特許第6772047号(P6772047)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772047
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】不織布及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/413 20120101AFI20201012BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20201012BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   D04H1/413
   D04H3/16
   A61F13/511 300
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-241269(P2016-241269)
(22)【出願日】2016年12月13日
(65)【公開番号】特開2018-95994(P2018-95994A)
(43)【公開日】2018年6月21日
【審査請求日】2019年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 竜規
(72)【発明者】
【氏名】佐瀬 正和
(72)【発明者】
【氏名】新津 太一
【審査官】 堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−108714(JP,A)
【文献】 特開2015−061959(JP,A)
【文献】 特開2001−131855(JP,A)
【文献】 特開2014−227637(JP,A)
【文献】 特開平08−282722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H1/00−18/04
A61F13/511
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の肌と接触し得る面を有する部材が、不織布によって形成され、該不織布は、繊維と、該繊維に固着する樹脂塊とを含み、該樹脂塊は、該繊維を形成する樹脂を含む、着用物品であって、
前記不織布に大型樹脂塊が複数存在し、
該大型樹脂塊は、不織布厚み方向における長さが10μm以上で且つ前記不織布の表面から一部が突出したものであり、
その複数の大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さが60μm以上であり、
前記着用者の肌と接触し得る面から前記大型樹脂塊が突出している、着用物品
【請求項2】
前記不織布に前記大型樹脂塊が1cmの単位面積当たり1個以上存在する請求項1に記載の着用物品
【請求項3】
前記大型樹脂塊の不織布厚み方向における長さの分布の標準偏差が50以下である請求項1又は2に記載の着用物品
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布の構成繊維は一般に、微細なノズルから溶融樹脂を連続的に吐出し、その吐出された溶融樹脂を牽引細化することで製造される。例えばメルトブローン不織布は、溶融した熱可塑性樹脂をノズルから連続的に吐出すると共に、高温高速の空気流を吹き出すことによりこれを引き延ばして繊維とし、該繊維を集積してウェブを形成することで製造される(特許文献1参照)。
【0003】
不織布の構成繊維の表面に粒子を固着させて、不織布に種々の特性を付与する技術が知られている。例えば特許文献2には、繊維の表面に複数の粒子が固着して、該粒子に起因する凸部が該繊維の表面から複数突出している構成繊維を含む不織布が記載されており、特許文献2の実施例では粒径5.2〜55μmの粒子を使用している。特許文献2記載の不織布は、熱可塑性樹脂を含む粒子を、該熱可塑性樹脂と同種又は異種の熱可塑性樹脂を含む繊維を構成繊維とする原反不織布に散布した後、加熱処理によって該粒子と該繊維とを融着によって固着させる工程を経て製造される。特許文献2記載の不織布は、該不織布の表面に若干の水分が存在していたとしても、該不織布にヒトの肌が触れたときに、水分とヒトの肌との接触面積が小さくなることから、該水分に起因する湿り気を感じにくくなるという利点があるとされており、その好適な用途として、使い捨ておむつや生理用ナプキン等の吸収性物品における最外面に位置する部材、例えば裏面シートが挙げられている。
【0004】
また特許文献3には、不織布を用いた研磨物品として、不織布の構成繊維にバインダーを介して平均粒径範囲0.1〜50μmの有機又は無機研磨粒子を固着させたものが記載されている。特許文献3記載の研磨物品は、バインダーの前駆物質を不織布に塗布した後、該前駆物質に研磨粒子を塗布し、しかる後、該前駆物質の硬化を生じさせる条件にさらす工程を経て製造される。
