特許第6772475号(P6772475)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

特許6772475電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法
<>
  • 特許6772475-電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法 図000002
  • 特許6772475-電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法 図000003
  • 特許6772475-電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法 図000004
  • 特許6772475-電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法 図000005
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772475
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/06 20060101AFI20201012BHJP
   F16D 27/112 20060101ALI20201012BHJP
   F16D 55/00 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   F16D48/06 101E
   F16D27/112 Z
   F16D27/112 D
   F16D55/00 A
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-24606(P2016-24606)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-141928(P2017-141928A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】高井 智義
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】竹内 義揮
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−014134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 48/06
F16D 27/112
F16D 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の供給を受けて磁力を発生させる電磁コイルと、前記磁力によって軸方向に移動する移動部材と、前記移動部材の移動によって、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を抑制する摩擦力を発生する摩擦部材と、前記移動部材を前記磁力による移動方向とは逆方向に付勢する弾性部材とを有する電磁摩擦係合装置の制御装置であって、
前記電磁コイルに電流を出力する電流出力部、及び前記電流出力部から前記電磁コイルに出力される電流を制御する制御部を備え、
前記制御部は、
前記摩擦部材で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、前記指令電流値の電流を前記電流出力部から出力させる指令電流出力制御手段と、
前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を一時的に前記電流出力部から出力させる起動時制御を行う起動時制御手段とを有
前記起動時制御手段は、前記移動部材の前記摩擦部材側への移動が完了して前記摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間にわたって前記作動電流値以上の電流を前記電流出力部から出力させる、
電磁摩擦係合装置の制御装置。
【請求項2】
電流の供給を受けて磁力を発生させる電磁コイルと、前記磁力によって軸方向に移動する移動部材と、前記移動部材の移動によって、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を抑制する摩擦力を発生する摩擦部材と、前記移動部材を前記磁力による移動方向とは逆方向に付勢する弾性部材とを有する電磁摩擦係合装置の制御方法であって、
前記摩擦部材で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を一時的に前記電磁コイルに供給
前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を、前記移動部材の前記摩擦部材側への移動が完了して前記摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間にわたって前記電磁コイルに供給する、
