【文献】
UCHIDA,Haruhisa and FROMM,Eckehard,Reaction Kinetics of Hydrogen and Oxygen Absorption of Titanium Films,Journal of Advanced Science,日本,1990年 9月20日,Volume 2、No.3,P153-P158
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、高い絶縁破壊電界を有し、低損失パワーデバイスに最適な半導体材料として近年注目されている。炭化珪素を用いた半導体基板(以下、炭化珪素基板とする)上には熱酸化により酸化膜(SiO
2膜)を形成することができるため、熱酸化により形成した酸化膜をゲート絶縁膜として用いたパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:絶縁ゲート型電界効果トランジスタ)の開発が進められている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0003】
熱酸化による酸化膜と炭化珪素基板との界面(以下、SiO
2/SiC界面とする)では界面準位密度(Dit:Interface State Density)が高く、チャンネル移動度が低下してオン抵抗が大きくなる。このため、近年、亜酸化窒素(N
2O)ガス雰囲気や一酸化窒素(NO)ガス雰囲気での熱酸化により炭化珪素基板上に酸化膜を形成することで、SiO
2/SiC界面の界面準位密度Ditを低減させる方法が開発されている。
【0004】
ゲート絶縁膜となる酸化膜を亜酸化窒素や一酸化窒素を含むガス雰囲気での熱酸化で形成することにより、SiO
2/SiC界面の界面準位密度Ditを2×10
12cm
-2・eV
-1以下とすることができ、高チャンネル移動度を実現可能である。このため、炭化珪素を用いたMOSFET(以下、SiC−MOSFETとする)において、良質な酸化膜をゲート絶縁膜とするMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を形成することができる。
【0005】
従来の炭化珪素半導体装置の製造方法について、プレーナゲート構造のSiC−縦型MOSFETを例に説明する。
図5は、従来の炭化珪素半導体装置の製造方法により製造された炭化珪素半導体装置の一例を示す断面図である。まず、n
+型ドレイン領域となるn
+型炭化珪素基板101のおもて面上に、n
-型ドリフト領域102となるn
-型炭化珪素層121をエピタキシャル成長させる。次に、p型不純物のイオン注入により、n
-型炭化珪素層121の表面層にp型ベース領域103を選択的に形成する。
【0006】
次に、n
-型炭化珪素層121上に、p
-型ベース領域104となるp
-型炭化珪素層122をエピタキシャル成長させる。ここまでの工程で、n
+型炭化珪素基板101および炭化珪素層121,122からなる炭化珪素基体120が形成される。次に、イオン注入により、p
-型炭化珪素層122を深さ方向に貫通するn型領域107を選択的に形成する。次に、イオン注入により、p
-型炭化珪素層122の内部に、n
+型ソース領域106およびp
+型コンタクト領域105をそれぞれ選択的に形成する。
【0007】
次に、イオン注入により形成した各領域を活性化するための熱処理(以下、活性化アニールとする)を行う。次に、亜酸化窒素雰囲気中での熱酸化によりゲート絶縁膜108を形成する。次に、ゲート絶縁膜108上に、ゲート電極109となるポリシリコン(poly−Si)層を形成する。次に、ポリシリコン層をパターニングし、p
-型ベース領域104の、n
+型ソース領域106とn型領域107とに挟まれた部分からn型領域107までを覆う部分を残す。次に、ゲート電極109を覆うように層間絶縁膜110を形成する。
【0008】
次に、p
+型コンタクト領域105およびn
+型ソース領域106に接するソースコンタクト部(電気的接触部)111となるニッケルシリサイド膜を形成し、炭化珪素部とソースコンタクト部111とをオーミック接触させる。次に、基体おもて面全面に、ソースコンタクト部111に接するソース電極となるアルミニウム配線層112を5μmの厚さに形成する。次に、アルミニウム配線層112上にパッシベーション保護膜113となるポリイミド層を形成し硬化(キュア)する。その後、炭化珪素基体120の裏面にドレイン電極114を形成することで、
図5に示すSiC−MOSFETが完成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
SiC−MOSFETの実用化には、SiC−MOSFETの信頼性を確保することが求められるが、信頼性試験での検証によりゲート電極に負電圧を印加したときにゲート閾値電圧(Vth)が大きく変動することが知られている。この問題を解消する方法として、上記特許文献1には、ソースコンタクト部とアルミニウム配線層との間にチタン(Ti)膜を配置した構造が開示されている。しかしながら、上記特許文献1では、動作条件によってはゲート閾値電圧が大きく変動するという問題がある。
