特許第6772355号(P6772355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社京三製作所の特許一覧

<>
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000005
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000006
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000007
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000008
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000009
  • 特許6772355-スイッチングモジュール 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6772355
(24)【登録日】2020年10月2日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】スイッチングモジュール
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/16 20060101AFI20201012BHJP
   H03F 3/217 20060101ALI20201012BHJP
   H02M 1/08 20060101ALI20201012BHJP
   H01L 21/822 20060101ALI20201012BHJP
   H01L 27/04 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   H03K17/16 H
   H03F3/217
   H02M1/08 A
   H01L27/04 H
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-188936(P2019-188936)
(22)【出願日】2019年10月15日
【審査請求日】2019年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】國玉 博史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 卓矢
【審査官】 工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−107494(JP,A)
【文献】 特開2017−92057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K17/567
H03K17/16
H03F3/217
H02M1/08−1/096
H01L27/04
H01L21/822
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOSFETと、このMOSFETのゲート電極にゲート駆動電圧を印加するドライバ回路と、を基板上に実装したスイッチングモジュールであって、
前記ドライバ回路は、前記ゲート電極との間にダンピング調整素子及びボンディングワイヤを介して、前記MOSFETと電気的に接続されており、
前記ダンピング調整素子は、前記ドライバ回路からのゲート駆動電圧の印加が終了した後の戻り電圧の減衰率を制御するゲート抵抗を少なくとも含むことを特徴とするスイッチングモジュール。
【請求項2】
前記ダンピング調整素子は、前記MOSFETの寄生容量に基づいてその抵抗値が設定されたゲート抵抗であることを特徴とする請求項1に記載のスイッチングモジュール。
【請求項3】
前記ゲート抵抗は、積層型抵抗器又は薄膜抵抗器であることを特徴とする請求項2に記載のスイッチングモジュール。
【請求項4】
前記ゲート抵抗の抵抗値は、前記戻り電圧がしきい値を超えないように設定されることを特徴とする請求項2又は3に記載のスイッチングモジュール。
【請求項5】
前記基板は、酸化ベリリウム又は窒化アルミニウムにより形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のスイッチングモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、D級増幅器等に適用されるスイッチングモジュールに関し、特に、高周波電源の増幅器に適用されるMOSFETと、このMOSFETのゲート電極に駆動電圧を印加するドライバ回路と、を含むスイッチングモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波電源は、超音波発振や誘導電力の発生あるいはプラズマの発生等の電源として適用されており、D級増幅器によるスイッチング動作により、直流を高周波交流に変換する機能を有する電源である。このようなスイッチング動作を行うD級増幅器は、電力効率が高く、発熱量が少ないことが特徴であり、そのスイッチング動作を行うモジュールとして、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transmitter)を用いたものが知られている。
