特許第6772111号(P6772111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772111
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】繊維補強コンクリートの評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20201012BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20201012BHJP
   C04B 14/38 20060101ALI20201012BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20201012BHJP
   G01N 3/20 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   G01N17/00
   C04B28/02
   C04B14/38 Z
   G01N3/00 M
   G01N3/20
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-147045(P2017-147045)
(22)【出願日】2017年7月28日
(65)【公開番号】特開2019-27896(P2019-27896A)
(43)【公開日】2019年2月21日
【審査請求日】2019年12月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁平 達也
(72)【発明者】
【氏名】笹田 航平
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】井戸 康浩
【審査官】 野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/117435(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/111474(WO,A1)
【文献】 特開2003−321260(JP,A)
【文献】 特開2016−132579(JP,A)
【文献】 特開昭56−63847(JP,A)
【文献】 魚本健人,各種繊維の耐アルカリ性の評価法に関する基礎研究,土木学会論文集,1994年 5月,No.490/V−23,167頁−174頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
C04B 14/38
C04B 28/02
G01N 3/00
G01N 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの評価方法であって、
アルカリ環境下で被覆材によって覆われた無機系繊維が単体のときの劣化度を測定するステップと、
アルカリ反応モデルと前記劣化度の測定結果とから前記無機系繊維の被覆材による影響を含めた拡散係数を算定するステップと、
前記アルカリ環境下と実環境下との差異及び前記拡散係数から前記無機系繊維の促進倍率を算定するステップと、
前記アルカリ環境下で劣化した前記無機系繊維を混入した繊維補強コンクリートの曲げ試験を行うステップと、
前記曲げ試験の結果から曲げ靭性係数を算定するステップと、
前記促進倍率によって算定された時点の耐久性を前記曲げ靭性係数から評価するステップとを備えたことを特徴とする繊維補強コンクリートの評価方法。
【請求項2】
前記アルカリ反応モデルでは、前記被覆材を含めた直径を換算直径とすることを特徴とする請求項1に記載の繊維補強コンクリートの評価方法。
【請求項3】
前記アルカリ環境下における劣化度の測定は、温度が異なる複数の環境下で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維補強コンクリートの評価方法。
【請求項4】
前記促進倍率は、前記アルカリ環境下と前記実環境下とのpH及び温度の差異を考慮して算定されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の繊維補強コンクリートの評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、コンクリートの補強用の短繊維として、無機系繊維を使用する開発が行われている。コンクリートの補強用の短繊維としては、鋼繊維又はポリプロピレン繊維やビニロン繊維などの有機系繊維が使用されることが多いが、鋼繊維は錆などの発生により美観が低下する、有機系繊維は紫外線劣化の可能性が有るなどの課題があった。