【0005】
また従来、溶融樹脂を成形して所定形状の樹脂製品を製造するに際し、その溶融樹脂にガスを添加混合することが行われている。例えば特許文献4には、溶融紡糸法による合成繊維の製造において、その原料である溶融樹脂に、二酸化炭素や窒素などのガスを添加混合することによって発泡繊維を製造することが記載されている。この発泡繊維は、不連続な気孔を多数含むフィラメント又はステープル状の繊維であり、低密度故に軽量で、且つ気孔を有することから保温性に優れるため、カーペット用、詰綿用、服地用などに使用される。
【0006】
また特許文献5には、射出成形機を用いてポリマー基材(例えば自動車ヘッドライトのリフレクター)を射出成形した後に、同じ射出成形機内で、改質材料の溶解した加圧二酸化炭素を該ポリマー基材に接触させる無電解メッキ処理を行い、該ポリマー基材上にメッキ膜を形成することが記載され、該加圧二酸化炭素として、7.38MPa以上20MPa以下の圧力を有する超臨界二酸化炭素を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/077638号
【特許文献2】特開2016−108714号公報
【特許文献3】特表2003−523837号公報
【特許文献4】特開2003−129342号公報
【特許文献5】特開2008−188799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
メルトブローン不織布などの不織布は、表面が平らでさらさらとした触感であり、その風合いは概ね良好なものと認識されていることから、使い捨ておむつにおける着用者の肌と接する部材など、人肌に触れる物品に使用されている。一方、例えば金属や紙においては従来、風合いを高めて高級感を演出するなどの目的で、その表面に梨地と呼ばれる微細な凹凸形状を施す加工を施すことが行われており、微細な凹凸形状と、それによる滑りの抑制効果とによって、独特なざらざらとした触り心地とそれによる高級感を実現している。
【0009】
不織布についても、近年の用途拡大などを背景に、例えばギフト用ラッピングに用いる場合など、高級感のある風合いが要望される場合がある。しかし、不織布は断面のどこをとっても同形状の繊維から成る集合体であり、梨地加工などの表面に対する押圧処理によって微細な凹凸形状を施すことは困難である。また、例えば特許文献3に記載されているように、不織布の構成繊維にバインダーを介して粒子を固着させ、該粒子に起因する凸部によってざらざらとした触り心地を実現することも可能ではあるが、斯かる方法は、該粒子の不織布からの脱落抑制処理が必要であることや加工時の手間を考慮すると、現実的に行うことが難しい。
【0010】
従って本発明の課題は、独特なざらざらとした触り心地で高級感のある不織布及びその製造方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、繊維と、該繊維に固着する樹脂塊とを含み、該樹脂塊が、該繊維を形成する樹脂を含む不織布であって、大型樹脂塊が複数存在し、該大型樹脂塊は、不織布厚み方向における長さが10μm以上で且つ前記不織布の表面から一部が突出したものであり、その複数の大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さが60μm以上である不織布を提供するものである。
【0012】
また本発明は、溶融樹脂を、流路を介してノズルから吐出すると共に、その吐出された溶融樹脂に対して熱風を吹き付けることによって溶融樹脂を引き延ばして繊維とし、該繊維を集積して不織布とする工程を有し、前記ノズルから吐出される前の前記溶融樹脂に、ガス、又は加熱によりガスを発生するガス発生物質を添加し、前記流路の圧力が2MPa以上である、不織布の製造方法を提供するものである。
【0013】
また本発明は、着用者の肌と接触し得る面を有する部材が、前記の本発明の不織布によって形成され、その着用者の肌と接触し得る面から前記大型樹脂塊が突出している着用物品を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、独特なざらざらとした触り心地で高級感のある不織布及びその製造方法が提供される。また本発明によれば、そのような高品質の不織布を備えた着用物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の不織布の一実施態様を拡大して模式的に示した図である。
図2図2は、本発明の不織布の表層部の厚み方向に沿う断面を、該表層部に存する大型樹脂塊の一例と共に模式的に示す断面図である。