【0003】
このようなMOSFETを用いたスイッチングモジュールとして、例えば特許文献1及び特許文献2には、MOSFETと、このMOSFETのゲート電極にゲート駆動電圧を印加するドライバ回路と、を基板上に実装したスイッチングモジュールが開示されている。これらのスイッチングモジュールによれば、高周波電源に適し、電源変換効率をさらに向上できるとされている。そして、これらのスイッチングモジュールにおいては、ドライバの出力端子とMOSFETのゲート電極との間をボンディングワイヤで直接接続する構造が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−25567号公報
【特許文献2】特開2008−228304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
MOSFETのスイッチング動作は、ゲート電極へのゲート駆動電圧の印加のオン・オフで行われる。オン制御では、ドライバ回路からMOSFETのゲート電極に印加されたゲート駆動電圧によりゲート・ソース電圧が所定値を超えるとMOSFETはオン状態となる。一方、オフ制御では、ゲート駆動電圧の印加を停止し、ゲート・ソース電圧を所定値よりも低電圧とすることによりにMOSFETはオフ状態となる。
【0006】
このオフ制御において、ドライバ回路とMOSFETとの間で構成される共振回路による共振現象が生じ、共振電圧は内部成分により振動しながらの所定の時定数で振幅が減衰する。以下、この電圧をダンピング電圧として説明する。
【0007】
オフ制御において、MOSFETのゲート・ソース電圧はダンピング電圧により振動する。このとき、ダンピング電圧の振動により、ゲート・ソース電圧がMOSFETをオン状態とするしきい値(スレッショルド値)を超えると、MOSFETはオン指令信号が入力されたとしてオン状態となり、本来はオフ状態であるべきときにオン状態となる誤動作(誤点弧)が発生するという問題点がある。
【0008】
また、特許文献1あるいは特許文献2に示されるような従来のスイッチングモジュールでは、ドライバの出力端子とMOSFETのゲート電極との間をボンディングワイヤで直接接続する構造が採用されている。この構成では、ドライバ回路とMOSFETとの間には、ボンディングワイヤの浮遊インダクタンスや内部抵抗、及びMOSFETのゲート・ソース容量によりRLC直列共振回路が形成される。RLC直列共振回路の直列共振で生じるダンピング電圧の減衰率(ダンピング定数)は、ボンディングワイヤの電気的特性やワイヤの長さに依存して変化する。
【0009】
しかしながら、スイッチングモジュールに搭載するMOSFETを交換した場合にダンピング電圧による誤作動を発生させないようにするには、ボンディングワイヤの線路長やドライバ回路のドライバICの内部出力段の内部抵抗等を変える必要があり、これには多くの手間がかかってしまうことになる。また、MOSFETのチップを交換した場合、数MHz〜数十MHz帯のMOSFETの寄生容量Cissはおよそ10倍程度の幅で異なるため、周波数共振により異常発振現象が発生するおそれがある。さらに、スイッチングモジュールに搭載するドライバ回路及びMOSFETのパターンを共通化した場合、ボンディングワイヤの線路長は固定長となるため、ボンディングワイヤの線路長及び抵抗成分も固定値となる。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点を解決するためになされたものであって、MOSFETを交換する、あるいは使用する周波数を変更した場合であっても、MOSFETとドライバ回路との接続回路においてダンピング電圧による誤作動が生じるのを抑制することができるスイッチングモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の代表的な態様の1つは、MOSFETと、このMOSFETのゲート電極にゲート駆動電圧を印加するドライバ回路と、を基板上に実装したスイッチングモジュールであって、前記ドライバ回路は、前記ゲート電極との間にダンピング調整素子及びボンディングワイヤを介して、前記MOSFETと電気的に接続されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成を備えた本発明によれば、ドライバ回路とMOSFETとの間にゲート・ソース電圧のダンピング電圧の減衰率(ダンピング定数)を調整できるダンピング調整素子を配置し、このダンピング調整素子を介してドライバ回路とMOSFETとを電気的に接続する構成とすることにより、MOSFETの交換、あるいは使用周波数の変更等のスイッチングモジュールの仕様変更に伴って生じるダンピング電圧による誤作動の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の代表的な一例である実施例1によるスイッチングモジュールの概要を示す側面図である。
