覆するダストカバー、15はステアリングシャフト2のロアシャフト2aの下端をステアリングギヤボックス5に対し屈折自在に接続するロアジョイント、16はサイドレールを夫々示している。
【0005】
尚、この種のステアリング装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1,2等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−370651号公報
【特許文献2】特開2003−182593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、斯かるステアリング装置にあっては、ステアリングシャフト2がフロア4を貫通した構造となっていることから、該フロア4の貫通部4aを包囲しながら起立して前記ステアリングシャフト2の下側部分を被覆するダストカバー14により車室内を車外環境から隔絶するようにしているが、このダストカバー14は、フロア4の貫通部4a周囲から立ち上がるブーツ部14aと、該ブーツ部14aの上端に装着されたゴム製のベローズ部14bとにより構成され、該ベローズ部14bの上端がステアリングコラム3下端の板金部分(非回転物)に外嵌装着されるようになっていて、ステアリングシャフト2のアッパージョイント11が車室側に隔絶されるようにはなっていないため、その周囲の空間が貫通部4aを介し車外環境に曝された状態となり、アッパージョイント11に跳ね水や高圧洗浄水が掛かったり、異物が付着したりして不具合を招く虞れがあった。
【0008】
また、キャブオーバー型車両においては、衝突時等にキャブの前面に大きな外力が加わった場合に、キャブの先端と乗員との距離が乗用車に比べて短いため、外力の衝撃をどのように吸収して乗員の保護を図るかが重要な課題となっており、ステアリングコラム3のステアリングサポート9への組み付けを仲介するコラムブラケット10をフロア4まで延長して固定し、コラムブラケット10が前方からの外力に対するスティフナとして機能し得るようにすることが提案されているが、従来のダストカバー14の上端がステアリングコラム3下端の板金部分3aに外嵌装着されて比較的大きな径を成し且つアッパージョイント11の高さまで延びていたため、これを更に取り巻くようにしてコラムブラケット10をフロア4まで延長しようとすると、該コラムブラケット10が運転者の両足の間に大きく張り出して運転の邪魔になるという問題もあった。
【0009】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ステアリングシャフトのアッパージョイントを車外環境から隔絶し且つダストカバーの上端付近を従来よりもスリム化し得るステアリング装置の防塵構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ステアリングシャフトのフロアに対する貫通部を包囲しながら起立して前記ステアリングシャフトの下側部分を被覆するダストカバーを備え、該ダストカバーの上端が前記ステアリングシャフトにおけるアッパージョイントより低い位置で樹脂カラーを介し回動自在に且つ軸心方向へ摺動自在に外嵌装着されていることを特徴とするステアリング装置の防塵構造、に係るものである。
【0011】
而して、このようにすれば、ステアリングシャフトの回転と軸心方向への摺動を許容しつつ該ステアリングシャフトのアッパージョイントより低い位置にダストカバーの上端を外嵌装着することが可能となり、該ダストカバーによりアッパージョイントが車室側に隔絶されて車外環境から保護されると共に、ダストカバーの上端をステアリングコラム下端の板金部分に外嵌装着していた従来構造と比較してダストカバーの高さが低くなり且つ上端付近がスリム化されることになる。
【0012】
例えば、本発明は、ステアリングシャフトの上側部分を軸支しているステアリングコラムのステアリングサポートへの組み付けを仲介するコラムブラケットをフロアまで延長して固定し、該コラムブラケットが前方からの外力に対するスティフナとして機能し得るように構成されている場合に好適であり、ダストカバーの高さが低くなり且つ上端付近がスリム化されることでコラムブラケットのフロアまでの延長を支障なく実現することが可能となる。
【0013】
更に、本発明をより具体的に実施するにあたり、ステアリングシャフトの下側部分が雌型のロアシャフトに雄型のアッパーシャフトを摺動自在に嵌挿してなるテレスコピック式の伸縮構造として構成されている場合には、前記アッパーシャフトの中途部に対してダストカバーの上端が外嵌装着されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記した本発明のステアリング装置の防塵構造によれば、ダストカバーによりアッパージョイントを車室側に隔絶して車外環境から保護することができるので、アッパージョイントの健全性を長期間に亘り確保することができ、しかも、ダストカバーの高さを下げて上端付近のスリム化を図ることができるので、コラムブラケットを運転者の両足の間に大きく張り出させることなくフロアまで延長してスティフナとして機能させることができ、運転に支障をきたすことなく前方からの外力に対する適切な補強を図ることができるといった種々の優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0017】
