特許第6772075号(P6772075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6772075車エアバッグ用高強度・高靭性継目無鋼管とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772075
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】車エアバッグ用高強度・高靭性継目無鋼管とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20201012BHJP
   B21B 23/00 20060101ALI20201012BHJP
   C21D 1/30 20060101ALI20201012BHJP
   C21D 8/10 20060101ALI20201012BHJP
   C21D 9/08 20060101ALI20201012BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C22C38/00 301Z
   B21B23/00 B
   B21B23/00 C
   C21D1/30
   C21D8/10 B
   C21D9/08 E
   C22C38/58
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-575235(P2016-575235)
(86)(22)【出願日】2015年1月14日
(65)【公表番号】特表2017-524816(P2017-524816A)
(43)【公表日】2017年8月31日
(86)【国際出願番号】CN2015070662
(87)【国際公開番号】WO2015196792
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2017年7月4日
【審判番号】不服2019-3287(P2019-3287/J1)
【審判請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】201410290460.2
(32)【優先日】2014年6月25日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】302022474
【氏名又は名称】宝山鋼鉄股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲ヂャイ▼ 国 麗
(72)【発明者】
【氏名】田 青 超
(72)【発明者】
【氏名】王 起 江
(72)【発明者】
【氏名】劉 彩 玲
【合議体】
【審判長】 池渕 立
【審判官】 井上 猛
【審判官】 土屋 知久
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/050628(WO,A1)
【文献】 特開2004−207303(JP,A)
【文献】 特表2009−541589(JP,A)
【文献】 特表2009−532584(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/046702(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/152447(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/046503(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/091585(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 7/00
C21D 9/00
C21D 1/00
B21B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学元素配合として、質量%で、C:0.05〜0.15%、Si:0.1〜0.45%、Mn:1.0〜1.9%、Ni:0.1〜0.6%、Cr:0.05〜1.0%、Mo:0.05〜0.2%、Cu:0.05〜0.50%、Al:0.015〜0.060%、Nb:0.02〜0.1%、V:0.02〜0.15%を含有し、更に、0.005wt%以下のB元素も含有し、残部はFe及び他の不可避不純物である、車エアバッグ用高強靭継目無鋼管であって、
前記高強靭継目無鋼管は、フェライト+下部ベイナイトの微視的組織を有し、
前記高強靭継目無鋼管は、850MPa以上の引張強さ、15J以上の−60℃低温衝撃吸収能、および18%以上の伸長率を有する、車エアバッグ用高強靭継目無鋼管。
【請求項2】
肉厚が1.5mm以上である請求項1に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管。
【請求項3】
外径が15〜50mmである請求項1に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管。
【請求項4】
(1)素管を加熱した後、均熱処理を施す工程、
(2)熱間穿孔を実施し、ストレッチレデューサーを用いて素管を縮径、減肉厚し、自然冷却する工程、
(3)焼鈍、酸洗い、リン酸塩処理と鹸化処理を実施する工程、
(4)冷間加工で最終製品の寸法とする工程、
(5)応力除去焼鈍工程
を備え
前記工程(4)において、各パスにおける冷間加工の伸長係数を1.5以下とし、
