特許第6772318号(P6772318)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6772318硫酸化ポリグルロン酸多糖又はその薬学的塩、その調製方法及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772318
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】硫酸化ポリグルロン酸多糖又はその薬学的塩、その調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08B 37/00 20060101AFI20201012BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20201012BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C08B37/00 H
   A61K31/737
   A61P1/04
   A61P1/16
   A61P1/18
   A61P11/00
   A61P13/08
   A61P13/12
   A61P15/00
   A61P17/00
   A61P25/00
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61P43/00 111
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-30255(P2019-30255)
(22)【出願日】2019年2月22日
(62)【分割の表示】特願2016-522246(P2016-522246)の分割
【原出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2019-90056(P2019-90056A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2019年3月25日
(31)【優先権主張番号】201310275323.7
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503189413
【氏名又は名称】シャンハイ インスティテュート オブ マテリア メディカ チャイニーズ アカデミー オブ サイエンシーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(72)【発明者】
【氏名】ディン ジアン
(72)【発明者】
【氏名】アイ チン
(72)【発明者】
【氏名】チェン イ
(72)【発明者】
【氏名】フアン シュン
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−523301(JP,A)
【文献】 特開2007−230902(JP,A)
【文献】 特開2008−027767(JP,A)
【文献】 特表2013−525269(JP,A)
【文献】 特表2001−500184(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1544475(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
A61K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I):
【化1】

[式中、
nは、0又は1〜23の整数を表し、
は、SOHであり、
は、互いに独立に、H又はSOHを表す]
の構造を有する、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩であって、但し、硫酸ポリグルロン酸の硫黄含有量として計算される硫酸化度が5〜20重量%であり、
L−グルロン酸単位が1,4−グリコシド結合によって互いに結合しており、ヒドロキシルが還元末端の1位に位置しており、糖環がC−2位において完全に硫酸化されている、前記硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項2】
一般式(I)において、nが、2〜13の整数である、請求項1に記載の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項3】
一般式(I)において、nが、3、4、5、6、7又は8である、請求項1又は2に記載の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項4】
硫黄含有量が、7〜15重量%ある、請求項1〜3のいずれかに記載の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項5】
硫黄含有量が、9〜13重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩。
【請求項6】
治療有効量の、請求項1〜5のいずれかに記載の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学分野に関し、特に、硫酸ポリグルロン酸(polyguluronic acid sulfate)又は薬学的に許容されるその塩、その調製方法並びに腫瘍成長及び/又は腫瘍転移阻害剤の調製におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍は、ヒトの生命及び健康に深刻な脅威をもたらす。悪性腫瘍は、都市部では第1位及び農村部では第2位の死因となっており、種々の疾患の中でも死亡率第1位となっている。腫瘍転移は、悪性物の1つの兆候であり、悪性腫瘍の転移及び再発は、治療失敗の主な原因である。したがって、腫瘍成長及び転移を阻害できる抗腫瘍薬を見出すことは、現在の注目の的である。
