(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1に示されるようなヘリカルブローチが知られている。ヘリカルブローチは、軸状のブローチ本体と、ブローチ本体の外周に該ブローチ本体の軸線に直交する径方向の外側へ向けて突設された複数の切れ刃と、を備えている。ブローチ本体の外周において複数の切れ刃は、ブローチ本体の軸線が延在する軸線方向へ向かうに従い漸次軸線回りの周方向に向けてねじれて配列している。
【0003】
ヘリカルブローチは、筒状やリング状の金属材料からなる被削材の下孔に挿入され、ブローチ本体の外周に配列する切れ刃の配列方向(リード)に沿うように、被削材に対して軸線方向の工具送り方向へ送られつつ、周方向に回転させられる。これによりヘリカルブローチは、被削材の下孔の内周にヘリカル内歯車(はすばの内歯車)等のねじれ溝加工を施す。なお、ヘリカルブローチでは、軸線方向のうち工具送り方向を前方といい、工具送り方向とは反対側へ向かう方向を後方という。
ヘリカルブローチによれば、例えば自動変速機用のプラネタリーインターナルギア等の高精度が要求される製品を、一回の切削加工で、荒加工から仕上げ加工まで行うことができる。
【0004】
ブローチ本体の外周に配列する切れ刃のうち、ブローチ本体の前方部分に配置される複数の切れ刃は外径上がり刃(荒刃)であり、後方部分に配置される複数の切れ刃は歯厚上がり刃(仕上げ刃)である。
複数の外径上がり刃は、ブローチ本体の径方向外側へ向けた各切れ刃の突出高さが、ブローチ本体の後方へ向かうに従い漸次増大させられている。これらの外径上がり刃は、被削材に歯溝(ねじれ溝)を形成するとともに、該歯溝を歯丈方向(ブローチ本体の径方向外側)に追い込み切削する。
【0005】
また、複数の歯厚上がり刃は、外径上がり刃によって形成された歯溝の一対の歯面(溝壁面)を、歯厚方向(歯溝の溝幅方向、ブローチ本体の周方向)に追い込み切削する。
なお、複数の歯厚上がり刃のうち、前方に位置する歯厚上がり刃は、歯溝の溝幅方向の一方側の歯面(通常は鋭角側歯面)を追い込み切削する。また、後方に位置する歯厚上がり刃は、歯溝の溝幅方向の他方側の歯面(通常は鈍角側歯面)を追い込み切削する。つまり、歯厚上がり刃は、歯溝の一対の歯面を片方ずつ追い込み切削する。
【0006】
歯厚上がり刃は、工具送り方向を向くすくい面と、周方向の一方側又は他方側を向く逃げ面と、すくい面と逃げ面との交差稜線に形成された切削刃と、周方向のうち逃げ面が向く方向とは反対側を向くガイド面と、すくい面とガイド面との交差稜線に形成されたガイド刃と、を備えている。ガイド面は、歯溝の一対の歯面のうち、切削刃が追い込み切削する歯面とは溝幅方向の反対側に位置する別の歯面に摺接させられる。なお、ガイド刃は、切削を目的としない見せかけの刃である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のヘリカルブローチでは、下記の課題を有していた。
歯厚上がり刃において、被削材の歯溝の歯面に摺接させられるガイド面が、該歯面から離間することがあり、安定して接触しないことがあった。特にガイド面が、歯面に対して平行に形成されている場合には、このような不具合が生じやすかった。
【0009】
ガイド面が歯面に対して安定して接触しなくなると、該ガイド面による切削刃のガイド機能が十分に発揮されなくなり、切削刃が追い込み切削する歯面にうねり(歯面が波形状に凹凸して形成される不具合)が生じて、加工精度に影響する。
また、切削を目的としないガイド刃が、意図せず歯面を切削してしまうことを防止することにも改善の余地があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、歯厚上がり刃において、被削材の歯溝の歯面をガイド刃が切削してしまうことを防止しつつ、該歯面にガイド面を確実に摺接させて、切削刃による追い込み切削の精度を確保でき、これにより、高精度な切削加工を安定して行うことができるヘリカルブローチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、軸状のブローチ本体と、前記ブローチ本体の外周に、前記ブローチ本体の軸線に直交する径方向の外側へ向けて突設された複数の切れ刃と、を備え、前記ブローチ本体の外周において複数の前記切れ刃が、前記軸線が延在する軸線方向へ向かうに従い漸次軸線回りの周方向に向けてねじれて配列するヘリカルブローチであって、複数の前記切れ刃には、複数の外径上がり刃と、前記外径上がり刃よりも前記軸線方向に沿う工具送り方向とは反対側に配置される複数の歯厚上がり刃と、が含まれ、前記歯厚上がり刃は、前記工具送り方向を向くすくい面と、前記周方向の一方側又は他方側を向く逃げ面と、前記すくい面と前記逃げ面との交差稜線に形成された切削刃と、前記周方向のうち前記逃げ面が向く方向とは反対側を向くガイド面と、前記すくい面と前記ガイド面との交差稜線に形成されたガイド刃と、を備え、前記歯厚上がり刃を前記ブローチ本体の径方向から見た側面視で、前記外径上がり刃の配列方向に沿って延びるとともに、前記ガイド面に対向して配置される仮想の
