特許第6772497号(P6772497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ポリエチレン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6772497-エチレン系マクロモノマーの製造方法 図000019
  • 特許6772497-エチレン系マクロモノマーの製造方法 図000020
  • 特許6772497-エチレン系マクロモノマーの製造方法 図000021
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6772497
(24)【登録日】2020年10月5日
(45)【発行日】2020年10月21日
(54)【発明の名称】エチレン系マクロモノマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 10/02 20060101AFI20201012BHJP
   C08F 4/6592 20060101ALI20201012BHJP
【FI】
   C08F10/02
   C08F4/6592
【請求項の数】5
【全頁数】37
(21)【出願番号】特願2016-54559(P2016-54559)
(22)【出願日】2016年3月17日
(65)【公開番号】特開2017-165916(P2017-165916A)
(43)【公開日】2017年9月21日
【審査請求日】2018年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】石濱 由之
(72)【発明者】
【氏名】櫻木 努
(72)【発明者】
【氏名】原田 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳佳
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−028326(JP,A)
【文献】 特開2013−227271(JP,A)
【文献】 特開2012−25664(JP,A)
【文献】 特開2005−281676(JP,A)
【文献】 特開2000−080117(JP,A)
【文献】 特開平11−001509(JP,A)
【文献】 特開2015−063515(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/00−10/14
C08F 110/00−110/14
C08F 210/00−210/18
C08F 4/6592
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記条件(イ)〜(二)を満たすエチレン系マクロモノマー
(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0以上4.0未満、
(ロ)炭素数1000個当たりのビニル基数(V)が0.25個〜10個であり、かつ、Z(=V×Mn/14000)が0.50〜1.1である
(ハ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)が3000〜100000である、および
(二)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量3000から100万の間での最低値(g)が0.75〜1.00である、
を得るための製造方法であって、
下記必須成分(A)および(B)を含むオレフィン重合用触媒
成分(A):下記一般式(c)で表わされる化合物、および
成分(B):酸または金属塩で処理された層状ケイ酸塩、
を用いて、エチレンを単独重合またはエチレン以外のα−オレフィンと共重合することを特徴とするエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【化1】
[但し、式(c)中、M1cは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。X1cおよびX2cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。1cは、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。R1cは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、つの1c結合して1c一緒に環を形成していてもよい。R2cは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。4cは、水素原子を示す。また、R12c、R13cおよびR14cは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素若しくは窒素を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示し、R12c、R13cおよびR14cの各基は隣接する基同士で結合して、それらに結合している原子と一緒に環を形成していてもよい。Z1cは、酸素原子または硫黄原子を示す。
【請求項2】
前記エチレン系マクロモノマーが更に下記条件(ホ)を満足することを特徴とする請求項1に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
(ホ)上記炭素数1000個当たりのビニル基数(V)と炭素数1000個当たりのビニリデン基数(V)の比(V/V)が22以上である。
【請求項3】
前記条件(ロ)において、炭素数1000個当たりのビニル基数(V)が0.28個〜10個であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【請求項4】
前記条件(ニ)において、gが0.86〜1.00であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【請求項5】
下記条件(1)〜(3)でエチレンを単独重合またはエチレン以外のα−オレフィンと共重合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
[重合条件]
(1)重合温度:30℃以上90℃未満
(2)エチレン分圧:0.3MPa以上3MPa未満
(3)重合時間:0.3時間以上30時間未満
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なエチレン系マクロモノマーの製造方法に関し、さらに詳しくは、特定の必須成分を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの重合により、末端ビニル化率が高く、狭い分子量分布と比較的低分子量を有するエチレン系マクロモノマーを高い重合活性と生産性で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種産業分野において、プラスチック製のフィルム、シート、射出成形体、パイプ、押出成形体、中空成形体等が盛んに用いられるようになった。特に安価・軽量であり、成形加工性、剛性、衝撃強度、透明性、耐薬品性、熱安定性、衛生面、リサイクル性に優れる等の理由からポリエチレン系樹脂(エチレン系重合体)が広範に用いられている。
【0003】
ポリエチレン系樹脂を高機能化する取り組みとして、水酸基やカルボン酸基といった極性基を導入して親水性を付与したり、異種ポリマー鎖を導入して他の樹脂との相溶性や接着性を向上させることはよく知られている。この場合、ラジカル発生剤によりポリエチレン鎖に発生したラジカルにラジカル反応性モノマーをグラフト結合して導入する方法や、ポリエチレン中の分子末端や分子内の炭素−炭素二重結合に付加反応で極性基含有化合物を導入する方法等が実施される。
【0004】
近年、特定のオレフィン重合触媒を用いて生成したエチレン系重合体の分子末端や分子内に、重合生長末端で水素が活性点金属との相互作用による脱離するいわゆる水素脱離反応(β水素脱離等と言われる)を利用することで、制御された二重結合(いわゆる末端ビニル基やビニリデン基)を積極的に導入する研究が継続されている(特許文献1〜7参照)。これらの方法によれば、各々特定のエチレン重合触媒を用いることにより、末端ビニル基とビニリデン基の生成比を制御されたエチレン系重合体を製造したり(特許文献1)、反応性に富む特定の三置換不飽和結合を多く有するポリエチレンを製造したり(特許文献2)、末端ビニル基あるいは末端ビニル基とビニリデン基の総数が多く、分子量分布の狭い低分子量エチレン系重合体を製造したり(特許文献3〜5)することが可能である旨報告されているが、最も有用な炭素−炭素二重結合である末端ビニル基の生成選択率が必ずしも十分でなかったり、連鎖移動反応の副産物である該二重結合をより多く形成させるためには水素脱離反応を頻発させる必要から90℃以上の高温での重合反応が必要であったり、より連鎖移動反応が起こりやすいエチレンモノマーが希薄な低圧重合条件が必要であったりして、重合活性面、運転制御面、反応選択面で工業的な製造技術としては未だ改善の途上であった。
特許文献6には、必須成分として次の成分(Ac)、(B)および(C)を含むオレフィン重合用触媒が記載されている:成分(Ac)としてジメチルシリレン(4−(4−トリメチルシリル−フェニル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドに代表される特定構造のメタロセン化合物;成分(B)として上記成分(Ac)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物、および;成分(C):微粒子担体。当該特許文献6の実施例では、成分(B)としてメチルアルミノキサンを用いた実験結果が示されている。
しかし上記特許文献6の実施例で用いられたオレフィン重合用触媒は、末端ビニル基の生成選択率等のエチレン系重合体の物性の点、および、触媒単位重量当たりの重合活性等の製造プロセスの点で、改善の途中にある。
また特許文献7には、必須成分として次の成分(Ad)、(B)および(C)を含むオレフィン重合用触媒が記載されている:成分(Ad)として特定構造のメタロセン化合物;成分(B)として上記成分(Ad)と反応してカチオン性メタロセン化合物を生成させる化合物、および;成分(C)として微粒子担体。当該特許文献7の参考例2では、成分(B)の代わりに層状ケイ酸塩であるモンモリロナイトを用い、成分(C)の微粒子担体を用いない実験結果が示されている。
しかし、上記特許文献7の参考例2で用いられたオレフィン重合用触媒を用いて得られたエチレン系重合体は、分子量が大きすぎる
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−34819号公報
【特許文献2】特開平11−310612号公報
【特許文献3】特開2003−73412号公報
【特許文献4】特開2005−281676号公報
【特許文献5】特表2008−50278号公報
【特許文献6】特開2013−227271号公報
【特許文献7】特開2013−227482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した従来技術の問題点に鑑み、末端ビニル化率が高く、かつ、狭い分子量分布と比較的低分子量を有する反応性に富んだエチレン系マクロモノマーを高い重合活性と生産性で製造可能な、エチレン系マクロモノマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の必須成分を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの重合により、末端ビニル化率が高く、狭い分子量分布と比較的低分子量を有するエチレン系マクロマーを製造する方法が、格段に優れた活性と高い生産性で、高い末端ビニル化率を有する反応性に富んだエチレン系マクロモノマーが製造可能なことを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のエチレン系マクロモノマーの製造方法を提供するものである。
[1]下記条件(イ)〜(ハ)を満たすエチレン系マクロモノマー
