特許第6772436号(P6772436)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772436
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】セメント組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/08 20060101AFI20201012BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20201012BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20201012BHJP
   C04B 7/19 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C04B28/08
   C04B18/14 A
   C04B18/08 Z
   C04B7/19
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-82228(P2015-82228)
(22)【出願日】2015年4月14日
(65)【公開番号】特開2016-199443(P2016-199443A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年3月16日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小林 利充
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 賢一
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 麻子
(72)【発明者】
【氏名】並木 憲司
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−131556(JP,A)
【文献】 竹内博幸、山影久尚、長尾之彦、福島正一,高炉スラグ微粉末を用いた超高強度コンクリートの実用化に関する研究,コンクリート工学年次論文報告集,日本,日本コンクリート工学会,1993年,Vol.15, No.1,PP.93-98
【文献】 岩城一郎、澤井洋介、三浦尚,高炉スラグ混和コンクリートの強度発現に及ぼす配合及び温度の影響,コンクリート工学年次論文集,日本,日本コンクリート工学会,2000年,Vo.22, No.2,PP.127-132
【文献】 和地正浩、金井亮、辻大二郎、井上和政、三井健郎、米澤敏男,高炉スラグ微粉末高含有セメントを用いたコンクリートの基礎物性に関する研究,竹中技術研究報告,日本,2011年,No.67,PP.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
早強ポルトランドセメント(但し、比表面積2000〜4000cm2/gのセメントを除く。)30重量部と高炉スラグ微粉末55〜60重量部とシリカフューム10〜15重量部を有する結合材100重量部と、骨材と、水と、を有するセメント組成物であって、
前記セメントの単位セメント量を180〜300kg/m3としたセメント組成物。
【請求項2】
早強ポルトランドセメント(但し、比表面積2000〜4000cm2/gのセメントを除く。)30重量部と高炉スラグ微粉末55〜60重量部とシリカフューム10〜15重量部を有する結合材100重量部と、骨材と、水と、を有するセメント組成物であって、
水結合材比を15〜22%としたセメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にセメント組成物は、水、セメント、骨材などを混練して製造されている(例えば、特許文献1参照)。この中でセメントはその製造時における二酸化炭素(CO2)排出量が多い材料であり、環境の観点からすると、環境負荷低減に配慮したとは言いがたい材料である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3844457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セメントの使用量を減らし、その代替として高炉スラグ微粉末等の量を多くすると、材料由来によるセメント組成物のCO2の排出量を下げることができる。しかしながら、この場合、セメントの使用量を減らすことにより、セメント組成物の強度が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、セメント組成物の強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
主たる本発明は、早強ポルトランドセメント(但し、比表面積2000〜4000cm2/gのセメントを除く。)30重量部と高炉スラグ微粉末5560重量部とシリカフューム1015重量部を有する結合材100重量部と、骨材と、水と、を有するセメント組成物であって、
前記セメントの単位セメント量を180〜300kg/m3としたセメント組成物である。
【0007】
本発明の他の特徴については、本明細書の記載により明らかにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、セメント組成物の強度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書の記載により、少なくとも次のことが明らかにされる。
【0010】