【0003】
一方において、コンクリートの内部はアルカリ性の環境下となるため、アルカリ性に弱い無機系繊維をそのまま使用すると、短期間で劣化して期待する引張強度が確保できなくなるおそれがある。そこで、特許文献1の補強用繊維においては、無機系繊維の芯材をアルカリ性に強い有機系樹脂からなる被覆材によって覆う構造とすることで、耐アルカリ性に優れた補強用繊維としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−188157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの耐久性を評価する方法は確立されていなかったため、実構造物に適用するために長期耐久性の評価手法の開発が望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの長期耐久性の評価が可能となる繊維補強コンクリートの評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の繊維補強コンクリートの評価方法は、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの評価方法であって、アルカリ環境下で被覆材によって覆われた無機系繊維が単体のときの劣化度を測定するステップと、アルカリ反応モデルと前記劣化度の測定結果とから前記無機系繊維の被覆材による影響を含めた拡散係数を算定するステップと、前記アルカリ環境下と実環境下との差異及び前記拡散係数から前記無機系繊維の促進倍率を算定するステップと、前記アルカリ環境下で劣化した前記無機系繊維を混入した繊維補強コンクリートの曲げ試験を行うステップと、
前記曲げ試験の結果から曲げ靭性係数を算定するステップと、前記促進倍率によって算定された時点の耐久性を前記曲げ靭性係数から評価するステップとを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、前記アルカリ反応モデルでは、前記被覆材を含めた直径を換算直径とすることが好ましい。また、前記アルカリ環境下における劣化度の測定は、温度が異なる複数の環境下で行われることが好ましい。
さらに、前記促進倍率は、前記アルカリ環境下と前記実環境下とのpH及び温度の差異を考慮して算定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
このように構成された本発明の繊維補強コンクリートの評価方法は、アルカリ環境下での無機系繊維単体の劣化度を測定するとともに、その劣化した無機系繊維を混入した繊維補強コンクリートの曲げ試験を行う。そして、その曲げ試験結果から算定される曲げ靭性係数の値を使用して、無機系繊維単体に対して行われた劣化度の試験結果に基づいて算定された促進倍率により特定された時点の繊維補強コンクリートの耐久性を評価する。
【0010】
このため、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの長期耐久性の評価が可能となり、幅広い実構造物への適用ができるようになる。
【0011】
また、拡散係数を算定する際のアルカリ反応モデルは、被覆材を含めた直径を換算直径とすることで、被覆材の相違による反応速度の違いを的確に評価することができるようになる。
【0012】
さらに、アルカリ環境下における劣化度の測定を温度が異なる複数の環境下で行うようにすれば、劣化の進行(引張強度の低下率など)が少ない温度の結果のみを使用して評価を行う場合と比べて、バラツキの少ない精度の高い促進倍率の推定を行うことができるようになる。
【0013】
また、促進倍率を、無機系繊維の劣化度を測定するアルカリ環境下と実環境下とのpH及び温度の差異を考慮して算定することで、実構造物の実態に近い予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施の形態の繊維補強コンクリートの評価方法の各ステップを説明するフロー図である。
図2】評価対象となる無機系繊維の物性値を表形式で示した図である。
図3A】養生温度60℃の高アルカリ環境下で行われた耐アルカリ試験の結果を促進期間(浸漬期間)と引張荷重保持率との関係で示した図である。
図3B】養生温度20℃の高アルカリ環境下で行われた耐アルカリ試験の結果を促進期間(浸漬期間)と引張荷重保持率との関係で示した図である。
図4】アルカリ反応モデルと拡散係数の算定式を示した説明図である。
