(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、人工芝は、パイルの基となるヤーンを基材上に植設した後、この基材とヤーンとを含む人工芝の中間体を高温環境下で乾燥させることで製造される。このとき、通常、ヤーンの種類が異なると、熱収縮率も異なるため、最終的に製造される人工芝においては、パイルの長さがバラつく結果となる。しかしながら、このような芝丈のムラは、光の反射加減の相違を生み、競技者から見た時の色味に影響を与え、人工芝の風合いを損ない得る。また、芝丈のムラは、外観以外の性能にも影響を与え得る。
【0005】
本発明は、芝葉を模した異なる種類のパイルを備えつつも、芝丈のムラの低減された人工芝及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1観点に係る人工芝の製造方法は、横断面形状及び繊度の少なくとも一方が異なる第1ヤーン及び第2ヤーンを含む2種類以上のヤーンを製造するステップと、前記2種類以上のヤーンを基材上に植設することにより、前記2種類以上のヤーンから形成される芝葉を模したパイルを有する前記人工芝の中間体を製造するステップと、前記中間体を高温環境下に置き、前記パイルを熱収縮させるステップとを含む。また、前記熱収縮後において、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンから形成される前記パイルの芝丈が同一である。
【0007】
本発明の第2観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点に係る人工芝の製造方法であって、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンから形成される前記パイルは、前記熱収縮時の熱収縮率が同一である。
【0008】
本発明の第3観点に係る人工芝の製造方法は、第2観点に係る人工芝の製造方法であって、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンは、結晶配向度が同一である。
【0009】
本発明の第4観点に係る人工芝の製造方法は、第3観点に係る人工芝の製造方法であって、前記2種類以上のヤーンを製造するステップは、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンを異なる延伸倍率で延伸するステップを含む。
【0010】
本発明の第5観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第4観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記2種類以上のヤーンを製造するステップは、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンを3以上かつ6以下の延伸倍率で延伸するステップを含む。
【0011】
本発明の第6観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第5観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンは、同じ材料から構成されている。
【0012】
本発明の第7観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第6観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンの扁平率(横断面の長軸方向の長さ/横断面の短軸方向の長さ)の差が、3以下である。
【0013】
本発明の第8観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第7観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記第1ヤーン及び前記第2ヤーンの繊度は、1500〜5000dtex/本である。
【0014】
本発明の第9観点に係る人工芝は、基材と、前記基材上に起立する芝葉を模した多数のパイルとを備える。前記多数のパイルは、横断面形状及び繊度の少なくとも一方が異なるが、芝丈が同一である第1パイル及び第2パイルを含む2種類以上のパイルを含む。
【0015】
本発明の第10観点に係る人工芝は、第9観点に係る人工芝であって、前記第1パイル及び前記第2パイルは、結晶配向度が同一である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、芝葉を模した異なる種類のパイルを備えつつも、芝丈のムラの低減された人工芝が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る人工芝及びその製造方法について説明する。