第1の弦巻線に対して、前記ガイド面はその全長にわたって、前記ガイド刃から離間するに従い前記
第1の弦巻線に接近するように傾斜し
、前記工具送り方向に隣り合う前記歯厚上がり刃の前記ガイド面同士が、前記第1の弦巻線とは別の1つの仮想の第2の弦巻線上に位置していることを特徴とする。
【0012】
本発明のヘリカルブローチでは、歯厚上がり刃をブローチ本体の径方向から見た側面視において、外径上がり刃の配列方向(リード)に平行で歯厚上がり刃のガイド面に対向配置される仮想の
第1の弦巻線に対して、該ガイド面がその全長(全面)にわたって傾斜して形成されている。具体的には、ガイド面がその全長にわたって、ガイド刃から離間するに従い(工具送り方向とは反対側へ向かうに従い)、前記
第1の弦巻線に接近するように傾斜して延びている。
【0013】
ここで、前記
第1の弦巻線は、被削材の下孔の内周に外径上がり刃が切削した歯溝(ねじれ溝)の一対の歯面(溝壁面)のうち、歯厚上がり刃のガイド面が摺接させられる歯面に相当する。つまり、歯溝の一対の歯面は、外径上がり刃の配列方向に沿って延びていることから、一対の歯面のうち、歯厚上がり刃のガイド面に対向配置される歯面を、前記
第1の弦巻線とみなすことができる。そして、歯厚上がり刃のガイド面全体が、ガイド刃から離間するに従いこの歯面に対して接近するように傾斜しているのである。
【0014】
言い換えると、歯厚上がり刃のガイド面はその全体が、ガイド刃へ接近するに従い(工具送り方向へ向かうに従い)、歯面から離間させられるように傾斜している。従って、ガイド面は、ガイド刃を含むその前端部においては確実に歯面から離間させられるので、該ガイド刃が歯面を意図せず切削してしまう(傷付けてしまう)ことを防止できる。
【0015】
また、歯面に対してガイド面全体が傾斜させられているため、該ガイド面における前端(ガイド刃に相当)と後端との間の、歯溝の切削方向に沿う距離(歯溝の溝長さ方向の距離であり、前記
第1の弦巻線に沿う距離)を大きく確保することができる。そして、ガイド面の前端と後端との間の、歯溝の溝幅方向に沿う距離(前記
第1の弦巻線に直交する方向に沿う距離であり、歯幅方向の変位量)も大きく確保することができる。このため、上述のようにガイド面の前端を歯面から十分に後退させて(離間させて)逃がしつつも、該ガイド面の後端近傍については、歯面に対して確実に接触させることができる。
【0016】
従って、ガイド面による切削刃のガイド機能を安定化させることができる。つまり、歯厚上がり刃が歯溝を追い込み切削していく間、歯面に接触したガイド面が、該歯面から離間されることがなくなり、ガイド面のガイド機能を良好に維持することができる。これにより、歯厚上がり刃の切削刃が追い込み切削する歯溝の歯面(ガイド面が摺接する歯面とは別の歯面)に、うねりが生じてしまうようなことが顕著に防止されて、被削材の加工精度を安定して高めることができる。
【0017】
しかも、歯厚上がり刃のガイド面全体が傾斜しているため、上述した優れた作用効果を奏しつつ、歯面(前記
第1の弦巻線)に対してガイド面を傾斜させる角度そのものは小さく抑えることが可能になる。この結果、歯面とガイド面との接触面積(摺接面積)を広く確保しやすくなる。
従って、ガイド面による切削刃のガイド機能を十分に発揮させることができる。また、歯面に接触するガイド面の部分が尖って形成される(歯面に対して急傾斜で形成される)ようなことを抑制して、該ガイド面により歯面が傷付けられてしまうことを防止できる。
【0018】
具体的には、歯厚上がり刃の切削刃が、歯溝の一対の歯面のうち、鋭角側歯面を追い込み切削する場合には、鈍角側歯面に対してガイド面全体が傾斜させられるとともに、鈍角側歯面にガイド面が安定して摺接する。また、歯厚上がり刃の切削刃が、歯溝の一対の歯面のうち、鈍角側歯面を追い込み切削する場合には、鋭角側歯面に対してガイド面全体が傾斜させられるとともに、鋭角側歯面にガイド面が安定して摺接する。このように、歯溝のいずれの歯面においても、本発明による作用効果が奏功される。
【0019】
以上より本発明によれば、歯厚上がり刃において、被削材の歯溝の歯面をガイド刃が切削してしまうことを防止しつつ、該歯面にガイド面を確実に摺接させて、切削刃による追い込み切削の精度を確保でき、これにより、高精度な切削加工を安定して行うことができる。
また、前記歯厚上がり刃を前記ブローチ本体の径方向から見た側面視で、前記工具送り方向に隣り合う前記歯厚上がり刃の前記ガイド面同士が、前記第1の弦巻線とは別の1つの仮想の第2の弦巻線上に位置している。
