(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御装置は、前記重合禁止剤の投入量と前記オリゴマーの濃度との関係を示す情報を予め記憶しており、前記測定装置の測定結果と前記情報とを用いて前記重合禁止剤の投入量を制御する、請求項1記載の重合抑制システム。
前記制御装置は、複数の異なるプロセスパラメータの組み合わせ毎に前記情報を記憶しており、前記測定装置の測定結果、前記製造プロセスにおいて取得されるプロセスパラメータの組み合わせ、及び前記プロセスパラメータの組み合わせ毎の前記情報を用いて、前記オリゴマーの濃度が予め規定された濃度となるように前記重合禁止剤の投入量を制御する、
請求項2記載の重合抑制システム。
【背景技術】
【0002】
石油製品又は化学製品の製造プロセスでは、モノマー(単量体)を重合反応させてポリマー(重合体)を製造する工程が行われることが多い。例えば、エチレン、スチレン、アクリルニトリル、ブタジエン、MMA(メタクリル酸メチル)等を重合させて、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)等をそれぞれ製造する工程が行われる。
【0003】
このような重合反応が行われる製造プロセスでは、ファウリング(Fouling:付着物)が発生することが知られている。ここで、石油製品又は化学製品の製造プロセスにおけるファウリングとは、種々の物質が装置や配管の内壁表面に付着する現象をいう。以下の非特許文献1には、ファウリングの発生の元となるモノマーの重合のメカニズムが開示されている。
【0004】
具体的に、以下の非特許文献1に開示されたメカニズムは、「Initiation」なるステップと、「Propagation」なるステップとを順に経て行われるというものである。ここで、「Initiation」なるステップは、熱によりモノマーが励起されて不安定なフリーラジカルに変わるステップである。また、「Propagation」なるステップは、フリーラジカルと別のモノマーとが反応して2量体(ダイマー)や3量体(トリマー)等(総称してオリゴマー)に結合した新ラジカルとなり、ポリマーに成長していくステップである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モノマーは反応しやすい性質があることから、例えば本来の重合反応が行われるプロセスの前のプロセス(例えば、蒸留プロセス)、或いはモノマーを製造するプロセスにおいて、意に反してモノマーの一部が重合してポリマー化してしまい、これによりファウリングが発生するという問題がある。このようなファウリングが発生すると、例えば製品の製造効率の悪化や頻繁なメンテナンスによる稼働率の低下等によって生産コストが増大してしまう。
【0007】
ここで、前述の通り、ファウリングはモノマーの重合が元となって発生することから、ファウリングの発生を防止したいプロセスにおいて、モノマーの重合を阻害(或いは、抑制)する重合禁止剤を用いれば、上述の問題を回避することができるとも考えられる。しかしながら、このような重合禁止剤を用いてファウリングの発生を防止するためには、時々刻々変化する実プロセスの重合状態を連続的に観測し、その観測結果に応じて重合禁止剤の投入量を制御して重合の進行を適切に抑制することが極めて重要である。
【0008】
実プロセスの重合状態を測定する方法の1つにメタノール沈殿法が挙げられる。この方法は、採取したサンプルにメタノールを添加し、溶解せずに沈殿したポリマーの量(例えば、重量)を計測することによって、実プロセスの重合状態を測定する方法である。この方法は、1日に1回程度の頻度で行われるオフラインでの測定であることから、ある時点における実プロセスの重合状態を測定することはできるが、時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を測定することは困難である。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を適切に抑制することが可能な重合抑制システム及び重合抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の重合抑制システム(1)は、モノマーを主成分とする原料から所定の製品を製造する製造プロセスで、原料又は中間製品に含まれるオリゴマーの濃度を連続的に測定する測定装置(11)と、重合禁止剤を投入する投入装置(12)と、前記測定装置の測定結果に基づいて前記投入装置によって投入される前記重合禁止剤の投入量を制御する制御装置(13)と、を備える。
また、本発明の重合抑制システムは、前記制御装置が、前記重合禁止剤の投入量と前記オリゴマーの濃度との関係を示す情報を予め記憶しており、前記測定装置の測定結果と前記情報とを用いて前記重合禁止剤の投入量を制御する。