(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0以上4.0未満、
(ロ)炭素数1000個当たりのビニル基数(V)が0.25個〜10個であり、かつ、Z(=×Mn/14000)が0.50〜1.1である、および
(ハ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)が3000〜100000である、
を得るための製造方法であって、
下記必須成分(A)および(B)を含むオレフィン重合用触媒
成分(A):遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物、および
成分(B):層状ケイ酸塩、
を用いて、エチレンを単独重合またはエチレン以外のα−オレフィンと共重合することを特徴とするエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【0009】
[2]前記必須成分(A)が下記一般式(1c)で表わされる化合物であることを特徴とする[1]に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【0010】
【化1】
[但し、式(1c)中、M1cは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。X1cおよびX2cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。Q1cとQ2cは、各々独立して、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。R1cは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、4つのR1cのうち少なくとも2つが結合してQ1cおよびQ2cと一緒に環を形成していてもよい。mは、0または1であり、mが0の場合、Q1cは、R2cを含む共役5員環と直接結合している。R2cおよびR4cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。R3cは、下記一般式(1−ac)で示される置換アリール基を示す。]
【0011】
【化2】
[但し、式(1−ac)中、Y1cは、周期表14族、15族または16族の原子を示す。R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素若しくは窒素を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示し、R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cの各基は隣接する基同士で結合して、それらに結合している原子と一緒に環を形成していてもよい。nは、0または1であり、nが0の場合、Y1cに置換基R5cが存在しない。pは、0または1であり、pが0の場合、R7cが結合する炭素原子とR9cが結合する炭素原子は直接結合している。Y1cが炭素原子の場合、R5c、R6c、R7c、R8c、R9cのうち少なくとも1つは水素原子ではない。R2cが五員環構造置換基でない場合、pは0である。すなわち、R2cおよびR3cのうち少なくとも一方は五員環構造の置換基である。]
【0012】
[3]前記必須成分(A)が、インデニル環上に五員環構造置換基を有する、遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物であることを特徴とする、[1]または[2]に記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【0013】
[4]前記必須成分(B)が、酸または金属塩で処理された層状ケイ酸塩であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか一つに記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
【0014】
[5]前記エチレン系マクロモノマーが更に下記条件(二)を満足することを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか一つに記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
(二)示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量3000から100万の間での最低値(g)が0.75〜1.00である。
【0015】
[6]前記エチレン系マクロモノマーが更に下記条件(ホ)を満足することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか一つに記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
(ホ)上記炭素数1000個当たりのビニル基数(V1)と炭素数1000個当たりのビニリデン基数(V)の比(V/V)が22以上である
【0016】
[7]下記条件(1)〜(3)でエチレンを単独重合またはエチレン以外のα−オレフィンと共重合することを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか一つに記載のエチレン系マクロモノマーの製造方法。
[重合条件]
(1)重合温度:30℃以上90℃未満
(2)エチレン分圧:0.3MPa以上3MPa未満
(3)重合時間:0.3時間以上30時間未満
【発明の効果】
【0017】
本発明の製造方法は、格段に優れた活性と高い生産性で、末端ビニル化率が高く、狭い分子量分布と比較的低分子量を有する反応性に富んだエチレン系マクロモノマーを製造することが可能である点で優れる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で用いられるクロマトグラムのベースラインと区間を示すグラフである。
図2H−NMRによるエチレン系マクロモノマーの炭素−炭素二重結合の帰属を示すスペクトルの一例である。図2中の2aは本発明により得られたエチレン系マクロモノマーのスペクトルであり、図2中の2bは一般的なエチレン系マクロモノマーのスペクトルである。
図3】GPC−VIS測定(分岐構造解析)から算出する分子量分布曲線および分岐指数(g’)と分子量(M)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、特定の必須成分を含むオレフィン重合用触媒を用いたエチレンの重合により、末端ビニル化率が高く、狭い分子量分布と比較的低分子量を有するエチレン系マクロマーを製造する方法が、格段に優れた活性と高い生産性で、高い末端ビニル化率を有する反応性に富んだエチレン系マクロモノマーを製造する方法に係るものである。以下、本発明のエチレン系マクロモノマーの製造方法、特に該エチレン系マクロモノマーの製造方法を特徴付ける重合用触媒の必須成分やその調製方法、生成物である該エチレン系マクロモノマーの特徴、さらには重合条件について、項目毎に、詳細に説明する。
【0020】
1.本発明で使用するオレフィン重合用触媒
本発明のエチレン系マクロモノマーの製造方法は、次の必須成分(A)、(B)を含むオレフィン重合用触媒を用いて実施される。
[触媒成分]
成分(A):遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物
成分(B):層状ケイ酸塩
【0021】
1−1.触媒成分(A)
本発明のエチレン系マクロモノマーを製造するのに使用される触媒成分(A)は、遷移金属元素を含む架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物であり、好ましくは、下記の一般式[1]で表されるメタロセン化合物であり、より好ましくは下記の一般式[2]で表されるメタロセン化合物である。
【0022】
【化3】
【0023】
[但し、式[1]中、MはTi、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。Aはシクロペンタジエニル環(共役五員環)構造を有する配位子を、Aはインデニル環構造を有する配位子であり、好ましくはAは五員環構造置換基の付いたインデニル環構造を有する配位子であり、QはAとAを任意の位置で架橋する結合性基を示す。XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。]
【0024】
【化4】
【0025】
[但し、式[2]中、MはTi、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。Qはシクロペンタジエニル環とインデニル環を架橋する結合性基を示す。XおよびYは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。10個のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜28のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜30のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜30の炭化水素基または炭素数1〜30の炭化水素基置換シリル基を示し、好ましくは、インデニル環側に付いた少なくとも1個のRは五員環構造を有する。]
【0026】
本発明のエチレン系マクロモノマーを製造するのに更に好ましい触媒成分(A)は、特開2013−227271号公報(特許文献6)に記載された一般式(1c)で表されるメタロセン化合物である。
【0027】
【化5】
[但し、式(1c)中、略号の説明は全て特開2013−227271号公報(特許文献6)の記載に従う。すなわち、M1cは、Ti、ZrまたはHfのいずれかの遷移金属を示す。X1cおよびX2cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素原子若しくは窒素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基または炭素数1〜20のアルコキシ基を示す。Q1cとQ2cは、各々独立して、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。R1cは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1〜10の炭化水素基を示し、4つのR1cのうち少なくとも2つが結合してQ1cおよびQ2cと一緒に環を形成していてもよい。mは、0または1であり、mが0の場合、Q1cは、R2cを含む共役5員環と直接結合している。R2cおよびR4cは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素原子を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示す。R3cは、下記一般式(1−ac)で示される置換アリール基を示す。]
【0028】
【化6】
【0029】
[但し、式(1−ac)中、Y1cは、周期表14族、15族または16族の原子を示す。R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、酸素若しくは窒素を含む炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の炭化水素基置換アミノ基、炭素数1〜20のアルコキシ基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基を示し、R5c、R6c、R7c、R8cおよびR9cの各基は隣接する基同士で結合して、それらに結合している原子と一緒に環を形成していてもよい。nは、0または1であり、nが0の場合、Y1cに置換基R5cが存在しない。pは、0または1であり、pが0の場合、R7cが結合する炭素原子とR9cが結合する炭素原子は直接結合している。Y1cが炭素原子の場合、R5c、R6c、R7c、R8c、R9cのうち少なくとも1つは水素原子ではない。R2cが五員環構造置換基でない場合、pは0である。すなわち、R2cおよびR3cのうち少なくとも一方は五員環構造の置換基である。]