図3図3は、本発明の不織布の製造方法の一実施態様を示す模式図である。
図4図4は、図3に示す製造装置におけるノズル及びその周辺部(ダイ)の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を、その好ましい実施態様に基づき図面を参照しながら説明する。本発明は不織布に係るものである。本発明にいう不織布とは、構成繊維が不定方向を向いて無規則に堆積してなる布のことであり、織物地や編み物地のように構成繊維が規則的に配列された布とは対極の位置にあるものである。
【0017】
不織布には、その製造方法に起因して様々な種類のものがある。例えばエアスルー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、レジンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、ヒートロール不織布などが挙げられる。これらの不織布はすべて本発明の適用対象となるものである。また2枚以上の不織布の積層体や、1枚又は2枚以上の不織布と、不織布以外の他のシート材料、例えばフィルムとの積層体からなる複合シートも本発明の適用対象となる。不織布の積層体としては、例えばスパンボンド−メルトブローン−スパンボンド(SMS)不織布や、スパンボンド−メルトブローン(SM)不織布などが挙げられる。複合シートとしては、不織布と、液不透過性ないし液難透過性の透湿性シートとの積層体などが挙げられる。本発明の適用対象として特に好適なものは、メルトブローン不織布である。
【0018】
不織布は少なくとも1種の構成繊維から構成されている。構成繊維は1種でも良く、あるいは2種以上でも良い。構成繊維は例えば数mmないし数十mm程度の短繊維でも良く、無限長の長さを持つ連続フィラメントであっても良い。短繊維を用いるか、それとも連続フィラメントを用いるかは、不織布の製造方法に応じて適切に選択すれば良い。
【0019】
図1には、本発明の不織布の一実施態様が示されている。同図に示す通り、本実施態様の不織布1は、繊維2と、該繊維2に固着する樹脂塊3とを含んでいる。図1中、黒色の不定形状部分が樹脂塊3であり、不織布1の平面方向及び厚み方向の双方において散在している。不織布1においては、樹脂塊3の分布パターンは不規則であるが、規則的であっても良い。後述する本発明の不織布の製造方法によれば通常、樹脂塊3の分布パターンは不規則なものとなる。不織布1に含まれる複数の樹脂塊3の形状は通常、一定ではなく不定形である。
【0020】
繊維2は、繊維形成性の樹脂から構成されていることが好ましい。そのような樹脂としては、例えば各種の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニルやポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリパーフルオロエチレン等のフッ素樹脂などが挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
繊維2の繊維径は、不織布の具体的な用途に応じて適切に設定できる。不織布1を例えば吸収性物品などの着用物品の構成部材として用いる場合には、繊維2の繊維径は、好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.1μm以上、そして、好ましくは60μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。不織布における繊維の繊維径は次の方法で測定される。即ち、不織布の表面を、走査型電子顕微鏡を用いて観察したときの繊維50本の平均値から測定する。
【0022】
樹脂塊3は、繊維2を形成する樹脂を含む。不織布1は、後述する本発明の不織布の製造方法によれば通常、ノズルから吐出された溶融樹脂を牽引細化して得た繊維2の集積体であるところ、樹脂塊3は、この溶融樹脂における樹脂からなる。樹脂塊3は、不織布1が有する独特なざらざらとした触り心地の要因となっている必須成分であるところ、その重要な樹脂塊3が、不織布1の主体をなす繊維2と同質の樹脂を含むことで、樹脂塊3が繊維2とが異種の素材から形成されている場合に比して、樹脂塊3の繊維2に対する固着力が高まり、それによって樹脂塊3の不織布1からの脱落が起こり難くなる。また、樹脂塊3が繊維2と同質の樹脂から形成されていることで、樹脂塊3の形成材料の別途添加などの工程が不要となるため、不織布1の生産性の向上が期待できる。
【0023】