この場合、歯厚上がり刃の作製がより簡単になる。なおこの場合、工具送り方向に隣り合う歯厚上がり刃同士のうち、前方に位置する歯厚上がり刃のガイド面は、歯溝の歯面に対して摺接しないこととなるが、その代わり、後方に位置する歯厚上がり刃のガイド面が歯面に確実に摺接させられるため、上述した本発明の作用効果は安定して奏功される。
【0020】
また、上記ヘリカルブローチにおいて、前記歯厚上がり刃を前記ブローチ本体の径方向から見た側面視で、前記
第1の弦巻線に対して前記ガイド面が傾斜する角度が、0.1′(分)以上10′(分)以下であることが好ましい。
【0021】
この場合、
第1の弦巻線(ガイド面が摺接する歯溝の歯面に相当)に対して、ガイド面が傾斜する角度が0.1′以上であるので、ガイド面の前端に位置するガイド刃を歯面から確実に離間させて、該ガイド刃が歯面に切り込むことを顕著に防止できる。
また、
第1の弦巻線に対して、ガイド面が傾斜する角度が10′以下であるので、ガイド面と歯面との接触面積を広く確保することができる。これにより、ガイド面による切削刃のガイド機能をより安定化させることができる。また、ガイド面が歯面を傷付けてしまうようなことを顕著に防止できる。
【0022】
また、上記ヘリカルブローチにおいて、前記歯厚上がり刃を前記ブローチ本体の径方向から見た側面視で、前記
第1の弦巻線に対して前記ガイド面が傾斜する角度が、前記ガイド面の全長にわたって一定であることが好ましい。
【0023】
この場合、上述した本発明による優れた作用効果が、より安定して得られやすくなる。また、歯厚上がり刃の作製が容易となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のヘリカルブローチによれば、歯厚上がり刃において、被削材の歯溝の歯面をガイド刃が切削してしまうことを防止しつつ、該歯面にガイド面を確実に摺接させて、切削刃による追い込み切削の精度を確保でき、これにより、高精度な切削加工を安定して行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の一実施形態に係るヘリカルブローチ10について、図面を参照して説明する。
【0029】
〔ヘリカルブローチの概略構成〕
図1に示されるように、本実施形態のヘリカルブローチ10は、軸状のブローチ本体1を有しており、このブローチ本体1の外周には、複数の切れ刃が配列している。ブローチ本体1の外周において複数の切れ刃は、ブローチ本体1の軸線Oに直交する径方向の外側へ向けて突設されており、軸線Oが延在する軸線O方向へ向かうに従い漸次軸線O回りの周方向に向けてねじれて配列している。
【0030】
ヘリカルブローチ10は、筒状やリング状の金属材料からなる被削材Wの下孔に挿入され、ブローチ本体1の外周に配列する切れ刃の配列方向(リード)Lに沿うように、被削材Wに対して軸線O方向の工具送り方向Fへ送られつつ、周方向に回転させられる。これによりヘリカルブローチ10は、被削材Wの下孔の内周にヘリカル内歯車(はすばの内歯車)等のねじれ溝加工を施す。
このヘリカルブローチ10は、例えば自動変速機用のプラネタリーインターナルギア等の高精度が要求される製品の作製に用いられ、一回の切削加工で、被削材Wに対して荒加工から仕上げ加工までを行うことができる。
【0031】
〔本実施形態で用いる向き(方向)の定義〕
本実施形態では、ブローチ本体1の軸線Oが延在する方向(軸線Oに沿う方向)を、軸線O方向という。また、軸線O方向のうち、切削時に被削材Wに対してブローチ本体1が移動させられる向き(
図1において上から下へ向かう向き)を工具送り方向Fといい、これとは反対側へ向かう方向(
図1において下から上へ向かう向き)を、工具送り方向Fとは反対側という。また、工具送り方向Fを前方といい、工具送り方向Fとは反対側へ向かう方向を後方ということがある。
【0032】
また、ブローチ本体1の軸線Oに直交する方向を径方向という。径方向のうち、軸線Oに接近する向きを径方向の内側といい、軸線Oから離間する向きを径方向の外側という。
また、軸線O回りに周回する方向を周方向という。
【0033】
〔ブローチ本体〕
ブローチ本体1は、例えば高速度工具鋼等の硬質金属材料により形成され、軸線Oを中心とした長尺の軸状をなしている。ブローチ本体1の軸線O方向の両端部には、該ブローチ本体1をブローチ盤に取り付けるためのつかみ部2、3が形成されている。ブローチ本体1の前端部には、前つかみ部2が形成され、後端部には、後つかみ部3が形成されている。
ブローチ本体1において、軸線O方向に沿う前つかみ部2と後つかみ部3との間に位置する部位(ブローチ本体1の両端部間に位置する中間部分)には、刃部4が形成されている。
【0034】