【0003】
最近の研究によれば、多糖は重要な構造的構成及びエネルギー源の1つのクラスであるだけでなく、重要な生物学的機能も有する。多糖は、細胞間認識及びシグナル伝達に関与し、生物において、核酸に加えて重要なシグナル分子のクラスであるとみなされている。また、多糖は、多くの場合、細胞表面上でのシグナル認識、抗体抗原反応、細胞シグナル変換及び検知の主要因でもあるため、生物学的活性を有する活性多糖の研究にますます関心が寄せられている。しかしながら、多糖の複雑な構造並びに分離及び構造的特徴付けにおける困難により、現時点では、カワラタケ(coriolus versicolor)多糖、タマチョレ
イタケ属(polyporus)多糖、マッシュルーム多糖、シゾフィラン多糖、マツホド(Poriacocos)多糖等のみが臨床目的のために使用されている。当技術分野において、生物学的
活性を有するさらなる種類の多糖を取得する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
腫瘍の重大な発生率の実践上の問題及び治療における困難は言うまでもなく、炭水化物の構造分解能及び調製における困難、並びに天然糖の低活性の問題にもかかわらず、本発明者は、広範に及ぶ集中的な研究に基づいて本発明を完了した。本発明者は、ポリグルロン酸をスルホン化剤と、適切な温度下で適切な持続時間にわたって反応させてオリゴグルロン酸の硫酸化誘導体を得、次いで、還元のために還元剤を添加し、それにより、硫酸ポリグルロン酸(以後、「PGAS」と称する)を取得することにより、本発明を完了した。
【0005】
したがって、本発明の1つの目的は、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を提供することである。本発明の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩は、腫瘍成長及び転移に対して有意な阻害効果を有し、作用機序は、ヘパラナーゼ活性、C−Met酵素活性、血管新生、微小管重合、アクチン脱重合因子等を阻害するその能力に関連する。好ましくは、本発明は、L−グルロン酸単位が1,4−グリコシド結合によって互いに結合しており、ヒドロキシル基が還元末端の1位に位置しており、糖環がそのC−2位において完全に硫酸化されている、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を提供する。
【0006】
本発明の別の目的は、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を調製するための方法を提供することである。本発明のさらなる目的は、腫瘍成長及び/又は腫瘍転移阻害剤の調製における、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、治療有効量の、本発明による硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物を提供することである。
【0008】
本発明のまた別の目的は、腫瘍を治療するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、下記の一般式(I):
【0010】
【化1】
【0011】
の構造を有し、一般式(I)において、nは、0又は1〜23の整数を表し、RはSOHであり、Rは、互いに独立に、H又はSOHであり、但し、硫酸ポリグルロン酸の硫黄含有量として計算される硫酸化度は、5〜20重量%である、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩が提供される。
【0012】
本発明の一般式(I)によって表される硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩において、ポリグルロン酸は1,4−グリコシド結合によってL−グルロン酸から形成され、ヒドロキシル基は還元末端の1位に位置しており、糖環はそのC−2位において完全に硫酸化されており、そのC−3位で部分的に硫酸化されている。
【0013】
上記の一般式(I)において、nは、0又は1〜23の整数、例えば、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22若しくは23であり;好ましくは、nは、2〜13の整数であり、より好ましくは、nは、3、4、5、6、7、8、9又は10であり、最も好ましくは、nは、4、5、6、7又は8である。好ましくは、硫黄含有量は、7〜15重量%、より好ましくは9〜13重量%である。本発明において、四糖〜十二糖(dodecasaccharide)(特に六糖〜十糖)を使用して、及び/又は硫黄含有量が7〜15重量%(特に9〜13重量%)である場合に、より良好な生物学的効果が取得され、これはおそらく、これらの多糖が体細胞によってより簡単に認識及び許容されるからである。
【0014】
本発明において、硫酸ポリグルロン酸の薬学的に許容される塩は、例えば、これらの化合物のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩又はマグネシウム塩であってよく、ナトリウム塩が好ましい。薬学的に許容される塩は、従来の方法によって調製され得る。
【0015】
本発明の別の態様によれば、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を調製するための方法であって、
下記の構造式(II)において示される通りのポリグルロン酸を、スルホン化試薬と反応させ、続いて還元剤を介する還元により、一般式(I)において示される通りの硫酸ポリグルロン酸を得るステップ