図5】複数の耐アルカリ試験の結果をまとめて促進期間(浸漬期間)と引張荷重保持率との関係で示した図である。
図6】耐アルカリ試験の結果と拡散係数の算定結果からpH及び温度の影響を考慮して促進倍率を算定し、推定供用期間と引張荷重保持率との関係で示した図である。
図7A】開発品(無機系繊維)を使用した繊維補強コンクリートの曲げ試験結果を変位と荷重との関係で示した図である。
図7B】比較用繊維を使用した繊維補強コンクリートの曲げ試験結果を変位と荷重との関係で示した図である。
図8】曲げ靭性係数を指標にした繊維補強コンクリートの耐久性の評価結果を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の繊維補強コンクリートの評価方法の各ステップを説明するフロー図である。
【0016】
この繊維補強コンクリートの評価方法は、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された(短)繊維補強コンクリートの評価に使用される。以下では、無機系繊維としてバサルト繊維を使用する場合について説明する。
【0017】
バサルト繊維は、玄武岩を1500℃程度で溶融して紡糸し、直径13μmの繊維を束ねて製造された繊維である。バサルト繊維は、腐食が生じないうえに、紫外線の劣化も起き難い。また、バサルト繊維は、低磁性であるため、リニアモーターカーのガイドウェイの構築にも適している。
【0018】
以下で説明する実験では、264tex(繊度の単位。1texは、長さ1000mで重さ1g)のバサルト繊維を3本束ねて1本の繊維としたものを使用した。また、繊維長は、40mmの短繊維とした。
図2には、2種類の被覆材によって覆われたバサルト繊維の物性値を示した。この2種類のバサルト繊維を評価対象として説明を続ける。「開発品」としたバサルト繊維は、エポキシ樹脂で被覆材を形成している。「比較用繊維」としたバサルト繊維は、ビニエステル樹脂で被覆材を形成している。
【0019】
本実施の形態の繊維補強コンクリートの評価方法では、まず、アルカリ環境下で被覆材によって覆われた無機系繊維(バサルト繊維)が単体のときの劣化度を測定する。すなわち、図1のステップS1に示すように、「開発品」及び「比較用繊維」を高アルカリ環境下に浸漬した後に、引張試験を実施する。
【0020】
この耐アルカリ性に関する試験は、「JIS A 1193 コンクリート用連続繊維補強材の耐アルカリ試験方法」に基づいて行う。ここで、浸漬に使用する高アルカリ性の溶液Aは、コンクリート中に含まれる細孔溶液の組成に相当するアルカリ水溶液(水酸化カリウム14g、水酸化カルシウム2g、水酸化ナトリウム10g、蒸留水3Lを混合した溶液)とする。また、養生は、20℃と60℃の2通りの温度で行い、浸漬期間は4週間とした。
【0021】
繊維補強コンクリート中の繊維は、引張力が作用したときに破断又は引抜けが生じるが、繊維が劣化するに従って破断の割合が増えることになる。耐アルカリ性に関する試験では、浸漬前と浸漬後の破断強度を比較することでその性能を評価することとなっている。すなわち、浸漬によって劣化した繊維単体の引張性状を把握しておくために、引張試験を実施する。引張試験は、浸漬前、浸漬1週目、2週目、3週目、4週目の繊維供試体に対して、載荷速度2mm/分で実施した。
【0022】
図3Aは、養生温度60℃のケースの「開発品」と「比較用繊維」の引張試験結果を、横軸を促進期間(浸漬期間)とし、縦軸を引張荷重保持率として示した図である。ここで、引張荷重保持率(%)は、浸漬前の引張荷重を100%とし、高アルカリ性溶液への浸漬による劣化によって低下する引張荷重を、保持率(残存率)で示したものである。この試験では、浸漬期間4週の「開発品」の引張荷重保持率は58%、「比較用繊維」は11%となった。
【0023】
一方、図3Bは、養生温度20℃のケースの「開発品」と「比較用繊維」の引張試験結果を示している。図3A,3Bから明らかなように、養生温度が高い環境下ほど、引張荷重の低下(劣化)が促進されることがわかる。また、2種類の被覆材でコーティングされたバサルト繊維の引張荷重の低下速度を比較すると、比較用繊維の方が早く劣化していくことがわかる。要するに、被覆材の種類によって、劣化の速度が異なってくることがわかる。
【0024】
続いて、ステップS2では、アルカリ反応モデルによる拡散係数の算定を行う。図4に、アルカリ反応モデルと拡散係数kの算定式を示した。
