【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は車エアバッグ用高強靭継目無鋼管を提案し、その化学元素配合として、質量%で、
C: 0.05〜0.15%、
Si: 0.1〜0.45%、
Mn: 1.0〜1.9%、
Ni: 0.1〜0.6%、
Cr: 0.05〜1.0%、
Mo: 0.05〜0.2%、
Cu: 0.05〜0.50%、
Al: 0.015〜0.060%、
Nb: 0.02〜0.1%、
V: 0.02〜0.15%を含有し、
残部はFe及び他の不可避不純物である。
【0011】
本技術方案において、不可避不純物は主にSとP元素であり、Sはできるだけ0.015%以下に抑えられ、Pは0.025%以下に抑えられる。
【0012】
本発明の車エアバッグ用高強度・高靭性継目無鋼管に各元素の設定原理は下記の通りである。
【0013】
C:Cは、鋼の強度を高める主要元素の一つである。炭化物を形成することで鋼強度を有効に高めることができ、添加コストも低い。C含有量が0.05wt.%未満では、継目無鋼管の引張強さを850MPa以上とすることができない。一方、C含有量が0.15wt%を超えると、継目無鋼管の靭性、低温耐衝撃性、低温耐バースト性及び溶接性などを含めた総合性能に影響を及ぼす。本発明の技術方案においてC含有量を0.05〜0.15wt.%に抑えることが必要である。
【0014】
Si:Siは、製鋼において還元剤と脱酸素剤として用いられる。鋼においてSiは炭化物を形成することがなく、且つ鋼に対する固溶度が高く、その中にフェライトを強化して鋼強度を高めることができる。しかし、Si含有量が0.45wt%を超えると、靭性、特に低温耐衝撃靭性が大幅に低下するとともに、鋼管の溶接性も悪化する。そのため、Si含有量を0.10〜0.45wt.%に抑えすべきである。
【0015】
Mn:Mnは重要な合金化元素と弱炭化物を形成する元素であり、主に固溶強化により鋼強度を高める。Mn含有量を増加させると、鋼の変態点温度の低下をもたらし、焼入れ臨界冷却速度が低くなる。Mn含有量が1.0wt.%以上になると、焼入れ性を著しく向上させることができるが、Mn含有量が1.9wt.%を超えると、衝撃靱性の低下が著しくなる。そのため、本技術方案においてMn含有量を1.0〜1.9wt.%に設定する必要がある。
【0016】
Ni:Niは、鋼の強度と焼入れ性を向上させる元素であり、靭性を向上させる元素でもある。総合的に鋼のコストの点から、本発明の技術方案において、Ni含有量を0.1〜0.6wt.%の範囲にしてこそ、他の元素と協働して理想的な強化作用が得られる同時に靭性の向上も達成できる。
【0017】
Cr:Crは鋼において強炭化物を形成する元素である。鋼において一部のCrが鉄に置換されて合金セメンタイトが形成され、安定性が向上される。余分のCrがフェライトに固溶し、フェライトを固溶強化して強度と硬度を高める。その同時に、Crは、鋼の焼入れ性を高めるのに主要な元素であるが、その含有量が1.0wt.%を超えると、溶接部位の靭性に影響を及ぼす。コストの点も含めて、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管において、Cr含有量は0.05〜1.0wt.%とする。
【0018】
Mo:Moは鋼の中で固溶強化と焼入れ性を高める作用がある。Mo含有量を0.05wt.%とする場合、著しい固溶強化と焼入れ性を高める作用が得られる。Mo含有量が一定の範囲を超えると、鋼管溶接部位の靭性に影響を及ぼす。同時に、コストの点も含めて考慮すると、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管において、Mo含有量を0.05〜0.2wt.%とする。
【0019】
Cu:Cuは鋼の靭性を高めることができる。例えCu含有量が少ない場合でも、それ相応の効果を得ることもできる。Cu含有量が0.50wt.%を超えると、鋼の熱間加工性に大きい影響を及ぼすことになり、複合元素を添加しても鋼管の熱間加工性を確保することができない。従って、本発明の技術方案においてCu含有量を0.05〜0.50wt.%とする必要がある。
【0020】
Al:Alは鋼において脱酸素作用を有し、靱性及び加工性を高めるのにも有効である。その含有量が0.015%以上になる場合、鋼の靱性及び加工性を高める効果が著しくなる。しかし、Al含有量が0.060wt.%を超えると、鋼に亀裂が発生する傾向を示す。したがって、本発明においてAl含有量を0.015〜0.060wt.%とする。
【0021】
Nb:Nbは靭性を高める作用がある。Nb含有量が0.02wt.%以上になると、前記作用は比較的に著しいが、0.1wt.%以下になると、靭性が逆に低下してしまう。したがって、本発明の技術方案においてNb含有量を0.02〜0.1wt.%とする。
【0022】
V:Vは強炭化物を形成する元素であり、Cと結合する能力が強い。形成された細かいかつ分散的なVC質点が分散強化作用を有し、鋼強度を著しく向上させる。V含有量が0.02wt.%未満である場合、分散強化効果は不顕著であり、V含有量が0.15wt.%を超えると、鋼の加工性にも影響を及ぼす。従って、V含有量を0.02〜0.15wt.%とする。
【0023】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管はCa、Mgあるいは希土金属などの高コスト添加元素を含有せず、最適な化学成分設定と合理的な製造プロセスを用いることで、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管に高強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性、及び高い伸び率と低温衝撃吸収能を付与した。