電磁摩擦係合装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を摩擦力により抑制することが可能な電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、相対回転可能に配置された第1部材及び第2部材を有し、電磁力によってアーマチャが軸方向に移動することで、第1部材と第2部材とが摩擦力によって連結される電磁摩擦係合装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、相対回転可能に配置されたフロントハウジングとインナシャフトとを摩擦力によってトルク伝達可能に連結するカップリング装置が記載されている。このカップリング装置は、フロントハウジングとインナシャフトとの間に配置されたメインクラッチと、メインクラッチを押圧するカム機構と、カム機構を作動させるパイロットクラッチと、パイロットクラッチを押圧する押圧力を発生させる電磁石及びアーマチャとを有している。メインクラッチ及びパイロットクラッチは、それぞれ複数のクラッチプレートを有し、クラッチプレート同士の摩擦摺動が潤滑油によって潤滑される。
【0004】
カム機構は、インナシャフトに回転自在に支承されたパイロットカムと、インナシャフトと一体回転可能かつ軸方向に移動可能に設けられたメインカムと、パイロットカムとメインカムとの間に介在されたボール部材とを備えている。パイロットカム及びメインカムには、周方向に対して傾斜したカム溝が対向して形成され、ボール部材がこれらのカム溝を転動することで、メインカムがパイロットカムから軸方向に離間し、メインクラッチを押圧するカム推力が発生する。パイロットクラッチは、フロントハウジングと共に回転するアウタクラッチプレート、及びパイロットカムと共に回転するインナクラッチプレートを有している。
【0005】
電磁石に通電されると、その磁力によって吸引されたアーマチャがパイロットクラッチを押圧し、フロントハウジングのトルクの一部がパイロットカムに伝達される。これにより、パイロットカムがメインカムに対して相対回転し、ボール部材がカム溝を転動する。インナクラッチプレートには、潤滑油を内周端から径方向外側に導く複数の油溝が形成されており、フロントハウジングとインナシャフトとの差動回転速度が大きくなると、油溝によって導かれた潤滑油の動圧により、アウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとが離間する。すなわち、特許文献1に記載のものでは、フロントハウジング及びインナシャフトの回転によって発生する潤滑油の動圧によって、電磁石に通電されない非作動状態におけるインナクラッチプレートとアウタクラッチプレートとの間隔が広がり、潤滑油の粘性に起因する引き摺りトルクが抑制される。
【0006】
また、特許文献1のものは、アウタクラッチプレートとインナクラッチプレートの間に所定間隔以上の隙間があると判定される場合、アーマチャを吸引する際に電磁石に供給する電流を大きくし、アーマチャの移動速度を高めるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−14134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載のものでは、フロントハウジングとインナシャフトとの差動回転速度が大きくならなければ、パイロットクラッチのアウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとを離間させる潤滑油の動圧が十分に得られない。このため、フロントハウジングとインナシャフトとの差動回転速度が比較的小さい場合には、パイロットクラッチに引き摺りトルクが発生してしまい、この引き摺りトルクによってカム機構が作動してしまうおそれがある。
【0009】
また、この問題を解決するために、例えばアーマチャをバネ等の弾性体によって電磁石とは反対側に付勢するように構成した場合には、電磁石の磁力が弾性体による付勢力を上回らない限りパイロットクラッチによるトルク伝達がなされないので、フロントハウジングとインナシャフトとの間で小さなトルクを伝達させることができなくなってしまう。すなわち、パイロットクラッチにおける摩擦力の制御性が低下してしまう。