刃部4の外周には、径方向外側に向けて突出する複数の切れ刃が形成されている。複数の切れ刃は、ブローチ本体1の後方に向かうに従い漸次周方向にねじれる螺旋状をなすように、かつ互いに間隔をあけて配列されている。また、このような螺旋状の切れ刃の列が、周方向に互いに間隔をあけて、複数列形成されている。
【0035】
図1及び
図2において、このヘリカルブローチ10を使用する際には、被削材Wに形成された下孔にブローチ本体1を挿通した状態で、つかみ部2、3がブローチ盤に支持される。そして、刃部4がその前端から被削材Wの下孔内に挿入されていき、複数の切れ刃が該下孔の内周に順次切り込むことにより、被削材Wの内周には、螺旋状の歯溝(ねじれ溝)Gが周方向に互いに間隔をあけて複数形成される。
【0036】
〔切れ刃〕
図1において、刃部4の複数の切れ刃には、複数の外径上がり刃(荒刃)5と、これらの外径上がり刃5よりも後方に配置される複数の歯厚上がり刃(仕上げ刃)6と、が含まれている。特に図示していないが、刃部4には、被削材Wの下孔の最内周部分(小径部)を切削する丸刃が備えられていてもよい。丸刃は、例えば、刃部4の後方部分に複数配置される。
【0037】
本実施形態の例では、ブローチ本体1が一体形であり、該ブローチ本体1の刃部4には、外径上がり刃5及び歯厚上がり刃6が一体に形成されている。ただしこれに限定されるものではなく、例えばブローチ本体1は、大径部分と小径部分とを有する多段軸状の本体部と、該本体部の小径部分に嵌合する円筒状のシェル部と、を有する組立形であってもよい。この場合、本体部の大径部分に外径上がり刃5が形成され、本体部の小径部分に装着されたシェル部に歯厚上がり刃6が形成される。
【0038】
外径上がり刃5は、刃部4のうち前方部分に配置されている。複数の外径上がり刃5は、ブローチ本体1の径方向外側へ向けた各切れ刃の突出高さが、ブローチ本体1の後方へ向かうに従い漸次増大させられている。これらの外径上がり刃5は、被削材Wに歯溝Gを形成するとともに、該歯溝Gを歯丈方向(ブローチ本体1の径方向外側)に追い込み切削する。
【0039】
外径上がり刃5によって切削された被削材Wの歯溝Gは、その一対の歯面(溝壁面)A、Bが、該外径上がり刃5の配列方向(リード)Lに沿って形成される。つまり、切れ刃の配列方向Lと、被削材Wの歯面A、Bとは、互いに平行である。
なお、
図2において符号βで示されるものは、歯溝ねじれ角である。歯溝ねじれ角βは、被削材Wの歯溝Gの一対の歯面A、Bが、ブローチ本体1の軸線Oに対してねじれる(傾斜する)角度である。具体的には、歯溝Gの延在方向(歯溝中心線)と、ブローチ本体1の軸線Oと、が交差して形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度が歯溝ねじれ角βである。
【0040】
図1において、歯厚上がり刃6は、刃部4のうち後方部分に配置されている。
図2において、複数の歯厚上がり刃6は、外径上がり刃5によって形成された歯溝Gの一対の歯面A、Bを、歯厚方向(歯溝Gの溝幅方向、ブローチ本体1の周方向)に追い込み切削する。
【0041】
具体的に、複数の歯厚上がり刃6のうち、前方に位置する歯厚上がり刃6は、歯溝Gの溝幅方向の一方側の歯面(例えば鋭角側歯面)Aを追い込み切削する。また、一方側の歯面Aを追い込み切削する歯厚上がり刃6よりも後方に位置する歯厚上がり刃6は、歯溝Gの溝幅方向の他方側の歯面(例えば鈍角側歯面)Bを追い込み切削する。つまり、歯厚上がり刃6は、歯溝Gの一対の歯面A、Bを、片方ずつ順番に追い込み切削する。
【0042】
図2に示される例では、複数の歯厚上がり刃6が、被削材Wの歯溝Gの一方側の歯面(鋭角側歯面)Aを追い込み切削している。なお、鋭角側歯面とは、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、刃部4が挿入される被削材Wの入口側の端面Pに対して鋭角に交差する歯面Aである。また、鈍角側歯面とは、端面Pに対して鈍角に交差する歯面Bである。
また、一方側の歯面Aを追い込み切削する歯厚上がり刃6と、他方側の歯面Bを追い込み切削する歯厚上がり刃6との間には、切削に寄与しないガイド切れ刃(不図示)が設けられていてもよい。
【0043】
〔歯厚上がり刃〕
図2に示されるように、歯厚上がり刃6は、工具送り方向Fを向くすくい面11と、周方向(
図2における左右方向)の一方側又は他方側を向く逃げ面12と、すくい面11と逃げ面12との交差稜線に形成された切削刃13と、周方向のうち逃げ面12が向く方向とは反対側を向くガイド面14と、すくい面11とガイド面14との交差稜線に形成されたガイド刃15と、を備えている。
図2に示される例では、歯厚上がり刃6の逃げ面12が、周方向の一方側を向いており、歯溝Gの一方側の歯面Aに対向している。また、ガイド面14が、周方向の他方側を向いており、歯溝Gの他方側の歯面Bに対向している。