【0011】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、安定した電気的特性を有する炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、次の特徴を有する。炭化珪素部に接する二酸化珪素膜をゲート絶縁膜と
し、当該ゲート絶縁膜上にゲート電極を有する絶縁ゲート構造が設けられている。前記絶縁ゲート構造を覆う層間絶縁膜が設けられている。前記炭化珪素部にオーミック接触するコンタクト部が設けられている。前記層間絶縁膜および前記コンタクト部の表面
全体に
接して第1金属膜が設けられている。前記第1金属膜は、水素を吸蔵または遮蔽する。前記第1金属膜の表面に、金属電極層が設けられている。前記金属電極層は、前記炭化珪素部に電気的に接続されている。前記第1金属膜と前記金属電極層との間
の全体に、第2金属膜が設けられている。前記第1金属膜は、前記層間絶縁膜および前記コンタクト部の表面全体
に接して覆い、前記第1金属膜の厚さは、10nm以上1.0μm以下である。前記第2金属膜は、
前記第1金属膜が前記層間絶縁膜および前記コンタクト部の表面全体に介在することで前記コンタクト部と離して配置され、前記第2金属膜の厚さは、1nm以上100nm以下である。前記第1金属膜は、チタン膜であり、前記金属電極層は、アルミニウム層であり、前記第2金属膜は、チタンおよびアルミニウムを含む金属膜である。
【0014】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、
前記第2金属膜の厚さは、50nm以上100nm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記第1金属膜に吸蔵される水素分子濃度は、1×10
16/cm
2以上6×10
18/cm
2以下であることを特徴とする。
【0017】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、前記金属電極層の結晶粒径は、100nm以上であることを特徴とする。
【0019】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置は、上述した発明において、さらに次の特徴を有する。前記炭化珪素部は、炭化珪素からなる半導体基板と、第1導電型の炭化珪素からなる第1半導体領域、第2導電型の炭化珪素からなる第2半導体領域および第1導電型の第3半導体領域と、で構成される。前記第1半導体領域は、前記半導体基板のおもて面に設けられている。前記第1半導体領域は、前記半導体基板よりも不純物濃度が低い。前記第2半導体領域は、前記第1半導体領域の、前記半導体基板側に対して反対側に設けられている。前記第3半導体領域は、前記第2半導体領域の内部に選択的に設けられている。前記第2半導体領域の、前記第3半導体領域と前記第1半導体領域との間の領域に接して前記ゲート絶縁膜が設けられている。前記ゲート絶縁膜を挟んで前記第2半導体領域の反対側に、前記絶縁ゲート構造を構成するゲート電極が設けられている。前記第2半導体領域および前記第3半導体領域に電気的に接続された前記金属電極層からなる第1電極が設けられている。前記半導体基板の裏面に、第2電極が設けられている。
【0020】
また、上述した課題を解決し、本発明の目的を達成するため、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、次の特徴を有する。まず、炭化珪素部に接する二酸化珪素膜をゲート絶縁膜と
し、当該ゲート絶縁膜上にゲート電極を有する絶縁ゲート構造を形成する第1工程を行う。次に、前記絶縁ゲート構造を覆う層間絶縁膜を形成する第2工程を行う。次に、前記炭化珪素部にオーミック接触するコンタクト部を形成する第3工程を行う。次に、前記層間絶縁膜および前記コンタクト部の表面
全体に
接して、水素を吸蔵または遮蔽する第1金属膜を形成する第4工程を行う。次に、前記第1金属膜の表面
全体に、前記炭化珪素部に電気的に接続された金属電極層を形成する第5工程を行う。前記第5工程の後に行う450℃以下の温度での熱処理により前記第1金属膜と前記金属電極層とが反応して前記第1金属膜と前記金属電極層との間
の全体に生じる厚さが1nm以上100nm以下の第2金属膜と、前記層間絶縁膜および前記コンタクト部
の表面全体に前記第1金属膜を10nm以上1.0μm以下の厚さで残す。前記第1金属膜は、チタン膜であり、前記金属電極層は、アルミニウム層であり、前記第2金属膜は、チタンおよびアルミニウムを含む金属膜とする。
【0023】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記熱処理後に残る前記第1金属膜に吸蔵される水素分子濃度は1×10
16/cm
2以上6×10
18/cm
2以下であることを特徴とする。
【0024】
また、この発明にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法は、上述した発明において、前記熱処理の温度は
400℃以上450℃以下であることを特徴とする。
【0026】