を含み、
【0016】
【化2】
【0017】
構造式(II)において、mは、0又は1〜48の整数を表し、
【0018】
【化3】
【0019】
一般式(I)において、n、R及びRは、上記で定義された通りである、方法が提供される。
【0020】
本発明において、好ましくは、スルホン化試薬はクロロスルホン酸であってよく;スルホン化温度は、好ましくは45〜85℃、より好ましくは60〜75℃であってよく、反応時間は、1.5〜4.5時間、より好ましくは2〜3.5時間、最も好ましくは3時間であってよく;還元剤は、好ましくは、水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ニッケル水素化物試薬、ハロゲンベースの還元剤等である。
【0021】
本発明のさらなる態様は、腫瘍成長及び/又は腫瘍転移阻害剤の調製における、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩の使用を提供する。
【0022】
本発明において、用語「腫瘍」は、悪性物を包含するあらゆる形態の腫瘍を指し、例えば、肝臓がん、胃がん、結腸直腸がん、肺がん、乳がん、膵臓がん、腎臓がん、膀胱がん、前立腺がん、黒色腫、脳腫瘍等であってよい。
【0023】
本発明において、好ましくは、硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩は、腫瘍成長阻害剤、腫瘍転移阻害剤、血管新生阻害剤、ヘパラナーゼ阻害剤、C−Met酵素阻害剤、微小管重合阻害剤、アクチン脱重合因子活性阻害剤及び/又はアクチン凝集阻害剤として使用され得る。
【0024】
本発明のさらに別の態様によれば、治療有効量の、本発明の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を含む、医薬組成物が提供される。好ましくは、医薬組成物中の活性成分は、本発明の1又は2以上の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩からなる。別の実施において、本発明の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩に加えて、本発明の医薬組成物は、1又は2以上の抗腫瘍薬又は抗腫瘍アジュバント薬を、活性成分として含み得る。
【0025】
本発明において、好ましくは、医薬組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含み得る。薬学的に許容される担体は、当技術分野において一般に使用されるものであってよい。
【0026】
本発明において、好ましくは、医薬組成物は、腫瘍成長阻害剤として使用され得る。
【0027】
本発明において、好ましくは、医薬組成物は、腫瘍転移阻害剤として使用され得る。
【0028】
加えて、好ましくは、医薬組成物は、血管新生阻害剤、ヘパラナーゼ阻害剤、C−Met酵素阻害剤、微小管重合阻害剤、アクチン脱重合因子活性阻害剤及び/又はアクチン凝集阻害剤として使用され得る。
【0029】
本発明のさらに別の態様によれば、治療有効量の、本発明の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を、治療を必要とする対象に投与するステップを含む、腫瘍を治療するための方法が提供される。
【0030】
本発明において、用語「有効量」は、所望の結果を実現するために必要な投薬量で必要な期間にわたって有効な量を指し得る。この有効量は、疾患の種類、治療されている場合の疾患の症状、投与されている具体的な標的臓器の構造、対象の大きさ、又は疾患若しくは状態の重症度等の要因に従って変更され得る。特定の化合物の有効量は、当業者によって必要以上の実験をすることなく実験的に決定することができる。
【0031】
上記を考慮して、腫瘍を治療するために有効な薬物の欠如という現在の問題を解決することを目的として、腫瘍及び腫瘍転移を治療するための薬剤の調製において、本発明の硫酸ポリグルロン酸又は薬学的に許容されるその塩を使用することは、非常に重要である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の硫酸ポリグルロン酸のそれぞれの成分についてカラム分離結果を示す図である。
図2】ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の成長に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。
図3】ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の肺転移に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。パネルAは、HE染色による肺における転移の典型的な写真(倍率:200倍)を示し;パネルBは、MDA−MB−435同所異種移植片の肺転移に対するPGASの阻害効果の定量的表示である。図中のデータは、1つの典型的な実験における平均±SDとして表現されている。Pは0.05未満、**Pは0.01未満、処置群対対照群。
図4】ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の血管新生阻害効果を示す図である。パネルAは、ポジティブ染色を示す矢印を加えたCD31染色の典型的な写真(倍率:200倍)(パネルAにおいて:「C」は対照群であり、「P」はPGAS処置群である)を示し;パネルBは、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片に対するPGASの血管新生阻害効果の定量的表示である。図中のデータは、1つの実験における平均±SDとして表現されている。**Pは0.01未満、処置群対対照群。