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、摩擦力の制御性を維持しながら、引き摺りトルクを抑制することが可能な電磁摩擦係合装置の制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の目的を達成するため、電流の供給を受けて磁力を発生させる電磁コイルと、前記磁力によって軸方向に移動する移動部材と、前記移動部材の移動によって、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を抑制する摩擦力を発生する摩擦部材と、前記移動部材を前記磁力による移動方向とは逆方向に付勢する弾性部材とを有する電磁摩擦係合装置の制御装置であって、前記電磁コイルに電流を出力する電流出力部、及び前記電流出力部から前記電磁コイルに出力される電流を制御する制御部を備え、前記制御部は、前記摩擦部材で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、前記指令電流値の電流を前記電流出力部から出力させる指令電流出力制御手段と、前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を一時的に前記電流出力部から出力させる起動時制御を行う起動時制御手段とを有前記起動時制御手段は、前記移動部材の前記摩擦部材側への移動が完了して前記摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間にわたって前記作動電流値以上の電流を前記電流出力部から出力させる、電磁摩擦係合装置の制御装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記の目的を達成するため、電流の供給を受けて磁力を発生させる電磁コイルと、前記磁力によって軸方向に移動する移動部材と、前記移動部材の移動によって、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を抑制する摩擦力を発生する摩擦部材と、前記移動部材を前記磁力による移動方向とは逆方向に付勢する弾性部材とを有する電磁摩擦係合装置の制御方法であって、前記摩擦部材で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を一時的に前記電磁コイルに供給前記指令電流値が、前記弾性部材による付勢力に抗して前記移動部材を前記摩擦部材側に移動させることが可能な作動電流値よりも小さいとき、前記作動電流値以上の電流を、前記移動部材の前記摩擦部材側への移動が完了して前記摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間にわたって前記電磁コイルに供給する、電磁摩擦係合装置の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、相対回転可能に配置された第1部材と第2部材との差動を摩擦力により抑制することが可能な電磁摩擦係合装置において、発生する摩擦力の制御性を維持しながら、引き摺りトルクを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る電磁摩擦係合装置としての電磁クラッチ装置、及び電磁クラッチ装置を制御する制御装置の構成例を示す概略構成図である。
図2】(a)は電磁コイルに供給される電流と摩擦力との関係を示すグラフであり、(b)は電磁コイルに供給される電流の電流パターンの一例を示すグラフである。
図3】制御部が実行する処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】(a)及び(b)は、電磁クラッチ装置が非作動状態から作動状態に移行する起動時における電磁コイルに供給される励磁電流、及びコイルハウジングとアーマチャとの間に発生する摩擦力の時間的な変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施の形態]
本発明の実施の形態について、図1乃至図4を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態に係る電磁摩擦係合装置としての電磁クラッチ装置、及び電磁クラッチ装置を制御する制御装置の構成例を示す概略構成図である。
【0017】
(電磁クラッチ装置の構成)
電磁クラッチ装置2は、例えば車両の駆動源の出力軸の回転を変速する自動変速機等の車載装置のケース部材10に対し、ケース部材10内に配置された回転部材11の回転を制動するために用いられる。ケース部材10の内部において、電磁クラッチ装置2の周辺には図略の潤滑油が貯留され、電磁クラッチ装置2は、油潤滑環境下で使用される。
【0018】
ケース部材10には、回転部材11の一端部を収容する凹部100が設けられ、この凹部100の内周面と回転部材11の外周面との間に、回転部材11を支持する玉軸受12が配置されている。この構成により、回転部材11は、ケース部材10に対して相対回転可能である。ケース部材10は、本発明の「第1部材」の一態様であり、回転部材11は、本発明の「第2部材」の一態様である。
【0019】
電磁クラッチ装置2は、制御装置3から供給される電流によって制御され、制御装置3から電流が供給されたとき、ケース部材10に対する回転部材11の差動を抑制する。すなわち、本実施の形態では、電磁クラッチ装置2が、電磁ブレーキとして機能する。電磁クラッチ装置2が発生させる差動制限力(制動力)は、制御装置3から供給される電流に応じて増減する。