図2】実施例1によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。
図3図1に示したダンピング調整素子の典型的な一例とその変形例を示す斜視図である。
図4】実施例1によるスイッチングモジュールを用いてゲート電極にゲートパルスを投入した際の電圧の時間変化を示すグラフである。
図5】実施例2によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。
図6】実施例2の変形例によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明によるスイッチングモジュールの代表的な具体例を図1図6を用いて説明する。
【0015】
<実施例1>
図1は、本発明の代表的な一例である実施例1によるスイッチングモジュールの概要を示す側面図である。ここで、本願明細書において示すスイッチングモジュールは、半導体製造装置向けの高周波電源等に適用できる。このとき、増幅器の出力が1kW以上で、出力周波数が0.3MHz以上のものが例示できる。
【0016】
図1に示すように、実施例1によるスイッチングモジュール100は、基板110と、この基板110上に搭載されたMOSFET120、ドライバ回路130及びダンピング調整素子140と、これらの素子を電気的に接続するボンディングワイヤ150、152と、を含む。なお、図1ではMOSFET120のゲート電極Gに接続する経路のみを示し、増幅器の一部を構成するためにドレイン電極Dやソース電極Sに接続される経路については、図示を省略する。
【0017】
基板110は、その一例として、MOSFET120、ドライバ回路130及びダンピング調整素子140を上面に搭載する平板状の部材として形成される。基板110は、酸化ベリリウム(BeO)又は窒化アルミニウム(AlN)等の熱伝導性の良い材料で形成される。これにより、モジュールを駆動した際に発生した熱を効果的に放散あるいは排出することができる。
【0018】
MOSFET120は、電界効果トランジスタ(Field Effect Transistor)の一種であって、例えばシリコン等の基板上に絶縁層としての酸化膜とゲート電極Gとを積層し、さらに高濃度の不純物をイオン注入してドレイン電極Dとソース電極Sとを形成した半導体素子として構成されたものを用いる。本発明では、一般にp型あるいはn型と称されるいずれのMOSFET素子でも適用できる。
【0019】
ドライバ回路130は、図示しない駆動電源とスイッチング機構とを含む構造であって、スイッチング機構のオン・オフ動作により、MOSFET120のゲート電極Gに対して所定のゲート駆動電圧を印加するように構成されている。ドライバ回路130としては、トランジスタやMOSFETで構成されたプッシュプル回路を出力段に持つICチップが例示できる。
【0020】
ダンピング調整素子140は、基板110上でMOSFET120とドライバ回路130との間に配置され、MOSFET120及びドライバ回路130とボンディングワイヤ150、152を介してそれぞれ電気的に接続される。実施例1においては、ダンピング調整素子140は例えばゲート抵抗Rgとして構成される。
【0021】
このようなダンピング調整素子140は、これに含まれるゲート抵抗Rgの抵抗値を、後述するようにMOSFET120の寄生容量に基づいて選択することにより、ゲート電極Gから印加されるゲート・ソース電圧Vgsのダンピング電圧(戻り電圧)Vgs1が所定のしきい値を超えないような値として設定される。すなわち、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rgの抵抗値を適宜調整することより、ドライバ回路130の出力電圧に対するダンピング電圧(戻り電圧)Vgs1の減衰率を制御する。
【0022】
ボンディングワイヤ150、152は、例えば金、銅又はアルミニウム製のワイヤが適用される。ここで、図1に示すボンディングワイヤ150、152と各素子との接合は、ボールボンディングあるいはウェッジボンディング等の公知の手法で行われる。また、ダンピング調整素子140は、MOSFET120の種類や使用する出力周波数に応じて付け替え自在に取り付けられる。
【0023】