【0030】
上記一般式(1c)中、メタロセン化合物のM1cは、Ti、ZrまたはHfを表し、メタロセン化合物のM1cは、好ましくはZrまたはHfを表し、メタロセン化合物のM1cは、更に好ましくはZrを表す。また、X1cおよびX2cとしては、それぞれ独立して、水素原子、または塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、またはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、メトキシメチル基、エトキシメチル基、n−プロポキシメチル基、i−プロポキシメチル基、n−ブトキシメチル基、i−ブトキシメチル基、t−ブトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、アセチル基、1−オキソプロピル基、1−オキソ−n−ブチル基、2−メチル−1−オキソプロピル基、2,2−ジメチル−1−オキソ−プロピル基、フェニルアセチル基、ジフェニルアセチル基、ベンゾイル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−フリル基、2−テトラヒドロフリル基、ジメチルアミノメチル基、ジエチルアミノメチル基、ジi−プロピルアミノメチル基、ビス(ジメチルアミノ)メチル基、ビス(ジi−プロピルアミノ)メチル基、(ジメチルアミノ)(フェニル)メチル基、メチルイミノ基、エチルイミノ基、1−(メチルイミノ)エチル基、1−(フェニルイミノ)エチル基、1−[(フェニルメチル)イミノ]エチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、フェノキシ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジn−プロピルアミノ基、ジi−プロピルアミノ基、ジn−ブチルアミノ基、ジi−ブチルアミノ基、ジt−ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。
好ましいX1cおよびX2cの具体例としては、塩素原子、臭素原子、メチル基、n−ブチル基、i−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、フェニル基、ベンジル基、フェノキシ基、ジメチルアミノ基、ジi−プロピルアミノ基が挙げられる。これらの具体例の中でも、塩素原子、メチル基、フェニル基、ジメチルアミノ基が更に好ましく、塩素原子、メチル基、フェニル基が特に好ましい。
【0031】
また、Q1cとQ2cは、炭素原子、ケイ素原子またはゲルマニウム原子を示す。好ましくは炭素原子またはケイ素原子である。より好ましくはケイ素原子である。
さらに、R1cとしては、それぞれ独立して、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。また、R1cがQ1cおよびQ2cと一緒に環を形成している場合として、シクロブチリデン基、シクロペンチリデン基、シクロへキシリデン基、シラシクロブチル基、シラシクロペンチル基、シラシクロヘキシル基などが挙げられる。
好ましいR1cの具体例として、Q1cまたは/およびQ2cが炭素原子の場合、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、エチレン基、シクロブチリデン基が挙げられ、また、Q1cまたは/およびQ2cがケイ素原子の場合、メチル基、エチル基、フェニル基、シラシクロブチル基が挙げられる。
【0032】
また、R2cとR4cとしては、水素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、3,5−ジ−t−ブチルフェニル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基、ビス(t−ブチルジメチルシリル)メチル基、ブロモメチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、2−ブロモプロピル基、3−ブロモプロピル基、2−ブロモシクロペンチル基、2,3−ジブロモシクロペンチル基、2−ブロモ−3−ヨードシクロペンチル基、2,3−ジブロモシクロヘキシル基、2−クロロ−3−ヨードシクロヘキシル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、フリル基、テトラヒドロフリル基、2−メチルフリル基、トリメチルシリル基、トリt−ブチルシリル基、ジt−ブチルメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、フェニルジメチルシリル基などが挙げられる。
【0033】
また、R2cとR4cは、炭素数1〜20の炭化水素基、ケイ素数1〜6を含む炭素数1〜18のケイ素含有炭化水素基、炭素数1〜20のハロゲン含有炭化水素基、酸素を含む炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の炭化水素基置換シリル基であると、特に重合活性が高くなるので、好ましい。
2cとR4cの好ましい具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、2−メチルフリル基、トリメチルシリル基が挙げられる。これらの具体例の中でも、水素原子、メチル基、n−ブチル基、t−ブチル基、フェニル基、トリメチルシリル基がさらに好ましく、水素原子、メチル基、t−ブチル基、フェニル基、トリメチルシリル基が特に好ましい。
【0034】
置換基のR3cは、上記一般式(1−ac)で示される構造を有する置換アリール基、好ましくは、特定の置換基を有するPh基、またはフリル基類、チエニル基類を示す。
具体的には、4−トリメチルシリルフェニル基、4−(t−ブチルジメチルシリル)フェニル基、3,5−ビストリメチルシリルフェニル基、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基、2−フリル基、2−(5−メチル)フリル基、2−(5−t−ブチル)フリル基、2−(5−トリメチルシリル)フリル基、2−(4,5−ジメチル)フリル基、2−ベンゾフリル基、2−チエニル基、2−(5−メチル)チエニル基、2−(5−t−ブチル)チエニル基、2−(5−トリメチルシリル)チエニル基、2−(4,5−ジメチル)チエニル基、などが挙げられる。
【0035】
また、一般式(1c)中、mは、0または1であり、mが0の場合、Q1cは、R2cを含む共役5員環と直接結合している。
【0036】
本発明のエチレン系マクロモノマーを製造するのに特に好ましい触媒成分(A)は、特開2013−227271号公報(特許文献6)に記載された一般式(3c)で表されるメタロセン化合物である。
【0037】
【化7】
【0038】
上記の一般式(3c)で示されるメタロセン化合物において、M1c、X1c、X2c、Q1c、R1c、R2cおよびR4cは、前述の一般式(1c)で示されるメタロセン化合物の説明で示した原子および基と同様な構造を好ましい態様も含め選択することができるが、R2cは水素原子、メチル基が最も好ましく、4つのR4cのうち、架橋基Q1cが付いた炭素原子の両隣の炭素に付いた2つのR4cは水素原子が最も好ましく、残りのR4cは水素原子またはメチル基が最も好ましい。また、R12c、R13cおよびR14cは、前述の一般式(1c)で示されるメタロセン化合物の説明で示したR5c、R6c、R7c、R8c、R9cの原子および基と同様な構造を選択することができる。そしてZ1cは、酸素原子または硫黄原子を示す。
【0039】
上記メタロセン化合物の具体例として、特開2013−227271号公報(特許文献6)の表1cに記載された化合物のうち、55c〜94c、224c〜303cが好ましいが、これらに限定するものではない。
【0040】
また、上記に例示した具体的化合物の中にあって、より好ましいものを以下に示す。
該表1c中の、55c〜72c、81c〜86c、224c〜231、等が挙げられる。
また、上記化合物のジルコニウムを、チタニウムまたはハフニウムに代えた化合物等が、好ましいものとして挙げられる。
【0041】
さらに、上記に例示した具体的化合物の中にあって、更に好ましいものを以下に示す。
該表1c中の、55c〜66c、81c、82c、224c〜227c等が挙げられる。
また、上記化合物のジルコニウムを、チタニウムまたはハフニウムに代えた化合物等が、好ましいものとして挙げられる。
【0042】
上記具体例の化合物はジルコニウム化合物またはハフニウム化合物であることが好ましく、ジルコニウム化合物であることが更に好ましい。
【0043】
本発明のエチレン系マクロモノマーを製造するのに使用される必須成分(A)として、上述の架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物を2種以上用いることもできるが、その場合は分子量分布が広がり過ぎないように注意することは言うまでもない。
【0044】
上記メタロセン化合物の具体例として、特開2013−227271号公報(特許文献6)の表1cから上記具体例55c〜94c、224c〜303cを抜粋し、下記表(1−1)〜(1−3)に示す。表に列挙したメタロセン化合物の基本構造は式(1c)である。
【0045】
【化8】
【0046】
なお、これらの具体例に示すメタロセン化合物の置換基の位置を表す番号は次式[3]の通りである。
【0047】
【化9】
【0048】
【表1-1】
【0049】
【表1-2】
【0050】
【表1-3】
【0051】
本発明のメタロセン化合物は、置換基ないし結合の様式によって、任意の方法で合成することができる。代表的な合成経路の一例を以下に示す。
【0052】
【化10】
上記合成経路において、1と4−トリメチルシリルフェニルボロン酸を、パラジウム触媒の存在下でカップリング反応を行うことにより、2が得られる。2を1当量のn−ブチルリチウムなどでアニオン化した後、過剰量のジメチルジクロロシランと反応させ、未反応のジメチルジクロロシランを留去することで、3が得られる。得られた3とソジウムシクロペンタジエニリドと反応させると4が得られる。4を2当量のn−ブチルリチウムなどでジアニオン化した後、四塩化ジルコニウムとの反応でメタロセン化合物5が得られる。置換基を導入したメタロセン化合物の合成は、対応した置換原料を使用することにより合成することができ、4−トリメチルシリルフェニルボロン酸のかわりに、対応するボロン酸、たとえば4−クロロフェニルボロン酸、4−メトキシフェニルボロン酸、5−メチルフリル−2−ボロン酸、4,5−ジメチルフリル−2−ボロン酸、2−チエニルボロン酸などを用いることにより、インデニル環の4位にそれぞれ対応する置換基を導入することができる。また、Cpの代わりに、対応する置換シクロペンタジエンのアニオン、例えばt−ブチルシクロペンタジエン、1,3−ジメチルシクロペンタジエン、1−メチル−3−t−ブチルシクロペンタジエンなどを用いることにより、シクロペンタジエンにそれぞれ対応する置換基を導入した錯体を合成することができる。
【0053】
1−2.触媒成分(B)
本発明のエチレン系マクロモノマーを製造するのに使用される必須の触媒成分(B)は、層状ケイ酸塩である。
【0054】
層状ケイ酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとるケイ酸塩化合物である。大部分の層状ケイ酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状ケイ酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0055】
これら層状ケイ酸塩は、メタロセン化合物と組み合わせた場合、好適なオレフィン重合用触媒となることが、例えば、特開平05−301917号公報、特開平08−127613号公報、特開2003−82018号公報、等に記載されてよく知られている。
【0056】