また、本発明の重合抑制システムは、前記制御装置が、複数の異なるプロセスパラメータの組み合わせ毎に前記情報を記憶しており、前記測定装置の測定結果、前記製造プロセスにおいて取得されるプロセスパラメータの組み合わせ、及び前記プロセスパラメータの組み合わせ毎の前記情報を用いて、前記オリゴマーの濃度が予め規定された濃度となるように前記重合禁止剤の投入量を制御する。
また、本発明の重合抑制システムは、前記制御装置が、前記重合禁止剤の投入量の制御に加えて、前記プロセスパラメータの制御を行う。
また、本発明の重合抑制システムは、前記測定装置が、オンラインガスクロマトグラフ及びフーリエ変換赤外分光分析装置の少なくとも1つ以上である。
本発明の重合抑制方法は、モノマーを主成分とする原料から所定の製品を製造する製造プロセスで、原料又は中間製品に含まれるオリゴマーの濃度を連続的に測定する第1ステップ(S22)と、重合禁止剤を投入する第2ステップ(S23)と、前記第1ステップの測定結果に基づいて前記第2ステップで投入される前記重合禁止剤の投入量を制御する第3ステップ(S23)と、を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、モノマーを主成分とする原料から所定の製品を製造する製造プロセスで、原料又は中間製品に含まれるオリゴマーの濃度を連続的に測定し、測定結果に基づいて、重合禁止剤の投入量を制御するようにしているため、時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を適切に抑制することが可能であるという効果がある。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態による重合抑制システム及び重合抑制方法について詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による重合抑制システムの要部構成を示すブロック図である。
図1に示す通り、本実施形態の重合抑制システム1は、オンラインガスクロマトグラフ11(測定装置)、重合禁止剤投入装置12(投入装置)、及び制御装置13を備えており、精留塔20に投入する重合禁止剤の投入量を制御して、精留塔20及びリボイラー30におけるモノマーの重合を抑制することで、精留塔20及びリボイラー30内でのファウリングFの発生を抑えるものである。
【0014】
ここで、精留塔20は、外部から供給される原料A(モノマーを主成分とする原料)を加熱してガス化し、精留塔20内での温度差を利用して原料Aに含まれる成分を蒸留分離するものである。原料Aは、例えばC4(炭素原子を4個含む炭化水素化合物の混合物)であり、精留塔20で蒸留分離される成分は、沸点の低いアセチレン等B、及び沸点の高いブタジエン類C(製品)である。アセチレン等Bは、精留塔20の塔頂部から外部に排出され、ブタジエン類Cは精留塔20の塔底部から外部に排出(抽出)される。リボイラー30は、精留塔20内の加熱を補うために設けられ、精留塔20から供給される炭化水素化合物を加熱して精留塔20内に戻すものである。
【0015】
これら精留塔20及びリボイラー30は、モノマーを主成分とする原料Aを成分分離して、製品であるブタジエン類Cを製造する製造プロセスにおいて用いられる設備である。重合抑制システム1は、このような製造プロセスで用いられる設備である精留塔20に投入する重合禁止剤の投入量を制御し、精留塔20及びリボイラー30におけるモノマー(ブタジエン)の重合を抑制することでファウリングFの発生を抑えるものである。尚、ファウリングFは、加熱が行われる精留塔20及びリボイラー30で発生しやすい。
【0016】
オンラインガスクロマトグラフ11は、精留塔20の塔底部から外部に排出されるブタジエン類C及びリボイラー30から精留塔20に戻される炭化水素化合物を、採取ラインL1,L2を通じてそれぞれ採取し、採取したブタジエン類C及び炭化水素化合物に含まれるオリゴマーの濃度を連続的に測定する。例えば、オンラインガスクロマトグラフ11は、ブタジエンのダイマーであるオクタジエンの濃度を連続的に測定する。尚、オンラインガスクロマトグラフ11の測定結果を示す測定信号S1は制御装置13に出力される。
【0017】
オンラインガスクロマトグラフ11は、カラムと呼ばれる管状の経路と、カラムの終端に設けられたガス濃度検出器とを備えており、カラムを移動する時間の違いによって測定対象ガスを成分毎に分離し、分離された成分をガス濃度検出器で検出することで測定対象ガスに含まれる成分毎の濃度を測定する。このようなオンラインガスクロマトグラフ11では、例えば数分〜数十分間隔で濃度測定が行われ、その測定結果を示す測定信号S1が、例えば数分〜数十分間隔で連続的に出力される。尚、オンラインガスクロマトグラフ11は、濃度測定を連続して行い、その測定結果を示す測定信号S1を連続して出力するものであっても良い。
【0018】