上述した耐アルカリ性に関する試験は、上記したセメント飽和水溶液(溶液A:pH=約13.3)又は水酸化ナトリウム10%水溶液(溶液B:pH=14.0)のいずれかで実施することとなっており、溶液Aと溶液BとでpHが異なることや、高温かつ高アルカリ環境下で検討した期間を、実環境下の供用年数に換算する簡易な評価手法が必要となる。
【0025】
そこで、魚本・勝木ら(魚本健人、勝木太)が「各種繊維の耐アルカリ性の評価法に関する基礎研究、土木学会論文集、No.490、V-23、pp.167-174、1994」で提案した評価法を参考にして、無機系繊維を用いた繊維補強コンクリートの耐アルカリ性に関する検討を行った。
【0026】
具体的には、図4の右上に示したように繊維断面を円形と仮定して、アルカリが均等に浸透するとしてフィックの拡散方程式を簡略化する。そして、反応速度を示す拡散係数kは、被覆材で異なると考え、浸漬前の繊維半径R0を、バサルト繊維自体の直径ではなく、被覆材を含めた直径(換算直径)とした。
【0027】
そして、繊維の引張強度(浸漬t日の繊維強度σt)を式4で推定し、促進試験における温度の影響も考慮する評価法とした。すなわち上記耐アルカリ性に関する試験の引張試験の結果を使用して、温度の影響による促進倍率を算定する(ステップS3)。
【0028】
さらには、繊維補強コンクリートによって構築される実構造物の置かれる環境下(実環境下)のコンクリートのpHと高アルカリ性溶液(溶液A)のpHとの差異、すなわち、アルカリイオン濃度の差異による促進倍率を算定する。ここで、上述したように耐アルカリ試験の溶液AのpHは13.3、温度は60℃であるのに対し、実環境下としたコンクリート内部の環境のpHは12.7、温度は20℃とした。よって、pHの影響による促進倍率はpH:13.3/12.7=3.6倍となる。
【0029】
図5は、複数の耐アルカリ試験の結果をまとめて促進期間(浸漬期間)と引張荷重保持率(%)との関係で示した図である。ここで、温度差に起因した促進倍率は、拡散係数kの比で算定でき、「比較用繊維」は27倍(=(5.08×10-4)/(1.88×10-5))、「開発品」は348倍(=(6.93×10-5)/(1.99×10-7))となる。
【0030】
図6は、耐アルカリ試験の結果と拡散係数kの算定結果から、上述したようにpH及び温度の影響を考慮して促進倍率を算定し、推定供用期間と引張荷重保持率(%)との関係で示した図である。ここで、「2W」は浸漬2週目、「4W」は浸漬4週目の結果を示している。
この結果、実環境を想定した場合、「比較用繊維」は推定供用期間10年で強度残存率が0%と推定されるが、「開発品」は推定供用期間100年程度で強度残存率60%程度を有することが確認できる。
【0031】
しかしながら、繊維単体の引張試験だけでは繊維補強コンクリートの性能は必ずしも評価することができない。そこで、耐アルカリ試験後の短繊維をコンクリートに混入し、曲げ試験(JSCE-G 552)を行って硬化コンクリートとしての性状を確認する(ステップS4)。曲げ試験は、W/C=50%、繊維混入率1.0Vol%とした短繊維補強コンクリートの供試体を作製して行った。
【0032】
図7Aには、「開発品(エポキシ樹脂で被覆されたバサルト繊維)」を使用した繊維補強コンクリートの曲げ試験結果を、変位と荷重との関係で示した。また図7Bには、「比較用繊維(ビニエステル樹脂で被覆されたバサルト繊維)」を使用した繊維補強コンクリートの曲げ試験結果を、変位と荷重との関係で示した。ここで、「0W」は浸漬前、「2W」は浸漬2週目、「4W」は浸漬4週目の結果を示している。
【0033】
これらの曲げ試験結果を見ると、耐アルカリ試験前と比べて、最大荷重にほとんど差異がないことがわかる。それに対して、最大荷重以降の負勾配が浸漬の影響により低下することがわかる。この低下は、浸漬期間が長い(4週(4W))方が大きくなることが言える。
【0034】
さらに、試験終了後にコンクリート破断面における繊維の破断割合を調べると、浸漬前が6.6%、浸漬4週が55.8%と増加していたことから、繊維自体がアルカリ浸透の影響を受け、繊維の破断割合が増加したことが、変位の大きな範囲において荷重値が小さくなった原因と考えられる。
【0035】
そして、曲げ試験結果から曲げ靭性係数を算定する(ステップS5)。ここで、曲げ靭性係数とは、曲げ試験結果により得られた荷重−変位関係において、曲線と変位2.0mmまでの横軸とによって囲まれた面積により表される曲げタフネスを表す指標であり、短繊維補強コンクリートの性能を評価するために一般的に利用される。
【0036】