樹脂塊3の繊維2に対して融着によって固着している。後述する本発明の不織布の製造方法によれば、樹脂塊3は繊維2に対して融着により固着するので、接着剤などの固着手段は不要である。また、1個の樹脂塊3が固着する繊維2の数は特に制限されず、1本又は複数本があり得る。
【0024】
不織布1の主たる特徴の1つは、独特なざらざらとした触り心地を有している点にあるところ、この特徴的な触り心地は、図1に示すように、不織布1に樹脂塊3の一種である大型樹脂塊30が複数存在することに起因するものであり、より具体的には図2に示すように、不織布1の表層部即ち不織布1の表面1S及びその近傍に、樹脂塊3として、不織布厚み方向Zにおける長さL0が10μm以上で且つ不織布1の表面1Sから一部が突出した大型樹脂塊30が複数存在することに起因するものである。即ち、樹脂塊3の一種である大型樹脂塊30は、不織布1の厚み方向Zに沿う長さL0が10μm以上で且つ不織布1の表面1Sから厚み方向Zの外方に所定の突出長さL1を持つ点で特徴づけられ、斯かる点以外は、不織布1に含まれる他の樹脂塊3と同じであり、不織布1の構成繊維である繊維2と同質の樹脂を含む。本発明には、不織布に含まれる樹脂塊の一部が大型樹脂塊である形態、及び不織布に含まれる樹脂塊の全部が大型樹脂塊である形態の両方が含まれる。後述する本発明の不織布の製造方法によれば通常、前者の形態の不織布が得られる。
【0025】
本発明でいう「不織布の表面」とは、不織布厚み方向に沿う断面を、走査型電子顕微鏡(JCM−5100 日本電子株式会社製)を用いて200倍に拡大して観察した場合に、その拡大画像において、不織布厚み方向の最外方に位置する複数の繊維によって形成される、不織布厚み方向と直交する面(不織布を外部から観察した場合に観察可能な面)である。前記拡大画像に基づいて不織布の表面を決定する際には、不織布厚み方向の外方に単独で大きく突出しているようなイレギュラーな繊維は除外した上で、不織布厚み方向の最外方に位置する複数の繊維の一部でもって、不織布厚み方向と直交する方向に広がる仮想的な面を形成し、その仮想的な面を当該不織布の表面とする。
【0026】
そして、不織布1においては、複数の大型樹脂塊30それぞれの不織布厚み方向Zにおける平均長さ(図2に示す長さL0の平均値)が60μm以上である。不織布厚み方向における平均長さは次の方法によって測定される。即ち、測定対象の不織布の厚み方向に沿う断面を、走査型電子顕微鏡(JCM−5100 日本電子株式会社製)を用いて200倍に拡大して観察し、その拡大画像において、該不織布の厚み方向と直交する方向(不織布の表面方向)の長さにして10mmにわたる領域に存する全ての大型樹脂塊(不織布厚み方向における長さが10μm以上で且つ不織布の表面から一部が突出した樹脂塊)それぞれの不織布厚み方向における最大長さを測定し、それら測定値の平均値を、大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さとする。
【0027】
ざらざらとした触り心地の不織布を得るためには、不織布の表面に凸部が多数突出形成されている必要がある。ここで、人の手指の指紋は、指表面の凸部(隆線)と凹部(谷線)とからなる凹凸で成り立っており、その凸部の高さは約50μmである。また、指表面と接触する対象の表面に凹凸がある場合、該凹凸を構成する凸部と凹部とで接触時の指変形の度合いが異なることに起因して、凹凸の存在が強く認識される。
【0028】
本発明者らは、以上の知見に基づき、独特なざらざらとした触り心地で高級感のある不織布を得るためには、不織布に含まれる大型樹脂塊の不織布厚み方向における長さ(図2中符号L0で示す長さ)が人の指表面の指紋の凸部高さ50μmを超える必要があるとの結論に達し、不織布に含まれる複数の大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さが60μm以上であることの必要性に想到した。尤も、好ましい触り心地を維持し、また、大型樹脂塊を不織布に確実に固定する観点から、大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さは、好ましくは65μm以上、そして、好ましくは160μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。樹脂塊(大型樹脂塊)の不織布厚み方向における平均長さは、後述する本発明の不織布の製造方法において、溶融樹脂に吹き付ける熱風の流量を調整することで調整可能である。
【0029】
高級感のある独特なざらざらとした触り心地をより一層確実に実現する観点から、大型樹脂塊の1cmの単位面積当たりの数は、好ましくは1個以上、さらに好ましくは50個以上、そして、好ましくは200個以下、さらに好ましくは100個以下である。ここで、単位面積を1cmとしている理由は、人の手指が不織布などの対象と接触する面積が、通常約1cmであることによるものである。後述する本発明の不織布の製造方法によれば、大型樹脂塊の1cmの単位面積当たりの数を前記範囲にすることが可能である。