重合禁止剤投入装置12は、制御装置13の制御の下で、精留塔20の内部に重合禁止剤を投入する。具体的に、重合禁止剤投入装置12は、制御装置13から出力される制御信号S2で示される量の重合禁止剤を投入する。ここで、重合禁止剤投入装置12によって精留塔20の内部に投入される重合禁止剤としては、例えば安定性フリーラジカル(SFR:Stable Free Radical)である4−ヒドロキシTEMPO、4−ターシャリー・ブチルカテコール等を用いることができる。
【0019】
制御装置13は、オンラインガスクロマトグラフ11から出力される測定信号S1で示される測定結果に基づいて、重合禁止剤投入装置12によって精留塔20の内部に投入される重合禁止剤の投入量を制御する。制御装置13は、重合禁止剤投入装置12に対して制御信号S2を出力することで、精留塔20に対する重合禁止剤の投入量を制御する。ここで、制御装置13は、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す情報を予め記憶しており、オンラインガスクロマトグラフ11から出力される測定信号S1で示される測定結果と上記の情報とを用いて、重合禁止剤の投入量を制御する。尚、上記の情報は、例えばテーブル形式のものであっても良く、関数で示されるものであっても良い。
【0020】
より詳細に、制御装置13は、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す上記の情報を、複数の異なるプロセスパラメータの組み合わせ毎に記憶している。尚、プロセスパラメータとは、製造プロセスにおける温度、圧力、流量等をいう。制御装置13は、精留塔20に設けられた不図示のセンサ(温度センサ、圧力センサ、流量センサ等)の検出結果を示す検出信号S3からプロセスパラメータを取得することができる。また、制御装置13は、精留塔20(或いは、精留塔20及びリボイラー30)に対し、操業条件を制御する制御信号S4を出力することで、プロセスパラメータの制御を行うこともできる。
【0021】
制御装置13は、オンラインガスクロマトグラフ11から出力される測定信号S1で示される測定結果、上記の検出信号S3から取得されるプロセスパラメータ、及びプロセスパラメータの組み合わせ毎の上記の情報を用いて重合禁止剤の投入量を制御する。例えば、制御装置13は、オクタジエン(オリゴマー)の濃度が予め規定された濃度となるように、重合禁止剤の投入量を制御する。また、制御装置13は、重合禁止剤の投入量の制御に加えて、プロセスパラメータの制御を行うようにしても良い。
【0022】
図2は、本発明の一実施形態で用いられる重合禁止剤の投入量とオリゴマーの濃度との関係を示す情報の一例を示す図である。
図2に示すグラフでは、重合禁止剤の投入量を横軸にとり、オリゴマーの濃度(オンラインガスクロマトグラフ11によってオンラインで測定されたオクタジエンの濃度)を縦軸にとってある。
図2中の符号Q1〜Q3が付された曲線は、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す情報である。これら曲線Q1〜Q3は、複数の異なるプロセスパラメータの組み合わせについてのものである。例えば、曲線Q1〜Q3は、圧力及び流量が同じであるが温度が異なる場合における、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示すものである。
【0023】
図2を参照すると、プロセスパラメータの組み合わせによって多少バラツキがあるものの、曲線Q1〜Q3は何れも右肩下がりの変化を示していることが分かる。これは、重合禁止剤の投入量が増えるにつれて、モノマーの重合が抑制される度合いが大きくなり、これにより、オクタジエン(オリゴマー)の濃度が低下していくものと考えられる。但し、重合禁止剤の投入量がある程度大きくなると、重合禁止剤の投入量をそれ以上増加させてもオクタジエン(オリゴマー)の濃度はさほど変化しなくなることも分かる。重合禁止剤の投入量がある程度大きくなった場合における重合禁止剤の更なる投入は、余剰投入になると考えられることから避ける必要がある。
【0024】
次に、上記構成における重合抑制システム1の動作について説明する。重合抑制システム1の動作は、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す情報を求める際の動作(以下、「初期動作」という)と、モノマーの重合の進行を適切に抑制する際の動作(以下、「最適化動作」という)とに大別される。以下では、まず初期化動作について説明し、次いで最適化動作について説明する。
【0025】
〈初期動作〉