図2は、実施例1によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。ここで、図2では、MOSFET120に電圧入力VinとアースGNDを接続した場合を例示しているが、高周波電源装置の他の構成による等価接続回路については図示及び説明を省略する。
【0024】
図2に示すように、基板110には、MOSFET120と、ドライバ回路130と、が搭載されており、両者の間には、ダンピング調整素子140とボンディングワイヤ150、152とが電気的に接続配置されて、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路が形成されている。ここで、上述のとおり、図1に示したダンピング調整素子140はゲート抵抗Rgとして模擬され、ボンディングワイヤ150、152は一体で浮遊インダクタンスLsと抵抗成分Rsとを内部に含む構成として模擬される。
【0025】
ドライバ回路130はドライバDrを含み、このドライバDrがボンディングワイヤ150、152に接続されるとともにアースGNDとも接続されている。そして、ドライバ回路130からの出力電圧により、MOSFET120のゲート電極Gとソース電極Sとの間に、上記したスイッチング機構の動作に応じたゲート・ソース電圧Vgsが印加される。
【0026】
図3は、図1に示したダンピング調整素子の典型的な一例とその変形例を示す斜視図である。図3(a)に示すように、ダンピング調整素子140は、その一例として、厚さH1、素子の配列方向の長さL1及び幅W1を有する金属部材142からなる。このとき、長さL1を固定しつつ金属部材142の厚さH1及び幅W1を変更することにより、各素子との間隔及びボンディングワイヤ150、152の長さを一定とした上で、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rgを調整することができる。なお、金属部材142に代えて、市販の電気抵抗器を用いてもよい。
【0027】
また、図3(b)に示すように、ダンピング調整素子140の変形例として、ベース部材144の一面に厚さH2、素子の配列方向の長さL2及び幅W2の抵抗体146を積層し、これらを保護体148で一体化した高電力チップ抵抗や薄膜印刷抵抗等を適用することも可能である。これらの構成においても、長さL2を固定しつつ抵抗体146の厚さH2及び幅W2を変更することにより、各素子との間隔及びボンディングワイヤ150、152の長さを一定とした上で、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rgを調整することができる。
【0028】
図1及び図2に示した構成を備えたスイッチングモジュール100において、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rgの抵抗値は、その一例として、MOSFET120の寄生容量に基づいて以下のような手順で決定される。
【0029】
上述のとおり、MOSFET120には寄生容量が存在する。そして、この寄生容量のうち、入力容量Cissは、ゲート・ソース間容量Cgsとゲート・ドレイン間容量Cgdとを用いて、以下の式1のように定義される。
【式1】
【0030】
【0031】
また、上述のとおり、図2に示した等価回路において、ドライバ回路130からボンディングワイヤ150、152及びダンピング調整素子140を介してMOSFET120に至る接続回路が形成されると、ボンディングワイヤ150、152の浮遊インダクタンスLs、抵抗成分Rs、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rg及びMOSFET120のゲート・ソース間容量Cgsが直列共振回路を構成する。この直列共振回路において直列共振が発生すると、ゲート・ソース電圧Vgsは、以下の式2で表されるダンピング定数ζに基づいてその振幅が減衰することが知られている。
【式2】
【0032】
【0033】
一方、MOSFET120は、ゲート・ソース電圧Vgsが印加されてその電圧値が所定値を超えたときにオン状態となるが、ドライバ回路130のスイッチング制御がオフになった場合でも、ゲート・ソース電圧Vgsが瞬時に切り替わることはなく、いわゆるダンピング電圧(戻り電圧)が生じる。このとき、ドライバ回路130からのゲート・ソース電圧Vgsがターンオフした後の、1周期後のゲート・ソース電圧Vgs1は、ドライバ回路130の出力電圧をVdrとすると、以下の式3から算出できる。
【式3】
【0034】
【0035】
そして、上記したVgs1がMOSFET120をオン状態にする所定のしきい値(スレッショルド値)Vthを超えると、MOSFET120はオン指令の信号が入力したものとしてオン状態となり、本来はオフであるべき時にオンとなる誤作動(誤点弧)が発生することとなる。そこで、このようなMOSFET120の誤点弧を防止するためには、1周期後のゲート・ソース電圧Vgs1が、上記した所定のしきい値(MOSFET120がオンとなるスレッショルド電圧)Vthよりも小さいことが求められる。すなわち、式3に示すVgs1がしきい値Vthより小さくなるダンピング定数ζとなるように、ゲート抵抗Rgの抵抗値を定めればよい。