セメント30重量部と高炉スラグ微粉末50〜70重量部とシリカフューム0〜20重量部を有する結合材100重量部と、骨材と、水と、を有するセメント組成物であって、
前記セメントの単位セメント量を113〜300kg/m3としたセメント組成物。
【0011】
かかる場合には、セメント組成物の強度を向上させることが可能となる。
【0012】
次に、セメント30重量部と高炉スラグ微粉末50〜70重量部とシリカフューム0〜20重量部を有する結合材100重量部と、骨材と、水と、を有するセメント組成物であって、
水結合材比を15〜44%としたセメント組成物。
【0013】
かかる場合には、セメント組成物の強度を向上させることが可能となる。
【0014】
===本実施の形態について===
本実施の形態について、以下において、さらに詳しく説明する。
【0015】
本実施の形態においては、セメント組成物として、水、セメント、細骨材、粗骨材等を含んで構成されるコンクリートを例に挙げて説明する。
【0016】
本実施の形態では、CO2排出量の多いセメントの使用量を減らし、セメントの代替材料としてCO2排出量が少ない混和材(結合材)を使用するようにした。このように、セメントの使用量を極力減らすことで、コンクリート製造時のCO2の排出量を削減することが可能となる。しかしながら、セメントの使用量が少なくなることによってコンクリートの強度が低下する虞がある。そこで、本実施の形態では以下に示すように、CO2を極力低減しつつ適切な強度を備えた材料構成のコンクリートの開発を行った。
【0017】
表1は、比較例に係るコンクリートの各種データを示した表である。
【0018】
表1には、No.1からNo.4までの4個のサンプルが表されている。なお、No.2とNo.3のサンプルについては、σ28(標準養生28日圧縮強度)以外のデータが同じであるのに、σ28の値が異なっているが、これは、データ取得時期が異なるためである。
【0019】
比較例に係るコンクリートは、水(W)、結合材としてのセメント(普通ポルトランドセメント(C(N)))及び高炉スラグ微粉末(BS)、骨材としての細骨材(S1、S2)及び粗骨材(G1、G2)、混和剤を有している。そして、水(W)、普通ポルトランドセメント(C(N))、高炉スラグ微粉末(BS)、細骨材(S1、S2)、粗骨材(G1、G2)の単位量(kg/m3)が、表に記されている。
【0020】
また、細骨材S1、細骨材S2とあるのは、2種類の細骨材が混合されていることを意味する。細骨材S1、細骨材S2がどの種類の細骨材であるかについては、注)に記載されている。例えば、No.1のサンプルにおいては、細骨材S1が山砂であり、細骨材S2が石灰砕砂である。
【0021】
なお、サンプルNo.2及びNo.3においては、細骨材S1のみであり、細骨材S2が存在しない。しかしながら、細骨材S1が、山砂+石灰砕砂となっていることからも分かるように、これらのサンプルにおいても、細骨材として山砂と石灰砕砂が混合されたものを使用している。これらのサンプルにおいては、予め山砂と石灰砕砂が混合されたもの(混合砂)を用いている関係上、山砂、石灰砕砂の個別の単位量を取得できないため、当該混合砂を細骨材S1として記している。一方で、他のサンプルにおいては、細骨材S1と細骨材S2を各々準備し、それぞれの単位量を測ってから現場で混合している。
【0022】
いずれにせよ、どのサンプルにおいても、山砂と石灰砕砂とを混合したものを細骨材として用いている。なお、山砂は天然骨材の一例であり、石灰砕砂はコンクリート用砕砂の一例である。そのため、どのサンプルにおいても、天然骨材とコンクリート用砕砂とを混合したものを細骨材として用いていると言える。
【0023】
同様に、粗骨材G1、粗骨材G2とあるのは、2種類の粗骨材が混合されていることを意味する。粗骨材G1、粗骨材G2がどの種類の粗骨材であるかについては、注)に記載されている。例えば、No.4のサンプルにおいては、粗骨材G1が硬質砂岩砕石であり、粗骨材G2が石灰砕石である。
【0024】
なお、サンプルNo.2及びNo.3においては、粗骨材G1、粗骨材G2の双方とも石灰砕石となっているが、これは産地が異なる2種類の石灰砕石を混合して用いているため、各々の石灰砕石を粗骨材G1、粗骨材G2として記している。
【0025】
いずれにせよ、どのサンプルにおいても、石灰砕石か、石灰砕石と硬質砂岩砕石とを混合したものを粗骨材として用いている。なお、石灰砕石も硬質砂岩砕石もコンクリート用砕石の一例であるため、どのサンプルにおいても、コンクリート用砕石を粗骨材として用いていると言える。
【0026】
また、比較例に係るコンクリートにおいては、混和剤(化学混和剤)として、AE減水剤が用いられている。表1には、AEと記している。
【0027】
また、W/Bは、水結合材比(単位はパーセント)を表している。水結合材比は、水の結合材(セメント及び高炉スラグ微粉末)に対する重量比である。また、σ28(単位はN/mm2)は、標準養生28日圧縮強度を表している。標準養生28日圧縮強度試験においては、φ100*200mmの供試体を作成して水中養生後、JIS A 1108(BS EN 206)に準じて材齢28日の20℃の圧縮強度を測定する。
【0028】
表2A乃至表2Dは、本件例に係るコンクリートの各種データを示した表である。
【0029】
表2Aには、No.1からNo. 22までの22個のサンプルが表されている。表2Bには、No. 23からNo.38までの16個のサンプルが表されている。表2Cには、No.39からNo.42までの4個のサンプルが表されている。表2Dには、No.43からNo.44までの2個のサンプルが表されている。
【0030】