【0019】
<1.人工芝>
本実施形態に係る人工芝1は、サッカー場やラグビー場、野球場等の各種運動競技施設において、アスファルト面や地面等の設置面上に設置される。
図1に示すように、人工芝1は、基材2と、基材2上に起立する芝葉を模した多数のパイル3とを有する。基材2は、シート状に形成されており、パイル3は、基材2上に所定の間隔をあけて植設されている。また、基材2の裏面側には、パイル3が抜け落ちるのを防止するためバッキング剤が塗布され、バッキング層4が形成されている。
【0020】
基材2の材質及び形態は、特に限定されないが、例えば、基材2は、樹脂材料からなる平織布として形成することができる。樹脂材料としては、典型的には、ポリプロピレンやポリエチレン等の熱可塑性樹脂を選択することができる。
【0021】
パイル3の材質及び形態は、芝葉の外観を実現することができる限り、特に限定されないが、例えば、パイル3は、樹脂材料からなる扁平なフィラメント糸(ヤーン)を用いて形成することができる。樹脂材料としては、典型的には、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂を選択することができる。また、本実施形態のパイル3は、タフティングマシンを用いて、パイル3となるプラスチック糸(ヤーン)を基材2に縫い込むことにより、基材2に対して固定されている。基材2の表面からパイル3の先端までの長さW1(平均値)は、特に限定されないが、20mm≦W1(平均値)<50mmと比較的短くすることもできるし(一般にショートパイルと呼ばれる)、50mm≦W1(平均値)≦70mmと比較的長くすることもできる(一般にロングパイルと呼ばれる)。
【0022】
バッキング層4の材質も、特に限定されないが、例えば、バッキング層4は、ポリエチレンとSBRラテックスの混合体から構成することができる。なお、バッキング層4は、省略することもできる。
【0023】
また、基材2の表面上においてパイル3間には、充填材5が充填される。この充填材5は、プレーヤーがプレー中に怪我をしないようにするためのクッション材としての役割を果たす他、芝葉を保護することもできる。また、充填材5は、競技に使用されるボールの弾み具合を調整したり、選手の走り易さをコントロールすることも可能であり、人工芝1上での競技のプレー性能を向上させることもできる。なお、このような充填材5は、省略することも可能であるが、パイル3がロングパイルと呼ばれる比較的高さのあるパイルである場合に、特に好ましく使用される。
【0024】
充填材5としては、弾性充填材5a及び硬質充填材5bの少なくとも一方を用いることができる。弾性充填材としては、例えば、廃タイヤの破砕品等からなるゴムチップを用いることができる。硬質充填材としては、例えば、砂を用いることができる。
図1の例では、パイル3間に、硬質充填材5b及び弾性充填材5aの両方が充填されている。
【0025】
基材2上のパイル3には、異なる種類のパイル3が含まれている。ここで、パイル3の種類が異なるとは、パイル3の横断面形状及び繊度の少なくとも一方が異なることを言う。パイル3を形成するためのヤーンの種類が異なるというときも、同様であり、ヤーンの横断面形状及び繊度の少なくとも一方が異なることを言う。また、横断面形状とは、パイル3又はヤーンの延びる方向に直交する断面の形状を意味し、繊度とは、パイル3又はヤーンの単位長さ当たりの重量を意味する。
【0026】
本実施形態では、基材2上には2種類のパイル3が植設されており、以下、これらのパイルを第1パイル及び第2パイルと呼ぶ。第1パイル及び第2パイルの横断面形状は、互いに異なっており、各々、三角形、四角形、楕円形、星形等の様々な形状(
図2参照)とすることができる。例えば、第1パイルを三角形とし、かつ、第2パイルを四角形とすることもできるし、第1パイル及び第2パイルを異なる三角形とすることもできる。
【0027】
ここで、パイル3の横断面の長軸方向の長さをLとし、横断面の短軸方向の長さをHとし、パイル3の横断面の扁平率をL/Hと定義する(
図2参照)。このとき、第1パイルの扁平率と第2パイルの扁平率との差は、これらのパイルにより再現される芝葉の外観に統一感を持たせる観点からは、3以下であることが好ましい。
【0028】
また、本実施形態では、第1パイル及び第2パイルは、繊度も異なる。
【0029】