前記工程(4)において、最終パスにおける冷間加工の伸長係数を1.4以上とする、請求項1〜のいずれか1項に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法。
【請求項5】
前記工程(1)において、素管を1220℃〜1260℃に加熱し、10〜20分間の均熱を施す、請求項に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法。
【請求項6】
前記工程(4)において、冷間抽伸あるいは冷間圧延を施す冷間加工を実施する、請求項に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法。
【請求項7】
前記工程(5)において、応力除去焼鈍温度を680〜780℃、保持時間を10〜20分間とする、請求項に記載の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、冶金製品及びその製造方法に関し、特に継目無鋼管およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
近年では、自用車保有量の急成長につれて、交通状況が混雑しつつあり、交通事項も多発しているため、車の安全性が特に重視されてきた。車が衝突時に、エアバッグは乗員に対する傷害を軽減することができ、二次的衝撃や、横転する時に運転者(同乗者を含む)の身体が車外へ放り出されることを防ぐことが可能である。通常、エアバッグは運転席や助手席に設備されているが、運転者の命を更に良く守るために、運転席や助手席以外に、サイド(前後部座席)とルーフにもエアバッグまたはカーテンシルドが設備されている。結果として、車毎のエアバッグ用鋼管の数量が増やした。車の安全性を向上させるために、エアバッグ用鋼管の重量も同時に増加する。車の安全性、軽量化と低コストといった要件に満たせるためには、高強靭積を備えた薄肉鋼管が求められている。
【0003】
エアバッグの作動原理として、爆発性薬品が装填されているガス発生装置は衝突により発生した速度の変化を検知した時に、点火指示を受けて着火され、固体燃料の燃焼でガスを発生し、エアバッグが速く膨らみはじめ、衝突時の乗員に対する衝撃を軽減する。エアバッグのガス発生装置の製造中に、通常、継目無鋼管に比較的高いバースト強度、高強靭積及び低温耐衝撃靭性が求められている。
【0004】
公開番号JP2002−294339、公開日2002年10月9日の日本国特許文献である「高寸法精度で溶接性と成形性に優れるとともに、高引張り強さで、耐バースト性にも優れた高強度エアバッグ用鋼及びその製造方法」は、エアバッグ用鋼材とその製造方法に関する。該鋼材の化学元素成分(質量%)として、C:0.05〜0.20%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.20〜2.0%、P<0.025%、S<0.010%、Cr:0.05〜1.0%、Al<0.10%、Mo<0.50%、Ni<1.5%、Cu<0.5%、V<0.2%、Ti<0.1%、Nb<0.1%、B<0.005%を含有し、残部はFe及び不純物である。該特許文献に、製造方法において、(少なくとも)Ac1変態点の温度に加熱急冷し、次いで、Ac1変態点の温度で焼戻すことが記載されている。
【0005】
公開番号CN102304613A、公開日2012年1月4日の中国特許文献である「エアバッグシステム鋼管及びその製造方法」にエアバッグ用継目無鋼管及びその製造方法が開示されている。該鋼材の化学元素成分組成として、質量%(wt%)で、C:0.12%以下、Mn:1.00〜1.40%、S:0.01%以下、P:0.015%以下、Si:0.15〜0.35%、Ni:0.25%以下、Cr:0.40〜0.80%、Mo:0.30〜0.60%、V:0.07%以下、Cu:0.35%以下、Al:0.15〜0.05%、Ne:0.05%以下、Ti:0.05%以下、Sn:0.05%以下、Sb:0.05%以下、As:0.05%以下、Pb:0.05%以下を含有し、且つSn、Sb、As、Pb各元素的総含有量は0.15%以下であり、残部はFeである。該中国特許文献に該継目無鋼管の製造方法も開示されている。
【0006】
上記特許文献が開示した鋼材または継目無鋼管の製造方法において、高い引張り強さを得るために、いずれも鋼材または継目無鋼管に急冷+焼戻しを施す熱処理を実施する必要がある。
【0007】
公開番号CN101528964A、公開日2009年9月9日の中国特許文献である「エアバッグアキュムレータ用継目無鋼管とその製造方法」に継目無鋼管及びその製造方法が開示されている。該継目無鋼管の化学元素成分として、質量%(wt.%)で、C:0.08〜0.20%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.6〜2.0%、P:0.025%以下、S:0.010%以下、Cr:0.05〜1.0%、Μo:0.05〜1.0%、Al:0.002〜0.10%を含み、さらにCa:0.0003〜0.01%、Mg:0.0003〜0.01%、およびREM(希土類元素):0.0003〜0.01%から選ばれた少なくとも1種と、Τi:0.002〜0.1%およびNb:0.002〜0.1%から選ばれた少なくとも1種とを含み、下記の式(1)で定義されるCEQが0.45〜0.63の範囲内である、
CEQ=C+Si/24+Mn/6+(Cr+Mo)/5+(Ni+Cu)/15 式(1)。
【0008】
