特許第6772166号(P6772166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772166
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】データ転送速度の向上
(51)【国際特許分類】
   H04B 7/022 20170101AFI20201012BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20201012BHJP
   H04B 7/08 20060101ALI20201012BHJP
   G01S 5/14 20060101ALN20201012BHJP
【FI】
   H04B7/022
   H04B7/06 150
   H04B7/08 420
   !G01S5/14
【請求項の数】19
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-545664(P2017-545664)
(86)(22)【出願日】2016年3月2日
(65)【公表番号】特表2018-515949(P2018-515949A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】GB2016050543
(87)【国際公開番号】WO2016139469
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2018年10月10日
(31)【優先権主張番号】1503617.1
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517297728
【氏名又は名称】ストラトスフェリック・プラットフォームズ・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】STRATOSPHERIC PLATFORMS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アレグザンダー,ポール
(72)【発明者】
【氏名】デイビッドソン,ピーター
(72)【発明者】
【氏名】フォークナー,アンドリュー
【審査官】 北村 智彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0070677(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0034448(US,A1)
【文献】 特表2003−531543(JP,A)
【文献】 特開平10−150401(JP,A)
【文献】 特表2014−509100(JP,A)
【文献】 特開2012−120222(JP,A)
【文献】 特開2010−200134(JP,A)
【文献】 三浦 龍,鈴木 幹雄,成層圏無線中継システムの開発動向,電子情報通信学会2002年総合大会講演論文集 エレクトロニクス1,2002年 3月 7日,p.426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/022
H04B 7/06
H04B 7/08
G01S 5/14
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)複数の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化するように各プラットフォームが複数のアンテナ素子を含む1個の空中アンテナを搭載した複数の移動プラットフォームと、(b)前記空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器に接続された少なくとも第1および第2のユーザーアンテナとの間の通信を行うための協調的空中アンテナ間ビーム形成の処理方法であって、
前記処理方法は、前記空中アンテナの位置および向きに関するデータを処理システムへ送信することを含み、前記処理システムがビーム形成命令を計算して前記空中アンテナへ送信することにより、前記空中アンテナが前記第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を送受信し、前記第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信し、
前記第1成分信号の各々が、位相および振幅が異なる以外は同一の情報内容を有し、前記第2成分信号の各々が、位相および振幅が異なる以外は同一の情報内容を有していることにより、前記空中アンテナと前記第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、前記空中アンテナと前記第2のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第2の協調ビームを形成し、
各前記空中アンテナの位置、当該空中アンテナと前記第1および第2のユーザーアンテナとの間の信号の波長の数分の一波長の範囲内の精度で特定される、処理方法。
【請求項2】
前記処理システムがデータストリームを取得して前記データストリームを少なくとも第1および第2のデータストリーム成分に分割し、その各々を少なくとも第1および第2の協調ビームを介して少なくとも前記第1および第2のユーザーアンテナへ送信し、次いで前記ユーザー機器が前記第1および第2のデータストリーム成分を併合して前記ユーザー機器内でデータストリームを形成する、請求項1に記載の処理方法。
【請求項3】
前記ユーザー機器がデータストリームを取得して前記データストリームを少なくとも第1および第2のデータストリーム成分に分割し、その各々を少なくとも第1および第2の協調ビームを介して前記空中アンテナへ送信し、次いで処理システムへ送信し、次いで前記処理システムが前記少なくとも第1および第2のデータストリーム成分を併合して前記処理システム内でデータストリームを形成する、請求項1または2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記空中アンテナの位置および向きデータが、前記空中アンテナにより少なくとも1個の地上局へ送信される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項5】
前記処理システムが地上設置された処理センターを含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項6】
地上レベルでの処理が全体的な信号処理能力を支配し、信号処理電子部品の電力需要の70パーセント超、好適には90パーセント超を占める、請求項5に記載の処理方法。
【請求項7】
少なくとも1個の空中アンテナが少なくとも高度10,000m、好適には少なくとも17,000m、最も好適には成層圏にある、請求項1〜6のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項8】
前記空中アンテナのうち少なくとも1個が位相配列アンテナである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項9】
前記空中アンテナのうち少なくとも1個が地上に接続されている、請求項1〜8のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項10】
前記プラットフォームが無人ソーラー電力飛行機、飛行船、またはハイブリッド飛行体を含んでいる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項11】
前記プラットフォームが無人水素電力飛行機を含んでいる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項12】
前記プラットフォームが係留気球を含んでいる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項13】
前記プラットフォームが自由飛行気球を含んでいる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項14】
前記プラットフォームが炭化水素燃料飛行機を含んでいる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項15】
前記プラットフォームが衛星群を含んでいる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項16】
前記プラットフォームの少なくともいくつかが送受信に異なるアンテナを使用する、請求項1〜15のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項17】
前記第1および第2のユーザーアンテナとの間のデータ転送速度が10Mbpsを上回り、好適には100Mbpsを上回る、請求項1〜16のいずれか1項に記載の処理方法。
【請求項18】
(a)複数の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化するように各プラットフォームが複数のアンテナ素子を含む1個の空中アンテナを搭載している複数の移動プラットフォームと、(b)前記空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器に接続された第1および第2のユーザーアンテナとの間の通信用に通信ネットワークを提供する装置であって、
前記通信ネットワークが、前記空中アンテナの位置および向きに関するデータを受信すべく適合された処理システムを含み、前記処理システムが更に、ビーム形成命令を生成して前記空中アンテナへ送信すべく適合されていて、前記空中アンテナが、前記第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を送受信すべく適合され、前記第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信すべく適合されていて、
前記第1成分信号の各々が、位相および振幅が異なる以外は同一の情報内容を有し、前記第2成分信号の各々が、位相および振幅が異なる以外は同一の情報内容を有していることにより、前記空中アンテナと前記第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、前記空中アンテナと前記第2のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第2の協調ビームを形成し、
各前記空中アンテナの位置、当該空中アンテナと前記第1および第2のユーザーアンテナとの間の信号の波長の数分の一波長の範囲内の精度で特定される、装置。
【請求項19】
コンピュータに実装されたならば、前記コンピュータに請求項1〜17のいずれか1項に記載の処理方法を実行させる、コンピュータ実装可能な命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、協調的空中アンテナビーム形成を行う複数の局所アンテナを利用したユーザー機器とのデータ転送速度を向上させる手段に関する。
【背景技術】
【0002】
高高度プラットフォーム(高度10〜35kmにある飛行機および空気よりも軽い構造物)すなわちHAPSが多様な用途に対応すべく提案されてきた。注目を集めている領域として、電気通信、測位、観測その他の情報サービス、具体的には高速インターネット、電子メール、電話通信、テレビ放送サービス、ゲーム、ビデオオンデマンド、および全地球測位がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高高度プラットフォームは、地球表面のはるか近く、典型的には約20kmの高度で動作する結果、いくつかの点で人工衛星(以下「衛星」と表記)よりも優れている。静止衛星は高度約40,000kmにあり、低い地球周回軌道衛星は通常高度が約600km〜3000kmにある。衛星は低高度にも存在するが寿命が極めて短いため不経済である。