【0030】
また、触り心地を高めるためには、不織布に含まれる大型樹脂塊の不織布厚み方向における長さ(図2中符号L0で示す長さ)が均一であることが好ましい。斯かる観点から、大型樹脂塊の不織布厚み方向における長さの分布の標準偏差は、好ましくは70以下、さらに好ましくは40以下である。後述する本発明の不織布の製造方法によれば、大型樹脂塊の不織布厚み方向における長さの分布の標準偏差を前記範囲にすることが可能である。標準偏差は、コンピュータソフトウエア「エクセル」のSTDEVP関数を用いて算出する。
【0031】
本発明の不織布の坪量は、該不織布の用途等に応じて適宜設定すれば良い。本発明の不織布を例えば吸収性物品などの着用物品の構成部材として用いる場合には、好ましくは1g/m以上、さらに好ましくは5g/m以上、そして、好ましくは50g/m以下、さらに好ましくは30g/m以下である。この範囲の坪量を有することで、不織布は充分な強度のものとなり、着用物品の構成部材、特に着用物品における着用者の肌と接触し得る面を構成する部材として用いた場合であっても破れ等の不都合が生じにくくなる。
【0032】
次に本発明の不織布の製造方法について、その好ましい実施態様に基づき説明する。図3及び図4には、本実施態様の製造方法で使用する不織布の製造装置10が示されている。本実施態様の製造方法は、溶融樹脂を、流路15を介してノズル16から吐出すると共に、その吐出された溶融樹脂に対して熱風を吹き付けることによって溶融樹脂を引き延ばして繊維2とし、該繊維2を集積して不織布1とする工程を有する。
【0033】
製造装置10は、メルトブローン法により不織布1を製造するものであり、図3に示すように、押出機11と、押出機11に原料樹脂を供給するホッパー12と、押出機11の内部のスクリュー(図示せず)を回転させるモータ13と、押出機11から該スクリューによって押し出された溶融樹脂を吐出するダイ(口金)14とを具備する。ダイ14の内部には、図4に示すように、溶融樹脂を吐出するためのノズル16が設けられた溶融樹脂の流路15が形成されている。ダイ14の下端部にはノズル16が複数設けられ、その複数のノズル16は、ダイ14の長手方向(不織布1の搬送方向MD)と直交する方向CDに間欠配置され、それぞれ、鉛直方向に沿って下方に延びている。
【0034】
ダイ14の内部には、図4に示すように、ノズル16から吐出された溶融樹脂に吹き付ける熱風を吹き出すための環状の送気口17が設けられている。送気口17は、方向CDに延びるノズル16の列(図示せず)を挟むようにその搬送方向MDの前後両側に位置すると共に、該ノズル16の列と平行に延びている。熱風は、ダイ14に接続された送風機18から供給される。
【0035】
ダイ14の下方には、図3に示すように、繊維2の捕集器としてのベルトコンベア19が設けられている。ベルトコンベア19は、ノズル16から吐出された溶融樹脂から生成された繊維2を、その上部の捕集面で捕集・集積して不織布1(メルトブローン不織布)を形成し、符号MDで示す方向に搬送する。
【0036】
このような構成の製造装置10において、熱可塑性樹脂などの原料樹脂がホッパー12から押出機11に供給され、押出機11の内部で溶融混練された後、ダイ14に供給される。ダイ14の内部においては、押出機11から供給された溶融樹脂が流路15を経てノズル16に供給される。また、送風機18において外気が加熱されて、その加熱された外気が送風機18から熱風として送気口17に供給される。そして、ノズル16から溶融樹脂が吐出されるのと同時に、送気口17から熱風が高速で噴射され、吐出された溶融樹脂を極細化して繊維2とする。ここで生成した繊維2は、ベルトコンベア19の捕集面上に集積され、不織布1を形成する。以上述べた製造装置10の構成は、公知のメルトブローン方式の不織布製造装置と基本的に同じである。
【0037】
本実施態様の製造方法の主たる特徴の1つとして、ノズル16から吐出される前の溶融樹脂に、ガス、又は加熱によりガスを発生するガス発生物質を添加することで、該溶融樹脂中に気泡を混入させる点が挙げられる。製造装置10においては、図3に示すように、押出機11における図示しないスクリューが内蔵されている部分(シリンダバレル)に、押出機11の内部に連通する導入管20が設けられており、この導入管20からガス又はガス発生物質を導入することで、押出機11の内部に存する溶融樹脂にガス又はガス発生物質を添加することができる。
【0038】