【0044】
図2に示されるように、歯厚上がり刃6をブローチ本体1の径方向から見た側面視(又は歯厚上がり刃6の径方向に垂直な側断面視)において、符号H1は、外径上がり刃5の配列方向(リード)Lに沿って(平行に)延びるとともに、歯厚上がり刃6のガイド面14に対向して配置された仮想の弦巻線を表している。この弦巻線H1は、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、ガイド面14に対向配置される歯面Bに相当する。つまりこの側面視で、弦巻線H1と歯面Bとは、互いに一致している。
以下の歯厚上がり刃6の各構成要素の説明では、弦巻線H1を用いることがある。
図2に示されるブローチ本体1の側面視で、弦巻線H1が延在する方向は歯溝Gの延在方向に沿っており、弦巻線H1に直交する方向は歯溝Gの溝幅方向に沿っている。なお、弦巻線H1に直交する方向は、歯厚上がり刃6の歯幅方向に相当する。
【0045】
図2に示されるブローチ本体1の側面視で、すくい面11は、弦巻線H1に直交する方向に沿って切削刃13から離間するに従い(ガイド刃15へ向かうに従い)、弦巻線H1の延在方向の後方へ向かって傾斜して形成されている。これにより、切削刃13のすくい角は、正の角度(ポジティブ角)に設定されている。
【0046】
逃げ面12は、弦巻線H1の延在方向に沿って切削刃13から離間するに従い(後方へ向かうに従い)、周方向の他方側(ガイド面14側)へ向かって傾斜して形成されている。つまり、切削刃13には逃げ角が付与されており、これにより切削刃13は、一方側の歯面Aに切り込みやすくされている。
【0047】
ガイド面14は、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、切削刃13が追い込み切削する歯面Aとは溝幅方向の反対側に位置する別の歯面Bに対して、摺接させられる。
そして、ガイド面14は、該ガイド面14に対向配置される弦巻線H1(他方側の歯面B)に対して、ガイド面14の全長にわたって、ガイド刃15から離間するに従い(弦巻線H1の延在方向の後方へ向かうに従い)、弦巻線H1に接近するように傾斜して形成されている。
【0048】
図2に示されるブローチ本体1の側面視で、弦巻線H1に対してガイド面14が傾斜する角度(傾斜角)αは、例えば、0.1′(分)以上10′(分)以下である。角度αは、
図2において、弦巻線H1とガイド面14とが交差して形成される鋭角及び鈍角のうち、鋭角の角度である。なお、より好ましくは、角度αは、1′(分)以上5′(分)以下である。
【0049】
本実施形態の例では、
図2において、弦巻線H1に対してガイド面14が傾斜する角度αが、該ガイド面14の全長にわたって一定である。つまり、
図2においてガイド面14は、その全長にわたって延びる直線状(1本の直線状)をなしている。
また、
図2に示されるように、工具送り方向Fに隣り合う歯厚上がり刃6のガイド面14同士は、1つの仮想の弦巻線H2上に位置している。なお、この弦巻線H2は、上記弦巻線H1に対して角度αで交差する、別の弦巻線である。つまり、弦巻線H1を第1の弦巻線H1とすると、弦巻線H2は、第1の弦巻線H1とは傾斜が異なる第2の弦巻線H2である。
【0050】
ブローチ本体1の外周には、切れ刃の配列方向Lに沿う被削材Wの厚さTに対応する領域(所定の領域)内に、複数(本実施形態の例では2〜3つ)の歯厚上がり刃6が配列している。また、これらの歯厚上がり刃6の各ガイド面14が、同一の弦巻線H2上に配置されている。そして、被削材Wの下孔内に配置された前記複数の歯厚上がり刃6のうち、少なくとも1つ以上の歯厚上がり刃6のガイド面14が、歯面Bに摺接させられる。
ガイド面14は、外径上がり刃5によって形成された歯溝Gの歯面Bに摺接することにより、歯厚上がり刃6とともにその切削刃13を、弦巻線H1(配列方向L)に沿って案内する。
【0051】
ガイド刃15は、ガイド面14に対向配置される弦巻線H1(歯面B)から、弦巻線H1に直交する方向へ向けて(逃げ面12側へ向けて)離間して配置されている。ガイド刃15は、切削を目的としない見せかけの刃である。
【0052】
また、
図2において配列する複数の歯厚上がり刃6のうち、最前端に位置する歯厚上がり刃6に対して、その後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6は、弦巻線H1に直交する方向の歯幅(切削刃13とガイド刃15との間の溝幅方向に沿う距離)が大きくなっている。また、最前端の歯厚上がり刃6の後方に隣り合う歯厚上がり刃6に対して、その後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6は、歯幅が大きくなっている。