【0004】
高高度プラットフォームが衛星と比較して相対的に近い結果、信号を発信源から送信して応答を受信するまでの時間がはるかに短くなり、システムの「待ち時間」に影響を及ぼす。更に、高高度プラットフォームは、信号出力および信号待ち時間の観点から標準的な移動電話の送信範囲内にある。特に大型または専用アンテナ無しで動作する通常の、携帯電話端末にとって、衛星は全て受信圏外である。
【0005】
高高度プラットフォームはまた、衛星が必要とするロケット推進による打ち上げを要しないため、強い加速および振動、さらには高い打ち上げ失敗確率に伴う衛星コストへの影響が無い。
【0006】
高高度プラットフォームに掛かるペイロードは、衛星ペイロードと比較して容易に、且つ適度のコストで回収することができる。テスト要件がさほど厳しくない結果、開発期間が短く、且つ低コストで済む。
【0007】
米国特許第7,046,934号明細書に、衛星と協働して情報サービスを配信する高高度風船が開示されている。
【0008】
米国特許出願公開第20040118969A1号明細書、国際公開第2005084156A2号パンフレット、米国特許出願公開第5518205A号明細書、米国特許出願公開第2014/0252156A1号明細書に、高高度飛行機の特定の設計が開示されている。
【0009】
しかし、高高度プラットフォームから信頼性の高い情報サービスを提供するには多くの重要な技術的困難がある。信頼性、カバレッジ、および単位地表面積当たりのデータ容量は、携帯電話、装置通信システム、地球観測および測位サービスにとって必須の性能基準である。
【0010】
政府監督官庁は通常、電磁波を発するシステムが用いる周波数および帯域幅を規定する。波長が短いほど、所与の比帯域幅で利用可能なデータ転送速度が向上するが、雨または壁等の障害物を通る際の減衰が大きくなり、良好なカバレッジの提供に利用可能な回折が少なくなる。これらの制約は、世界の大部分で0.7〜5GHzの搬送周波数および典型的に10〜200MHzの帯域幅を選択した結果生じたものである。
【0011】
現行レベルの1〜10Mbps/平方キロメートルのオーダーから急激に増大している、単位地表面積当たりの高いデータ転送速度に対する需要がある。
【0012】
単位地表面積当たりの高いデータ転送速度を提供すべく、高高度滞空型無人(HALE)飛行機、または自由飛行あるいは係留気球は、地上で密に配置されたトランシーバ同士を区別するために大型アンテナを装備する必要がある。アンテナの直径が大きいほどシステムの角分解能が小さくなり、従ってシステムが識別可能な地上の距離が短くなる。最終的に、分解能は当業者には公知の「レイリー基準」により規定される。アンテナ分解能が大きいほど、単位地表面積当たりの潜在データ転送速度が高くなる。
【0013】
しかし、直径が50メートル以上と極めて大きい1個または複数のアンテナをプラットフォームに搭載することは現行または将来的なプラットフォーム技術では不可能である。
【0014】
合成開口の合成は、電波天文学において長く知れられており、適切に間隔が空けられた比較的小さいアンテナ群からの信号を用いて大型アンテナと同等の分解能を合成するものである。実際、Martin RyleおよびAntony Hewishは、電波干渉計の開発および利用にたいする当該および他の貢献により1974年度のノーベル物理学賞を共同受賞した。長年にわたり開口合成の関連技術が潜水艦との低周波数無線通信、音響効果、LTE内の位相配列、およびWiFiシステムに用いられてきた。しかし、地上設置または空中ユーザー機器との通信への利用は一切考慮されてこなかった。
【0015】
潜水艦との低周波無線通信および音響合成開口合成は数年間にわたり利用されてきた。
【0016】
高高度プラットフォーム用の位相配列デジタル「ビーム形成」(DBF)およびマルチビームホーン(MBH)が例えば、R.MiuraおよびM.Suzuki「Preliminary Flight Test Program on Telecom and Broadcasting Using High Altitude Platform Stations,」(Wireless Pers.Commun.,An Int’l.J.,Kluwer Academic Publishers,vol.24,no.2,Jan. 2003,pp.341−61)において考察されている。他の参考文献として以下が含まれる。
http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=620534,
http://ieeexplore.ieee.org/xpls/abs_all.jsp?arnumber=933305,
http://digital−library.theiet.org/content/journals/10.1049/ecej_20010304,
http://digital−library.theiet.org/content/journals/10.1049/el_20001316
http://ieeexplore.ieee.org/xpl/articleDetails.jsp?arnumber=4275149&pageNumber%3D129861
【0017】
しかし、従来技術は、高高度プラットフォームの利用が次世代通信手段をもたらすことに向けて有望な方法を代表するものではないことを示唆する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
第1の態様において、本発明は、(a)1本以上の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化するように各プラットフォームが1個の空中アンテナを搭載した複数の移動プラットフォームと、(b)空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器(UE)に接続された少なくとも第1および第2のアンテナとの間の通信を行うための協調的空中アンテナ間ビーム形成の処理に関し、
当該処理は、空中アンテナの位置および向きに関するデータをデータ処理システムへ送信する動作を含み、処理システムがビーム形成命令を計算して空中アンテナへ送信することにより、空中アンテナが第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を受送信し、第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信し、
第1成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有し、第2成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有していることにより、空中アンテナと第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、空中アンテナと第2のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第2の協調ビームを形成する。
【0019】
また、本発明は、1個以上の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化し、少なくとも第1および第2のアンテナが空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器に接続されている、少なくとも1個の移動プラットフォームに搭載された少なくとも2個の空中アンテナ間の通信用にビーム形成を行う協調的空中アンテナの処理に関し、
当該処理は、空中アンテナの位置および向きに関するデータをデータ処理システムへ送信する動作を含み、処理システムがビーム形成命令を計算して空中アンテナへ送信することにより、空中アンテナが第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を受送信し、第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信し、
第1成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有し、第2成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有していることにより、空中アンテナと第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、空中アンテナと第2のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第2の協調ビームを形成し、その結果生じた協調ビームは従って、少なくとも2個の空中アンテナの位置を包含するのに充分に大きい概念上の単一空中アンテナから形成されたビームと同一または類似の特性を有している。
【0020】
用語「同一または類似の」はビームサイズ等の特性を意味している。
【0021】
第2の態様において、本発明は、(a)複数の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化するように各プラットフォームが1個の空中アンテナを搭載している複数の移動プラットフォームと、(b)空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器に接続された第1および第2のアンテナとの間の通信用に通信ネットワークを提供する装置に関し、
ネットワークは、空中アンテナの位置および向きに関するデータを受信すべく適合された処理システムを含み、処理システムは更に、ビーム形成命令を生成して空中アンテナへ送信すべく適合されていて、空中アンテナは、第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を送受信すべく適合され、第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信すべく適合されていて、
第1成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有し、第2成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有していることにより、空中アンテナと第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、空中アンテナと第2のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第2の協調ビームを形成する。
【0022】
また、本発明は、1個以上の空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化し、且つ第1および第2のアンテナは空中アンテナよりも低い高度を有するユーザー機器に接続されている、少なくとも1個の移動プラットフォームに搭載された少なくとも2個の空中アンテナ間の通信用に通信ネットワークを提供する装置に関し、
ネットワークは、空中アンテナの位置および向きに関するデータの受信に適合されたデータ処理システムを含み、処理システムは更に、ビーム形成命令を生成して空中アンテナへ送信すべく適合されていて、空中アンテナは、第1のユーザーアンテナとの間で各々の第1成分信号を送受信すべく適合され、第2のユーザーアンテナとの間で各々の第2成分信号を送受信すべく適合されていて、
第1の信号成分は各々位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有し、第2成分信号の各々が、位相および通常は振幅が異なる以外は基本的に同一の情報内容を有していることにより、空中アンテナと第1のユーザーアンテナとの間の信号の協調和から第1の協調ビームを形成し、空中アンテナと第2のユーザーアンテナとの間の信号協調和から第2の協調ビームを形成し、その結果生じた協調ビームは従って、少なくとも2個の空中アンテナの位置を包含するのに充分に大きい概念上の単一の空中アンテナから形成されたビームと同一または類似の特性を有している。