【0036】
図4は、実施例1によるスイッチングモジュールを用いてゲート電極にゲートパルスを投入した際の電圧の時間変化を示すグラフである。図4に示すように、横軸を時間、縦軸をゲート・ソース電圧としたときに、ドライバ回路130内のゲートパルスによる出力電圧Vdrは点線で示され、実際にゲート電極Gにかかるゲート・ソース電圧Vgsは実線で示されるとおりとなる。
【0037】
このとき、パルスオフの後の振動により、時刻t1で1周期後のゲート・ソース電圧、すなわちダンピング電圧(戻り電圧)Vgs1が発生する。ここで、上述のとおり、時刻t1におけるゲート・ソース電圧Vgs1が所定のしきい値Vthを超えないようにゲート抵抗Rgの抵抗値を設定することにより、MOSFET120が誤点弧を起こすことが抑制される。つまり、ゲート抵抗Rgの抵抗値を調整することにより、ダンピング定数ζを調整できるため、結果として、ダンピング電圧(戻り電圧)Vgs1の減衰率を制御することもできる。
【0038】
上記のような構成を備えることにより、実施例1によるスイッチングモジュール100は、ドライバ回路130とMOSFET120との間を、ボンディングワイヤ150、152に加えてダンピング調整素子140を介して電気的に接続したため、MOSFET120の交換や、あるいは使用する周波数を変更した場合に、ダンピング調整素子140のゲート抵抗Rgによりゲート・ソース電圧のダンピング電圧(戻り電圧)Vgs1を調整することができ、結果として、MOSFETとドライバ回路との接続回路においてダンピング電圧による誤作動が生じるのを抑制することができる。
【0039】
<実施例2>
一般に、MOSFETにおいては、ゲート電極Gとその他の電極(ドレイン電極D及びソース電極S)との間は酸化膜で絶縁されており、その酸化膜の静電容量により寄生容量が存在することが知られている。この寄生容量は、使用するMOSFETの周波数との間で、その適用範囲が反比例する関係(すなわち、MOSFETの周波数が大きくなると寄生容量が小さい方が望ましい)にあり、このため、増幅器の設計においては、出力する周波数に合わせてこれに適したMOSFETを選択することとなる。
【0040】
このとき、MOSFETを搭載したスイッチングモジュールの等価接続回路において、ドライバとMOSFETとを接続するボンディングワイヤは浮遊インダクタンスLsと抵抗成分Rsを有する。これら浮遊インダクタンスLs及び抵抗成分Rsは、上記した寄生容量のうちのゲート・ソース間容量Cgsとの間でRLC直列回路を形成して直列共振を生じることがあり、これに起因して回路に過剰な電流が流れてしまうという問題がある。
【0041】
図5は、実施例2によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。ここで、実施例2によるスイッチングモジュール200において、実施例1と同一あるいは同様の構成を備えるものについては、実施例1と同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0042】
図5に示すように、実施例2によるスイッチングモジュール200において、基板110には、MOSFET120と、ドライバ回路130と、が搭載されており、両者の間には、ダンピング調整素子240とボンディングワイヤ150、152とが電気的に接続配置されて、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路が形成されている。また、図5では、実施例1の場合と同様に、MOSFET120に電圧入力VinとアースGNDを接続した場合を例示し、高周波電源装置の他の構成による等価接続回路については図示及び説明を省略する。
【0043】
図5に示すスイッチングモジュール200において、ダンピング調整素子240は、ゲート抵抗RgとゲートインダクタンスLgとが並列に接続されたRL並列回路からなる振動抑制回路として構成されている。ここで、図5に示すゲート抵抗Rgは、実施例1で用いたものと同様の構成のものが適用される。このような構成のダンピング調整素子240は、ゲート抵抗Rgによるダンピング電圧を制御する機能に加えて、ゲートインダクタンスLgを通してRL並列回路の共振周波数ω0(ω0=Rg/Lg)より低い低周波数成分(直流分)の電流を後段のMOSFET120に流すとともに、ゲート抵抗Rgを通してRL並列回路の共振周波数ω0より高い高周波数成分をMOSFET120に流す機能を有する。
【0044】