【0053】
具体的には、最前端に位置する歯厚上がり刃6の切削刃13に対して、その後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6の切削刃13が、歯溝Gの溝幅方向に沿う歯面A側(弦巻線H1に直交する方向に沿うガイド面14から逃げ面12側)へ向けて突出している。また、最前端の歯厚上がり刃6の後方に隣り合う歯厚上がり刃6の切削刃13に対して、さらにその後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6の切削刃13が、歯溝Gの溝幅方向に沿う歯面A側へ向けて突出している。
【0054】
つまり、このブローチ本体1には、鋭角側の歯面Aを切削する歯厚上がり刃6が複数設けられており、これらの歯厚上がり刃6の歯幅、及び切削刃13の歯面Aへ向けた突出量が、後方に向かうに従い徐々に大きくされていることで、複数の歯厚上がり刃6が、鋭角側の歯面Aを追い込み切削していく。
【0055】
また、本実施形態の例では、
図2に示される複数の歯厚上がり刃6の各ガイド面14が、1つの弦巻線H2上に一致するように配置されている。このため、最前端に位置する歯厚上がり刃6のガイド刃15に対して、その後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6のガイド刃15が、歯溝Gの溝幅方向に沿う歯面B側(弦巻線H1に直交する方向に沿う逃げ面12からガイド面14側)へ向けて突出している。また、最前端の歯厚上がり刃6の後方に隣り合う歯厚上がり刃6のガイド刃15に対して、さらにその後方に隣り合う別の歯厚上がり刃6のガイド刃15が、歯溝Gの溝幅方向に沿う歯面B側へ向けて突出している。
【0056】
図2に示される鋭角側歯面Aを追い込み切削するための複数の歯厚上がり刃6よりも後方には、特に図示していないが、鈍角側歯面Bを追い込み切削するための複数の歯厚上がり刃6が配列している。鈍角側歯面Bを追い込み切削する歯厚上がり刃6も、すくい面11、逃げ面12、切削刃13、ガイド面14及びガイド刃15を有している。ただし、鈍角側歯面Bを追い込み切削する歯厚上がり刃6においては、逃げ面12及び切削刃13と、ガイド面14及びガイド刃15と、のブローチ周方向に沿う配置関係が、上述した鋭角側歯面Aを追い込み切削する歯厚上がり刃6の配置関係とは逆向きとなる。また、すくい面11のすくい角は、負の角度(ネガティブ角)に設定される。そして、弦巻線H1は、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、ガイド面14に対向配置される歯面Aに相当する。つまりブローチ本体1の側面視で、弦巻線H1と歯面Aとが、互いに一致する。
【0057】
〔ヘリカルブローチによる被削材の切削〕
本実施形態のヘリカルブローチ10を用いて被削材Wにブローチ加工を施す際には、ブローチ本体1の刃部4が被削材Wの下孔に挿入されていき、まず、外径上がり刃5により下孔の内周に歯溝Gが形成される。複数の外径上がり刃5は、ブローチ本体1の径方向外側へ向けた切れ刃の突出高さがブローチ本体1の後方に向かうに従い徐々に増大させられている。このため、これらの外径上がり刃5は、被削材Wの下孔の内周にヘリカル内歯車形状の歯溝(ねじれ溝)Gを歯丈方向に追い込み切削する。
【0058】
次いで、刃部4において外径上がり刃5の後方に位置する歯厚上がり刃6が、被削材Wの下孔に挿入されていく。具体的には、歯厚上がり刃6全数のうち(歯厚上がり刃6の配置領域のうち)、まず、前方部分に位置する一方側(鋭角側)歯面A切削用の複数の歯厚上がり刃6によって、歯溝Gの一方側の歯面Aが追い込み切削されて仕上げられていく。
図2において、詳しくは、前方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6は、各切削刃13の鋭角側歯面Aへ向けた突出量が、後方へ向かうに従い徐々に大きくされている。また、各切削刃13は、鈍角側歯面Bに摺接するガイド面14により、鈍角側歯面B(弦巻線H1)に沿って案内される。そして、複数の歯厚上がり刃6は、前後に隣り合う切削刃13同士の前記突出量の差分だけ、鋭角側歯面Aを切削刃13により切削し追い込んでいく。
【0059】
次いで、歯厚上がり刃6全数のうち、一方側歯面A切削用の複数の歯厚上がり刃6よりも後方(後方部分)に位置する、他方側(鈍角側)歯面B切削用の複数の歯厚上がり刃6によって、歯溝Gの他方側の歯面Bが追い込み切削されて仕上げられていく。