【0023】
使用時には、処理システムはデータストリームを取得して当該データストリームを少なくとも第1および第2のデータストリーム成分に分割し、その各々を少なくとも第1および第2の協調ビームを介して少なくとも第1および第2のユーザーアンテナへ送信することができる。次いでユーザー機器が少なくとも第1および第2のデータストリーム成分を併合してユーザー機器内でデータストリームを形成することができる。
【0024】
等価的に、ユーザー機器は、データストリームを取得して当該データを少なくとも第1および第2のデータストリーム成分に分割し、その各々を少なくとも第1および第2の協調ビームを介して空中アンテナへ送信することができ、次いで空中アンテナが各データストリームを処理システムへ送信することができる。次いで処理システムが少なくとも第1および第2のデータストリーム成分を併合して処理システム内でデータストリームを形成することができる。
【0025】
電波天文学用に開発された技術の積み重ねを通じて、これらの極めて細いビームの生成は、各々の空中アンテナの位置および向きが適当な正確さで知られていて、且つ適当なビーム形成命令を計算して各々の空中アンテナに伝達する処理システムに適当な周波数で伝達されたならば、各空中アンテナとの間で送受信された各種信号の位相決定および重み付けを修正することにより実現できることが分かっている。
【0026】
極めて細いビームの幅は、任意の方向において、より低い高度または地球表面上のUEとの通信に用いる空中アンテナ群全体のうち当該方向に直径を有する空中アンテナにより実現可能な幅と比較し得る。
【0027】
UEは、送信器または受信器あるいはその両方を含んでいてよい。空中アンテナは、位相配列または従来型アンテナあるいはその両方であってよい。
【0028】
本発明は、複数のプラットフォーム上のアンテナの相対位置を、数GHz単位の周波数に至るまで数分の一波長の精度で特定するのに適した測位システムの能力を利用する。上述のように、電波天文学で一般に用いられるものと同様の「開口合成」を可能にする適当な信号処理により、空中アンテナの最大離間距離の相当な割合に等しい直径を有する高所アンテナの分解能と同等のビーム分解能を得ることが可能である。このような開口合成を実現するには、他の全てのアンテナに相対的なアンテナの位置を一波長の約1/6、好適には一波長の1/10の範囲内で特定する必要があり、これは最新の測位技術により可能になっている。
【0029】
有用なビームを生成するには、全ての空中アンテナが位相配列である場合、空中アンテナ内の素子の物理的位置に関する知識が好適である。これらの空中アンテナまたはアンテナ素子の位置は典型的に一波長の分数、好適には一波長の10分の1より小さく、これは2GHzのキャリア信号の場合、1.5cm以下である。この精度では、特に複数のプラットフォームがランダムな位置誤差を含む可能性があると考えた場合、信号損失またはビーム形状歪みが殆ど無い。
【0030】
プラットフォーム位置特定は、複数の地上局でプラットフォーム信号の位相を測定し、プラットフォームの位置を三角測量することにより地上で行うことができ、プラットフォームの向きおよび変形を適切に測定したならば、各々のアンテナ素子の位置および向きを特定することができる。
【0031】
より洗練された方式として、アンテナ素子の位置は、アンテナ位置の正確さが差分GNSS、例えばGPS、GLONAS、GALILEOその他の方法により緩和することは公知の場合、ビーム形成処理を反転させ、且つ配列上のアンテナから信号を相関させることにより特定することができる。このように、位置「解」は、一波長の10分の1より小さいことが分かっている位置にある複数の地上局からの信号またはビーコンを用いて見出すことができる。これは従って、プラットフォームの極めて正確な位置および向きを与える。
【0032】
更なる態様において、本発明は、空中アンテナの位置および向きが時間経過に伴い変化するように、少なくとも1個の移動プラットフォーム搭載された移動空中アンテナまたはアンテナ素子の位置を特定する方法に関し、本方法は、バックホール基地局であり得るi個の地上設置された送信器との間で送信された既知の波長λを有する信号間の値が0〜1である一波長の分数である位相差yを判定するステップにおいて、iは少なくとも3であり、地上設置された送信器の位置がλ/10の精度で既知であり、これにより空中アンテナまたはアンテナ素子における、基地局から空中アンテナまたはアンテナ素子までの距離がλ(n+y)となり、nは未知整数であるステップと、差分全地球測位システム、GPS、または他の方法により、空中アンテナまたはアンテナ素子の位置を少ない個数の波長λの範囲内で特定し、これによりnが各信号について限定された個数の可能な整数値の1個であり得ることを確定するステップにおいて、基地局の個数および位置が、各nに対して1個の整数値だけが確定されるまで、他の地上設置された送信器からの限られた個数の可能な値nと整合しない可能な値nを除去可能にするのに充分であるステップと、少なくとも3個の地上設置された送信器から、自身の既知の距離λ(n+y)の三角測量により空中アンテナまたはアンテナ素子の位置を特定するステップとを含んでいる。
【0033】
従って、本発明は、空中アンテナは時間経過に伴い位置および向きが変化するように高い位置にあって少なくとも1個は移動している少なくとも2個のアンテナの位置を特定する方法に関し、本方法は、2段階を含んでいる。第1段階は典型的には差分GNSS、例えばGPSを用いる外部参照により、実現可能な正確さの限界の範囲内、典型的には20cm未満、より典型的には10cm未満でプラットフォーム、従ってアンテナの位置を特定する。これは典型的な携帯電話周波数である数GHzの波長と同等である。
【0034】
次いで第2の段階において、アンテナ素子の一部または全てと空中配列との相関を計算する、すなわち各地上局で受信された信号に対し多くの異なる相対遅延を試して、各地上局から受信され信号を最大化する遅延を見出すことにより各地上局からの信号の位相を見出すことにより複数の地上局の各々から信号を検出する。これにより、第1の(例:差分GPS)方法により画定される空間領域内ではるかに厳密な距離を与えるべく各々の個別地上局から空中アンテナまで範囲が調整される。複数の地上局を有し、それらのより正確な範囲を見出すことにより、それらの範囲の交差箇所がプラットフォームおよびアンテナ位置を与える。
【0035】
配列の自由モードが3であるため、協調的アンテナ間ビーム形成の処理を可能にすべく本発明の本態様を利用して空中アンテナ位置を充分正確に且つ完全に特定するために、少なくとも3個の地上局からの3個の法線距離軸が必要である。空中アンテナの向きも本方法により判定する場合、これらを特定するために更なる3個の地上局は必要である。代替的に、アンテナの向きは、オンボード方位測定装置、例えば適当なジャイロスコープを用いて特定することができる。
【0036】
特定の地上局を用いるのではなく、専用ビーコン設備が測位信号を出力することができる。
【0037】
アンテナ素子からの信号を充分な周波数で相関させ、短期位置予測を用いることにより、近似プラットフォームの速度、方向、ロール、ヨー、およびピッチ率を知ることで(特に飛行機の場合)、空中アンテナ素子の位置を、空中アンテナの移動に依らず協調ビーム形成に必要とされる正確さで特定することができる。
【0038】
同一の処理が逆向きに、すなわち空中アンテナまたはアンテナ素子から複数の地上局に信号を送信に用いることができる。
【0039】
空中アンテナ素子がこのように位置特定されたならば、それらの移動の全てを追跡することができる。しかし、追加的な本発明の態様において、プラットフォーム上で局所的に、または1個以上の処理センターあるは両者の何らかの組み合わせで処理を行う処理システムにとって合理的な計算負荷を保証すべく、求める周波数で信号位相を判定可能にするために正確な現地時間測定が必要である。例えば、更新が必要な場合、時間測定は、位置を一波長の1/10(2GHzでは50ピコ秒以下)未満の精度で測定できるように、次回更新までの間、充分に正確であることが好適である。
【0040】
少なくとも3個の空中アンテナからの協調ビーム形成により生じた極めて細いビームにより、ユーザー機器上の複数のアンテナを互いに近接して配置して空中アンテナとの間で独立情報を受送信することができることが分かっている。離間距離は数百メートルではなく、典型的には20メートル未満、特に5メートル未満、更には1メートル未満であるが、2GHzのオーダーの搬送周波数の場合は通常0.3m以内ということはない。これらの距離は全て搬送周波数の逆数に比例するため、例えば20GHzの搬送周波数は、上述の距離の10分の1の距離をもたらす。
【0041】
本発明を利用して、互いに近接した個別UEのアンテナの各々の上に細いビームが形成される。これらのアンテナは各々、適切に設計されていれば、各ビームのほぼ最大のチャネル容量を使用する能力を有することができる。ある通信チャネルのシャノン容量は、1個のユーザー機器との通信で特定の雑音レベルおよび帯域幅を保証する当該チャネルの理論上の最大情報転送速度である。
【0042】
UEの近傍に配置されたUEのアンテナの集団は従って、利用可能な帯域幅を以前よりもはるかに効果的に利用することが可能である。例えば、ビームサイズの直径が約1メートルである場合、各々がほぼ最大のビームシャノン能力を利用することができる多数のアンテナを建物の屋上または飛行機の胴体に配置することが可能である。飛行機、車両、建物、船舶、または低高度UAV上のユーザー機器は、一例として、(例えば、10または100個のアンテナおよび見通し線上に充分な空中アンテナが存在する場合)、以前に極めて遠いユーザー機器アンテナとの物理的な接続無しで可能だった場合よりも多くの情報を多くの回数送信することができる。
【0043】
本発明の第2の態様では、ユーザー機器、例えばタブレット、パーソナルコンピュータ、および他の機器に入射するビーム方向を分解することにより近接した間隔でのアンテナ配置も可能になる。そのような機器に顕著に異なる角度で入射または出射する入射ビームを分解可能な多数のアンテナを配置することができる。最小分解能角度を計算する手法は当業者には公知である。適当な空中アンテナ重み付けおよび充分な空中アンテナを用いた位相決定により、空中アンテナがユーザー機器アンテナへの見通し線上に、またはほぼ見通し線上に存在する場合、空中アンテナの本数およびユーザー機器アンテナの本数より常に少ない個数の独立ビームを生成することができる。従って、例えば、互いに隣接する4個のアンテナを有するラップトップは、少なくとも4個の空中アンテナと通信状態にある場合、4個の独立ビームを分解することが可能である。
【0044】
本発明の代替的な実施形態において、協調的空中アンテナ間「ビーム形成」は、自然干渉、ジャミング、またはノイズへの耐性を向上させる、あるいは出力フラックス密度を制限すべく無線通信用の多くの異なる専用技術と連携して用いることができる。これらの技術は特に、例えばInsitute of Electrical and Electronics Engineers(IEEE)802.1標準に基づく局所無線領域技術(WiFi)または「無線局所エリア・ネットワーク」(WLAN)を含んでいる。これらはまた、信号が元の情報の周波数内容よりも大きいスペクトルで送信される、周波数ホッピングスペクトル拡散(FHSS)、直接シーケンススペクトル拡散(DSSS)、時間ホッピングスペクトル拡散(THSS)、チャープスペクトル拡散(CSS)、およびこれらの技術の組み合わせを含む各種の「スペクトル拡散」技術を利用する。
【0045】