以上のとおり、本実施形態では、2種類のパイルにより芝葉が再現される。その結果、2種類のパイルの性質を組み合わせることで、人工芝1に様々な性能を容易に与えることができる。なお、ここでいう性能とは、例えば、天然芝に似た風合いといった外観、長期間使用できる耐久性、夏場でも快適なプレーを可能にする遮熱性等である。
【0030】
一方で、第1パイル及び第2パイルは、芝丈、すなわち、基材2の表面からパイル3の先端までの長さW1が同一である。ただし、ここでいう「同一」とは、W1が完全に同一であることのみを意味するのではなく、製造誤差を考慮し、±5%以内の誤差を許容するものとする。例えば、W1の設計目標値が60mmである場合、57mm≦W1≦63mmを満たすパイル3は、同一の芝丈であると言うことができる。また、パイル3は、基材2上で自重等により大なり小なり傾くが、ここでいうW1とは、パイル3を直線状に伸ばしたときの長さである。以上より、第1パイル及び第2パイルの芝丈W1が実質的に均等となり、芝丈W1のムラが低減される。
【0031】
また、第1パイル及び第2パイルは、結晶配向度が同一であることが好ましい。ただし、結晶配向度とは、高分子中の結晶領域が一定方向にどの程度配列しているかを示す指標である。また、結晶配向度が「同一」とは、結晶配向度が完全に同一であることのみを意味するのではなく、一定の誤差を許容し、差が0.03以内であれば同一であるものとする。なお、結晶配向度は、後述する方法で測定されるものとする。
【0032】
第1パイル及び第2パイルの材質は、同じものとすることも、異なるものとすることもできる。しかしながら、生産性やコスト面等の観点からは、同じものとすることが好ましい。
【0033】
図1に示すとおり、本実施形態のパイル3は、基材2上の各植設点P1において、複数本ずつ(
図1の例では、8本ずつ)植設されている。特に本実施形態では、同じ植設点P1において、第1パイル及び第2パイルが各々4本ずつ植設されている(
図1参照)。しかしながら、同じ植設点P1におけるパイル3の合計本数、及び、同じ植設点P1における第1パイル及び第2パイルのそれぞれの本数は、適宜変更することができる。本実施形態とは異なり、1つの植設点P1当たりの第1パイル及び第2パイルの本数は、一致していなくてもよい。
【0034】
<2.製造方法>
次に、人工芝1の製造方法の一例について説明する。まず、パイル3を形成するための樹脂材料を用意する。この樹脂材料は、例えば、密度0.926g/cm
3の直鎖状低密度ポリエチレンとすることができる。
【0035】
次に、以上の樹脂材料を押出機に投入し、所定の温度条件下で溶融押出し成形を行う。これにより、押出機の開口から、糸状の樹脂材料が押し出される。このとき、例えば、押出機のノズルの径φは、60mmとすることができ、温度条件は、180℃とすることができ、押出し速度は、0.9g/10分とすることができる。
【0036】
続いて、押出機から押し出された糸状の樹脂材料を水槽内で冷却固化し、この糸を一軸延伸加工する。さらにその後、熱水槽内で弛緩熱処理を行うことで、ヤーンが製造される。このとき、例えば、冷却固化を行う水槽の温度は、30℃とすることができる。また、一軸延伸の態様としては、ロール延伸により、90℃〜100℃の温水槽内で一軸延伸を行うことができる。弛緩熱処理を行う熱水槽の温度は、90℃〜100℃とすることができる。弛緩熱処理後、ヤーンは巻き取られ、ヤーンロールとなる。
【0037】
本実施形態では、以上の製造方法に従って、異なる種類のヤーンが形成される。より具体的には、2種類のパイルを形成するために、2種類のヤーンが製造される。以下、これらのヤーンを第1ヤーン及び第2ヤーンと呼ぶ。本実施形態では、第1ヤーン及び第2ヤーンは、材料は同一であるが、横断面形状、横断面の長軸方向の長さL(
図2参照)、横断面の短軸方向の長さH(
図2参照)、扁平率L/H、及び繊度が全て異なる。なお、この段階での第1ヤーンの扁平率と第2ヤーンの扁平率との差は、これらのヤーンから形成される芝葉の外観に統一感を持たせる観点からは、3以下であることが好ましい。また、第1ヤーンの繊度と第2ヤーンの繊度とは、これらのヤーンから形成される芝葉の外観に統一感を持たせる観点からは、共に1500〜5000dtex(デシテックス)/本の範囲内に収まっていることが好ましい。
【0038】
また、本実施形態では、第1ヤーン及び第2ヤーンは、異なる又は同じ延伸倍率で一軸延伸加工されたものである。より具体的には、第1ヤーン及び第2ヤーンの製造時の延伸倍率は、延伸加工後の第1ヤーン及び第2ヤーンの結晶配向度が同一となるよう、異なる又は同じものに設定される。
【0039】