上述した発明によれば、アルミニウム配線層中から発生する水素原子・水素イオンがチタン膜に吸蔵・遮断され、ゲート絶縁膜と炭化珪素部との界面に移動することを防止することができる。このため、正電圧印加時・負電圧印加時ともにゲート閾値電圧変動が抑制される。
【発明の効果】
【0027】
本発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法によれば、安定した電気的特性を有する炭化珪素半導体装置を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる炭化珪素半導体装置および炭化珪素半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。本明細書では、ミラー指数の表記において、“−”はその直後の指数につくバーを意味しており、指数の前に“−”を付けることで負の指数を表している。
【0030】
(実施の形態)
実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造についてプレーナゲート構造のSiC−縦型MOSFETを例に説明する。
図1は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
図1には、電流駆動を担う活性領域(オン状態のときに電流が流れる領域)の1つの単位セル(素子の機能単位)を示し、この単位セルに隣接するように配置された他の単位セルや、活性領域の周囲を囲むエッジ終端領域に配置された耐圧構造を図示省略する。エッジ終端領域は、n
-型ドリフト領域(第1半導体領域)2の基体おもて面側の電界を緩和し耐圧を保持する領域である。耐圧構造は、例えば、ガードリング、フィールドプレートまたはリサーフ等、もしくはこれらを組み合わせた構造を有していてもよい。
【0031】
図1に示す実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素基体(半導体チップ)20のおもて面側にプレーナゲート構造のMOSゲート構造を備えたSiC−MOSFETである。炭化珪素基体20は、n
+型ドレイン領域となるn
+型支持基板(n
+型炭化珪素基板)1のおもて面上にn
-型ドリフト領域2およびp
-型ベース領域(第2半導体領域)4となる各炭化珪素層21,22を順にエピタキシャル成長させてなる。n
-型ドリフト領域2となるn
-型炭化珪素層21の、基体おもて面側(n
+型炭化珪素基板1側に対して反対側)の表面層には、p型ベース領域3が選択的に設けられている。n
-型炭化珪素層21の、p型ベース領域3以外の部分がn
-型ドリフト領域2である。
【0032】
p
-型ベース領域4となるp
-型炭化珪素層22には、p
-型炭化珪素層22を深さ方向に貫通してn
-型ドリフト領域2に達するn型領域7が選択的に設けられている。すなわち、n型領域7は、n
-型ドリフト領域2の、隣り合うp型ベース領域3間に挟まれた部分に深さ方向に対向する。n型領域7は、JFET(Junction FET)領域であり、n
-型ドリフト領域2とともにドリフト領域として機能する。また、p
-型炭化珪素層22の内部には、深さ方向にp型ベース領域3に対向する部分に、n型領域7と離して、p
+型コンタクト領域5およびn
+型ソース領域(第3半導体領域)6がそれぞれ選択的に設けられている。
【0033】
p
+型コンタクト領域5は、n
+型ソース領域6の、n型領域7側に対して反対側に配置され、n
+型ソース領域6に接する。p
+型コンタクト領域5は、p
-型炭化珪素層22を深さ方向に貫通してp型ベース領域3に接していてもよい。p
-型炭化珪素層22の、p
+型コンタクト領域5、n
+型ソース領域6およびn型領域7以外の部分がp
-型ベース領域4である。p
-型ベース領域4の、n型領域7とn
+型ソース領域6とに挟まれた部分の表面上には、n型領域7上にわたって、ゲート絶縁膜8が設けられている。
【0034】
ゲート絶縁膜8は、炭化珪素基体20のおもて面(p
-型ベース領域4側の面)を熱酸化してなる二酸化珪素(SiO
2)膜である。ゲート絶縁膜8上には、ゲート電極9が設けられている。ゲート電極9は、ゲート電位Vgに固定されている。これらp型ベース領域3、p
-型ベース領域4、p
+型コンタクト領域5、n
+型ソース領域6、n型領域7、ゲート絶縁膜8およびゲート電極9でMOSゲート構造が構成される。
【0035】
層間絶縁膜10は、炭化珪素基体20のおもて面全面に設けられ、ゲート電極9を覆う。層間絶縁膜10を深さ方向に貫通するコンタクトホールには、p
+型コンタクト領域5およびn
+型ソース領域6に接するソースコンタクト部11が設けられている。ソースコンタクト部11は、例えばニッケル(Ni)をシリサイド化(NiSi)してなる金属膜であり、炭化珪素基体20とオーミック接触している。ソースコンタクト部11は、層間絶縁膜10によりゲート電極9と電気的に絶縁されている。
【0036】
ソースコンタクト部11上には、ソースコンタクト部11の表面全面にチタン(Ti)膜(第1金属膜)15が設けられている。チタン膜15は、層間絶縁膜10の表面およびコンタクトホールの側壁に沿って延在し、層間絶縁膜10の表面全面を覆う。チタン膜15は、層間絶縁膜10によりゲート電極9と電気的に絶縁されている。チタン膜15は、アルミニウム配線層12中から発生する水素(H)原子・水素イオンを吸蔵し、層間絶縁膜10に達しないように遮蔽する機能を有する。