協調的空中アンテナ間「ビーム形成」は、超高精細ビデオおよびゲームアプリケーション等の、但し放送用以外に限らない、持続的平均レベルが100Mbps超の極めて高いデータ転送速度および100ミリ秒未満の短い待ち時間を光ファイバケーブルに接続していない地上の移動ユーザーまたは静止ユーザーが求める場合に利用することができる。
【0046】
複数の空中アンテナを用いることにより、許された帯域幅の極めて効果的な利用が可能である。
【0047】
以下、本発明について、特に協調ビーム形成空中アンテナを利用する「HAP−CELL」と称する実装方式を例に挙げて以下の図を参照しながら説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】協調的空中ビーム形成システムの模式的表現である。
図2】位相配列の説明図である。
図3】単一の位相配列におけるビーム形成を示す。
図4】飛行機に搭載されたアンテナのコンステレーションによるビーム形成を示す。
図5】システム構成および移動通信ネットワークとの接続の模式的表現である。
図6】飛行機通信システムの模式的構成である。
図7】バックホール地上局(BG局)システムの模式的構成である。
図8】複数のHAP−Cellシステムを示す。
図9】係留気球に搭載された複数のプラットフォームを示す。
図10】地上設置フェムトセルの生成を示す。
図11】最小限のエネルギー漏出で国境までの良好なカバレッジを提供するために1本以上の空中アンテナからのビームをどのように変更できるかの一例を示す。
図12】個別のUE複数アンテナ情報フローを示す。
図13】個別のUE複数アンテナビーム形成情報フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
用語集を表3に記載している。
【0050】
HAP−CELLシステムは、従来の移動通信ネットワークまたはインターネットとインターフェースを有するUEとの間で高速データ通信を提供することができる。
【0051】
HAP−CELLシステムは、標準的なインターフェース仕様およびプロトコルまたは知財保護されたインターフェースプロトコルに対応可能である。図示する例において、UEとして標準的な旧式携帯電話、スマートフォン、タブレット、またはモバイルコンピュータとの通信に対応している。対応可能な他のユーザー機器として、車両または飛行機搭載のトランシーバ、またはインターネットへの電子機器の接続を可能にする建物の上または内部に固定された機器がある。
【0052】
HAP−CELLシステムは、更に、適当なインターフェースで既存の携帯電話ネットワークおよびインターネットに接続可能である。通信トポロジは、従来の携帯電話ネットワークと同様に構成することができ、その場合、本発明が従来のモバイルネットワークの一部として用いることができる。
【0053】
図1は本システムの模式的表現である。図1に、可能な構成を一つだけ、すなわちプラットフォームとして複数の飛行機(8)を利用して、例えば直径が約60kmの「サービスエリア」(13)をカバーするアンテナのコンステレーションを形成する例を示す。
【0054】
本システムは、高度約20kmで動作する複数のプラットフォーム(9)に搭載されたアンテナの「コンステレーション」を用いる。これらのプラットフォームは、例えば、気球(係留された、または自由飛行の)、あるいは有人または無人飛行機であってよい。飛行機の場合、これらは例えば、適当な緯度および季節で長時間滞空すべき太陽電力を利用するものであっても、高出力機器を必要とする用途または特定の季節で日照時間が限られる地域で高エネルギー密度燃料として水素を使用するものであってもよい。炭化水素等の他の燃料も利用することができる。
【0055】
図1において、各飛行機プラットフォーム(8)は2個のアンテナ(15,16)、すなわち送信用に1個、受信用に1個搭載している。一実施形態において、プラットフォームは位相配列システム、またはホーンアンテナシステムを搭載している。これらのシステムは、ビーム形成技術を利用する場合、異なるパッチ(10)、すなわちアンテナビームにより照射される領域に位置するUE(11)と通信すべく異なる方向に多数の別々のビーム(6,7)を提供することができ、且つ「バックホールは地上」すなわちBG局(4)への「バックホール」リンク(5)を提供することもできる。
【0056】
本発明は、セルラネットワークの残りの部分とのUE動作に対応したバックホールデータ通信システムを提供すべくBG局(4)との通信リンクを提供することができる。BG局はまた、ビーム形成技術と共に位相配列システムを用いて、例えば地上設置コンピュータ処理センター、またはより簡単なディッシュまたはホーン式システムをコンピュータ処理システムの制御下でプラットフォームと直接通信することができる。BG局は、地上設置されたコンピュータ処理センター(1)に標準プロトコルを介して、光ファイバー、またはマイクロ波接続、あるいは他の何らかの物理的接続技術(3)により接続されていてよい。簡潔のため、図1にバックホール局への全てのリンクを示している訳ではない。
【0057】
図5に示すように、システムの一例示的実施形態は、
1.空中プラットフォーム(図示せず)に搭載された多数のUE(UE、UE〜UE)およびBG局(51,52)と通信するプラットフォーム搭載の位相配列アンテナ
2.プラットフォームに搭載され、バックホールデータリンクを備えたオプションとしての追加的な受信器および送信器(図示せず)
3.プラットフォームと通信し、処理センターに接続するBG局または他のアンテナ
4.通信リンク用の全てのパラメータを計算して、より広いセルラネットワーク(54)にインターフェースを提供する処理センター(53)
を含む。
【0058】
このように、本発明は、アンテナのコンステレーション(地上設置UEが存在する領域内の見通し線の個数は通常少なくとも3、典型的には15、更には数百に上る)は、個々のユーザーとの極めて絞り込まれた通信に提供すべく協調的またはプラットフォーム間ビーム形成を提供する。図1を参照するに、特定のパッチ内で単一ユーザーのために用いるビーム(12)は、極めて小さい。
【0059】
本発明を利用することで、目標ビームを単一のUE上で形成することができる。当該ビームと地上との交差箇所を、単一UEとの通信用に利用可能なあらゆるリソース(信号帯域および通信出力)を用いる能力を有する個別セルとしてモバイルネットワークに提示することができる。これらのセルを以下で「動的フェムトセル」またはDFセルと称す。
【0060】
図10に、3機の飛行機(121)が、少なくとも3個の空中アンテナを搭載したプラットフォームを提供する例を示す。これらは共同で、はるかに大きい空中アンテナ(122)をシミュレートし、地上で適度のフェムトセルサイズを有する多数のビーム(123)を生成する。図10に示す例において、異なるフェムトセルA,1,2,3等に異なるUEが配置されていてよい。これらのフェムトセルは地上で移動可能であって「動的フェムトセル」と呼ばれる。
【0061】
複数の空中アンテナを用いることにより帯域幅の極めて効果的な利用が可能である。
【0062】
システムのスペクトル効率がS(ビット/秒)/Hzであって、各フェムトセルの外側のサイドローブの電力が充分低い場合、最大潜在データ転送速度S×帯域幅×UEの見通し線上のアンテナ本数を、個別の空中アンテナからのアンテナビームの分解能限度で表される各領域内の適当な個数のユーザー機器トランシーバが利用できる。
【0063】
シミュレートされたアンテナのサイズが、地上設置UEからの距離と同等である場合、生成されるフェムトセルは極めて小さく、キャリア波長と同等になる。波長が15cmの2GHz搬送周波数の場合、フェムトセルサイズは、これより僅かな波長分だけ大きく、確実に1m未満である。代替的に、空中アンテナ同士の距離が短く、従ってシミュレートされたアンテナのサイズが数百メートルのオーダーのように適度である場合、地上設置フェムトセルのサイズは、直径10メートル前後、恐らく例外的には直径30メートルと、極めてより大きくなる。
【0064】
異なるビーム幅は異なる利点を有している。例えば、フェムトセルのサイズが小さければ、空中アンテナからの出力をはるかに強く集中させることができ、且つUEへのデータ転送のセキュリティが向上する点で相当の利点を有している。
【0065】
しかし、フェムトセルのサイズが小さいということは、処理システムがUEの移動を追跡するのが困難になり、信号の堅牢性を保証するためにより多くのリソースを必要とすることを意味する。
【0066】
特定のUE機器に向けてビームを操作できること、およびUEまたは空中アンテナの移動のデータ転送に対する影響を防止または改善すべくその有効幅を変更可能であることが有利であることが分かる。
【0067】
好適な一実施形態において、UEから受信した各ビームの電力は測定可能であり、適当なアルゴリズムにより、制御システムは追加的なビームを生成して既存のビームを遮断するか、または単に既存のビームを操作して特定のUEとの通信に必要とされる電力を最小限に抑えることができる。本発明の本態様は、UEが空中アンテナのコンステレーションに相対的に移動している場合に特に有用である。本態様は、UEが移動する際に従来の固定マイクロおよびピコセル間で必要とされるセル間の「ハンドオーバー」回数を大幅に減らす。
【0068】
本発明の追跡態様を説明するため図10のケースを考える。フェムトセルA内に1個のUE機器が存在し、フェムトセル1,2,3等には他の機器が存在しないが、これらのフェムトセルの各々からの受信電力を監視している場合、UEがフェムトセルAからフェムトセル1へ移動したならば、処理センターはフェムトセル1からの受信電力の増大を識別し、フェムトセル3、4および5の生成およびそれらからの受信電力の監視を中断して、フェムトセル7、8からの受信電力の監視を開始することができる。
【0069】
この関連において、特定のビームからシステムが受信した電力に関する検索アルゴリズムを用いてビームを操作してそれらの幅を調整できることが分かっている。
【0070】
本システムは、少なくとも2個の空中アンテナと、当該空中アンテナ下方のユーザー機器(UE)との間でデータを送信するための協調ビーム形成技術を用いる複数の空中アンテナと通信状態にあるユーザー機器との間で受送信されるデータの転送速度を向上させ、空中アンテナは互いに相対的に移動しているが、それらの位置および向きは充分に良く知られているため、いずれの個別空中アンテナにより実現されるものよりもはるかに狭い指向性信号の送受信(ビーム)を生成すべく信号を処理することが可能であって、充分に間隔が空けられた複数のアンテナをユーザー機器に配置または接続して空中アンテナへの複数の独立ビームを生成または受信することができる手段に関する。このように、ユーザー機器により複数の独立したデータストリームを受送信することができる。
【0071】
本発明の一例を図12に示しており、ユーザー機器アンテナ(A,A,...A))は互いに充分に間隔が空けられているため、各アンテナは独立ビームを空中アンテナのコンステレーションから受信することができる。高転送速度または大量のデータストリーム(IHR)がユーザー機器(165)から送信される。当該データストリームは、当業者には公知の技術、例えば「Scalable Splitting of Massive Data Streams」(Zeitler and Risch,Department of Information Technology,Uppsala University,Sweden,http://www.it.uu.se/research/group/udbl/publ/DASFAA2010.pdf)を用いてスプリッタ(166)により、複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)に分割され、平行なデータストリーム(I,I,...I)の各々は次いで、ユーザー機器に接続された複数のアンテナ(A,A,...A)のうち1本から、複数の空中アンテナ(HAP,HAP,...HAP)へ送信され、次いで、空中アンテナ(HAP,HAP,...HAP)の可変的位置を利用する協調的空中アンテナビーム形成(163)技術により処理センター(166)で再結合される前に、複数の地上設置された、または低高度のアンテナ(2本161,162のみ図示)により受信されて、例えば上述の「Zeitler and Risch」のように当業者には公知の処理(167)で再結合される前に複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)を再構成して、インターネット(164)その他の接続先へ送信される前に高転送速度データストリーム(IHR)を再構成する。