層状ケイ酸塩としては、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)等に記載される公知の化合物が挙げられ、具体例としては、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、テニオライト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、ソーコナイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群が挙げられる。
より好ましい層状ケイ酸塩としては、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、テニオライト等のスメクタイト族、バーミキュライト族、雲母族が用いられる。特に好ましい層状ケイ酸塩はスメクタイト族である。
【0057】
一般に、層状ケイ酸塩の天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合には好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては次のような化学処理が挙げられる。
ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。化学処理の方法としては、特開2003−82018号公報の[0044]〜[0047]に記載された方法をはじめ、公知の化学処理法を適用することができる。具体的には、(イ)酸処理、(ロ)アルカリ処理、(ハ)金属塩処理、(ニ)有機物処理等が挙げられ、より好ましい化学処理は、酸処理または金属塩処理であり、具体的には次のとおりである。
酸処理で用いられる酸は、好ましくは塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸から選択される。
また金属塩処理で用いられる金属塩は、2〜14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンを含有する化合物であり、好ましくは、2〜14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン原子、無機酸および有機酸からなる群より選ばれた少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物であり、更に好ましくは、2〜14族原子からなる群より選ばれた少なくとも一種の原子を含む陽イオンと、Cl、Br、I、F、PO、SO、NO、CO、C、ClO、OOCCH、CHCOCHCOCH、OCl 、O(NO、O(ClO、O(SO)、OH、OCl、OCl、OOCH、OOCCHCH、CおよびCからなる群から選ばれる少なくとも一種の陰イオンとからなる化合物である。
【0058】
具体的には、CaCl、CaSO、CaC2O、Ca(NO、Ca(C、MgCl、MgBr、MgSO、Mg(PO、Mg(ClO、MgC、Mg(NO、Mg(OOCCH、MgC、Sc(OOCCH、Sc(CO、Sc(C、Sc(NO、Sc(SO、ScF、ScCl、ScBr、ScI、Y(OOCCH、Y(CHCOCHCOCH、Y(CO、Y(C、Y(NO、Y(ClO、YPO、Y(SO、YF、YCl、La(OOCCH、La(CHCOCHCOCH、La(CO、La(NO、La(ClO、La(C、LaPO、La(SO、LaF、LaCl、LaBr、LaI、Sm(OOCCH、Sm(CHCOCHCOCH、Sm(CO、Sm(NO、Sm(ClO、Sm(C、Sm(SO、SmF、SmCl、SmI、YP(OOCCH、Yb(NO、Yb、(ClO、Yb(C、Yb(SO、YbF、YbCl、Ti(OOCCH、Ti(CO、Ti(NO、Ti(SO、TiF、TiCl、TiBr、TiI、Zr(OOCCH、Zr(CHCOCHCOCH、Zr(CO、Zr(NO、Zr(SO、ZrF、ZrCl、ZrBr、ZrI、ZrOCl、ZrO(NO、ZrO(ClO、ZrO(SO)、Hf(OOCCH、Hf(CO、Hf(NO、Hf(SO、HfOCl、HfF、HfCl、HfBr、HfI、V(CHCOCHCOCH、VOSO、VOCl、VCl、VCl、VBr、Nb(CHCOCHCOCH、Nb(CO、Nb(NO、Nb(SO、NbF、NbCl、NbBr、NbI、Ta(OOCCH、Ta(CO、Ta(NO、Ta(SO、TaF、TaCl、TaBr、TaI、Cr(CHCOCHCOCH、Cr(OOCH)OH、Cr(NO、Cr(ClO、CrPO、Cr(SO、CrOCl、CrF、CrCl、CrBr、CrI、MoOCl、MoCl、MoCl、MoCl、MoF、MoI、WCl、WCl、WF、WBr、Mn(OOCCH、Mn(CHCOCHCOCH、MnCO、Mn(NO、MnO、Mn(ClO、MnF、MnCl、MnBr、MnI、Fe(OOCCH、Fe(CHCOCHCOCH、FeCO、Fe(NO、Fe(ClO、FePO、FeSO、Fe (SO、FeF、FeCl、FeBr、FeI、FeC 、Co(OOCCH、Co(CHCOCHCOCH、CoCO、Co(NO、CoC、Co(ClO、Co(PO、CoSO、CoF、CoCl、CoBr、CoI、NiCO、Ni(NO、NiC、Ni(ClO、NiSO、NiCl、NiBr、Pb(OOCCH、Pb(NO、PbSO、PbCl、PbBr、CuCl、CuBr、Cu(NO、CuC、Cu(ClO、CuSO、Cu(OOCCH、Zn(OOCCH、Zn(CHCOCHCOCH、Zn(OOCH)、ZnCO、Zn(NO、Zn(ClO、Zn(PO、Zn(SO)、ZnF、ZnCl、ZnBr、ZnI、Cd(OOCCH、Cd(CHCOCHCOCH、Cd(OOCCHCH、Cd(NO、Cd(ClO、Cd(SO)、CdF、CdCl、CdBr、CdI、AlCl、AlI、AlBr、AlF、Al(SO、AlPO、Al(C、Al(NO、Al(CHCOCHCOCH、GeCl、GeBr、GeI、Sn(OOCCH、Sn(SO、SnF、SnCl、SnBr、SnI、Pb(OOCCH、PbCO、PbHPO、Pb(NO、Pb(ClO、PbSO、PbF、PbCl、PbBr、PbI等が挙げられる。
【0059】
処理に用いる酸および金属塩は、2種以上であってもよい。酸処理と金属塩処理を組合せる場合においては、酸処理を行った後に金属塩処理を行う方法、金属塩処理を行った後に酸処理を行う方法、および酸処理と金属塩処理とを同時に行う方法がある。
【0060】
酸および金属塩による処理条件は、特には制限されないが、通常、酸および金属塩の濃度は、0.1〜30重量%、処理温度は室温〜沸点、処理時間は、5分〜24時間の条件を選択して、層状ケイ酸塩を構成している物質の少なくとも一部を溶出する条件で行うことが好ましい。また、酸および金属塩は、一般的には水溶液の状態で用いられる。
【0061】
本発明では、上記酸および/または金属塩処理を行なうが、処理前、処理間、処理後に粉砕や造粒等で形状制御を行ってもよい。また、アルカリ処理や有機物処理等の他の化学処理を併用してもよい。このように化学処理して得られる層状ケイ酸塩は、水銀圧入法で測定した半径20Å(オングストローム)以上の細孔容積が0.1cc/g以上、特には、0.3〜5cc/gのものが好ましい。
【0062】
また、本発明の層状ケイ酸塩は、オレフィン重合用触媒の製造に供される前に、脱水処理が好適に実施される。
脱水処理としては、例えば、加熱脱水、気体流通下の加熱脱水、減圧下の加熱脱水、および、有機溶媒との共沸脱水等の加熱処理が行われる。
加熱の際の温度は、層間水が残存しないように、100℃以上、好ましくは150℃以上であるが、構造破壊を生じるような高温条件は好ましくない。また、空気流通下での加熱等の架橋構造を形成させるような加熱脱水方法は、触媒の重合活性が低下し、好ましくない。加熱時間は0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。その際、脱水処理した後の層状ケイ酸塩の水分含有率が、温度200℃、圧力1mmHgの条件下で2時間脱水した場合の水分含有量を0重量%としたとき、3重量%以下、好ましくは1重量%以下、下限は0重量%以上であることが望ましい。本発明においては、脱水されて水分含有率が3重量%以下に調整された層状ケイ酸塩は、成分(A)等の他の触媒成分と接触する際に、同様の水分含有率を保つように取り扱われることが望ましい。
【0063】
触媒成分(A)のメタロセン化合物と触媒成分(B)の層状ケイ酸塩の使用割合は、特に限定されないが、以下の範囲が好ましい。触媒成分(A)の担持量は、層状ケイ酸塩担体1gあたり、0.0001〜5ミリモル、好ましくは0.0005〜0.5ミリモル、更に好ましくは0.001〜0.1ミリモル、特に好ましくは0.003〜0.03ミリモルである。
【0064】
1−3.任意触媒成分(C)
本発明において必要に応じて成分(C)として有機アルミニウム化合物が用いられる。有機アルミニウム化合物の具体例としてはAlR3−j(式中、RはC1−20の炭化水素基、Xは水素、ハロゲン、アルコキシ基、jは0<j≦3の数)で示されるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムメトキシド等のハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムが挙げられる。またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。
触媒成分(C)である有機アルミニウム化合物の使用量は、触媒成分(B)である層状ケイ酸塩1g当たり、0.01〜10000ミリモル、好ましくは0.1〜100ミリモル、より好ましくは0.2〜20ミリモル、更に好ましくは0.5〜10ミリモルである。
【0065】
1−4.オレフィン重合用触媒の製法
本発明のエチレン系マクロモノマーの製造方法に使用されるオレフィン重合用触媒は、上記必須触媒成分(A)、(B)、必要に応じて任意成分(C)を含んで製造される。本発明の上記触媒成分(A)〜(C)からオレフィン重合用触媒を得る際の各成分の接触方法は、特に限定されず、例えば、以下に示す(I)〜(IV)の方法が任意に採用可能である。
【0066】
(I)触媒成分(A)と、触媒成分(B)とを接触させた後、触媒成分(C)を接触させる。
(II)触媒成分(A)と触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(B)を接触させる。
(III)触媒成分(B)と触媒成分(C)とを接触させた後、触媒成分(A)を接触させる。
(IV)触媒成分(A)と触媒成分(C)とを接触させた接触生成物と、触媒成分(B)と触媒成分(C)とを接触させた接触生成物とを接触させる。
【0067】
これらの接触方法の中で(III)と(IV)が好ましく、(III)がより好ましい。いずれの接触方法においても、通常は窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気中、一般にベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素(通常炭素数は6〜12)、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサンなどの脂肪族あるいは脂環族炭化水素(通常炭素数5〜12)等の液状不活性炭化水素の存在下、撹拌下または非撹拌下に各成分を接触させる方法が採用される。この接触は、通常−100℃〜200℃、好ましくは−50℃〜100℃、さらに好ましくは0℃〜50℃の温度にて、5分〜50時間、好ましくは30分〜24時間、さらに好ましくは30分〜12時間で行うことが望ましい。
【0068】
また、触媒成分(A)、触媒成分(B)および触媒成分(C)の接触に際しては、上記した通り、ある種の成分が可溶ないしは難溶な芳香族炭化水素溶媒と、ある種の成分が不溶ないしは難溶な脂肪族または脂環族炭化水素溶媒とがいずれも使用可能である。
【0069】
各成分同士の接触反応を段階的に行う場合にあっては、前段で用いた溶媒などを除去することなく、これをそのまま後段の接触反応の溶媒に用いてもよい。また、可溶性溶媒を使用した前段の接触反応後、ある種の成分が不溶もしくは難溶な液状不活性炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン、デカン、ドデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの脂肪族炭化水素、脂環族炭化水素あるいは芳香族炭化水素)を添加して、所望生成物を固形物として回収した後に、あるいは一旦可溶性溶媒の一部または全部を、乾燥、濾別、デカンテーション等の手段により除去して所望生成物を固形物として取り出した後に、この所望生成物の後段の接触反応を、上記した不活性炭化水素溶媒のいずれかを使用して実施することもできる。本発明では、各成分の接触反応を複数回行うことを妨げない。