【0037】
チタン膜15の厚さt1は、例えば10nm以上程度であることが好ましい。その理由は、チタン膜15の厚さt1が10nm未満である場合、チタン膜15による水素原子・水素イオンの吸蔵効果が得られないからである。チタン膜15に吸蔵される水素分子(H
2)濃度は、例えば1×10
16/cm
2以上程度である。水素原子・水素イオンとは、水素原子を最小の構成単位とする粒子であり、具体的には水素原子、水素イオンおよび水素分子である。
【0038】
チタン膜15上には、チタン膜15の表面に沿って、チタンおよびアルミニウム(Al)を含む合金層(以下、TiAl合金膜(第2金属膜)とする)16が設けられている。TiAl合金膜16は、炭化珪素半導体装置の製造途中にチタン膜15とアルミニウム配線層12との反応により形成された例えばTiAl
3膜などである。TiAl合金膜16は、ソースコンタクト部11との間に存在するチタン膜15により、ソースコンタクト部11に接していない。TiAl合金膜16の厚さは、例えば1nm以上100nm以下程度であることが好ましい。その理由は、チタン膜15が全てTiAl合金膜16に置き換わらず、かつアルミニウム配線層12形成後の熱処理として好適な450℃以下によりなしうる厚さであるからである。
【0039】
TiAl合金膜16上には、アルミニウム配線層(金属電極層)12が設けられている。アルミニウム配線層12は、ソース電位Vsに固定されている。アルミニウム配線層12の結晶粒径は、例えば100nm以上程度であることが好ましい。その理由は、後述する。このように、炭化珪素基体20のおもて面上には、ソースコンタクト部11、チタン膜15、TiAl合金膜16およびアルミニウム配線層12が順に積層されている。ソースコンタクト部11、チタン膜15、TiAl合金膜16およびアルミニウム配線層12は、ソース電極(第1電極)として機能する金属配線層である。
【0040】
アルミニウム配線層12上には、炭化珪素基体20のおもて面を保護するパッシベーション保護膜13となる例えばポリイミド層が設けられている。炭化珪素基体20の裏面(n
+型炭化珪素基板1の裏面)全面に、裏面電極(第2電極)14が設けられている。裏面電極14は、ドレイン電位Vdに固定されている。
【0041】
次に、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図2,3は、実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、n
+型ドレイン領域となるn
+型炭化珪素基板1を用意する。n
+型炭化珪素基板1のおもて面は、例えば、(000−1)面、いわゆるC面であってもよい。次に、n
+型炭化珪素基板1のおもて面上に、5×10
15/cm
3に窒素(N)をドーピングしたn
-型炭化珪素層21を10μmの厚さにエピタキシャル成長させる。
【0042】
次に、p型不純物のイオン注入により、n
-型炭化珪素層21の表面層にp型ベース領域3を選択的に形成する。n
-型炭化珪素層21の、p型ベース領域3以外の部分がn
-型ドリフト領域2となる。次に、n
-型炭化珪素層21上に、p型ベース領域3を覆うように、5×10
15/cm
3のアルミニウムをドーピングしたp
-型炭化珪素層22を0.5μmの厚さにエピタキシャル成長させる。ここまでの工程で、n
+型炭化珪素基板1上に炭化珪素層21,22を堆積(形成)したエピタキシャル基板(以下、炭化珪素基体20とする)が形成される。
【0043】
次に、窒素のイオン注入によりp
-型炭化珪素層22を部分的に打ち返して(n型に反転させて)、p
-型炭化珪素層22を深さ方向に貫通してn
-型炭化珪素層21に達するn型領域7を選択的に形成する。次に、リン(P)のイオン注入により、p
-型炭化珪素層22の内部にn
+型ソース領域6を選択的に形成する。次に、アルミニウムのイオン注入により、p
-型炭化珪素層22の内部にp
+型コンタクト領域5を選択的に形成する。p
+型コンタクト領域5、n
+型ソース領域6およびn型領域7の形成順序を入れ替えてもよい。p
-型炭化珪素層22の、p
+型コンタクト領域5、n
+型ソース領域6およびn型領域7以外の部分がp
-型ベース領域4となる。
【0044】
次に、例えばアルゴン(Ar)ガス雰囲気中で1600℃程度の温度の活性化アニールを行い、p型ベース領域3、p
+型コンタクト領域5、n
+型ソース領域6およびn型領域7を活性化させる。次に、例えば亜酸化窒素(N
2O)ガス雰囲気中で炭化珪素基体20のおもて面(p
-型ベース領域4側の面)を熱酸化し、例えば70nmの厚さのゲート絶縁膜8を形成する。亜酸化窒素や一酸化窒素(NO)を含むガス雰囲気での熱酸化によりゲート絶縁膜8を形成することで、ゲート絶縁膜8と炭化珪素基体20との界面(SiO
2/SiC界面)の界面準位密度Ditを低くすることができ、高チャンネル移動度を実現することができる。
【0045】