上記方法で延伸倍率が調整されるのは、以下の理由からである。すなわち、通常、延伸倍率が高いほど、結晶配向度が高くなる。また、結晶配向度は、ヤーンの横断面形状及び繊度に関わらず、ヤーンの熱収縮率を決定する。そのため、第1ヤーン及び第2ヤーンの製造時の延伸倍率を調整することで、第1ヤーン及び第2ヤーンの結晶配向度を同一とすれば、熱収縮率を同一にすることができる。なお、熱収縮率が「同一」とは、熱収縮率が完全に同一であることのみを意味するのではなく、±3.0%以内の誤差を許容するものとする。つまり、後述するこの後の乾燥工程において、第1ヤーン及び第2ヤーンが熱収縮するものの、各ヤーンの製造時の延伸倍率を調整することで、熱収縮率を調整すれば、第1ヤーン及び第2ヤーンの熱収縮後の長さを調整することができる。そのため、本実施形態では、延伸加工時において、最終的に製造される、第1ヤーン及び第2ヤーン由来のパイルの芝丈W1が同一となるよう、延伸倍率が調整される。なお、本発明者らは、熱収縮の前後でのヤーン(パイル)の結晶配向度を測定し、これらが実質的に変化しないことを確認した。
【0040】
また、一軸延伸加工時の延伸倍率が低すぎると、ヤーンに引き取りムラが生じ、1本のヤーンに厚みが異なる箇所が生じることがある。従って、この問題を防止する観点からは、第1ヤーン及び第2ヤーンの製造時の延伸倍率は、共に3以上であることが好ましい。一方、一軸延伸加工時の延伸倍率が高すぎると、ヤーンに力が掛かり過ぎ、千切れが発生することがある。従って、この問題を防止する観点からは、第1ヤーン及び第2ヤーンの製造時の延伸倍率は、共に6以下であることが好ましい。ただし、ここでいう延伸倍率とは、ロール延伸であれば、下流側の延伸ロールの回転速度/上流側の延伸ロールの回転速度である。従って、延伸倍率は、例えば、ロール延伸であれば、上流側及び下流側のロールの速度を調整することで、変化させることができる。
【0041】
続いて、第1ヤーン及び第2ヤーンのヤーンロールの製造後、これらのヤーンロールから繰出されるヤーンを、タフティングマシンを用いて基材2上に植設する。本実施形態では、第1ヤーンのヤーンロールを2つ、第2ヤーンのヤーンロールを2つ用意し、各々から繰出される計4本のヤーンを一束に撚り合わせた後、この撚り合わされたヤーンをタフティングマシンにより、基材2に縫い付ける。このとき、ヤーンは基材2を上下方向に貫通し、基材2の表面から突出するヤーンのループが中央でカットされる。その結果、基材2上の各植設点P1からは、第1ヤーンから形成される第1パイルからなる芝葉が4本と、第2ヤーンから形成される第2パイルからなる芝葉が4本の、計8本の芝葉が起立することになる。なお、他の実施形態では、タフティングのために撚り合わされる第1ヤーン及び第2ヤーンの本数は、適宜選択することができ、例えば、第1ヤーンを4本、かつ、第2ヤーンを2本の計6本を撚り合わせることもできる。この場合には、各植設点P1からは、第1ヤーンから形成される第1パイルが8本と、第2ヤーンから形成される第2パイルが4本の、計12本のパイル3が起立することになる。
【0042】
この植設の工程では、例えば、5/16ゲージ(5インチ当たり、16束のパイルが植え込まれる)のタフティングマシンを使用することができる。また、基材2は、ポリプロピレン製の平織布とすることができる。以上より、基材2とパイル3とからなる人工芝1の中間体1aが製造される。なお、本実施形態では、この中間体1aに含まれる第1パイルの芝丈W1と、第2パイルの芝丈W1とは、同一である(
図3の(a)参照)。ただし、ここでいう「同一」も、W1が完全に同一であることのみを意味するのではなく、±5.5%以内の誤差を許容するものとする。
【0043】
続いて、パイル3を固定するべく、基材2の裏面にバッキング剤を塗布し、バッキング層4を形成する。例えば、70%SBRラテックスを塗布量1100g/m
2で塗布する。その後、バッキング剤の塗布された中間体1aを、高温環境下で乾燥させ、最終的な人工芝1(充填材5を除く)を得る。このとき、中間体1aに含まれる第1パイル及び第2パイルは熱収縮し、長さW1は短くなる(
図3の(b)参照)。なお、ここでいう高温環境とは、常温(25℃)よりも高いという意味であり、典型的には、常温よりも50℃〜150℃程度高い。ところで、この熱収縮前においては、第1パイル及び第2パイルは、既に述べたとおり、横断面形状及び繊度が異なる。しかしながら、第1パイル及び第2パイルの結晶配向度が一致するため、両者の熱収縮率は一致する。その結果、この熱収縮の工程により、第1パイル及び第2パイルは、共に長さW1が変化するものの、同様の熱収縮率で熱収縮するため、熱収縮後の長さW1も同一となる。言い換えると、第1パイル及び第2パイルは、横断面形状及び繊度が共に異なるにも関わらず、同様の熱収縮率で熱収縮するため、乾燥工程後、最終的に、長さW1が同一の第1パイル及び第2パイルを有する人工芝1が得られることになる。なお、乾燥工程の温度条件は、例えば、105℃とすることができる。