図5】マウス黒色腫B1610細胞の実験的肺転移に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。パネルAは、肺における転移の典型的な写真を示し;パネルBは、B1610の実験的肺転移に対するPGASの阻害効果の定量的表示である。図中のデータは、1つの典型的な実験における平均±SDとして表現されている。同様の結果が少なくとも2つの独立した実験から取得され得る。Pは0.05未満、**Pは0.01未満、処置群対対照群。
図6】ニワトリ胚絨毛尿膜(CAM,chicken embryo chorioallantoic membrane)の新血管形成に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。パネルAは溶解剤(dissolvant)対照群を示し;パネルBは200μg/卵PGAS群を示し;パネルCは400μg/卵PGAS群を示し;パネルDは800μg/卵PGAS群を示す(倍率:40倍)。
図7】ヘパラナーゼ活性に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。パネルAは、本発明の硫酸ポリグルロン酸のヘパラナーゼ活性の阻害を指示するHPLCスペクトルを示し;パネルBは、上記のパネルAスペクトルの結果から計算された、本発明の硫酸ポリグルロン酸のヘパラナーゼ活性の阻害率を示す。
図8】無細胞系におけるチューブリン重合に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。パネルAは時間依存性を示し、パネルBは用量依存性を示す。
図9】無細胞系におけるアクチン脱重合に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。
図10】アクチン脱重合因子のアクチン脱重合/切断活性に対する本発明の硫酸ポリグルロン酸の阻害効果を示す図である。##Pは0.01未満、コフィリン群対対照群;**Pは0.01未満、医薬群対コフィリン群。
図11】本発明の硫酸ポリグルロン酸のそれぞれの成分の腫瘍転移阻害の活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明を実施形態によって以下でさらに詳細に記述する。しかしながら、下記の実施形態は、例証のみを目的として提供されるものであり、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0034】
材料及び試薬
デキストランに対して10000Daの重量平均分子量を有するポリグルロン酸を、青島海洋大学(OceanUniversity of China)のLan Tai Pharmaceuticals社から購入した。ホルムアミド、クロロスルホン酸等、ARグレードは、Sinopharm Group Chemical Reagent社により提供された。デキストラン分子量標準は、Fluka社から購入した。ドキソルビシン注射剤(アドリアマイシン(ADM,Adriamycin))は、Zhejiang Haimen Pharmaceutical Factory社によって製造されたZhejiang health medicine accurate (1996) No. 135501であり、含有量は10mg/バイアルであり、溶媒は生理食塩水であり、各投与前に生理食塩水で所望の濃度に希釈して調剤した。TSK gel2000SWXL、TSK gel G3000SWXLカラムは日本のTOSOH社から入手可能であり、Bio-Gel-P6、Bio-Gel-P10は、Bio-Rad社製であり、Sephadex G-10、Sepharose CL-4Bは、Pharmacia社製であり、チューブリン、アクチンはSIGMA社から購入した。
【0035】
機器
NICOLET社製NEXUS-470インテリジェント赤外分光計;Bruker社製DPX-300 NMR分光計;Beijing Longzhida社製ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC,Gel Permeation Chromatography);米国Unocal社製UV-2102紫外線及び可視分光光度計。
【0036】
実験動物
ヌードマウス、BALB/cA、18〜22gは、中国科学院上海薬物研究所(Shanghai Instituteof Materia Medica, Chinese Academy of Sciences)によって提供され、 C57BL/6マウス、6〜7週齢は、中国科学院上海実験動物センター(Shanghai Animal Center, Chinese Academy of Sciences)によって提供され、
新鮮な卵は、Shanghai Shenbao Chicken Farmから購入した。
[実施例]
【実施例1】
【0037】
硫酸ポリグルロン酸(PGAS,polyguluronic acid sulfate)の調製