次に、ゲート絶縁膜8上にポリシリコン(poly−Si)を堆積してパターニングすることで、ゲート電極9となるポリシリコンを残す。次に、ゲート電極9を覆うように、炭化珪素基体20のおもて面全面に層間絶縁膜10を形成する。次に、層間絶縁膜10およびゲート絶縁膜8をパターニングしてコンタクトホールを形成し、p
+型コンタクト領域5およびn
+型ソース領域6を露出させる。p
+型コンタクト領域5およびn
+型ソース領域6に接するニッケル膜を形成してシリサイド化することで、炭化珪素基体20とオーミック接触するソースコンタクト部11を形成する。
【0046】
次に、例えば0.3Pa程度の圧力のアルゴンガス雰囲気中でマグネトロンスパッタリングにより、層間絶縁膜10およびソースコンタクト部11上に、チタン膜15およびアルミニウム配線層12を順に連続して成膜(形成)する。このとき、スパッタリング時のチタン膜15の厚さt11は、例えば1.0μm以下程度であることが好ましい。その理由は、チタンは硬い金属であるため、スパッタリング時のチタン膜15の厚さt11を1.0μmよりも厚くした場合、チタン膜15に割れが生じるからである。また、コンタクトホール内でソースコンタクト部11を被覆することができない虞があるからである。具体的には、例えば、スパッタリング時のチタン膜15およびアルミニウム配線層12の各厚さt11,t12はそれぞれ0.1μm程度および5.0μm程度であってもよい。ここまでの状態が
図2に示されている。
【0047】
チタン膜15およびアルミニウム配線層12を形成するためのスパッタリングは、炭化珪素基体20を例えば200℃以上350℃以下程度の温度(基板温度)に加熱して行うことが好ましい。その理由は、次の通りである。スパッタリング時に基板温度が200℃以下である場合、アルミニウム配線層12の結晶粒径が100nm未満となる。この場合、アルミニウム配線層12中に空孔が発生するからである。また、スパッタリング時のアルミニウム配線層12の厚さt12が部分的に薄くなったり、アルミニウム配線層12で覆われずにチタン膜15が部分的に露出するなどの被覆不良が発生するからである。スパッタリング時に基板温度が350℃以上である場合、後述する熱処理時にチタン膜15とアルミニウム配線層12との合金化の反応が進みすぎて、TiAl合金膜16がソースコンタクト部11にまで達する虞があるからである。
【0048】
次に、アルミニウム配線層12およびチタン膜15をパターニングしてソース電極となる金属配線層を形成する。次に、炭化珪素基体20のおもて面にパッシベーション保護膜13であるポリイミド層を堆積し、例えば350℃の温度の熱処理により硬化(キュア)する。パッシベーション保護膜13を硬化するための熱処理、または、その後の熱処理により、チタン膜15とアルミニウム配線層12との界面で合金化が進み、チタン膜15とアルミニウム配線層12との間にTiAl合金膜16が形成される。このとき、TiAl合金膜16をソースコンタクト部11に達しない程度の厚さt2とし、TiAl合金膜16と層間絶縁膜10およびソースコンタクト部11との間全面にわたってチタン膜15を残す。ここまでの状態が
図3に示されている。
【0049】
このように、アルミニウム配線層12とチタン膜15との間にTiAl合金膜16が形成されたとしても、層間絶縁膜10およびソースコンタクト部11の表面全面にわたってチタン膜15が残る。TiAl合金膜16は、ソースコンタクト部11との間に残るチタン膜15により、ソースコンタクト部11に達していない。具体的には、例えば、TiAl合金膜16の厚さt2は5〜15nm程度以下であり、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1は85〜95nm程度となる。このため、アルミニウム配線層12中の水素原子・水素イオンは下層のチタン膜15に吸蔵され、チタン膜15よりも下層(炭化珪素基体20側)に移動しない。これにより、アルミニウム配線層12中の水素原子・水素イオンがゲート絶縁膜8に拡散されないため、ゲート閾値電圧の安定したゲート絶縁膜8を得ることができる。
【0050】
また、アルミニウム配線層12の形成後に行う熱処理の温度が400℃以上である場合、TiAl合金膜16の厚さt2は50nm以上となり、450℃以上である場合、TiAl合金膜16の厚さt2は100nm程度以上となる。また、アルミニウム配線層12の形成後に行う熱処理の温度が350℃程度である場合、TiAl合金膜16の厚さt2は50nm以下となる。上述したようにTiAl合金膜16の厚さt2は例えば1nm以上100nm以下程度に留めることが好ましいため、アルミニウム配線層12の形成後に行う熱処理は例えば450℃以下程度であることが好ましい。
【0051】
また、チタン膜15による水素原子・水素イオンの吸蔵効果を得るために、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1は上述したように10nm以上程度必要である。その理由は、次の通りである。アルミニウム配線層112とソースコンタクト部111との間にチタン膜を設けない従来のSiC−MOSFET(
図5参照。以下、従来例とする)では、ジャンクション温度(接合)が200℃以上となる高温動作下で3×10
14/cm