【0020】
図1では、電磁クラッチ装置2を、回転部材11の回転軸線Oを含む断面で示している。また、図1では、回転軸線Oよりも上側に制御装置3から電流が供給された作動状態を示し、回転軸線Oよりも下側に制御装置3から電流が供給されない非作動状態を示している。以下、回転軸線Oと平行な方向を軸方向という。
【0021】
電磁クラッチ装置2は、制御装置3から電流の供給を受けて磁力を発生させる電磁コイル20と、電磁コイル20への通電により発生する磁力によって軸方向に移動する移動部材としてのアーマチャ21と、電磁コイル20を保持するコイルハウジング22と、アーマチャ21を磁力による移動方向とは逆方向に付勢する弾性部材としての皿バネ23とを、主たる構成部材として備えている。アーマチャ21とコイルハウジング22とは、軸方向に並置されている。
【0022】
コイルハウジング22は、炭素鋼等の軟磁性体からなり、アーマチャ21と共に磁気回路を構成する環状のヨーク部221と、ヨーク部221の内周面から回転部材11に向かって延出された延出部222とを一体に有している。ヨーク部221は、ボルト13によってケース部材10に固定されている。また、ヨーク部221には、電磁コイル20を収容する環状凹部220が周方向に沿って形成されている。環状凹部220は、アーマチャ21側に向かって軸方向に開口している。電磁コイル20は、環状凹部220の内部において、止め輪24によって抜け止めされている。
【0023】
コイルハウジング22の延出部222とアーマチャ21との間には、皿バネ23及びスラストころ軸受25が配置されている。皿バネ23は、中心部に回転部材11を挿通させる環状であり、軸方向の一端がアーマチャ21に当接し、他端がスラストころ軸受25に当接している。また、皿バネ23は、軸方向に圧縮された状態でスラストころ軸受25とアーマチャ21との間に配置され、アーマチャ21をコイルハウジング22から軸方向に離間させるように付勢している。なお、皿バネ23に替えて、コイルスプリングやウェーブワッシャ、あるいはゴム成形体を弾性部材として用いてもよい。
【0024】
アーマチャ21は、炭素鋼等の軟磁性体からなり、中心部に回転部材11を挿通させる環板状の部材である。アーマチャ21は、回転部材11のストレートスプライン嵌合部110に嵌合するストレートスプライン嵌合部210を内周端部に有し、回転部材11に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能に連結されている。コイルハウジング22から離間する方向へのアーマチャ21の移動は、回転部材11に固定されたストッパ部材14により規制されている。本実施の形態では、ストッパ部材14が、回転部材11のストレートスプライン嵌合部110に設けられた切り欠きに嵌着されている。
【0025】
アーマチャ21は、電磁コイル20に通電されていないとき、皿バネ23の付勢力によってストッパ部材14に当接する第1位置(初期位置)にある。アーマチャ21は、所定値以上の電流が電磁コイル20に供給されると、コイルハウジング22に当接する第2位置に移動する。この所定値は、皿バネ23による付勢力に抗してアーマチャ21をコイルハウジング22側に移動させることが可能な電流値、すなわちアーマチャ21をストッパ部材14から離間させてコイルハウジング22側に吸引可能な磁力が発生する電流値である。以下、この電流値を作動電流値という。
【0026】
コイルハウジング22のヨーク部221におけるアーマチャ21側の側面は、環状凹部220よりも外側の外側摩擦面221a、及び環状凹部220よりも内側の内側摩擦面221bによって形成されている。同様に、アーマチャ21におけるヨーク部221側の側面には、ヨーク部221の外側摩擦面21aに対向する外側摩擦面21a、及びヨーク部221の内側摩擦面221bに対向する内側摩擦面21bが形成されている。
【0027】
アーマチャ21が第1位置にあるとき、コイルハウジング22の外側摩擦面221aとアーマチャ21の外側摩擦面21aとの間、及びコイルハウジング22の内側摩擦面221bとアーマチャ21の内側摩擦面21bとの間には、軸方向の幅寸法がwの隙間gが形成される。電磁コイル20に電流が供給されない非作動時における隙間gの幅寸法wは、アーマチャ21とコイルハウジング22との間に介在する潤滑油の粘性による引き摺りトルクが実質的に問題ない大きさになる寸法に設定されている。
【0028】
アーマチャ21が電磁コイル20への通電により発生する磁力によって第2位置に移動すると、コイルハウジング22のヨーク部221における外側摩擦面221a及び内側摩擦面221bが、アーマチャ21の外側摩擦面21a及び内側摩擦面21bにそれぞれ摩擦接触し、摩擦力が発生する。この摩擦力は、ケース部材10に対する回転部材11の回転を制動する差動制限力となる。すなわち、コイルハウジング22は、アーマチャ21の第2位置への移動によって、ケース部材10に対する回転部材11の差動を抑制する摩擦力を発生する摩擦部材として機能する。