例えば、「比較用繊維」の浸漬4週目の曲げ靭性係数は2.0N/mm2(浸漬前5.1N/mm2)となった。一方、「開発品」の浸漬4週目の曲げ靭性係数は4.2N/mm2(浸漬前5.6N/mm2)となった。図8には、曲げ強度と曲げ靭性係数との関係を示した。この図には、参考のために鋼繊維が1.0Vol%混入された短繊維補強コンクリートの結果も示した。なお、鋼繊維の結果の一部は、既往の文献に開示されたものを使用した。
【0037】
続いて、バサルト繊維が混入された短繊維補強コンクリートの長期耐久性の評価を行う(ステップS6)。ここで、図8に示したように、現在、広く使用されている鋼繊維が混入された短繊維補強コンクリートの曲げ靭性係数は、2.0N/mm2以上である。現在供用されている実構造物は、供用期間が100年程度を期待されているため、評価する時点で曲げ靭性係数が2.0N/mm2以上となれば供用可能と推定できる。
【0038】
ここで、「比較用繊維」は、図6に示すように、浸漬4週目(4W)が実環境で約8年に相当する。そして、図8に示すように、浸漬4週目(4W)の「比較用繊維」が混入された短繊維補強コンクリートの曲げ靭性係数は2.0N/mm2となった。
【0039】
これに対して、「開発品」は、図6に示すように、浸漬4週目(4W)が実環境で約95年に相当する。そして、図8に示すように、浸漬4週目(4W)の「開発品」が混入された短繊維補強コンクリートの曲げ靭性係数は4.2N/mm2となった。すなわち、無機系繊維が「開発品」である繊維補強コンクリートは、供用期間を100年以上と評価することができる。
【0040】
次に、本実施の形態の繊維補強コンクリートの評価方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の繊維補強コンクリートの評価方法は、アルカリ環境下での無機系繊維単体の劣化度を測定する(ステップS1)とともに、その劣化した無機系繊維を混入した繊維補強コンクリートの曲げ試験を行う(ステップS4)。そして、その曲げ試験結果から算定される曲げ靭性係数の値(ステップS5)を使用して、無機系繊維単体に対して行われた劣化度の試験結果に基づいて算定された促進倍率により設定された時点(例えば100年)の耐久性を評価する(ステップS6)。
【0041】
このため、被覆材によって覆われた無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの長期耐久性の評価が可能となり、幅広い実構造物への適用ができるようになる。すなわち、耐アルカリ試験の浸漬4週の結果から、促進倍率により無機系繊維単体の実環境下での供用期間が設定されると、その供用期間における繊維補強コンクリートによる実構造物の耐久性を、曲げ靭性係数によって評価することができる。
【0042】
また、拡散係数kを算定する際のアルカリ反応モデルは、被覆材を含めた直径を換算直径とすることで、被覆材の相違による反応速度の違いを的確に評価することができるようになる。例えば、被覆材がエポキシ樹脂である「開発品」と、ビニルエステル樹脂である「比較用繊維」との反応速度の相違を考慮することができるようになる。
【0043】
さらに、アルカリ環境下における劣化度の測定を温度が異なる複数の環境下で行うようにすれば、劣化の進行(引張強度の低下率など)が少ない温度の結果のみを使用して評価を行う場合と比べて、バラツキの少ない精度の高い促進倍率の推定を行うことができるようになる。すなわち、温度20℃での耐アルカリ試験の4週間の浸漬では、引張強度の低下がほとんど生じない場合があるが、温度60℃で促進試験を行うことによって、精度の高い促進倍率の算定を行うことができるようになる。
【0044】
また、促進倍率を、無機系繊維の劣化度を測定するアルカリ環境下と実環境下とのpH及び温度の差異を考慮して算定することで、実構造物の実態に近い予測を行うことができる。
【0045】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0046】
例えば前記実施の形態では、無機系繊維としてバサルト繊維を例に説明したが、これに限定されるものではなく、ガラス繊維など他の無機系繊維が混入された繊維補強コンクリートの評価にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
S1 劣化度を測定するステップ
S2 拡散係数を算定するステップ
S3 促進倍率を算定するステップ
S4 曲げ試験を行うステップ
S5 曲げ靭性係数を算定するステップ
S6 耐久性を評価するステップ
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8