上記中国特許文献に焼ならし+焼戻しを施す熱処理を実施することにより高強度と高靭性を達成したが、前記継目無鋼管にCa、Mgと希土類元素が含有され、鋼管の製造コストが増加している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発明の開示
本発明の目的は、車エアバッグ用高強靭継目無鋼管を提供することである。該継目無鋼管は比較的高い強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性、及び比較的高い伸び率と低温衝撃吸収能を有し、且つ薄肉であり、寸法精度に優れている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は車エアバッグ用高強靭継目無鋼管を提案し、その化学元素配合として、質量%で、
C: 0.05〜0.15%、
Si: 0.1〜0.45%、
Mn: 1.0〜1.9%、
Ni: 0.1〜0.6%、
Cr: 0.05〜1.0%、
Mo: 0.05〜0.2%、
Cu: 0.05〜0.50%、
Al: 0.015〜0.060%、
Nb: 0.02〜0.1%、
V: 0.02〜0.15%を含有し、
残部はFe及び他の不可避不純物である。
【0011】
本技術方案において、不可避不純物は主にSとP元素であり、Sはできるだけ0.015%以下に抑えられ、Pは0.025%以下に抑えられる。
【0012】
本発明の車エアバッグ用高強度・高靭性継目無鋼管に各元素の設定原理は下記の通りである。
【0013】
C:Cは、鋼の強度を高める主要元素の一つである。炭化物を形成することで鋼強度を有効に高めることができ、添加コストも低い。C含有量が0.05wt.%未満では、継目無鋼管の引張強さを850MPa以上とすることができない。一方、C含有量が0.15wt%を超えると、継目無鋼管の靭性、低温耐衝撃性、低温耐バースト性及び溶接性などを含めた総合性能に影響を及ぼす。本発明の技術方案においてC含有量を0.05〜0.15wt.%に抑えることが必要である。
【0014】
Si:Siは、製鋼において還元剤と脱酸素剤として用いられる。鋼においてSiは炭化物を形成することがなく、且つ鋼に対する固溶度が高く、その中にフェライトを強化して鋼強度を高めることができる。しかし、Si含有量が0.45wt%を超えると、靭性、特に低温耐衝撃靭性が大幅に低下するとともに、鋼管の溶接性も悪化する。そのため、Si含有量を0.10〜0.45wt.%に抑えすべきである。
【0015】
Mn:Mnは重要な合金化元素と弱炭化物を形成する元素であり、主に固溶強化により鋼強度を高める。Mn含有量を増加させると、鋼の変態点温度の低下をもたらし、焼入れ臨界冷却速度が低くなる。Mn含有量が1.0wt.%以上になると、焼入れ性を著しく向上させることができるが、Mn含有量が1.9wt.%を超えると、衝撃靱性の低下が著しくなる。そのため、本技術方案においてMn含有量を1.0〜1.9wt.%に設定する必要がある。
【0016】
Ni:Niは、鋼の強度と焼入れ性を向上させる元素であり、靭性を向上させる元素でもある。総合的に鋼のコストの点から、本発明の技術方案において、Ni含有量を0.1〜0.6wt.%の範囲にしてこそ、他の元素と協働して理想的な強化作用が得られる同時に靭性の向上も達成できる。
【0017】
Cr:Crは鋼において強炭化物を形成する元素である。鋼において一部のCrが鉄に置換されて合金セメンタイトが形成され、安定性が向上される。余分のCrがフェライトに固溶し、フェライトを固溶強化して強度と硬度を高める。その同時に、Crは、鋼の焼入れ性を高めるのに主要な元素であるが、その含有量が1.0wt.%を超えると、溶接部位の靭性に影響を及ぼす。コストの点も含めて、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管において、Cr含有量は0.05〜1.0wt.%とする。
【0018】
Mo:Moは鋼の中で固溶強化と焼入れ性を高める作用がある。Mo含有量を0.05wt.%とする場合、著しい固溶強化と焼入れ性を高める作用が得られる。Mo含有量が一定の範囲を超えると、鋼管溶接部位の靭性に影響を及ぼす。同時に、コストの点も含めて考慮すると、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管において、Mo含有量を0.05〜0.2wt.%とする。
【0019】
Cu:Cuは鋼の靭性を高めることができる。例えCu含有量が少ない場合でも、それ相応の効果を得ることもできる。Cu含有量が0.50wt.%を超えると、鋼の熱間加工性に大きい影響を及ぼすことになり、複合元素を添加しても鋼管の熱間加工性を確保することができない。従って、本発明の技術方案においてCu含有量を0.05〜0.50wt.%とする必要がある。
【0020】
Al:Alは鋼において脱酸素作用を有し、靱性及び加工性を高めるのにも有効である。その含有量が0.015%以上になる場合、鋼の靱性及び加工性を高める効果が著しくなる。しかし、Al含有量が0.060wt.%を超えると、鋼に亀裂が発生する傾向を示す。したがって、本発明においてAl含有量を0.015〜0.060wt.%とする。
【0021】
Nb:Nbは靭性を高める作用がある。Nb含有量が0.02wt.%以上になると、前記作用は比較的に著しいが、0.1wt.%以下になると、靭性が逆に低下してしまう。したがって、本発明の技術方案においてNb含有量を0.02〜0.1wt.%とする。
【0022】