【0024】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は0.005wt%以下のB元素も含有する。
【0025】
鋼に微量レベルのBを添加しても著しく高めた焼入れ性が得られ、鋼のプロセス性能と力学性能を改善することができる。従って、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管にBを適量に添加し、その含有量を0.005wt.%以下とする。
【0026】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の肉厚は1.5mm以上である。
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の外径は15〜50mmである。
【0027】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の微視的組織がフェライト+下部ベイナイトである。
【0028】
また、本発明は、
(1)素管を加熱した後、均熱処理を施す工程、
(2)熱間穿孔を実施し,ストレッチレデューサーを用いて素管を縮径、減肉厚し、自然冷却する工程、
(3)焼鈍、酸洗い、リン酸塩処理と鹸化処理を実施する工程、
(4)冷間加工で最終製品の寸法とする工程、
(5)応力除去焼鈍工程
を備えた、上記車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の提供を目的とする。
【0029】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法において、複雑な急冷+焼戻しを施す熱処理を採用せずに、簡易かつ廉価である応力除去焼鈍を施す熱処理で高強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性を有する継目無鋼管を得ることで、上記継目無鋼管の製造方法において工程を簡易にしただけではなく、急冷工程中変形量が大きくなり、車エアバッグ製品の高寸法精度に継目無鋼管が満足できないことを回避できる。応力除去焼鈍の熱処理を用いることで、鋼管の引張強さを確保できるほか、可塑性と強靭性も確保できる。
【0030】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(1)において、素管を1220℃〜1260℃に加熱し、10〜20分間の均熱を施す。
【0031】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、冷間抽伸あるいは冷間圧延を施す冷間加工を実施する。
【0032】
冷間抽伸あるいは冷間圧延により鋼管を所定寸法に加工するのは、冷間加工中に生じる応力を低減することを狙っている。
【0033】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、鋼管生産性を確保するとともに、冷間加工後に鋼管破裂などの欠陥が生じないために、各パスにおける冷間加工の伸長係数を1.5以下とする。
【0034】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、最終熱処理前に鋼管の冷間加工強化強度を確保するために、最終パスにおける冷間加工の伸長係数を1.4以上とする。
【0035】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(5)において、応力除去焼鈍温度を680〜780℃、保持時間を10〜20分間とする。
【0036】
応力除去焼鈍の加熱温度が高すぎると、また保持時間が長すぎると、鋼管最終製品において結晶粒粗大をもたらすため、鋼管の強度と硬度を使用条件に満たせることができない。また、加熱温度が低すぎると、炭化物の析出が発生して十分に固溶できず、強化作用が得られない。ここで、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の応力除去焼鈍温度を680〜780℃とする同時に、保持温度を10〜20分間に設定する理由としては、短時間で鋼から炭化物を析出させて固溶強化作用を得るとともに、結晶粒の成長を妨げて強度と靭性を高め、前記継目無鋼管の最終性能を車エアバッグ用鋼の使用条件に満たせるためである。
【0037】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は、上記技術方案を採用したため、比較的高強度と強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性及び高い伸長率と低温衝撃吸収能が得られ、具体的に、引張り強さは850Mpa以上であり、−60℃低温衝撃吸収能は15J以上であり、伸長率は18%以上である。
【0038】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は薄肉かつ軽量であり、寸法精度にも優れているため、軽量化車の使用要件に満たせることができる。
【0039】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管に高価金属元素が添加されていないため、生産コストが低い。
【0040】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法は、高引張り強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性及び高い伸長率と優れた低温衝撃吸収能を有する継目無鋼管を製造することができる。
【0041】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法は、各パスにおける冷間加工伸長係数を制御することで、鋼管の製造効率を確保できただけではなく、鋼管の破裂も有効に回避できた。