特に図示していないが、詳しくは、後方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6は、各切削刃13の鈍角側歯面Bへ向けた突出量が、後方へ向かうに従い徐々に大きくされている。また、各切削刃13は、鋭角側歯面Aに摺接するガイド面14により、鋭角側歯面A(弦巻線H1)に沿って案内される。そして、複数の歯厚上がり刃6は、前後に隣り合う切削刃13同士の前記突出量の差分だけ、鈍角側歯面Bを切削刃13により切削し追い込んでいく。
【0060】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のヘリカルブローチ10では、
図2に示されるように、歯厚上がり刃6をブローチ本体1の径方向から見た側面視において、外径上がり刃5の配列方向(リード)Lに平行で歯厚上がり刃6のガイド面14に対向配置される仮想の弦巻線H1に対して、該ガイド面14がその全長(全面)にわたって傾斜して形成されている。具体的には、ガイド面14がその全長にわたって、ガイド刃15から離間するに従い(工具送り方向Fとは反対側へ向かうに従い)、弦巻線H1に接近するように傾斜して延びている。
【0061】
ここで、弦巻線H1は、被削材Wの下孔の内周に外径上がり刃5が切削した歯溝(ねじれ溝)Gの一対の歯面(溝壁面)A、Bのうち、歯厚上がり刃6のガイド面14が摺接させられる歯面Bに相当する。つまり、歯溝Gの一対の歯面A、Bは、外径上がり刃5の配列方向Lに沿って延びていることから、一対の歯面A、Bのうち、歯厚上がり刃6のガイド面14に対向配置される歯面Bを、弦巻線H1とみなすことができる。そして、歯厚上がり刃6のガイド面14全体が、ガイド刃15から離間するに従いこの歯面Bに対して接近するように傾斜しているのである。
【0062】
言い換えると、歯厚上がり刃6のガイド面14はその全体が、ガイド刃15へ接近するに従い(工具送り方向Fへ向かうに従い)、歯面Bから離間させられるように傾斜している。従って、ガイド面14は、ガイド刃15を含むその前端部においては確実に歯面Bから離間させられるので、該ガイド刃15が歯面Bを意図せず切削してしまう(傷付けてしまう)ことを防止できる。
【0063】
また、歯面Bに対してガイド面14全体が傾斜させられているため、該ガイド面14における前端(ガイド刃15に相当)と後端との間の、歯溝Gの切削方向に沿う距離(
図2における歯溝Gの溝長さ方向の距離であり、弦巻線H1に沿う距離)を大きく確保することができる。そして、ガイド面14の前端と後端との間の、歯溝Gの溝幅方向に沿う距離(
図2における弦巻線H1に直交する方向に沿う距離であり、歯幅方向の変位量)も大きく確保することができる。このため、上述のようにガイド面14の前端を歯面Bから十分に後退させて(離間させて)逃がしつつも、該ガイド面14の後端近傍については、歯面Bに対して確実に接触させることができる。
【0064】
従って、ガイド面14による切削刃13のガイド機能を安定化させることができる。つまり、歯厚上がり刃6が歯溝Gを追い込み切削していく間、歯面Bに接触したガイド面14が、該歯面Bから離間されることがなくなり、ガイド面14のガイド機能を良好に維持することができる。これにより、歯厚上がり刃6の切削刃13が追い込み切削する歯溝Gの歯面(ガイド面14が摺接する歯面Bとは別の歯面)Aに、うねりが生じてしまうようなことが顕著に防止されて、被削材Wの加工精度を安定して高めることができる。
【0065】
しかも、歯厚上がり刃6のガイド面14全体が傾斜しているため、上述した優れた作用効果を奏しつつ、歯面B(弦巻線H1)に対してガイド面14を傾斜させる角度αそのものは小さく抑えることが可能になる。この結果、歯面Bとガイド面14との接触面積(摺接面積)を広く確保しやすくなる。
従って、ガイド面14による切削刃13のガイド機能を十分に発揮させることができる。また、歯面Bに接触するガイド面14の部分が尖って形成される(歯面Bに対して急傾斜で形成される)ようなことを抑制して、該ガイド面14により歯面Bが傷付けられてしまうことを防止できる。
【0066】
具体的には、歯厚上がり刃6の切削刃13が、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、鋭角側歯面Aを追い込み切削する場合には、鈍角側歯面Bに対してガイド面14全体が傾斜させられるとともに、鈍角側歯面Bにガイド面14が安定して摺接する。また、歯厚上がり刃6の切削刃13が、歯溝Gの一対の歯面A、Bのうち、鈍角側歯面Bを追い込み切削する場合には、鋭角側歯面Aに対してガイド面14全体が傾斜させられるとともに、鋭角側歯面Aにガイド面14が安定して摺接する。このように、歯溝Gのいずれの歯面A、Bにおいても、本実施形態による作用効果が奏功される。
【0067】
以上より本実施形態によれば、歯厚上がり刃6において、被削材Wの歯溝Gの歯面A、Bをガイド刃15が切削してしまうことを防止しつつ、該歯面A、Bにガイド面14を確実に摺接させて、切削刃13による追い込み切削の精度を確保でき、これにより、高精度な切削加工を安定して行うことができる。