3mlのクロロスルホン酸を、温度を5℃未満に維持しながら、10mlのホルムアミドに滴下添加した。反応の20分後、1gのポリグルロン酸を添加し、65〜70℃の温度で3時間反応させた。2倍量の80%エタノール溶液を反応生成物に添加し、繰り返しかき混ぜて、粘性物質を得た。追加の80%エタノール溶液を添加し、上記のステップを2回繰り返した。溶液をデカントし、水を添加して、粘性物質を得た。粘性物質を1%NaCO溶液で7.0のpHに調整し、2倍量の95%エタノール溶液によるアルコール沈殿に供した。得られた沈殿物を50〜60℃の温度で乾燥させて、ポリグルロン酸の硫酸化誘導体を得た。該誘導体を4mg/mlの酢酸ナトリウム溶液(pH7.0)に配合し、該溶液に、水素化ホウ素ナトリウムを50mMまで添加した。反応は、30〜40℃の温度で30分間にわたって行い、氷浴で終了させた。pHを0.1M酢酸で調整し、未反応の水素化ホウ素ナトリウムを放出し、pHを中性に調整した。得られた溶液を繰り返し沈殿させ、エタノールで洗浄し、乾燥させて、硫酸ポリグルロン酸(PGAS)の粗製物を得た。PGAS粗製物を10%溶液に配合し、95%エタノール溶液による沈殿に供した。得られた沈殿物を無水エタノールで洗浄し、乾燥させ、5%溶液に配合した。溶液を3μmの膜で濾過して不純物を除去し、移動相として水を用い、画分収集を使用するSephadex G-10カラム(15×100cm)中で脱塩した。溶出液を硫酸−カルバゾール法で検出し、糖含有成分を合わせ、減圧で濃縮し、脱塩し、フリーズドライして、精製硫酸ポリグルロン酸を得た。
【0038】
上記で調製された硫酸ポリグルロン酸の硫黄含有量を、酸素フラスコ燃焼法を用いて決定した。約25mgの試料を採取し、正確に秤量し、酸素フラスコ燃焼法後、有機物の破壊に供した。1000mlの燃焼フラスコを使用し、0.1mlの濃過酸化水素溶液及び10mlの水を吸収液として使用した。生成された煙が完全に吸収されたら、得られた物質を氷浴に15分間入れ、2分間加熱して穏やかに沸騰させ、冷却し、50mlのエタノール−酢酸アンモニウム緩衝液(pH3.7)とともに、30mlのエタノール及び0.3mlの0.1%アリザリンレッド溶液を指示薬として添加し、過塩素酸バリウム滴定溶液(0.05mol/L)で薄橙赤色に滴定した。1mlの過塩素酸バリウム滴定溶液(0.05mol/L)は、1.603mgのSと同等である。試験結果は、乾燥した生成物に基づき、硫酸ポリグルロン酸の硫黄含有量が11.2重量%であることを示す。
【実施例2】
【0039】
硫酸ポリグルロン酸(PGAS)の構造的特徴付け
構造的特徴付けは、上記の硫酸ポリグルロン酸の調製によって生じた画分中の糖類成分に対して行った。
【0040】
1.UV吸収スペクトル
上記の硫酸ポリグルロン酸を好適な濃度に希釈し、蒸留水をブランクとして用いて、UV-2102紫外線−可視分光光度計により190nm〜400nmでスキャンした。画分は紫外領域内に特異的な吸収ピークを有さないことが分かり、構造内に共役した二重結合がないことを指示している。しかしながら、190〜200nmにおいては非特異的吸収がある。
【0041】
2.赤外分光法
0.5mgのPGASを押圧してKBrペレットとし、NEXUS-470インテリジェント赤外分光計を用いて赤外分光法を実施した。ヒドロキシル基の対称伸縮振動は3219.53cm−1で存在し、カルボキシレート中のカルボニル基の対称伸縮振動は1612.58cm−1で存在し、ヒドロキシル基のはさみ振動は1414.33cm−1で存在し、カルボキシル基中の炭素−酸素結合の対称伸縮振動は1103.97cm−1で存在し、C−O−Sの伸縮振動ピークは823.30cm−1で存在し、硫酸化後の硫酸化物中のS=Oの伸縮振動ピークは1274.62cm−1で存在することが分かり、これは、化合物が、カルボキシル、ヒドロキシル及びスルホン基(sulfoic groups)を含有する主鎖構造を有することを指示している。
【0042】
3.PGASのNMR分光法
PGASのNMR分光法(13C−NMR)は、Bruker社製Auance DPX-300 NMR分光計を用いて決定した。スペクトルにおいて、非スルホン化C−2シグナルピークは実質的に見られないのに対し、非スルホン化C−3シグナルピークは依然として存在していることが分かった。C−2位におけるヒドロキシル基は比較的完全に硫酸化されており、C−3位におけるヒドロキシル基は部分的にしか硫酸化されていないことが指示されている。
【0043】
4.PGASの分子量及び分子量分布
PGASの分子量は、GPC法を用いて決定した。検出は、屈折率検出器を使用し、分子量標準としてFluka社製デキストラン、クロマトグラフィーカラムとしてTSK gel2000SWXLカラム、並びに移動相として0.2%アジ化ナトリウム及び2.84%NaSOを含有する水溶液を用い、0.5ml/分の流速、35℃の温度及び25μlの注入体積で実施した。デキストランに対するPGASの重量平均分子量は2513Daであり、複数バッチの試料の決定結果は、デキストランに対するその重量平均分子量が1500〜8500Daであることを示すことが分かった。
【0044】
まとめると、これらの結果は、上記の画分が、ポリグルロン酸の還元末端の1位においてヒドロキシル基を有し、C−2位において完全に硫酸化されており、C−3位において部分的に硫酸化されており、下記の化学式(I):
【0045】
【化4】
【0046】
(一般式(I)において、n、R及びRは上記で定義された通りである)を有する硫酸ポリグルロン酸であることを裏付けるものである。
【実施例3】
【0047】
PGASの成分の分離及び調製
上記で調製されたPGASの試料を採取し、5%溶液に配合し、3μmの膜で濾過して不純物を除去し、移動相として0.2mol/LのNHHCOを用いてBio-Gel-P6ゲルカラム(1.6×180cm)上で分離し、画分を収集した。硫酸−カルバゾール法を用いて溶出液を検出し、糖含有成分を収集し、空隙体積成分をBio-Gel-P10ゲルカラム(1.6×180cm)上でさらに分離した。得られた生成物をフリーズドライして、PGASの一連の糖類成分を得、これを質量分光分析によって同定した。結果は、PGASの、二糖、三糖、四糖、五糖、六糖、七糖、八糖、九糖、十糖、十一糖及びそれより高次の糖成分の産生を裏付けるものである。
【0048】
以下の実験において、実施例4〜11では実施例1において調製された生成物を使用するが、実施例12及び13では実施例3において調製された生成物を使用する。