V:Vは強炭化物を形成する元素であり、Cと結合する能力が強い。形成された細かいかつ分散的なVC質点が分散強化作用を有し、鋼強度を著しく向上させる。V含有量が0.02wt.%未満である場合、分散強化効果は不顕著であり、V含有量が0.15wt.%を超えると、鋼の加工性にも影響を及ぼす。従って、V含有量を0.02〜0.15wt.%とする。
【0023】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管はCa、Mgあるいは希土金属などの高コスト添加元素を含有せず、最適な化学成分設定と合理的な製造プロセスを用いることで、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管に高強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性、及び高い伸び率と低温衝撃吸収能を付与した。
【0024】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は0.005wt%以下のB元素も含有する。
【0025】
鋼に微量レベルのBを添加しても著しく高めた焼入れ性が得られ、鋼のプロセス性能と力学性能を改善することができる。従って、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管にBを適量に添加し、その含有量を0.005wt.%以下とする。
【0026】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の肉厚は1.5mm以上である。
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の外径は15〜50mmである。
【0027】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の微視的組織がフェライト+下部ベイナイトである。
【0028】
また、本発明は、
(1)素管を加熱した後、均熱処理を施す工程、
(2)熱間穿孔を実施し,ストレッチレデューサーを用いて素管を縮径、減肉厚し、自然冷却する工程、
(3)焼鈍、酸洗い、リン酸塩処理と鹸化処理を実施する工程、
(4)冷間加工で最終製品の寸法とする工程、
(5)応力除去焼鈍工程
を備えた、上記車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の提供を目的とする。
【0029】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法において、複雑な急冷+焼戻しを施す熱処理を採用せずに、簡易かつ廉価である応力除去焼鈍を施す熱処理で高強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性を有する継目無鋼管を得ることで、上記継目無鋼管の製造方法において工程を簡易にしただけではなく、急冷工程中変形量が大きくなり、車エアバッグ製品の高寸法精度に継目無鋼管が満足できないことを回避できる。応力除去焼鈍の熱処理を用いることで、鋼管の引張強さを確保できるほか、可塑性と強靭性も確保できる。
【0030】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(1)において、素管を1220℃〜1260℃に加熱し、10〜20分間の均熱を施す。
【0031】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、冷間抽伸あるいは冷間圧延を施す冷間加工を実施する。
【0032】
冷間抽伸あるいは冷間圧延により鋼管を所定寸法に加工するのは、冷間加工中に生じる応力を低減することを狙っている。
【0033】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、鋼管生産性を確保するとともに、冷間加工後に鋼管破裂などの欠陥が生じないために、各パスにおける冷間加工の伸長係数を1.5以下とする。
【0034】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(4)において、最終熱処理前に鋼管の冷間加工強化強度を確保するために、最終パスにおける冷間加工の伸長係数を1.4以上とする。
【0035】
更に、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の上記工程(5)において、応力除去焼鈍温度を680〜780℃、保持時間を10〜20分間とする。
【0036】
応力除去焼鈍の加熱温度が高すぎると、また保持時間が長すぎると、鋼管最終製品において結晶粒粗大をもたらすため、鋼管の強度と硬度を使用条件に満たせることができない。また、加熱温度が低すぎると、炭化物の析出が発生して十分に固溶できず、強化作用が得られない。ここで、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法の応力除去焼鈍温度を680〜780℃とする同時に、保持温度を10〜20分間に設定する理由としては、短時間で鋼から炭化物を析出させて固溶強化作用を得るとともに、結晶粒の成長を妨げて強度と靭性を高め、前記継目無鋼管の最終性能を車エアバッグ用鋼の使用条件に満たせるためである。
【0037】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は、上記技術方案を採用したため、比較的高強度と強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性及び高い伸長率と低温衝撃吸収能が得られ、具体的に、引張り強さは850Mpa以上であり、−60℃低温衝撃吸収能は15J以上であり、伸長率は18%以上である。