【0029】
電磁コイル20に通電されると、図1に破線で示す磁路Gに磁束が発生する。この磁路Gは、コイルハウジング22のヨーク部221における外側摩擦面221a及び内側摩擦面221b、ならびにアーマチャ21における外側摩擦面21a及び内側摩擦面21bを通過する。
【0030】
(制御装置の構成)
制御装置3は、電線200を介して電磁コイル20に電流を出力する電流出力部31、及び電流出力部31から電磁コイル20に出力される電流を制御する制御部32を備えている。電流出力部31は、半導体スイッチング素子を備え、直流定圧電源(例えば車両に搭載されたバッテリー)4から供給される直流電流を半導体スイッチング素子によりスイッチングして出力する。制御部32は、この半導体スイッチング素子をPWM(Pulse Width Modulation)制御することで、電磁コイル20に出力される電流を調節可能である。
【0031】
制御部32は、CPU(演算処理装置)及び記憶素子等の周辺回路を備え、記憶素子に記憶されたプログラムをCPUが実行することによってその機能が実現される。このCPUは、指令電流出力制御手段321及び起動時制御手段322として機能する。すなわち、制御部32は、指令電流出力制御手段321及び起動時制御手段322を有している。
【0032】
CPUは、指令電流出力制御手段321として、コイルハウジング22で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、この指令電流値の電流を電流出力部31から出力させる。また、CPUは、指令電流出力制御手段321として、例えば車速や駆動源の出力軸の回転速度あるいは車両の運転者による運転操作状況等に応じて、コイルハウジング22で発生すべき摩擦力に応じた指令電流値を演算し、指令電流値に応じたスイッチング信号(PWM信号)を電流出力部31に出力する。
【0033】
またさらに、CPUは、起動時制御手段322として、指令電流値が作動電流値よりも小さいとき、作動電流値以上の電流を一時的に電流出力部31から出力させる起動時制御を行う。作動電流値は、予め実験等により定められ、記憶素子に記憶されている。また、CPUは、起動時制御手段322として、アーマチャ21のコイルハウジング22側への移動が完了して摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間にわたって、作動電流値以上の電流を電流出力部31から出力させる。この時間は、例えば1秒である。
【0034】
図2(a)は、図2(b)に示す電流パターンの励磁電流を電流出力部31から電磁コイル20に供給した場合の、励磁電流と摩擦力(コイルハウジング22とアーマチャ21との間に発生する摩擦抵抗力)との関係を示すグラフである。
【0035】
図2(b)に示すグラフの前半部分に示すように、時間と共に電磁コイル20に供給する励磁電流を一定の割合で増加させた場合、摩擦力は、図2(a)において矢印Aで示すように、励磁電流が作動電流値Iとなったときに急激に立ち上がり、その後は励磁電流の増加と共に増大する。これは、電磁コイル20に供給する電流をゼロから増加させる際には、アーマチャ21が第2位置に移動するまではコイルハウジング22とアーマチャ21との間に摩擦力が発生せず、アーマチャ21が第2位置に移動したときに、急激に摩擦力が発生するためである。
【0036】
また、図2(b)に示すグラフの後半部分に示すように、時間と共に電磁コイル20に供給する電流を一定の割合で減少させた場合、摩擦力は、図2(a)において矢印Aで示すように、励磁電流がゼロ付近となるまで、励磁電流と共に徐々に小さくなる。これは、アーマチャ21が第2位置にある場合には、磁路Gが隙間gを含まないため磁路Gの磁気抵抗が小さく、電磁コイル20に供給される電流が作動電流値Iを下回っても、コイルハウジング22のヨーク部221における外側摩擦面221a及び内側摩擦面221bにアーマチャ21の外側摩擦面21a及び内側摩擦面21bがそれぞれ接触した状態が維持されることによる。
【0037】
つまり、電磁コイル20に供給する電流をゼロから増大させる際には、コイルハウジング22とアーマチャ21との間に発生する摩擦力を、作動電流値Iに対応する摩擦力F以下に調節することができないが、アーマチャ21が磁力によってコイルハウジング22に吸着されている状態では、コイルハウジング22とアーマチャ21との間に発生する摩擦力を摩擦力F以下に調節することができる。制御装置3は、この原理を利用して、演算した指令電流値が作動電流値よりも小さいとき、作動電流値以上の電流を一時的に電磁コイル20に供給し、その状態で所定時間が経過した後に、指令電流値の電流を電磁コイル20に供給する。
【0038】