【実施例4】
【0049】
硫酸ポリグルロン酸(PGAS)の腫瘍成長阻害効能の評価
指数増殖期における2.5×10細胞/mlの濃度のヒト乳がんMDA−MB−435細胞(American Type Culture Collection社製、ATCC、ロックビル、MD、USA)を、4〜5週齢の雌ヌードマウス(BALB/cA、中国科学院上海薬物研究所によって提供されたもの)の左から二番目の乳房脂肪体に接種した。腫瘍が100〜200mmの大きさに成長したら、動物を、腫瘍体積に従って、陰性対照群、ドキソルビシン注射剤(アドリアマイシン、ADM)処置群(陽性対照群)、並びに5mg/kg及び20mg/kgのPGAS処置群(PGAS実験群)に20匹/群で均等に分割した。PGAS実験群及び陽性対照群には、静脈内注射によって週に1回、連続7週間にわたって投薬し、陰性対照群には、同量の生理食塩水を投薬した。実験において、ノギスを使用して腫瘍の直径を週に2回測定し、腫瘍体積(V)を以下の式:
V = 1/2 × a × b2
[式中、a及びbは、腫瘍の長さ及び幅をそれぞれ表す]に準じて計算した。相対腫瘍体積(RTV,relative tumor volume)は、測定結果に基づき、算定式:RTVt= Vt/V0[式中、Vは、動物を異なる投薬に分割した際(すなわちd)の測定腫瘍体積であり、Vtは測定日における腫瘍体積である]を使用して計算した。抗腫瘍活性の薬力学的評価指標は相対腫瘍増殖率T/C(%)であり、その算定式は次の通りである:
【0050】
【数1】
【0051】
RTV:処置群のRTV;CRTV:陰性対照群のRTV。効能評価:60%を超えるT/C%は無効を意味し;Pが0.05未満の統計的有意性である60%以下のT/C%は有効を意味する。
【0052】
動物を投薬中止1週間後に屠殺した。肺組織を、ブアン液(飽和ピクリン酸:ホルムアルデヒド:氷酢酸=75:25:5)中で24時間以上にわたって固定し、肺転移が白色結節として現れるまで無水エタノールに浸漬すると、肺組織が正常な色を取り戻した。片肺当たりの肺転移結節の数を観察し、解剖顕微鏡下で記録した。同所腫瘍組織の一部を液体窒素に入れ、全RNA及びタンパク質の抽出のために冷凍保存した。肺及び同所腫瘍組織の一部を10%ホルマリン中で固定し、腫瘍組織における血管新生をHE染色及び免疫組織化学によって決定した。
【0053】
腫瘍接種後15〜20日目、ヒト乳がんMDA−MB−435異種移植片は100〜200mm前後に成長しており、接種成功は100%であり;接種後8〜9週目、多数の転移が担腫瘍ヌードマウスの肺組織において現れており、転移率は100%であることが分かった。この時点で動物を屠殺し、抗腫瘍効果評価に供した。PGAS処置は、静脈内注射により週に1回、連続7週間にわたって実施した。5mg/kgのPGAS処置群は、同所腫瘍の成長を阻害する能力を示すが、腫瘍阻害効果は有意でなく、T/C値は67.3%であり;20mg/kgのPGAS処置群は、ヌードマウスにおいてヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の成長を有意に阻害する能力を示し、T/C値は最大37.6%である。陽性対照薬ADMは、ヒト乳がんMDA−MB−435同所腫瘍の成長を有意に阻害する能力を示し、5mg/kgのADM処置群は、21.8%のT/C値を有する。これは、PGASが、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の成長を有意に阻害できることを示す(図2)。静脈内注射による週に1回連続7週間にわたる5mg/kg及び20mg/kgの投薬レジメン下、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の肺転移に対するPGASの阻害率は、それぞれ60.2%及び88.4%である。肺転移に対するドキソルビシン(5mg/kg)の阻害率は、89.8%である。これは、PGASが、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の肺転移を有意に阻害できることを示す(図3)。さらに、インビボでの血管新生に対するPGASの効果を、免疫組織化学的染色によって評価した。内皮細胞特異的マーカーCD31の検出は、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片において多数の小血管が生成されることを示す。5mg/kgのPGAS処置群では、対照群と比較して異種移植片における小血管の数に有意な変化がなく、これに対し、20mg/kgのPGAS処置群においては、対照群と比較して異種移植片における小血管の数に有意な減少があり、阻害率は42.1%である。これは、PGASが、ヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片における血管新生を有意に阻害できることを示す(図4)。
【実施例5】
【0054】
硫酸ポリグルロン酸(PGAS)の腫瘍転移阻害効能の評価