【0070】
触媒成分(A)、触媒成分(B)、任意成分(C)を、前記した接触方法(I)〜(IV)を適宜選択して相互に接触させ、しかる後、溶媒を除去することで、オレフィン重合用触媒を固体触媒として得ることができる。溶媒の除去は、常圧下または減圧下、0〜200℃、好ましくは20〜150℃、更に好ましくは20〜100℃で1分〜100時間、好ましくは10分〜50時間、更に好ましくは30分〜20時間で行うことが望ましい。
【0071】
なお、オレフィン重合用触媒は、以下に示す(V)、(VI)の方法によっても得ることができる。
(V)成分(A)と成分(B)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で成分(C)と接触させる。
(VI)成分(B)と成分(C)とを接触させて溶媒を除去し、これを固体触媒成分とし、重合条件下で成分(A)と接触させる。
上記(V)、(VI)の接触方法の場合も、成分比、接触条件および溶媒除去条件は、前記と同様の条件が使用できる。
【0072】
こうして得られるオレフィン重合用触媒は、必要に応じてモノマーの予備重合を行った後に使用しても差し支えない。
【0073】
2.本発明で製造されるエチレン系マクロモノマーの特性
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーは、下記条件(イ)〜(ハ)を満足する。
(イ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が1.0以上4.0未満
(ロ)炭素数1000個当たりのビニル基数(V)が0.25個〜10個であり、かつ、Z(=×Mn/14000)が0.50〜1.1である
(ハ)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)が3000〜100000である
【0074】
2−1.条件(イ)Mw/Mn
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は1.0以上4.0未満であり、好ましくは1.5以上3.5未満であり、より好ましくは1.8以上3.2未満であり、更に好ましくは2.0以上3.0未満である。
【0075】
Mw/Mnは小さい(すなわち単分散)程好ましいが、理論上1.0を下回ることはない。一方、Mw/Mnが4.0以上になると、マクロマー鎖の長さが不揃いとなるため、マクロマーあるいは末端ビニル基修飾後の樹脂としての機械的強度や接着強度が低下したりする場合がある。
【0076】
なお、本発明で、エチレン系マクロモノマーのMwやMnは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で測定したものをいう。
【0077】
保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行う。標準ポリスチレンとしては、例えば何れも東ソー(株)製の以下の銘柄を用いることができる。F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000。
各々が0.5mg/mLとなるように、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算は森定雄著「サイズ排除クロマトグラフィー」(共立出版)を参考に汎用較正曲線を用いる。その際使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PE:K=3.92×10−4、α=0.733
【0078】
なお、GPCの測定条件は、以下の通りである。
装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
試料の調製:試料は、ODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて、1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
なお、得られたクロマトグラムのベースラインと区間は、図1に例示されるように決める。
【0079】
2−2.条件(ロ)ビニル基数V
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーの炭素数1000個当たりのビニル基数(V)は0.25個〜10個であり、好ましくは0.28個〜7個であり、より好ましくは0.30個〜5個であり、更に好ましくは0.32個〜3個であり、かつ、Z(=×Mn/14000)は0.50〜1.1であり、好ましくは0.55〜1.0である。
【0080】
がこの範囲にあると、末端ビニル含有率の高いマクロモノマーとなり、末端ビニル基修飾によって官能基が沢山導入できたり、他のモノマーと共重合する場合は共重合効率が向上したりして好ましい。更に、Z値はマクロモノマー分子1本当たりの末端ビニル基数を近似する値であるが、Zが0.5とはマクロモノマーを製造した際の生成ポリマー2分子に1分子がマクロモノマー(末端ビニル基エチレン系低重合体)であることを示す。一方、Vが0.25未満、あるいはZが0.50未満ではマクロモノマー含量が低いために導入可能な官能基量が低下したり、共重合率が低下したりする場合があるので好ましくない。Vが10より大きかったり、あるいはZが1.1より大きいと、分子内に末端ビニル基を複数個含有するマクロモノマーが存在するので、架橋反応を起こしたりして、成形加工性や外観を悪化させる場合があるので好ましくない。
【0081】
なお、本発明で、エチレン系マクロモノマーの全1000炭素原子あたりのビニル基数(V)、ビニリデン基数(V)、ビニレン基数(V)、三置換不飽和結合数(V)は、H−核磁気共鳴法(H−NMR)で測定したものをいう。また、Z(=×Mn/14000)、Z(=×Mn/14000)、Z(=×Mn/14000)は、それぞれマクロモノマー分子1本当たりのビニリデン基数、ビニレン基数、三置換不飽和結合数を近似する値である。ビニル基数(V1)、ビニリデン基数(V2)、ビニレン基数(V3)、三置換不飽和結合数(V4)は、それぞれ以下の構造式で表わされる基を1個として数える。
【0082】
【化11】
【0083】
試料200mgをo−ジクロロベンゼン/重水素化臭化ベンゼン(CBr)=4/1(体積比)2.4mlおよび化学シフトの基準物質であるヘキサメチルジシロキサンと共に内径10mmφのNMR試料管に入れて窒素置換した後封管し、加熱溶解して均一な溶液としてNMR測定に供した。NMR測定は10mmφのクライオプローブを装着したブルカー・バイオスピン(株)のNMR装置AVANCEIII400を用いた。
H−NMRの測定条件は試料の温度120℃、パルス角4.5°、パルス間隔2秒、積算回数512回とした。
図2に、上記の手順で実施した2種類のエチレン系マクロモノマーのH−NMR測定結果を一例として示した。ここで、2aは本発明により得られたエチレン系マクロモノマーであり、2bは一般的なエチレン系マクロモノマーである。
全1000炭素原子あたりのビニル基数(V)、ビニリデン基数(V)、ビニレン基数(V)、三置換不飽和結合数(V)は、図2H−NMRスペクトルに示されるシグナル強度を用い、以下の式から求めた。
ビニル基数(V)=Ivi×1000/Itotal
ビニリデン基数(V)=Ivd×1000/Itotal
ビニレン基数(V)=Ivnl×1000/Itotal
三置換不飽和結合数(V)=Itri×1000/Itotal
ここで、Ivi、IvdIvnl、Itri、Itotalはそれぞれ、以下の式で示される量である。
Ivi=(I5.08〜4.84+I5.89〜5.69)/3
Ivd=(I4.82〜4.68)/2
Ivnl=(I5.52〜5.30)/2
Itri=I5.30〜5.08
Itotal=(I0.00〜5.85)/2
Iは積分強度を、Iの下つき添字の数値は化学シフトの範囲を示す。
例えばI5.52〜5.30は5.52ppmと5.30ppmの間に検出したプロトンシグナルの積分強度を示す。
化学シフトはヘキサメチルジシロキサンのプロトンシグナルを0.09ppmとして設定し、他のプロトンによるシグナルの化学シフトはこれを基準とした。
【0084】
2−3.条件(ハ)Mw
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)は3000〜100000、好ましくは、4000〜70000、より好ましくは、5000〜60000、更に好ましくは、10000〜55000である。
【0085】
Mwがこの範囲にあると、マクロモノマーとしての、あるいは、末端ビニル基修飾後の樹脂としての機械的強度や成形加工性が優れ、べとつきが少ないので取り扱いが容易である。一方、Mwが3000未満では機械的強度が低下したり、耐薬品性や熱安定性が低下したり、ベとつきが酷く取り扱いが困難となったり、他のモノマーと共重合して長鎖分岐ポリマーを製造しても長鎖分岐としての役割が弱かったりする場合があるので好ましくない。Mwが100000より大きいと、末端ビニル基の化学修飾反応や共重合反応が進行しにくかったり、溶融粘度が高くなって成形加工性が悪化したり、他の樹脂との混合が不均一となったりして外観を悪化させる場合があるので好ましくない。
【0086】
2−4.条件(二)分岐指数g’
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーは、示差屈折計、粘度検出器、および、光散乱検出器を組み合わせたGPC測定装置により測定される分岐指数g’の分子量3000から100万の間での最低値(g)が、好ましくは0.75〜1.00であり、より好ましくは0.80〜1.00であり、更に好ましくは0.85〜1.00である。
【0087】
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーのg値は大きい(分岐構造が少ない)程好ましい場合が多いが、分子中に特異な剛直主鎖構造が存在しない限り理論上1.0を大きく上回ることはない。一方、g値が0.75より小さいと分岐構造が多いため、溶融粘度が高くなって流動性が悪化したり、機械的強度や透明性が低下したり、導入官能基の効果が十分発揮しなかったりする場合があるので好ましくない。なお、本発明で、エチレン系重合体のg値は、下記のGPC−VIS測定から算出する分子量分布曲線や分岐指数(g’)を用いた長鎖分岐量の評価手法である。
【0088】
[GPC−VISによる分岐構造解析]
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いた。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technology社のDAWN−Eを用いた。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続した。移動相溶媒は、1,2,4−trichlorobenzene(酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。流量は1mL/分である。カラムは、東ソー社 GMHHR−H(S) HTを2本連結して用いた。カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとした。注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。MALLSから得られる絶対分子量(M)、慣性二乗半径(Rg)およびViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、以下の文献を参考にして計算を行った。
【0089】
参考文献:
1.Developments in polymer characterization,vol.4.Essex:Applied Science;1984.Chapter1.