【0068】
また本実施形態では、
図2に示されるように、歯厚上がり刃6をブローチ本体1の径方向から見た側面視で、弦巻線H1に対してガイド面14が傾斜する角度αが、0.1′(分)以上10′(分)以下であるので、下記の作用効果を奏する。
【0069】
すなわちこの場合、弦巻線H1(ガイド面14が摺接する歯溝Gの歯面Bに相当)に対して、ガイド面14が傾斜する角度αが0.1′以上であるので、ガイド面14の前端に位置するガイド刃15を歯面Bから確実に離間させて、該ガイド刃15が歯面Bに切り込むことを顕著に防止できる。なお、上記作用効果をより格別顕著なものとするには、好ましくは、角度αは1′以上である。
また、弦巻線H1に対して、ガイド面14が傾斜する角度αが10′以下であるので、ガイド面14と歯面Bとの接触面積を広く確保することができる。これにより、ガイド面14による切削刃13のガイド機能をより安定化させることができる。また、ガイド面14が歯面Bを傷付けてしまうようなことを顕著に防止できる。なお、上記作用効果をより格別顕著なものとするには、好ましくは、角度αは5′以下である。
【0070】
また本実施形態では、
図2に示されるように、歯厚上がり刃6をブローチ本体1の径方向から見た側面視で、弦巻線H1に対してガイド面14が傾斜する角度αが、ガイド面14の全長にわたって一定である。従って、上述した本実施形態による優れた作用効果が、より安定して得られやすくなる。また、歯厚上がり刃6の作製が容易となる。
【0071】
また本実施形態では、
図2に示される側面視で、工具送り方向Fに隣り合う歯厚上がり刃6のガイド面14同士が、1つの仮想の弦巻線H2上に位置しているので、下記の作用効果を奏する。
すなわちこの場合、歯厚上がり刃6の作製がより簡単になる。なおこの場合、工具送り方向Fに隣り合う歯厚上がり刃6同士のうち、前方に位置する歯厚上がり刃6のガイド面14は、歯溝Gの歯面Bに対して摺接しないこととなるが、その代わり、後方に位置する歯厚上がり刃6のガイド面14が歯面Bに確実に摺接させられるため、上述した本発明の作用効果は安定して奏功される。
【0072】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0073】
例えば、前述の実施形態では、ブローチ本体1の刃部4における歯厚上がり刃6全数の配置領域のうち、切れ刃の配列方向Lの前方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6が、歯溝Gの鋭角側歯面Aに切り込み、後方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6が、歯溝Gの鈍角側歯面Bに切り込むようになっている。ただし本発明はこれに限定されるものではなく、切れ刃の配列方向Lの前方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6が、歯溝Gの鈍角側歯面Bに切り込み、後方部分に位置する複数の歯厚上がり刃6が、歯溝Gの鋭角側歯面Aに切り込むこととしてもよい。この場合、前述の実施形態とは異なり、歯溝Gの鈍角側歯面Bが一方側の歯面Bとされ、歯溝Gの鋭角側歯面Aが他方側の歯面Aとされる。
【0074】
また前述の実施形態では、被削材Wの厚さTに対応する領域(所定の領域)内に、複数の歯厚上がり刃6が配列し、これらの歯厚上がり刃6の各ガイド面14が、同一の弦巻線H2上に配置されている。そして、被削材Wの下孔内に配置された前記複数の歯厚上がり刃6のうち、少なくとも1つ以上の歯厚上がり刃6のガイド面14が、歯面Bに摺接する。ただし
参考例ではこれに限定されるものではなく、例えば、前記複数の歯厚上がり刃6のすべてのガイド面14が、歯面Bにそれぞれ摺接することとしてもよい。この場合、特に図示していないが、ブローチ本体1の側面視において各ガイド面14が一致する弦巻線H2は、互いに同一直線上にない異なった複数の弦巻線H2となる。
【0075】
また前述の実施形態では、
図2に示される側面視において、複数の歯厚上がり刃6の各ガイド面14が、該ガイド面14の全長にわたって直線状に延びている。ただし本発明はこれに限定されるものではなく、特に図示していないが、ブローチ本体1の側面視においてガイド面14は、その全長にわたって曲線状に延びていてもよい。ただしこの場合、ガイド面14は、該ガイド面14に対向配置される歯面B(弦巻線H1)へ向けて凸となる凸曲線状であることが好ましい。
【0076】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例及びなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。