本件例に係るコンクリートは、水(W)、結合材としてのセメント(C)、高炉スラグ微粉末(BS)及びシリカフューム(SF)、骨材としての細骨材(S)及び粗骨材(G)、混和剤を有している。そして、水(W)、セメント(C)、高炉スラグ微粉末(BS)、シリカフューム(SF)、細骨材(S)、粗骨材(G)の単位量(kg/m3)が、表に記されている。
【0031】
また、本件例の表2A、表2C、表2Dに示したサンプルにおいては、普通ポルトランドセメント(C(N))をセメント(C)として用いている。一方で、表2Bに示したNo.23〜No.30のサンプルにおいては、中庸熱ポルトランドセメントC(M)をセメント(C)として用いており、表2Bに示したNo.31〜No.38のサンプルにおいては、早強ポルトランドセメントC(H)をセメント(C)として用いている。
【0032】
また、表には、セメント(C)と高炉スラグ微粉末(BS)とシリカフューム(SF)の混合割合が表されている。ただし、シリカフューム(SF)については、幾つかのサンプルで0%(つまり、使用されていない)となっている。
【0033】
また、本件例においては、セメント(C)のセメント(C)以外の結合材(高炉スラグ微粉末(BS)及びシリカフューム(SF))に対する比を3対7としている。さらに、セメント(C)以外の結合材7割のうち、高炉スラグ微粉末(BS)は5〜7割、シリカフューム(SF)は0〜2割となっている。すなわち、本件例においては、セメントを30重量部、高炉スラグ微粉末を50〜70重量部、シリカフュームを0〜20重量部として、結合材を100重量部としている。
【0034】
また、W/Bは、比較例と同様、水結合材比(単位はパーセント)を表している。水結合材比は、水の結合材(セメント、高炉スラグ微粉末、及び、(含有されていれば)シリカフューム)に対する重量比である。また、σ28(単位はN/mm2)は、比較例と同様、標準養生28日圧縮強度を表している。
【0035】
ここで、比較例に係るコンクリートと本件例に係るコンクリートの相違点について説明すると、本件例に係るコンクリートの方が比較例に係るコンクリートよりもセメントの単位量の値が大きくなっている。つまり、比較例のセメントの単位量が79〜81kg/m3であるのに対し、本件例のセメントの単位量は113〜300kg/m3となっている。
【0036】
また、本件例に係るコンクリートの方が比較例に係るコンクリートよりも水結合材比の値が小さくなっている。つまり、比較例の水結合材比が55%であるのに対し、本件例の水結合材比は15〜44%となっている。
【0037】
また、本件例においては、硬質砂岩砕砂(茨城県桜川産)又は陸砂(千葉県木更津産)を細骨材として用いている。すなわち、表2Cに示したサンプルにおいては陸砂を使用し、それ以外のサンプルにおいては硬質砂岩砕砂を使用している。なお、陸砂は天然骨材の一例であり、硬質砂岩砕砂はコンクリート用砕砂の一例である。そのため、本件例においては、天然骨材又はコンクリート用砕砂を細骨材として用いていると言える。
【0038】
また、本件例においては、硬質砂岩砕石を粗骨材として用いているが、サンプルに応じて、その産地と最大寸法とを変えている。すなわち、表2A及び表2Bに示したサンプルにおいては、茨城県桜川産の20mmの硬質砂岩砕石を使用している。これに対し、表2Cに示したサンプルにおいては、東京都青梅産の20mmの硬質砂岩砕石を使用し、表2Dに示したサンプルにおいては、茨城県桜川産の13mmの硬質砂岩砕石を使用している。なお、硬質砂岩砕石はコンクリート用砕石の一例であるため、どのサンプルにおいても、コンクリート用砕石を粗骨材として用いていると言える。
【0039】
また、本件例に係るコンクリートにおいては、混和剤(化学混和剤)として、高性能減水剤、高性能AE減水剤のいずれかが用いられている。表においては、高性能減水剤を使用した場合にSP1と、高性能AE減水剤を使用した場合にSP2と記している。
【0040】
本件例及び比較例の双方において、水(W)、結合材としてのセメント(C)、高炉スラグ微粉末(BS)、シリカフューム(SF)、骨材としての細骨材(S、S1、S2)及び粗骨材(G、G1、G2)、混和剤を用いてコンクリートを製造する前に、表に記載された各単位量、水結合材比のデータを取得した。そして、コンクリートを製造し、標準養生28日圧縮強度試験を実施することにより、表に記載された標準養生28日圧縮強度データを取得した。
【0041】
そして、表から明らかなように、本件例に係るコンクリートの方が、比較例に係るコンクリートよりも、高い圧縮強度を備えている。つまり、比較例の標準養生28日圧縮強度が28.1〜29.8N/mm2であるのに対し、本件例の標準養生28日圧縮強度は43.6〜144.7N/mm2となっている。
【0042】
このように、本件例に係るセメント組成物(コンクリート)によれば、セメント組成物(コンクリート)の強度を向上させることが可能となる。
【0043】
===その他の実施形態について===
上記の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることは言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0044】
上記実施の形態においては、結合材としてセメント、高炉スラグ微粉末、及び、シリカフュームを例に挙げたが、他の材料が含まれている場合であってもよい。例えば、フライアッシュをさらに含む結合材を排除するものではない。
【0045】
また、上記実施の形態においては、混和剤(化学混和剤)として高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤を例に挙げたが、これに限定されるものではない。例えば、減水剤の使用を排除するものではない。