図3は、本発明の一実施形態による重合抑制システムの初期動作の一例を示すフローチャートである。初期動作が開始されると、まず不図示の入力装置から入力された指示に基づいて、プロセスパラメータ(温度、圧力、流量等)を設定する処理が制御装置13で行われる(ステップS11)。尚、この設定が行われると、制御装置13から精留塔20(或いは、精留塔20及びリボイラー30)に対して制御信号S4が出力され、精留塔20で検出されるプロセスパラメータ(検出信号S3から取得されるプロセスパラメータ)が、設定されたプロセスパラメータとなるように、精留塔20等の操業条件が制御される。
【0026】
次に、重合禁止剤の投入量を変えながら、オクタジエン(オリゴマー)の濃度を測定する処理が行われる(ステップS12)。具体的には、重合禁止剤投入装置12に対して制御信号S2を順次出力して重合禁止剤の投入量を変えさせつつ、オンラインガスクロマトグラフ11から出力される測定信号S1で示される測定結果を順次取得する処理が制御装置13で行われる。
【0027】
次いで、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を算出する処理が行われる(ステップS13)。例えば、制御信号S2で示される重合禁止剤の量と、測定信号S1で示されるオクタジエン(オリゴマー)の濃度とを1対1で対応付けたテーブルを作成する処理、或いは、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す近似式を算出する処理が行われる。そして、算出した関係を記憶する処理が制御装置13で行われる(ステップS14)。
【0028】
以上の処理が終了すると、上述した測定処理(重合禁止剤の投入量を変えながらオクタジエン(オリゴマー)の濃度を測定する処理)が終了したか否かが制御装置13で判断される(ステップS15)。上述した測定処理が終了していないと判断した場合(ステップS15の判断結果が「NO」の場合)には、再びステップS11〜S14が行われる。つまり、プロセスパラメータを変えて、重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を算出して記憶する処理が行われる。
【0029】
これに対し、上述した測定処理が終了したと判断した場合(ステップS15の判断結果が「YES」の場合)には、
図3に示す一連の処理が終了する。以上の処理が行われることにより、プロセスパラメータの組み合わせ毎の重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す情報(
図2参照)が制御装置13に記憶される。
【0030】
〈最適化動作〉
図4は、本発明の一実施形態による重合抑制システムの最適化動作の概要を示すフローチャートである。最適化動作が開始されると、まず不図示の入力装置から入力された指示に基づいて、オクタジエン(オリゴマー)の目標濃度RV(
図2参照)を設定する処理が制御装置13で行われる(ステップS21)。この目標濃度RVは、例えば過去の経験からファウリングFの発生を抑えることができるであろうと期待される濃度が設定される。
【0031】
次に、オンラインガスクロマトグラフ11を用いて、オクタジエン(オリゴマー)の濃度を連続的に測定する処理が行われる(ステップS22:第1ステップ)。前述の通り、オンラインガスクロマトグラフ11では、例えば数分〜数十分間隔で濃度測定が行われる。このため、オクタジエン(オリゴマー)の濃度の測定結果を示す測定信号S1が、例えば数分〜数十分間隔で連続的に制御装置13に入力される。
【0032】
オクタジエン(オリゴマー)の濃度が測定されると、測定濃度が目標濃度RVになるように、重合禁止剤の投入量及びプロセスパラメータを制御する処理が制御装置13で行われる(ステップS23:第2,第3ステップ)。具体的には、オンラインガスクロマトグラフ11から出力される測定信号S1で示される測定結果、上記の検出信号S3から取得されるプロセスパラメータ、及びプロセスパラメータの組み合わせ毎の上記の情報(
図2に例示されている情報)を用いて重合禁止剤の投入量を制御して、測定濃度が目標濃度RVになるようにする。
【0033】
ここで、実プロセスでは、例えば原料Aに含まれる不純物の量に応じて、プロセスパラメータが変動することがある。制御装置13は、プロセスパラメータの変動が生じた場合には、記憶している上記の情報のうち、プロセスパラメータに適した情報を用いて重合禁止剤の投入量等を制御する。例えば、
図2の曲線Q1で示されている関係がある情報を用いている場合に、プロセスパラメータの変動が生じた場合には、変動後のプロセスパラメータに適した情報(例えば、曲線Q2で示されている関係がある情報)を用いて重合禁止剤の投入量等を制御する。
【0034】
以上の制御が行われることによって、時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を適切に抑制することができる。尚、