図1〜
図3は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図4と同一の符号を付した部分は同一物を表わしている。
【0018】
図1に示す如く、本形態例においては、キャブのダッシュパネル8の車室側に組み付けられているステアリングサポート9によりコラムブラケット17を介してステアリングコラム3を支持するようにしたキャブオーバー型車両を対象としており、これまでステアリングサポート9とステアリングコラム3との間に介在して両者を組み付けるための部材でしかなかったコラムブラケットを、その下部がフロア4まで延長されて該フロア4に対し固定されるようにした新たなコラムブラケット17に変更し、該コラムブラケット17を、前方からの外力に対するスティフナとして機能させ得るようにしてある。
【0019】
そして、このようにコラムブラケット17を変更するにあたり、ステアリングシャフト2のフロア4に対する貫通部4aを包囲しながら起立して前記ステアリングシャフト2の下側部分を被覆するダストカバー18を採用しており、該ダストカバー18の上端が前記ステアリングシャフト2におけるアッパージョイント11より低い位置で樹脂カラー19を介し回動自在に且つ軸心方向へ摺動自在に外嵌装着されている。
【0020】
即ち、ステアリングシャフト2の下側部分が雌型のロアシャフト2aに雄型のアッパーシャフト2bを摺動自在に嵌挿してなるテレスコピック式の伸縮構造として構成されているので、前記ダストカバー18の上端は、前記アッパーシャフト2bの中途部に対して外嵌装着されるようにしてある。
【0021】
ここで、前記ダストカバー18は、先に
図4で説明した従来のダストカバー14の場合と同様に、フロア4の貫通部4a周囲から立ち上がるブーツ部18aと、該ブーツ部18aの上端に装着されたゴム製のベローズ部18bとにより構成されているが、前記ブーツ部18aが従来よりも低く形成され且つ前記ベローズ部18bが上向きに先細りの形状を成して樹脂カラー19に装着されるようになっている。
【0022】
より具体的に述べると、
図2に拡大して示す如く、前記樹脂カラー19は、樹脂製のアウターレース19aとインナーレース19bとによる二重環構造を成しており、該インナーレース19bは、十文字断面のスプライン軸を成すアッパーシャフト2bの軸心方向に延びる各山部2b
1,2b
2,2b
3,2b
4(
図3参照)に対応した溝部を内周面に有し、アッパーシャフト2bに対し一体に回転し且つ軸心方向には摺動し得るようになっている。
【0023】
また、アウターレース19aは、前記インナーレース19bに対し低摩擦で滑り回転し得るように外嵌されており、その外周面には、前記ダストカバー18におけるベローズ部18bの上端が固着されていて、ステアリングシャフト2が回転してもベローズ部18bが非回転のまま保持されるようにしてある。
【0024】
而して、このように構成すれば、ステアリングシャフト2の回転と軸心方向への摺動を許容しつつ該ステアリングシャフト2のアッパージョイント11より低い位置にダストカバー18の上端を外嵌装着することが可能となり、該ダストカバー18によりアッパージョイント11が車室側に隔絶されて車外環境から保護されると共に、ダストカバー14(
図4参照)の上端をステアリングコラム3下端の板金部分に外嵌装着していた従来構造と比較してダストカバー18の高さが低くなり且つ上端付近がスリム化されることになる。
【0025】
従って、上記形態例によれば、ダストカバー18によりアッパージョイント11を車室側に隔絶して車外環境から保護することができるので、アッパージョイント11の健全性を長期間に亘り確保することができ、しかも、ダストカバー18の高さを下げて上端付近のスリム化を図ることができるので、コラムブラケット17を運転者の両足の間に大きく張り出させることなくフロア4まで延長してスティフナとして機能させることができ、運転に支障をきたすことなく前方からの外力に対する適切な補強を図ることができる。
【0026】
尚、本発明のステアリング装置の防塵構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0027】
2 ステアリングシャフト
2a ロアシャフト
2b アッパーシャフト
3 ステアリングコラム
4 フロア
4a 貫通部
9 ステアリングサポート
11 アッパージョイント
17 コラムブラケット
18 ダストカバー
19 樹脂カラー