6〜7週齢C57BL/6マウス(中国科学院上海実験動物センターによって提供されたもの)を、生理食塩水陰性対照群、並びに5mg/kgのPGAS処置群及び20mg/kgのPGAS処置群に、10匹/群で無作為に分割した。指数増殖期における2.5×10細胞/mlの濃度のマウス黒色腫B1610細胞(American Type Culture Collection社製、ATCC、ロックビル、MD、USA)を、マウスの尾静脈に接種した。細胞接種の20分前、PGAS群には腹腔内(i.p.,intraperitoneal)注射を1回投薬し、陰性対照群には同量の生理食塩水を投薬した。11日後、肺をマウスから取り出し、肺組織を、ブアン液(飽和ピクリン酸:ホルムアルデヒド:氷酢酸=75:25:5)中で24時間以上にわたって固定した。片肺当たりの肺転移結節の数を観察し、解剖顕微鏡下で記録した。代替として、肺組織が正常な色を取り戻すまで2日間にわたって肺組織をさらに無水エタノールに浸漬した後、そのような観察を実施した。接種の11日後、マウスの肺組織において多数の転移が現れ、転移率は100%であり、単回i.p.注射の投薬レジメンにおいて、5mg/kgのPGAS処置群は、有意な腫瘍転移阻害を示し、阻害率は最大40.81%であり、20mg/kgのPGAS処置群は、黒色腫B1610細胞の肺転移に対してより有意な阻害を示し、阻害率は最大82.20%であることが分かった。結果は、PGASが、黒色腫B1610細胞の肺転移を有意に阻害できることを示す(図5)。
【0055】
本発明者は、PGASの作用機序をさらに研究した。
【実施例6】
【0056】
PGASによる血管新生阻害の試験
新鮮な卵(Shanghai Shenbao Chicken Farmから購入したもの)を、39℃及び50%湿度(ガス室を上にして)のインキュベーターRoll-X base(Lyon Electric社、CA、USA)に入れた。7日間にわたる連続インキュベーション後、卵に照明を当てて、ニワトリ胚が生存しているか、並びに絨毛尿膜の位置が決定及びマーク付けされたかを同定した。卵の気嚢の端部に1つの小さな穴を作製し、ニワトリ胚を水平方向に置いた(絨毛尿膜を上にして)。絨毛尿膜が崩壊して卵殻から分離するように、気嚢をピペットゴム球で穏やかに吸引し、一定期間にわたって静置した。次いで、1cmの窓開き部をニワトリ胚上に作製し、窓開きを研磨し、はさみで切り取り、卵殻の塵埃を吹き払い、窓開きの卵殻を剥がし、絨毛尿膜を明確に視認できるようにした。0.25×0.25×0.25(長さ×幅×高さ)cmのサイズを有するゼラチンスポンジを、200、400、800μg/卵の最終濃度の10μlのPGAS及びビヒクル対照で処理し、次いで、絨毛尿膜内の大血管のない部位に穏やかに置いた。小窓を滅菌透明テープで密封し、卵をさらに48時間インキュベートした。観察のためにテープをはがし、写真を撮影し(倍率:40倍)、ニワトリ胚絨毛尿膜の血管新生に対するPGASの阻害効果を評価した。PGASを含有するスポンジに隣接する絨毛尿膜において、血管密度は有意に低減しており、濃度依存性阻害の傾向を呈したことが分かった(図6)。これは、PGASが血管新生阻害効果を有することを示す。
【実施例7】
【0057】
PGASによるヘパラナーゼ活性阻害の試験
ヘパラナーゼの無血清昆虫発現系及び親和性カラム精製系を、PCR増幅及び遺伝子組換えによってヒト胎盤から取得されたヒトヘパラナーゼのcDNAを使用して確立し、95%以上の純度を有する高活性ヘパラナーゼを取得した。150μlの反応緩衝液(50mM酢酸ナトリウム、pH4.2)に、0.5μgのフルオレセインイソチオシアネート標識ヘパラン硫酸(FITC−HS,fluorescein isothiocyanate-labeled heparan sulfate)及び25ng/mlの最終濃度のヘパラナーゼ、並びに種々の濃度のPGASも添加し、37℃で3時間反応させた。100℃で5分後、遠心分離を10000rpmで20分間にわたって実施して、不溶性材料をペレット化した。上清を0.45μmのフィルター膜で濾過し、次いで、緩衝液50mMのTris/150mMのNaCl、pH7.5、及び0.8ml/分の流速を使用して、20μlのローディングでTSK gel G3000SWXLカラムに注入した。FITC−HS生成物の蛍光強度を蛍光検出器(励起:485nm、発光:538nm)で検出した。酵素の相対活性を、インタクトなFITC−HSピークの前方半分の面積の減少によって評価して、ヘパラナーゼ活性に対するPGASの効果を決定した。PGASは、ヘパラナーゼ活性を用量依存様式で阻害し、IC50は6.55ng/mlであり、用量が40ng/mlである場合、活性は、陽性対照ヘパリンのものより良好であることが分かった(図7)。
【実施例8】
【0058】
PGASによるC−Met酵素活性阻害の試験
酵素反応基質ポリ(Glu、Tyr)をマイクロタイタープレートに被覆し、ATP溶液及び硫酸ポリグルロン酸及びc−Met酵素溶液を適切な濃度で添加し、反応(reaction)のために37℃で1時間シェーカー上に置いた。次いで、T−PBS希釈PY99抗体含有5mg/mlのBSAを添加し、シェーカー上、37℃で0.5時間反応させた。さらに、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgGを添加し、シェーカー上、37℃でさらに0.5時間反応させた。最後に、2mg/mlのOPD展開溶液を添加し、25℃、暗所で1〜10分間反応させ、2M HSOを添加して反応を終了させた。490nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーによって測定し、酵素活性阻害率を計算した:
【0059】
【数2】
【0060】
c−Metに対する10μg/mlの濃度の硫酸ポリグルロン酸の酵素活性阻害率は71.1%であることが分かり、硫酸ポリグルロン酸が、c−Met酵素活性を阻害する効果を有することを指示している。
【実施例9】
【0061】
PGASによるチューブリン重合阻害の試験
10μlのPGASを種々の濃度で96ウェルプレートに添加し、37℃で10分間予熱した。チューブリン凍結乾燥粉末を、PEM緩衝液(100mMのPIPES、1mMのMgCl、1mMのEGTA)+1mMのGTP、5%グリセリン中で、12μMの濃度に希釈した。90μlのこの溶液を96ウェルプレートに添加し、マイクロプレートリーダーを起動し、温度を37℃に設定し、検出波長を340nmに設定した。これを徹底的に混合し、1分当たり1回、連続30分間にわたって読み取った。結果は、PGASが、無細胞系においてチューブリン重合を有意に阻害でき、PGASの濃度が2.5μMから40μMに増大した場合、阻害率は18.26%から73.44%に増大し、これは用量依存であり、IC50は8.58μMであることを示す(図8)。