【0072】
併合処理は処理センターまたは他の箇所で実行されてよい。
【0073】
ユーザー機器は、類似の、但し反転した処理で、高転送速度データストリームを受信することができる。インターネットその他の接続先(164)からの信号は、協調ビーム形成空中アンテナの技術を用いて処理センターで処理される前に、複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)に分割(167)され、複数の地上局(161,162...)を介して複数の空中アンテナ(HAP,HAP,...HAP)へ送信することができ、次いで各サブストリームは、併合(166)される前に、複数のアンテナ(A,A,...A)のうち1個により、ユーザー機器(165)またはこれに隣接するユーザー機器で受信することができる。
【0074】
本発明の代替的な実施形態において、複数のユーザーアンテナは、各々が独立ビームをアンテナのコンステレーションから受信できる程度には充分に間隔が空けられていない。しかし、空中アンテナのコンステレーションを多数の分離された下位コンステレーションに分割することにより、当該下位コンステレーションにより異なるビーム方向を生成して、ラップトップコンピュータ上のように互いに近接して配置されたユーザーアンテナにより当該方向を分解することができる。次いでユーザー機器アンテナとの間のビーム形成を用いて複数の独立ビームを生成することができる。当該処理は次いで上述と同様に実行されるが、複数の平行なサブストリームの各々は、適当なビーム形成実装された全てのユーザー機器アンテナにより送受信される。
【0075】
図13に当該処理を示す。高転送速度または大量データストリーム(IHR)がユーザー機器(175)から送信される。当該データストリームは、例えば上述の「Zeitler and Risch」のように当業者には公知技術を用いてスプリッタ(176)により複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)に分割される。次いで複数の平行なストリームは各々、ユーザー機器(178)内で、またはこれに接続する設備内でビーム形成され、各信号は次いでアンテナ(A,A,...A)のいくつかまたは全てを介して適当な位相決定および振幅で送信される。このように、複数の独立ビームが複数のアンテナ(A,A,...A)から生成され、空中アンテナ(C,C,...,C)の複数の下位コンステレーションにより独立に受信されて、空中アンテナ(C,C,...,C)の可変的位置を利用する協調的空中アンテナビーム形成(173)技術により処理センターで再結合される前に、BGS(171、172)に伝送されて、複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)が、例えば上述の「Zeitler and Risch」のように当業者には公知の処理(177)で再結合される前に当該複数の平行なサブストリーム(I,I,...I)を再構成して、インターネット(174)その他の接続先へ送信される前に高転送速度または大量データストリーム(IHR)を再構成する。
併合処理は処理センター内で、またはある距離離れた箇所で実行されてよい。
ユーザー機器は、類似の、但し反転した処理で、高転送速度または大量データストリームを受信することができる。
【0076】
特定のデータ、アプリケーション、およびコンテンツの伝送は、ユーザー機器または特定のユーザー、例えば児童に有害な影響を及ぼす場合がある。本システムにより、システムオペレータは、ユーザー機器または特定のユーザーを保護すべく処理センターその他の箇所においてデータ、アプリケーション、およびコンテンツの確認を行うことができる。
【0077】
従って、更なる態様において、本発明はユーザー機器上のアンテナとの間でデータ、アプリケーションおよび/またはコンテンツを受信および/または送信する方法に関し、本方法は本明細書に記述するようなネットワークまたは処理を利用する。
【0078】
本システムは、現行システムよりも高いデータ転送速度で、広域カバレッジ内で極めて精密な地理的位置の特定を可能にする。
【0079】
現在、差分GPS等の追加的なシステムを用いる以外に市街地外のマクロセルにおいて数十メートルどころか数百メートル未満の精度で位置を特定するのは困難である。マイクロセルを有する市街地内でさえ10m以下の精度で位置を特定するのは困難である。
【0080】
アンテナのコンステレーションによりアクセスできる広い領域内で、伝搬状態に依存するが、数メートル、更には1メートル未満の分解能で位置を特定できる場合が多い。これにより、システムが部屋または建物を識別する際に、専用または汎用ユーザー機器へのアクセスを連続的または断続的に制限する能力を与える。
【0081】
そのようなアクセス能力は、しかるべき権限者が、アクセス権を制限または変更する正当な権利がある区域内で、例えば未成年または訪問者が特定の部屋に特定の時間または連続的にアクセスするのを制御できるようにする潜在能力を有している。この能力はまた、ユーザー機器の位置に関する情報を、別ユーザー機器に接触している他の関係者に容易に提供する能力を有している。
【0082】
好適な一実施形態において、本発明は、位置および/または時間を指定して当該位置への情報の送信または受信を許可または拒絶することにより、本明細書に記述する装置または処理へのアクセスを管理する処理に関する。
【0083】
位相配列アンテナおよびアンテナ間ビーム形成技術
UEは、送信器または受信器あるいはその両方を含んでいてよい。空中アンテナは、位相配列または従来型アンテナあるいはその両方であってよい。
【0084】
上述のように、協調ビーム形成空中アンテナシステムは、高度な位相配列を利用するものであり、「配列内ビーム形成」すなわち1個のアンテナ内でのビーム形成を可能にする。以下にこれらの技術の概要を示す。
【0085】
位相配列は多数の個別アンテナ素子を含んでいるが、本明細書の以下の部分では「アンテナ」は1個以上の位相配列または1個以上の従来の個別アンテナ、例えばホーンアンテナを指す。
【0086】
位相配列は、高高度飛行機その他のプラットフォームにおいて特に利点を有しているアスペクト比、すなわち深さ対幅の比率が一般に小さく、従って低い空力抵抗が必要とされる構造への搭載が容易な場合が多い。
【0087】
高高度プラットフォームに搭載されたアンテナは、高高度プラットフォームアンテナ以外を介してはインターネットまたはセルラネットワーク等の地上設置された大規模通信ネットワークと接続されていないUEとの双方向通信が可能である。そのようなアンテナはまた、地上設置された大規模通信ネットワークに直接接続されていて当業者には公知の「バックホール」を提供するバックホール基地局(「BG局」)と通信可能である。
【0088】
UEは、送信器または受信器あるいがその両方を含んでいてよい。空中アンテナは、位相配列または従来型アンテナあるいはその両方であってよい。
【0089】
図2に小型の位相配列(21)を示す。当該配列は、デジタル化以前の受信システムとしての低ノイズ増幅器の入力側、または送信用の電力増幅器のいずれかに接続された小型のアンテナ素子(22)の配列を有している。各アンテナ素子は独立に使用され、素子間の信号の正確な時間または位相を制御することにより、パラボラアンテナと同様な仕方でビームを形成することができる。位相配列は、2個以上の層(23)が電磁気性能を規定する図2に示すようにアンテナ素子が全て平坦であるように設計されていてよい。位相配列はまた、最も外側の素子が配列の軸に対してある角度をなすように、より複雑な、例えば「湾曲した」形状をなしていてよい。
【0090】
単一の受信位相配列からビームを形成する仕組みを、単一配列におけるビーム形成を示す図3に一次元的に示す。位相配列ビーム形成は、確立済みのよく知られた技術であり、本発明は位相配列アンテナの概念を支持する。例示的に、各アンテナ素子(36)が自身の隣接素子から、最大動作周波数の半波長以下の距離(37)隔てられている特定の実施例を考える。2GHz帯域(λ=15cm)で動作すべく設計された図3に示す例において、間隔(37)は約7.5cmである。これにより、受信した電磁信号の振幅および位相を配列が検出できるようになる。各アンテナ素子は低ノイズ増幅器に接続されている。平坦な配列用にビームを形成するための要件は、当該配列の幅にわたり線形に増大する信号遅延を有していることであり、これはアナログまたはデジタル領域のいずれかで可能である。図3の一番上のグラフはy軸(30)にビーム(35)の生成に用いる相対遅延(32)を示し、x軸(31)にアンテナを横断する距離をプロットしている。比較的適度に遅延した全てのアンテナ素子からの信号は次いで合算されて、「ビーム」であるコンポジット信号を形成する。ビームのサイズは約λ/dで与えられ、ここにλは波長、dは配列の直径である。2GHzの信号および直径1.5メートルの配列の場合、ビームの幅は通常、約5.7°である。しかし、アンテナ素子の適切な「重み付け」により、ビームを広げるように調整することができる。地上の点からの配列の仰角が変化すればビームの地表照射面積が広がるかまたは狭まるため、必要ならば、地上でのカバレッジがほぼ均一になるようにビームを変化させることが可能になる。
【0091】
位相配列はまた、デジタル技術の最近の成果を利用することで極めて広い帯域幅が実現されるという利点を有している。最近の平面アンテナ素子の周波数範囲は、対応する最高周波数が最低周波数の最大3倍に達する。そのような平面システムにおいて、複数の導電または部分的に導電性の層が各々、互いに平行な平面に、アンテナの軸に対して90度で配置されている。
【0092】
各アンテナ素子からの全ての信号はあらゆる用途に利用可能であり、配列全体にわたり異なる遅延の組を適用して、同じく図3に示すように、信号の第2の組を合算して第2のビームを形成することが実用的である。異なる遅延(33)の組により別のビーム(34)を生成することができる。この処理は、配列を並列的に用いて多数の異なるビームを形成すべく多数回反復してよい。
【0093】
デジタル領域内で多数のビームを形成することは容易に実現でき、デジタル化後の唯一の要件は、全てのビーム情報を伝送するかまたは更に処理するための追加的な処理リソースおよびデータ帯域幅である。
【0094】
個別の位相配列により複数のビームを形成することは可能であるが、他の全てのビームとは異なるデータを搬送可能な「独立」ビームの最大個数は当該配列内のアンテナ素子の総数を上回ることはできない。例えば、配列が300個の独立アンテナ素子(約λ/2の間隔が空けられた)を有する場合、最大300個の独立ビームが存在し得る。これよりも多くのビームを形成することも可能できが、これらのビームは必ずしも全てが独立している訳ではない。この例では、非独立ビームは各々、同一(または類似)の符号化された情報を送受信し、これらのビームは、適切なリソース共有スキームまたは本発明に関係する他の方法で依然として利用可能である。
【0095】
位相配列は、配列の平面に垂直な軸から約±60°までの走査角度範囲にわたりビームを形成することができる。これは、素子の照射面積が走査角度の余弦として狭められた配列の幾何学的制約によるものである。また、個別アンテナ素子のビームの感度は、それらがビームの中心からずれているため低下している。その結果、水平配列の照射面積は、巨大な単一の配列が送受信を行う最大走査角度が直径約60kmに制限されるが、当該制限は配列の形状をより複雑にすることで拡張することができる。