2以上の水素原子・水素イオンが放出されることが確認された。一方、本発明においては、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1が100nmである場合、400℃の温度で水素を注入したときに、チタン膜15に吸蔵される水素分子濃度は6×10
17/cm
2であることが確認された。このため、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1を10nm程度とした場合、チタン膜15に1×10
16/cm
2程度の水素原子・水素イオンが吸蔵されるため、従来例で放出される水素原子・水素イオンの放出量に対して10倍以上の余裕度を確保することができる。したがって、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1は、少なくとも10nm以上残っていなければ十分に水素原子・水素イオンの吸蔵効果が得られないからである。また、上述したように熱処理前のチタン膜15の厚さt11は1.0μm以下であることが好ましいため、チタン膜15に吸蔵される水素分子濃度は6×10
18/cm
2以下であることが好ましい。
【0052】
その後、炭化珪素基体20の裏面(n
+型炭化珪素基板の裏面)に裏面電極14を形成することで、
図1に示すSiC−MOSFETが完成する。
【0053】
以上、説明したように、実施の形態によれば、熱履歴がかかることによりソース電極を構成するチタン膜とアルミニウム配線層との間にTiAl合金膜が形成されたとしても、層間絶縁膜とアルミニウム配線層との間にチタン膜が残る。かつ、TiAl合金膜とコンタクト部とが直接接触せず、TiAl合金膜とコンタクト部との間にチタン膜が残る。このため、アルミニウム配線層中から発生する水素原子・水素イオンがチタン膜に吸蔵・遮断され、SiO
2/SiC界面に移動することを防止することができる。これにより、正電圧印加時・負電圧印加時ともにゲート閾値電圧変動が抑制される。このとき、アルミニウム配線層の下層に残るチタン膜の厚さが10nm以上1.0μm以下であり、チタン膜に吸蔵される水素分子濃度が1×10
16/cm
2以上であることにより、水素原子・水素イオンによるSiO
2/SiC界面への正電荷の発生を防止することができる。したがって、安定した電気的特性を有するSiC−MOSFETを提供することができる。
【0054】
(比較例1)
一般的に、SiC−パワーMOSFETには、駆動時にゲート電極に正電圧・負電圧双方の高電圧が印加される。また、SiC−パワーMOSFETは高温動作となるため、ジャンクション温度が200℃以上となる高温動作下での動作を保証する必要がある。具体的には、ゲート絶縁膜に加わる電界強度±2MV/cm〜±4MV/cm程度、および動作保証温度200℃程度を必要とするが、この場合、ある条件下においてゲート閾値電圧が大きく変動する現象が観測された。
【0055】
そこで、信頼性試験により上述した従来例(
図5参照)の電気的特性を検証した。従来例の、ソース電極として機能する金属配線層以外の構成は、後述する実施例と同様である。この従来例について、動作温度(ジャンクション温度)が200℃となる高温動作下でゲート電極109に3MV/cm(正電圧)および−3MV/cm(負電圧)をそれぞれ10分間印加し、ゲート閾値電圧の変動幅を測定した。ゲート閾値電圧の変動幅とは、設計条件に基づいて決定された製品出荷時のゲート閾値電圧(基準値)からの差分である。
【0056】
その結果、従来例では、ゲート電極109に正電圧を印加したときには、ゲート閾値電圧の変動は小さく、その変動幅(変動量)は±0.1V以下であることが確認された。一方、ゲート電極109に負電圧を印加したときには、ゲート閾値電圧は負側に大きく変動する(すなわちゲート閾値電圧が小さくなる)ことが確認された。ゲート閾値電圧が負側に変動する現象は、高温雰囲気下でゲート電極109に負電極を印加することで、SiO
2/SiC界面付近またはゲート絶縁膜108中に正電荷(ホール)が捕獲されて帯電し、正の固定電荷が発生することを示している。
【0057】
ゲート閾値電圧が負側に変動する現象について、シリコン(Si)を用いたSi−MOSFETやSi−IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor:絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)では報告が少ない。SiO
2/SiC界面の界面準位密度を低減するための多くの研究がなされているが、SiO
2/Si界面の界面準位密度と同程度まで低減する技術については報告されていない。
【0058】
例えば、Si−pチャネル型MOSFETでは、ゲート電極に負電圧を印加したときにゲート閾値電圧が変動する現象(スロートラップ現象)について報告されているが、ゲート閾値電圧の変動幅は小さい。具体的には、Si−pチャネル型MOSFETでは、動作温度150℃でゲート電極に−3MV/cmの負電圧を1000時間印加する場合であっても、ゲート閾値電圧の変動幅は0.1Vである。
【0059】