【実施例10】
【0062】
PGASによるアクチン脱重合阻害
ピレニル標識アクチンを凝集緩衝液(100mMのTris−HCl、20mMのMgCl、500mMのKCl、2mMのCaCl、pH7.5)に添加し、37℃で30分間インキュベートして線維に凝集させた。次いで、アクチン脱重合緩衝液(10mMのTris−HCl、0.2mMのCaCl、0.2mMのATP、pH8.0)及び異なる濃度のPGASを希釈のために添加して、脱重合させた。蛍光マイクロプレートリーダーを、360nmの発光波長及び410nmの吸収波長並びに37℃の温度に設定した。これを徹底的に混合し、1分当たり1回、連続30分間にわたって読み取った。結果は、PGASが、無細胞系においてアクチン脱重合プロセスを有意に阻害でき、用量依存性を呈することを示す(IC50は10.6μMである)(図9)。
【実施例11】
【0063】
コフィリンのアクチン脱重合/切断活性に対するPGASの阻害
硫酸ポリグルロン酸をSepharose CL-4Bと連結して、硫酸ポリグルロン酸の親和性クロマトグラフィーカラムを調製した。このクロマトグラフィーカラムを使用して、肺がん細胞株A549における硫酸ポリグルロン酸の結合タンパク質を抽出し、分離した。質量分析同定により、コフィリンは、硫酸ポリグルロン酸と強く結合するタンパク質の1つであることが分かった。さらなる研究は、硫酸ポリグルロン酸が、コフィリンのアクチン脱重合/切断活性を有意に阻害できることを示す(図10)。これは、硫酸ポリグルロン酸が、コフィリンと結合してコフィリンのアクチン脱重合/切断活性を阻害し、故に、腫瘍細胞の細胞移動を阻害するように機能できることを指示している。
【実施例12】
【0064】
PGASの糖成分の活性決定
実施形態3において調製されたPGAS糖成分の抗腫瘍活性を試験した。15mg/kg未満の静脈内注射用量におけるPGASの四糖〜十二糖成分(一般式(I)においてnが2〜10であるものに対応する)は、ヌードマウスにおけるヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の成長に対して30%以下のT/C値を有し、その肺転移に対して95%以上の阻害率を有し;10mg/kg未満の用量における六糖〜十二糖成分(一般式(I)において、n=4〜8)は、ヌードマウスにおけるヒト乳がんMDA−MB−435同所異種移植片の成長に対して30%以下のT/C値を有し、その肺転移に対して95%以上の阻害率を有することが分かった。結果は、硫黄含有量が7〜15重量%である場合により良好であり、9〜13重量%である場合が最良であった。
【実施例13】
【0065】
PGASの糖成分の腫瘍転移阻害活性の決定
実施例3において分離された異なるPGAS糖成分の、腫瘍転移に対する効果は、Transwell細胞アッセイを用いて検出した。トリプシンを使用して、指数関数的に成長した段階においてインビトロで継代培養された乳がんMDA−MB−435細胞を消化し、続いて、無血清培養液で3回洗浄し、2×10/mlに希釈した。100μlの細胞希釈物を、Transwell細胞内のウェルの上方室に添加し、600μlの10%FBS含有培養液を下方室に添加し、100μg/mlの異なるPGAS成分を上方及び下方室の両方に添加した。細胞を、5%CO含有インキュベーター内、37℃で12時間インキュベートした後、培養培地を除去し、細胞を90%エタノール溶液中で30分間固定した。細胞を、0.1%クリスタルバイオレット溶液(0.1Mホウ酸、0.1%(w/v)クリスタルバイオレット、2%エタノール)により、室温で10分間染色し、透明な水ですすぎ、綿棒で拭って上層中の移動しなかった細胞を除去した。顕微鏡下で細胞を観察し、撮影し、記録した。最後に、抽出を100μl/ウェルの10%酢酸溶液により10分間にわたって実施し、OD値を595nmで決定し、乳がん細胞における異なる糖成分の移動阻害率を計算した。
移動阻害率(%) = (1-OD処置/OD対照) ×100%
【0066】
対照群におけるMDA−MB−435細胞は、FBSの濃度勾配と平行して、12時間以内に上方から下方室へ自由に移動できることが分かった。クリスタルバイオレット染色の写真結果から、四糖(一般式Iにおいて、n=2)〜十一糖(一般式Iにおいて、n=9)の範囲にわたる異なるPGAS糖成分及びより大きい多糖が、腫瘍細胞移動を有意に阻害でき、これに対し、二糖成分(一般式Iにおいて、n=0)及び三糖成分(一般式Iにおいて、n=1)は、より低い阻害率を有することが分かり(図11)、種々のPGAS成分(特に、四糖〜十一糖及びより大きい多重成分)が、腫瘍細胞の転移阻害効果を有することを指示している。
【0067】
統計処理
上記のデータを、Statviewソフトウェアによる統計的分析に供し、結果を「平均値±SE」として表現し、比較にはANOVAを使用した。
【0068】
上記の薬理学的結果によれば、医薬組成物は、有効量の本発明の硫酸ポリグルロン酸を医薬担体と混合することによる従来の製剤化手段を使用して調製され得る。医薬組成物は、腫瘍治療薬及び腫瘍転移治療薬として使用でき、血管新生阻害剤、ヘパラナーゼ阻害剤、C−Met酵素阻害剤、微小管重合阻害剤及びアクチン脱重合阻害剤として使用することもできる。腫瘍及び腫瘍転移を治療するための薬剤の調製における本発明の硫酸ポリグルロン酸の使用には、非常に重要な有意性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11