【0096】
図6を参照するに、受信配列は、規則的な配列(64)内に多数の平坦な二重分極化受信素子(68)を含んでいてよい。アンテナ間ビーム形成技術には精密な振幅および位相情報が必要であるため、また、任意の場所に配置されたUEで最良の信号受信状態を保証するために2個の分極が好適である。各々の分極化は、必要な受信帯域幅にわたり増幅、フィルタリング、およびデジタル化される。アンテナ素子の電子部品は、拾うノイズを少なく、組み立てを簡単にし、且つ広大な領域にわたり熱負荷を分散させるために、受信アンテナ素のすぐ後側に搭載されていることが好都合である。各分極化毎にデジタル化された信号はビーム形成のため信号処理システムへ送信される。
【0097】
一例において、配列は直径1.5メートルであって、アンテナ素子は7.5cmの間隔が空けられている。この結果、約315個のアンテナ素子すなわち630個の信号経路が得られる。これにより、直径60kmのサービス領域が約160個のパッチ(より広い領域をカバー可能なように変更された配列の概念は本明細書の後半に記述)に分解される。
【0098】
位置検出システム(60)、方位検出システム(62)、および制御/係数プロセッサ(61)は信号処理システム(63)とのインターフェースを有しており、当該信号処理システムはこの好適な実装例では正確なクロックシステム(66)を必要とし、当該クロックシステム(66)自身も測位システム(67)とのインターフェースを有していてよい。
【0099】
送信配列(65)は設計およびサイズの面で受信配列と極めて類似しており、多数の二重分極化送信素子(69)を有している。デジタル化された信号は、各分極化毎に信号処理システムにより計算され、デジタル/アナログ変換器へ送信され、フィルタリングおよび増幅されて、送信のため電力増幅器に渡される。受信配列と同様に、電子素子は、熱負荷を分散させて迷放射を最小化すべく送信素子の後側に搭載されていてよい。
【0100】
ビーム形成
本発明は、UEへ向けて細い協調ビームを生成すべく複数の空中アンテナにまたがりビーム形成を利用する。
【0101】
本システムはアンテナ、例えば各々が自身の成分信号の1個を特定の「パッチ」上に形成する、複数の配列の「コンステレーション」内の各プラットフォーム上の位相配列により動作する。全ての配列から特定のパッチへ送信された信号は基本的に同一内容の情報を搬送する(差異として例えば量子化およびアナログ効果からのノイズを含み得る)が、アンテナのコンステレーションにまたがる位相遅延を有しているため、個別の配列ビームから極めて細い「合成ビーム」が形成される。
【0102】
各アンテナからUEへのデータ信号で生じる位相遅延、または広帯域信号の場合は、時間遅延は、個別アンテナからUEへの位相空間内での異なる距離に対して正確に補償される。遅延の計算は、全てのアンテナからUEへの信号が同時に到着してUEで位相コヒーレントあるようになされる。各々の空中プラットフォームからの信号振幅の調整は、典型的に全ての信号がUEで正規化されるが、例えばサイドローブを減らすべく調整可能であるようになされる。これらの調整は各信号の係数として既知である。パッチ内の各UEへの信号に同様の処理が適用されて、全ての空中アンテナについて全体的なパッチビームを形成すべく組み合わされる。これらのビーム形成命令は、地上の処理センターで計算されてパッチビームの符号化表現として各空中アンテナへ送信されるか、またはプラットフォームで用いられてパッチビームを形成することができる。
【0103】
UEから空中アンテナのコンステレーションへ送信された信号に対して、処理システムは同様に、コンステレーション内の全ての空中アンテナからのパッチにビームに位相または時間遅延を適用し、次いでこれらを合算してコヒーレントな受信ビームをUE上に形成する。この結合信号をより広いセルラネットワークとの通信に用いる。この処理は典型的には、空中アンテナで受信されパッチビームの符号化表現を受信する地上処理センターで実行される。
【0104】
合成されたビームは特定のUEを追跡する「ユーザービーム」となすべく計算される。これを図4に示し、HAP、HAP〜HAPとラベル付けされたアンテナのコンステレーションによるサービス領域内でのビーム形成を示している。HAPのアンテナが、3個のパッチ(41、43および45)に向けて3個のビーム(40,42および44)を生成する様子を示している。HAPおよびHAPも同様にビームを生成する様子を示している。
【0105】
合成されたビームのサイズは約λ/D、とはるかに小さい(Dはアンテナのコンステレーションの最大直径)。例えば、アンテナが直径60kmのサービス領域の中央で直径D=10kmの円内に位置する場合、2GHzの信号に対してビームの幅は角度にして0.1分に過ぎない。この結果、アンテナのコンステレーションの直下の地表でビームの直径は60cm、すなわちサービス領域の端で直径3メートル未満に過ぎない。これらのユーザービームが当たる領域が小さいことを領域(46)により示す。
【0106】
1個の空中アンテナからの独立ビームが照射可能な地上での領域の最小サイズすなわち「分解能領域」は、当該空中アンテナに相対的に位置により変化する。ビーム内で1個のアンテナとの間で転送可能な「最大ビームデータ転送速度」(MBDR)は毎秒毎ヘルツ帯域幅のビット数に利用可能な帯域幅を乗算して得られる。毎秒毎ヘルツの最大ビット数は当業者に公知のように当該信号の信号対ノイズ比により制限される。
【0107】
ビームサイズは、1個のアンテナの最小ビームサイズよりも大きく調整できるため、各ビームにより照射される領域はシステムの動作環境の要件に合わせて調整されてよい。
【0108】
全ての空中アンテナがサービス領域の直径と比較して互いに比較的近接している場合、アンテナ毎に「分解能領域」はサイズが同等である。空中アンテナが互いに遠く離れている場合、異なるアンテナからの「分解能領域」のサイズは大幅に異なる。1個の分解能領域内で転送可能なデータの量に対する制限は、各々のアンテナからの分解能領域のサイズが同様である場合、当該コンステレーション内のアンテナの本数にMBDRを乗算することにより得られる。利用可能な帯域幅は、リソース、例えば周波数帯、時間スロット、および符号の複数のブロックに分割することができるため、対応可能なUEの個数は増大するが、各UEで利用可能なデータ転送速度は遅くなる。他の無線リソース共有技術を用いてもよい。ユーザービームにはアンテナビームで利用可能な分よりも多くのデータは存在できない。
【0109】
アンテナを搭載するプラットフォーム
プラットフォームは、以下のように実装することができる。
(i)高度約20kmで通信装置を搭載すべく太陽エネルギーまたは水素あるいは炭化水素燃料を使用して電力供給された飛行機。飛行機はUEおよびBG局と通信する機器を搭載する。また、信号処理システム、精密なクロック、およびタイミング装置並びに制御コンピュータを搭載する。
(ii)太陽電池その他の技術により電力供給される自由飛行気球。気球はUEおよびBG局と通信する機器を搭載する。また、信号処理システム、精密なクロック、およびタイミング装置並びに制御コンピュータを搭載する。
(iii)係留綱と共に搭載された水素により電力供給される、または係留綱を介して電力供給される、あるいは気球プラットフォームに設置または接続された太陽電池により電力供給される係留気球。1本以上の係留綱により繋がれた係留気球は、多くの異なる高度で多数のプラットフォームを、各プラットフォーム自身が係留綱に繋がれている状態で搭載することができる。各プラットフォームはまた、より多くの係留綱により当該気球に繋がれていてよい。係留プラットフォームシステムはUEおよびBG局と通信する機器を搭載し、信号処理システム、精密なクロック、およびタイミング装置並びに制御コンピュータを搭載していてよく、またはこれらの構成要素は地上設置されていてもよい。図9にこのようなシステムの配置を示す。図示するケースにおいて、係留綱により地上に直接(93)または間接的(92)に接続された係留気球(90、91)がある。いくつかの気球(91)は地上に間接的に、いくつかは直接(90)接続されている。図示するケースではアンテナ(94)は、気球のエンベロープに完全に含まれている。アンテナは部分的に含まれていても、または全く含まれていなくてもよい。UE(96)との通信は空中アンテナ(94)からのビーム(95)により協調的に行われる。少なくとも2個のアンテナが各UEと通信する。
(iv)キャリア信号の波長の少なくとも1/10程度というアンテナの顕著な移動がある極めて高い塔または建物に設置された地上設置アンテナ。
(v)追加的な断続的空中アンテナ能力に対応した、旅客輸送に用いる従来の商用飛行機。
(vii)宇宙空間に設置された衛星群。
(viii)ハイブリッド飛行体。
【0110】
本システムは上述の一または数種類のプラットフォームを含んでいてよい。
【0111】
UEとのプラットフォーム通信
全てのプラットフォームは通常、サイズおよび素子の個数が同等の少なくとも2個の位相配列、すなわち送信配列および受信配列を備えているため、任意の波形の同時送受信および選択された周波数割当と帯域幅で動作する多重化技術をシステムが有することができる。単一の配列を用いることは可能であるが、必要とされる電子部品の複雑さおよび重量が増大し、時分割多重化にしか対応できず、より一般的な周波数分割多重化には対応できない。配列は、サービス領域を多数のパッチに分割するビームを形成する。パッチは、セルラ電話ネットワークにより「セル」として扱われる。
【0112】
UEは、地上設置されていても、あるいは空中アンテナよりも低高度で有人または無人飛行機に設置されていてもよい。無人飛行体。UEはまた、列車、自動車、および船舶を含むがこれらに限定されない何らかの形式の輸送技術で搬送可能である。
【0113】
バックホール通信
本発明のシステムは、従来の地上設置されたマスト方式システムと同様にセルラネットワークと個別のユーザー機器との間に「透明な」リンクを提供することができる。これにより既存のセルラネットワークとの互換性が得られる。
【0114】
本発明は、プラットフォームとUEとの間で大量のデータを伝送可能にする。従って、バックホールシステムを介してプラットフォームおよび処理システムとの間で少なくとも同じ量のユーザーデータが伝送されなければならない。以下の通信リンクを介してプラットフォームとの間でデータを送受信するために以下のオプションがある。
1.各プラットフォーム上のUEとの通信に用いる位相配列の容量を利用する。
2.代替的な位相配列の代替的な大容量リンクを利用する。
3.単一ビームのポイントツーポイント大容量リンクを利用する。
4.BG局との自由空間光リンクを使用する。
5.プラットフォーム間の自由空間光リンクを使用することにより、発展が遅れている領域のプラットフォームが、BG局へのマイクロ波ダウンリンクを有する衛星または飛行機とレーザーより通信可能になる。これは、冗長性のある一連のリピータプラットフォームを介して行うことができる。
【0115】
両方の分極化をバックホールリンクに独立に用いて、必要なBG局の数を潜在的に半減させることができる。
【0116】
後述の実施形態は、上述の実装例1を使用し、巨大な配列上のリソースを共有してバックホール通信とユーザーリンクの両方を提供する。
【0117】
本発明で用いる技術の大半が、通信産業で利用されており、電波天文学においてビーム形成およびビーム整形に用いる技術を開発している。一次元位相配列、インターフェース仕様、データ符号化技術の利用、信号処理の利用等の全てが既存のセル通信システムで広範に利用されている。本発明による統合の結果、大多数の既存のセルラ電話ネットワーク技術との互換性を保証する極めて高性能のシステムが得られる。
【0118】
処理システム