一方、同条件(動作温度150℃、ゲート電圧−3MV/cm)でのSiC−MOSFETのゲート閾値電圧の変動幅は−7V以上と大きい。具体的には、Si−MOSFETのSiO
2/Si界面の界面準位密度は1.0×10
11cm
-2eV
-1以下である。一方、SiC−MOSFETのSiO
2/SiC界面の界面準位密度は1.0×10
12cm
-2eV
-1以上であるため、正の固定電荷が多く発生していることがわかる。
【0060】
従来例においてSiO
2/SiC界面の界面準位密度が高いのは、SiO
2/SiC界面に特有の問題であり、SiO
2/SiC界面の欠陥量、歪量およびバンド構造の違いから生じるかは現時点では明らかではない。そこで、ソース電極として機能するアルミニウム配線層の配置が従来例と異なるSiC−MOSFET(以下、比較例1とする)を用いて、従来例でゲート閾値電圧変動が生じる原因について検証した。
図4は、比較例1の炭化珪素半導体装置の構造を示す断面図である。
【0061】
図4に示す比較例1は、アルミニウム配線層142a,142bが層間絶縁膜140と接触しない構成のプレーナゲート構造のSiC−横型MOSFETである。比較例1は従来例のMOSゲート構造を横型としたものであり、比較例1の各領域の不純物濃度および厚さ等は、それぞれ従来例の対応する各領域の不純物濃度および厚さ等と同様である。なお、横型MOSFETはn
+型炭化珪素基板101およびn
-型ドリフト領域102を必要としないが、従来例(
図5)と同一の炭化珪素基体120上に従来例と同時に形成した構造となっている。
【0062】
具体的には、比較例1においては、n
-型炭化珪素層121の、p
-型炭化珪素層122側の表面層全面に、p型ベース領域133が設けられている。n
-型炭化珪素層121の、p型ベース領域133以外の部分がn
-型ドリフト領域102である。p
-型炭化珪素層122の内部には、p
+型コンタクト領域135、n
+型ソース領域136aおよびn
+型ドレイン領域136bがそれぞれ選択的に設けられている。p
+型コンタクト領域135は、n
+型ソース領域136aに接する。n
+型ドレイン領域136bは、n
+型ソース領域136aと離して配置されている。
【0063】
p
-型炭化珪素層122の、p
+型コンタクト領域135、n
+型ソース領域136aおよびn
+型ドレイン領域136b以外の部分がp
-型ベース領域134である。p
-型ベース領域134の、n
+型ソース領域136aとn
+型ドレイン領域136bとに挟まれた部分の表面上に、ゲート絶縁膜138を介してゲート電極139が設けられている。層間絶縁膜140は、ゲート電極139を覆う。アルミニウム配線層142aは、ソースコンタクト部141aを介してp
+型コンタクト領域135およびn
+型ソース領域136aに接する。
【0064】
アルミニウム配線層142aおよびソースコンタクト部141aは、ソース電極として機能する金属配線層である。アルミニウム配線層142bは、ドレインコンタクト部141bを介してn
+型ドレイン領域136bに接する。アルミニウム配線層142bおよびドレインコンタクト部141bは、ドレイン電極として機能する金属配線層である。アルミニウム配線層142a,142bは、コンタクトホールの内部に層間絶縁膜140と接触しないように設けられている。
【0065】
この比較例1について、動作温度が200℃となる高温動作下でゲート電極139に−3MV/cmの負電圧を10分間印加した後、ゲート閾値電圧変動を測定した結果、ゲート閾値電圧の変動幅は±0.1V以下であった。この結果から、アルミニウム配線層142a,142bと層間絶縁膜140とが接触しない構成、すなわち、アルミニウム配線層142a,142bで層間絶縁膜140が覆われない構成とすることで、ゲート閾値電圧が変動しないことがわかる。
【0066】
そこで、アルミニウム配線層112と層間絶縁膜110とが接触する構成の従来例について、昇温脱離ガス分光(TDS:Thermal Desorption Spectroscopy)法により層間絶縁膜110とアルミニウム配線層112との界面、およびアルミニウム配線層112中の元素分析を行った。
【0067】
その結果、従来例では、チップ温度を200℃以上に上昇させたときに、3×10
14/cm
2以上の不純物濃度の水素分子が検出された。したがって、層間絶縁膜110とアルミニウム配線層112との界面、およびアルミニウム配線層112からの水素原子・水素イオンの発生は、アルミニウム配線層112の構成材料であるアルミニウムと、熱酸化時の雰囲気に含まれる水(H
2O)とが反応することによるものと推測される。
【0068】
一般的に、SiC−MOSFETを製造する場合、800℃以上の高温で酸化膜形成時または800℃以上の高温での熱処理により、SiO
2/SiC界面に多くの水素イオンが取り込まれる。この800℃以上の高温熱処理によってSiO
2/SiC界面に取り込まれた水素イオンは、SiO
2/SiC界面のダングリングボンドと結合し、シリコン−水素(Si−H)結合や炭素−水素(C−H)結合を形成して固定化される。このように高温熱処理によってSiO
2/SiC界面に形成されたシリコン−水素結合や炭素−水素結合の水素原子は、400℃以下の低温熱処理では変化(解離)しない。