【0044】
ところで、ヤーンの結晶配向度は、横断面形状及び繊度に関わらず、ヤーンの熱収縮率を決定すると述べたが、本発明者は、この知見を実験により得た。具体的には、材質、製造条件等、上述したとおりの条件に従って、表1に示すとおりの横断面形状、長軸方向の長さL、短軸方向の長さH、扁平率、繊度及び結晶配向度を有する第1ヤーン及び第2ヤーンを製造した。その後、この第1ヤーン及び第2ヤーンを1mになるようにカットし、カットしたヤーンを熱風循環式恒湿乾燥機内に90℃の温度条件下で5分間、放置した。その後、これらのヤーンを乾燥機から取り出し、第1ヤーン及び第2ヤーンの長さを測定し、本測定値に基づいて第1ヤーン及び第2ヤーンの熱収縮率を算出したところ、表1のとおりとなった。すなわち、横断面形状及び繊度が異なる場合であっても、結晶配向度が同一であれば、熱収縮率も同一となることが確認された。なお、表1の数値は、各々、10回測定を行った平均値である。
【0046】
なお、結晶配向度は、以下の方法で測定した。すなわち、ヤーンの長軸方向の面をX線の照射方向に対して垂直になるように試料台にセットし、Bruker−AXS社製のX線回折機(型番:D8−DISCOVER−μHR−Hybrid)を使用して、以下の条件下でX線を照射した。そして、得られた回折パターンのピークより得られる強度分布の半値幅から結晶配向度を算出した。なお、結晶配向度=(180−半値幅)/180である。
X線源:CuKα線(多層ミラー仕様)
出力:50kV,22mA
検出器:シンチレーションカウンター
【0047】
また、本発明者らは、特定の形状のヤーンに対し、延伸倍率と結晶配向度との関係を実験により調べたところ、表2のとおりとなった。これにより、延伸倍率と結晶配向度とが、相関関係にあることが確認された。このときのヤーンの横断面形状は、長軸の長さを1mm、短軸の長さを240μmとする楕円形であり、繊度は1850dtex/本であった。
【表2】
【0048】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0049】
<3−1>
上記実施形態では、2種類のパイル3が用いられたが、3種類以上のパイル3を用いて人工芝1を製造することもできる。さらにこの場合、最終的に得られる人工芝1において、少なくとも2種類のパイル3の芝丈W1が同一であればよく、基材2上の全てのパイル3の芝丈W1が同一でなくてもよい。すなわち、最終的に得られる人工芝1において、芝丈W1が同一で、横断面形状及び繊度の少なくとも一方の異なる少なくとも2種類のパイル3と、これらのパイル3とは芝丈W1の異なるパイルとが混在していてもよい。
【0050】
<3−2>
上記実施形態に係る製造方法では、ヤーンの結晶配向度、ひいては熱収縮率を調整するため、ヤーンの延伸倍率が調整された。しかしながら、ヤーンの結晶配向度は、これ以外の方法によっても、調整することができる。例えば、結晶配向度は、高分子中の結晶領域が増えることで、大きくなるものと考えられる。また、押出機から押し出された糸状の樹脂材料を急冷することによっても、高分子中の結晶領域を増やすことができる。従って、急冷時の温度を調整することによっても、ヤーンの結晶配向度を調整することができる。
【0051】
<3−3>
上記実施形態に係る製造方法では、熱収縮率が同一のヤーンを用いて、パイル3の芝丈W1が同一となる人工芝1が製造された。しかしながら、熱収縮率の異なるヤーンを用いて、パイル3の芝丈W1が同一となる人工芝1を製造することもできる。すなわち、上記実施形態では、人工芝1の中間体1aの乾燥工程における熱収縮の前後において、パイル3の芝丈W1が同一とされた。しかしながら、熱収縮率の異なるヤーンを用いることで、中間体1aの乾燥工程の前においてはパイル3の芝丈W1が異なるが、乾燥工程の後においてはパイル3の芝丈W1が同一となるように調整することができる。
【0052】
なお、通常、タフティングマシンを用いる場合、同じ植設点P1に同時に植設されるパイル3の芝丈W1は一致する。しかしながら、基材2上において、例えば、第1ヤーンを縫い付ける列と第2ヤーンを縫い付ける列とを交互にすることで、芝丈W1の異なる第1パイル及び第2パイルを備える中間体1aを製造することができる(
図4の(a)参照)。この場合、中間体1aの熱収縮後において、第1パイル及び第2パイルの芝丈W1が同一となるように(
図4(b)参照)、第1ヤーン及び第2ヤーンの熱収縮率が調整される。