2.Polymer,45,6495−6505(2004)
3.Macromolecules,33,2424−2436(2000)
4.Macromolecules,33,6945−6952(2000)
【0090】
[分岐指数(g)等の算出]
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度(ηbranch)と、別途、線形ポリマーを測定して得られる極限粘度(ηlin)との比(ηbranch/ηlin)として算出する。
ポリマー分子に長鎖分岐が導入されると、同じ分子量の線形のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると極限粘度が小さくなることから、長鎖分岐が導入されるに従い同じ分子量の線形ポリマーの極限粘度(ηlin)に対する分岐ポリマーの極限粘度(ηbranch)の比(ηbranch/ηlin)は小さくなっていく。したがって分岐指数(g’=ηbranch/ηlin)が1より小さい値になる場合には分岐が導入されていることを意味し、その値が小さくなるに従い導入されている長鎖分岐が増大していくことを意味する。特に本発明では、MALLSから得られる絶対分子量として、分子量3000から100万における上記g’の最低値を、gとして算出する。図3に上記GPC−VISによる解析結果の一例を示した。図3の左は、MALLSから得られる分子量(M)とRIから得られる濃度を元に測定された分子量分布曲線を、図3の右は、分子量(M)における分岐指数(g’)を表す。ここで、線形ポリマーとしては、直鎖ポリエチレンStandard Reference Material 1475a(National Institute of Standards & Technology)を用いた。
【0091】
2−5.条件(ホ)ビニリデン基数V
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーは、好ましくは、上記Vと炭素数1000個当たりのビニリデン基数(V)の比(V/V)が22以上であり、より好ましくは25以上であり、更に好ましくは30以上、特に好ましくは50以上である。上限は2000である。
【0092】
/Vがこの範囲にあると、末端ビニル含有率の高いマクロモノマーとなり、末端ビニル基修飾によって官能基が沢山導入できたり、他のモノマーと共重合する場合に共重合効率が向上したりして好ましい場合がある。ただし、官能基導入反応の種類や共重合させる他のモノマーの種類や重合触媒の種類によっては、V/Vが低値であっても(すなわちビニリデン基数が多くても)マクロモノマーとしての性能を悪化させない場合があることは従来公知の通りである。共重合するモノマーがエチレンや他のα−オレフィンである場合、V/Vが大きいことが望ましく、22未満では共重合率が低下したりする場合があるので好ましくない。求電子的付加反応やラジカル反応によって官能基修飾を行うような場合、末端ビニル基だけでなく、ビニリデン基、ビニレン基、三置換不飽和結合の含有率が高いと官能基導入に有利な場合があり、この場合は上記Z、Z、Z、Zの総和(Z+Z+Z+Z)が0.8以上であると好ましく、0.9以上であるとより好ましく、1.0以上であると更に好ましく、1.2以上であると特に好ましい。
【0093】
2−6.本発明のエチレン系マクロモノマーの組成
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーは、エチレン単独重合体、または、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体であり、好ましくはエチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとの共重合体である。ここでエチレン単独重合体とは、モノマー原料としてエチレンのみを反応器に供給することによって製造された重合体をいう。また、ここで用いられるコモノマーであるα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、3−メチルブテン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ペンテン−1、デセン−1、テトラデセン−1、ヘキサデセン−1、オクタデセン−1、エイコセン−1等が挙げられる。更にビニルシクロヘキサンあるいはスチレンおよびその誘導体などのビニル化合物も使用することが出来る。また、これらα−オレフィンは1種のみでもよく、また2種以上が併用されていてもよい。これらのうち、より好ましいα−オレフィンはプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等の炭素数3〜10のものであり、更に好ましいα−オレフィンはブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1であり、特に好ましくはヘキセン−1である。
【0094】
本発明のエチレン系重合体中におけるエチレンとα−オレフィンの割合は、エチレン約70〜100重量%、α−オレフィン0〜約30重量%であり、好ましくはエチレン約80〜100重量%、α−オレフィン0〜約20重量%であり、より好ましくはエチレン約85〜100重量%、α−オレフィン0〜約15重量%であり、更に好ましくはエチレン約88〜100重量%、α−オレフィン0〜約12重量%である。エチレン含量がこの範囲内であれば、機械的強度や成形加工性が格段に優れ、べとつきも少ない。
【0095】
共重合は、交互共重合、ランダム共重合、ブロック共重合のいずれであっても差し支えない。もちろん、エチレンやα―オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能であり、この場合、スチレン、4−メチルスチレン、4−ジメチルアミノスチレン等のスチレン類、1,4−ブタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン等のジエン類、ノルボルネン、シクロペンテン等の環状化合物、ヘキセノール、ヘキセン酸、オクテン酸メチル等の含酸素化合物類、等の重合性二重結合を有する化合物を挙げることができる。ただしジエン類を使用する場合は長鎖分岐構造が上記条件(4)を満たす範囲内において使用しなくてはいけないことは言うまでもない。
【0096】
3.本発明のエチレン系マクロモノマーを製造する重合条件
本発明により得られるエチレン系マクロモノマーは、上述のオレフィン重合用触媒を用いて、エチレンを単独重合またはα−オレフィンと共重合することにより製造される。ここで、コモノマーであるα−オレフィンとしては、上述したように炭素数3〜20のα−オレフィンが使用可能であり、2種類以上のα−オレフィンをエチレンと共重合させることも可能であり、該α−オレフィン以外のコモノマーを少量使用することも可能である。
【0097】
本発明では、好適な重合条件として下記(1)〜(3)を選択した場合、本発明のエチレン系マクロモノマーを優れた活性と高い生産性で安定に生産することが可能であるので望ましい。
[重合条件]
(1)重合温度:30℃以上90℃未満
(2)エチレン分圧:0.3MPa以上3MPa未満
(3)重合時間:0.3時間以上30時間未満
【0098】
3−1.重合温度
本発明によるエチレンの重合温度は、好ましくは、30℃以上90℃未満、より好ましくは、55℃〜88℃、更に好ましくは60℃〜86℃である。重合温度が30℃より低いと重合活性が低かったり、Mwが大きくなり過ぎたりする場合があるので好ましくない。重合温度が90℃以上になるとマクロマーが溶融し易くなって、不定形ポリマーとして回収せざるを得なくなって生産性が低下する場合がある。本発明の必須成分(A)(B)を含むオレフィン重合用触媒はこのような好適な重合温度範囲において優れた特性を有するエチレン系マクロモノマーを製造するのに極めて優れている。
【0099】
3−2エチレン分圧
本発明によるエチレンの重合におけるエチレン分圧は、好ましくは、0.3MPa以上3MPa未満、より好ましくは、0.5MPa〜2.5MPa、更に好ましくは0.9MPa〜2MPaである。エチレン分圧が0.3MPaより低いと重合活性が低かったり、Mwが小さくなり過ぎたりする場合があるので好ましくない。エチレン分圧が3MPa以上になるとMwが大きくなり過ぎたり、末端ビニル基数が低下したり、重合反応器や後処理設備に過剰な耐圧が必要になって経済性を悪化させたりする場合があり、好ましくない。本発明の必須成分(A)(B)を含むオレフィン重合用触媒はこのような好適なエチレン分圧範囲において優れた特性を有するエチレン系マクロモノマーを製造するのに極めて優れている。
【0100】
3−3.重合時間
本発明によるエチレンの重合時間は、好ましくは0.3時間以上30時間未満、より好ましくは、0.6時間〜12時間、更に好ましくは0.8時間〜7時間である。重合時間が0.3時間より短いと触媒当りのマクロマー収率が低かったりして経済的でない。重合時間が30時間以上になると重合反応器体積当たりのマクロマー生産量が低下してやはり経済的ではない。本発明の必須成分(A)(B)を含むオレフィン重合用触媒はこのような好適な重合時間範囲において優れた重合活性を有するので極めて優れている。
【0101】
本発明において、上記重合反応は、好ましくは気相連続重合装置またはスラリー連続重合装置を使用して行うことができる。連続重合装置とは、触媒、モノマー等、重合に必要な原料等を連続的に供給可能な装置と生成マクロモノマーを連続的に排出可能な装置を有する重合反応装置のことを言う。気相連続重合の場合、実質的に酸素、水等を断った状態で、エチレンやコモノマーのガス流を導入、流通、または循環した反応器内においてエチレン等を重合させる。また、スラリー連続重合の場合、イソブタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素等から選ばれる不活性炭化水素溶媒の存在下または不存在下で、エチレン等を連続重合させる。また、液状エチレンや液状プロピレン等の液体モノマーも溶媒として使用できることは言うまでもない。
【0102】