すなわち、図5に示すダンピング調整素子240において、例えば、ゲートインダクタンスLgの巻数を変更することによりそのインダクタンス値が変化する。このとき、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路の共振周波数は上記のとおりゲート抵抗RgとゲートインダクタンスLgとの関数で表されるため、ゲートインダクタンスLgのインダクタンス値が変化すると、接続回路の共振周波数も変化する。これにより、接続回路における共振周波数を自由に調整できるため、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路が構成するRLC直列回路における直列共振を抑制することができる。
【0045】
図6は、実施例2の変形例によるスイッチングモジュールを高周波電源装置の増幅器に適用した際のモジュール近傍における等価接続回路を示す回路図である。ここで、図5の場合と同様に、図6に示すスイッチングモジュール200において、実施例1と同一あるいは同様の構成を備えるものについては、実施例1と同一の符号を付して再度の説明を省略する。
【0046】
図6に示す変形例において、ダンピング調整素子240´は、ゲート抵抗RgとゲートキャパシタCgとが直列に接続されたRC直列回路からなる振動抑制回路として構成されている。このようなRC直列回路は、ボンディングワイヤ150、152に含まれる浮遊インダクタンスLsとともに振動吸収回路を構成する。ここで、図6に示すゲート抵抗Rgについても、実施例1で用いたものと同様の構成のものが適用される。このような構成のダンピング調整素子240´は、ゲート抵抗Rgによるダンピング電圧を制御する機能に加えて、ゲート抵抗Rgの抵抗値とゲートキャパシタCgの静電容量値とに応じて、それぞれの素子の両端にかかる電圧が変化する機能を有する。
【0047】
すなわち、図6に示すダンピング調整素子240において、例えば、ゲートキャパシタCgの電極版の面積や間隔を変更することにより静電容量値が変化する。このとき、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路の共振周波数は、浮遊インダクタンスLsとゲートキャパシタCgとの関数で表されるため、ゲートキャパシタCgの静電容量値が変化すると、接続回路の共振周波数も変化する。これにより、図5に示した場合と同様に、接続回路における共振周波数を自由に調整できるため、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路が構成するRLC直列回路における直列共振を抑制することができる。
【0048】
上記のような構成を備えることにより、実施例2によるスイッチングモジュール200は、ダンピング調整素子240、240´を、ゲート抵抗Rgを内部に含む振動抑制回路として構成したことにより、ゲート抵抗Rgと並列あるいは直列に配置されるゲートインダクタンスLg又はゲートキャパシタCgの値を変化させることにより、ダンピング調整素子240、240´にゲート抵抗Rgによるダンピング抵抗としての機能を持たせるとともに、ドライバ回路130からMOSFET120に至る接続回路における共振周波数を自在に調整する機能をも有することが可能となる。
【0049】
なお、上記した実施の形態及びこれらの変形例における記述は、本発明に係るスイッチングモジュールの一例であって、本発明は各実施の形態に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく種々の変形を行うことが可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0050】
100 スイッチングモジュール
110 基板
120 MOSFET
130 ドライバ回路
140 ダンピング調整素子
142 金属部材
144 ベース部材
146 抵抗体
148 保護体
150、152 ボンディングワイヤ
200 スイッチングモジュール
240、240´ ダンピング調整素子
G ゲート電極
D ドレイン電極
S ソース電極
Dr ドライバ
Rg ゲート抵抗
Lg ゲートインダクタンス
Cg ゲートキャパシタ
Vgs ゲート・ソース電圧
Vgs1 ダンピング電圧(戻り電圧)
【要約】
【課題】MOSFETを交換する、あるいは使用する周波数を変更した場合であっても、MOSFETとドライバ回路との接続回路においてダンピング電圧による誤作動が生じるのを抑制することができるスイッチングモジュールを提供する。
【解決手段】MOSFETと、このMOSFETのゲート電極に駆動電圧を印加するドライバ回路と、を基板上に実装したスイッチングモジュールである。本発明によるスイッチングモジュールは、ドライバ回路が、ゲート電極との間にダンピング調整素子及びボンディングワイヤを介して、MOSFETと電気的に接続されている。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6