本発明を管理する処理システムは分散処理システムであっても、または図1に示すように、通常は地上設置されていて、空中プラットフォームの重量および電力を節約する処理センター(1)であってもよい。処理システムは、セルラ電話ネットワーク(2)とのインターフェースを有しており、UEと通信すべくプラットフォームが使用している信号を直接制御する。
【0119】
処理システムは、処理センターと、空中アンテナおよび/またはバックホール地上局と同一位置での処理と、第三者(「クラウド」として知られる)プロバイダにより提供される処理サービスとの間で物理的に分散されていてよい。
【0120】
処理システムは、セルラネットワークとの所定のインターフェースを介してセルラネットワークとのインターフェースを提供する。
【0121】
処理システムは、空中アンテナについて
(i)UEおよびBG局の両方から受信された信号に必要なアンテナのビーム形成係数と、当該アンテナが位相配列の場合は通常、但し非排他的に、アンテナ素子の係数
(ii)UEおよびBG局へ送信される信号の位相および振幅
(iii)プラットフォームおよびユーザー機器の位置特定等の動作態様を実行する全てのアルゴリズム
を計算する。
【0122】
BG局に対して、処理システムは
(i)BG局により空中アンテナへ送信される信号の係数
(ii)BG局アンテナから受信した信号の係数、およびBG局が位相配列アンテナを用いる場合、必要に応じてアンテナ素子
を計算して与えることができる。
【0123】
BG局は、光ファイバデータリンクまたは直接マイクロ波リンク等の高速接続を介して処理センターに直接接続されていてよい。
【0124】
プラットフォームでの信号は、プラットフォーム位相配列のコンステレーションが個別のユーザー機器に精密にビーム形成できるように全ての特徴を定義する点で複雑である。
【0125】
これら全ての信号処理およびビーム形成の計算は処理システムにおいて実行される。処理システムは、少なくとも1個の処理センターを含んでいてよく、各プラットフォームで何らかの処理が必要とされる。そのような処理センターは理想的には、簡便のため地上に位置している。しかし好適には、地上レベルでの処理は全体的な信号処理能力を支配し、信号処理電子部品の電力需要の70パーセント超、好適には90パーセント超を占める。
【0126】
処理システムはまた、効果的なリソース割当に必要なインターフェースの提供を含む、セルラネットワークによるシステムの認識方法を決定する。
【0127】
処理システムは、以下に述べるように、更に広範な機能を可能にすることができる。処理システムは、所与のユーザー機器に最大のリソース割当を許可すべくDF−Cellの形成が必要な時期を決定することができる。処理システムは、周波数および時間多重化を含むがこれらに限定されない、セルラネットワークが必要とするあらゆるリソース割当に対応している。処理システムはまた、各プラットフォームが用いる周波数を決定する。これは、周波数割当の全帯域幅を許可する、あるいは本発明により重ね合わされたシステムまたは地上設置アンテナと本システムの混成のいずれかを用いて特定のネットワークまたは携帯電話オペレータ向けに帯域を制限するものであってよい。また、適当な合意に達することができる前提で、複数のオペレータの協調的使用にも対応している。
【0128】
本システムはまた、時分割多重化その他の無線リソース共有技術を利用することができる。
【0129】
プログラマブル信号処理要素、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)は現在、本システムに適した電力および能力を有している。当該タスクを実行可能な素子、例えば、典型的には40ワット未満の適度の電力で最大8テラMACの処理能力および64×16Gb/秒の通信チャネルを特徴とするXilinx社製のKintexシリーズが現在入手可能である。
http://www.xilinx.com/products/silicon−devices/fpga/kintex−ultrascale.html
Tera=1012;MAC=Multiply Accumulate(積和)、すなわちデジタル信号処理における基本処理演算
【0130】
信号処理システムは、処理センターから送信された情報を用いて、必要とされるビームをUEおよび(必要ならば)BG局に形成する。形成されたビーム内のデータはユーザーおよびBG局へ再送信されるか、飛行機搭載の制御プロセッサにより使用される。
【0131】
上述のように、プラットフォーム上での処理は好適には最小限に抑えられるが、以下を含む少なくともいくつかの処理が実行されてもよい。
・必要とされるビームの形成に信号プロセッサが用いる係数を再構成する。
・位置および方位システムからの情報をビーム形成処理の一部として用いる。
・飛行機ペイロードシステムの状態を監視、制御、および報告する。インターフェースは処理センターとの間で開設されている。
【0132】
必要な処理能力は従来のPCサーバ程度であるが、専用に実装されているためより少ない電力で済む。
【0133】
移動空中アンテナでの正確な時間判定が、信号のビーム形成を用いる正確な受送信には必須である。
【0134】
適切なクロック生成は、長期的(数10秒超)正確さを求めてGPSシステム、および短期的な正確さを求めてオーブン温度で安定した水晶発振機を用いることが分かっている。この組み合わせにより、局所飛行機ビーム形成および飛行機間ビーム形成の両方に必要な位相精度が得られる。要件としては、アナログ/デジタル変換器ADCの位相が安定していること、およびデジタル/アナログ変換器DACが常に精密なサンプリングを行うことである。
【0135】
バックホール地上局(BG局)
上述のように、本発明は1個以上のBG局を設けることで利点が得られる。BG局は、プラットフォームおよび処理センターとの間の通信リンクを提供することができる。各BG局は、プラットフォームのデータ転送能力を最大化すべく、見通し線上に存在するなるべく多くのプラットフォームと独立に通信可能でなければならない。
【0136】
従って、典型的には、個別のBG局から見通せるプラットフォームと少なくとも同数の、各BG局で形成されたビームが存在する。BG局側で通信システムとして位相配列を用いることで当該機能が得られる。これらの位相配列の設計は、プラットフォーム上でのものと同様であってよい。
【0137】
BG局は、飛行機とHAP−CELL処理センターとの間の高速データリンクを提供する。BG局の個数およびこれらに付随するコストを削減するには、BG局が、ネットワークで必要とされる高いデータ転送速度を提供すべく、複数アンテナのコンステレーションが存在する場合に各空中アンテナと独立に通信可能となるように、マルチビーミング能力を備えていることが有用である。これにより、各BG局との間のデータ転送速度を、通信中の飛行機の機数倍だけ向上させて、1機の飛行機との通信で可能なデータ転送速度を上回ることができる。
【0138】
飛行機で用いるシステムと同様の位相配列を用いる実装例を図7に示す。飛行機の位相配列と同様に、別々の送信(75)および受信(74)配列がある。
【0139】
受信配列(74)は、受信器処理システム(72)に信号を送る多数の素子(78)を有している。送信配列(75)は、送信器処理システム(73)から信号を受信する多数の素子(79)を有している。受信器および送信器処理システムは共にHAPS−CELL処理システム(70)とのインターフェース(71)を有している。受信器および送信器処理システムはまた、クロックシステム(76)からの入力を要求することができ、次いでクロックシステム(76)は測位システム(77)から入力を受信する。BG局同士は、個別の飛行機配列からのビームが、異なる配列ビームとは独立に当該BG局を識別できるように充分な間隔が空けられている。これは全ての飛行機で充分な総合データ転送速度が得られるようにするためである。
【0140】
図示する例において、BG局は処理システムの直接制御下にあり、処理システムは全ての配列素子の振幅および位相を決定する。
【0141】
BG局の利用可能性が低い特定の位置では、より適切にBG局上方に位置する飛行機をレーザーまたは自由空間光学素子により1機ずつ接続することが有利であろう。これらは近年開発され、適度(100W未満)の電力消費で高いデータ転送速度通信(1Gigaビット/秒超)を可能にし、且つ25kg未満の適度の重量ながら少なくとも60km、より好適には250km、場合により500km以上の距離の成層圏で通信可能である。このような構成により、1個以上の空中アンテナを、追加的な飛行機との間にレーザーリンクを利用することにより、数千キロメートルはともかく数百キロメートル離れたBG局に接続することが可能である。
【0142】
飛行機搭載通信システム
UEと通信すべく飛行機は、図6に示すように、巨大な位相配列に適合されていて信号処理および制御システムに関連付けられている。
【0143】
2個の位相配列があり、一方は受信(64)用で他方は送信(65)用である。これは、両システムが周波数分割二重(FDD)システムを用いて動作可能であるように2個の経路間の間隔が最大であることを保証するためであり、これらは最も普及している携帯電話通信リンクである。2個の配列はまた、1個の配列を送信および受信の両方で共有する複雑さ無しに、代替的な時分割二重(TDD)システムに対応している。
【0144】
上述のように、これらの配列は共に多数の個別受送信素子(68、69)を有しており、配列信号は信号処理システム(63)内で組み合わされて必要とされるビームを生成する。
【0145】
接続中、位置を特定してユーザーを追跡する。
本システムは、従来の地上設置ネットワークと同様にUEの情報を追跡することができる。UEは、呼び出しまたはデータ転送が進行中の場合、協調ビーム内に維持されていなければならない。
【0146】
空中アンテナ間ビーム形成を用いる場合、UEへのビームを極めて良好に、例えば直径約1メートル内に集光させることができる。次いで、更に二つの機能、
・そのような集光ビームに接続を確立させるためには必要とされるアンテナの重み付けを充分に識別すること、
・接続中、空中アンテナおよびUEの移動を考慮に入れながらこれらの重み付けを適切に調整すること
が必要である。
【0147】
ビーム形成処理の一部として、累進的により多くの、且つ時には異なるアンテナを用いることにより、コンステレーション内の配列を用いてUEに「集光」させることによりそのような処理が実現できることが分かっている。より多数の飛行機を含める前に信号強度に関してビーム形成された位置を最適化することにより、関連するアンテナの重み付けを最適化することができる。この機能が利用できる場合、自身のGPS位置を報告しているUEにより集光処理の速度を大幅に向上させることができる。
【0148】
接続中、UEはビームの外に出ることができる。狭帯域幅の二次的ビームを用いてユーザーの位置周辺のパターンで急速にサンプリングすることができ、次いで特定の方向または領域で増大した信号強度を用いてアンテナの重み付けおよびビームの位置と方向を修正することができる。
【0149】
ビーム整形およびサイドローブ最小化
セルラネットワークに対するビーム精度の要件は、特に国境でのエネルギー漏出に関して極めて厳格である。固定パラボラアンテナではなく位相配列技術を用いる大きな利点は、電子的にビームを修正する能力である。
【0150】
アンテナ素子に対して適切な振幅および位相遅延を設定することによりビームを形成して操作する。多数のアンテナ素子が存在する場合、感度とビーム制御のトレードオフによりビームを特定の要件に合わせて整形する際の柔軟性が得られる。その結果、パッチが明瞭に画定され、サービス領域の端を微細に制御して隣接領域に影響を及ぼすサイドローブその他のアーチファクトを最小限に抑えることができる。
【0151】
図11に、最小限のエネルギー漏出で国境までの良好なカバレッジを提供するために1本以上の空中アンテナからのビームをどのように変更できるかの一例を示す。
【0152】