生成マクロモノマーの分子量は、触媒成分(A)や触媒成分(B)の種類、触媒のモル比、重合温度等の重合条件を変えることによってもある程度調節可能である。また、重合系中に、水分除去を目的とした成分、いわゆるスカベンジャーを加えても何ら支障なく実施することができる。かかるスカベンジャーとしては、任意触媒成分(C)である有機アルミニウム化合物や、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛などの有機亜鉛化合物、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、エチルブチルマグネシウムなどの有機マグネシウム化合物、エチルマグネシウムクロリド、ブチルマグネシウムクロリドなどのグリニヤ化合物などが使用される。これらのなかでは、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、エチルブチルマグネシウムが好ましく、トリエチルアルミニウムが特に好ましい。
【0103】
モノマー量、重合圧力、重合温度等の重合条件が互いに異なる2段階以上の多段階重合方式においても、重合条件を適切に設定するならば、本発明のエチレン系マクロモノマーを製造することが可能であり得るだろうが、本発明のエチレン系重合体は、一段階重合反応により製造される場合、複雑な重合運転条件を設定することなく、より経済的に製造できるので好ましい。
【0104】
本発明の製造方法によって製造されたエチレン系マクロモノマーは、重合反応装置から単離してグラニュール、ペレット、塊状物、シート、ストランド、溶融体、スラリー、溶液等可能な形態の製品として各種用途に供することが可能である。また、マクロマー製造用重合反応器と連結された多段重合装置の二段目以降の重合反応器において、エチレンやα−オレフィンをはじめとする他のモノマーと共重合させることも可能であり、この場合、有益な長鎖分岐構造を有する各種ポリオレフィン樹脂の製造が可能となるので好ましい。
【実施例】
【0105】
以下においては、実施例及び比較例を挙げて本発明をその実施態様を通じてさらに詳細に説明し、本発明の卓越性と本発明の構成における優位性を実証するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の触媒合成工程および重合工程は、すべて精製窒素雰囲気下で行い、かつ、使用した溶媒は、モレキュラーシーブ4A、13X等で脱水精製したものを用いた。
【0106】
1.各種評価(測定)方法
(1)MFR:
JIS K6760に準拠し、190℃、2.16kg荷重で測定した。FR(フローレイト比)は、190℃、10kg荷重の条件で同様に測定したMFRであるMFR10kgとMFRとの比(=MFR10kg/MFR)から算出した。
【0107】
(2)分子量分布(Mw/Mn)の測定:
前述した「2.本発明で製造されるエチレン系マクロモノマーの特性」の「2−1.条件(イ)Mw/Mn」の項に記載の方法で測定した。
【0108】
(3)V、V、V、Vの置換基数の測定:
前述した「2.本発明で製造されるエチレン系マクロモノマーの特性」の「2−2.条件(ロ)ビニル基数V」の項に記載の方法で測定した。
【0109】
(4)分岐指数(g’)の測定:
前述した「2.本発明で製造されるエチレン系マクロモノマーの特性」の「2−4.条件(二)分岐指数(g’)」の項に記載の方法で測定した。
【0110】
2.使用材料
(1)架橋シクロペンタジエニルインデニル化合物の合成;
ジメチルシリレン(3−メチル−4−(2−(5−メチル)−フリル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(錯体1)を、特開2013−227271号公報(特許文献6)[0159]〜[0165]記載の方法に従い、以下の手順で合成した。
【0111】
(1−1)2−ブロモフェニル−2−クロロエチルケトンの合成
100mlフラスコに、2−ブロモ安息香酸(5.30g、26.4mmol)と塩化チオニル25mlを加え、2時間還流した。反応後、過剰の塩化チオニルを減圧留去し得られた酸クロリド体5.50gを精製することなく次の反応に用いた。
100mlフラスコに酸クロリド体(5.00g、22.7mmol)とジクロロメタン50mlを加え溶液とした後、さらに塩化アルミニウム(3.02g、22.7mmol)を加え、20℃でエチレンを4時間吹き込んだ。反応を4Nの塩酸でクエンチし、有機相と水相を分離した後、水相をメチル−t−ブチルエーテル50mlで3回洗浄し、有機相を集め水50mlで3回、飽和炭酸水素ナトリウム水100ml、続いて飽和食塩水100mlで洗浄した。硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去することで2−ブロモフェニル−2−クロロエチルケトンを4.80g(収率85%)得た。さらなる精製は行なわず次の反応に用いた。
【0112】
(1−2)7−ブロモ−1−インダノンの合成
100mlフラスコに塩化アルミニウム(7.40g、55.6mmol)と塩化ナトリウム(2.15g、37.1mmol)を加え、130℃に加熱した後、2−ブロモフェニル−2−クロロエチルケトン(4.60g、18.5mmol)をゆっくりと加え、混合物を160℃で1時間攪拌した。反応後、30℃に冷却し、氷水でクエンチした。濃塩酸でpH=5に調整した後、有機相と水相を分離し、水相をジクロロメタン100mlで3回洗浄し、有機相を集め水100ml、飽和食塩水100mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥して、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル/酢酸エチル=30/1)で精製し7−ブロモ−1−インダノン1.60g(収率33%)を得た。
【0113】
(1−3)7−(2−(5−メチル)−フリル)−1−インダノンの合成
100mlフラスコに2−メチルフラン(0.933g、11.4mmol)とTHF10mlを加え溶液とした後、−30℃でn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M、4.70ml、11.4mmol)を加え、室温で2時間攪拌した。別に準備した100mlフラスコに塩化亜鉛(1.55g、11.4mmol)とTHF10mlを加え、続いて0℃で上記反応溶液を加え、室温で1時間攪拌した。さらに別に準備した100mlフラスコにヨウ化銅(I)(90mg、0.473mmol)、Pd(dppf)Cl2(177mg、0.236mmol)、7−ブロモ−1−インダノン(2.00g、9.45mmol)とDMA10mlを加えた懸濁液に、上記反応物を加え、還流を15時間行なった。室温まで冷却し、水50mlを加え、酢酸エチル50mlで2回抽出を行なった。有機相を集め、水50mlで2回、飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル/酢酸エチル=20/1)で精製し7−(2−(5−メチル)−フリル)−1−インダノン0.70g(収率35%)を得た。
【0114】
(1−4)1−メチル−7−(2−(5−メチル)−フリル)−インデンの合成
100mlフラスコに7−(2−(5−メチル)−フリル)−1−インダノン(1.40g、6.59mmol)とTHF20mlを加え溶液とした後、−78℃でメチルリチウム/ジエチルエーテル溶液(1.6M、7.5ml、11.9mmol)を加え、室温で10時間攪拌した。反応を飽和塩化アンモニウム水溶液20mlでクエンチし、揮発成分を減圧留去した。残った溶液を酢酸エチル50mlで2回抽出し、有機相を集めて飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらなる精製は行なわず次の反応に用いた。
100mlフラスコに上記粗生成物とトルエン30mlを加え溶液とした後、p−トルエンスルホン酸(62.0mg、0.330mmol)を加え、130℃で2時間攪拌した。攪拌中はディーンスタークトラップを用いて生成する水を除いた。室温まで冷却し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液30mlを加え、有機相を分離した。水相を酢酸エチル50mlで3回抽出した後、有機相を集め飽和食塩水50mlで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル)で精製し1−メチル−7−(2−(5−メチル)−フリル)−インデン0.850g(収率61%)を得た。
【0115】
(1−5)ジメチル(シクロペンタジエニル)(3−メチル−4−(2−(5−メチル)
−フリル)−インデニル)シランの合成
100mlフラスコに1−メチル−7−(2−(5−メチル)−フリル)−インデン(4.80g、22.8mmol)とTHF60mlを加え溶液とした後、−78℃でn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M、11.0ml、27.4mmol)を加え、室温で3時間攪拌した。別に準備した200mlフラスコにジメチルジクロロシラン(5.89g、45.8mmol)とTHF10mlを加え溶液とした後、上記反応物を−78℃で滴下し、室温で12時間攪拌した。揮発成分を減圧留去し、再びTHF20mlを加えて溶液とした後、ソジウムシクロペンタジエニリド/THF溶液(2M、12.0ml、24.0mmol)を−20℃でゆっくりと滴下し、室温で1時間攪拌した。揮発成分を減圧留去することで粗生成物を得た。さらにシリカゲルカラム(石油エーテル)で精製しジメチル(シクロペンタジエニル)(3−メチル−4−(2−(5−メチル)−フリル)−インデニル)シラン4.20g(収率55%)を得た。
【0116】
(1−6)ジメチルシリレン(3−メチル−4−(2−(5−メチル)−フリル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(錯体1)の合成