ノズル16から吐出される前の溶融樹脂に導入管20からガス又はガス発生物質を添加することにより、溶融樹脂はガスの気泡を多数含有するようになる。ガス発生物質を添加した場合には、高温の溶融樹脂に添加されることで加熱されて分解し、ガスを発生する。この気泡入りの溶融樹脂は、ダイ14の流路15において、流路15の延びる方向に複数の気泡が間欠配置され、それらの気泡間に溶融樹脂が存在する形態をなし、斯かる形態でノズル16から吐出される。この気泡間に挟まれた溶融樹脂の長さが十分に長い場合、即ち、溶融樹脂の一端(吐出方向の後端)がダイ14の内部に位置する状態で、他端(吐出方向の前端)が送気口17による熱風の吹き付け位置よりもさらに下方(ベルトコンベア19側)に位置し得る場合には、該溶融樹脂は通常通り、ノズル16から吐出直後に送気口17から噴射された熱風によって引き延ばされ極細化されて繊維2とされる。一方、気泡間に挟まれた溶融樹脂の長さが短い場合、即ち、溶融樹脂の一端がダイ14の内部に位置する状態で、他端が送気口17による熱風の吹き付け位置よりも上方のダイ14側に位置するような場合には、該溶融樹脂は、熱風による引き延ばしが十分になされずにベルトコンベア19の捕集面上に落下し、その周辺の繊維2に固着して樹脂塊3となる。但し、このような長さの短い溶融樹脂であっても、熱風が吹き付けられることによって、引き延ばしされずとも細片化されて、ベルトコンベア19の捕集面上に落下し得る。以上が、樹脂塊3の典型的な生成メカニズムである。こうして、繊維2と、該繊維2に固着し、該繊維2を形成する樹脂からなる樹脂塊3とを含む、不織布1が製造される。本実施態様の製造方法によれば、既存の不織布の製造設備を用いて効率良く不織布1を製造することができる。
【0039】
樹脂塊3をより確実に生成させる観点から、ノズル16から吐出される溶融樹脂1kg中に含まれるガスの量(溶融樹脂に直接添加されたガスの量と、溶融樹脂に添加されたガス発生物質から発生したガスの量との総和)は、好ましくは0.0001mol以上、さらに好ましくは0.005mol以上、そして、好ましくは0.1mol以下、さらに好ましくは0.07mol以下である。
溶融樹脂1kg中に含まれるガスの量は、ガス発生物質(発泡剤)としてアゾジカルボンアミド(ADCA)を用いる場合はADCA1g当たり0.009mol(1気圧で200ml)のガス量として算出できる。溶融樹脂中に直接ガスを送り込む場合はその送り込み量から、溶融樹脂1kg中に含まれるガスの量を算出できる。
【0040】
溶融樹脂に添加するガスとしては、溶融樹脂に対して不活性のガスが好ましく、溶融樹脂における樹脂の種類に応じて適宜選択すれば良い。原料樹脂として前述した熱可塑性樹脂を用いる場合、具体的には例えばポリプロピレンを用いる場合には、使用可能なガスとして、窒素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロロエタン、フロン、水蒸気を例示できる。
【0041】
また、溶融樹脂に添加するガス発生物質としては、溶融樹脂に添加することでガスを発生し得る物質を用いることができ、好適なガス発生物質(発泡剤)として、アゾジカルボンアミド(ADCA)を例示できる。ADCAは、熱分解温度が200〜210℃であり、熱分解により窒素、一酸化炭素、二酸化炭素を発生し、微量のアンモニアも発生する。ADCAを使用する際には、原料樹脂としてポリプロピレンが好ましく用いられる。溶融樹脂に対するADCAの添加量は、ノズルから吐出される溶融樹脂1kg中に含まれるガスの量を前記範囲とする観点から、好ましくは0.0001mol以上、さらに好ましくは0.0005mol以上、そして、好ましくは0.1mol以下、さらに好ましくは0.07mol以下である。
【0042】
また、本実施態様の製造方法においては、ノズル16から吐出される前の溶融樹脂にガス又はガス発生物質を添加することに加えてさらに、流路15の圧力を2MPa以上とする。ガス又はガス発生物質の添加によって溶融樹脂中に生じた気泡が均一に分布せる観点から、流路15の圧力は、2MPa以上、好ましくは3MPa以上、さらに好ましくは4MPa以上である。流路15の圧力の上限については、溶融樹脂中の気泡の均一性向上の観点からは特に制限はなく、装置の故障などの不都合を招かない範囲で適宜設定すれば良い。流路15の圧力は、押出機11における図示しないスクリューによる溶融樹脂の押し出し圧に比例し、これの押し出し圧を調整することで調整可能である。
【0043】
尚、本発明でいうところの「流路の圧力」とは、これを前記特定範囲に設定する意義からも明らかなように、ノズル16から吐出される直前の溶融樹脂にかかる圧力の指標としての意味を持つものであるから、その測定位置は、ノズル16の先端の吐出孔になるべく近い位置が好ましく、少なくともノズル16が設けられているダイ14の内部の流路15であることが好ましい。流路の圧力は、圧力センサーなどを用いて常法に従って測定可能である。