【0038】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管は薄肉かつ軽量であり、寸法精度にも優れているため、軽量化車の使用要件に満たせることができる。
【0039】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管に高価金属元素が添加されていないため、生産コストが低い。
【0040】
本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法は、高引張り強度と高強靭積、優れた低温靭性と低温耐バースト性及び高い伸長率と優れた低温衝撃吸収能を有する継目無鋼管を製造することができる。
【0041】
また、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の製造方法は、各パスにおける冷間加工伸長係数を制御することで、鋼管の製造効率を確保できただけではなく、鋼管の破裂も有効に回避できた。
【発明を実施するための形態】
【0042】
発明を実施するための最良の形態
以下、具体的実施例を用いて、本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管及びその製造方法を更に説明するが、本発明の技術方案は具体的実施例及びその説明に限定されない。
【0043】
実施例A1−A10と比較例B1−B6
下記工程に従って本発明の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の実施例A1−A10と比較例B1−B6を作製した。
【0044】
(1)製錬を行って素管を作製し、鋼の化学元素質量%を表1に示す配合になるようにする;
(2)回転式加熱炉で素管を1220℃〜1260℃に加熱し、10〜20分間の均熱を施す;
(3)竪型円錐形熱間ピアサーを用いて熱間穿孔を行って、三ロールストレッチレデューサーを用いて素管を縮径、減肉厚し、自然冷却する;
(4)酸洗い後に中間焼鈍の熱処理を行い、次に、リン酸塩処理と鹸化処理を実施する;
(5)冷間抽伸あるいは冷間圧延により最終製品の寸法に冷間加工し、各パスにおける冷間加工の伸長係数を1.5以下とし、最終パスにおける冷間加工の伸長係数を1.4〜1.5とし、冷間加工後に鋼管最終製品の寸法は肉厚1.5〜5mm、外径15〜50mmとなる;
(6)応力除去焼鈍温度680〜780℃、保持時間10〜20分間の条件で応力除去焼鈍を実施した後に、空冷する。
【0045】
ここで、鋼管の冷間加工性能を更に確保するために、上記工程(5)を施す前に中間熱処理プロセスを適宜採用しても構わない。
【0046】
表1に本発明における実施例A1−A10と比較例B1−B6の化学元素の質量%配合を示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表2に実施例A1〜A10と比較例B1〜B5において各工程のプロセスパラメーターを示す。
【0049】
【表2】
【0050】
上記実施例と比較例の継目無鋼管から、肉厚方向に沿って寸法2mm*10mm*55mmのカーブ状試験片を採取し、側面に2mmの標準Vノッチを作った後、−60℃で衝撃を受けて得た各衝撃能の数値を表3に示す。
【0051】
上記実施例と比較例の継目無鋼管は車エアバッグ用高強靭継目無鋼管に適用しているかを判断するための評価基準は下記の通りである:
1)引張り強さ>850MPa、2)−60℃衝撃吸収能>15J、かつ3)−60℃低温バースト破裂面で靭性破裂を示す。即ち、上記継目無鋼管は1)〜3)の基準に全て満足する場合に合格と判断され、そうでなければ不合格と判断される。得られた実施例と比較例の継目無鋼管の総合力学性能パラメーターを表3に示す。
【0052】
【表3】
【0053】
表1、表2および表3から、実施例A1〜A10の継目鋼管が本発明の技術方案で定める化学元素質量%配合を有し、かつ本発明の製造方法により加工生産されることが分かる。実施例A1〜A10の車エアバッグ用高強靭継目無鋼管はいずれも引張り強さ≧855Mpa、伸長率≧18%かつ強靭積≧14620MPa*Jである。また、該車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の−60℃衝撃吸収能は少なくとも17J以上であり、同時に、−60℃液バースト破裂面で靭性破裂を示し、かつ鋼管のいずれかの端面にも亀裂が貫通していない。一方、比較例B1〜B6の継目無鋼管において、ある化学元素の質量%配合が本発明の技術方案で限定した範囲を越えたため、あるいは加工プロセスを本発明の製造方法に準拠せずに加工生産を実施したため、これらの継目無鋼管の総合力学性能において、少なくとも1項が車エアバッグ用高強靭継目無鋼管の基準に満足していない。
【0054】
上記表の記載から、本発明の技術方案において、合理的な成分設定+合理的な加工プロセス+最適化した熱処理により、高引張り強度と高強靭積、優れた低温衝撃性及び伸長率を有する継目無鋼管が得られた。このような継目無鋼管は特に車エアバッグの製造に適している。
【0055】
以上では具体的な実施例を示したが、本発明は上記実施例に限定されないことは明らかであり、様々な変更も存在している。本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは、当業者にとって明らかである。