図11のグラフ130において、個別アンテナまたは複数のアンテナからのカバレッジビームのパッチが規則的な格子配置に従っており、格子要素の位置は、このケースでは東西方向であるx軸(133)に数字で、このケースでは南北方向であるy軸(132)に文字で与えられている。例えば、要素136は位置G7にあることが分かる。不規則な国境を示す(135)。
【0153】
陰付正方形は、空中アンテナシステムによりエネルギーがどこへ伝送されているかを示している。エネルギー漏出が低いことを保証するために、殆どエネルギーが伝送されない境界に隣接する領域、例えばパッチA6,B7,C7,D5,E5、F8等が存在することが分かる。
【0154】
図11のグラフ131に、より近接して国境に沿うようにパッチを左右に移動させるためにアンテナ素子とアンテナ位相決定および必要ならば振幅が修正されている点以外は同一のy軸(132)および同等のx軸(134)を有する同一領域を示す。例えば、セルG7(136)は、自身の行(G1〜G5)に沿って東方向に長く移動して、新たな位置(137)に到達している。国境に近い非カバレッジ面積は大幅に減少している。
【0155】
アンテナ間ビーム形成を用いて形成された合成ビームも同様に制御可能であり、感度とビーム整形を交換してアーチファクトを最小限に抑えてビームサイズを能動的に制御する。
【0156】
データ転送速度
利用可能なデータ転送速度は、使用中の帯域で利用可能な帯域幅に依存する。本実施形態の場合、帯域がLTE帯域1(他の周波数も利用可能)であると仮定する。
・アップリンク: 1920MHz〜1980MHz 60MHz帯域幅
・ダウンリンク: 2110MHz〜2170MHz 60MHz帯域幅
【0157】
特定の実施形態において、個別UEへのリンクは使用中の機能に必要な帯域幅だけを用いるため、なるべく多くのユーザーにサービス提供すべく帯域幅を再分割することができる。
【0158】
例示的なHAP−CELLシステムを通るデータ転送速度を表1に示す。同表から分かるように、当該システムは1編隊50機の飛行機に対して帯域1の周波数を用いている。1リンク毎のデータ転送速度は当該リンクの信号対ノイズ比に依存する。従って、同一帯域幅においてバックホールリンク向けの方がUE向けよりもデータ転送速度が高いと予想される。これは、バックホールへの接続の方が機器の固定された屋外特性、および移動UEよりも高い送信電力および大型アンテナを用いる可能性により、極めて良好に管理できるためである。
【0159】
同表から分かるように、明瞭な高SNR接続の使用を仮定すれば、UEへの最大データ転送速度は極めて高い。全てのセルラネットワークと同様に、データ転送速度は実際のリンク性能に応じて調整される。
【0160】
各リンクに利用可能なBG局の個数と電力との間に極めて大きいトレードオフがある。データ通信は主にネットワークとユーザーの間で行われ、典型的には帰還経路上のデータ転送速度の方が平均的に低い点に注意すべきである。これは、スペクトル効率を高めるべく1ヘルツ当たりビット数を増やすために地上局から飛行機への通信により高い電力を使用でき、また、飛行機からの送信にユーザーが用いるよりも高い電力を使用して当該リンクでデータ転送速度を向上させることができることを意味する。
【0161】
28/31GHz帯域の使用
以下のように、国際電気通信連合によりHAPダウンリンクおよびアップリンク通信に割り当てられた28GHzおよび31GHzの周波数帯域がある。
・ダウンリンク: 27.5GHz〜28.35GHz 850MHz帯域幅
・アップリンク: 31.0GHz〜31.3GHz 300MHz帯域幅
【0162】
上記は、モバイルネットワークで共通に用いられる2GHz周波数より大幅に広い帯域幅を提供するが、従来の電子機器で、特に位相配列として実装するのはより困難である。
【0163】
【表1】
【0164】
飛行機ペイロードに対する電力需要
考察する飛行機のペイロード電力使用は、通信配列、搭載されたデジタル処理システム、および制御/測位システムにおけるものである。飛行機のペイロード電力需要を低く保つことは、高高度で動作するソーラー電力飛行機または水素電力飛行機で使用可能な電力が限られているため重要である。
【0165】
位相配列受信器および送信器に対して、電力はアンテナ素子の個数に比例する。地上設置された処理設備において現実的に可能な限り多くの処理を実行することで、飛行機での処理要件が最小限に抑えられる。多数のデジタルインタフェース向けの電力が処理能力を支配する。
【0166】
電力消費の推定値を表2に示す。これは送受信用に直径1.5mの位相配列を2個搭載した飛行機について計算した例である。各配列は315個の二重分極化アンテナ素子を有し、従って各配列は630個の信号チャネルを有している。これらの配列における電力需要は約1.6kWである。
【0167】
プラットフォームに搭載された処理システムの素子は、標準的な部品を用いて実装されており、従って時間経過に伴い単位消費電力当たり利用可能な処理が向上するという利点がある。
【0168】
これは、要素の個数、または配列の直径の二乗にほぼ線形に比例する。従って、直径3mの配列は上記電力需要の約4倍になる。
【0169】
【表2】
【0170】
飛行機搭載通信のモバイルユーザーへの影響
空中アンテナとBG局との間の通信リンクは通常、仰角が30度を超えるため、所与の位置に対して整合性のある信号が送られる。UEと空中アンテナとの間で受送信される信号は往々にして建物の屋根を通過する結果、顕著な損失が生じる。しかし、大規模なシステムでは、隣接または重なり合ったサービス領域上に多数の飛行機が存在するため、典型的に信号を透過させ易い窓や壁から信号が斜めに入射する可能性が高い。
【0171】
飛行機は最大35km離れており、70km超の往復リンクを有しているため、処理に若干のバッファリング遅延が生じる。この遅延は、総計でも数ミリ秒を超えることはなく、現行のモバイルネットワーク仕様である30ms未満、または提案された5G仕様である5ms未満の範囲内にある。
【0172】
複数サービス領域
HAP−CELLシステムは広大な領域上での使用を目的とする。人口密集地域、例えば主要都市の場合、複数のサービス領域にサービス提供する複数編隊の飛行機が必要になろう。本システムはこの規模にも容易に対応可能であり、インフラの節約および追加的な通信能力が利用可能になる。複数システムを図8に示す。
【0173】
3編隊(85,86,87)の飛行機が識別されている。これらは自身の一意な照射地域、例えば(88)または重なり合った領域、例えば(89)のいずれかにおけるパッチ上にビームを形成する。セルラネットワークおよびインターネット(81)は、光ファイバケーブルまたはマイクロ波(83)によりBG局(84または841)に接続された1個以上の処理センター(82)とのインターフェースを有している。各サービス領域(810、811,812)の直径は約60kmである。図から分かるように、サービス領域は重なり合っていてよいため、ユーザー向けにより高い総データ転送速度を提供することができる。またカバレッジが向上する利点があり、例えばユーザーが建物の「向こう側」に居るために飛行機の編隊から遮蔽されていても、隣接する編隊からのカバレッジが得られる可能性が高い。
【0174】
飛行機の編隊からのユーザービームは個別ユーザー「専用」であるため、隣接する編隊からの顕著な干渉が無く、隣接する編隊からのビームは空間的に間隔が空けられている。
【0175】
インフラが大幅に節約される。BG局(841)は、最適に配置されていれば飛行機の複数の編隊にサービス提供することができる。BG局は編隊内の各飛行機向けにビームを形成し、従って、編隊が照射範囲内にあれば、BG局は30km〜35kmの範囲にある全ての編隊にサービスを提供することができる。
【0176】
領域のカバレッジの設計は、最大の利点を得るために、ある機数、例えば50〜100機の飛行機を編隊内でどのように配備すべきかを考慮すべきであり、サービス領域が適度に重なり合う小編隊が多数あっても、または少数の大編隊があってもよい。詳細事項は、人口密度その他の要因に依存するが、HAP−CELLシステムによりこれらのトレードオフを行うことができる。
【0177】
本発明に従い上述のように特定のUE向けのデータ転送速度を向上させることは、以下の利点をもたらす。
【0178】
空中アンテナ間ビーム形成システムの利点の概要
広大なカバレッジ面積:高度20kmのプラットフォーム上のアンテナにとっての地平線は半径約500kmである。このような計器の地上の任意の特定位置からの仰角は、当該測定器が当該位置で水平線から上方にある角度として定義される。プラットフォームが、仰角が5度を超えるには、地上の任意の位置が、当該プラットフォームの真下方に中心がある半径200kmの円内に存在になければならない。仰角が30度を超える場合、当該位置は、プラットフォームの下方に中心がある半径35kmの円内に存在しなければならない。後者の制約は、地上と、水平面に置かれた位相配列だけを搭載したプラットフォームとの間の通信に適している。前者の制約は、より複雑な配列形状に適しているが、信号強度は後述するように100km超の距離で制約要因になる。
【0179】
安価な設置コスト:プラットフォームの利用することで、設置に時間を要すると共に運用が高価な地上装置の必要性が低減される。既存の地上設備を本システムと連携して用いることにより、能力およびカバレッジを大幅に向上させることができる。
【0180】
高データ転送速度リンク:モバイルネットワークの従来の動作は、ネットワークを「セル」の組に分割するものである。1セル内の複数のUEが、例えば帯域幅共有等の、但しこれに限定されない無線リソース共有技術、または時間多重化によりユーザーへの最大データ転送速度を決定する利用可能なリソース(信号帯域および通信電力)を共有しなければならない。HAP−CELLの主な特徴は、アンテナ間ビーム形成を用いて特定の素子を中心とするDF−Cellを生成する点である。これにより、実装されたプロトコルにより利用可能にできる全てのリソースが単一の素子で使用可能になる。本発明は標準的な実装方式におけるリソース共有にも対応している。
【0181】
ユーザー側で集中されるRF電力:アンテナ間ビーム形成に起因して精密なユーザー位置での電力が増大する。これによりプラットフォーム上での電力使用が最小限に抑えられてリンク品質が向上する。これを表2、3に詳述する。
【0182】
拡張可能な能力:ユーザー数およびデータ転送速度は、通常は追加的な地上設置インフラを必要とせずに、同一領域により多くのプラットフォームを追加することにより、容易且つ迅速に増大させることができる。余分のBG局の追加は通常、以前のインフラに比べて極めて大幅な能力増強が必要ない限り回避できる。この特徴自体がシステムの顕著な復元力を与える。例えば、機器故障または保守あるいは飛行パターンに起因して一時的に利用不可能なため、10個の類似したプラットフォームのうち1個のプラットフォームが失われたならばシステムの能力は10%低下するが、サービス領域内では依然として完全なカバレッジが与えられる。同様に、100個のうち1個の地上局を失った場合でも通信データ転送能力の1%しか失われない。これは、標準的な携帯電話セルマストの喪失により当該マストが制御するセル内の全ユーザーの信号が失われることに比べればはるかに良い。
【0183】
カバレッジ面積が正確に調整可能:位相配列およびビーム形成技術は、地上設置システムよりも正確にカバレッジ面積を制御可能にする。これは、国境付近での動作にとり重要である。
【0184】
信頼性の高い通信を提供するには、ビーム形成技術が壁等からの反射の影響、またはUEが地上設置されている場合は建物の屋根等の障害物の端から回折現象、を管理する必要がある。理想的には、多くのプラットフォーム上のアンテナはUEからの見通し線上、またはその近傍に存在する。
【0185】
【表3】
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