200mlフラスコにジメチル(シクロペンタジエニル)(3−メチル−4−(2−(5−メチル)−フリル)−インデニル)シラン(2.00g、6.00mmol)とジエチルエーテル40mlを加え溶液とした後、−78℃でn−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(2.5M、5.1ml、12.6mmol)を加え、室温で2時間、さらに50℃で1時間攪拌した。揮発成分を減圧留去し、続いてジクロロメタン160mlを加え、−78℃で四塩化ジルコニウム(1.53g、6.60mmol)を加えた後、室温で12時間攪拌した。反応混合物をろ過し、得られたろ液を濃縮することでジメチルシリレン(3−メチル−4−(2−(5−メチル)−フリル)−インデニル)(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド(錯体1)2.1g(収率70%)を得た。
【0117】
1H−NMR値(CDCl3):δ0.80(s,3H),δ1.04(s,3H),δ2.25(s,3H),δ2.36(s,3H),δ5.75(m,1H),δ5.77(s,1H),δ5.87(m,1H),δ6.07(m,1H),δ6.40(d,1H),δ6.81(m,1H),δ6.85(m,1H),δ7.06(dd,1H),δ7.40(m,2H)。
【0118】
(2)層状ケイ酸塩の化学処理
市販の膨潤性モンモリロナイトの造粒分級品(「ベンクレイSL」水澤化学社製、平均粒径27μm)37kgを25%硫酸149kg中に分散させ、90℃で2時間撹拌した。これを脱塩水にて濾過・洗浄した後、得られた固体ケーキを110℃で10時間乾燥した。得られた乾燥モンモリロナイト中の塊状物を目開き75μmの篩によって取り除き、篩を通過した粒子を約20kg得た。こうして得られた流動性のよい硫酸処理モンモリロナイト粒子1kgを、更に、硫酸亜鉛7水和物0.2kgを溶解させた脱塩水3.2kgに分散させ、室温で1時間撹拌処理し、同様にして濾過・洗浄、乾燥、篩分けして流動性のよい金属塩処理モンモリロナイト粒子を得た。
【0119】
3.エチレン系マクロモノマーの製造
〔実施例1〕
(1)金属塩処理層状ケイ酸塩粒子のトリエチルアルミニウム処理
窒素雰囲気下、300ml二口フラスコに2.使用材料(2)で得た流動性のよい金属塩処理モンモリロナイト粒子3.0gを入れ、200℃のオイルバスで加熱しながら真空ポンプで2時間減圧乾燥した。この乾燥済みモンモリロナイトに室温で脱水ヘプタン75mlを加えた。マグネティックスタラーで撹拌しながらトリエチルアルミニウム/ヘプタン溶液(0.61mol/L)9.6mlをゆっくり添加し、室温で1時間撹拌した。スラリーを静置させた後、上澄み液80mlを抜出し、再び脱水ヘプタン75mlを加え室温で3分間撹拌した。スラリーを静置させた後、上澄み液72mlを抜出した。最後に脱水ヘプタン192mlを加えスラリー濃度15mg/mlのトリエチルアルミニウム処理モンモリロナイトのスラリーを調製した。
【0120】
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造
2.使用材料(1)で得られた錯体1と(3)で得られたトリエチルアルミニウム処理モンモリロナイトを用いてエチレン・1−ヘキセン共重合体を製造した。
すなわち、攪拌および温度制御装置を有する内容積1リットルのステンレス鋼製オートクレーブに、充分脱水および脱酸素したヘプタン500ml、トリエチルアルミニウム57mg、1−ヘキセン10mlを導入した後、撹拌しながら75℃へ昇温した。エチレンを分圧が1.4MPaになるまで導入した。上記トリエチルアルミニウム処理モンモリロナイトのヘプタンスラリー2.30ml(34.5mg)と上記錯体1/トルエン溶液(1μmol/ml)2.70mlを触媒フィーダーに入れ、アルゴンガスで圧入し、エチレン分圧1.4MPa、温度75℃を保って60分間重合を継続した。
その結果、52.3gのエチレン・1−ヘキセン共重合体が生成した。得られた共重合体のMFRは68.6g/10分であった。結果を表2、表3にまとめた。
【0121】
〔比較例1〕
(1)オレフィン重合用触媒の合成
特開2013−227271号公報(特許文献6)の実施例1に記載されている手順に従い、メタロセン化合物として2.使用材料(1)で得られた錯体1を用いて触媒を合成した。具体的には次の通りである。
窒素雰囲気下、200ml二口フラスコに600℃で5時間焼成したシリカ(市販品;平均粒径45μm)5gを入れ、150℃のオイルバスで加熱しながら真空ポンプで1時間減圧乾燥した。別途用意した100ml二口フラスコに窒素雰囲気下で実施例1(1)で得られた錯体1(62mg)を入れ、脱水トルエン13.4mlで溶解した。この錯体1のトルエン溶液に室温でアルベマール社製の20%メチルアルミノキサン/トルエン溶液8.6mlを加え30分間撹拌した。真空乾燥済みシリカの入った200ml二口フラスコを40℃のオイルバスで加熱および撹拌しながら、錯体1とメチルアルミノキサンの反応物のトルエン溶液を全量加えた。40℃で1時間撹拌した後、40℃に加熱したままトルエン溶媒を減圧留去することで固体触媒を得た。
【0122】
(2)エチレン・1−ヘキセン共重合体の製造
トリエチルアルミニウム処理モンモリロナイトのヘプタンスラリーと錯体1/トルエン溶液の代わりに、上記(1)で得られた固体触媒100mgを用いた以外は、実施例1(2)と同様に、エチレン・1−ヘキセン共重合体を製造した。
その結果、16.8gのエチレン・1−ヘキセン共重合体が生成した。得られた共重合体のMFRは1.2g/10分であった。結果を表2、表3にまとめた。
【0123】
〔実施例2〕
エチレンを分圧が2.0MPaになるまで導入した以外は、実施例1(2)と同様に、エチレン・1−ヘキセン共重合体を製造した。
その結果、83.5gのエチレン・1−ヘキセン共重合体が生成した。得られた共重合体のMFRは43.3g/10分であった。結果を表2、表3にまとめた。
【0124】
〔実施例3〕
重合温度を65℃とし、エチレンを分圧が2.0MPaになるまで導入した以外は、実施例1(2)と同様に、エチレン・1−ヘキセン共重合体を製造した。
その結果、45.0gのエチレン・1−ヘキセン共重合体が生成した。得られた共重合体のMFRは13.7g/10分であった。結果を表2、表3にまとめた。
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
4.評価
表2及び表3に示す実験結果を参酌しながら、実験結果を説明する。
実施例1は、触媒の重合活性が良好であり、メルトフローレート(MFR)の点でも生産性の障害にならない良好な流動性を示した。実施例1で得られたエチレン系マクロモノマー(エチレン・1−ヘキセン共重合体)の特性をみると、Mw/Mn値(条件(イ))が2.2であることから狭い分子量分布を有し、炭素数1000個当たりのビニル基数(V)(条件(ロ−1))が0.51であり、Z(=×Mn/14000)(条件(ロ−2))が0.60であり、かつV/V値(条件(ホ))が51超であることから良好な重合反応性を発揮できる高い末端ビニル含有率を有するが成形加工性等を悪化させるほど過剰な量の末端ビニルを含んでおらず、Mw値(条件(ハ))が36200であることから成形加工性等の点で良好な低分子量を有し、分子量3000から100万の間での分岐指数g’の最低値(gL)(条件(ニ))が0.92であることから分岐構造が少なくてマクロモノマーとして好ましく、エチレン以外のα−オレフィン含量も適切であった。
実施例2は、触媒成分当りのマクロモノマーの生産性を向上させることを目的として、重合条件のエチレン分圧を大きくしたこと以外は実施例1と同様に重合反応を行ったところ、狙い通り触媒の重合活性が実施例1よりも大きくなった。また、得られたマクロモノマーの物性は実施例1で得られたものと同様に良好であった。
実施例3は、重合体粒子の溶融付着が生じにくい低温重合でもマクロモノマーが高い生産性で製造可能か確認することを目的として、重合条件のエチレン分圧を大きくし、重合温度を低くしたこと以外は実施例1と同様に重合反応を行ったところ、触媒の重合活性が実施例1よりも小さくなったが、重合温度が低いことを考慮すると触媒の重合活性は良好であり、比較例1よりも遙かに高い重合活性であった。また、得られたマクロモノマーの物性は実施例1で得られたものと同様に良好であった。
一方、比較例1は、触媒成分(A)として実施例1と同じ錯体1を用いるが、触媒成分(B)層状ケイ酸塩を用いる代わりにメチルアルミノキサンを用いて固体触媒を合成し、当該固体触媒を用いて実施例1と同じ条件でエチレン系マクロモノマー(エチレン・1−ヘキセン共重合体)を製造した実験例である。比較例1を実施例1と対比すると、触媒の重合活性が低く、メルトフローレート(MFR)の点では明らかに流動性が悪かった。
比較例1で得られたエチレン系マクロモノマーの特性をみると、Mw/Mn値(条件(イ))が4.0であることから実施例1よりも広い分子量分布を有し、炭素数1000個当たりのビニル基数(V)(条件(ロ−1))が0.42であり、Z(=×Mn/14000)(条件(ロ−2))が0.53であり、かつV/V値(条件(ホ))が21であることから実施例1よりも低い末端ビニル含有率を有し、Mw値(条件(ハ))が71500であることから成形加工性等の点で実施例1よりも高い分子量を有し、分子量3000から100万の間での分岐指数g’の最低値(gL)(条件(ニ))が0.54であることから実施例1よりも分岐構造が多かった。
また比較例1で得られたエチレン系マクロモノマーは、炭素数1000個当たりのビニレン基数(V)、炭素数1000個当たりの三置換不飽和結合数(V)、これらに対応するマクロモノマー分子一本当たりのビニレン基数の近似値(Z×Mn/14000)およびマクロモノマー分子一本当たりの三置換不飽和結合数の近似値(Z×Mn/14000)が、実施例1と比べて低かった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
以上から明らかなように、本発明のエチレン系マクロモノマーの製造方法は、末端ビニル化率が高く、狭い分子量分布と比較的低分子量を有する反応性に富んだエチレン系マクロマーを、格段に優れた活性と高い生産性で製造可能である。
したがって、このような経済的に有利な本発明のエチレン系マクロモノマーの製造方法の工業的価値は極めて大きい。
図1
図2
図3