【0044】
送気口17から噴射される熱風の流量が多い方が、樹脂塊3の細片化が促進されやすく、延いては不織布1の触り心地の向上に有効である。斯かる観点から、熱風の流量は、好ましくは400Nm/h/m以上、さらに好ましくは800Nm/h/m以上である。一方、熱風の流量は、紡糸直後の繊維同士が絡まらず、不織布の地合いを均一にし、強度を高くし、さらに破れの不具合が生じ難くする観点から、好ましくは2000Nm/h以下、さらに好ましくは1600Nm/h以下である。
【0045】
以上のようにして製造された本発明の不織布は、独特なざらざらとした触り心地を活かした用途に好適である。本発明の不織布は、例えば、使い捨て着用物品(着用時に着用者の腰周り又は股下に装着される使い捨て着用物品)全般に適用でき、具体的には、展開型使い捨ておむつ、パンツ型使い捨ておむつ、生理用ナプキン等の、吸収体を具備する吸収性物品の他、吸収体を具備しない着用物品、例えば、手術着等の医療用着用物品、使い捨ての下着、マスク等のその他の着用物品にも好適である。こうした着用物品において、着用者の肌と接触し得る面を有する部材が本発明の不織布で形成され、且つその着用者の肌と接触し得る面から前記大型樹脂塊が突出していることで、着用物品の着用感を向上させることができる。具体的には例えば、吸収性物品における吸収体よりも着用者の肌に近い位置に配される液透過性シート(例えば表面シート)として、本発明の不織布を用いることができる。
【0046】
また本発明の不織布は、独特なざらざらとした触り心地に起因して、従来の不織布には無い高級感があることから、その高級感を活かした用途、例えば、包装紙、住宅の内壁材などにも好適である。
以上、本発明について説明したが、本発明は前述した実施態様に制限されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【実施例】
【0047】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。
【0048】
〔実施例1〜11及び比較例1〕
図3及び図4に示す製造装置10と同様の構成の不織布製造装置を用いて、下記表1に示す条件で、表1に示す坪量の単層構造のメルトブロー不織布を製造した。原料樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いた。実施例1〜11では、ノズルから吐出される前の溶融樹脂への気泡混入方法として、前記ADCAの該溶融樹脂への添加を採用した。比較例1では溶融樹脂への気泡混入は実施しなかった。
【0049】
〔参考例〕
梨地加工が施された紙として、坪量190g/mの王子エフテックス株式会社のエナジー四六判Y目に梨地加工を施したものを用いた。梨地加工は株式会社モリカワの梨地[大]を用いて行った。この紙を参考例とした。この参考例の紙は、凸部の大きさが63μmであり、独特なざらざらとした触り心地で高級感を有するとされているものである。紙の凸部の大きさは次の方法によって測定した。紙の断面を、走査型電子顕微鏡(JCM−5100 日本電子株式会社製)を用いて200倍に拡大観察し、凸部とそれに隣接する凹部とに着目して、該凸部の頂部と該凹部の底部との間の紙平面方向と直交する方向における距離を測定する。任意の20個の凸部とそれ隣接する凹部とについて斯かる距離を測定し、その平均値を紙の凸部とする。
【0050】
各実施例及び比較例の不織布について、前記方法により大型樹脂塊の不織布厚み方向における平均長さを測定すると共に、下記方法により肌触りを評価した。その結果を下記表1に示す。
【0051】
<肌触りの評価方法>
評価対象(不織布又は紙)の表面を成人男女3人のパネラーに指先で触れさせ、その触り心地を5点満点の点数で評価してもらった。具体的には、参考例の紙を5点満点(独特なざらざらとした触り心地で高級感がある)、比較例1の不織布を0点(独特なざらざらとした触り心地に乏しい)として、各パネラーに各実施例の不織布に点数を付けてもらった。評価対象の点数は、各パネラーの点数の合計点であり、満点は15点である。点数が高いほど、参考例の紙に近い触感であることを指し、即ち、独特なざらざらとした触り心地で高級感を有することを示す。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
1 不織布
1S 不織布の表面
2 繊維
3 樹脂塊
30 大型樹脂塊
10 不織布製造装置
11 押出機
12 ホッパー
13 モータ
14 ダイ
15 流路
16 ノズル
17 送気口
18 送風機
19 ベルトコンベア
20 導入管
図1
図2
図3
図4