図3は、電磁クラッチ装置2の起動時において、制御部32が実行する処理の手順の一例を示すフローチャートである。制御部32は、車両の走行状態等の諸条件に応じて指令電流値を演算し(ステップS1)、次にステップS1で演算した指令電流値が作動電流値以上か否かを判定する(ステップS2)。この判定の結果、指令電流値が作動電流値以上であれば(S2:Yes)、指令電流値に応じたスイッチング信号を電流出力部31に出力する(ステップS3)。これにより、電流出力部31から指令電流値の励磁電流が電磁コイル20に出力される。これらの処理は、制御部32のCPUが指令電流出力制御手段321として実行する処理である。
【0039】
一方、制御部32は、ステップS2の判定の結果、指令電流値が作動電流値未満であれば(S2:No)、作動電流値以上の電流を電磁コイル20に供給すべく、電流出力部31にスイッチング信号を出力する(ステップS4)。このスイッチング信号は、PWM制御のデューティー比が、ステップS1で演算した指令電流値に応じたスイッチング信号のデューティー比よりも高いものである。そして、その状態を所定時間が経過するまで継続する(ステップS5)。これらの処理は、制御部32のCPUが起動時制御手段322として実行する処理である。
【0040】
ステップS5における所定時間は、アーマチャ21のコイルハウジング22側への移動が完了して摩擦力が発生するのに必要な時間以上の時間となるように、予め実験等により定められている。この所定時間の経過後には、ステップS3の処理より、指令電流値に応じたスイッチング信号を電流出力部31に出力する。
【0041】
図4(a)及び(b)は、電磁クラッチ装置2が非作動状態から作動状態に移行する起動時における電磁コイル20に供給される励磁電流、及びコイルハウジング22とアーマチャ21との間に発生する摩擦力の時間的な変化の一例を示すグラフである。図4(a)及び(b)では、指令電流値Iが作動電流値I未満である場合の動作例を示している。
【0042】
時刻tで電磁コイル20に供給される励磁電流が立ち上がると、励磁電流が作動電流値Iとなる時刻t以降、アーマチャ21が磁力によって第1位置から第2位置に移動し、コイルハウジング22に当接する。これにより、コイルハウジング22とアーマチャ21との間の摩擦力が立ち上がる。その後、励磁電流の電流値は、時刻tまでの間、作動電流値Iよりも高い値に保たれ、さらにその後、時刻tにおいて指令電流値Iとなる。これにより、電磁クラッチ装置2の起動時において、指令電流値Iが作動電流値I未満である場合でも、指令電流値Iに応じた摩擦力Fを発生させることができる。なお、励磁電流は、電磁コイル20のリアクタンスにより、スイッチング信号のデューティー比の変化に対してやや遅れて変化する。
【0043】
(実施の形態の効果)
以上説明した実施の形態によれば、電磁コイル20に電流が供給されない非作動状態において、皿バネ23の付勢力によってアーマチャ21がコイルハウジング22から離間するので、引き摺りトルクが抑制される。また、制御部32で演算された指令電流値が作動電流値より小さいとき、作動電流値以上の電流が所定時間にわたって電磁コイル20に出力され、これによりアーマチャ21がコイルハウジング22に当接するので、コイルハウジング22とアーマチャ21との間に指令電流値に応じた摩擦力が発生する。すなわち、本実施の形態によれば、発生する摩擦力の制御性を維持しながら、引き摺りトルクを抑制することが可能となる。
【0044】
(付記)
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。例えば、上記実施の形態では、アーマチャ21が直接コイルハウジング22に摩擦接触し、摩擦力を発生させる場合について説明したが、これに限らず、アーマチャ21とコイルハウジング22との間に、ケース部材10との相対回転が規制されたクラッチプレートを介在させてもよい。この場合、クラッチプレートが本発明の「摩擦部材」に相当する。またさらに、アーマチャ21とコイルハウジング22との間に、回転部材11との相対回転が規制されたクラッチプレートを介在させてもよい。この場合、「摩擦部材」に相当するクラッチプレート同士の間で、回転部材11の回転を制動する摩擦力が発生する。
【0045】
また、上記実施の形態では、本発明の「第1部材」に相当するケース部材10が非回転部材である場合について説明したが、これに限らず、「第1部材」及び「第2部材」が相対回転可能な回転部材である摩擦係合装置の制御装置ならびに制御方法に本発明を適用することも可能である。この場合、「第1部材」と「第2部材」との間で伝達されるトルクが摩擦力に応じて変化する。
【符号の説明】
【0046】
10…ケース部材(第1部材) 11…回転部材(第2部材)
2…電磁クラッチ装置(電磁摩擦係合装置) 20…電磁コイル
21…アーマチャ(移動部材) 22…コイルハウジング(摩擦部材)
23…皿バネ(弾性部材) 3…制御装置
31…電流出力部 32…制御部
321…指令電流出力制御手段 322…起動時制御手段
図1
図2
図3
図4