図4では、オクタジエン(オリゴマー)の濃度の測定(ステップS22)の後に、本ステップ(ステップS23)が行われる例が示されているが、ステップS22の処理及びステップS23の処理は並行して行われても良い。つまり、オクタジエン(オリゴマー)の濃度の測定を行いつつ、測定濃度が目標濃度RVになるように、重合禁止剤の投入量等を制御する処理が行われても良い。
【0035】
図5は、本発明の一実施形態において最適化動作が行われる場合と行われない場合との効果の違いを説明するための図である。
図5においては、時間を横軸にとり、オリゴマーの濃度、重合禁止剤の投入量、及びファウリングFの堆積速度を縦軸にとってある。尚、
図5において、オリゴマーの濃度の経時変化は実線で示されており、重合禁止剤の投入量の経時変化は破線で示されており、ファウリングFの堆積速度の経時変化は一点鎖線で示されている。尚、
図5では、時刻t1までは最適化動作が行われておらず、時刻t1から最適化動作が行われている。
【0036】
図5に示す通り、時刻t1までは最適化動作が行われていないことから、時刻t1までの重合禁止剤の投入量は一定である。また、
図5を参照すると、最適化動作が行われていない時刻t1までは、オリゴマーの濃度が大きく変動し、これに伴いファウリングFの堆積速度も大きく変動することが分かる。尚、ファウリングFの堆積速度の変動の仕方は、概ねオリゴマーの濃度の変動の仕方と同様である。つまり、オリゴマーの濃度が増大するとファウリングFの堆積速度は概ね上昇し、オリゴマーの濃度が低下するとファウリングFの堆積速度は概ね下降する傾向がある。
【0037】
時刻t1において最適化動作が開始されると、制御装置13によって重合禁止剤の投入量が制御されることから、
図5に示す通り、重合禁止剤の投入量が変動する。また、
図5を参照すると、最適化動作が開始された時刻t1以降は、オリゴマーの濃度及びファウリングFの堆積速度はほぼ一定になることが分かる。ここで、最適化動作が開始された時刻t1以降のファウリングFの堆積速度は、時刻t1よりも前のファウリングFの堆積速度に比べて全体的に低下していることから、最適化動作が行われることによって、ファウリングFの発生が抑えられていることが分かる。
【0038】
以上の通り、本実施形態では、オンラインガスクロマトグラフ11を用いてオクタジエン(オリゴマー)の濃度を連続的に測定し、測定濃度が目標濃度RVになるように、重合禁止剤の投入量及びプロセスパラメータを制御するようにしているため、時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を適切に抑制することが可能である。これにより、ファウリングFの発生を防止することができ、例えば製品の製造効率の悪化や頻繁なメンテナンスによる稼働率の低下等に起因するコスト増大を防止することができる。
【0039】
また、本実施形態では、複数の異なるプロセスパラメータの組み合わせ毎に用意された重合禁止剤の投入量とオクタジエン(オリゴマー)の濃度との関係を示す情報を用いて重合禁止剤の投入量等の制御を行っている。このため、重合禁止剤の投入不足及び余剰投入を防いで、適切な量の重合禁止剤で時々刻々変化する実プロセスにおける重合の進行を適切に抑制することが可能である。
【0040】
以上、本発明の一実施形態による重合抑制システム及び重合抑制方法について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、理解を容易にするために、オリゴマーの一種であるオクタジエンの濃度のみをオンラインガスクロマトグラフ11で測定する例について説明した。しかしながら、オリゴマーに複数の成分が含まれる場合には、これら複数の成分のうちの1つのみを測定しても良く、複数の成分を測定しても良い。
【0041】
また、上記実施形態では、オンラインガスクロマトグラフ11を用いてオクタジエン(オリゴマー)の濃度を測定していたが、オンラインガスクロマトグラフ11に代えて、FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光分析装置)等の分光分析装置を用いてオンラインで濃度の測定を行っても良い。また、オンラインガスクロマトグラフ11や分光分析装置等の所謂ハードセンサを用いてオンラインでの濃度測定を行っても良く、ソフトセンサを用いてオンラインでの濃度測定を行っても良い。
【0042】
また、上記実施形態では、オンラインガスクロマトグラフ11の測定濃度が目標濃度RVになるように、重合禁止剤の投入量及びプロセスパラメータを制御する例について説明した。しかしながら、重合禁止剤の投入量とプロセスパラメータとの双方を制御する必要は必ずしも無く、何れか一方のみを制御するようにしても良い。また、上記実施形態では、ブタジエン類を製造する製造プロセスについて説明したが、ブタジエン類を製造する製造プロセスに限定されるという趣旨ではなく、モノマーを主成分とする原料から任意の製品を製造する製造プロセスに適用することが可能である。