【0069】
一方、アルミニウム配線層は400℃以下の低温熱処理により層間絶縁膜上に形成される。低温熱処理によるアルミニウム配線層の形成時に、層間絶縁膜とアルミニウム配線層との界面またはアルミニウム配線層中から発生した水素原子・水素イオンは固定化されない。このため、高温動作下では、SiC−MOSFETのゲート電極に負電圧が印加されたときに、固定化されていない水素原子・水素イオンがSiO
2/SiC界面に移動する。そして、SiO
2/SiC界面のシリコン−水素(Si−H)結合や炭素−水素(C−H)結合から固定化されていた水素原子が解離され、シリコン原子や炭素原子のダングリングボンド(Si
+やC
+)となり、正電荷が発生すると推測される。
【0070】
例えば200℃での酸化膜(SiO
2膜)中での水素原子・水素イオンの拡散係数は1.0×10
-8cm
2/秒であり、その拡散長は10分間で24.5μmである。このため、従来例では、高温動作下で層間絶縁膜110とアルミニウム配線層112との界面またはアルミニウム配線層112中から発生した水素原子・水素イオンは、容易に層間絶縁膜110中を移動してゲート絶縁膜108に到達し、ゲート閾値電圧変動を引き起こす。層間絶縁膜とアルミニウム配線層とを接触させない構造のSiC−縦型MOSFETを作製することは可能であるが、アルミニウム配線層とコンタクトホールの側壁との間に生じた隙間によって単位セルのサイズが大きくなるため、実用上での使用は難しい。
【0071】
それに対して、本発明においては、上述したように、層間絶縁膜10とアルミニウム配線層12との間に、層間絶縁膜10の表面全面を覆うようにチタン膜15が存在する。このため、アルミニウム配線層12中から発生した水素原子・水素イオンは、チタン膜15によって吸蔵・遮蔽される。このため、アルミニウム配線層12中から発生した水素原子・水素イオンがSiO
2/SiC界面に移動することを防止することができ、ゲート電極9に負電圧が印加されたときのゲート閾値電圧の変動幅を小さくすることができる。
【0072】
例えば、上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置の製造方法にしたがい、例示した諸条件でSiC−縦型MOSFETチップを作製した(以下、実施例とする)。すなわち、実施例においては、スパッタリングにより0.1μmの厚さt11でチタン膜15を形成し、熱処理後に残るチタン膜15の厚さt1を90nmとした。この実施例において、動作温度が200℃となる高温動作下でゲート電極9に−3MV/cmの負電圧を1000時間印加した後のゲート閾値電圧の変動量を±0.1V以下に抑制することができた。したがって、本発明においては、アルミニウム配線層12とコンタクトホールの側壁との間に隙間が生じない構成とすることができ、単位セルのサイズが大きくなることを回避することができることがわかる。
【0073】
(比較例2)
次に、上述した実施の形態にかかる炭化珪素半導体装置にしたがい、チタン膜15およびアルミニウム配線層12を形成するためのスパッタリング時の基板温度を380℃とした条件で作製したSiC−MOSFET(以下、比較例2とする)についてゲート閾値電圧を測定した。その結果、比較例2では、ゲート閾値電圧が変動することが確認された。この比較例2のアルミニウム配線層を観察してみると、一部の領域において、TiAl合金膜がソースコンタクト部に接している構造となっていた。TiAl合金膜に吸蔵される水素分子濃度はチタン膜と比較して極端に低いため、TiAl合金膜とソースコンタクト部との接触部分を経由して水素原子・水素イオンが炭化珪素基体側に移動し、ゲート閾値変動が発生するものと推測される。したがって、本発明のように、TiAl合金膜16とソースコンタクト部11とが接触しない構成とすることで、より確実にゲート閾値変動を抑制することができる。
【0074】
上述した実施の形態および比較例1,2では、n
+型炭化珪素基板1のおもて面をC面にした場合を例に説明しているが、n
+型炭化珪素基板1のおもて面を(0001)面、いわゆるSi面にした場合においても同様にゲート閾値電圧の安定したSiC−MOSFETを作製することができることが発明者により確認されている。
【0075】
以上において本発明では、SiC−縦型MOSFETを例に説明しているが、SiC−横型MOSFETやSiC−IGBTなど他のMOS型炭化珪素半導体装置にも適用可能であり、同様の効果を奏する。また、プレーナゲート構造に代えて、トレンチゲート構造とした場合においても同様の効果を奏する。また、p
-型ベース領域をイオン注入により形成した構造としてもよい。また、本発明は、例えば炭化珪素半導体の(000−1)面または(0001)面にチャネルを形成する(すなわちC面またはSi面をチップおもて面とする)場合に特に効果的であるが、その他の面方位(例えば(11−20)面、(03−38)面など)にチャネルを形成する場合においても同様の効果を奏する。また、上述した各実施の形態において、例えば各部の寸法や不純物濃度等は要求される仕様等に応じて種々設定される。また、上述した実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。